第五話 それはただの生理現象さ(2)

  • 2010.04.14 Wednesday
  • 16:25
 あれだけの量をぺろりと平らげてしまうジェフの胃袋に関心したが、今はそれどころではなく、事件の解決に向けて全力を注がねばならない。
「じゃあ行こうか、ジェフ。」
「ああ、ちょうど腹八分でいい感じだ。この俺がズバッと解決してやるぜ!」
俺もズバッと事件を解決して、さっさとスカリーとのコンビに戻りたいものだ。
母親にこれ以上交渉を続けても事件解決の進展が望めないことを伝え、息子の部屋へ強硬突入する旨を伝えた。
「そんなことをしてもしあの子に何かあったら。拳銃だって持ってるし・・・。」
心配そうな母親を俺は必死に説得し、ジェフは食卓の食べ残しを漁りながら頷いている。
お前はそこでずっと食べていればいい。
「お母さん、我々もプロです。きっと安心出来る形で事件を解決してみせますよ。
だからどうか許可を頂きたい。」
食べ残しを平らげたジェフが会話に割って入ってくる。
「あと熱いコーヒーもね。」
お前は黙っていろ。
俺は何とか粘り強く説得を続けた。
そして母親は心配そうな顔をしながらも渋々許可を出してくれた。
確かに強硬突入には危険が伴うが、ここはXファイル担当のキャリアと腕の見せどころで、必ず良い方向で事件を解決してみせると誓った。
勝手にコーヒーを作って飲んでいたジェフを、俺は二階へ引っ張って行き、強力な異臭のする息子の部屋の前で立ち止まった。
「ジェフ、息子の名前は確かキバールだったな。」
「ああ、そうだ。間違いない、俺の胃袋がそう言っている。」
俺はキバールの部屋に向かって呼びかけた。
「やあキバール。どうやら話し合いではこれ以上何も解決しないようだ。
悪いが無理矢理にでも君の部屋へ入らせてもらうぞ!」
キバールからの返事は無かった。
俺は万が一を考えて防弾ベストを着ていた。
そして右手に拳銃を構えて静かにキバールの部屋のドアを開けた。
以外なことに鍵はかかっていなかった。
「ジェフ、注意しろよ!」
右手にチキン、左手にコーヒーを持ったジェフが頷く。
俺は慎重にドアを開いて行き、中から漏れ出した悪臭に思わず顔をしかめる。
部屋は薄暗い明かりが灯っていて、ざっと見回す限り特別な物は無かったが、部屋の中央にいる青年だけが異様な雰囲気を放っていた。
俺は拳銃を持つ手に力を込め、少しだけキバールの方へ近づいた。
シンプルなイスにウンコ座りで両手を祈るような形でブルブルと体を震わせているキバールは、俺など視界に入っていないという様子で何かに集中していた。
その目は真剣そのもので、これからオリンピックにでも出場しようかという選手くらいに緊張と気合に漲っていた。
俺は少し恐れながら聞いてみた。
「一体君は何をしているんだ?」
しばらくの間があった後、キバールはこちらを見ずに答えた。
「オシッコを我慢しているんだ。」
何だって?
小便を我慢している。
何故?どうして?
そんなにしたいのならさっさとトイレに行けばいい。
俺は失礼だとは思ったがキバールの股間の辺りを覗いてみた。
ズボンは黄ばんでカピカピになっており、これまで何度も漏らしたことが窺える。
そして今も少し漏れているようだった。
「いや、その、何だ。オシッコを我慢するのは体に良くない。
とりあえずトイレに行ってきたらどうだ。」
事件の話を聞くのはそれからでもいいのだが、キバールは拒否した。
「まだだ!まだ許容範囲だ!」
何が許容範囲なものか!
もうすでに少し漏らしているではないか。
「あまり無理するな。そんな状態じゃまともに話も出来ない。
とりあえすトイレに行ってそれから・・・。」
続きを言いかけた所でジェフが俺の肩に手をかけた。
「モルダー、よすんだ。」
今までに見たこともないほど真剣な顔でジェフはそう言った。
「いや、こんな状態じゃいつ漏らしてもおかしくないし、それにまともに話が聞けないだろう。」
俺の言葉に首を振ってジェフは言う。
「違うんだモルダー。これこそが事件なんだ。
今この少年がオシッコを我慢している、それこそが全てなのさ。」
一体この男は何を言っているんだ。
食い過ぎでついに頭がおかしくなったか?
俺はジェフの手を振り払い、強く聞き返した。
「これこそが事件っていうのは一体なんだ。この少年は今小便をオリンピックに臨む選手のように真剣かつ本気で我慢している。
それが何だって言うんだ?
だいたいお前はなんでいきなりそんな俺は全てを分かってるぜみたいな顔をして割って入ってくる?
さっきまでチキンを美味そうに食べてただけじゃないか。」
「そうだよ。俺はこの少年を見た瞬間、全てを悟った。
彼は同志だったとね。
だからこそ全てが分かるし、この事件も解決出来る。
ここは俺に任せてもらえないだろうか。」
世界丸見えで、あの時は本当にどうなることかと思いましたみたいに当時の事をコメントしている人間のように気迫に満ちたジェフの言葉と雰囲気に俺は圧倒され、何も言えずに引き下がってしまった。
ああ、この事件は一体どうなるんだ。
スカリー、一言でいいから心を抉るようなSな言葉で俺に力をくれ!
ケータイを取り出してボタンをプッシュしかけたが、着信拒否になっていたことを思いだしてポケットに戻す。
やれやれ、食欲が脳内の9割以上を占めている男と、オシッコを我慢することに人生を懸けている少年と、一体どんな会話が始まるのか?
俺には学研の案内についてくる内容が毎回同じ漫画のようにはいかないことが分かってきて、コーヒーとタバコでスカリーの辛辣な言葉を思い出す以外にまともにいられる自信は無かった。
どうでもいいから、とりあえずキバールよ。
さっさとトイレに行くべきだ。

                             第5話 またつづく
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