第7話 君の意見はいつだって正しいさ

  • 2010.04.19 Monday
  • 15:35
 築30年もの家にはその家独特の人の生活で染み付いた臭いというものがある。
田舎の実家に帰った時、子供の頃祖母の家に遊びに行った時、その家には他の家にはない臭いがある。
それが心地良いものかどうかは嗅いだ本人が決めるとして、今この家に漂っているのはこの家の臭いに加えて血の臭いだった。
血の臭いを好むのは獰猛な肉食獣か変質者くらいのものだろう。
慣れたとはいえ、いくら嗅いでも血の臭いというものは俺は好きにはなれなかった。
今スカリーは遺体の検死結果に目を通していて、俺は本棚にあった被害者の文庫本やら図鑑やらをパラパラとめくりながら二日酔いの頭を何とか誤魔化していた。
事件があったのは二日前。
几帳面な被害者の郵便受けポストに新聞やハガキが溜まっていることを不審に思った隣人が被害者の家に呼びかけた。
何度もベルを鳴らしたが応答は無く、ドアを開けると鍵が開いていたのでこれまた几帳面な被害者としては不審に思ったそうだ。
悪いとは思ったが、少しドアを開けると嗅いだのことの無い臭い(おそらく血の臭いだろう)がして胸騒ぎし、もう少しドアを開けて中の様子を窺うと被害者が血を流して倒れていたということだそうだ。
第一発見者となった隣人はすぐさま警察に電話をし、駆けつけた警官は死亡状況から見て殺人であると判断。
さぐさま捜査にとりかかった。
金品が無くなっていることから当初は強盗殺人であると判断され、周りの聴き込みや過去の犯罪者のデータを当たったが中々目ぼしい証拠は得られなかった。
捜査を進めて行くうちに被害者の致命傷となったであろう胸の大きな傷がどのような凶器とも判別がつかず、また遺体からネバネバとした体液のような物が検出された。
これも科学捜査にかけられたが、これまたどのような地球上の物質とも一致しないことから俺達Xファイルコンビの出番となったわけである。
資料を読み終えたスカリーが髪を掻き上げながらこちらに向かってくる。
「捜査資料を見る限り、ただの強盗殺人事件だと思うけど、被害者の胸の傷が気になるわね。
何か強力な力で胸の周りから背中近くまで抉りとられているのよ。
強力な銃で撃ったのなら背中まで貫通しているはずだし、爆発物なら焼け跡が残るはずでしょう。
でもそのどちらの形跡も無いのよ。
実際に私が被害者の検死をしてみるまで何とも言えないわね。」
スカリーは優秀な捜査官だ。
彼女が今の時点で分からないということは、これはそうとうに難解な事件になる可能性があった。
「バケーションは満喫出来たかしら?
面白い焼け跡を作っているけど、ウケ狙いのつもり?」
二日酔いで焦燥とした俺の顔を見て微笑みながらスカリーが言う。
「何かの奇跡かビーチで天使に出会ってね。
捕まえるのは可哀想なんで逃がしてあげたんだ」。
この焼け跡は、その、何だ。
とりあえず君が笑ってくれるのなら本望さ。」
「私じゃなくて、周りの人達の方が笑っていたわね。
どんなバケーションを過ごしてきたかは知らないけど、今は仕事よ。
この事件、ややこしくなりそうね。」
同感だった。
俺は遺体があった近くに腰を下ろし、その近くをじっくり観察する。
倒れていた形に合わせてテープが張られており、その近くで光に反射して少し光っているものを見つけた。
触ってみるとネバネバとしていて、色は透明に近いが少し白っぽい感じもする。
俺はそれを指で触ってみた。
「何だろうな?」
もしやあれかと思って臭いを嗅いでみたがどうも違うようだ。
ほとんど臭いはしない。
「何かの生き物の体液かしら?」
後ろから覗きこむスカリーの耳元と、何かの体液と言う言葉に俺は不謹慎にも興奮し、悟られないように股間の位置をずらす。
スカリーもそのネバネバを指で触ってしげしげと眺め、その様子をずっと見ていたら股間の位置をずらす程度では誤魔化しきれない程あれが膨張すると思ったので、俺はまた被害者の本棚を調べてみることにした。
本棚にはぎっしりと本が詰められていた。
小説、雑誌、漫画、そしてその中に日記と思われる物を発見した。
「スカリー!」
ネバネバを弄んでいたいたスカリーはハンカチでそいつを拭い、俺の方に駆け寄ってくる。
あのネバネバは持って帰って調べるつもりなのだろうけど、いらぬ妄想が頭の中を駆け巡って、俺はすぐさまそいつを排除する。
「どうしたの?
これは、被害者の日記?
重要な手掛かりね、読んでみましょう。」
「ああ、こいつで何か分かれば事件に進展があるかもしれない。」
俺は本棚から日記を取り、その表を確認した。
「俺とマイケルとジョーイの三角関係日記 〜ゲイだからって浮気もするわよ〜」
この日記を読むか否か、出来ればこのまま本棚に戻してしまいたい気もするがそうもいくまい。
スカリーは興味深そうな目でタイトルを見ていた。
どうしてこうも、女というのはボーイズ・ラブに惹かれるのか。
スカリー、君だけは腐女子でないことを、今の俺は切に願っている。
だって君は俺にとって何者にも媚びない至高のSだから。
そのヒールで俺の体と俺の不安を踏みしだいてくれたら、こんな事件はあっさりと解決してみせるのに。
スカリーは早く読めよという目で俺を見ていた。

                          第7話 つづく

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