勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第四十一話 天を突く光(2)

  • 2014.12.08 Monday
  • 12:49
JUGEMテーマ:自作小説
ここはダキニの神社。しかも本殿の中だ。
神社の中に入るのなんて初めてだった。それも稲荷が住んでいる神社になんて・・・・。
中は薄暗い和室で、奥には祭壇があった。
大きな稲荷の像が鎮座し、周りを注連縄で囲ってある。
そして稲荷象の前には鏡が置かれていて、その下には呪符のような物がぶら下がっていた。
「なんか不気味ね・・・お化けでも出そう・・・。」
モンブランがそう呟くと、どこからか声が響いた。
「有川君、何をしておる?早くこっちに来い。」
「ん?これはじいさんの声・・・。どこにいるんだ?」
「ここじゃよ、鏡を覗いてみい。」
「ん?鏡?」
そう言われて鏡を覗くと、そこにはじいさんが映っていた。
「なんで鏡の中にいるんだよ!?」
「ここもワープゾーンと同じじゃよ。そのまま前に進めばこっちに来られる。」
「ホントかよ・・・・。」
疑わしく思いながら、ちょっとだけ前に進んだ。すると波紋のように空間が歪み、慌てて下がった。
「いちいちビビるでない。ダキニはこの先におる。早く来い。」
「分かってるよ・・・・ちょっと驚いただけだ。」
俺は息を整え、動物たちを見渡した。
「よし!それじゃ行くぞお前ら・・・・、」
「お先!」
「俺も!」
「待て待てい!俺より先に行くんじゃねえ!」
モンブラン、チュウベエ、そしてマサカリが俺を置いて行ってしまった・・・。
「おいコラ!早く行け!」
「そうよ!藤井さんの為に命を懸けるんでしょう!」
カモンに殴られ、マリナに噛みつかれ、「分かってるよ!」と叫んだ。
俺は鏡の前に立ち、思い切って飛び込んだ。
するとワープする時と同じように、激しい風が走った。そしてすぐに別の場所に出て、グルリと辺りを見渡した。
「ここは・・・山の中?」
辺りは深い森に覆われていて、鷹が空を飛んでいた。
近くに綺麗な沢が流れていて、気持ちの良い風がそよいでいる。
「どこなんだここは?」
そう首を捻ると、いきなりじいさんが現れた。
「うお!いきなり出て来るなよ・・・・。」
「だからいちいちビビるではい。ここは長野の山奥じゃ。」
「はあ・・・?長野?」
「ここにはダキニの別荘があるんじゃよ。ほれ、後ろに小さな社があるじゃろう?」
そう言われて振り向くと、そこには小さな社があった。俺の背丈の半分くらいの大きさで、小さな赤い鳥居が立っている。
「この山には、ダキニに忠誠を誓った稲荷たちがおる。しかしまあ・・・それはたまきがやっつけとるじゃろう。」
「へ?たまきが・・・?」
「そうじゃよ。そもそも儂がダキニの元に出向いたのは、たまきに頼まれたのがキッカケじゃ。たまきはベンジャミンのことで、ダキニの元に話し合いに向かった。しかしまったく聞く耳を持とうとしないので、儂の所に相談に来たんじゃ。」
「そ・・・そうなの?」
「たまきは儂に会いに来た後、ここへやって来た。」
「どうして?」
「儂とダキニが戦いになった時、奴の部下に邪魔をされては困るからな。だからたまきがここへ乗り込み、ダキニの部下どもに睨みを利かせておったわけじゃ。でもまあ・・・どうせダキニの部下のことじゃ。たまきに襲いかかり、逆に返り討ちに遭っておるじゃろう。」
「・・・・たまきって・・・強いんだな?」
「うむ。奴も神獣の類じゃからな。元々は中国におるセンリという神で、猫が神格化された存在じゃ。大陸におる時から、ダキニとたまきは仲が悪かったそうじゃ。」
「なるほど・・・昔っからの腐れ縁ってやつか。」
「まあそういうことじゃな。さて、ゴタクはこれくらいにしよう。
ここから少し歩いた所に、あの植物園と同じような沼がある。きっとダキニはそこにいるはずじゃ。」
そう言ってじいさんはノシノシと歩いて行った。
「いよいよご対面ね・・・悠一!ビビっちゃダメよ!」
モンブランに励まされ、「分かってる」と頷いた。
「うんうん、足は震えてるけど、気持ちはあるみたいね。」
そう言ってトコトコと歩き出し、「早く」と急かした。
俺は覚悟を決め、「よっしゃ!」と頬を叩いた。そして動物たちと並んで、じいさんの後をついて行った。
「ねえ悠一、ちょっと勇気の出る話をしてあげましょうか?」
モンブランがニヤニヤしながら俺を振り返る。
「勇気の出る話?・・・いや、別にいいかな。」
「そう言わずに聞きなさいよ。」
モンブランは不満そうに俺の足を叩き、勝手に喋りはじめた。
「私が沖田のバッグに入って尾行した時のことなんだけどね。」
「それは尾行とは言わない。」
「いいから黙って聞いてよ!あの後さ、バッグの外から二人の会話が聞こえたのよ。」
「二人って・・・沖田と藤井のか?」
「そうよ。あのおじいさんも言っていたけど、沖田って心から藤井さんに惚れ切ってるみたいでね。悠一と別れて、俺の元へ戻って来てくれって頼んでたの。」
「な、なんだって!沖田の野郎・・・・俺のいない間にそんなことを!」
「もし俺の元に戻って来てくれるなら、密猟だってやめるし、ベンジャミンを説得して翔子さんを解放するって。だからもう一度お前とやり直して、ゆくゆくは家庭を持ちたいって言ってた。」
「か・・・家庭だと!アイツ・・・藤井をさらっておいてよくもぬけぬけと・・・。」
胸の中に怒りが燃え、今すぐにでも沖田をぶん殴りたくなった。
震えていた足はおさまり、早く沖田に会いたくなる。あの面をぶっ飛ばす為に・・・・。
「ありがとうモンブラン。おかげで震えが止まったよ。」
そう言うと、モンブランは「そうじゃないのよ」と首を振った。
「まだ先があるの。」
「先?」
「沖田はポロポーズとも取れる言葉で気持ちを伝えた。でも・・・藤井さんは断固として拒否したの。なんでか分かる?」
「そんなもん決まってるだろ。沖田のことが嫌いだからだ。アイツは密猟者だし、しかも藤井をさらった。そんなんでポロポーズしても、OKするわけないだろ。」
「まあそれもそうだけど、でも藤井さんの断り文句はそうじゃなかった。藤井さんはこう言って断ったのよ。『私には悠ちゃんがいる!だから絶対に沖田君の所へは戻らない!』・・・ってね。」
モンブランは藤井の声マネをしながら言った。そしてさらにこう続ける。
「私と悠ちゃんには、誰にも代えられない絆がある。だからきっと悠ちゃんは助けに来てくれる。私は彼を信じてる・・・・。
どう?ここまで言われたら、ビクビクしてはいられないでしょ?」
「・・・・・・・・・・・。」
「なんで黙ってるのよ!何とか言ったら?」
「・・・・いや、なんか胸が熱くなっちゃって・・・。さっきは怒りで熱かったけど、今は別の熱さというか・・・・。」
胸が熱い・・・。怒りではなく、もっと違った熱さが胸を満たしている。俺は・・・この熱さを知っているぞ。
これは・・・かつて藤井に告白した時と同じ熱さだ。気弱な俺が、力を振り絞って告白した時の・・・、
「勇気ね。」
モンブランはニヤリと笑った。
「私のおかげで勇気が出たでしょ?」
「・・・・そうだな。なんか懐かしい気分だよ。」
「じゃあもうビビったりしない?」
「ああ、もう何にも怖くな・・・・・、」
そう言いかけた時、後ろから「ウォン!」と吠えられた。
「な・・・なんだ?」
「だはははは!ビビってやんの!カッコつけた後すぐにビビってやんの!ダサいぞ悠一!」
「マサカリ・・・・ガキみたいなことしてんじゃねえよ!」
「なんでい!ビビらないって言ったのはお前だろ!」
「ビビるとビックリするのじゃ違うだろ!こんな時にふざけるな!」
マサカリの肉を引っ張りながら争っていると、じいさんが「うるさいぞ」と怒った。
「もうじき沼が見えてくる。ケンカしておる場合でないぞ。」
じいさんの言うとおり、少し先には沼があった。
かなり大きな沼で、周りを木立に囲まれている。そしてその中に人影が見えた。
「誰かいるな・・・・もしかしてダキニか?」
人影は三つある。そのうちの一つは沼に浸かっていて、他の二つはその傍に立っていた。
息を殺して近づくと、その姿がハッキリと見えた。
沼に浸かっているのはダキニだ。そして傍に立つ二人は沖田と藤井。
ダキニは温泉にでも浸かるようにリラックスしていて、美しいその顔を微笑ませていた。
「あれが人間の姿のダキニ・・・たまきに負けず劣らずの美人だな。」
ダキニは美しい顔をしていた。吊り上がった目が気の強い印象を与えるが、顔立ちは整っている。
金色の髪がサラリと伸び、瞳は赤く染まっていた。
「悠一、もしかして見惚れてる?」
モンブランに言われ、「そんなわけないだろ」と答えた。
「いったい何をしてるんだろうと思っただけだ。アイツの怪我は文江さんが治したのに、どうして沼に浸かる必要があるんだろうって。」
そう呟くと、じいさんが「力を溜めておるんじゃ」と答えた。
「ダキニは儂が追って来ることを予想しとる。だからあの沼から力を吸い取り、儂と戦うつもりでいるんじゃ。」
「マジかよ・・・。じゃあダキニはパワーアップしちゃうじゃないか。じいさんは勝てるのか?」
「さあのお・・・・やってみなければ分からんが、最善は尽くすつもりじゃ。」
「なんか頼りないな。もし負けたらどうする?」
「お前さんは本当にビビりな男じゃな。やる前から負けることを考えてどうする?」
「いや・・・だってもしじいさんが負けちゃったら、俺たちだけじゃどうしようもないから・・・・。」
「そんなもん気にするな。儂には儂の仕事が、お前さんにはお前さんの仕事がある。儂はダキニを、お前さんは沖田を。そうじゃろう?」
じいさんはニコリと笑い、「それにもしもの時はたまきがおる」と言った。
「儂が負けたら、たまきがどうにかしてくれるじゃろう。だから不安になるな。」
「たまきか・・・・。そうだよな、アイツがいるなら大丈夫だ。」
たまきなら何とかしてくれる。その意見には俺も賛成だ。
じいさんは大きな尻尾を伸ばし、俺たちを包んだ。
「では行くぞ!儂はダキニを、お前さんは沖田を狙え!くれぐれも藤井ちゃんが傷つかんようにな。」
「分かってる。お前ら・・・しっかり頼んだぞ!」
動物たちに言うと、全員が「ラジャ!」と敬礼した。
そして次の瞬間、じいさんは高く飛び上がった。
「ダキニいいいいい!覚悟せいいいいいい!」
じいさんの巨体がダキニを襲う。俺たちはポイっと投げ出され、沼の傍に落っこちた。
「痛ッ!」
着地を失敗してお尻から落ちる。「痛ててて・・・」とお尻を撫でていると、こめかみに何かが突きつけられた。
「・・・有川・・・・やっぱり追って来たか・・・。」
「沖田・・・・。」
沖田は俺のこめかみに銃を突きつけていた。その隣では藤井が捕まえられていて、「悠ちゃん!」と叫んだ。
「やめて沖田君!」
「やめない。コイツがいるから藤井は戻って来ないんだ。」
「そういうことじゃないでしょ!いいから銃をどけてよ!」
藤井は沖田の手を振り払い、銃を奪おうとした。しかし沖田はビクともしない。
それどころか藤井を抱き寄せ、強引に唇を重ねた。
「んん!!」
「てめえ!何やってんだ!」
頭がカッと熱くなり、銃を払って殴りかかった。
しかしアッサリとかわされ、すれ違いざまにひざ蹴りを入れられた。
「ぐッ!・・・・。」
「そんなパンチ食らうわけねえだろ。」
そう言って思い切り俺の頭を蹴り飛ばした。
「悠ちゃん!」
頭がクラクラする・・・・。蹴られた額から血が流れ、目に入って視界がぼやけた。
それでも寝ているわけにはいかない。目に入った血を拭い、沖田を睨みつけた。
「藤井・・・・今助けてやるからな。」
そう言って身体を起こすと、目の前に銃を突きつけられた。
「有川・・・藤井は渡さない。お前はここで死ね。」
「何言ってやがる。俺を殺したら殺人だぞ?いくらお前の親父でも庇ってもらえない。」
「いいや、問題ない。ダキニが俺に味方してくれるからな。」
「なんだって?どういうことだ!?」
「利害の一致だよ。俺は藤井が欲しい、だからお前を消す。そしてダキニは俺を利用し、ベンジャミンを殺しに行く。俺はダキニに利用されてやる代わりに、お前を殺したことを揉み消してもらう。それだけさ。」
「はあ?お前を利用してベンジャミンを殺しに行くだって・・・?」
「ああ。ベンジャミンは人間を憎んでいるんだ。だから俺みたいな密猟者が心から謝るフリをすれば、きっと心を許すだろう。
そして外へ出て来たところをダキニが殺す。そうすれば翔子とかいう女は無事に助かるから、ダキニは責任を問われずに済むってわけだ。簡単な利害の一致だろう?」
「・・・・・・・・・・・・。」
なんてこった・・・。沖田は俺が考えていたことと同じことを企んでいやがったのか。
もしそうなら、俺はここで殺される。そうすれば藤井は沖田から逃げられないわけで、ええっと・・・ええっと・・・どうしよう・・・・。
「ははは!困ってるな有川!どうせアレだろ?俺を捕まえてベンジャミンに謝らせようとか考えていたんだろ?」
「う・・・それは・・・・。」
「図星かよ。単純にも程があるだろ。」
沖田また俺の顔を蹴り飛ばした。俺は大の字に倒れ込み、顎を押さえてうずくまった。
「なあ有川・・・・藤井はお前なんかにはもったいない女だ。コイツは本当に良い女だぞ。見かけが綺麗な女はいくらでもいるけど、中身は腐ってやがる奴が多い。でも藤井は違う!コイツは俺のママと同じように、汚れの無い心を持っている。だから俺の新しいママになってくれるかもしれないんだ!」
「この・・・・ただのマザコン野郎じゃねえか・・・・・。」
「そうだよ、マザコンで悪いか?そもそも男が女を求めるのは、母性に飢えてるからだ。この世にマザコンじゃない男なんていない!シスコンだってロリコンだって、全部マザコンと一緒なんだ!お前だってそうだろう?藤井の中の母性に惹かれてるはずだ。なら俺とお前の何が違う?言ってみろこの野郎!!」
沖田は俺の脇腹を蹴り飛ばす。強烈なキックがめり込み、息が出来ないほど苦しくなった。
「悠ちゃん!」
「藤井・・・・・。」
藤井は沖田の腕を振り払おうとするが、やはりビクともしない。「離してよ!」とビンタをしたが、逆に喜んでいるだけだった。
「ママに叩かれた時のことを思い出す・・・・もっと叱ってくれ・・・。」
そう言って藤井を抱きしめる。そしてまた唇を重ねようとした。
「イヤ!やめて!」
「どうして?一緒に仕事をしている時はよくキスをしたじゃないか。身体だって許してくれただろう?」
そう言って俺の方を見てニヤリと笑う。
「ウソ!そんなことさせてない!悠ちゃん!こんなの全部デタラメだからね!」
「分かってるよ・・・・そんなの真に受けるわけないだろ・・・・。」
藤井は顔をゆがめて泣きそうになっている。もし本気で藤井が好きなら、どうして傷つけるような真似をする?
沖田は藤井が好きなわけじゃない。今でも死んだ母の面影を追いかけているだけだ・・・。
「おいマザコン野郎・・・・さっさと俺の女を放せよ・・・・。」
「いいや、俺の女だ。」
沖田はまた俺を蹴り飛ばす。今度はこめかみにヒットし、グラグラと意識が揺らいだ。
《ああ・・・これヤバイ・・・・。》
足元が震え、立ち上がることすらままならない。沖田はそんな俺を見てニヤリと笑い、また藤井を抱き寄せた。
「なあ藤井・・・有川に死んで欲しくないよな?」
そう言われた藤井は、怒りのこもった目で沖田を睨んだ。
「もし・・・もしお前が戻って来てくれるなら、有川を見逃してやってもいい。どうだ?」
沖田は満面の笑みでそう問いかける。藤井は唇を噛んで悔しがっていたが、やがてふっと力を抜いた。
「ほんと・・・・?ほんとに悠ちゃんを助けてくれるの?」
「約束する。俺がお前との約束を破ったことなんてないだろ?」
「・・・・・・・・・。」
「俺はな、もう密猟なんて遊びは終わりにするつもりでいたんだ。だから全ての罪を坂田たちになすりつけ、お前と一緒にペット探偵を続けたいと思ってる。」
「ウソ!私に罪をなすりつけるつもりだったんでしょ?」
「そんなわけないだろ。お前は何があっても守る。その為なら坂田たちなんて下らない犠牲だよ。だから俺と一緒になろう・・・。そうすれば有川は助けてやるから。」
沖田は優しい笑顔でそう言った。藤井はしばらく迷っていたが、やがて「分かった・・・」と頷いた。
「藤井!そんなのウソに決まってるだろ!」
「悠ちゃん・・・・。このままだと本当に殺されるよ。だから・・・ごめんなさい・・・。」
「藤井・・・・。」
藤井は悲しそうに俯く。それを見た沖田は「交渉成立だ」と笑い、その場に藤井を押し倒した。
「ちょ・・・ちょっと!」
「藤井・・・もうお前は俺のママだろ?だから有川に見せつけてやろう。俺とお前の愛情を・・・。」
そう言って藤井に覆いかぶさり、強引にその身体を奪おうとした。
「やめて!私はママなんでしょ!?だったらこんなことしないで!」
「いいや、ママだけど血は繋がっていない。だから抱いたって問題ないよ。」
沖田は藤井の服に手を掛け、今にも行為に及ぼうとしていた。そして俺の方を見て、勝ち誇ったように笑った。
「いやあ!悠ちゃん!」
「藤井!やめろこの野郎!」
沖田はわざとこんなことをしている。藤井は自分のものだと見せつける為に、平気で彼女を傷つけよとしている。
《やっぱりコイツは藤井のことが好きなんじゃない!ただのマザコン変態野郎だ!!》
このままでは藤井が傷つく。しかし助けようにも足が立たない。
沖田の強烈な蹴りは、俺の身体から自由を奪っていた。
「はははは!そこでじっと見てろ!俺と藤井が結ばれる瞬間をな。」
「沖田・・・・いい加減しろよこの野郎・・・・。」
怒りはいくらでも湧いて来るが、立ち上がる力は湧いてこない。
「・・・やめて・・・・お願いだから・・・・。」
藤井は必死に助けを求める。俺は震える足を叩き、何とか立ち上がった。
しかし・・・その時だった。沖田は突然「いぎゃあ!」と叫んだ。
「な・・なんだこの犬は!」
「グウウウ・・・・・・。」
マサカリは足を震わせながらも、その牙を沖田のケツに突き立てていた。
そしてブンブンと首を振り、さらに牙を食い込ませていく。
「このクソ犬があ!」
沖田は銃を掴もうと手を伸ばす。しかし「あれ?」と呟いて辺りを見渡した。
「こ・・・コラ!そこのイグアナ!俺の銃を返せ!」
「・・・・・イヤ。」
マリナはニコリと笑い、銃を咥えたまま逃げていく。すると今度はモンブランが沖田の前に立ち、ニコリと微笑んだ。
「なんだこの猫・・・・って、痛だあ!!」
モンブランの爪が沖田の顔を抉る。
「この最低男!藤井さんから離れなさい!!」
目にも止まらぬモンブランの爪が、沖田の顔を傷だらけにしていく。
「痛だだだだだ!!・・・お・・・お前ら・・・・殺してやる!」
沖田は立ち上がり、尻に噛みつくマサカリを投げ飛ばした。
「ぎゃあ!」
「このクソ犬め・・・・死ね!」
そう言ってマサカリを蹴り飛ばそうとした時、沖田の顔に何かが降ってきた。
「な・・・なんだこの白いのは・・・・・。」
「俺の糞だ。ありがたくもらっとけ。」
「い・・・インコ?」
一瞬固まる沖田。チュウベエはニヤリと笑い、足に掴んでいたカモンを投下した。
「このマザコンクソ野郎!俺の拳法を食らいやがれ!」
カモンはカンフーのように拳を構えて、「ほあたあ!」と目を突いた。
「ぎゃあああ!何をするこのネズミ!」
沖田は目を押さえながら手を振る。カモンはヒラリとそれをかわし、「とう!」と飛び上がった。
「チュウベエ!」
「はいさ!」
チュウベエはクルリと旋回し、見事にカモンをキャッチした。そしてまた糞を落としていく。
「や〜いや〜い!ウンコまみれのマザコン野郎!!悔しかったら追いかけて来い!」
「な・・・なんなんだコイツらは・・・・人間様を馬鹿にしやがって・・・・。」
沖田は怒りで震える。そして石を掴んで投げようとした。
「このインコとネズミめ!串刺しにして殺してやる!」
そう叫んで石を投げようとした時、「ダメ!」と藤井が飛び付いた。
咄嗟のタックルが見事に決まり、沖田は頭から倒れていった。
「痛ッ!」
「動物たちに手を出さないで!」
藤井は馬乗りになり、ポコポコと沖田を殴る。う〜ん・・・やっぱりこいつは動物のこととなると目の色が変わる・・・。
「藤井!どうして俺を殴る?早くどけ。」
「どかない!動物たちは私が守ってみせる!」
「いいから早くどけ!」
沖田は軽々と藤井を抱え、そっと脇に下ろした。
「みんな逃げて!」
藤井は叫ぶが、動物たちは逃げない。それどころか戦う気満々で向かって行った。
「藤井さんが好きなら、傷つけるようなマネするんじゃないわよ!」
モンブランが正面から飛びかかる。しかし沖田はアッサリとかわし、モンブランを殴りつけた。
「ぎゃん!」
「このクソ猫が・・・・よくも人の顔を・・・・。」
そう言って鬼の形相でモンブランを踏みつけ、思い切り蹴り飛ばした。
「ぎゃふ!」
モンブランは血を吐きながら飛んでいく。そしてポトリと落ちて、まったく動かなくなってしまった。
「いやあ!モンブラン!」
藤井は慌てて助けようとしたが、沖田がそれを許さなかった。
「あんな猫はどうでもいい。さっきの続きをしよう・・・・。」
「イヤ!離してよ!!」
「離さない。有川を助けたいんだろう?だったら大人しくしろ!」
「イヤだ・・・・もうやめて!」
動かなくなったモンブランに、傷つけられようとしている藤井。
人間というのは辛い現実に直面した時、理性が吹き飛んで痛みさえ忘れる。
俺は拳を握って駆け出し、「沖田ああああああ!」と叫んでいた。
「有川・・・・素人が俺に勝てるかよ。」
身体が熱い・・・拳に力が入る・・・。目の前に沖田が迫り、振り上げた拳で殴りつけた・・・・・つもりだった。
《なんだ!?》
殴りかかったその瞬間、逆に俺が抑え込まれていた。うつぶせに転がされ、腕を極められている。
「誰があんなテレフォンパンチを食らうか。この腕を折ってやる。」
「あだああああ!」
肘の関節に激痛が走り、今にも折れそうなほど締め上げられた。
「もうやめて!お願いだから!」
藤井は沖田を止めようとするが、非力なその腕では何も出来ない。
俺の腕はもう限界に達し、痛みのあまり気を失いそうだった。
「いやあ!誰か助けてええええ!!」
藤井の叫びがこだまする・・・・。悲痛な叫びは山じゅうに響き渡ったが、誰も助けに来なかった。
もう腕がもたない・・・・吐き気を催すほどの痛みが、意識を奪っていく・・・・。
動物たちが沖田に飛びかかるが、もはや気にもとめていない。このマザコン野郎は、ただ俺の腕を折るつもりでいた。
そしてその後は・・・・きっと殺されるだろう・・・・。
《モンブラン・・・藤井・・・・。誰か・・・・誰でもいいからこいつらを助けてやってくれえええ!》
消えかかる意識の中で、心の底からそう叫んだ。
しかしその時、ふと腕が楽になった・・・・。痛みはあるが、もう腕は極められていなういようだ・・・。
《なんだ・・・どうしたんだいったい・・・・。》
腕を押さえながら立ち上がると、沖田が顔を押さえながら倒れていた。しかも覆った手の隙間から血を流している・・・。
「何があったんだ・・・・?」
痛む腕を我慢しながら、ゆっくりと近づく。するとそこには、引きつった顔で何かを握りしめる藤井がいた。
「藤井・・・・お前がやったのか・・・?」
「・・・・・・・・・・。」
藤井の顔はまだ引きつっている。俺は手を伸ばし、そっと藤井の肩を抱いた。
「おい、しっかりしろ!」
「・・・・え?ああ・・・・。」
「お前が沖田をやったのか?」
「え?わ・・・分からない・・・・・。気がついたら・・・これを握って・・・沖田君を殴ってた・・・。」
そう言って藤井は手の中の物を見せる。
「これは・・・・文江さんが渡してくれた十字架じゃないか!」
銀に輝く十字架が、赤く汚れて血を垂らしていた。
「そうか・・・俺の首からこれを取って・・・・・。」
藤井の手からそっと十字架を取り、手の中に握りしめた。
「ありがとうな、藤井・・・・。おかげで助かったよ。」
「・・・・う・・うん!でも・・・それよりモンブランが!」
「ああ、早く助けないと。」
俺たちはモンブランの元に駆け寄った。モンブランは口から血を流し、苦しそうに息をしていた。
「モンブラン!大丈夫か!?」
「・・・・・・・・・・・。」
モンブランの横腹が大きく擦れている。きっと沖田に蹴られたせいだろう。
それに呼吸も荒いし、小さく痙攣していた。
「すぐに病院へ連れて行かないと!」
「じゃああの神社を使おうよ!走ってたら間に合わない!」
「そ、そうだな・・・。じゃあ行くぞ!」
俺はモンブランを抱え、ワープしてきた神社に走り出した。しかしその時、沖田が「待て!」と叫んだ。
「このイグアナがどうなってもいいのか?」
沖田はマリナを掴み、その頭に銃を突きつけていた。
「マリナ!」
「動くな!このトカゲを撃ち殺すぞ!」
そう叫んで、さらに銃を押し付けた。
「ゆ・・・悠一・・・・。」
「マリナ・・・。心配するな、俺が助けてやる。」
俺はモンブランを藤井に預け、「行け!」と叫んだ。
「で、でも・・・悠ちゃんは・・・・、」
「俺はマリナを助ける。だから早くモンブランを病院へ!」
「だけど・・・・、」
「いいから早く行け!」
「わ・・・・分かった!すぐ戻って来るからね!無事でいてよ!」
藤井はモンブランを抱えて駆け出して行く。沖田が「行くな藤井!」と叫んだが、俺は手を広げて立ちはだかった。
「どけ有川!撃つぞ!」
「そんなとこから撃ったら藤井に当たるかもしれないぞ?」
「そんなヘマするか!いいからどけ!!」
「お断りだ。お前こそマリナを放せ。」
俺は真っ直ぐに近づいて行った。沖田の銃口がピタリと俺に狙いをつける。
「お前・・・・たかがイグアナの為に死ぬ気かよ?」
「俺にとっちゃただのイグアナじゃない。大事な家族なんだ。いいから離せ。」
「ははは!こんな爬虫類が家族か?寂しい奴だな!」
「生憎動物と話せるもんでね。言葉が通じればイグアナ相手でも寂しくない。」
「カッコつけたことぬかしやがって・・・・。もういい、マジで殺してやるよ。お前も・・・お前の家族とやらもな。」
「悠一・・・・・。」
マリナが泣きそうな顔で見つめてくる。
「大丈夫だよマリナ。もうたまきが来てくれたから。沖田の後ろで怖い顔して睨んでるよ。」
そう言って指をさすと、沖田とマリナは後ろを振り返った。
その瞬間、俺は十字架を握って駆け出した。
「なんだ・・・誰もいないじゃな・・・・、うぎおお!」
俺は十字架を握ったまま沖田に突進した。尖った先端が沖田の顔に突き刺さり、叫び声を上げて倒れ込んだ。
「マサカリ!この銃を!」
沖田の手から銃を奪い、マサカリの方に投げる。すると落ちた瞬間に「パンッ!」と発砲して、近くの木の枝が折れた。
「危なねえな!殺す気か!」
「悪い。それを頼む。」
マサカリは銃を咥え、サッと遠くへ逃げて行った。
「おい!人の銃を奪うな!」
沖田は追いかけようとしたが、顔の傷を押さえてうずくまった。
「ずいぶん古臭い手に引っ掛かったな。お前・・・・実は馬鹿だろ。」
「ぐうう・・・・この野郎があ・・・・。」
沖田は傷口を押さえながら、痛みに耐えて立ち上がって来ようとする。
俺はマリナを置き、助走をつけて沖田を蹴り飛ばした。
「ごはあ!」
「さっきのお返しだ!もう一発食らえ!」
「ぐふう!」
さすがの沖田も堪らず倒れ込み、手を伸ばして俺の足を掴んだ。
「この・・・・お前ごときに・・・・・。」
「もうお前の負けだ。いい加減観念しろ。」
「誰が・・・・・お前なんかに・・・・・。」
「往生際が悪いな。じゃあトドメの一発だ。」
俺は沖田の髪を掴み、ニコリと微笑んだ。
「さっき殴るはずだった分だ!取っとけこの野郎!!」
「げぶあッ!」
渾身の一撃が顎を打ち抜く。もう一発殴ってやろうと思ったが、もう沖田は動かなかった。
大の字に倒れ込み、白目を剥いて気絶していた。
「やったぜ!ざまあ見ろってんだ!」
「俺たちの勝ちだな!後でミルワームでも奢ってもらおう!」
カモンとチュウベエが嬉しそうに飛びまわる。マリナは「よかった・・・」と呟き、指で涙を拭っていた。
「もう終わりだ。後はじいさんがダキニをやっつけてくれれば・・・・、」
そう言って沼に目を向けると、目の前に誰かが立ちはだかった。
「うふふ、久しぶりね〜悠一君。元気にしてたあ〜?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
ダキニが甘ったるい声を出しながら、ニコニコと笑っていた。そして・・・・その手には人間の姿に戻ったじいさんを引きずっていた。
「さすがの白髭ゴンゲンも、寄る年波には勝てなかったのかしら〜?うふふ・・・・あっさり決着がついちゃったから、ずっと君たちの戦いを見てたのよお〜。悠一君たらいつになく奮闘しちゃって、ちょっとだけ見惚れちゃった!」
「・・・・・・・・・・・・。」
「とってもカッコよかったけど、もうお終いにしなきゃね〜。君のことは覚えておいてあげるわ。だからあ・・・・・死んで。」
ダキニの目に殺気が宿る。そして俺に向かって手を伸ばしてきた。
鋭い爪が目の前に迫り、思わず目を閉じた。
そして・・・・・・・目の前が真っ暗になった。何も見えず、何も聞こえなくなる。
地面を踏んでいる感覚さえなくなって、まるで宙に浮いているような感じだった。
手足を動かそうとしても、まったく反応しない。それどころかだんだんと意識が薄れていく・・・。
《身体に・・・力が入らない・・・。これが・・・これが死ぬってことなのか?
せっかく沖田を倒したのに、こんな所で死ぬっていうのか・・・・。》
いくら目を開けても何も見えず、真っ暗な部屋の中に閉じ込められているようだった。
意識はだんだんと遠ざかり、藤井や動物たちの顔が浮かんでくる。
そして・・・・暗い暗い闇の中で、なぜか『アイツ』の匂いを感じていた・・・・・。

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