第八話 無駄な努力もたまには実るさ(2)

  • 2010.04.23 Friday
  • 11:13
 どうしてこうも休日のショッピングモールというのは人が多いのだろう。
何処から掘り出してきたのかというくらい人で溢れていて、真っすぐ歩くことすら困難である。
皆休日というこの日に、仕事という重い日常から解放されたいという願望があることは分かるし、ショッピングモールでの買い物が辛い現実を忘れさせてくれるというのも分かる。
しかし、それでもこの人の多さはどうにかならないものか。
ただ今日に関してはこの人ゴミが、スキナーの奥さんを尾行するのに有効な煙幕になっていることは間違いなかった。
尾行は仕事柄得意ではあるし、素人に気付かれずに後を追うことなど造作もないが、スキナーに関しては個人的事情が絡んでいるので彼が平常心を失わないように気をつけることの方に意識をとられる。
「スキナー、尾行の基本は平常心と常に普通を装おうことだ。忘れるなよ。」
「俺を誰だと思っている。そんなことは百も承知だ。」
そう言いながらスキナーは目を血走らせ、指の爪をかじり、時折股間をいじってそわそわしている。
それに尾行というのにはあまりにも対象との距離が近く、奥さんの50センチ後ろをついて歩いている。
そんなものはもはや尾行では無く、ストーカーだ。
これで気付かない奥さんも鈍いを通り越しているとは思うが。
俺はスキナーの裾をひっぱり、もう少し距離を取るように言った。
「焦る気持ちは分かるが、見つかったら元も子もないぞ。」
「分かっているさ、分かっているが落ち着かないんだ。
相手がどんな男なのか、俺よりカッコイイのか、金持ちなのか、包茎なのか。
考えるだけで気が気じゃ無いんだ。」
「とりあえずたまに股間を触るのだけはやめよう。変態だと思われる。
それに目が血走りすぎてウルバリンのようになっている。
落ち着くんだ。」
ハアーハアーと荒い息遣いのスキナーを何とか諫めながら、俺たちは尾行を続けた。
そして三階にある宝石売り場で奥さんは足を止めた。
「ここか!?ここに男が来るのか!
エムリンよ!俺は包茎でもお前を満足させられるように頑張る、だから俺以外の男と会うなんてやめてくれ!」
「冷静になれ!まだここで会うと決まったわけじゃない。
何度も言うが、落ち着いて様子を見るんだ。」
スキナーの頭からは湯気が立ち上っていて、これ以上何か刺激すれば湯気と一緒に魂まで蒸発してしまいそうな勢いだった。
もう手は股間を触りっぱなしで、通行人の痛い視線に俺は誤魔化しながら笑顔を振りまいていた。
「スキナー、そんなに股間をいじると包茎が悪化して風呂場でのムキムキのトレーニングも無駄になるぞ。」
「む、そ、そうだな。少し冷静になろう。」
奥さんは歩きながら宝石を見ていて、接客に来た店員を笑顔で追い払うと腕時計を確認した。
やはりここが待ち合わせ場所なのか?
「エムリン・・・。」
不安そうに奥さんを見つめるスキナーと二人で、宝石店から少し離れた靴屋で様子を窺っていた。
そして5分ほど時間が過ぎた頃、宝石店にニコラス・ケイジを少しくたびれさせたようなスーツ姿の男がやって来た。
そしてその男を見つけるなり、奥さんは嬉しそうにくたびれたニコラス・ケイジに駆け寄っていった。
「もう、ニコライったら、遅いじゃない。私寂しかったわ。」
「すまない、家で飼っているニワトリが脱走して危うく隣に住んでいるジェフとかいう刑事にフライドチキンにされかける所だったんだ。
君に寂しい思いをさせて申し訳ないと思っているよ。」
ニコライと呼ばれた男がそう言うと、奥さんは人目もはばからず抱きついていた。
これはもう決定的な浮気だ。
「スキナー、気の毒だが・・・。」
そう言いながらふと横を見るとスキナーはおらず、奥さんの方に奇声を上げながら走り寄っていた。
「貴様あ!よくも、よくも内のエムリンに!この野郎!
包茎か!?貴様も包茎かあ!」
ニコライの胸ぐらを掴み、鬼のような形相で包茎を連呼するこの状況を、ビデオで撮って後でスカリーに見せたらどんな反応をするだろう。
「やめてください!何なんですか、あなたは!警察を呼びますよ!」
「俺がその警察だ!しかもFBIだぞ。
おらあ、吐け!包茎なのかあ!」
「やめてあなた!暴力はやめて。」
見かねた奥さんが止めに入るが、面白いので俺としてはもう少し続けて欲しかった。
「なんでここにいるのよ!もしかして私を尾けてきたの?」
「ああ、そうだ。俺は一週間程前にお前が男と腕を組んで歩いているのを見た。
その時から浮気をされているんじゃないかと疑っていたんだ。」
「え?この人はもしかしてエムリンの旦那さん。うわあ、まずいことになったなあ。」
これはいわゆる修羅場というやつだろう。
自分がこの状況に置かれるのは絶対に嫌だが、見ている分には中々面白い。
「貴様!エムリンなどと呼び捨てにしおって!おら、吐け!包茎か?包茎なんだろう!」
「だからやめてって、お願いよあなた。」
ショックと怒りと包茎でパニックになっているスキナーは、今にもニコライに殴りかかかんとしている。
ここはもうそろそろ止めに入るべきだろう。
「よすんだスキナー。ニコライから手を話して、とりあえず頭から包茎を忘れるんだ。
通行人のいい笑い物になっているぞ。」
俺の言葉で少し我に返ったスキナーは、肩で息をしながら通行人の好奇の眼差しにちょっと恥ずかしそうにしていた。
「奥さん、初めまして。旦那さんの部下のモルダーと言います。
ここでは目立つので、とりあえず人目の少ない屋上にでも行きませんか?」
そう言って俺は三人を屋上へ促し、好奇の目を向ける通行人の脇を抜けてエレベーターへ向かう。
「やあ、皆さん。申し訳ない。実はこの三人は宇宙人に頭にチップを埋め込まれていて、ちょっと取り乱している所なんです。
どうぞ気にせず、楽しく買い物を続けて下さい。」
俺は三人の背中を押して足早にエレベーターに乗り、屋上までやってきた。
少し落ち着いたかと思ったら、またスキナーが爆発し始めた。
「エムリン!この裏切り者め!浮気なんかしおって!」
「ちょっと待ってよ。私の話しも聞いて!」
「僕は旦那さんが来るなんて知らなかったんだ。これは一体どういうことなんだエムリン!?」
「だから呼び捨てにするなと言っているだろう。貴様は包茎なのか!?」
「あなた、さっきから恥ずかしい言葉を連呼しないで!」
「そうですよ。何で僕が包茎かどうかなんてあなたに言わなければいけないんですか!」
三人の間では怒号と罵声と包茎が飛び交っていて、それはもう見るに堪えない醜いものだった。
こんなものに巻き込まれるくらいなら、俺もセガール似の男と一緒にスクワットをしていた方がマシだったかもしれない。
奥さんとニコライはともかく、さっきから包茎を連呼するスキナーの頭には本当に宇宙人のチップが埋め込まれているんじゃないかと思った。
スカリー、今日俺は厄日らしい。
スキナーが包茎であることをスカリーも職場のみんなも知っているとスキナーが分かったら,きっと彼の頭のチップは爆発するだろう。

                           第八話 またつづく
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