水面の白影 第十二話 魂の眠る場所(2)

  • 2014.10.11 Saturday
  • 14:55
「着いたで。暗いから足元気いつけや。」
広明・・・・いや、叔父さんは、小さな溜め池の近くに車を止めた。月明かりが辺りを照らしているが、足元は草が茂っていてよく見えない。
俺はスマホのライトを点け、不気味な夜の池に向けた。
「やっぱりここか・・・・・。」
予想はしていた。きっと叔父さんはここへ連れて来るのだろうと。飛んでくる虫を払いながら、濁った池を睨みつける。
月明かりを受けた池は青く浮かび上がり、より一層不気味に感じられた。
「ここに・・・・みんな眠ってるんですね・・・。お母さんも、そしておじいちゃんとおばあちゃんも・・・・。」
「いや、他にもおるで。俺がお世話になった三和っていう刑事さんがおる。それに今はもうおらんけど、かつては子供の魂も眠ってた。」
「子供の魂・・・・?」
「浅斗っちゅう少年の魂でな。実の母親に殺された可哀想な子や。青い瞳をした可愛らしい子やったのに、短い人生を終えてしもたんや・・・・。」
叔父さんは辛そうな顔を見せ、池の方に足を進めて行く。
「フェンスの破れたところから中に入れるから。ちょっと照らしてくれんか?」
俺はスマホの明かりを向け、破れたフェンスを照らした。そして叔父さんに続いて中に入り、不気味な池に歩み寄った。
「あんまり近づきなや。落ちてまうから。」
「はい・・・・。」
池の周りは急勾配のコンクリートになっていて、足を滑らせたら一気に池の中だろう。それは分かっているが、ここに母がいるかと思うとじっとはしていられなかった。
「叔父さん・・・・さっき車で言うてたこと、ホンマなんですよね?」
俺は叔父さんを振り返り、額に汗を滲ませながら尋ねた。
「ここへ来る途中、叔父さんはこう言いましたよね?自分は本来、双子として生まれるはずやったって・・・・。」
「ああ、その通りや。俺には双子の兄弟が生まれるはずやった。」
「でも・・・・そうならなかった。それはお母さんのお腹の中で、生まれて来る前に死んでしまったから・・・・・。」
「そうや。それもまだ人の形になる前や。まだまだ米粒ほどの大きさもない、ただの細胞の固まりの時にな・・・・。」
「じゃあ・・・・俺と信也が知ってる叔父さんは、そのもう一人の叔父さんの方なんでね?」
「・・・・そうや、生まれて来おへんかった、もう一人の広明や。」
俺は池に視線を戻し、車の中での会話を思い出していた。ここへ来るまでの途中、俺は叔父さんに質問をぶつけた。
それは俺の知っている叔父さんと、今ここにいる叔父さんとでは別人のように感じるというものだった。
そしてそれに対する叔父さんの答えは、先ほどやり取りした通りのものだ。
叔父さんは本来、母親のお腹の中にもう一人兄弟がいた。一つの細胞から別れた、一卵性双生児というやつだ。
でもこの世界に生まれて来る前に、その兄弟は死んでしまった。その事実は誰も知らず、実の母親や医者でさえ知らなかった。ただ一人、広明叔父さんを除いて・・・・。
俺は叔父さんの方に目をやった。月明かりに照らされたその顔は、とても深い悲しみに沈んでいた。
「俺と一緒に生まれてくるはずやった兄弟は、この世界の光を見ることなく消えていった。でも俺は、そのことをずっと知らんままやった・・・・。
心や頭に異常を感じる時はあったけど、それはうつ病のせいやと思ってた・・・。
でもよくよく考えたら、そんなわけないねんな。俺が病気になったのは成人してからや。
でも子供の時にだって、同じようなことはあったんや。心が不安定になったり、時々記憶が途切れたり・・・・。今思い出すと、妙なことはようさんあったんや。」
叔父さんは池の傍まで歩み寄り、まるでそこに誰かがいるように見つめていた。
「当時の俺はまったく気づかへんかった。全ては病気のせいやと思いこんで、アイツの声に気づこうとせへんかった。
だからアイツは、とうとう業を煮やして表に出てきたんや。自分の存在を知ってもらう為に。」
叔父さんはこちらを振り返り、とても疲れた顔を見せた。暗い中でも白髪が目立ち、多くの苦労を重ねてきたことが分かる。
「さっき言うた浅斗という少年はな、人生に意味なんて無いって信じてた。なんでか分かるか?」
唐突な質問をされ、すぐには答えられなかった。しかし叔父さんは、俺の答えは期待していなかったようで、自分の口でそれを語った。
「浅斗は・・・・理不尽な死に方をした子や。これからまだまだ人生があったのに、それを無理矢理終わらされてしもた。
だから人生には意味が無いって信じることで、自分の死を納得しようとしてたんや。でも結局は・・・・あの子も人生の意味を欲しがってた。
短い人生やったけど、それでも自分が生まれてきた意味はあると、誰かに言うてほしかったんや・・・。でも幸い、その願いは叶ったみたいやけど。」
叔父さんは少しだけ笑い、また池に視線を戻した。いったい何を話しているのかまったく見えないが、今は黙って聞くべきだろう。
飛んできた羽虫を払い、叔父さんの話に耳を澄ませた。
「浅斗は最後の最後で、自分が生まれてきた意味があることを知った。自分を殺した母親から、一番欲しがってた言葉をもらえたんや。
だからあの子は、悪い霊にならずに逝くことが出来た。でもアイツはそうやなかった・・・・。人生どころか、外の世界に出て来る前に死んでしもたんや。
それも誰にも知られることなくや・・・・。だから俺は、アイツの声に気づいた時に、何とかしてやりたいと思った。でもそれが間違いやったんやなあ・・・・・。」
叔父さんの横顔に後悔の色が浮かぶ。辛そうに目を細め、濁った池に視線を落としていた。
「アイツは苦しんでた。浅斗と同じように、ごっつう苦しんでたんや。なぜ自分はこの世に生を受けたんか?なぜ生まれてくる前に死んでしもたんか?
神様はなんで、こんな無意味な命を創りはったんか?・・・・てな。」
池の後ろにそびえる山から、温い風が吹き下ろしてくる。それは妙に胸を掻きたてる不安な風で、夏だというのに肌寒くなった。
「だから俺は、アイツを助けてやりたいと思った。ようやくアイツの声に気づいたんやから、何とかしてやりたいと思った。
それで悩んだ挙句、浅斗に言うたことと同じ言葉を掛けてやった。人生にはちゃんと意味があって、無駄な命なんて無いってな。
生まれて来る前に死んだ短い命でも、きっと意味があるはずやって。でもそれがあかんかった・・・。
アイツは俺の言葉を勘違いしよって、無理矢理身体を乗っ取ろうとしてきたんや。」
「身体を乗っ取る・・・・?」
思わず顔をしかめて聞き返すと、叔父は「怖いやろ?」と笑った。
「アイツは昔から俺の中におって、向こうへ逝くことを拒否してた。だからチョイチョイ俺を乗っ取っては悪さをしとったんや。
小さい生き物を虐めたり、ひどい時には姉ちゃんに夜這いまでかけよった。」
「夜這い?自分のお姉ちゃんに?」
「そうや。あれはてっきり俺がやったと思ってたんやけど、どうもそうじゃなかったらしい。アイツが表に出てきて、俺の心を支配しとったんや。
でも記憶は残ってたから、てっきり俺がやったと思い込んでた。まあこれが分かったのは嬉しい事実やったけどな。」
叔父さんはホッとしたような顔で笑い、タバコに火を点けた。
「お前はさっきこう言うたやろ?俺の目が不気味に感じたり、青くなったりするって。」
「うん・・・・。なんかこの世のもんじゃないような眼やった。」
「それはアイツが表に出て来てる時や。それでも当時は、まだ俺に対して遠慮があったみたいでな。
たまに表に出て来てイタズラをするくらいで、完全に乗っ取ろうとまでは思ってなかったらしい。
でも俺がアイツの存在に気づいた時、甘い顔を見せてもた。だから勘違いして、この身体を乗っ取られた。それで・・・・・姉ちゃんと両親を殺してしもたんや。」
聞き捨てならない言葉が飛び出し、俺の胸がカッと熱くなった。
「ちょ、ちょっと待って!ほんなら何か?お母さんは叔父さんが殺したっていうことか?」
「・・・・そうなるな。正確に言えば、アイツに乗っ取られたこの身体がやったことや。」
「いやいや、ちょっと待ってえな。急にキナ臭くなってきたで。」
今まで真面目に聞いていたが、途端に疑惑がわいてきた。
「叔父さんさ・・・・もしかして、お母さんを殺した言い逃れの為にそんなこと言うてるんと違うの?」
「・・・いや、俺は姉ちゃんを守ろうとしてた。それだけはほんまや。」
「そんなん信じられへんわ。だって犯罪者って絶対に嘘をつくらしいやん。そんで罪を逃れる為に、奇人変人のフリをすんねやろ?
そうしたら精神がおかしいってことになって無罪になるから。」
俺は叔父さんに詰め寄り、正面から目を見据えた。
「なあ叔父さん、もうここまで来たんや・・・ほんまのこと話してえや。さもないと・・・・俺は何をするか分からへんで?」
頭に血が昇り、無意識に叔父さんの胸倉を掴む。もしこれ以上戯言をぬかすなら、このまま池に投げ落とすか、腕を極めて折ってやるつもりだった。
でも叔父さんは顔色一つ変えずに、「全部ほんまのことや」と言い切った。
「今のは正真正銘、ほんまのことしか喋ってへん。」
「信じられるかいな。幽霊やとか、生まれて来おへんかった双子とか、全部都合のええ言い訳やん。もしほんまにお母さんを殺したんやったら、それなりの報いは受けてもらうで?」
叔父さんの胸倉を掴んで分かることがあった。この人は何の格闘技の経験もない素人だと。
なら柔道二段の俺が本気で投げれば、大怪我をすることは免れない。いや、それどころか最悪は死ぬことだってある。
「叔父さん、もうほんまのこと話そうや。正直に言うんやったら、何もせんと警察に連れて行くだけやから、な?」
最後の忠告のつもりで問いかけると、叔父さんは急に俺の後ろを指差した。
「来たで。」
「来たって・・・何がや?」
「俺のもう一人の姉がや。この前出所して、ようやく自由の身になったんや。」
叔父さんは暗い道に向かって手を振り、「こっちや、こっち!」と叫んだ。すると道の奥から人影が現れて、ゆっくりとこちらに近づいて来た。
《叔父さんのもう一人のお姉さん・・・・?どういうことや?》
じっと立ちつくして見ていると、その人影が手を上げた。そして暗がりの中から顔を見せ、小さく笑って「こんばんは」と手を振った。
「悪いな姉ちゃん、出所したばっかりやのに。」
「ええよ、気にせんといて。」
暗がりの中から現れた女性は、少しだけ皺のある顔を笑わせた。そして後ろでくくった髪を揺らし、俺のことを見つめた。
「この子が隆志君?」
「そや、説明した通りのイケメンやろ?」
叔父さんは嬉しそうに笑い、バシバシと俺の肩を叩いた。
「ほんまやね、えらい男前やわ。さすが優子ちゃんの子供さんや。お母さんがべっぴんなら、息子もカッコよくなるんやねえ。」
そう言ってじっくりと俺の顔を見つめる。そして小さく頭を下げた。
「野々村浅子といいます。この前まで刑務所に入っててね、つい最近出てきたばっかりなんよ。よろしくね。」
そう言って痩せた顔を笑わせ、池の方を振り向いた。
《なんやこの人・・・・刑務所に入ってたやって?それに優子ちゃんて、もしかしてお母さんのこと知ってんのか?》
野々村浅子と名乗った女は、とても地味な格好をしていた。グレーの長袖のシャツに、これまた濃いグレーのロングスカート。
顔はなんの化粧っ気もないけど、それでも綺麗な人だと分かる。
「あれ?来てるのは隆志君だけ?」
そう言って周りを見渡し、叔父さんに向かって首を傾げていた。
「ああ、信也はちょっと無理やったんや。今は焼き肉屋でべっぴんさん二人に面倒見てもらってるはずや。」
「あらあ、そらええ身分やね。」
浅子さんは可笑しそうに笑い、また俺の方を見つめた。
「・・・・隆志君、いい色持ってるね。」
「へ?」
「だから君の持ってる色や。優子ちゃん譲りの燃えるような赤に、他人を思いやる淡い緑も持ってる。赤と緑って相性がええから、きっと心の強い優しい子なんやろねえ。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
・・・・固まるしかなかった。どうしてこの人は俺の色を知ってるんだ?確かに俺は、強い赤と淡い緑を持っている・・・・・らしい。
らしいというのは、自分で見たわけじゃないからだ。初めて朋子さんに会った時に、彼女からそう教えてもらったのだ。
《・・・・・ということは、この人も色が見えるってことか?・・・・いやいや、いくら何でも、そんな変わり者が二人もおるか?それもこんなに身近に・・・・。》
「色が乱れとる。混乱してるね?」
「ああ・・・・いえ・・・・。」
「人の感情は全部に色に出るからね。隆志君が混乱してるのがよう分かるわ。」
浅子さんは口元に手を当てて笑う。。
「隆志君、広明叔父さんからどこまで聞いてるの?」
「どこまでって・・・・何がですか?」
いったい何のことか分からず、怪訝な顔をしてしまった。すると浅子さんは何かを納得したように頷いた。
「そういう言葉が出て来るってことは、まだほとんど何も知らんのやね?」
「いや・・・・だから何のことか分からないです。」
「・・・・君の知り合いに、川合さんっておるやろ?」
「川合・・・・?ああ!朋子さんのことですか?」
名字で言われたので、一瞬誰のことか分からなかった。でもどうして朋子さんのことを知っているんだろう?叔父さんに聞いたのか?
