ダーナの神話 第五話 ダーナとアメル

  • 2014.10.20 Monday
  • 11:34
JUGEMテーマ:自作小説
ダーナとアメル


遠い昔、ダーナは水と同化した。
アメルは彼女に代わって、この世界を緑の国に変えようとした。
アメルはダーナと同様に海が嫌いだったし、天に輝く月に憧れていた。
しかし彼女が海を嫌う理由は、必ずしもダーナと同じではなかった。
《自由になりたい・・・》
アメルの心には常にその想いがあった。
自分を創った神様はどうしてこんな役目を与えたのか?
私はダーナではないのに、どうして彼女の意志を継がなければならないのか?
アメルは理不尽であると感じていた。
自分はダーナではなく、アメルという一つの命なのに、常にダーナの影を演じなければいけない。そう思うと、ダーナが恨めしく感じられた。
《彼女さえいなければ・・・・・・。》
しかしダーナがいなければ自分が生まれて来なかったのも事実で、そういう意味では葛藤を抱えていた。
《ダーナは私の母というわけじゃないわ・・・。先に生まれた姉のようなもの・・・。妹は、ずっと姉に従わなければいけないの・・・?》
ある時神様にそのことを尋ねてみたが、答えはもらえなかった。
《神様はいつもそう。やるだけやって、あとは放ったらかし。無責任で、我が強くて、きっと自分のことしか考えていないんだわ・・・。》
今まで何度も自分の存在を消してしまおうと考えた。
とてもとても長い間、孤独に包まれ、自分を縛る運命にうんざりしていた。
ダーナが連れてくる友達は嫌いではなかったが、アメルは一人を好んだ。
仲良くはするけど、決してダーナの友達に心を開くことはなかった。
しかしある時、転機が訪れた。
一人の青年が自分の傍にやって来たのだ。彼を一目見た時、アメルは感じた。
《この人は・・・私と同じかもしれない。そしてとても澄んだ心を持っている。》
アメルは彼と仲良くなりたい思い、必死に話しかけた。
すると彼はその声に反応し、アメルを見上げた。
《もう一度・・・もう一度私に触れて!》
その声を気味悪がった青年は、踵を返して逃げ出そうとした。
《待って!行かないで!》
その叫びは届かず、彼は渓流を渡って逃げようとしている。
《ああ・・・どうしたら・・・。彼は・・・彼はきっと私の・・・。》
言いようの無い感情が胸に込み上げ、気がつけば叫んでいた。
《ダーナ、お願い!彼を・・・彼を私のところへ連れて来て!》
その願いに応えてダーナは現れ、クスクスと可笑しそうに笑った。
《どうしたの、そんなに慌てて?もしかしてあの人に一目惚れしちゃった?》
《・・・・・いいから・・・連れて来てよ・・・。》
ダーナはまたクスクスと笑い、くるりと青年の方を向いた。
《珍しいわね、アメルがそんなこと言うなんて。まあ別にいいわよ。あなたは私の妹だから、その願いを叶えてあげる。》
そう言うと、ダーナは風を起こして青年を渓流に落とした。
そしてしっかりと水でくるみ、わざと溺れさせて命を絶った。
ダーナはその青年の魂を連れて来て、ニコリと笑って言った。
《この子がアメル。あなたとお話したかったんだって。とってもいい子だから、友達になってあげて。》
ダーナは消え、アメルは彼に歩み寄った。
見るからに頼りなさそうな風貌に、気の弱さと自信の無さそうな顔。
しかし胸の奥には強い意志が宿っているのを感じて、アメルはニコリと微笑んだ。
《・・・私はアメル・・・この木に宿る魂よ・・・。その・・・・よかったら・・・友達になってくれないかな?》
《・・・・・・・・・。》
青年は何も答えず、アメルは緊張して俯いた。
《・・・名前・・・よかったら教えてくれないかな・・・?》
《・・・・ケンイチ・・・・。》
《そう・・・良い名前ね・・・。》
《・・・・・・・・・。》
お互いかなりの恥ずかしがり屋であるせいか、打ち解けるまでに時間がかかった。
しかし一度仲良くなってしまえば、あとはどんどん会話が弾んだ。
アメルは自分のことやダーナのことを聞かせ、ケンイチも家族のことや自分のことを話した。
とても幸せな時間だった。
恐竜が生まれるずっと前の時代からこの世界にいるが、こんなに楽しい時間は初めてだった。
《ケンイチ・・・ずっとここにいて・・・。天国なんかに行かないで・・・。ずっと・・・・私と一緒に・・・。》
アメルはすっかり心を奪われていた。
自分がダーナの影であることも忘れて、ケンイチとの時間を楽しんでいた。
ある時、それを見かねたダーナが言った。
《ねえアメル。随分ケンイチのことを気に入っているのね。よかったら、彼がずっとここにいられるようにしてあげましょうか?》
アメルにとっては嬉しい言葉であったが、素直に頷くことは出来なかった。
ダーナは必ず見返りを求めてくる。
純粋な少女を気取っているが、実は誰よりも腹黒いことを知っていた。
アメルは時間をもらい、ケンイチに相談した。
《ねえ・・・ダーナはあなたがずっとここにいていいって言っているんだけど、あなたはどうしたい?》
《・・・それは・・・・・・。》
《もちろん、ずっとここにいたら生まれ変わりは出来ないわ。
それにもう気づいているかもしれないけど、ダーナは純粋な女の子なんかじゃないわ。だって・・・あなたは・・・・。》
《分かっとる、あの子がやったんやろ?》
《・・・うん。でもそれは・・・・・。》
《アメルが頼んだからや。初めてダーナに会った時に聞かされた。お前が俺のことを気に入ってるって・・・。》
《ダーナが・・・そんな事を・・・。》
アメルはダーナを憎らしく思った。
いや、充分に彼女がやりそうなことではあったが、それでも怒りが湧いてきた。
《ねえケンイチ・・・。ダーナはね、とても悲しい過去があるわ。
だから・・・世界から目を背けようとした。・・・いいえ、今でもそうしてる。
好き勝手に命を奪ってここに連れて来て、自分の願いを叶える為の道具にしようとしてる。》
《・・・・・・・・・。》
《あの子は・・・許せないのよ・・・海に生きる者が・・・。だから・・・海を無くそうとしている・・・。》
《うん・・・。俺も海は嫌いや、昔からな。》
《ダーナは知っているわ・・・。私が彼女のことを心良く思っていないことを・・・。
だからケンイチをずっとここにいられるようにしてあげたら、必ず何かの見返りを求めてくる。
私はダーナから生まれた命じゃないから、彼女の意志に背くことは出来る。けど・・・ケンイチは・・・。》
《・・・・・・・。》
《もしダーナの見返りがとんでもないものだったら、きっと私は断ると思う。
だけどケンイチは・・・きっと魂ごと消されちゃうわ・・・。そして・・・私にあなたを守る力はない・・・。
ダーナに歯向かうには、私は力が無さ過ぎるから・・・。》
アメルは悲しそうに俯き、この前ここへ来た女性のことを思い出していた。
《あの人・・・サトミっていったっけ?とても意志の強い人だった・・・。》
《・・・俺の弟の嫁さんになるはずやった人や・・・。》
《うん、そう言ってたね・・・。たまにいるのよ、正面からダーナに歯向かう人が。
あの人・・・魂ごと消されちゃって・・・もう生まれ変わりも出来ないわ。可哀想に・・・・・。》
里美はここへ連れて来られた時、ダーナが何をしようとしているのかを聞かされた。
その為にあなたの魂が必要なのだと言われ、断固として拒否した。
《子供の妄想になんか付き合ってられないわ。あなたのしようとしていることは間違っている。絶対にそんなことは許さないわ。》
里美はダーナの怒りを買い、あっさりと塵に還されてしまった。
そしてダーナはニコリと微笑んだ。
《出来の悪い子はいらないわ。私だってずっと馬鹿な親に我慢していたんだから、偉そうに言われると腹が立つのよね。》
ダーナの過去を知るアメルは、ただ黙っているしかなかった。
ケンイチはダーナに何かを言おうとしていたが、アメルが慌ててやめさせた。
《私は良い子しか要らないの。そうじゃない子は親にぶたれても仕方ないのよ。
それが嫌なら私みたいに神様に気に入られて、神様の仲間にしてもらえばいいのよ。
そんなの絶対無理だろうけど。》
今までに何度も見てきた光景だったが、その度にアメルは心を痛めた。
《神様・・・どうしてこんな子を神様の仲間にしたの?こんなのって酷いわ・・・。》
そう呟くと、ダーナは可笑しそうに笑った。そして何も言わずに去って行った。
ケンイチはアメルを慰め、塵となった里美を悲しむように目を伏せていた。
《すまん幸也・・・。里美さん、無くなってもうたわ・・・。
お前に会わせることは出来へんかった・・・。許してくれ・・・。》
ケンイチの悲しそうな声を聞き、アメルはダーナに対する怒りと憎しみが強くなった。
自分から生まれた命だから、自分の好きにしていい。
ダーナはそう思っている。
アメルは彼女がそういう考えを持つようになった経緯を知っていた。
《ダーナ・・・これでいいの?あなたのやっていることは、あなたが昔に親から受けていた仕打ちと同じじゃない・・・。
どうして自分から生まれた命を大切にしようとしないの・・・。》
アメルはケンイチと出会った時から決めていた。
もうダーナの影を演じるのはやめようと。
ダーナに怯えて、彼女の運命に縛られるのは終わりにしようと。
その為の鍵が、もうすぐここへやって来る。
何の因果か、ケンイチの弟はとても変わった魂の持主だった。
『ダーナの神話』
それはダーナが作った物語。
暗い部屋で父の暴力に怯えながら、頭の中に描いた物語。
その物語の結末は、この世界から海が消えて、ダーナとその仲間が月に移り住むというもの。
少女は自分の物語を抱えたまま、暗い夜空の元で息絶えた。
神話とは全てが作り物。しかし例外もある。
『ダーナの神話』は空想の世界にとどまることを知らず、現実の世界にまで影響を及ぼした。
彼女は今でも信じている。
自分の作り上げた神話が、やがてこの世界を変えるのだと。
行き場を無くしたダーナの魂は、怨霊ともいうべき執念となって今も漂い続けている。
アメルは知っている。
ダーナは恐ろしく不幸で寂しい少女だと。
自分の書き上げた物語と同じ結末がやってきても、きっと彼女は満足しない。
《神様・・・。どうしてあんな子を気に入ったの?どうしてダーナに力を与えたの?》
気まぐれで無責任な神の悪戯を、アメルは心の底から憎んでいた。


            *****


夢と現実


麻里は三日間入院していた。そしてだんだんと落ち着いてきたので、家に帰れることになった。
医者は麻理にPTSDの診断を下し、弟の死が心の傷になっているのだろうと言った。
両親は納得して頷いていたが、麻理は釈然としないまま医者の言葉を聞いていた。
《違う・・・。私はトラウマなんかじゃないもん・・・。私の夢に出て来たのは、ほんとの俊なのに・・・。》
麻理は全てを話した。
夢に出て来た俊のことや、ダーナやあの女の人のことを。
医者はうんうんと頷いて聞いていたが、全く信用していないと分かっていた。
大人とは形だけ格好良く見せるが、心では全く違うことを思っている。
だからこそ両親や医者には何も期待していなかった。
学校の先生も習い事の先生も、大人はみんな嘘付きの達人であると思っていた。
しかしあの神話学者だけは違った。
《たまにいるんだ、ああいう人。大人なのに子供みたいっていうか・・・。でも絶対に嘘をつかない大人がいるんだ。
もう一回、あの人に会って話を聞いてもらいたいな・・・。》
幸也からもらった本は、退屈な入院生活で唯一の楽しみだった。
この本を開いている時だけが、全ての嫌なことを忘れられた。
それを見ていた医者が、ニコリと笑って麻理に言った。
「ギリシャ神話の中に、トロイ戦争っていうのが出てくるだろう?
あれはね、実際にあった話なんだよ。ずっと作り話だと思われていたんだけど、一人の学者がトロイの遺跡を見つけ出すのに成功したんだ。
みんなが作り話だと思っていたのに、一人の学者によって本物だってことが分かったんだね。
そう考えると、もしかしたら他にも本当のことがあったりしてね。」
その話を聞いて、麻理は素直に感心した。
今自分が読んでいるこの本の中にも、もしかしたら本当のことがあったのかもしれない。
トロイ戦争以外にも、実際に起きたことが・・・。
そう考えるとワクワクして仕方なかった。
いつか自分も、神話の中にあるものを現実に見つけてみたい。
それは小さな夢に変わり、麻理は漠然と自分の将来を思い描くようになった。
そして退院してから二日後、麻理は母と一緒に隣街の大きな本屋に来ていた。
幸也からもらった本を何度も読み耽り、どうしても他の神話も知りたくなった。
最初は図書館に行き、借りられるだけの本を借りた。
ギリシャ神話一つとっても数多くの本があり、しかも本ごとによって微妙に内容が違っていたりした。
「アポロンはアルテミスのお兄さんじゃないの?この本だと弟になってるけど・・・。」
それぞれの神話にいくつもの本があり、どれを借りればいいのか分からなくなってしまった。
「う〜ん・・・とりあえず手当たり次第に借りてみることにしよ。」
ギリシャ神話に北欧神話、日本神話にケルト神話。
他にもインド神話やアステカの神話も借りた。
母には「そんなに読めるの?」と言われたが、麻理は「絶対に読む」と言って両手いっぱいの本を借りたのだった。
そして借りた本を読み進めるうちに、ある言葉が麻理の注意を引いた。
「ダーナ神族・・・・・。これってダーナと関係あるのかな?」
それはケルト神話に出て来る神々の一族だった。
麻理は注意して物語を読み進めたが、『ダーナの神話』に当てはまるような内容は出て来なかった。
図書館で借りた本は初心者向けの分かりやすい本で、細かい所は省いてあったからだ。
麻理はもっと詳しくこの神話を知りたいと思い、母に頼んで隣街の大きな本屋まで連れて来てもらったのだった。
数多く並ぶコーナーから神話の書棚を見つけ出し、目をキョロキョロとさせてケルト神話を探した。
「あ!あった。」
小走りに駆け寄り、ズラリと並ぶ本に目を向けた。
「たくさんありすぎて分かんない・・・。」
困ったように呟き、一冊一冊手に取って確認してみることにした。
子供向けのものから本格的に書かれた物までたくさんあって、どれにしようかと悩んでいた。
あまりに簡単すぎると細かい内容は書かれていないし、逆に難しすぎると子供の自分には読みづらいかもしれない。
「こんな時にあの加々美っていうおじさんがいたら、どれがいいのか教えてくれるのに。」
しかし本を選ぶのも楽しみの一つだと思い、ページを捲ってじっくりと読んでいった。
「麻理、決まった?」
「ちょっと待って。もうちょっと・・・。」
本を読む習慣がない母は、雑誌を二冊だけ抱えて麻理を見ていた。
「麻理がこんなに本にハマるなんてね。あの本そんなに面白かったの?」
「うん、色んな物語があってすごく楽しいの。喧嘩をしたり恋をしたり、あとは悪い神様と戦ったり、まるで人間みたいですごく面白いよ。」
「そう、あの本をくれた加々美さんに感謝しなきゃね。」
「私・・・絶対にまたあの人に会いたい。お母さん、加々美さんに連絡してくれない?いっぱい聞きたいことがあるの。」
「・・・今は無理だと思うわ。随分仕事が忙しいみたいだから・・・。」
「・・・・・そっか。じゃあ我慢する。」
母は麻里に里美のことを伝えていなかった。
加々美から電話があった日、麻理に伝えようとしたのは里美が亡くなったことではなかった。
幸也が麻理の代わりに、里美に謝っておくということを伝えようとしただけだった。
しかし麻理は母の暗い雰囲気を感じ取り、パニックを起こして気を失った。
《この子は敏感すぎる所があるから・・・。きっと良くないことがあったって気づいたのね。》
母は麻理の鋭すぎる感性に不安を抱くことがあった。
おそらく麻理は気づいている。あの里美という女性が亡くなったことを。
傍で見ていると超能力かと思えるほど鋭い勘を持つ麻理は、どんな些細な嘘でも見逃さない。
母は麻理と接する時、なるべく言葉を少なくしていた。
言葉が上手くない自分は、下手なことを言えばあっさり嘘だと見抜かれてしまう。
愛しい我が子であったが、それと同時に若干の恐怖を感じることもあった。
「お母さん先にお会計済ましてくるから、ゆっくり選んでていいわよ。」
「うん・・・。」
麻理は本に夢中で空返事をし、完全に神話の中に没頭していた。
これがいいことなのかどうなのかは分からなかったが、今はこのままにしておこうと決めていた。
好きなことがあるのは悪いことではないし、何より本を読んでいる間はとても楽しそうにしている。
少し浮世離れしたところがあって心配だったが、こうして本に夢中になる姿は子供そのものであった。
母はそんな麻理の姿に安心し、雑誌を抱えてレジに向かった。
麻理は本から顔を上げて母を見つめ。そっと心の中で呟いた。
《お母さん、私のこと心配してばっかり・・・。私ってそんなに変わってるかな?》
少しだけ寂しそうに見える母の背中を見つめ、麻理は再び本に目を戻した。
今読んでいる本は中々いい。
簡単すぎず、かといって難しすぎず、読みやすいのに読みごたえがあった。
誰が書いているのかと名前を見たら、「著 加々美幸也」とあった。
「これってあのおじさんだ・・・。」
麻理は迷うことなくこの本を選び、両手で持って母の元に駆けて行った。

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