木立の女霊 第八話 死んでも消えない想い

  • 2014.09.20 Saturday
  • 19:14
ずっとあなたを見てた。
初めて会ったあの日から、あなただけをずっと見てた。
買い物に行く時も、彼女とデートをしている時も、友達と遊んでいる時も、そして家にいる時だって、ずっとずっとあなたを見てた。
ねえ、知ってる?
私すごく綺麗になったのよ。希美から聞いたの。あなたは意外と面食いだって。
それに髪の短いボーイッシュな女が好きだって。
だからほら、私はこうして生まれ変わった。あなたの望む、綺麗な女に。
なのに・・・どうして私の気持ちに気づいてくれないの?
こんなに好きなのに、こんなに愛してるのに、どうして別の女ばかり見ているの?
私は気づいてほしいの。このどうしようもないほど狂おしい想いに。
世界で一番あなたのことを愛しているのは、この私よ。他のどの女より、あなたを幸せに出来るのよ。
ねえ、どうして私が死んだか知ってる?
それはね、あなたに想いを伝える為よ。
希美が死んだ時、あなたはずっと落ち込んでた。でもそれって、永遠に希美があなたの心に生きているってことでしょ?
だったら私も、あなたの心に永遠に生きてやるわ。希美を押し退けて、あなたの心を奪ってやる・・・・・・。
ねえ、幸せでしょ?こんなに自分を愛してくれる女がいるなんて。
私は世界一いい女。他の馬鹿女どもとは違うの。だから気づいてよ、私のこの想いに。
そして私を愛して。私はあなただけを見るから、あなたも私だけを見つめて・・・。
そうよ、二人の愛は誰にも邪魔出来ない。
あなたと私は、赤い糸で結ばれた運命の恋人なんだから。
だから・・・二人だけの世界に行きましょ。誰にも邪魔されない、あなたと私だけの世界に。
ここは蛍の舞う素敵な場所よ。あなたも好きでしょ、蛍。
私はあなたを奪う。そしてここへ連れて来て、一緒に蛍になるの。
綺麗な綺麗な、淡い光を放つ蛍に・・・・。
もう・・・時間がないの・・・。このままだと、あなたを残して私だけ蛍になっちゃう。
もし蛍になるのを拒否すれば、恐ろしいミミズクに地獄に連れて行かれるから・・・。
だからすぐに会いにいくわ。あなたを奪いに、そしてあなたを殺しに・・・・。


            *


克博と朱里が母を説得してくれたおかげで、俊一はその日のうちに退院することが出来た。
そして一旦家に帰って着替えたあと、克博のアパートに集まっていた。
「で?あの地味な友達とは連絡取れたん?」
朱里が俊一に尋ねる。
「おう、家に帰った時に電話したで。男の方と連絡取れたわ。」
「そらよかった。」
朱里は喜んだ顔を見せる。
「で、宗方の家はどこにあんねん?」
「それが・・・あいつ東京の出身やねん。」
「東京?えらいまた遠いな。」
克博は腕を組んで顔をしかめた。
「あいつ訛りがなかったからな・・・。関東の出身やとは思ってたけど、さすがに東京は遠いなあ・・・。」
俊一も顔をしかめてテーブルの湯飲みを掴んだ。
「でも仕事はこっちでしてたんやろ?じゃあ自殺する前に住んでた場所に行ってみいへん?」
朱里は棒付きの飴を嘗めながら皆を見渡す。
「いや、それは志士田に電話した時に聞いたんや。」
「志士田?誰それ?」
「だから、希美の地味な友達やん。」
「ああ、なんかそんな名前やったなあ・・・。で、宗方の住んでた場所はどこにあるって言うてたん?」
「・・・あいつ、自殺する前に住んでたアパートを引き払ってるらしくてな。そんでそのアパートも少し前に取り壊されたんやと。」
「マジで?」
「志士田が言うてたわ。・・・ここでちょっと驚きの事実なんやけど、ええかな?」
俊一が上目づかいに言うと、皆は興味をそそられて身を乗り出した。
「その志士田なんやけど・・・・宗方と付き合ってたらしいわ。」
「ええ!」
「マジでッ!」
朱里と紗恵が目を見開いて驚く。
「俺も聞いた時ビックリしたわ。あの地味な感じの男が、宗方みたいな変人と付き合ってたなんて・・・。でもな、これはラッキーなことやねん。」
「何がラッキーなん?」
紗恵は興味津々に身を寄せる。彼女の胸が俊一の腕に触れ、朱里は二人の間にチョップを放った。
「近いねん。それと胸くっつけんな。」
「ああ、ごめん・・・。そういうつもりじゃ・・・。」
「お前ら喧嘩すんなよ。ええか、志士田は宗方と付き合ってたんや。だから志士田に話を聞いたら、色々と宗方のことが分かるやろ?」
「おお、確かに!」
「志士田にはここへ来るように言うてある。あいつけっこう近所に住んでるらしくて、場所分かるからすぐ来るって言うてたわ。」
「そうか、なら志士田待ちっちゅうことやな。」
「その通り。俺らみたいな素人が宗方の家に行ったって、調べられることなんて限られてるからな。それやったら、彼氏やった奴に話を聞いた方が早いやろ。」
「おお〜、俊一名探偵みたいやん!」
朱里が手を叩いて喜び、紗恵はふんふんと納得したように頷いていた。
俊一はポケットからケータイを取り出し、液晶の時刻を睨みつけた。
「4時20分か・・・。半くらいには来るって言うてたからもうすぐやろ。迷ったら電話しろ言うてるしな。」
「ああ、あかん・・・。あたしなんか緊張してきた。」
朱里は克博の膝に倒れ込む。
「大丈夫や。俺が守ったる。」
克博が頭を撫でながらさりげなく胸に手を回す。
「お前ら・・・バカップルぶりもええ加減にしとけよ。」
俊一はタバコに火を点けて二人に煙を飛ばし、紗恵は微笑ましく笑っていた。
そしてしばらく談笑をしていると、俊一のケータイが鳴った。
「おお、志士田からや。」
立ち上がってドアに向かい、外に出ると志士田がウロウロしていた。
「こっちこっち!」
「ああ・・・・。」
手を振ると、志士田がアパートの二階に走って来た。
「いきなり呼び出して悪いな。そこまで面識もないのに。」
「いえいえ、別にいいですけど・・・。」
短い黒髪に掘りの浅い顔立ち、しかし丸みのある輪郭には多少の愛嬌がある。
ジーパンにグレーのシャツという地味な服装だが、志士田のルックスにはマッチしていた。
「じゃあ中入って。」
「ああ、お邪魔します・・・。」
「別に敬語使わんでえええで。あんた俺より年上やろ?」
笑いながら言うと、志士田ははにかんで靴を脱いだ。
そして緊張した面持ちで俊一のあとをついて行き、皆の顔を見渡して頭を下げた。
「紹介しとくわ。こっちのバッタみたいな女が朱里。希美の妹なんやけど、会ったことあるよな?」
「ちょっと!バッタって何よ!」
朱里を無視し、隣に座る克博を紹介した。
「こっちは俺の友達の克博。バッタの彼氏な。」
「お前・・・ええ加減にしとけよ。」
「冗談や冗談。」
そして紗恵に手を向けて言った。
「この子は野々村紗恵。なんというか・・・・俺の友達や。」
「どうも。」
紗恵はカメラを抱えて頭を下げた。
「友達ちゃうで。元カノや。」
「いらんこと言わんでええねん。」
朱里のおでこにデコピンをかまし、紗恵の隣に座り込んだ。
「まあまあ、志士田君も座ってんか。お茶持ってくるから。」
「ああ、いえ、お構いなく・・・。」
克博はキッチンに向かい、志士田はまだ緊張した面持ちで部屋の中を見渡していた。
「そんなに固くならんといてや。バイトの面接とちゃうんやから。」
「ああ・・・ちょっと人見知りなもんで・・・。」
「うん、そんな顔しとる。」
朱里は面白そうに言う。そして克博がコーヒーを運んできて、志士田の前に置いた。
「さて、電話でも言うたけど、ここに来てもらったんは宗方弓子のことを聞きたいからや。自分、あいつと付き合ってたんやって?」
「ああ、はい・・・。そんなに長い間とちゃうけど・・・。」
「でも俺らよりは知ってるよな?だからさ、ちょっと宗方のことを教えてもらえへんかな?」
「まあ僕の知ってることでよかったら・・・。」
志士田はそわそわしながらポケットに手を入れた。
「ここ・・・タバコは?」
「ああ、どうぞどうぞ、これ灰皿。」
克博はテーブルの上に灰皿を滑らせ、志士田はタバコを咥えて頭を下げた。
「ええっと、弓ちゃんの事を話す前に聞きたいんですけど、なんであの子の事を知りたいんですか?電話で尋ねた時は、なんか誤魔化してましたけど・・・。」
「ああ、ええっと・・・・それはちょっと言うても信じてもらえへんかなあ・・・。」
「・・・・もしかして、ストーカーのことですか?」
志士田は煙を吐きながら尋ねる。四人は顔を見合わせ、真剣な顔で彼を見つめた。
「・・・やっぱりそのことなんですね。」
「・・・ちょっと違うけど、でもまあ似たようなもんや。ほんで、ストーカーってどういうこと?」
「・・・気い悪くせんと聞いて下さいよ。」
志士田はタバコを叩いて灰を落とし、コーヒーで口を湿らせてから言った。
「僕が弓ちゃんと付き合い始めたんが、確か去年の春ごろやったと思います。
それから亡くなる三日目前まで付き合ってたから、だいたい半年くらい一緒におったんかな?」
「亡くなるって・・・もしかして自殺か?」
「・・・・・・まあ、そんなとこです。」
志士田は言い淀み、一瞬口を噤んだ。
「どうした?えらい神妙な顔してるけど・・・。」
「え?ああ!いえいえ・・・何でもないです。弓ちゃんが亡くなったのが、確か去年の10月頃やったと思います。それで・・・ずっとある人をストーカーしとったんですわ。」
「ある人って、もしかして・・・・。」
朱里がゴクリと唾を飲む。
「そこに座ってる俊一さんです。時間の許す限り、あなたのことをつけ回してましたよ。」
「うわあ・・・・怖・・・・。」
朱里は腕をさすり、ぶるっと肩を震わせる。紗恵も顔をしかめていた。
「なんで宗方は俺のことをストーカーしてたん?」
「好きやったんですよ。僕と一緒におる時も、ずっとあなたのことを話してましたからね。いかに愛しているか、いかにあなたのことを想っているかって。
自分と俊一君は赤い糸で結ばれた恋人やって言うてましたからね。」
志士田は表情を変えずに淡々と話し、それがかえって怖かった。
「・・・最悪・・・人の恋を邪魔して・・・・。」
紗恵が怒りの籠った声で紅茶を飲む。志士田は静まりかえった皆を見つめて煙を吐いた。
「続けていいですか?」
「あ、ああ!どうぞ・・・。」
俊一は苦い顔で頷いた。
「弓ちゃんはちょっと変わったところがあって、とにかくこだわりが強いんです。好き嫌いがハッキリしてて、嫌いな相手には容赦ないんですよ。
でもね、一度好きになった相手には心を許すんです。それはもう引くくらいにね。」
「ちょっと質問。」
紗恵が手を上げて、志士田を見つめる。
「なんで志士田君は宗方さんと付き合ってたん?彼女は俊一のことが好きやったんやろ?」
「ああ、簡単なことですよ。さっきも言うたけど、あの子は好き嫌いがハッキリしとるから、それ以外のことはどうでもいいんです。
僕は弓ちゃんにとってどうでもええ存在やったから付き合うことが出来たんですわ。」
「どうでもええ存在って・・・。志士田君はそれでよかったん?」
紗恵が納得のいかない顔で尋ねると、志士田は少し笑いながら答えた。
「僕ね・・・女の子と付き合ったんは弓ちゃんが初めてなんです。25にもなって・・・・・恥ずかしながら童貞やったんですよ。
だから弓ちゃんが初めての相手なんです。そうなるとね、もう離れられへんっていうか・・・。
俺を男として扱ってくれる女の子なんて、弓ちゃんくらいしかおらんかったから・・・・・。」
志士田は顔を伏せながらタバコを消した。紗恵はさらに納得のいかない様子で追及する。
「でもそんなん悲しすぎへん?25で童貞なんていくらでもおると思うよ。
どうでもええ存在やから付き合うなんて、ちょっと寂しいというか・・・・、」
こういう部分にこだわりの強い紗恵は、追い詰めるような目で志士田を睨む。
「まあまあ、今は宗方弓子の話やから。」
克博が柔らかい口調で宥めるが、紗恵は納得のいかない様子でカメラをいじりだした。
「ごめんな、話の腰を折って。ええっと、じゃあ続きを聞かせてもらえるかな?」
「はい・・・。その・・・弓ちゃんは変わったところがあって、好き嫌いがハッキリしすぎてるんです。でもそれだけじゃなくて・・・・。」
「それだけじゃなくて?」
「オカルトに傾倒しているところがあったんです。」
「ああ・・・なんか分かるわあ・・・・。」
朱里がため息混じりの声で呟いた。
「弓ちゃんって、元々勘の鋭いところがあったんです。いや、勘ていうより、目が鋭いっていうんかな・・・。相手の心理を読むのが上手いというか・・・。」
「うん、それ分かるわ。俺も何回かしか会うたことないけど、あの子の目には不気味なもんを感じてたから。」
「観察力というか、洞察力というか・・・そういうのは確かに凄かったんです。でもね、それを霊力があると勘違いし始めてもて・・・。
それから心霊現象の本とか、宗教の本とかにはまり出したんです。もの凄い読み漁ってましたよ。」
「なんか・・・聞けば聞くほど気持ちの悪いやっちゃな・・・。」
克博は顔をしかめて口元を歪ませる。
「それからですかね・・・やたらと蛍を見に行くようになったのは。」
「蛍?」
「ええ、蛍は死者の魂やとかいうてね。何の本を読んだんか知らんけど、それから浮き世離れした性格になってしもて。
私と俊一君は死んだあとの世界で結ばれるんやって言うてました。」
「蛍・・・また蛍か・・・・。」
俊一は顎に手を当てて考え込んだ。するとまたしても紗恵が手を上げた。
「あのさ、いっこ疑問なんやけど・・・。」
「なんですか?」
「そこまで俊一のことが好きなんやったら、なんで告白せえへんかったん?アホみたいに私に嫌がらせしてくるくらいやったら、自分から気持ちを伝えたらええのに。」
「それが出来たら苦労しなかったでしょうね。これもさっき言うたけど、弓ちゃんはこだわりが強い性格やったんです。
だから・・・・・自分から告白するんじゃなくて、俊一君から告白されるのを待ってたんやと思います。」
「でも自分から動かな恋愛は上手くいかへんのに・・・。」
「そうですよ。でも弓ちゃんは信じてましたからね。自分と俊一君は赤い糸で結ばれてるって。いつか彼が自分の気持ちに気づいてくれるはずやと。」
「ますます痛い女やな。」
朱里はそう言い捨てて立ち上がり、トイレに向かった。
「ああ、今紙切れてるからちょっと待って。」
克博はトイレの反対側のクローゼットからトイレットペーパーを取り出した。
「はい。」
「ありがとう。」
朱里はそれを受け取ってトイレに入る。そして克博がクローゼットを閉めようとした時、何かに気づいた。
「ん?なんやこれ・・・・・。」
「どうした?」
「いや・・・地面が濡れてんねん。それにこれは・・・・・。」
俊一と紗恵は顔を見合わせ、克博の傍に行った。
「どうしたん?何かあったんか?」
「・・・地面が濡れて、黒くて長いもんが・・・・。」
「黒くて長いもん?どれ?」
克博が指さした先には、人の髪らしきものが散らばっていた。

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