「また混乱してるな。」
「ええ、まあ・・・・。」
混乱するのは当たり前だった。だってこの池へ来てから、予想もしないことばかり聞かされたんだから・・・。
未だに頭が整理出来ずにいると、浅子さんは柔らかい口調で言った。
「朋子ちゃんはな、隆志君のおじいちゃんの孫なんや。」
「え?俺のおじいしゃんの孫・・・・?」
「そう。君のおじいちゃんは、それはもう女癖の悪い人でなあ。しょっちゅう愛人を作っては、浮気ばっかりしてた。それでその愛人の一人を妊娠させてもてなあ・・・・。」
「それ、ほんまですか?ほんならその愛人の娘が朋子さんっていうこと?」
「違うがな。さっき孫やって言うたやろ。それやと娘になるやん。」
「あ、ああ・・・・そうか・・・・。」
「愛人に子供を産ませて、その子供が産んだ子が、朋子さんっていうことや。だからあの子は男のことを嫌ってる。
愛人に子供を産ませたクセに、あとは金も渡さんとほったらかしやったんやから。どれだけあの子のお母さんが苦労したか・・・・・。」
「なるほど・・・・そういう理由があったんか・・・・・。」
ここへ来てだんだんと朋子さんのことが分かってきた。あの一見すると無愛想な性格も、きっと苦労してきた人生の裏返しなのだろう。
「まだまだ君に教えてあげたいことはあるけど、今はそれどころじゃないからな。」
浅子さんはそう言って叔父さんの方を見つめた。
「広明・・・・今日もアレやるんやろ?」
「そうや。上手くいったら、姉ちゃんを隆志に会わせてやることが出来るかもしれへんからな。」
「お母さんに会わせる?どういうことですか?」
死んだ人間に会わせるなんて意味が分からない。眉をしかめて困っていると、急に辺りが暗くなった。
「月に雲がかかったんか・・・。真っ暗になってもた。」
こうして何の明かりも無くなると、いかに月明かりというのが明るいかが分かる。街灯さえないこんな場所では、月の光だけが頼りなのだ。
しかし叔父さんと浅子さんは、なぜか喜んでいた。そして池に向かって手を合わせ、まるで神社にお参りするようにパンパンと叩いた。
「あの・・・・何をしてるんですか・・・・?」
「この池に眠る霊を鎮めるんや。ここには不幸な死に方をした魂が眠ってるから、それをどうにかせんかぎり、池の主は消えてくれへん。」
「池の主・・・・?」
「水神様や。」
「水神様・・・・・?それはどういう・・・・・、」
「今は黙って見てて。私も参加するのは初めてなんやから。」
「・・・・・・・・・・・。」
叔父さんと浅子さんは、揃って目を瞑る。そして祝詞のようなものを呟き、ポケットから何かを取り出した。
《なんやアレ・・・・。何かの骨に見えるけど・・・・・。》
二人は祝詞を唱えた後、骨のような細長い物を池に投げた。ポチャンと小さな音が響き、濁った池に波紋が広がっていく。
《なんやねん、このオカルトな儀式は・・・・。こう言うたら悪いけど、こいつら頭がおかしいんか?》
なんだか急に白けてきて、このまま家に帰ってやろうかと思った。しかし・・・・すぐに気が変わった。なぜなら真っ暗な池の水面に、白い影が現れたからだ。
《あれは・・・・叔父さんを尾けてこの池に来た時に見たやつや!得体の知れん気持ちの悪い動きをする影やないか。》
帰ろうと思っていた気持ちは一気に吹き飛び、意識を集中させて池を睨んだ。白い影はぎこちない動きを繰り返し、やがて人の姿に変わっていった。
《なんやアレは・・・・?白い影が人間に変わった・・・。それもくたびれたおっさんに。》
二人は手を合わせるのをやめ、目を開いてその人物を見つめた。
「三和さん・・・・お久しぶりです。」
叔父さんはペコリと頭を下げ、申し訳なさそうな顔をした。三和と呼ばれた人物は、まるで親の仇のように叔父さんを睨んでいる。
しかしすぐに表情を崩し、何かを納得したように頷いていた。
「三和さん・・・・申し訳ない・・・。アイツは今、破魔木神社に預けとる。もう外には出させへんから、どうか安心して逝って下さい。」
叔父さんは深く頭を下げる。三和はもう一度頷き、白い煙に戻って消えていった・・・。
《なんやこれ・・・何がどうなっとんや・・・・。》
呆然として見つめていると、月明かりが戻ってきた。どうやら雲が去ったようで、少しだけ欠けた月が顔を覗かせている。
「・・・・上手いこといったな。これであと二人や。」
叔父さんは心底安心したように言い、額の汗を拭っていた。そして浅子さんも、同じようにホッとした顔を見せていた。
「初めてやってみたけど、緊張するもんやな。」
「そらそうやで。幽霊と直に向き合うんやからな。それに失敗したら取り殺されてまうし。」
「あんた・・・・ようこんなん一人で続けてきたな。辛かったやろ?」
浅子さんは労わるように言い、叔父さんの肩を叩いていた。
「そうやな・・・・ここに眠ってるのは、てっきり俺の家族だけやと思ってたからな。でも蓋を開けてみたら、まあようさんおること。
きっと姉ちゃんが沈んだ辺りから増えていったんやろうなあ。」
「・・・お母さん、ここまで仲間を増やしてでも、広明を守りたかったんやな・・・。」
叔父さんと浅子さんは、二人にしか分からない会話を続ける。
《なんなんや、さっきから・・・・。ちっとは説明せえよ・・・・。》
少しイライラしながら足踏みをしていると、手に持ったスマホが鳴った。
「ん?加奈子からか。」
もしかして信也に何かあったのかと思い、すぐに電話に出た。
「もしもし?どうした?」
『ああ、隆志?今どこにおるん?』
「亀池や。」
『亀池・・・ほなやっぱり朋子さんの言うた通りやな。あのな、ちょっと戻って来てほしいねんけど。信ちゃんがえらいことになってもてん。』
「やっぱり信也に何かあったんか?」
『うん、まあ・・・・そう大したことじゃないねんけど、あんまりにも泣き過ぎて、店でゲロ吐いてもたんよ。だから今は私の家におるんやけど・・・・・。』
「店でゲロか・・・・分かった。すぐに行くわ。」
『うん、お願い。ああ、それと朋子さんなんやけど・・・私の家に信ちゃんを運んでから、急にどこかに行ってしもたんよ。そっちに行ってない?』
「いや、こっちには来てないよ。」
『そうか・・・ほなどこ行ったんやろ・・・・?』
「さあなあ・・・・家にでも帰ったんと違う?」
『いやいや、それは無いやろ。だってあの人の家って島根やで?もう夜の十一時半やのに、わざわざ家に帰るかな?』
「でもそれしか考えられへんやないか。神戸からここまでは朋子さんの車で来たんやから、そのまま帰ってもおかしくないやろ。」
『ああ、そうか・・・それやったらええねんけど・・・・。』
「電話は?掛けてみた?」
『うん。番号教えてもらったから、すぐに掛けてみた。でも全然出えへんのや。いっぺん隆志から掛けてみてくれる?』
「分かった。ほなすぐにそっち行くから待っといてくれ。」
『了解、なるべく早よ帰って来てな。』
電話を切って叔父さんたちの所へ戻ると、いきなり「すまんな・・・」と謝られた。
「え?何がですか?」
「もし出来たらお母さんに会わせてやりたかったんやけど、今日は無理やった。でもこの池に残る霊はあと二人やから、近いうちに会えると思う。」
「・・・・・お母さんの幽霊にってことですか?」
「そうや。お前は俺の言うたことを信じてないやろ?でもここには確かにお前のお母さんが眠ってるんや。
だからお母さんに会えば、きっと俺の言うてることを信じてもらえると思う。」
・・・・信じるも何も、さっきこの目で幽霊を見たばかりだ。それにとりあえず今は加奈子の家に行かなければいけない。
「あの・・・さっき加奈子から電話があって、信也が店でゲロ吐いてもたらしいんです。だからすぐに戻りたいんですけど・・・・。」
「ああ、そらえらいこっちゃ。店の方には俺から謝っとくから、今は信也のところに行こう。」
叔父さんは俺の背中を押して、車を停めてある空き地まで向かう。浅子さんも後からついて来て、一度だけ池を振り返っていた。
「優子ちゃん、お母さん・・・・もうじき呪縛から解き放ってあげるからね。」
そう呟いて、じっと手を合わせていた。そしてその手には、さきほど池に投げた骨のような物が握られていた・・・・・。

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