勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第四十三話 天を突く光(4)

  • 2014.12.10 Wednesday
  • 12:46
JUGEMテーマ:自作小説
口の中に突っ込まれた銃口から、火薬の臭いが広がる。
沖田は鬼のような形相で俺を睨み、今まさに引き金を引こうとしていた。
《ヤバイ!・・・今度こそ死ぬ・・・・。》
そう思った時、頼りないブルドッグが勇気を振り絞って助けに来てくれた。
「悠一を殺すなああああ!」
そう言ってなぜか俺の方に体当たりをする。コイツ・・・目をつぶってやがったな・・・・。
しかしそのおかげで銃口が逸れ、弾丸は俺のすぐ横ににめり込んだ。
近くで銃声を聞いたせいで、耳がキンキンする・・・・。それでも何とか立ち上がり、沖田の銃を蹴り飛ばした。
硬い音が響き、銃が宙を舞っていく。沖田は俺を突き飛ばして銃を掴もうとするが、チュウベエとカモンがそれを邪魔した。
チュウベエが沖田の目に糞を落とし、カモンが鼻の穴に手を突っ込む。
そして遅れてやって来たマリナが、尻尾を足に巻きつけて転がした。
「またお前らか!」
沖田は怒りで顔を真っ赤にする。しかし・・・・もう勝負はついていた。
俺は銃を構え、「動くな」と頭に突きつけた。
「本当にお前って奴は・・・往生際が悪いにもほどがあるだろ。」
「黙れ!化け猫なんかに甘えてる奴に言われたくない!お前こそ重度のマザコンだ!」
「・・・・そうかもな。」
素直に認めると、沖田は意外そうな顔で振り向いた。
「お前の言うとおり・・・確かに俺はたまきに甘えっぱなしだ。それに恵まれた環境にいるのも事実だよ。」
「なんだ・・・やけに素直に認めやがって・・・。同情でも誘うつもりか?」
「そんなんじゃないよ。実はさ・・・俺も薄々そう思ってたんだよ。たまきはすごく良い奴だけど、このまま甘えててもいいのかなって・・・・・。だから・・・全てが片付いたら、アイツに会うのは控えようと思ってる。」
「ははは!控えようだって!それが甘えてるって言ってるんだよ!男ならハッキリ言えよ!もうあの化け猫とは会わないって。」
沖田は笑いながら迫って来る。まったく銃を恐れず、自ら額に銃口を当てた。
「お前みたいな甘っちょろい奴が、人を撃てるのか?」
「・・・・・・・・・・。」
「どうした?撃ってみろよ?それともアレか?やっぱりたまきママがいなきゃ何も出来ないか?」
「・・・・・・・・・・。」
「さっさと撃てやコラアアア!!化け猫に甘える変態野郎があああ!!」
「・・・撃てない。」
「え?なんだって?」
「撃てないよ・・・・。だって・・・コレもう弾が入ってないから。」
俺はカチリと引き金を引いた。しかし弾は出て来ない。引き金を引いた音が小さく鳴るだけだ。
「さっき銃を取った時、威嚇で撃とうとしたんだ・・・。でも弾は出てこなかった。だから撃てない。
そして・・・お前のその強がりがハッタリだってことも知ってる。」
「はあ?」
「これはお前の銃だろ?じゃあ弾切れだってことくらい知ってたはずだ。
カッコつけてごちゃごちゃ言ってたけど、弾が無いなら怖くないもんな?」
「・・・・何が言いたい?」
「もうお前も限界なんだろ?顔に十字架刺されてさ、しかも目を覚ましたら怪獣の尻尾で叩かれたんだ。
強がってるけど、もう立ってるのも辛いはずだ。だからゴチャゴチャ言って強がってみせることで、俺を追い詰めようとしてるんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「なんだ図星かよ。単純だな、お前は。」
馬鹿にしたように笑うと、「ざけんなああああ!」と殴りかかってきた。
しかし今の沖田のパンチなんて、藤井のパンチをよけるよりたやすい。
俺はヒラリとかわし、すれ違いざまに銃で思い切りカチ上げてやった。
「ごはあッ!」
硬い銃口が顎を捉え、沖田は血を吐いて倒れていく。
「ぐおお・・・・。」
「沖田・・・・確かにたまきに関しちゃお前の言う通りだよ。俺はあいつに甘えすぎかもしれない。けどな、藤井に関しちゃ違うぞ!俺とアイツは対等だと思ってる。どっちが甘えるとか無いんだ!だからお互いに好きなわけだし、大事に想ってる・・・。けどお前はそうじゃない!いつまでもママの面影を追いかけて、藤井に甘えてるだけだ!」
「・・・し・・・知ったようなことぬかすな・・・・。」
「うるせえよ!今は俺が喋ってんだ!お前は黙れ!!」
「ぐはあ!」
もう一度銃で叩きつけ、髪を掴んだ顔を上げさせた。
「お前は言ったよな?藤井はママの代わりになれるって。だったらどうして傷つけるような真似をした!?」
「・・・うるせえよ・・・死ね!」
そう言って俺の足に唾を吐く。血の混じった唾が、ドロリと足を垂れていった。
「お前なんかに俺の気持ちが分かるか・・・・くたばれ!」
そう言ってまた唾を吐く。いったいこの意地はどこから来るんだろう・・・?
もう完全に負けているのに、どうしてここまで強がるんだろう・・・?
《沖田の言うとおり、俺にはコイツの気持ちなんて理解出来ない。けど・・・なんか歪んだ愛情みたいなものを感じるんだよな。》
沖田は鬼のような目で俺を睨む。もうボロボロのはずなのに、目の力だけは衰えていなかった。
「・・・なあ沖田。お前さ・・・・もしかしてだけど・・・・・お袋さんのことが好きだったのか?」
そう尋ねると、マサカリが「何当たり前のこと聞いてんだよ」と突っ込んできた。
「コイツは重度のマザコンなんだぜ。ママのこと大好きに決まってるだろうが。」
「いや、そうじゃなくてだな・・・・。その・・・何と言うか・・・・ライクじゃなくて、ラブの方だったんじゃないかと・・・。」
「ん?どういうことだ?」
「だから・・・・コイツはお母さんにだな・・・その・・・恋をしていたんじゃないかと・・・・。」
「はああ?何気持ち悪いこと言ってんだよ!お母さんに恋ってお前・・・・それはもうマザコン以上じゃねえか。」
「そうだよ。でも・・・どうもそう思えて仕方ないんだよ。だってコイツは本当に藤井を愛してるよ。今まで見てたけど、藤井に手を上げることは一つもなかった。十字架で顔を刺されても、藤井を殴ったりはしなかったんだぜ?」
「はん!痛くて動けなかっただけだろ!」
「そうかな?コイツみたいな格闘技の達人なら、いくらでも反撃出来たと思うんだよ。でもそうしなかったのは、藤井を傷つけたくなかったからだ。けどその割には平気でキスしたり身体を奪おうとしてただろ?だからだな・・・その・・・・きっとコイツは・・・・、」
この先を言うのはとても恥ずかしい。でも今さら黙るわけにもいかないので、思い切って先を続けた。
「きっと沖田は・・・お袋さんのことを一人の女性として見ていたんだと思う。実際にお袋さんとはどういう関係だったのか分からないけど、歪んだ愛情を持っていたことは確かだ。」
そう言い切ると、沖田は突然笑い出した。
「はははは!そうだよ!俺はママのことが好きだった!」
「マジかよ・・・・有り得ねえぜ・・・。」
マサカリが気持ち悪そうに顔を歪める。
「でもな、言っとくけど手は出してないぜ。俺だってギリギリの所では踏み止まってたんだ。でも・・・藤井はママじゃない。アイツはママであって、ママじゃないんだ!だから結婚だって出来るし、子供だって産める!こんな女には二度と巡り合えない!」
「それで藤井に執着してたのか・・・・。」
「アイツは他のどんな女でも代わりは利かない・・・。でももう終わりだよ。きっとアイツは俺を見限るだろう。だって・・・お前の飼ってる動物に手を出しちまったんだからな。あの白い猫・・・モンブランっていうのか?アイツを蹴り飛ばした時、藤井は本気で怒ってた・・・・。あの優しい藤井が、十字架の首飾りで顔を刺すなんて・・・普通じゃ考えられないからな。」
「じゃあなんでここまで粘ったんだ?もっと潔く負けを認めてもよかっただろ。」
「お前が気に食わなかったんだよ!他に理由なんかあるかよ!」
「それは藤井と付き合ってるからか?それともたまきに甘えてるからか?」
「両方だよ!だいたいお前は女に囲まれ過ぎなんだよ!なんだよあの翔子とかいう美人はよ!?ベンジャミンから写真を見せてもらったけど、見た目も中身も抜群なんだろ?それに加えてウズメやアカリって美人もいるらしいじゃねえか!あとコマチとかいう化けタヌキもいるんだろ?お前はいったい何なんだよ!見た目も中身も良い女に囲まれ過ぎなんだよ!!ハーレム作ってんじゃねえよクソが!」
「そんなもん知るかよ!ただの嫉妬じゃねえか!」
「いいや、違うね。お前には男の友達はほとんどいないはずだ。周りにそういう女ばっか集めるのは、マザコンの証拠なんだよ!!どうしてそんな良い女が一人くらい俺の所に来ないんだ!」
「だから知るかっての!いい加減くたばれこの野郎!!」
「げふうッ!」
銃で叩きつけると、ようやく気絶してくれた。
「この野郎・・・好き放題言いやがって・・・。当たってる部分もあるから傷つくじゃねえか!」
そう叫ぶと、動物たちから「自覚してんだな」という目で見られた。
「そんな目で見るな。俺も今の現状がいいとは思ってないよ。」
「じゃあ早く事を終わらせないとな。そんで藤井と結婚でもして、子供でも作れよ。
責任ある男になれば、ちっとは成長すんだろ。」
マサカリにもっともらしいことを言われ、悔しくなって唇を尖らせた。
「とにかく・・・・沖田はぶっ倒した。後はたまきの方だけど・・・・、」
そう呟いて目を向けると、巨大な何かが倒れてきた。
「な・・・なんだ!?」
思わず飛びのくと、それはボロボロに傷ついたたまきだった。
「たまき!しっかりしろ!」
「・・・・不覚だわ・・・・ダキニにやられるなんて・・・・。」
たまきは身体じゅう傷だらけになっていて、痛々しいほど血を流していた。
すると向こうからダキニが歩いて来て、「うふふ・・・」と見下ろした。
「よく頑張ったけど、これで終わりよ。ようやく長年の腐れ縁が断ち切れる・・・・。今日は良い日だわ。」
ダキニは心底嬉しそうに笑った。それを見たたまきは、悔しそうに口元を歪めた。
「あんた・・・いくら何でも強過ぎじゃない?ゴンゲンさんを倒した後に私まで倒すなんて・・・・。いったいどんな手を使ったのよ!?」
「うるさいわね。敗者は黙ってなさいな。」
ダキニはそう言ってたまきの顔を踏みつけた。
「最悪・・・・コイツに顔を踏まれるなんて・・・・。」
「うふふ・・・私は最高。あんたの顔を踏める日が来るなんて。」
そう言ってグリグリと足を動かし、たまきに顔を近づけた。
「まあいいわ。もうじき死ぬんだから、私の強さの秘密を教えてあげる。」
ダキニは沼の方に目を向け、「あそこをよく見て」と言った。
「あの沼の上に、白っぽいものがフワフワ漂ってるでしょ?」
「・・・それがどうしたのよ・・・?」
「あれはね、この山で死んだ魂よ。沼に溜まった山の気に引かれて、わんさか集まって来るの。どの魂も浮かばれない浮幽霊だから、放っておくと悪霊になっちゃうわね。」
「だから・・・それがどうしたってのよ?」
「簡単なことよ。私は沼の気を吸い込むのと同時に、あの浮幽霊たちも吸い込んだ。報われない魂たちが、私の中で力になってるってわけ。」
それを聞いたたまきは、「あんた・・・」と怖い目で睨んだ。
「神様でありながら、報われない魂を利用したっていうの!?」
「そうよ、悪い?」
「悪いって・・・・・それじゃ妖怪の頃と同じじゃない!今のあんたは神様なのよ!よくそんな酷い事が出来るわね!また妖怪に堕ちるつもり!?」
「仕方ないじゃない、あんた達が私の邪魔をするんだから。でも心配しないで。あんたを殺したら、吸い込んだ魂は元に戻してあげるから。」
「当たり前よ!今すぐ戻しなさい!早く!」
たまきは牙を剥き出して叫ぶ。しかし「うるさいわね」と顔を蹴られてしまった。
「偉そうに言える立場じゃないってこと・・・・ちゃんと分かってるの?」
「何がよ!?」
「今あんたが死んだら・・・そこの坊やたちはどうなるかしら?」
ダキニはニヤリと笑って俺たちを睨んだ。鋭い牙がギラリと光り、いつでも俺たちを殺せるぞと脅しをかけてくる。
「悠一君はあんたのお気に入りなんでしょ?なんなら彼を先に殺してあげましょうか?あんたの目の前で・・・・。」
「ふざけるんじゃないわよ!そんなことさせ・・・・・・、」
「だからうるさいって。立場を弁えなさい。」
ダキニは爪を立てて顔を踏みつける。たまきは痛そうに顔を歪め、「悠一・・・」と呟いた。
「ここから逃げなさい!私が何とか時間を作ってあげるから!」
「で・・・でも・・・たまきは・・・・・、」
「私のことはいいから!早く逃げるの!」
たまきは残った力を振り絞り、ダキニを押しのけて立ち上がった。
深い傷から血が流れるが、それでも倒れない。俺たちを守るように立ちはだかり、「早く行って!」と叫んだ。
「動物たちと沖田を連れて逃げるの!そして・・・ウズメにこのことを知らせて!」
「う・・・ウズメさんに・・・・?」
「ダキニのやっていることは、この国の神様のルールから外れているわ!だからウズメにこのことを伝えて、他の神様に助けに来てもらうの!それ以外に手は無い!」
「いや・・・でもたまきは・・・・・、」
「いいから早く行く!私は・・・もう限界なのよ・・・。」
たまきは苦しそうに歯を食いしばっていた。傷からは血が溢れ、立っているのもやっとという感じだった。
「ダメだよ!このままじゃお前が死んじゃうじゃないか!見殺しになんて出来ない!」
「いいのよ・・・見殺しにしても・・・・。」
「なんで!?いいわけないだろ!」
そう叫ぶと、たまきは小さく笑った。
「私はね・・・今までに何度もあんたみたいな子を見てきたわ。やる気はあるクセに、気が弱くていつも空回りしてるような子を・・・・。そういう子を見るとね、放っておけないのよ・・・なんでか分かる?」
「分からないよ!そんなことはどうでもいいから、一緒に逃げよう!」
そう叫んでも、たまきは頷かなかった。そして俺の目を見つめ、「似てるのよ・・・・」と呟いた。
「あんたは・・・かつて私を飼ってくれていた人によく似てるの。まだ私が普通の猫だった頃、あんたみたいな人に飼われていた・・・・。その人は根っからのお人好しで、いつも損ばかりしていたわ。そして何一つ報われることのないまま逝ってしまった・・・。」
たまきは昔のことを思い出すように、淡々と語った。
その目はわずかに潤んでいて、昔の飼い主に想いを馳せているようだった。
「私は何もしてあげることが出来なかった。普通の猫なんだから当然なんだけど、でも・・・・悔しかったわ。
だからあんたみいな子を見ると、放っておけないのよ。
幸い今の私には力がある。この力が役に立つなら・・・命なんて惜しくはないわ。」
そう言ってダキニの方を向き、「さあ行って!」と叫んだ。
「私のことは気にせずに早く行くの!後ろを振り返らずに、とにかく逃げるのよ!」
「たまき・・・・・。」
こんな・・・こんな話を聞いたら、ますます見殺しになんか出来ない。
だから俺も戦うと言おうとした瞬間、マサカリにお尻を噛まれた。
「痛ッ!」
「ボケっとしてないで行くぞ!」
「で、でも・・・・・、」
「いつまでもウジウジしてんじゃねえ!せっかくたまきが逃げる時間を作ってくれるんだ!無駄にする気かよ!?」
マサカリはそう言って、マリナとカモンを背中に乗せた。
「悠一は沖田を運べ!ほら、さっさと行くぞ!」
「・・・・・・・・・・。」
たまきはダキニと睨み合っている。ボロボロの身体で、最後の力を振り絞って戦おうとしていた。
「うふふ・・・感動の寸劇はもう終わったかしら?」
「うるさいわね・・・さっさと来なさいよ。こっちはもう限界なんだから・・・・。」
「そうね。長年のライバルをこれ以上苦しませるのは・・・・・最高だわ!」
ダキニは牙を剥き出し、俺の方に飛びかかってきた。
「まずは坊やから!たまきの目の前で殺してやるわ!」
ダキニの巨体が目の前に迫る。鋭い牙が、俺の命を狩ろうと襲いかかってきた。
しかし咄嗟にたまきが立ちはだかり、正面からその牙を受け止めた。
「うぐうッ・・・・。」
鋭い牙が横腹に刺さり、口から血を吐く。
「悠一!早く行って!お願いだから!」
「た・・・たまき・・・・。」
「辛いのは分かる!でもあんたにはまだやる事が残ってるでしょ!翔子ちゃんがどうなってもいいの!?」
そうだった・・・・まだ翔子さんがいるんだった。もしここで俺まで死んだら、誰が彼女を助けるんだ・・・・。
「わ・・・分かった!すぐにウズメさんに伝えて、助けに来てもらうからな!それまで死ぬなよ!」
俺は沖田を担ぎ上げ、マサカリの元へ走って行った。
「お前ら、俺が先導するからついて来い!」
チュウベエが先を飛んで行き、マサカリもそれに続いた。
俺は一度だけたまきの方を振り返り、その姿を目に焼き付けた。
「たまき・・・頼むから死なないでくれよ!」
そう言って走り出すと、後ろから声が響いた。
「悠一・・・・あんたはとても優しい子よ。だからもっと勇気を持ちなさい。そうすれば・・・・きっと強くなれるから・・・・。」
走りゆく背中に、たまきの言葉が突き刺さる。
俺は後ろを振り返ることをせず、ただひたすら目の前のチュウベエを追いかけて行った。
人を一人担いで走るのは、並大抵のことではない。でもこの場面で弱音は吐いていられない。
息が苦しくなって顎が上がるが、チュウベエが「頑張れ!」と励ましてくれた。
そして・・・・走り出してから数分後、ようやく神社の前にやって来た。
小さな鳥居に、これまた小さな社。俺は沖田を下ろし、鳥居の中に手を入れてみた。
「・・・・まだ行けるみたいだな・・・・。」
鳥居の先の空間がグニャリと歪む。ここをワープするには、行き先を強くイメージすればいいはずだ。
「ええっと・・・・どこだ?どこに行けばいい?」
今から向かうのはウズメさんの所だ。でも彼女がいるのはベンジャミンの神社で、俺はそこへ行ったことがない。
「ダメだ・・・これじゃイメージ出来ない!どうすれば・・・・・。」
ワープは出来るのに、行きたい場所に行けない。これは・・・・実に困った・・・。
ウロウロしながら考え込んでいると、ふと思い浮かんだ。
「・・・そうだ!文江さんがいるじゃないか。彼女ならきっとベンジャミンの神社を知ってるはずだ。」
俺は氷ノ山の近くの神社をイメージし、鳥居の中に手を伸ばそうとした。
しかし・・・ふとその手を止めた。
「おい悠一!早くしろよ!」
マサカリが怒ったように急かす。しかし俺は手を引っ込め、ポケットからある物を取り出した。
それは寺市さんから渡された、文江さんのプロマイドだった。
「何そんなもん眺めてんだよ!早く行こうぜ!」
「・・・・いや、俺は戻る。」
「はあ?何を言ってんだよお前は・・・・。たまきが命懸けで逃がしてくれたのに、それを無駄にする気・・・・、」
「そうじゃない!たまきを助けに戻るんだ!」
俺は文江さんのプロマイドを握りしめ、来た道を引き返した。
「おいコラ!戻れって!」
「すまんマサカリ!そこで沖田を見張っててくれ!もし暴れたらケツを噛み千切ってやればいいから!」
「何を言ってんだよ!おい悠一!」
マサカリはワンワン吠えて引き止めようとするが、俺は止まらなかった。
この手に文江さんのプロマイドを握りしめ、ひたすらたまきの元へ走った。
《寺市さんは言っていた・・・。このプロマイドには、悪い霊を追い払う力があるって・・・・。
それなら・・・・これを使えば勝機があるかもしれない!》
ダキニがあそこまで強くなったのは、沼に集まる魂を吸い込んだからだ。報われない魂が力となり、ダキニを強くしているんだ。
だったら・・・・その魂を追い払えばいい!ダキニの身体から追い出して、成仏させてやればいいんだ!
「待ってろよたまき・・・今行くからな・・・。」
沖田の言うとおり、俺はたまきに甘えっぱなしだった。
彼女の優しさに甘え、見殺しにしてまで逃げようとしていた。
でも・・・・そんなことは許されない!散々世話になったんだ!ここで恩を返さないで、いったいいつ返すというのか!
「きっと・・・たまきは不安なんだ・・・。俺をかつての飼い主と重ねて、報われないまま人生を終えるんじゃないかと心配してるんだ。だったら今度は俺がたまきを助ける!そうすれば、たまきだって安心出来るはずだ。俺はもう・・・気弱なお人好しじゃないって!」
息を切らしながら、あの沼に向かって走る。手に握ったプロマイドに希望を込め、たまきを助ける為に駆けて行く。
大した道のりじゃないのに、遥か遠くまで走っているように感じた。
そして・・・ようやく沼が見えて来た。それと同時に、大きな叫び声が聞こえた。
その叫びは木々を揺らし、天を突くほど響き渡った。
胸に不安が込み上がる・・・・。嫌な予感ばかりが心を覆っていく。
その時、また叫び声が響いた。それは一つの命が終わりを告げるような、か細く悲しい叫びだった・・・。

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM