勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第四十話 天を突く光

  • 2014.12.07 Sunday
  • 13:03
JUGEMテーマ:自作小説
「さて・・・何から話そうかの。」
沼から這い上がったじいさんは、俺たちと一緒に大木の元までやって来た。
樹齢二千年を超える大木は、まるで精霊でも宿っているかのように荘厳だった。
その下を綺麗な小川が流れ、脇にある竹筒からは湧水が流れている。
じいさんは備え付けのコップで水を飲み、渋い顔で目を瞑っていた。
「・・・・・・・・・・。」
じいさんは瞑想をしているように動かない。じっと目を閉じ、深く思索に耽っているようだった。
俺たちは息を飲んでじいさんを見つめる。
彼の言葉を待ち、じっとその顔に見入っていた。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・ぐう・・・・。」
「寝てんじゃねえよ!」
思い切りじいさんの頭を叩くと、「無礼な!神様を何だと思っとる!」と怒られた。
「すいません・・・吉本新喜劇のノリでつい・・・・。」
「おお、あれか。ありゃあ面白いな。儂はチャーリー浜とポットの人が好きじゃった。」
「俺も好きですよ。でも今はそんなことより、あなたの知っていることを教えて下さい。
いったいダキニとの間に何があったのか?そして・・・・どうしてダキニは沖田と藤井をさらったのか?あなたならご存知なんでしょう?」
そう尋ねると、わざとらしく顔を作って頷いた。
「・・・いいじゃろう、今こそ全てを話してやろう。長くなるがよいか?」
「お願いします!」
俺たちは再び息を飲む。じいさんは演技臭い目で空を見つめ、「あれは今でも鮮明に覚えとる・・・」と呟いた。
「あの日も今日みたいによく晴れていたんじゃ。儂は野山を駆け、人里まで下りて行った。するとなんと!怪しげな女が民衆を導いているではないか!儂は興味を惹かれ、女に尋ねた。お前さんは何をしているんだ?と。すると女はこう答えた。これからこの国の行く末を占うのだと。」
「・・・・・へ?占い?」
「うむ。女は見事な呪術で未来を占い、今年は稲が豊作であろうと伝えた。そして儂の未来まで占ってくれたんじゃ。本日のラッキーカラーは青!午前中は不運に見舞われるけど、午後からラッキーなことが続くでしょうと。ちなみにその日のラッキーアイテムは埴輪だったな。」
じいさんはしみじみとしながら言う。俺は「ちょっと待って下さい!」と止めた。
「それっていつの時代の話ですか?」
「ん?卑弥呼の時代。」
「聞いてませんよ!そんな時代の話なんて!今の時代の話をして下さい!」
「なんじゃ・・・人が一生懸命話しとるのに。そういうことは最初に言わんか。」
じいいさんは不機嫌そうに言い、「あれは田中角栄が・・・・・、」などと話し始めた。
「だから・・・・そういうことじゃなくて!ついさっき起こったことを話して下さいよ!」
「何を怒ってる?」
「怒るに決まってるでしょう!この場で田中角栄の話なんかされたって困るだけですよ!」
「そうカッカするな。ストレスは身体に悪いぞ?」
「あんたがストレスの原因だよ!いいから質問に答えろこのジジイ!」
「誰がジジイか!?儂は泣く子も黙る白髭ゴンゲンじゃぞ!アマテラス殿とだってLINE友達なんじゃぞ!」
「知るかよ!神様がLINEなんか使ってんじゃねえ!」
なんだこのじいさんは・・・・まったく話が通じないじゃないか・・・・。
そう思っていると、向こうも「なんじゃこの若僧は、まったく話が通じんわい」と怒っていた。
《ダメだこりゃ・・・まともに質問しても答えてくれそうにない・・・・。》
せっかく重要な話が聞けると思ったのに、相手はただのエロじじいときている。
《・・・・・ん?エロじじい?》
俺はパッと閃き、マイちゃんを前に押し出した。
「なあじいさん、この子が質問するから、ちゃんと答えてやってくれないか?」
「え?私?」
マイちゃんはオロオロしながら「ムリムリ!」と首を振った。
「こんな偉い神様に質問なんか出来ないよ!」
「大丈夫だって、相手はただのエロじじいなんだから。」
「だから・・・・そういう失礼なこと言っちゃダメだってば!」
「でも向こうは喜んでるみたいだぞ。」
「え?」
じいさんはニコニコと笑顔を振りまき、スマホを取り出して「LINEやってる?」と尋ねた。
「いえ・・・LINEはちょっと・・・・。」
「じゃあツイッターは?それともフェイスブック?」
「いえ・・・SNSは不安なのでちょっと・・・・・。」
「なんじゃ、最近の若いモンにしては珍しいの。まあいいや、それならメルアドを・・・・・、」
そう言いかけた時、俺は「ちょっと待った!」と割って入った。
「なんじゃ貴様!儂とその子のランデブーを邪魔するな!」
「この子とランデブーしたいなら、とりあえず質問に答えてくれよ。じゃないとメルアドは教えられない。」
「ぬうう・・・・貴様!さてはその子のジャーマネだな!?」
「ジャーマネって・・・・。俺はこの子の友達だよ。」
「ウソだ!本当はジャーマネなんだろう?それでその子はどこぞの事務所のアイドルに違いない!素人にしては可愛い過ぎるからのう!」
「・・・・そうだよ、最近流行りの化けタヌキアイドルなんだ。」
そう答えると、マイちゃんは「ウソです!」と叫んだ。
「ちょっと悠一君!変なウソつかないでよ!」
「でも向こうは信じてるみたいだぞ?」
「え?」
じいさんはニヤニヤ微笑みながら、「なんでも聞いてくれ」と言った。
「アイドルのメルアドをゲット出来るチャンスなんて滅多にない。なんでも質問に答えてやるぞ。」
「おお!聞いたかマイちゃん?今のうちに質問するんだ!」
「・・・・・・・・・・。」
マイちゃんは呆れた様子でため息をつき、「この人が稲荷の長じゃなくなった理由が分かる気がする・・・」と呟いた。
「すみません白髭様・・・・聞きたいことがあるんですが。」
「ゴンゲンでよい。」
「ええっと・・・じゃあゴンゲン様。ダキニと何があったんですか?どうして沼なんかに埋まっていたんです?」
そう尋ねると「よくぞ聞いてくれた!」と叫んだ。
さっきから聞いてるじゃねえかエロじじい・・・・・そう思ったのは内緒だ。
「儂はダキニの身勝手な行いに腹を立てておったのじゃ。だから再三注意したんじゃが、奴はまったく聞く耳をもたんかった。
そして奴の強引なやり方に反発して、儂に相談する者まで現れおった。これはいよいよダキニには任せておけんと思い、儂自らが制裁の乗り出したんじゃ。しかし・・・・不意を突かれてやられてしもうた・・・・。奴め・・・姑息にも儂の弱点を攻めて来よった・・・・。」
「弱点・・・ですか?」
「うむ。儂は若い女子に弱いでな。奴は藤井という可愛い子ちゃんを盾にして、儂から逃れようとした。」
それを聞いて、思わず「藤井だって!?」と叫んだ。
「そうじゃ。儂はダキニに制裁を加える為、奴の社に出向いた。そこで激しく口論となり、戦いが始まってしもうたのじゃ。
儂に勝てないと悟ったダキニは、ワープゾーンを使って氷ノ山の麓の神社に逃げた。」
「それって・・・たまきに化けたダキニが倒れてた神社だな?」
マサカリが言い、俺は「そうだろうな」と頷いた。
「儂は神社をワープしてダキニを追いかけた。そしてその先でも激しい戦いになったのじゃ。
しかしそこへ二人の人間が現れた。沖田という男と、藤井という可愛い子ちゃんじゃ。
ダキニは二人を人質に取り、そして藤井ちゃんを盾にした。」
「・・・・・・・・・・・・。」
なんだろう・・・このじいさんに藤井をちゃんづけで呼ばれると腹が立つな・・・・。
「悠一、顔が引きつってる。」
モンブランに言われ、俺は表情を戻した。
「藤井ちゃんを盾に取られた儂は、手を出すことが出来なんだ。するとその時に沖田とやらが銃を取り出したのだ。そしてダキニ向けて『藤井を放せ!』と脅した。儂はその隙をついて藤井ちゃんを助けたわけじゃ。しかしダキニは諦めんかった。再び藤井ちゃんを奪おうと、渾身の力で襲いかかってきたのじゃ。そして・・・儂はどてっ腹に穴を空けられ、ダキニは全身に怪我を負って倒れた。」
「どてっ腹に穴って・・・じいさんよく生きてたな。」
チュウベエが感心したように呟くと、「神様じゃからな」と笑った。
「しかし放っておけば致命傷になりかねん。だから沖田と藤井ちゃんを抱えて、植物園の近くにある神社へワープしてきた。
そして二人を連れたままこの植物園へやって来て、あの沼に浸かっていたというわけじゃ。」
「それで沼に埋まってたのか・・・。じゃああの沼は怪我を治す力があるってことか?」
「うむ。山の気をたっぷり吸いこんでおるからの。でも神様にしか効果はないぞ。人間が入っても溺れるだけじゃ。」
そう言ってじいさんは腹を撫でた。
「さっきお前さんたちはこう言っていたな。ダキニがたまきに化けていたと。」
「おうよ!すっかり騙されたぜ。」
マサカリが答えると、じいさんは「ふうむ・・・」と唸った。
「ダキニは儂の攻撃で致命傷を負い、動くことが出来なかったはずじゃ。
しかしそこへたまたまお前さんたちがやって来たので、たまきの姿に化けたのじゃろう。
お前さんたちはすっかり騙され、奴がダキニとも知らずに怪我を治してやった・・・・そうじゃな?」
「ああ、そうだよ。さすがは偉い神様だな、何も説明していないのに見抜くなんて。」
「話を総合すればだいたい分かることじゃ。」
俺はちょっとだけじいさんを見直した。さすがは偉い神様だけある。その目はずっとマイちゃんの太ももを見つめているけど・・・・・。
「話は分かったけどさ、どうして沖田と藤井をここへ連れて来たんだ?」
そう尋ねると、じいさんは「それはな・・・」と呟いた。
「それは三つの理由があるからじゃ。」
「三つの理由?」
「うむ。一つ目はダキニから守る為。そしてもう一つは・・・・・、」
「もう一つは?」
「・・・藤井ちゃんがタイプだったから。助けたら儂に惚れるかなと思って。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・なんじゃその目は!決してやましい下心などないぞ!」
「惚れてもらおうと思ってる時点で下心丸出しだよ!」
「そんなことはない!下心と恋心は違うのじゃ!」
「アンタの場合は一緒だよ!だいたい藤井は俺の彼女なんだ!手を出されちゃ困るんだよ!」
そう怒ると、じいさんはこの世の終わりみたいな顔をした。
「な、なんと・・・・あの可愛い子ちゃんが・・・こんなポンコツの彼女・・・・。世も末じゃな。」
「うるさいよ!いいから話を続けろ!」
じいさんはブツブツ文句を言いながら、渋々話を続けた。
「三つめの理由じゃが・・・・これは沖田という男が気になったからじゃ。」
「沖田が・・・?」
「うむ。あやつ・・・・どうも動物に対して憎しみを抱いておるようじゃ。瞳の奥に深い怒りと悲しみが見えたでな。放っておくと何をしでかすか分からん危険性がある。それはいつか周りに不幸をもたらし、自分自身が破滅するじゃろう。」
「・・・あいつは密猟をしてるんだ。過去にお袋さんを亡くしていて、それが原因で動物を憎んでる。俺は奴を捕まえる為にここまで来たんだけど、逆に藤井をさらわれてしまった・・・・。」
そう答えると、じいさんは「情けない奴じゃ」と笑った。
「彼氏のクセにロクに彼女も守れんとはの。やっぱり藤井ちゃんは儂が頂くか。」
「勝手なことを言うな!藤井は俺の彼女だ!」
「ほう・・・ならば命を懸けて助けることが出来るか?」
「命を・・・・・・?」
「お前さんは藤井ちゃんに惚れとるんじゃろう?だったら命を懸けられるかと聞いておるんじゃ。どうなんじゃ?」
「いや・・・いきなりそんなことを聞かれたって・・・・。」
唐突な質問に、思わず返事が出来なかった。するとじいさんはまた「情けないな」と笑った。
「お前さんのことはたまきから聞いておる。しかし・・・・たまきが言うほど大したタマではないようじゃな。」
「なんだって?・・・じいさんさっきもそう言ってたな。もしかしてたまきと知り合いなのか?」
「かなり昔からの友人じゃよ。あいつはいい女じゃな。美人だしスタイルもいいし、何より性格がいい。
男を見る目は厳しいが、弱い者には助力を惜しまん。特に・・・・弱いながらも前に進もうとする者にはな。」
じいさんは俺を睨んでニヤリと笑い、目の前の小川に目をやった。
「あの沖田という男は、藤井ちゃんに並々ならぬ想いを抱いておる。もし命を張る覚悟がないのなら・・・・助けることは難しいじゃろう。」
そう言ってまた俺の方を睨み、鋭い視線を飛ばしてきた。
「儂はな、普段はチャランポランじゃが、やる時はやる男じゃよ。あの沖田という男・・・・心に深い傷を抱えておる。
だからこうして出会ったのも何かの縁と思い、助けてやろうと思ったんじゃ。」
「どうしてだ?沖田は悪人なんだぞ?藤井はさらうわ、ベンジャミンっていう稲荷を利用して翔子さんをさらうわ・・・同情する価値なんかないよ。」
そう切り捨てると、じいさんは「そこじゃよ」と指をさした。
「どうして沖田がそこまで悪さをするのか・・・・よくよく考えてみればよい。心に傷を抱えた者というのは、誰かに助けを求めておるもんじゃ。しかし自分からは言い出せないから、悪さをして気を引こうとする。まあアレじゃな。男の子が好きな女の子にイタズラするのと同じじゃ。」
「好きな女の子のスカートをめくるっていうアレか?全然レベルが違うよ。誘拐までしてるんだから。」
「しかし動機は同じじゃよ。そこでだ・・・有川君よ。儂はいっちょお前さんを試してみることにする。」
「はい?俺を試す?」
「うむ。沖田と藤井ちゃんはダキニにさらわれた。これをお前さんだけで追いかけるのは難しい。だからダキニの元までは儂が連れて行ってやる。しかしその代わり、お前さんは命を懸けで藤井をちゃんを助けるのだ。どうだ?出来るか?」
じいさんは試すような目つきで笑いかけてくる。さっきからチョイチョイ俺のことを馬鹿にしているが、ここで言い返さないとさらに馬鹿にされるだろう。
「もちろんだよ。藤井の為なら何だってやってやる。」
「おお!よくぞ言った!それでこそたまきの見込んだ男じゃ。」
じいさんは満足そうに笑い、バシバシと俺の肩を叩いた。
「よいか、ダキニは今追い詰められておる。ベンジャミンが誘拐などしたせいで、奴は稲荷の長として責任を問われるじゃろう。今まで反感を持っておった稲荷どもが、一気に手の平を返すやもしれぬ。そうなれば、稲荷の間で大きな争いが起きることになるのじゃ。」
「・・・・ダキニは・・・恐れてるんだな。稲荷の長を追われること、そしてじいさんのことを・・・。」
「奴は元々妖怪じゃからな。この国へ来てから神様の地位を得たが、それまでは無法者の妖怪、皆に嫌われておったわ。
しかし内に秘めたる力は大きい。だから同じキツネとして、奴に稲荷の長を任せることにしたのじゃ。そして・・・・その選択は間違っておらなんだと信じておる。奴は確かに身勝手なところはあるが、それでも長らく稲荷を纏めてきた。だからこの先も稲荷の長を任せるつもりじゃ。」
じいさんはとても優しい目でそう言った。元稲荷の長として、これからの稲荷の未来を憂いているようだった。
「だから・・・何としても藤井ちゃんを助けてやってくれ。そして沖田も救ってやるのじゃ。そうすることで、もしかしたらベンジャミンもお前さんの友達を解放するやもしれぬ。」
「どうしてそんなことが言えるんだ?」
「どうしてとな?その理由はお前さんが一番よく知っておるはずじゃ。なぜなら・・・沖田を利用してベンジャミンを救うつもりでいたのじゃろう?」
「な・・・なんでそのことを!?あんたまさか・・・・人の心まで読めるのか?」
驚きながらそう尋ねると、「がはは!」笑われた。
「お前さんはこう考えているんじゃろう?沖田を捕まえ、そしてベンジャミンの前に連れて行って謝らせる。密猟などして悪かったと・・・・。ベンジャミンは人間によって愛しい者を殺された。それが原因で人間を憎み、復讐を果たす為にあのような行為に及んでおる。しかし沖田のような密猟者が心から謝ることが出来たなら、ベンジャミンの人間に対する印象は変わるかもしれない。奴は根っからの悪者ではないから、沖田が本気で謝罪すれば、きっとその気持ちは通じるはずだと・・・・違うか?」
「・・・当たってるよ。ベンジャミンは稲荷の長になって、人間に復讐するつもりでいる。それをやめさせるには、人間に対しての憎しみを取り払うしかないから・・・・。」
「そうじゃな。ならば藤井ちゃんだけでなく、沖田も救ってやらねばなるまい?それも心の方をな。そうでなければ、沖田は心からベンジャミンに謝るなんてことはせんだろう。」
じいさんは諭すように言い、後ろで手を組みながら大木を見上げた。
「しかし・・・・もし失敗すれば、ベンジャミンはお前さんの友達を殺すだろう。そうなれば、儂はベンジャミンに制裁を加える必要がある。奴に厳しい罰を与え、普通のキツネに戻して野に返すじゃろうな。それにダキニにも稲荷の長を退いてもらわねばならん。奴は稲荷を追われ、元の妖怪に戻って悪さを働くじゃろう。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「もしそうなった時・・・・儂は容赦はせん。この国を守る神獣として、奴を完膚無きまでに叩き潰すじゃろう。」
そう語るじいさんの声には迫力があった。ただのエロじじいとは違う、殺気の漲る声だった・・・。
「よいか有川君。君の肩には大勢の者の運命が懸っておる。藤井ちゃん、沖田、それにベンジャミンとダキニじゃ。君が命を懸けて戦わねば、到底皆の運命は守れまい。酷なようじゃが・・・・その責務、しっかりと果たせるかどうか、この目で見届けさせてもらう。」
じいさんは怖い顔で俺を睨み、ギラリと目を光らせた。その時一瞬だけ恐ろしい獣の顔が見えて、ゾクリと肝が冷えた。
「・・・・やるよ。俺は色んな人と約束したんだ。藤井、たまき、それにアカリさん・・・・。みんな俺のことを信用してくれている。だから・・・じいさんの言った責務ってやつを、必ず果たしてみせる。」
「うむ、その意気じゃ。」
じいさんはニコリと微笑み、マサカリたちの方を向いた。
「ダキニはきっと自分の社に逃げたじゃろう。今からそこへ行くわけじゃが・・・・ここにいる全員を連れて行くわけにはいかん。奴の社は危険じゃからな。有川君が必要だと思う者だけを連れて行くことにする。」
そう言って俺の方を見つめ、「さて、誰をお供にするんじゃ?」と尋ねた。
するとモンブランが「はいはい!私は行くわよ!」と手を挙げた。
「悠一のお供といえばモンブランと決まってるの。他のへなちょこどもはここでバッタでも食べてればいいわ。」
そう言うと、「おうおうおう!待てやコラ!」とマサカリが吠えた。
「誰がバッタなんか食ってられるか!俺だって悠一と一緒に行くぜ!」
「ブルドッグなんかいらないわよ。邪魔なだけじゃない。」
「んだとお・・・・猫よりゃマシだ!お前はその辺でクソでもしてろ!」
「下品なこと言わないでよ!汚いのは顔だけにしときなさいよ、このデブ犬!」
「ああ〜ん!誰がデブだ!ぽっちゃり体型と言え!」
モンブランとマサカリが醜く争っていると、カモンが「俺も行くぞ」と胸ポケットに登ってきた。
「このアホ二匹じゃ心許ないからな。頭の切れる奴が必要だろ?」
そう言ってカッコをつけると、チュウベエが「げっ歯類の脳ミソじゃたかが知れてる」と笑った。
「ここは俺の出番だ。なんたって有川家で一番頼りになるのが俺だからな。」
「ほざけ鳥頭!オカメインコはバッタでも食ってろ!」
「ひまわりの種を頬張る奴に言われたくない。お前こそオガクズの中で眠ってろ、ほっぺにひまわりの種を詰めてな。」
「んだとお〜・・・・そのオカメ模様に歯形を付けてやる!」
こっちはこっちでケンカが始まり、それを見たマリナが「はあ・・・バカな子たちねえ」とため息をついた。
「ねえ悠一、みんな連れて行ってあげればいいじゃない。だってみんな藤井さんのことが好きなんだもの。力になりたいのよ。」
そう言ってウィンクを飛ばし、よじよじと登ってきて首に巻き付いた。
「・・・・そうだな。みんないつだって一緒だったんだ。全員で藤井を助けに行くか?」
俺はみんなを見渡し、「ケンカするな!力を合わせないと藤井を助けられないぞ」と言った。
「みんなで行こう。きっと藤井もそれを待ってる。」
そう言うとピタリとケンカをやめ、ササッと俺の傍に寄ってきた。
「悠一軍団・・・久々の全員出動ね。」
モンブランが言うと、みんなから「なんだそれ?」と突っ込まれていた。
「じいさん、今聞いたとおりだ。俺は動物たちを連れて行く。」
「そうか。ならば他の者はここに置いて行ってよいな?」
「ああ、また後で迎えに来るよ。」
そう言ってマイちゃんたちの方を見つめ、「ごめん、悪いけどここで待っててくれ」と言った。
「後で必ず迎えに来る。だから・・・・ちょっと行ってくるわ、藤井の所に。」
するとマイちゃんはノズチ君を抱きしめ、「分かった」と頷いた。
「でも気をつけてね・・・・きっと無事に帰って来てよ。」
「うん、約束する。」
俺はマイちゃんの頭を撫で、ノズチ君と坂田にも頷きかけた。
「ちょっと時間がかかるかもしれないけど・・・・ここで待っててくれよな。」
そう言うと、ノズチ君は「へん!」と悪態をついた。
「ポンコツに期待なんかしてねえよ!けど・・・・藤井は絶対に助けて来い。そうでなきゃケツをすり潰すぜ。」
「お前は相変わらずだな・・・・。」
苦笑いをしながら頷くと、坂田も「気とつけてな」と言った。
「もし沖田を捕まえたら、俺はアイツの悪事を証言するよ。きっと俺も捕まるだろうけど、もうアイツとの関係は終わりにしなきゃいけない。だから・・・・必ず沖田を連れて来てくれ、頼んだぞ。」
「ああ、任せといてくれ。」
残る者たちに別れを告げ、俺はじいさんの前に立った。
「さあ、いつでもいいぞ。ダキニの元へ連れて行ってくれ。」
「うむ、ではとりあえず近くの神社まで行こう。儂が運んでやるからしっかり掴まっておけ。」
そう言ってじいさんは「むん!」と唸った。すると一瞬にして巨大なキツネに変わり、立派な顎髭を揺らした。
「でけえ・・・・まるで恐竜みたいだ・・・・。」
動物たちは息を飲んでじいさんを見上げた。俺もその迫力に圧倒され、何も言葉が出てこなかった・・・。
いつか見た実物大のティラノサウルスの模型よりも大きく、しかも全身の毛が金色に光り輝いている。
それに口からは大剣のような牙がはみ出していて、手足の先には俺の腕より太い爪が並んでいた。
《こりゃあもう怪獣だな・・・・。キツネっていうより猛獣みたいな顔をしているし、何より眼光が凄い・・・・・。》
稲荷の姿になったじいさんは、これまた巨大な尻尾で俺たちを包んだ。そして「行くぞ・・・」と言った次の瞬間、とんでもない速さで駆け出した。
「ぬううああああああああ!落ちるううううううう!」
俺は必死にじいさんの尻尾にしがみつく。あまりの速さに目も開けられず、まるで自分が風になったような感覚だった。
じいさんは俺たちが落っこちないように尻尾で包んでくれているが、それでも怖いことに変わりはない。
もし何の安全装置もなしにジェットコースターに乗り込んだから、きっとこういう感じになるのだろう。
《怖いよお・・・早く着いてくれ!》
・・・・じいさんは駆ける。風より早く、そして鳥のように舞いながら・・・・。
気がつけばほんの数秒で神社の前まで来ていて、そのまま鳥居の方に向かって行った。
「ちょ・・・ちょっとじいさん!あんたの巨体じゃ鳥居を潜れないよ!」
「いや、問題ない。」
じいさんはそのまま鳥居に突っ込む。しかしぶつかると思った次の瞬間、鳥居がグンと大きくなって、じいさんが通れるサイズになった。
「すげえ・・・・・。」
俺たちはじいさんと一緒に鳥居を潜り、ワープゾーンを通って別の場所に出た。
そこはダキニの神社の庭だった。以前来た時と同じように、大きな本殿がそびえている。
「着いたぞい。」
じいさんは俺たちを下ろし、社に向かって吠えた。
「おい!誰かおらんか!?」
そう叫ぶと、社の中から一匹の稲荷が出て来た。
「誰だ?馬鹿でかい声を出してるのは?」
出て来た稲荷は不機嫌そうに顔をしかめる。そして・・・俺はその顔に見覚えがあった。
「ああ!お前はツムギじゃないか!」
「あんたは・・・有川じゃないか!どうしてこんな所に・・・・・、」
そう言いかけた時、ツムギは言葉を失って固まった。そしてじいさんの前に駆けより、サッとひれ伏した。
「お・・・お久しぶりでございます!白髭様!」
「ツムギか、久しぶりじゃの。元気にやっとるか?」
「は・・・はい!それはもう元気にしております、ええ!」
「そう畏まるな。ダキニに会いたいんじゃが、ここにおるのはお前だけか?」
「は・・・はい!・・・・いや、違います・・・・。」
「どっちなんじゃ、ハッキリせい。」
「ええっと・・・・それはその・・・・何と言いますか・・・その・・・・。」
ツムギは困り果てたように言葉を濁す。するとじいさんは「口止めされとるな?」と笑った。
「中にダキニがおるんじゃろう?そして誰も通すなと言われておるはずじゃ。」
「・・・・う・・・いや・・・それは・・・・・、」
「無理に答えんでもよい。お前はダキニに懐いとるからな、アイツを裏切るような真似は出来まい。」
「・・・・すみません・・・・どうかお許しを・・・・。」
ツムギは子猫のように丸くなり、ただただじいさんに怯えていた。まあこの迫力の前じゃ無理もないけど。
じいさんはツムギの横を通り、「中に入るぞ」と言った。
「え?いや・・・それはその・・・・、」
「まあまあ、気にするな。お前は外で待っておれ。」
ツムギはオロオロと困り果て、俺の元に駆け寄って来た。
「おい有川!いったいどうなってるんだ!?」
「どうって言われても・・・ダキニを追いかけて来たんだよ。」
「お前なあ・・・・あの御方が誰だか分かってるのか?」
「知ってるよ、若い女の子が好きなエロじじいだ。」
「こ・・・コラ!なんてことを・・・・、」
ツムギは慌てて俺の口を塞ぐ。そして顔を寄せてこう言った。
「・・・・頼むから帰ってくれないか?誰もこの中に入れるなとダキニ様に言われているんだ・・・・。」
「そうか、じゃあじいさんに直接言ってくれ。」
「言えるわけがないだろう!僕みたいな若い稲荷が、おいそれと口を利ける御方じゃないんだ・・・・。」
「でももう中へ入って行っちゃったぞ。」
「な・・・なにい!?」
じいさんは大きな尻尾を振りながら、扉を潜って社の中へと消えていった。
「な・・・なんてこった・・・・・。誰も入れるなと言われているのに・・・・。」
ツムギはその場に立ち尽くし、ブルブルと震えていた。
「それじゃそういうことなんで、俺たちもちょっとお邪魔しますよ。」
震えるツムギの肩を叩き、俺たちも社に向かった。
そして中に入る前にチラリと振り返ると、ツムギはこの世の終わりみたいな顔で放心していた。
「俺・・・・今度こそ首が飛ぶな・・・・・。」
気の毒な彼を尻目に、じいさんを追って神社の中へ入っていった。

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