第三話 これは宇宙人の仕業さ(2)

  • 2010.04.08 Thursday
  • 20:42
 「お待たせ、モルダー。ちょっとスキナーに用事があってね。」
今頃スキナーは禿げかけた頭にバスタオルをスパーンと叩きつけ、マヨネーズを片手にキャサリンの所に向かっている所だろう。
彼も俺と同じように、朝の犬とのランデブーを楽しむはめになるが、そんなことはお構いなしのスカリーはハミルトン刑事に事件の概要を尋ねていた。
「こんな美人さんがFBIとは恐れ入った。得意の捜査は良い男漁りかな?」
ハミルトンの皮肉も無視してスカリーは事件の説明を求めた。
「詳しい現場の状況を知りたいから事件の遭った部屋へ案内して頂戴。
あと第一発見者の話しも聞きたいわね。」
凛としてそう答えられるとハミルトン刑事はいささか面白くない様子でアパートの二階を目で指し示した。
「事件があったのは二階にある203号室だ。とても口では表現し難い死に方なので自分達の目で確かめてくるといい。」
俺達は事件のあった部屋へ移動した。
木造のボロアパートなので歩くたびにぎしぎしと音が鳴った。
「この部屋だな。」
現場となった部屋では素っ裸の男が体中に萌アニメの絵を描かれた状態で死んでいた。
外傷らしきものは無く、被害者の顔はどこか幸せそうにも見えた。
部屋も荒らされた形跡は無く、物取りの犯行というわけでもなさそうだった。
スカリーが死体に近寄り、手袋をはめて調べ出した。
「詳しい事は検死を行ってみないと分からないけど、絞殺や殴打、刺し傷なんかは見当たらないわね。
考えらえるなら毒殺かしら。」
俺は死体よりも描かれた萌アニメの方に気を取られていた。
もし俺の部屋に初音ミクの限定版のフィギュアとポスターがあると知ったらスカリーは幻滅するだろうか?
それにしても上手いこと描いてある。
犯人は相当に名のある絵師の違いない。
「モルダー、何を考えているの。心ここにあらずって感じよ。」
スカリーの声で我に返り、とりあえず事件の方に意識を傾ける。
「随分不可解な死に方だ。俺なら便器でクソを垂れたまま死んだ方がマシだな。」
「冗談言ってないで。第一発見者の話しも聞きに行きましょう。」
俺は死体の萌アニメを目に焼き付け、後でインターネットで検索出来るように覚えておいた。
一階に下りてハミルトン刑事に第一発見者のこと聞くとしよう。
「やあ、何とも言えない死に方だね。捜査が難航するわけだ。
それで第一発見者の話しを聞きたいんだが。」
ハミルトン刑事は鼻くそをほじっていた。
「第一発見者は事件のあった部屋の隣の住人だ。
ほら、そこの若い学生風の男がそうだ。」
振り向いてみると刑事と話している学生風の男がいた。
白いポロシャツにジーパン、ちょっとくせ毛で安物のスニーカーを履いている。
雰囲気からして大学生といった所か。
「やあ、君が第一発見者かい?
僕はモルダー、こっちはスカリー。ちょっと聞きたいことがあるんだ。」
学生風の男はかなり緊張した面持ちでFBIの手帳を眺め、軽く咳払いをして答えた。
「どうも、ジョンソンと言います。」
ジョンソンは握手を求めてきたので応じたが、その手は油っぽい汗でべちょべちょで、俺はすぐさまズボンの裾で拭いた。
その様子を見ていたスカリーはあっさり彼の握手を拒否して、笑顔だけで応じた。
ジョンソンはちょっと傷ついたようだった。
「事件について聞かせて欲しいことがあるんだ。
君が発見した時にはもうあの状態で?」
俺はジョンソンが一瞬目が泳いだのを見逃さなかった。
スカリーもそれに気付いたようで、少し強めに詰め寄る。
「失礼だけど、あなたは事件を発見する前は何処で何をしていたのかしら?」
ジョンソンはひどく動揺をし始めて、ごくりと生唾を飲んだ。
その宙を泳いだ目はカメレオンのように左右前後に動いている。
その時俺の中に閃光のような感覚が走った。
こいつは宇宙人に違いない!
目をカメレオンのように動かせる人間など存在しない。
きっと傷を残さない高性能ビームか何かで被害者を殺し、今流行りの萌アニメを使って人類を征服するつもりだったのだ。
「スカリー!気をつけろ!こいつは宇宙人だ。萌アニメで地球征服をたくらんでいる。
俺も危うくその作戦にはまりかけている所だった。」
家に帰ったら萌アニメのフィギュア1000体とポスター2000枚を早々に処分しなければ俺も洗脳されてしまう。
「早くそいつから離れるんだ!」でないと君もラキスタとけいおんの虜にされてしまうぞ!」
俺はスカリーの腕をつかんで無理矢理引き寄せた。
「ちょっと何するのよ!」
スカリーの強烈な金的蹴りで俺は地面をのたうちまわった。
クソ!すでにスカリーは洗脳済みか。
ハミルトン刑事!手を貸してくれ、こいつは宇宙人だ!
思いっきり叫んだが、ハミルトン刑事は鼻毛を抜いていた。
「ごめんなさい。この人たまに頭がおかしくなるのよ、放っておいて。
それより何故あなたはそんなに動揺しているの?
事件に無関係ではないわね。知っていることを素直に話して頂戴。」
スカリーのその言葉にジョンソンはおいおいと泣き崩れた。
「ごめんなさい。僕のせいなんだ。」
ジョンソンは両手で顔を覆ってしゃがみこんでしまった。
「やはりお前は宇宙人で・・・。」
またもスカリーの金的蹴りが入り、俺は危うく天国へと導かれそうになる。
「お願い、知っていることを話して。自首すれば罪も軽くなるのよ。」
ジョンソンは涙交じりの声で語り始めた。
「実はあいつと俺はオタク仲間なんだ。二人とも日本のアニメが好きでよく一緒にアニメを見たりフィギュアを買ったりしていたんだ。
そしたらある日、日本のサイトで痛車なるものを見つけたんだ。」
「痛車?」
何のことか分からないというふうにスカリーが尋ねる。
「車に自分の好きな萌アニメのキャラクターを描くんだ。
そしてそれを恥ずかしげもなく街中で乗り回すんだ。
俺達は正直すげえって思ったよ。
ニューヨーク一番のオタクだと思っていたら、そんなものはとんだ井の中の蛙だったんだ。」
スカリーは虫けらを見るような目でジョンソンを見ている。
頼むから、そのドSな視線をちょっと俺にも分けてくれ。
「俺たちは落ち込んだ。やっぱりクールジャパンには勝てないんだって。
あいつらは常に未来を行っているんだと。
けど、あいつは、ベンジャミンは違ったんだ。」
「ベンジャミン?」
ウジ虫を見るような目でスカリーが聞き返す。
「部屋で死んでるあいつだよ。
あいつは言っていた。
俺は負けないと。クールジャパン何するものぞ!
今こそアメリカンスピリットを見せつけて日本のオタク共を見返してやるんだと。
そして向こうが車なら俺は体に萌アニメを描いて、素っ裸でニューヨークを歩いて見せると。
俺は必死に止めたが、奴の熱意はアイウォンチュウと呼びかける一作目のロッキーのアポロより熱かった。
もう俺にはどうしようもなかったんだ。」
フンコロガシに転がされるフンを見るような目でジョンソンを見ているスカリーは、ポケットから口紅を出して化粧直しを始めていた。
「俺は奴に頼まれた通りに日本の萌アニメの絵を素っ裸の体に描き始めた。
これでも同人誌で300部売り上げたほどの腕だから、絵には自信があったんだ。
へへ、すごいだろ?
まあ今はそんなことはそうでもいいか。
とにかく俺は奴の体に絵を描きまくったんだ。
最初は腕、次に、足、そして背中と顔の順番にね。これが奴の要望だったから。」
俺はこいつが宇宙人かどうか分からなくなってきていた。
何て人間らしい心を持っている奴なんだ。
蹴られた股間を気にしながらも、俺はゆっくりと立ち上がって話しを聞き続けた。
ハミルトン刑事は取った鼻クソを丸めて捨てていた。
「そしてお腹に描いて、次に胸だった。
最後に胸に描いてくれというのが奴の要望だったからだ。
何でも最後の仕上げは胸の鼓動と共に感じたいからだったそうだ。
そして俺は丁寧に胸に絵を描いてフィニッシュさせた。
その瞬間、奴は体をブルっと痙攣させて極上の喜びを現わしていたよ。
俺もその時は描いたかいがあったなと思ったんだ。」
化粧直しを終えたスカリーはスキナーにキャサリンの餌が済んだかどうか確認していた。
ハミルトン刑事は耳くそをほじっていた。
「奴は俺に聞いてきた。どうだい?俺はイカしてるかい?ってね。
だから俺は言ってやったさ。その格好でニューヨークを歩けばクールジャパンのエキサイティングサイト、2ちゃんねるの連中もケツの毛が抜けるほどビックリするだろうし、街中の人間がお前にあらゆる意味で注目するだろうってね。
そしたらその瞬間、奴は二コリと笑って天に召されてしまったわけさ。
もう喜びと充実感で心がいっぱいになって全てが満たされてしまったんだろうね。
その姿で彼が歩いて行ったのは、ニューヨークではなく、天国へと続く階段だったわけさ。
さぞや天使も驚いたに違いないだろう。」
ハミルトン刑事が俺に近づいてきて何とも言えない顔でこう言った。
「やはりこんな難しい事件は俺達には無理だ。後はあんた達FBIに任せるよ。
そう言うとハミルトン刑事は丸めた耳くそを放り投げて出て行った。
「僕が悪いんだ。僕が萌アニメの絵を描かなければこんなことには・・・。」
俺はジョンソンの肩にポンと手を乗せ、優しく頷いた。
「君は宇宙人じゃない。れっきとしたアニメオタクの人間さ。
全身に萌アニメの絵を描かれた彼もさぞ幸せだったことだろう。
ただ、残念なことは君も天に召された彼も少しばかり脳みそが足りなかったというそれだけのことさ。」
別に萌アニメを描いて犯罪になるわけでもなく、後は彼が気違いを起こして自分の体にも萌アニメの絵を描かかないことを祈るばかりだった。
スキナーとの電話を終えたスカリーが俺の後ろの立っており、渋い顔でこう言った。
「あなたの言った通り、これは宇宙人の仕業かもね。
頭の中の構造が、私には同じ人間とは思えないわ。」
そう言って出て行く彼女に俺もついて行き、振り返ってジョンソンを見ると自分の体に絵を描くような仕草をしていた。
俺はそれを気にせず、とりあえず不味い缶コーヒーでもいいから飲みたい気分になっていた。
まあ後は残った警察に任せるとしよう。
警察の立ち入り禁止テープをくぐって外に出るとき、見張りの警官はまだ下半身を敬礼させたままだった。

                                 第三話 完
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