ダーナの神話 第十一話 終わりを迎える神話

  • 2014.10.26 Sunday
  • 12:51
JUGEMテーマ:自作小説
神様は考える


遠い遠い宇宙の空の、全ての銀河が渦巻く中心に神様はいた。
それは時としてゴッドと呼ばれ、時として仏と呼ばれ、人々から親しまれ、また恐れられていた。
銀河よりも大きな目で全てを見つめ、銀河よりも大きな耳で全てを聞いている。
神様は動かない。
じっと座って、たまに居眠りをして、気が向いたら人々に力を貸した。
神様がいる場所は全てが一つに繋がる場所だった。
そこには空想も現実もなく、また光も闇もなかった。
神様は宇宙の中心にいる。
しかし、宇宙のどこにでもいた。
青い星にも、月にも、太陽や木星にも神様はいた。
気まぐれで、図々しくて、基本的に自分のことしか考えていなかった。
明日一つの星が滅びるとしても、決して神様はそれを助けない。
なぜなら、また新しい星が生まれるから。
それは神様であり、また別のものであったが、神様にとってはそんなことはどうでもよかった。
神様はそこにいるだけでよかった。
ただそこに存在する。神様はそれでよかった。
しかしたまに、ごくたまにであるが、重い腰をよっこらしょっと上げることがあった。
数ある星の中から、たまに興味を惹かれることがあったからだ。
神様は全てを知っていて、物語の結末さえも見通すことが出来る。
一人の人生の物語も、星の物語も、そしてこの宇宙の結末さえ知っていた。
しかし、神様にとっては全てが等しかった。
一人の人生の物語も、この宇宙の物語も、その大きさに関係なく全てが等しい。
生まれて、死んで、また生まれて、死んでいく。
何も変わらない。人も宇宙も、命も物質も、全てに始まりと終わりがある。
神様は、ただそれを見つめる。
そして数多くある物語の中から、これはと思うお気に入りのものには力を与えた。
その力を正しく使う者もいれば、そうでない者もいた。
しかし、神様にとってはどちらでもよかった。
幸せな結末を迎えようと、不幸な結末を迎えようと、それもまた一つの物語。
神様はそこまで口を挟まない。
神様は居眠りをしながら思い出していた。
あれはいつだったか、月に行きたいと願う少女に力を与えた。
随分不幸な生い立ちであったが、それ自体は珍しくなかった。
しかしその不幸の中で、少女は一つの物語を創った。
『ダーナの神話』
自分を主人公に据え、地球を飛び出して月へ行くという物語だった。
あの時も、神様は気まぐれに力を与えた。
一人の子供が書き上げたにしては中々よく出来ていて、少しだけ興味を惹かれた。
短い時間の暇つぶしになった礼もこめて、少女を人間以上の存在にしてやった。
しかし少女は暴走した。
月へ行きたいという願いの為に力を与えてやったのに、こともあろうに空想を現実の世界へ持ち込んだ。
これは少しばかりいただけなかった。
空想と現実が交差していいのは、神様が座っている場所だけだった。
宇宙の中心、そこは全てが一つになる場所。
この場所のみにおいて、空想と現実の壁が取り払われることが許される。
なぜなら他の誰かがそれをやってしまえば、それは何人も神様が生まれることになってしまう。
空想は自由。物語を創った本人が神になれる。
そんなものが現実に押し寄せたら、それは絶対なる神が何人も生まれてしまうことになるからだ。
これは中々困ったもので、宇宙の大きな決まりごとに逆らうことになる。
神様でさえ、宇宙の決まりごとには逆らえない。
なぜなら、神様自身も宇宙によって生み出された存在であるからだ。
もっといえば、神様自身が宇宙そのものと言い変えてもよかった。
さて、この困った少女をどうしたものか。
ダーナという少女は、一見素直に思えてとても頑固だった。
何度も優しく諭したのに、まったく聞く耳を持とうとしなかった。
神様は少しばかり責任を感じていた。
ダーナに力を与えたのは自分で、こうなる結末も見通すことが出来た。
しかし自分勝手で気ままな性格の神様は、軽い気持ちで力を与えてしまった。
大きな力を与えたのに、それを使って現実と空想を交差させようとしたのはダーナだけだった。
他の者は金やら権力やら、または恋人やら力やら、普通はそういうものに力を使う。
どうも自分の見方が甘かったと後悔していた。
時折起こるパソコンのバグのように、全てを見通しても予想もしない出来事が起こる。
これもまた神様にはどうでもよかったが、やはり少しばかりの責任は拭えない。
ポンっとあの少女を消すことは可能だし、チョイっと世界を戻すことも可能だ。
しかし何でも出来るということは、けっこう難儀なことだった。
何でも出来るということは、どうにでも出来るということで、もっといえば何でもしないといけないということだった。
神様は考える。
あの少女をどうするか?変わってしまったあの世界をどうするか?
そう考えているうちに、なんだか面倒くさくなって眠ってしまった。
「まあなるようになるさ」「いやいや、神様とてちゃんと考えねばいかんぞ」
大きな宇宙の声を聞きながら、神様は夢の中でも考えた。
考えて考えて、面倒くさくなって、もういいやと思った時に閃いた。
そうだ!あの少女の近くにいる者に、同じように力を与えよう。
そしたらまあ・・・後そいつが何とかするだろう。よし、これでいこう。
考えのまとまった神様は、満足そうに眠りについた。
そして夢の中から飛び出し、青い星まで行って、チョチョイと手を振った。
ある一人の男に力を与え、これでよしとばかりにサッと戻ってきた。
後はいつものようにじっとしているだけ。
この宇宙を見つめ、この宇宙の声を聞くだけ。
神様に夢と現実の境目などなく、眠っているときでも宇宙と触れ合える。
いつか終わりが来るその時まで、神様はじっと座って宇宙を見つめるだけだった。


            *****


神話の完結


幸也とアメルは、憲一と麻里を連れて戻って来た。
黒い影はすっかり街を平らげていて、ダフネは僅かに残った妖精と人間を守っていた。
「みんな!来てくれたのね!」
「待たせてごめんね。」
アメルたちはダーナに駆け寄り、黒い影を見上げた。
「こらあとんでもない化け物やな。ゴジラでも呼んだ方がええんとちゃうか?」
憲一が言うと、幸也は「そんなことしたら、どっちが勝ってもマズイことになってまうやんか」と答えた。
「ねえダフネ。神話を書き換えるってどうすればいいの?」
アメルが尋ねると、ダフネは「これを使って」と、魔法を唱えてペンと紙を取り出した。
「私はもう書いちゃったからダメでしょ。マリも書いちゃったからダメ。
だったら・・・後はアメルが書くしかないわ。あなたは神様が生み出した命だから、もしかしたら物語を書き換えることが出来るかもしれない。」
ダフネは「はい」と渡した。
するとペン紙は、パッと弾けて光に変わった。そしてアメルの頭の中へ吸い込まれていった。
「これで頭の中で書けるでしょ?」
「ほんとだ・・・・。頭の中に、ペンと紙が浮かんでくる。」
「アメルが物語を書き終えたら、また頭の中から取り出すわ。そして・・・・・、」
ダフネはそこでケンイチを見つめた。
「あなたが物語を仕上げるの。コウヤみたいに副題をつけてもいいし、最後を書き足してもいい。
あなたならきっと物語を変えられる。そんな気がするのよ。」
そう言って目を向けられると、憲一は「俺が?」と首を捻った。
「いや・・・俺にそんなことは無理やで・・・・。幸也は特殊な魂の持主やったけど、俺は違う。
だからまた幸也に頼んだ方が・・・・、」
「無理よ。コウヤはもう登場人物の一人になっているから。
今押し寄せて来てるのは、マリの創った神話なの。だからコウヤには無理。あなたじゃないと出来ないのよ。」
そう言うと、マリはしゅんと萎れて申し訳無さそうに謝った。
「ごめんなさい。私がもっと違う物語を書いておけば・・・。」
「何言うてんねん。麻理ちゃんが物語を書いてくれたから、ダーナの神話は食い止められたんや。
それに頼んだのは俺やし、麻理ちゃんは何も悪くないよ。」
幸也はよしよしと頭を撫でて微笑みかけた。
ダフネは黒い影をじっと見上げ、自分が生み出した怪物に同情の念を抱いていた。
「あの子も可哀想よね。私が生み出したのに、今は厄介者扱いされてさ・・・。」
黒い影は次なる街を目指し、どこかへ動き出した。
遥か遠くにはまだ妖精の群れが飛んでいて、再び自衛隊の戦闘機もやってきた。
「もうぐずぐずしていられない。アメル、早く神話を創って。
ダーナの神話の続編を創って、この物語を完結させて。そして・・・神様にお願いして、空想と現実を切り離してもらうの!」
「で・・・でも・・・神様は私達のお願いなんて聞いてくれないわよ?」
そう言うと、ダフネは意地悪そうにこう答えた。
「だったら神話の中に、神様を登場させちゃえばいいのよ。そうすれば、神様も力を貸さずにはいられないでしょ?」
「ああ、なるほど!」
アメルは頷き、目を閉じて頭の中のペンを動かした。
それを見つめながら、憲一は不安そうに呟いた。
「でも・・・俺はほんまに役に立てるんか?何の力も持ってないし・・・。
だいたいこんな大それた役を俺なんかが・・・。」
憲一は不安そうに言う。気弱な顔をしながら、自信が無さそうに俯いていた。
それを見たアメルは、「大丈夫よ」と笑いかけた。
「ケンイチはやっぱり臆病なところがあるよね。でもあなたの弟は必死に戦ったのよ?
だったらお兄ちゃんのあなたが怖がってどうするのよ。」
「そやけど・・・・。」
「大丈夫、あなたは一人じゃないわ。私と一緒に戦うの。私が物語を創って、ケンイチが仕上げる。二人で神話を創るのよ。
だから怖くない、ほんのちょっとだけ勇気を出して。」
そう言って憲一の手を握り、もう一度「大丈夫」と笑った。
「・・・そやな・・・ビビってばっかじゃあかんよな。二十八年間生きてきたけど、ビビりっぱなしで何も出来へんかった。
でも俺にだって大事なもんが出来たんや。なら・・・それを守らんとあかんよな。」
憲一はアメルを見つめ、彼女の手を握りしめた。
「二人ならきっと出来る。新しい物語が創れるわ。」
ダフネはそう言って、水の橋を黒い影まで伸ばした。
「コウヤ、マリ。あの怪物を止めるのを手伝って!やっつけるのは無理だけど、アメルが物語を創るまで時間を稼がないと。」
「もちろんや!せっかく妖精になったんやし、思い切りハジケんとな!」
「私は・・・こういうの苦手。戦うなんて怖いし・・・。」
「心配せんでええ、今の麻里ちゃんは妖精なんやから。それに俺もダフネもおるから。」
「でも・・・・・。」
麻里はブルブルと震え、「やっぱり無理!」と叫んだ。
「あんな怪物と戦うなんて怖いよ!これは私が創った物語だけど、まさか本当に戦うなんて思ってなかった。
だから・・・・やっぱり出来ないよ・・・。」
麻里はその場にしゃがみ、手を握って「出来ない・・・」と震えていた。
それを見たダフネは、そっと麻里の手を取った。
「大丈夫、危なくなったら私が守ってあげる。だって私は麻理の神話から生まれたんだから。」
「・・・・・・・・・・・。」
麻里はしばらく黙っていたが、やがて「分かった・・・」と頷いた。
「よっしゃ!ほな行ってくるわ!兄ちゃんはアメルを守ったれよ。」
「分かってる。弟に彼女の心配されとうないわ。」
「なんや、女が出来たらえらいカッコつけるようになったやんか。やっぱ変わるもんやな。」
茶化すように言うと、憲一は「はよ行け」と顔を赤くして手を振った。
「それじゃ行くわよ!」
ダフネは麻理の手を引きながら、水の橋を駆けて行った。幸也は空に舞い上がり、二人の後を追って行った。
「頼むぞ・・・幸也・・・。」
憲一は三人を見送り、アメルの方に振り返った。
彼女はじっと目を閉じて、創造に耽っている。
頭の中のペンを動かし、必死に物語を書いていた。
《アメルは俺が守る。何があっても絶対にや。》
アメルは言っていた。私が心を開いたのは、ケンイチが初めてだと。
それは憲一も一緒だった。ここまで心を開いたのは、、アメルが初めてだった。
今の憲一にとって、アメルは何よりも大切な存在だった。
誰かと一緒にいる喜び、誰かを愛する幸せ、全てアメルから教えてもらった。
自分は一人ではない。アメルと出会って、初めてそう思えた。
《アメル、お前はどんな物語を描く?ダーナの影は嫌やと言うとったお前は、どんな風に神話を綴るんや?》
目を閉じ、真剣に自分の想いを描くアメル。
そんなを彼女を愛おしく思い、そっと肩に手を回した。
《アメル・・・絶対にこの神話を終わらせよう。そして・・・ずっと俺の傍に・・・・・。》
アメルは目を閉じたまま、憲一の手を握り返した。


            *


この世界の中心には、大きな大きな光の国があった。
そこには星より大きな椅子に座って、星より大きな体をした神様がいた。
神様のいる光の国から遠く離れたところに、宝石のように青い星があった。
そこには小さな神様がたくさん住んでいて、時には喧嘩をしたり、時には仲良くお酒を飲んだりして、楽しく暮らしていた。
しかしある時、世界が変わり始めた。
一人の少女が小さな神様に姿を変え、空想と現実の世界を掻き混ぜたのだ。空想の世界は、現実との壁を越えて表に出て来た。
『ダーナの神話』
少女の物語は空想の限界を超えて、時間まで遡って世界を支配しようとした。
ダーナのという小さな神様は、仲間の妖精を引きつれて世界を飛び回った。
そしてこの世界を妖精でいっぱいにする為に、人の魂を連れてきては妖精に姿を変えさせた。
たくさんいた小さな神様は、妖精に居場所を奪われ、空想の世界へと逃げていった。
ダーナは青い星で大きな神様の寵愛をうけ、妖精とともに幸せな時間を過ごしていた。
それはダーナや妖精にとっては楽園だったが、人間にとっては辛い世界だった。
誰もダーナに逆らえず、また妖精も人間に酷いことを繰り返した。
人の力ではダーナと妖精を討ち滅ぼすことは出来ず、ただ恐怖に怯えるしかなかった。
いよいよ青い星を自分のものにしたダーナは、妖精を引きつれて月を目指した。
そこにはまだ海も緑もなくて、時間をかけて自分達の楽園を築いていった。
やがて月の半分は美しい海と森に覆われた。
《ここは私の国よ。妖精達と、永遠に楽しく暮らすの。》
ずっとずっと平和で幸せな時間が続くと信じたダーナだったが、やがて災いが訪れる。
ダーナの楽園は月の表の半分にあったが、裏の半分には別の神様が住んでいた。
それは大きな大きな黒い影の邪神で、一口で山をも飲み込む恐ろしい神様だった。
黒い邪神は、勝手に月へやって来て、勝手に自分達の楽園を築いたダーナが許せなかった。
月は太陽に照らされなければずっと闇が続く静かな星で、黒い邪神はその闇が好きだった。
そして再びその闇を取り戻そうとして、大きな口を開けてダーナの楽園を食べ始めた。
せっかく創った海が飲み干され、せっかく育った森が食べ尽くされ、美しい楽園はたちまち壊されていった。
妖精達は狂ったように逃げ惑い、黒い邪神は長い舌を伸ばして妖精を飲み込んだ。
《やめて!私の国を壊さないで!》
ダーナは必死に訴えたが、黒い邪神は止まらなかった。
食べれば食べるほど体が大きくなり、おぞましい顔をさらにおぞましくして暴れ回った。
ダーナは妖精を守る為に戦ったが、黒い邪神はビクともしなかった。
そしてダーナ自身も食べられそうになり、妖精をつれて月を逃げ出したのだった。
高い宇宙の空から月を振り返ると、黒い邪神は完全に楽園を食べ尽くしていた。
そして再び闇の静けさが戻ると、満足したように月の裏側へ帰っていった。
《月にはあんなに怖い怪物がいたのね。やっぱりあの青い星に戻ろう。》
ダーナは妖精を引きつれて、青い星に向かった。
黒い邪神のせいで妖精はかなり減っていたが、また人間の魂を集めて作ればいいと思っていた。
しかし青い星に降り立つと、世界はすっかり変わっていた。
海は汚され、森は切り払われ、その代わりに高い建物がたくさん建っていた。
《これは・・・どういうこと?》
そこにはなんと、空想の世界へ逃げたはずの小さな神様がたくさんいた。
ダーナが月へ行っている間に、小さな神様はここぞとばかりに現実に押し寄せ、人間を滅ぼして自分達の国を築いていた。
《そんな・・・これじゃ妖精を作れないわ。》
悲しむダーナだったが、それ以上の悲しみが襲いかかってきた。
長い時間をかけてすっかり力を蓄えた小さな神様達は、ダーナをこの星から追い出そうとした。
強力な魔法の武器で襲いかかり、怖い顔をしてどこまでも追いかけてきた。
ダーナは妖精を守ろうとして戦ったが、魔法の武器の前では歯が立たなかった。
妖精は次々に殺されていき、やがて一匹だけになってしまった。
《この子はなんとしても守らないと。》
ダーナは金色の髪を紡いで光の柱を立て、そこに魔法をかけて頑丈なお城を造った。
そしてその中に妖精と身を潜め、息を殺して身を寄せ合った。
その妖精はアメルという名前で、ダーナとは一番付き合いの長い妖精だった。
まるで姉妹のように仲がよかった二人は、ぎゅっと手を握り合って月を見上げていた。
《ねえダーナ。お月様って、こうして眺めているととても綺麗ね。
あんなに怖い怪物がいるなんて想像出来ないわ。》
《そうね。あんなところへ行かなければ、まだみんなと楽しく暮らせたのにね。
見ているだけと、実際に触れるのとでは大違いだわ。》
この時ダーナは思った。遠く離れた場所で眺めているからこそ、美しいものもあるのだと。
手を伸ばしても届かないものは、手に触れるべきではないのかもしれない。
なぜならそこには怖い怖い怪物がいて、離れて見る美しさとは違うものがあるから。
あれはいつだったか、遠い遠い昔にダーナが人間だったころの話。
あのお月様は憧れの世界だった。不幸の中でお月様を見上げ、神話を書き綴った。
この世界を去り、お月様へ行って楽しい仲間と愉快に暮らす物語。
頭の中にあるこの物語が、現実になったらどれほど素晴らしいだろう。そう思いながら、不幸の中で死んでいった。
大きな神様はダーナを憐れに思って特別の力を与え、月へ行けるようにしてくれた。
しかしダーナはその力を使って、空想を現実に持ち出し、世界を変えてしまった。
そこまで考えた時、ダーナははたと気がきついた。
《ああ・・・私・・・何度も同じ過ちを繰り返しているんだわ・・・。》
気に入らない結末が訪れれば物語を創り変え、自分の望む世界にしようとした。
しかしその度に失敗し、同じ過ちを犯して、また神話を創り直していた。
ダーナは途方にくれ、膝の中に顔を埋めて泣いた。
《ダーナ・・・どうしたの?具合でも悪いの?》
ダーナは首を振り、そっとアメルを抱きかかえた。
《ダーナ・・・・・泣いてるの?》
アメルはダーナの涙に触れ、彼女の心を知った。
暗い暗い闇の中でじっと座りこんで、ずっと一人で泣いていたのだと。
アメルは手を握って空を見上げ、光の国に住む神様に願った。
《お願い神様。ダーナを助けてあげて。もう私達だけじゃどうしようもないの。
どうか、この変てこりんになった世界を元に戻して。》
アメルは知っていた。大きな神様は、とても面倒臭がりで気まぐれだと。
だからダーナに力を与えたし、あとはほったらかしだった。
しかそれでも必死に願った。どうかこの世界を元に戻してほしい。そして私達を助けてほしい。
泣きじゃくるダーナの傍で、何日も何日も祈り続けた。
やがて金の柱で出来た城は壊され、二人は外に連れ出されてしまった。
そして大きな鉄の柱にくくり付けられ、火あぶりの刑にされた。
《もういいわ・・・。また神話をやり直さなきゃ・・・。》
《駄目よダーナ。もう終わりにしましょう。何度繰り返しても思い通りになんかいかないわ。
だって、空想と現実は違うんだもの。一緒にはなれないわ。》
アメルは月を見上げ、囁く声で言った。
《お月様は眺めているから綺麗なの。触れてはいけないわ。》
ダーナは何も言わずに悲しい顔をした。しだいに炎が回ってきて、二人は焼かれていく。
しかしその時、小さな流れ星が二人の前に落ちて来た。それは人の姿をしていて、瞬く間に炎を消し去った。
そしてそっと二人を抱きかかえて、空に飛び上がった。
《あなたは誰?どうして私達を助けてくれるの?》
ダーナが尋ねると、流れ星の人は小さく微笑んだ。少し頼りなさそうな顔をしていているが、とても優しい笑顔だった。
アメルは一瞬にしてその人の心を見抜いた。
《なんて綺麗な心なんだろう。きっと、すごく優しい人なんだわ。》
流れ星の人は言った。自分は大きな神様の使いであると。アメルの願いを聞き届け、世界を元に戻す為にやって来たと。
『ダーナの神話』は大きな神様も大変お気に入りで、思わず力を与えてしまった。
しかしこんなことになるとは思わず、重い腰をよっこらしょっと動かして、私を使わしたのだと。
《あの気まぐれな神様がこんなことをしてくれるなんて。信じられないわ。》
驚くアメルだったが、ダーナは手を組んで喜んだ。
《ありがとう。もう終わりにできるのね。》
流れ星の人は頷き、そのまま宇宙へ飛び出した。
そして神様から与えられた力でちょいと手を振り、『ダーナの神話』を空想の世界に押し戻した。
小さな神様達は空想の世界に吸い込まれ、海と緑が復活して美しい世界を取り戻した。
消えたはずの人間が生まれて、時間をかけて広がっていく。
ダーナとアメルはそれを見て喜び、流れ星の人にお礼を言った。
《ありがとう。これで元通りになったわ。》
《よかったわねダーナ。でもさ、私達はどうなっちゃうの?》
すると流れ星の人は月を指差した。
もうあそこに黒い邪神はおらず、あの月の中に光の国を創って住めばいいと言った。
そこはほんの少しだけ空想の世界が実在することを許される場所で、二度と現実に出て来ないと約束出来るなら、大きな神様が守ってくれるという。
《よかったわ。とうとうあのお月様に住めるのね。》
ダーナは手を叩いて喜んだ。アメルは流れ星の人の手を引っ張り、月を指差した。
《ねえ、あなたも一緒に住みましょうよ。そしてもし出来れば・・・今までに死んじゃった魂を妖精に変えて、あそこに住まわせてあげて。》
流れ星の人はニコリと頷き、ちょいと手を振った。すると光が弾けて三人を包み、月の中へと吸い込んでいった。
月の中には、空想の世界でしか有り得ない美しい世界が広がっていた。
海と空が輝き、地平線まで続く大きな島には、花が咲き乱れていた。
そして多くの妖精が飛び交い、虫や鳥と戯れていた。
ここは空想が形を持つことを許される世界。ダーナとアメルは妖精と手を繋いで踊り、花が咲き乱れる島を駆け回った。
流れ星の人は、神様から与えられた最後の力を使って、この世界に魔法をかけた。
それは決して外からここへ入れないようにする為の魔法で、どんな手段を使ってもここを見つけることが出来ないようにする為の魔法だった。
仕上げに光の壁で空想と現実を遮り、大きな神様以外はそれを壊すことが出来ないようにした。
力を使い果たした流れ星の人は、アメルと同じように妖精に姿を変えた。
ダーナはアメルと流れ星の人と一緒に踊り、花かんむりを作って頭に乗せてあげた。
喜んだ二人は他の妖精を呼び集めて、力を合わせて特別な魔法を使った。
するとダーナの背が伸びて、少しだけ大人に成長した。
長い金色の髪がサラリと伸び、海のように深く青い瞳は、空のように澄んだ蒼い瞳へと変わった。
ダーナは喜び、ダフネと名前を変えた。そして月の世界をダーナの国と名付けた。
妖精達はダフネを月の女神と認め、自分達の守護神として崇めた。
ダフネはあの青い星を眺め、いつまでもここから見守ろうと決めた。
ここは現実の世界ではない。形を持って存在する、空想の世界。
二つの間には壁が立ちはだかり、もう二度と行き交うことは出来ない。
しかしダフネはそれでよかった。
それぞれの世界が、それぞれの場所で成り立っている。あの時見上げた月のように、触れてはいけないものがある。
ここは空想の世界。決して現実に手を伸ばしてはならない。
そして現実もまた、この世界に手を触れてはいけない。
神話は神様と同じように、ただそこに存在しているだけでいい。
もし自分達に興味を持つなら、いつか現実の世界の者が本にでも書くだろう。
その時だけ、空想と現実は繋がることを許される。神話が存在するのは、本や人間の頭の中だけでいい。
アメルと流れ星の人は、月の女神となったダフネの手を引いて、空に舞い上がった。
青い空からダーナの国を見下ろすと、花の中で戯れる妖精が手を振っていた。
ダフネも笑って手を振り返し、延々と続く神話の空を駆け巡った。
ダーナの神話はあるべき場所に戻った。もう二度と現実と交わることはない。
『ダーナの神話』はここにある。完結を迎えない完結、永遠の世界。
ダフネと妖精達は、その世界でずっと幸せに暮らした。

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