勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第四十二話 天を突く光(3)

  • 2014.12.09 Tuesday
  • 09:51
JUGEMテーマ:自作小説
沖田を倒したと思ったら、一番厄介な敵が残っていた。
・・・・・ダキニだ。
ダキニはじいさんを倒し、俺の前に立った。そして・・・俺を殺した。
目の前が真っ暗になり、五感が失われていく・・・。
光も無く、音も聞こえない・・・。
そして地面に立っている感覚も無くなって、いよいよあの世へ昇天しようとしていた。
思えばこの夏が始まってから、よく戦ったものだ。
稲荷だの誘拐だの、俺の日常とは程遠い出来事ばかりが起こり、その中で必死に戦ってきた。
《よく頑張った方だよなあ・・・俺は。でも・・・残された者はどうなるんだろう?
藤井や動物たちは、俺が死んだことを悲しむかな?》
これから天へ召されるというのに、この世への未練が消えない。
藤井が、動物たちが、マイちゃんが、それに翔子さんやたまきの顔が思い浮かび、なんだか泣けてきた・・・。
《神様・・・出来ることなら、最後のお別れだけ言わせて下さい・・・。このままみんなとさよならなんて・・・・ちょっと寂し過ぎるから・・・。》
大して信心深くもないくせに、こういう時だけ神様に祈ってしまう。
人間とはなんと身勝手で自己中心的な生き物であることか・・・・。
・・・でもまあ・・・死んだものは仕方がない・・・・。
有川悠一、二十九歳・・・ここに天寿を全うし、天国だか地獄だかに行くのだ。
さよなら藤井、さよなら動物たち・・・・さよならみんな・・・・・。
そう思って目を閉じていると、ふとよく知る匂いを感じた。
《この匂いは・・・・アイツの・・・・。》
どこか柔らかく、それでいて懐かしさを覚えるこの匂い・・・・。
これは猫神神社にいるアイツの匂いだ。
《これは・・・たまきの匂いだ!間違いない!でも・・・どうしてアイツの匂いが・・・・。》
不思議に思っていると、頬に何かが触れていることに気づいた。
《なんだこれは・・・?なんか柔らかくて、それでいて落ち着くような・・・・。》
真っ暗な闇の中に柔らかい何かがある。俺は手を動かし、そっと触れてみた。
《・・・・あったかい。それに・・・この触り心地の良さ・・・・。この感触は間違いない!これは絶対にアレだ!》
藤井という彼女がいる俺は、もちろん童貞ではない。だから・・・この柔らかい感触をよく知っている。
そう・・・これは男が大好きなアレだ!しかも藤井のよりずっと大き・・・・・・、
「なにを人の胸を揉んでるのよ。」
「いぎゃあ!」
頭に衝撃が走る。鈍い痛みが脳天を突きぬけ、思わずうずくまった。
「悠一、しっかりしなさい。まだ敵は残ってるのよ。」
「え?」
頭を押さえながら声のした方を見ると、微かに光があった。
《なんだ・・・?俺は死んだんじゃないのか?》
光の射す方に向かって手を伸ばすと、また柔らかいアレに触ってしまった。
「何度も揉まない!お金取るわよ。」
「ぎゃふ!」
また頭に衝撃が走る。さっきからいったいなんなんだ・・・・?
頭を押さえてうずくまっていると、「そろそろ出て来なさい」と首根っこを掴まれた。
そしてそのまま引き上げられて、明るい場所に出た。
キョロキョロと辺りを見回していると、目の前にたまきの顔があった。
「うわあ!なんでお前がここにいるんだよ!?」
「なんでとは失礼ね。助けに来てあげたんじゃない。」
「へ?助けに・・・・?」
「そうよ。私が来るのがもう少し遅かったら、あんた死んでたわよ。」
そう言ってたまきは目の前を指差す。するとそこには頭を押さえてうずくまるダキニがいた。
「いたあ〜い・・・・。奇襲なんて卑怯よお・・・・。」
「ダキニ・・・・タンコブが出来てる。」
ダキニはおでこにタンコブが出来ていて、涙目でうずくまっていた。
「いったい何があったんだよ!?」
そう叫んでたまきを振り返ると、ふとおかしなことに気づいた。
「あれ?なんだこの黒いのは・・・・?」
俺の身体は真っ黒な糸に覆われていた。しっかりと身を守るように、グルグルと巻きついている。
「それは私の髪。」
「へ?たまきの髪の毛・・・・?」
言われて見てみると、たまきの髪の毛がヘビのように伸びていた。そして俺に巻きついて、まるで鎧のように硬くなっている・・・。
「もしかして・・・これが守ってくれたのか?」
そう呟いて髪の毛に触れると、シュルシュルとほどけていった。そしてたまきの頭へと戻っていく。
「間一髪だったのよ。私がここへ来た時、あんたはダキニに殺されようとしていた。ほんとに間に合ってよかったわ。」
たまきはニコリと微笑み、俺のおでこをつついた。
「さて・・・それじゃそろそろ着物から出てくれる?これじゃ動きづらいから。」
「へ?着物?」
「私の着物よ。あんたったら髪の毛で包んだ後、もぞもぞ動いて中に入って来たの。
まあその方がしっかり守れるから放っておいたんだけど、あんなにおっぱいを揉まれたらねえ・・・。普通ならシバキ倒してるわよ?」
たまきの言うとおり、俺は彼女の着物の中に入っていた。
苦笑いしながら頭を掻いていると、「早く出てくれる?」と怖い笑顔で言われた。
「ごめん・・・・。」
ササッと着物から抜け出すと、たまきは帯を締め直していた。そしてダキニの方に歩き、腕を組んで見下ろした。
「まさかゴンゲンさんが負けるなんて・・・。アンタどれだけこの沼から力を吸い取ったのよ?」
そう尋ねると、ダキニはタンコブを押さえながら立ち上がった。
「いきなり拳骨なんてやってくれるじゃない・・・。私の部下はどうしたの?」
「みんなノビてるわ。そしてあんたもすぐにそうなる。」
「・・・うふふ、見くびってもらっちゃ困るわね。アンタなんかに負けるようじゃ稲荷の長は務まらない・・・。長年の恨み・・・・ここで晴らしてあげるわ。」
ダキニは目を赤く光らせ、巨大な稲荷に変化した。
それはじいさんと変わらないくら大きく、そして迫力があった。
違いがあるとすれば、尻尾が九つに分かれていることだ。ウネウネと蛇のように動き、怪しい妖気を放っていた。
「あんたさえいなくなれば、邪魔者は全て消える。さあ・・・決着をつけましょう。」
「望むところよ・・・。」
たまきは身も凍るような殺気を放ち、見る見るうちに巨大な猫に変化した。
いや・・・これは猫というより、虎に近いかも・・・。
真っ白な毛に、猛獣のような猛々しい顔。
首には大きな鈴がぶら下がっていて、周りを火の玉が二つ回っている。
「すげえ・・・・これがたまきの正体・・・・。」
たまきはダキニと同じくらい大きかった。10トントラックの一回り・・・、いや二周りは大きい。
巨大な両者が睨に合う姿は、まるで怪獣映画のようであった。
「悠一!危ないから離れてなさい!!」
「わ・・・分かった!」
たまきに言われて慌てて逃げ出した。するとどこからか「こっちこっち!」と呼ばれた。
「早くこっちに隠れろ!」
声のした方に目を向けると、マサカリが注連縄のかかった大きな岩の後ろに隠れていた。
周りにはチュウベエたちもいて、「早く来い!」と手招きをしていた。
「お前たち・・・無事だったんだな!」
「当たり前よ!この俺様がみんなを守ってやったからな!」
偉そうに言うマサカリだったが、その足はまたしても震えていた。
「とにかく無事でよかったよ。」
そう言いながら岩に隠れると、足に硬い何かが当たった。
「ん?なんだコレ・・・・?」
「ああ、銃だ。」
「銃!?沖田のやつか?」
「そうだよ。役に立つかと思って持っといたんだ。偉いだろ?」
マサカリはどうだと言わんばかりに胸を張る。
「何かの役にって・・・俺は銃の扱いなんて知らないぞ?」
「俺だって知らねえよ。でも引き金を引けばズドン!ってなるんだろ?」
「そりゃそうだろうけど・・・・・、」
銃を持って見つめていると、突然雷のような轟音が響いた。
「な・・・なんでいなんでい!!」
マサカリはお尻を向けて隠れる。コイツ・・・本当にビビりだな・・・。
「見て!たまきとダキニが戦ってる!」
マリナが沼の方を指差す。するとそこでは怪獣大戦争が行われていた。
両者はその巨体をぶつからせ、噛みついたり噛みつかれたりを繰り返している。
血が飛び交い、雷のような咆哮が飛び交い、まるでゴジラとガメラの戦いを見ているようだった。
「すげえやこりゃ・・・。おい悠一!スマホで動画撮れ!ネットにアップすりゃ話題になるぜ!」
チュウベエが興奮して言うと、「待て待て」とカモンが取り成した。
「ここはテレビ局に売ろう。きっといい金になるぞ。」
「それは名案だな!これで貧乏生活からも解放されるってわけだ!おい悠一!早く撮れ!」
「うるさいから黙ってろ。」
「むぎゅ!」
「ふぎゃ!」
金のことしか頭にない二匹を押さえつけ、たまきとダキニの戦いに見入った。
両者の戦いは互角。いや・・・・わずかにダキニが押している・・・・。
きっと沼の力でパワーアップしているせいだろう。
「このままじゃたまきが負ける・・・。でもこんな戦いに助太刀なんて出来ないし・・・。」
そう呟くと、マサカリが「銃を撃て!」と叫んだ。
「そいつで援護するんだ!」
「無駄だよ・・・。こんなもんが効く相手じゃないだろ。」
「でもこのままだったらたまきが負けちまうぜ!」
「分かってるよ!でも下手に手を出したらたまきの足手まといになる。」
「じゃあどうすんだよ!?」
「今考え中だ!お前は尻でも出して隠れてろ!」
うるさいマサカリを無視して、銃を見つめて考えた。
《こんなもんが通用するわけないし、かといってたまきが負けたらそれこそお終いだ・・・。いったいどうしたら・・・。》
怪獣同士の戦いは、徐々にダキニが押し始めた。
たまきは必死に応戦しているが、ジリジリと後退させられている。
いったどうしたものかと悩んでいると、「うう・・・」と誰かの声が聞こえた。
「おい見ろ!沖田が目を覚ましたぜ!!」
カモンが叫んだ先には、頭を押さえながら立ち上がる沖田がいた。
「目を覚ましやがったのか・・・・。」
沖田はブルブルと頭を振り、ふらつく足取りで立ち上がる。
そして怪獣同士が戦う姿を見て、「うおお!!」と驚いていた。
「なんだこりゃ・・・。どうなってんだいったい・・・・?」
信じられないという風に口を開け、怪獣の戦いに見入っている。
「何やってんだアイツ・・・。そんな所にいたら巻き込まるぞ・・・。」
俺は立ち上がり、「早く逃げろ!」と叫んだ。
「そこから離れるんだ!死んじまうぞ!!」
「有川・・・どうなってんだコレは!?」
「見りゃ分かるだろ!怪獣が戦ってんだよ!早く逃げないと危な・・・・・、」
そう言いかけた時、ダキニの尻尾が沖田の頭をかすめた。
「うおおおお!」
「沖田!」
沖田は交通事故に遭ったかのように、ゴロゴロと転がっていった。そして近くに生えていた木にぶつかり、ピクリとも動かなくなった。
「クソ!・・・・すぐ行くから待ってろ!!」
そう言って飛び出そうとすると、マサカリがガブリと噛みついてきた。
「痛ッ!何すんだよ!?」
「沖田なんかほっとけよ!お前まで死ぬぞ!」
「ダメだ!アイツには生きててもらわなきゃ困るんだよ!そうでなきゃ翔子さんを助けられない!」
「無駄だよ!アイツが心の底から謝るなんてことはねえ!」
「・・・・そうだとしても・・・このまま見殺しには出来ない!」
沖田は憎き敵だ。でもだからと言って、今にも死にそうな状況でほうってはおけない。
俺は銃を構え、沖田の元に駆け出した。
「おい悠一!戻れって!」
マサカリの声が追いかけて来るが、それを無視して走った。
そして沖田の元まで来ると、「大丈夫か?」と抱え起こした。
「しっかりしろ!傷は浅いぞ!」
「・・・適当なこと言うな・・・・頭が吹き飛ぶかと思ったぜ・・・。」
沖田は頭から血を流していて、焦点の定まらない目で俺を睨んだ。
「なあ有川・・・・・。」
「なんだ?どっか痛いのか?」
「ああ・・・痛いよ・・・。胸が痛い・・・。」
「胸?頭じゃないのか?」
「頭は大丈夫だ。それよりも胸が痛い・・・・。お前ごときに負けて・・・プライドがズタズタだからな・・・・。だから・・・抉られるほど胸が痛いんだよおおおお!!」
そう言って沖田は俺を殴り飛ばした。
「がはあッ!」
「有川!藤井は渡さない!お前ごときにアイツはもったいない!」
沖田は馬乗りになり、俺の手から銃を奪った。そして眉間に突きつけ、勝ち誇ったように笑った。
「形勢逆転だな・・・・・。」
「お前・・・頭は大丈夫か?こんな場所にいたら俺たちまで・・・・、」
「問題ない、見ろ。」
沖田は怪獣が戦っている方に向かって顎をしゃくる。するとそこには、劣勢を強いられるたまきがいた。
「あの猫はお前の味方なんだろう?アイツはもうじき負けるよ。」
「どうして分かる・・・・?」
「見れば分かるよ。これでも俺は格闘技が得意なんでな。いくら怪獣同士の戦いでも、どっちが勝ってるかくらいは分かる。
あの猫・・・・確かたまきって言うんだろ?ベンジャミンから聞いたよ。」
「それがどうしたんだよ?」
「お前は散々人のことをマザコン呼ばわりしてくれただろう?」
「ああ、したよ。だって事実なんだからな。いい歳こいてママ、ママ言ってるんだから、マザコン以外の何者でもないだろ。」
そう言って笑ってやると、沖田はあっさりと頷いた。
「そうだな・・・確かに俺は重度のマザコンだよ。でもそれはお前も同じだろう?」
「はあ?なんで俺が・・・・、」
「いいか有川!俺は子供の頃にママを亡くした!!その後は金と面子のことしか頭にないクソ親父に育てられた!親父が俺を庇うのは、自分の身を守りたいからだ!俺はな・・・・ママを亡くしてからずっと一人ぼっちだった・・・・。誰にも心を開けない・・・。寄って来るのは親父の金と力を宛てにしたクズばかり・・・・。でもそんな時に藤井と出会った。アイツは俺が求めていた、本物の優しさを持っていた・・・。だから・・アイツならママの代わりになってくれると信じていたんだ・・・。」
沖田の顔が苦しそうにゆがむ。歯を食いしばり、震える瞳で俺を睨んでいた。
「俺は藤井を大切にした。だって・・・・本当にアイツのことが好きだったから・・・・。でもアイツは俺の元を離れた。ショックだったけど・・・仕方ないと諦めるしかなかった・・・。俺はまた一人ぼっちに戻り、坂田たちと悪さを続けた・・・・。それが良い事だとは思わなかったが、それ以外に寂しさを誤魔化す方法がなかった・・・。」
「お前・・・・・孤独だったんだな?」
そう呟くと、「その通りだ」と認めた。
「俺は孤独だった・・・。ママを亡くし、藤井を失い・・・・もう信頼出来る人間は誰もいなかった・・・・。でもお前はどうだ!?藤井を手に入れ、動物と話せる力まで持っている!あんなトカゲでも、家族と呼べるくらいに寂しくなかったんだろう!?」
「そうだよ。動物たちは俺の家族だ。でも動物と話せる力を嫉妬されても困る・・・・、」
「そうじゃない!俺が言いたいのはな、そこまで色んなものを持っていながら、たまきとかいう化け猫にベッタリ甘えてやがったことだ!!」
沖田は俺の眉間に銃を押し付け、今にも引き金を引こうとした。
その顔は鬼のように歪んでいて、まるでキツネにでも取り憑かれているようだった。
「なんだお前は!藤井がいながら、動物がいながら、優しい優しいママみたいな化け猫に甘えやがって!!困った時にはいつでも相談に乗ってもらって、追い詰められた時にはいつでも助けてもらえる!しかも・・・・金に困った時には、小遣いまでもらってるらしいじゃねえか!!」
「そ・・・そんなことないよ!俺はたまきに甘えてなんか・・・・、」
「ウソつけ!!ダキニからそう聞いたんだ!たまきとかいう美人で優しい化け猫がいて、そいつは有川を実の子供のように可愛がっていると!だから・・・・だからお前みたいな気の弱い奴が、ここまで生きて来られたんだと!」
「ちょ・・・ちょっと待てよ!それは誤解・・・・、」
「うるさい!!お前は喋るな!今は俺が喋ってんだよ!」
沖田は俺の顎を掴み、口の中に銃を突っ込んだ。
「ぐごご・・・!」
「いいか有川!俺はそんなのは認めない!お前はただでさえ藤井がいるんだ!それに加えて動物と話せる力まで持ってる!それなのに・・・・・それなのに化け猫なんかに甘えてんじゃねえよおおおお!!なんだよあのたまきってのは!?ええ!?えらい美人なんだろ?ママみたいに優しくしてくれるんだろ?ふざけんじゃねえよ!俺は一人ぼっちなんだぞ!それなのに・・・・なんでお前だけそこまで恵まれてるんだよおおおお!!」
沖田の怒りが爆発し、引き金にかけた指を引こうとした。
《ヤバイ!・・・今度こそ死ぬ・・・・。》
口に突っ込まれた銃口から鉄の味がする。火薬の臭いが広がり、震えながら銃口を噛みしめていた・・・。

calendar

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< November 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM