第八話 無駄な努力もたまには実るさ

  • 2010.04.22 Thursday
  • 11:03
 目の前をウェイトレスが慌ただしく行き来し、注文された品を片手に愛想笑いを振りまいている。
周りは家族連れやカップルが多く、うるさいほどの話し声が俺達の会話を邪魔する。
異常とも思える客の出入りが、今日は休日であるということを物語っていた。
ウェイトレスが俺達の席にも注文を取りに来て、薄い化粧の顔でやはり愛想笑いを振りまく。
「アメリカンコーヒーのホットを。君は?」
「同じ物を。」
ウェイトレスが去ったことを確認して再び俺達は話しを続けた。
「なあスキナー。お前の思い越しじゃないのか?
疑うなというわけじゃないが、心配のしすぎも良くない。」
「いや、私は確かに見た。あいつが知らない男と腕を組んで歩いている所を。」
ここは休日には人が溢れる大型のショッピングモールで、俺達はそこの少し洒落たカフェでスキナーの奥さんの浮気調査をしていた。
こうなったのには原因があって、一週間程前スキナーが仕事を終えて車で帰っていると、その途中で奥さんが知らない男と腕を組んで歩いていたというのだ。
辺りは暗かったし見間違いかと思ったが、家に帰ってその疑惑は確信に変わったという。
まず玄関に入ると男物の香水の臭いがしたのだそうだ。
スキナーは香水などつけないので、他の誰かの物に違いなかった。
そして家の中に入るとテーブルの上にコーヒーカップが二つ。
奥さんの友達が来ていたのかもしれないとも思ったが、コーヒーカップに口紅の後はついていなかった。
スキナーの奥さん位の歳になると22ミリ口径の弾丸なら跳ね返しそうなくらいの厚化粧になるので、コーヒーカップに口紅がついていないのはおかしい。
そして極めつけはベッドが乱れていたことだった。
いつも衣類や食器などをキレイに片付けておくらしいスキナーの奥さん、ベッドだっていつもキレイに整えてあるのにその日はあれが行われた後のように乱れていたという。
スキナーが家に帰ってしばらくすると奥さんが帰ってきた。
何処へいっていたのかと聞くとただの散歩だという。
しかしどう見ても散歩をする格好では無く、綺麗にめかし込んでいたという。
その日からスキナーは奥さんの浮気を疑うようになり、夜も眠れないほど悩んだ挙句、浮気は真実かどうかを調査しようということにしたらしい。
そして何故か俺までそれに巻き込まれている。
今日は俺も仕事は休みで、キャサリンと朝のランデブーをした後はさっさと家に帰って惰眠を貪ろうと思っていた矢先にスキナーから呼び出されたのだ。
ウェイトレスがコーヒーを運んできて、俺は一口そいつを飲んで何故自分がここにいるのかを考える。
カフェの窓から見える外では、スティーブン・セガールに似た男が噴水の近くでスクワットをしており、何故か上半身は裸で満面の笑みを浮かべながら通行人を恐れさせていた。
俺は色んな人間がいるのだから、浮気くらいする妻がいた所でどうだと思ったが、それは結婚していない俺が口に出す資格は無かった。
「なあモルダー。」
スキナーが唐突に口を開いた。
「どうした?」
「俺は包茎だ。」
「知ってるさ。」
「毎日風呂場で皮をムキムキして鍛えている。」
「それも知っている。」
「病院へは怖いから行っていない。」
「切っては駄目だという意見もあるからな。」
「満足してなかったのかな・・・。」
スキナーが伏し目がちにコーヒーをすすり、ため息をつく。
「結婚して27年になる。その間不甲斐ない俺のあれを我慢して、もう満足出来なくなったんだろうか。」
そのことに関しては俺は何も言えない。
奥さんのみぞ知るである。
今日ここへ来たのは奥さんの手帳を盗み見したスキナーが、このショッピングモールの何処かで誰かに会う予定が書いてあったからだ。
俺達がいるカフェはショッピングモールのメインの入り口に近い場所だ。
ここで張り込みをして奥さんを尾行しようというわけだった。
包茎なんてほとんどの男がなっているわけで、まだ浮気かどうかも決まったわけではない。
スキナーが俺の上司で無ければ断っている所だ。
さっさとこんなことは終わらせて、家に帰って寝ていたい。
上半身裸でスクワットをしていたセガール似の男は、誰かが通報して駆けつけた警官によって、笑顔を崩さずにスクワットをしたまま連れていかれてしまった。
それから時間を潰す為にスキナーと仕事の話や他愛ない世間話をしていると、不意にスキナーが立ちあがった。
「エムリンだ!」
「奥さんか?」
「そうだ!あいつ、あんなにお洒落をして楽しそうな顔をしている。
きっとこのショッピングモールの何処かで男と会うに決まっているんだ。
くそう!そいつにあったらお前も包茎かどうか問い質してやる!」
「落ち着けスキナー、見つかるぞ。」
スキナーを席に座らせて俺も奥さんの顔を確認してみた。
きっとあれはブルックリンの田舎でとれたカボチャが人間に化けているに違いないと思った。
Xファイル扱いの事件でも通用しそうだ。」
「なあモルダー。今何か酷いことを考えなかったか?」
「とんでもない。野性的で健康的で栄養があって、体に良さそうな奥さんだ。
さすがはスキナーの妻になるだけある。」
よせよと言いながら得意げに笑うスキナーは、じっと奥さんに熱い視線を送っている。
普段冷静なスキナーが俺と一緒に奥さんの尾行をしろなんて、裏を返せばそれだけ奥さんのことを愛しているのだろう。
この熱い視線がそれを物語っている。
俺はその視線の先を追った。
金髪で美人でミニスカの、若い女性がいた。
奥さんはとうに先に歩いて行っていた。
やはりこのまま帰ろうか。
俺はスキナーに言った。
「奥さんはもう先に行ってるぞ。」
ハッと我に返ったスキナーが面目無さそうに咳払いをする。
「じゃあ尾行を開始しよう。」
スキナーが立ち上がり、レジで精算して奥さんの後を追う。
俺も仕方無しにそれに続いた。
ふと窓の外に目をやると、セガール似の男がまたスクワットをしていた。
警官と一緒に。

                           第八話 つづく
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