第二話 君はいつだってそうさ

  • 2010.04.06 Tuesday
  • 10:49
 大詰めになっている事件に追われて夜通し仕事をしていた俺は、今帰宅したばかりだった。
広くも狭くも無い部屋は相変わらず無言で俺を迎えてくれる。
「やれやれ、一人暮らしに慣れるってのは良いことなのか、悪いことなのか。とりあえずしばらく結婚は出来そうにないな。」
俺は誰もいないキッチンに向かって独り言を呟き、冷蔵庫から缶ビールを一本取り出す。
そしてベッドの上に腰掛けてテレビをつけ、ビールを一口流し込んだ。
テレビの画面ではしらじらしい演技で役者が愛について語っており、俺は無感動にそれを聞きながらもう一口ビールを流し込んだ。
大根役者のくさい愛のセリフであろうとも、静まり返った一人暮らしの部屋で一人ビールを飲むよりはいくらかマシというものだ。
俺はカーテンを開け、徐々に登ってくる朝日に目を細めながら軽く背伸びをした。
そしてバスタオルを掴んでシャワーを浴びようとバスルームに向かおうとしたとき、ケータイの着信音が鳴った。
俺はバスタオルを首にかけ、電話にでた。
「おはよう、モルダー。夜勤明けでもう寝る所を邪魔しちゃったかしら?」
電話の相手はスカリーで、その健康的な発声から察するに俺とは逆にたっぷり眠っていたらしい。
「やあ、スカリー。今からシャワーを浴びてテレビドラマでも見ようかと思ってた所なんだ。
彼らは昔の哲学者より健康的で分かりやすい愛を語っていて勉強になるよ。」
スカリーはクスリと笑い、冗談混じりに聞き返してくる。
「あなたが愛に興味があったなんて知らなかったわ。好きなのは寝起きのコーヒーと難解な事件だけかと思っていたわ。」
「長い付き合いなのにひどい誤解だな。俺はいつか慎ましい家庭を築いて田舎でのんびり暮らすのが夢なんだ。
その為には万人受けするテレビドラマの愛って奴は役に立つさ。」
彼女が腰に手をあてて、その知的な顔を皮肉っぽく微笑させているのが受話器越しに目に浮かぶ。
俺は一つ咳払いをして聞いた。
「それで、本題は何だい?まさか俺の声を聞かないと目が覚めないってわけじゃないだろう。」
もしそうなら中々悪い気はしないが、それはフルハウスのジェシーおいたんがアカデミー最優秀賞をとるよりも確立は低いだろう。
「残念だけどあなたの声が無くても気持ち良く目覚められるわ。
それで実はね、マヨネーズを買ってきてほしいの。」
「何だって?」
俺はすっとんきょうな声で答えていた。
「だから、マヨネーズを買ってきて欲しいのよ。ちょうど今切らしちゃってね。
内で飼っている犬のキャサリンが餌にマヨネーズをかけてあげないと食べてくれないのよ。
私はこれから仕事だし、あなたは今日は休みでしょう?
それでマヨネーズを買ってきたついでに犬用の缶詰にそれをかけて食べさせてあげて欲しいのよ。」
明るくなってきた陽射しが眩しく俺の顔を照らし、犬の為にマヨネーズを買うという使命と相まってしかめっ面になった。
「出来れば8時までにお願いしたいのよ。キャサリンはそれ以降だと不機嫌になっちゃうから。
じゃあお願いね。」
彼女はそう言って電話を切った。
「クソ!テレビじゃ人間同士が愛を語り合っているというのに、俺ときたら朝から犬とランデブーかよ!」
シャワーを浴びる気もなれず、俺は冷蔵庫からもう一本缶ビールを取り出して一気に飲み干す。
「ガッデム!」
思いっきり叫んだ。
そして首にかけていたバスタオルをスパーンと股間に叩きつけ、その快感が少し気持ちを落ち着かせる。
俺は玄関に向かい、一人呟く。
「スカリー、君はいつだってそうさ。」
そしてその馬鹿げた無茶な要求にいつも応えている自分に気付いてまた呟く。
「俺だっていつもそうさ。」
テレビから流れてくる愛の言葉を全てマヨネーズに置き換えればそれなりに気持ちも晴れるというものかもしれないが、もしそうなっても空しいだけである。
もう一発くらいスパーンと股間にバスタオルと叩きつけておけば気楽になれただろうか?
とりあえず俺はマヨネーズを買ってキャサリンと朝のランデブーをする為に出かける。
そして今度スカリーに会ったら言おう。
犬にマヨネーズは体に良くないと。

                                   第二話 完

コメント
コメントする








    
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< October 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM