ダーナの神話 最終話 新たな神話へ

  • 2014.10.27 Monday
  • 16:39
JUGEMテーマ:自作小説
『ダーナの神話 月の女神と妖精』
アメルが綴った最後の物語。
長く続いた神話は、主人公ダーナの妹、アメルの手によって完結を迎えた。
そして彼女の恋人、憲一が最後の一行を書き、麻里の神話に続く新たな物語として現実に押し寄せた。
世界は形を変え始め、黒い影はたちまち消え去った。
そして黒い影に飲み込まれた魂は、妖精へと姿を変えて復活した。
「ケンイチ・・・。」
神話を創り上げたアメルは、美しい妖精に姿を変えていた。
綺麗な緑のドレスを身に付け、憲一の手を取って浮かび上がった。
「ケンイチ・・・よかった・・・。二人で力を合わせたから、神話を書き換えることが出来たわ。」
憲一は煌めく流れ星の光を纏い、アメルを抱えて微笑んだ。
「アメルのおかげや。ほんのちょっとの勇気で大きく変わるもんや。」
「そうよ。優しいと臆病は違うんだから。優しい人は、ちゃんと勇気を持ってる。ケンイチみたいにね。」
アメルは憲一の首に手を回し、強く抱きついた。
「兄ちゃん・・・。」
アメルの神話が押し寄せたせいで、幸也に人間に戻っていた。
少しだけ残念そうに頭を掻きながら、兄の元へ駆け寄った。
「せっかく妖精になれたのになあ。また人間に戻ってしもた。」
「しゃあないやん。お前は生きてるんやから妖精にはなられへん。人間として、ちゃんとこの現実で生きていけ。」
「なんや、偉そうに言うて。やっぱり彼女が出来ると変わるもんやなあ。」
「ほっとけ。俺はもう臆病者とちゃうぞ。大事な人がおるんやからな。」
憲一とアメルは顔を見合わせて笑い、幸也は呆れたようにそれを見つめていた。
《兄ちゃん、よかったな。大事な人に出会えて・・・。》
里美のことを思い出し、背を向けて目尻を拭った。
「大丈夫?どこか痛いの?」
麻里が心配そうに顔を覗き込んで来る。幸也は首を振り、麻里の頭を撫でた。
「麻理ちゃんはええな。妖精のままで。」
「そうかな?」
「そうやで。麻理ちゃんはまたみんなに会えるやんか。お父さんやお母さん、それに俊君とも。」
「・・・うん。死んだ魂はみんな妖精になってるはずだって、ダフネが言ってたから。」
「なら楽しみやな。きっと俊君喜ぶで。」
そう言ってまた頭を撫で、じっと月を見上げるダフネに目をやった。
夕方と夜の間の、ほんの束の間の不思議な色をした空の中に、薄く輝く月が浮かんでいる。
ダフネは月を見上げながら、ぽつりと涙をこぼした。
「私・・・やっとあそこに行けるのね。あそこで・・・ダーナの神話の世界に住めるのね・・・。」
幸也はダフネの横に立ち、同じように月を見上げた。右端が薄く欠けていて、目を凝らすと表面のでこぼこが見えた。
「あの中に君の世界があるんや。ずっと夢に見てたんやろ?人間の頃からずっと・・・。」
「うん・・・。随分回り道しちゃったけど、やっとあそこに住める・・・。
みんなのおかげだわ・・・・・ありがとう。」
そう言って青い瞳を潤ませて、また月を見上げていた。
そこへアメルが飛んで来て、ギュッと抱きしめた。
「よかったねダーナ!やっと願いが叶って。」
「・・・うん。」
「みんなで一緒に、あのお月様で暮らそう。今度は・・・きっと幸せになれるよ。」
「アメル・・・・。」
姉妹は抱き合う。手を握り合い、これまでの不幸を掻き消すように笑った。
それを見ていた幸也は、一人寂しい想いを抱えていた。
《みんな・・・行ってまうんや。神話の世界へ、俺を残して行ってまうんや。
幸せやんかみんな。俺は一人残されて、どうしたらええんや・・・。》
もう里美はいない。兄も、麻里もいなくなってしまう。みんなは会いたい者に会えるし、これからずっと一緒に暮らせる。しかし自分だけが蚊帳の外だった。
ダーナの神話を食い止めることが出来たのは嬉しい。しかしそれと同時に、強い悲しみと孤独が襲ってきた。
《子供の頃からずっと神話が好きで、ずっと神話を愛してたのに。
最後の最後で蚊帳の外や。残ってへん・・・俺には何も残ってへんやんか・・・。》
ダフネとアメルは喜びの涙を流している。
しかし、幸也は悲しみと孤独の涙を流して俯いた。すると誰かがぺしぺしと頬を叩いた。
誰かと思って顔を上げると、思いがけない再会に言葉を失った。
「どうしたの、そんな顔して?そんなに自分の彼女が珍しい?」
「・・・里美・・・。」
消えたはずの里美が、妖精となって目の前にいた。
幸也はしばらく動くことが出来なかった。もう二度と会えないと思っていたのに、思いがけない再会に立ち尽くしていた。
「里美!里美・・・・。」
「おう、よしよし。泣かない泣かない。」
里美小さな手で頭を撫で、まるで子供をあやすように語りかけた。
「ずっと一人で辛かったね。ごめんね、幸也を残していっちゃって。」
幸也はぶるぶると首を振り、強く里美を抱き寄せた。
「ちょっとちょっと!力入れ過ぎよ。」
「あ、ああ!・・・すまん・・・。」
鼻をすすり、妖精となった里美を見つめた。気の強そうな顔は相変わらずで、堂々とした雰囲気もそのままだった。
「何よ、じっと見つめて。何か言ったら?それともそんなにこの姿が似合うかしら?」
「はは・・・。お前と妖精なんか一番似合わんわ。」
「あら、何よそれ。自分の彼女に向かってさ。」
懐かしいやり取りがさらに涙を溢れさせ、まともに喋ることが出来なかった。
「ねえ幸也、あなたはよく頑張ったわ。でもまだ終わりじゃない。
私やあなたのお兄さんは月へ行っちゃうけど、あなたはここで生きるの。
この現実の世界で、ちゃんと自分の人生を歩かなきゃいけないのよ。」
「・・・でも一人や。お前もここに残ってくれや・・・。」
「無理よそれは。もう二度と空想と現実は交われない。私はあの月の中でしか生きられないから・・・。
でも・・・幸也のことは絶対に忘れないわ。あのお月様から、ずっとあなたのことを見守ってるから。」
そう言って軽くキスを交わし、ゆっくりと離れて行った。
「じゃあね、幸也。幸せになってね。」
里美は手を振りながら、空高く舞い上がっていく。
そして妖精の群れに加わり、月へ向かって飛んで行った。
「待ってくれ!行かんといてくれや!俺を一人にせんといてくれ!」
必死に手を伸ばすが、もう決して届かない。里美は妖精となり、月へと旅立って行った。
「そんな・・・。行かんといてくれ・・・・。」
孤独が押し寄せ、力なくその場に崩れた。
もう自分は完全に一人・・・・。こんなことなら、自分も死んでいればよかった。
それなら妖精になって、みんなと一緒に月へ行けたのに・・・・。
幸也は項垂れ、自分だけが生き残ったことを悔やんでいた。
すると憲一が肩を叩き、「顔を上げろ」と言った。
「お前は一人とちゃうぞ。この世界には色んな可能性があるんや。」
「・・・可能性ってなんやねん・・・。」
「空想の世界は、それは天国みたいに思えるかもしれんな。でも、どんな空想の物語にも筋書きがあるんや。
登場人物はその筋書きを変えることは出来へん。それは運命みたいなもんで、どう頑張っても逆らうことは出来へんのや。」
幸也は涙を拭い、兄を見上げた。
「何を言うんねん・・・。兄ちゃんらはずっと幸せに暮らせるやないか・・・。」
「そうや。でも自分があれしたい、これしたい思っても、筋書きからははみ出されへん。あくまで物語の中でしか自分を演じられへんのや。
でもお前は違うぞ。現実の世界は筋書きなんかないんやからな。」
「・・・筋書きがない・・・?」
「そうや。筋書きがないっちゅうことは、何でも自分で変えられるいうことや。
自分のやりたいようにやれるし、生きたいように生きられる。夢を追うことも、恋人を見つけることも出来るんや。」
憲一は幸也の肩を叩き、手を取って立ち上がらせた。
そこにはダフネやアメル、麻理が笑いながら立っていた。
ダーナの神話に綴られた登場人物達は、明らかに現実の世界から浮いて見えた。
そして憲一もこの世界から乖離し始め、現実感を失った存在になっていた。
「まるで立体映像でも見てる感じやろ?」
「・・・みんな、もう行ってしまうんやな・・・。」
幸也は胸の中の孤独を押し殺し、皆を見つめた。
これから一人になる。兄の言うように恋人だって夢だって見つけられるかもしれないが、それでも皆と別れるのは寂しかった。
するとそんな幸也を見て、ダフネがそっと手を取った。
「コウヤ。ごめんなさい・・・あなたの愛しい人達を奪ってしまって。
でも約束するわ。この先どんなことがあっても、あなたのお兄さんは守ってみせる。
私は月の女神だから、あの星に住む者達を守らなきゃいけない。
だから・・・また私達に会いたくなったら月を見上げて。目に見なくても、ちゃんとそこにいるから。」
「そやな・・・。毎晩お月さんを眺めるわ。雨の日でも・・・。」
ダフネは頷き、金色の髪をなびかせて浮かび上がった。
それを見上げていると、麻理がぺしぺしと頬を叩いた。
「ああ、麻理ちゃん。君にはほんまに助けられた。ありがとうな。」
「ううん、私も物語を創るの楽しかったよ。だから月に行ったら、また物語を創ろうと思うの。
今度は俊の為に、恐竜のお話を創ってあげるんだ。」
「そうか、きっと俊君喜ぶな。向こうに行ってもみんなで仲良く暮らすんやで。」
麻理は「うん」と微笑み、ダフネの横に舞い上がった。
「コウヤ。あなたのおかげで最悪の結末は食いとめられた。一緒に戦ってくれてありがとう。」
「アメル・・・。羨ましいな、あんたみたいなええ女と付き合える兄ちゃんが。」
「うふふ、そんなこと言ってるとサトミに怒られるわよ。」
「ははは、そやな。月から文句言いに来よるかもしれんな。」
「大事な人を失う気持ちは分かるわ。私だって、もしケンイチが消えちゃったらって思うと・・・。
だから絶対に失うわけにはいかないわ。ダフネもケンイチも。」
「うん。兄ちゃんのこと、よろしく頼んだで。」
「任せて。それじゃあね、コウヤ。」
アメルは幸也のおでこに口づけをし、綺麗な羽をはばたかせて舞い上がった。
「幸也!俺らはずっとお前のこと見守ってるからな。お月さんは遠いけど、いつでもあそこにある。
だからお前も・・・俺らのこと忘れんといてくれよ。」
「当たり前や。兄ちゃんこそ浮気したらあかんで。アメルを怒らしたら竜巻で飛ばされてまうからな。」
「ははは、そら怖いな。でも俺にはアメルしかおらんからな。
彼女より大事なもんなんてないし、これからもそれは変わらへん。
俺にはもったいないくらいの人やのに、浮気なんかしたら罰が当たるわ。だいたい浮気出来るほどの男とちゃうしな。」
「そらそうや。ちゃんと身を弁えとうやん。」
ケンイチは「ほっとけ」と笑い、ダフネ達の元へ浮かび上がった。
「じゃあねコウヤ。またいつか、きっと会いましょう。」
「ああ、会えたらええな。でもまた空想が押し寄せてくるのは勘弁やで。」
「うふふ、そんなことしなくても、また私達に会える方法があるでしょ?
神話好きのあなたなら、よく知っているはずよ。」
ダフネは金色の光でみんなを包み、妖精の舞う空へ舞い上がって行った。
「さようならコウヤ!またね!」
そう言い残し、手を振りながら空へ消えていった。
妖精達もその後を追うように消え去り、辺りには夜の闇と静けさだけが残った。
夜空には黄色い月が浮かんでいて、流れる雲を明るく照らしている。
「またみんなに会える方法か。確かに知っとるけど・・・俺に出来るかな?」
ダーナや麻理、そしてアメルは自分の神話を創り上げた。
ならばその続きを綴るのは・・・・・。
いささか自信がなかったが、それでもやってみようと思った。
《下手でもええやん。思うように、自分の物語を書いてみるか・・・。》
しばらくすると、真っ暗な空が昼間のように輝いた。
憲一が魔法を使って空想を押し戻し、世界があるべき姿へと戻っていく。
空想は空想、現実は現実。
二つの世界が別れ、分厚い壁で遮られて、それぞれの場所に収まっていく。
空想と現実、この二つの世界を交えることが出来る、唯一の方法。
それは本や絵、音楽といった表現物だけで可能になる。幸也は黄色い月を見上げ、物語を創ることを決意した。
『ダーナの神話』を綴り、そして目に見える形にしようと。そこには自分なりの物語も加えて、さらに世界を広げていこうと。
兄の言った「現実の世界に筋書きはない」という言葉を思い出し、悲しみと孤独に耐えた。
《大丈夫、俺はまだ生きとる。何が起こるか分からへんのが現実なら、それを楽しむだけや。》
破壊された街が、時間を巻き戻したように再生していく。
空想が切り離されたおかげで、あるべき現実の世界へと戻っていく。
もう空想が押し寄せて来ることはない。
ダフネも兄も、アメルも麻里も、手の届かない世界へ行ってしまった。
しかしいなくなってしまったわけではない。夜空に浮かぶ月の中で、空想の世界の中に生きている。
幸也はダーナの神話を想いながら、ずっと夜空の月を眺めていた。


*****


ダーナの神話 魔法の箱舟と銀河の空


月には誰も知らない世界があった。
人が宇宙へ移り住む時代が来ても、決して見つけることの出来ない世界があった。
大きな光の壁で隔てられた現実の向こうには、ダーナの国と呼ばれる光の国があった。
そこには月の女神ダフネと、美しい妖精が住んでいた。
花が咲き乱れ、一年中鳥や虫が謳う神話の国だった。
妖精の王ケン、そしてその妃のアメルは、毎晩遠い銀河を眺めていた。
昼間はダフネや他の妖精と歌ったり踊ったりしながら過ごしたが、夜になると島の岬にやって、来て二人だけの時間を過ごした。
数え切れない幾つもの夜を過ごし、やがて二人の間に子供が出来た。
ダフネと妖精達はそれを祝福し、生まれて来る子供の為に箱舟を造った。
それは月を飛び出して銀河を駆けることが出来る、魔法の船だった。
やがて小さな妖精が生まれ、ケンとアメルはその子にダナエと名付けた。
そこには月の女神ダフネのように美しく、優しい子に育ってほしいという願いが込められていた。
ダフネはそのことを嬉しく思い、ケンとアメルに負けないくらいダナエを可愛がった。
ダナエはすくすくと成長し、花の咲き誇る島で、妖精達と楽しく過ごしていた。
そして遂に魔法の箱舟が完成し、ダナエに贈られた。
ダナエは船に乗って舵を取り、空を駆け回った。ケンとアメル、そしてダフネを乗せて光の国を思う存分駆け巡った。
毎晩のように船に乗り、高い空から宇宙の銀河を見つめた。
《いつか・・・光の国を出てあの銀河に行ってみたい。》
美しい少女へと成長したダナエは、ある日ダフネに呼び出された。
《ねえダナエ。この宇宙の中心には、大きな神様がいるのよ。》
《大きな神様?それはどんな神様なの?》
《大きな神様は、ここより大きな光の国に住んでいるの。とても大きな体をしていて、立派な椅子に座った偉い神様なのよ。》
それを聞いたダナエは、是非ともその大きな神様に会ってみたいと思った。
そのことをダフネに伝えると、行ってもいいけど条件があると言われた。
《いい、絶対に光の壁を越えてはいけないわ。その向こうにはこことは違う世界が広がっているの。
そしてそこへ飛び出したら最後、あなたは消えてなくなるわ。》
ダナエはその約束を守ると誓い、箱舟に乗ってケンとアメルの所へ帰った。
二人はダナエが旅立つことを寂しく思ったが、それと同時に祝福もしてくれた。
アメルは美しい服を作って与えてくれたし、ケンは魔法を使って箱舟を強くしてくれた。
ダナエは早速船に乗り込み、二人に別れを告げて旅立った。
月を出る前に島の妖精達にも別れを告げ、ダフネの所にも寄って手を振った。
《ダナエ。あなたの旅に、幸せと祝福がありますように。》
ダフネは光の魔法で箱舟を包み、銀河の空へと送り出した。
月を飛び出したダナエは、綺麗な青い星に望遠鏡を向けた。
そこは現実の世界の者が住む、地球と呼ばれる星だった。
《凄い!なんだか変てこりんな乗り物に乗ったり、手に四角い何かを持って喋ってるわ。》
もっと近くで見てみたいと思い、青い星へと近づいて行った。
しかし突然大きな光の壁が立ちはだかり、行く手を阻まれてしまった。
《これがダフネの言っていた光の壁なのね。この向こうに現実の世界が広がっていて、あの青い星に多くの魂が住んでいるんだわ。》
光の壁を越えて向こうへ行ってみたいと思うダナエだったが、ダフネとの約束を思い出し、そっと引き返した。
《まだ旅は始まったばかりだもの。向こうへ行ったら消えちゃうし、今は大きな神様の所を目指しましょう。》
舵をいっぱいに切り、船の横に付く車輪で、宇宙を流れる風を漕いでいった。
真っ暗な宇宙にはたくさんの星が輝いていて、その向こうに川のように流れる銀河があった。
《まずはあそこへ行ってみよう。何か不思議な出来事が待っている気がするもの。》
順調に船を走らせていくダナエだったが、後ろの方からゴソゴソと音が聞こえた。
何かと思って覗きに行くと、一人の妖精が紛れこんでいた。
それは島で一番のやんちゃ者で、コウという少年の姿をした妖精だった。
《こんな面白そうな旅を、ダナエに独り占めさせるもんか。》
コウは船の中を飛び回り、勝手に舵を切り始めた。
《ああ!ダメよ、勝手に動かしちゃ。》
ダナエは慌てて舵を取り、船の体勢を立て直した。
《一緒について来たいなら、言うことを大人しくしてなさい。じゃないと月へ送り返すわよ。》
《いいや、俺は絶対について行く。けど大人しくなんかするもんか。》
船の中で追いかけっこが始まり、二人は舵の奪い合いを始めた。
船はグラグラと傾き、あわや光の壁を超えそうになってしまった。
《もう!いい加減大人しくして!》
《やなこった!》
コウは船長気取りで舵を切り、楽しそうに鼻歌を歌いだした。
しかしすぐに飽きてしまい、また船の中を飛び回った。
《しょうがないなあ、まったく。旅の邪魔だけはしないでよ。》
ダナエはしぶしぶと口を尖らせ、舵を握って銀河の川を目指した。
宇宙の風を感じながら、踊るように舵を切っていく。
時々コウが邪魔するが、それも楽しみながら宇宙の空を駆け巡っていった。
《ねえコウ。大きな神様って、どんな神様だと思う?》
《さあねえ。きっとわがままで自分勝手な奴じゃないの。》
コウは興味もなさそうに言い、腕枕をして居眠りを始めた。
《そうそう、大人しくしといてね。銀河の川に着いたら起こしてあげるわ。》
ダナエは順調に船を走らせていく。そしてしばらく飛んでから後ろを振り返った。
月は米粒のように小さくなっていて、その隣で青い星が輝いていた。
《月があんなに小さくなってる。宇宙ってすごく広いのね。》
そう呟きながら船を走らせて行くと、やがて輪っかの掛かった大きな星が出てきた。
《ねえ見て。とっても面白い星ね。》
しかしコウは居眠りをしたままで、寝言でむにゃむにゃと言っているだけだった。
ダナエはそれを見てクスクスと笑い、輪っかの星を通り過ぎて、ぐんぐんと宇宙の風に乗った。
遠くに見える光の壁はどこまでも続いていて、銀河の遥か先まで伸びていた。
《きっとこの先に大きな神様がいるんだわ。もし会うことができたら、光の壁の向こうへ行けるようにお願いしてみようかしら。》
ダナエの夢は膨らむ。
この宇宙に無限の可能性が詰まっているように、ダナエの夢も無限に広がっていく。
通り過ぎる星はどれも綺麗で、夜空に宝石を散りばめたようだった。
近くで見ると汚い星もあったが、もっと綺麗な星もあった。
それら全てに胸を躍らせながら、遥か遠い宇宙の中心を目指していく。
ダナエは金色の髪を風になびかせ、青い瞳に星を映していた。
アメルの作ってくれた服は、どの星にも負けないくらい綺麗で、ケンのかけてくれた魔法は、どこまでも船を守ってくれる。
そしてダフネがかけてくれた光の魔法は、煌めく水面のように祝福をしてくれた。
ダナエは銀河の川に向かって舵を切りながら、ふとあることを思った。
《私、妖精なのにどうして羽がないのかしら?まあ・・・今はそんなのどうでもいっか。》
羽がなくても、私にはこの箱舟がある。舵を切れば、どこへだって飛んで行ける。
居眠りするコウの頬を突き、風を切ってさらに船を加速させていく。
流れる星に見送られながら、ダナエは新たな神話の世界へと旅立っていった。

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