第六話 青い空 白い雲 僕だって勘違いもするさ

  • 2010.04.17 Saturday
  • 20:01
 久々に長期休暇が取れたので俺は海に来ていた。
突きさす熱い陽射し、照り返す白い砂浜、そしてブロンドにビキニの若い女性達。
俺は日々の忙しさを忘れ、この休暇で疲れ切った心と体を癒すつもりでいた。
残念ながらここはヌーディストビーチでは無いので期待するような女体の彫刻は拝めないが、それでも俺の心は躍り、はしゃいでいた。
誰か友人を連れてこようかとも思ったが、一人の方が何かと気が楽だし都合がいいのでサマータイムロンリーバケーションとなったわけだ。
俺はビーチパラソルを立て、海パン一つにグラサンをかけていい女を物色しながら体を小麦色に焼いている所だった。
注文したトロピカルジュースは甘過ぎて口に合わず、俺は太陽の光だけを噛みしめながらこの眩い海の光景を楽しんでいた。
そろそろ海で泳ごうかと思った時、一人の女性が声をかけてきた。
まるで雑誌のモデルを飾れるようなスタイル抜群の美人で、色っぽいビキニがさらに妖艶な雰囲気を醸し出している。
髪は金髪で腰より少し上くらい、顔は彫が深くてツンと高い鼻がまたなんとも色っぽい。
海にいるというのに肌は透き通るように白く、そのしなやかで長い指は見ているだけで男の本能を極限までくすぐる。
指フェチならこの指を見ただけで昇天してしまうだろう。
俺はカッコをつけてグラサンを外し、極上の笑顔で答えた。
「やあ、何か御用かな?お嬢さん。」
女性は髪を掻き上げ、露わになった耳がこれまた色っぽい。
「失礼ですが、落し物をしてしまって。一緒に探して頂けませんか?」
俺は快く承諾し、飛び跳ねるように起き上がると自己紹介を始めた。
「僕はモルダー。君の探し物をこれから一緒に探す為にニューヨークから派遣されたFBIの捜査官さ。
困った事があったら何でも言ってくれ。」
女性は二コリと笑い、その青くて深い目で自分の名前を言った。
「ジュリアです、よろしく。」
差し出された柔らかい手を、俺はいやらしく無い程度に握り返し、また極上の笑顔でウインクで答えてみせた
「それで、落とし物っていうのは何だい?コンタクトでも落としたかな?
それとも財布でも?」
新しい出会いは海にこそある。
俺の脳内ではこれからの彼女とのプランが文字通り光速で立てられていて、落し物を二人で見つけた後はホテルにある洒落たレストランで食事をすることになっていた。
そしてそこでお互いの事を色々と語り合い、意気投合した所でさり気なく俺の部屋に誘う。
そこでXファイルの捜査官であるという身分を明かし、これまで解決してきた様々な難事件に彼女は驚きと羨望の眼差しを向けるのだ。
特殊な仕事に就いている俺は、自分の身分を明かすのは君だけだよ甘い口説き文句を言う。
自分とは縁の無い世界に生きる孤独な男に彼女は興奮し、さらにはその身分を自分だけに明かしてくれた事に対して特別な感情を抱くようになる。
そして俺は彼女の生い立ちから趣味から何故このビーチに来たのかなど様々な会話を経てお互いの心を深めあい、ムードが高まって気分が高揚した所でベッドインするというわけだ。
もし翌朝スキナーから緊急の呼び出しがかかっても、俺は今自分の人生において重大な事件に遭遇しているので、それはジョンにでも任せてくれと言って電話を切る。
後はとんとん拍子でおお互いの愛が深まっていき、その行きつく先にはマリッジという世の女性とモテナイない男性達が夢憧れる今世紀最大のビッグイベントが待っているに違いなかった。
俺は腰に手をあて、これでもかってくらいに微妙に白い歯を二カっとさせて彼女に向かいあった。
「君のような美しい女性の頼みを断る男なんてこの世ににはいないさ。
もしいたとしたらそれはXファイル扱いで捜査するべきだな。」
ジュリアは屈託のない笑顔で俺を見てこう答えた。
「探しているのは婚約指輪なんです。先日彼から貰ったばかりなのに私ったら。」
「え?」
俺はすっとんきょうな声を出して、意味不明にまたグラサンをかけ直していた。
「ああ、結婚指輪ね。それは大事な物だ。
一緒に見つかるまで探すよ。」
俺の妄想は一瞬にして打ち砕かれ、頭は真っ白なままで彼女の婚約指輪を探していた。
先ほどまでの俺のプランは紙クズのように何処かへ吹き飛ばされ、今は婚約指輪を探しているのかキャサリンのマヨネーズを探しているのか分からない状態になっていた。
そしてしばらく二人で探しているとハリウッド俳優かと思うような良い体をしたナイスガイがこちらへ駆け寄ってきた。
俺達の姿を見るなりその男は呆れたような様子でジュリアに言った。
「お前一体こんな所で何をしているんだ?」
ナイスガイはこんがり小麦色に焼けや良い体を堂々と見せつけるように立っていて、ジュリアを心配そうに見つめていた。
「婚約指輪が無いのよ。ちゃんとここに置いておいたはずなのに、私ったら何処へやっちゃったのかしら。」
心底困った様子のジュリアにナイスガイが言う。
「婚約指輪は無くしたら大変だからホテルの部屋に置いていくって言っただろう、まったく。」
ナイスガイは両手を腰にあててため息をつきながら答えた。
「そうだった。私ったらすっかり忘れていたわ。もう無くしてしまったんじゃないかと心配しちゃった。
ああ、ええとモルダーさん?ごめんなさい。
探し物はホテルの部屋にあったみたい。
迷惑かけちゃったわね。」
俺はまたまた極上の笑顔でこう答えた。
「いや、探し物があって良かった。
君のような美しい女性が困った顔を見せているなんて似合わないさ。
さあ、フィアンセと一緒にこの楽しい夏のビーチを楽しんでくるといい。」
「ありがとう。モルダーさんも夏の海を満喫していって下さいね。」
そう言うとジュリアはナイスガイと一緒に太陽に光り輝く海へと去っていった。
俺はパラソルを外し、グラサンをかけたまま体を焼くことにした。
この恥じらいと悲しみは変な焼け方をした体を職場のみんなで笑ってもらうことで誤魔化すとしよう。
太陽は容赦無く照りつけ、確実に俺の体のグラサン以外の場所を焼いていく。
ついでにこの妙に空しい心も焼いてくれないかと思ったが、それは太陽にとって無茶で都合の良い注文だろう。
ここは陽気な夏の海。
青い空に白い雲。
僕だって勘違いもするさ。
さて、職場のみんなはちゃんと俺の体をネタにしてイジってくれるかな?
ただスカリーだけはきっとこう言うだろう。
「あなた、焼く時はサングラスを外すべきよ」と。
早く彼女の論理的でパンチの利いた言葉が聞きたかった。
グラサンの下から少し流れる涙くらいなら、太陽も焼いて消してくれるだろう。

                           第六話 完
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