第7話 君の意見はいつだって正しいさ(2)

  • 2010.04.20 Tuesday
  • 15:31
 いつまでもスカリーの圧力ある視線に耐えていることは出来ない。
俺はおそるおそるページをめくってみた。
日記は被害者の性格を物語るように几帳面な筆記体でキレイに書かれていた。
一番初めの日付は2006年5月12日。
「なんか人の日記の無断で見るのは捜査と言えども良い気はしないな。」
「何を言ってるのよ。
殺人事件なのよ。ごちゃごちゃ言ってないでさっさと読んで言ってよ。」
もうスカリーの頭の中はボーイズ・ラブで一色なのだろうか?
食い入るように俺の手元を見て、心なしか頬が紅潮しているようだった。
「分かったよ。禁断の愛の記録に迫るとしよう。
一番最初に書かれているのはマイケルやらとの出会いだな。
スターバックスでメンズ雑誌を広げ、良い男を見ながら悦に浸っていると、入口からダイ・ハードのブルース・ウィリスよろしく上半身裸でムキムキ、日に焼けた短髪でサングラスをかけた男が現れたそうだ。
その男はアメリカンコーヒーをブラックで注文し、席に着くなり格好をつけて飲み始めたそうだ。
だがどうみても無理してブラックを飲んでいるのが見え見えで、それが見た目とのギャップで可愛く感じ、心はキュンとトキめいたという。」
読んでいて何処からか殺意が湧いてくるのは何故だろう。
別に俺は、ゲイに偏見など持ってはいないのに。
スカリーに先を急かされる。
「今度の日付は一週間とんで17日だな。
えーと、何々?マイケルのあれは予想以上に大きく頑丈で、またテクニックも極上だった。」
次の日記でいきなり寝てやがる!
どんな書き方をしているんだ?
よほど印象に残ったことしか日記につけない人間だったのか?
その時だった。後ろでスカリーが地団駄を踏んで叫んだ。
「このクソ!サノバビッチ!何でいきなりそこからなのよ!
重要なのはそこに至るまでの過程と、行為そのもの描写じゃないの!
もう、本当に何も分かっていないわね、この被害者は。」
髪を掻き上げながら息を荒げている彼女も中々悪くない。
その乱れた髪にちょっと触ってみたかったが、命が惜しいのでやめておこう。
「スカリー・・・。続きを読むぞ。」
「・・・失礼。」
腕を組んでいつもの冷静なスカリーに戻ったのを確認して、俺は続きを読んだ。
「今度は1ヶ月とんでるな。」
スカリーのこめかみに血管が浮いている。
「どう頑張ってもマイケルの子供は産めない。
男同士だから妊娠しないなんて誰が決めたの?
彼は謝る。自分が不甲斐ないせいだと。
俺も彼に謝る。自分が女じゃないせいだと。
お互い心も体もボロボロだった。
その傷を癒す為、自然の偉大さで心を癒そうということでアリゾナのグランドキャニオンへ旅に行くことにした。
このもっとも赤く乾いた大地で、お互い裸で抱きしめ合いながら満天の星空を見る計画だ。
マイケル・・・、この旅行の後、もしかしたらあなたと一緒にいる自身が無いかもしれない。
だから今夜は抱いて。」
俺は膨らむ殺意を深呼吸して追い出し、スカリーの顔色を窺う。
彼女は泣いていた。
「おい、どうしたんだスカリー!
怒りを通り越して逆に涙が出てきたのか?」
彼女はぶるぶると首を振る。
「二人とも・・・可哀想・・・。」
何がだ!?
何処を読んでそんな感想がでてくる。
男同士で子供が出来ないなんてアーノルド坊やでも知っていることだ。
「きっとお互い真剣に愛し合っていたんだわ。
子供が出来ないのは最初から分かっている。
けど、その分かっていることにあえて挑戦していることに二人の凄まじい愛が窺えるのよ。
なんて可哀想な話・・・。」
スカリーは両手で顔を覆って泣いていた。
これが腐女子というやつなのか。
感動する部分が何処にあるのか全く分からない。
俺は泣いているスカリーをおいて先を続けた。
日付は3日後だった。
「あの夜のことは一生忘れられない。
真っ赤な大地にどこまでも続くグランドキャニオン。
彼が拾った妙な形の石はあれに似ていて、今夜はこれを使ってお互いの愛を確かめ合おうという。
初めての器具プレイだ。
夜になり、昼間は恥ずかしがっていた星々が顔を出す。
その聖なる空の下での神聖なプレイ。
燃え上がった。
燃え上がったと同時に、彼とはこれで終わりだと悟った。
何故かは分からなった。
ゲイの勘とでもいうのだろうか。
あの特別な石は記念に持ち帰った。
そして間もなくしてマイケルの方から別れ話を切り出してきた。
覚悟は出来ていた。
俺は妙な石を胸に握りしめ、彼の言葉を涙を流しながら聞いた。
その後は最後の聖なる行為に及んだ。
朝起きた時、彼はベッドにはいなかった。
俺はこの妙な石を彼だと思ってずっと大切にすることを誓った。」
アホの作文だろうか。
読んでいる方が頭が痛くなってきた。
スカリーは横で泣き崩れ、俺はそれにツッコミを入れることもなく先を読んだ。
次の日記は1年後の2007年6月18日だった。
またえらくとんだものだ。
「マイケルのことも徐々に忘れかけていた頃、俺はドトールコーヒーで一人くつろいでいた。
その時入口から整った甘いマスクにシャツの上をはだけたホソマッチョなブラッド・ピットよろしく格好の良い男が入ってきた。
彼はコーヒーを受けとり、喫煙席に座るなりタバコを吸い始めた。
けど全く吸ったことが無く、格好をつけているだけというのがバレバレで、それが見た目とのギャップでとても可愛く感じ、俺の胸はジーンと熱くなった。」
こいつはジョーイとやらとの出会いのようだ。
次の日記は1週間後になっているが、読まなくても内容は想像がつくのでとばした。
スカリーも異論は無いようだった。
俺はまた1ヶ月後に記されている日記を読んだ。
「やはり彼との間にも子供は出来ない。
分かっている。そんなことは分かっているいるのに期待してしまう自分が嫌だ。
彼は優しく俺を抱きよせ、甘い言葉で慰めてくれる。
でもそんなのじゃこの悲しみの心は晴れない。
それは彼も分かってる。
だから旅に出ることにした。
マイケルの時と同じように、彼ともきっとその旅行の後で終わるのだろう。
行き先は命溢れるアマゾンにした。
ちょっと怖いけど、ありきたりの旅行はしたくなかったから。
様々な命が溢れるその地で、最後の愛を交わすのだ。」
殺意は呆れた気持ちへと変わっていて、いちいちスカリーの反応を窺う気も失せた。
案の定次は3日後になっている日記を読んでみた。
「アマゾンは命に輝いていた。
そして俺とジョーイも輝いていた。
命溢れるその場所で、俺達は最高の愛の行為に溺れていた。
俺が疲れて眠っていると、ジョーイが何かネバネバした生き物のようなものを見つけてきた。
またマイケルの時と同じだ。
今夜もこれをローション代わりに使って至高の夜の楽しむのだ。
そして家に帰ったら別れの時が・・・。
もう考えるのはやめよう。
今はジョーイをめいいっぱい愛するのみだった。」
俺はここまでよんで何か感じていた。
妙な石、ネバネバした生き物のようなもの。
何かがこの事件に繋がっている気がする。
こいつは俺の勘だが、きっとこの事件はこの日記のタイトル通り三角関係が重要に関係しているはずだ。
俺は続きを読んでみた。
日付は2009年4月の18日。
事件のあった日だ!
「俺は全てを忘れていた。
燃え上がる日々も、マイケルもジョーイも何もかも忘れて場末のバーで飲んでいた。
その時、信じられないことが起こった。
何と隣に座っていた客がマイケルだったのだ。
ああ、ダメ。せっかく忘れていた恋に火が付いてしまう。
マイケルは俺の方に寄って来て親しげに話しかけてくる。
まるで空白の時間など無かったかのように。
そして俺もその流れに身を任せ、もうどうにでもなれといった感じだった。
正直、またマイケルとよりを戻せたらなんて淡い期待もあったのだ。
マイケルがウィスキーのロックを注文し、マスターが運んできた。
その時、また運命が悪戯をしたのだった。
何と、マスターはジョーイだった。
俺はジョーイの甘いマスクに再びに虜にされそうになり、彼も爽やかな笑顔でニコリと笑いかけてくる。
そのやりとりを見たマイケルが瞬時にその関係を見抜いたようで、いきなり立ちあがり、ジョーイの胸ぐらに掴みかかんだ。
そしてこいつは俺の男だ!手を出すんじゃねえ!といきり立った。
ジョーイはその手を振り払い、こいつは俺の男さ、あんたのじゃねえと引き下がらなかった。
ああ、俺はどうしたらいいのだろう。
結局その場では話しはつかず、俺の家に帰って3人で話し合うことになった。
それがあんなことになるなんて・・・。
あれが生き物だったなんて・・・。
ああ、俺は一体どうしたらいいのだろう。」
ここで日記は終わっていた。
やはり三角関係と、あの妙な石とやらとネバネバした生き物のようなものが事件に関係があったのだ。
俺はこの事件に進展があるかもしれないと興奮し、スカリーに話しかけた。
「スカリー、こいつは重要な手掛かりだ。事件の解決が早まるかもしれないぞ。」
スカリーはヨダレをたらして寝ていた。
俺はそのヨダレをサッと自分のハンカチで拭き取り、良い物を手に入れたと思ったが、その変態的な行為に良心が反発し、その臭いを嗅ぐだけにとどめておくことにした。
ちょっと臭かった。

                           第7話 またつづく



コメント
コメントする








    
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< October 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM