第九話 僕はいつだって紳士さ

  • 2010.04.25 Sunday
  • 13:07
 仕事も一段落つき、俺とスカリーは久しぶりにランチを一緒にしようということになって近くのカフェで軽食でも食べようということになった。
本当はこじゃれたレストランでランチを御馳走したかったのだが、財布の中身がそれを許さなかった。
ここは職場の近くにあるカフェで、昼休みともなるとかなり込み始める。
軽食とは言ってもここはレストランに近いくらいの品ぞろえと品質を誇っており、安く美味しいものを求める人達でごった返すことが多かった。
幸いにも俺とスカリーはテラスの日当たりの良い席に座ることが出来て、俺の心は晴天の太陽と相まって弾んでいた。
スカリーとランチを共にするのは久しぶりだった。
例えここが場末の立ち飲み屋だったとしても俺の心は弾んだだろう。
「うーん、中々決まらないわね。オムライスにでもしようかしら。」
髪を掻き上げながらメニューを眺める彼女の顔に太陽の光が陰影を作り、俺はその色気にとろけそうになる。
「じっくり選べばいいさ。僕はピラフにでもしようかな。」
彼女は少し迷った後、やはりオムライスに決めたようだ。
ウェイターを呼んで注文を済ませ、食事が届くまでの時間を、俺はわずかに緊張しながら水で口の中を湿らした。
「こうやってランチを一緒にするなんて久しぶりだな。」
「そうね。最近は忙しくてそんな暇が無かったものね。
あなたとランチなんて久しぶりで嬉しいわ。」
俺はヒャッホウーと心の中で叫んでいた。
「しかしまあ、何と言うかこうやって面と向かうと何を話していいやら迷ってしまうな。」
俺はもう一度水で口を湿らせ、見るでもなく通りの方に目をやった。
「あらそう?私は前まら一度あなたとじっくり話しがしたいと思っていたわ。」
俺はヒャッホウーを心の中で二回叫び、水を一気にグイっと飲み干してしまった。
「君が俺とじっくりと話をしたいだなんて以外だな。
キャサリンの餌やり以外に最近君との接点が少なくなっていたから正直寂しかったよ。
それで、何をじっくり話したいんだい?」
ウェイターが料理を運んで来て、俺はそのピラフを頬張りながら彼女の答えを待った。
スカリーは真剣な顔をしていて、スプーンでオムライスを軽く突いていた。
「あのね、私前から思っていたんだけど、最近のあなたって変態度が増してきてると思うの。」
俺はピラフを吹いた。
「何だって?」
「前から宇宙人だのUFOだの言って少し変態じみた所はあったけど、最近はひどくなってきている気がするのよ。」
「俺はいたって普通だぞ。今さら何を言っているんだ?」
スカリーは深くため息をつき、オムライスを一口食べて言った。
「あなたは自分で自覚はないの?
確かに私も腐女子な部分はあるけど、あなたほどじゃないわ。」
あきれ顔でもう一口オムライスを食べる。
「私って心が広い方だからあなたにつきあってあげているけど、普通の女性ならドン引きしている所よ。」
俺は首を振りながらスカリーに反論した。
「悪いがスカリー。君の言っている意味が分からない。
君だってこの前東京タワーとエッフェル塔がどうのとか言って事件を解決していたじゃないか。
あれだって十分普通の思考回路じゃ無いと思うぞ。
それに確かに俺はちょっとおかしな所があるかもしれないが、変態度が増してきているなんてことはないさ。
昨日スキナーに付き合って深酒をして、今日だって二日酔いで頭がガンガン言っているが、さっきまでちゃんと仕事もこなしていただろう。」
自分が確かに少し変態であることは分かっているが、俺は健全な変態であって、どうしようもない変態ではない。
それにしても今日はやけに寒いなと思った。
こんなに晴れているのにどうしてだろう?
「あなたは優秀な捜査官だけど、自分のことはからっきしなのね。」
スカリーが突き刺さるような目で俺を見る。
一体何だというのだ?
「分かった。君の言う通り、俺の変態度が増してきているとしよう。
それで、具体的に何処が変態になってきているんだ?」
スカリーは水を一口飲み、真っすぐに俺を見て答えた。
「今日のあなた、服を着ていないわ。」
そう言われて見てみると、確かに俺は裸だった。
しかしそれがどうしたというのだ。
裸でも仕事は出来るし、食事も出来る。
他の人間が服を着ていても、俺は裸で何が悪い。
サービスで食後のコーヒーが運ばれてきて、俺はそれを手に取った。
良く晴れたカフェのテラスで、裸の男が太陽の光に目を細めながら足を組んでコーヒーを飲む。
実に開放的じゃないか。
周りの視線など気にすることは無い。
俺は裸でコーヒーを飲み続けた。
そして頬杖をついてそれを眺めるスカリー。
「あなたって、ある意味素敵かもね。
でもやっぱり変態だわ。」
スカリーが伝票を持って立ち上がる。
「ここは私のおごりでいいわ。
また一緒にランチをしたいのなら、最低でもパンツくらいは穿いてきてね。」
そう言ってスカリーは去って行ってしまった。
そうか。
パンツくらいは穿くべきだったか。
スカリー。君の言葉に一つ訂正しなければいけないことがある。
それは、俺の変態度が増してきているのではなく、俺の頭がおかしくなってきていることだ。
何故今日裸で来たのかは自分でも分からない。
多分、そんな気分だったんだろう。
何たってスカリーに言われるまで自分でも気が付かなかったのだから。
だがどんなに見た目が変態でも、僕はいつだって紳士さ。
だから、次はパンツくらいは穿いてこよう。
俺は立ちあがり、恥ずかしがることもなくそのまま職場へ戻る。
途中ですれ違った通行人に笑顔で挨拶したが、驚いた顔をして走り去ってしまった。
そしてまたすれ違った通行人に笑顔で挨拶するとその男も裸だった。
俺は何だか嬉しくなって手を振った。
向こうも笑顔で手を振り返してきた。
スキナーだった。

                            第九話 完
コメント
コメントする








    
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM