第十話 僕の相棒は君しかいないさ(2)

  • 2010.04.27 Tuesday
  • 13:51
 薄暗い工場内に、どこで滴っているのか水の垂れる音が響く。
錆びた鉄の臭いと、埃っぽい空気が不愉快に鼻を刺激して苛立ちを募らせる。
今はもう動くことはない様々な機会が、錆びた体を横たえて静かに眠っているように思えた。
俺は一億円の入ったバッグを持って、レイとスカリーが現れるのを待っていた。
電話で俺を指名したレイの条件はこうだった。
現金一億円を持って俺一人で指定された廃工場まで来ること。
それ以外の捜査官は一切同行させないこと。
もし他の捜査官も来たらスカリーの無事は保障出来ない。
そして指定の場所に午後4時に来いというものだった。
スキナーや他の捜査官と相談した後、俺が奴の指定通り、一億円を持ってこの廃工場へ来たわけだ。
スキナーから渡された魔のパンツは脱いで、裸も何だか飽きてきたので一応服を着てここに立っている。
何時現れるかもしれないレイに、俺は焦りと苛立ちを募らせながら待っていた。
そしてここに来て30分ほど待った頃、奴はスカリーを連れて現れた。
「スカリー!無事か!?」
俺は叫ぶように彼女に尋ねた。
「来てくれたのね、モルダー。私は大丈夫よ、心配しないで。」
その言葉を聞いて安心し、俺は少しネクタイを緩めた。
「ふふふ、感動の再会の挨拶は終わったかな?」
レイがいやらしげに笑って言う。
「お前の言う通りに俺一人で一億円を持ってきた。
さあ、スカリーを開放しろ!」
レイはチッチッチという風に指を振って見せ、高らかに笑いながらスカリーを縛っているロープを引き寄せた。
勢い余ってスカリーが倒れ込む。
ロープに縛られているスカリー。
俺はこんな時に何を興奮しているんだ!
「まずが一億円が先だ。そいつをそこに置いてお前は後ろへ下がるんだ。」
俺は奴の指示に従った。
「ああ、それと。武器を持っていないか確認させて貰わないとな。
服を脱いで裸になれ。」
しまった!
万が一を考えて拳銃を所持してきたのだが、奴にはお見通しということか。
「さすがに裸になるのは恥ずかしい。
パンツ一丁で勘弁してもらえないか。」
クソ!何を今さら恥ずかしがっているんだ。
さっきまで俺は裸だったじゃないか。
「確かにお前の言うことにも一理ある。
だから俺も裸になろう。」
そう言ってレイな服を脱いだ。
向こうが裸になってはこっちもならないわけにはいかない。
俺も裸になった。
俺は奴のものが俺よりも一回りデカイな、などといらぬことを考えていた。
「変態が二人・・・。」
スカリーがポツリと呟いた。
「よし、いいだろう。
ではそこから動くなよ。」
レイは俺のいた所まで歩いて来て一億円を手に取った。
「さあ、約束だ。スカリーを放せ!」
レイはまた高らかに笑って指を振った。
「申し訳ないが彼女は開放出来ない。」
「何だと!?」
「彼女はこれからも我々の有効な交渉のカードとして利用するつもりだ。
残念だったな、モルダー。」
「約束が違うぞ!」
いくら俺が吠えようと、レイはスカリーを放すつもりは無いようだった。
「一億円は確かに受け取った。また会おう!」
そう言ってスカリーを連れたままレイが去ろうとした時、ピタと奴の動きが止まった。
「思っていたより小さいのね。」
スカリーがレイに向かって何か言っていた。
「あたなのあれ、思ってたより小さいわ。
色も形も良く無いし。
それに何だか臭うわ。」
レイは一瞬凍りのように固まり、物凄く悲しそうな顔をしていた。
「まるで出来の悪いホットドッグみたい。
醜いわ。さっさとしまって頂戴。」
レイは涙ぐんでいた。
そして奴が一瞬スカリーのロープを握る手を緩めたのを俺は見逃さなかった。
俺は裸のままダッシュしてレイに体当たりをした。
裸のままもんどりうって転がっていくレイ。
その手からスカリーを縛っているロープの手が離れた。
「大丈夫か、スカリー!?」
裸のまま彼女を抱え起こし、縛っていたロープを解いてやる。
「ありがとうモルダー。あなたならきっと助けてくれると信じていたわ。」
俺は笑顔で彼女の言葉に応え、優しく立ちあがらせた。
裸のままで。
「何処も怪我は無いか?」
「ええ、大丈夫よ。
ただもう少しでオシッコを我慢するようにさせられかけたけど。
金的を蹴飛ばして罵ってやったわ。」
それでこそスカリーだと思い、この状況なら許されるだろうと彼女を強く抱きしめた。
裸のままで。
金的蹴りはこなかった。
「今回は助けてくれたお礼にこれくらいなら許してあげるわ。
開放してくれてありがとう、モルダー。」
俺は天にも昇る思いになり、さらに抱きしめようとしたら金的蹴りをくらった。
その場にうずくまる。
裸のままで。
「一回抱きしめれば十分でしょ。
それよりも奴が逃げるわ!」
俺は股間を抑えながら立ち上がり、逃げて行くレイを捕まえようとしたが、残念ながら取り逃がしてしまった。
クソ!もう少しだったのに。
うなだれる俺にスカリーが言った。
「追いかけましょうモルダー。今ならまで間に合うわ。」
確かにそうだ。
諦めてはいけない。
俺は脱いだ服からケータイを取り出し、捜査本部に電話をかけた。
「スキナーか?モルダーだ。
スカリーは無事に助け出したが、レイの奴は取り逃がしてしまった。
今から後を追う。」
スキナーはスカリーの救出を多いに喜んだが、奴を追うのは危険だと言った。
迎えをやるから一旦スカリーと捜査本部に戻るようにと。
しかし俺はそれに反対した。
時間を置けばレイに逃げられてしまう。
追うなら今しかないと。
スキナーは唸っていたが、やがてため息をつくようにこう言った。
「分かった。お前は優秀な捜査官だ。お前の判断に任せよう。」
さすが俺の上司だ。
話が分かる。
「スカリー、俺はレイを追う。
君は迎えが来るまでここにいるんだ。」
電話越しに聞いていたスキナーもその方がいいと言う。
しかしスカリーは納得しなかった。
「いいえ、私も行くわ。
なんたって私を誘拐した身の程知らずな犯人なんだもの。
大人しく待っているなんて出来ないわ。それに・・・。」
少し間を置いて彼女は言った。
「私はあなたの相棒でしょ。」
その通りだ。
俺たちはいつだって二人で難事件に立ち向かってきた。
言うなれば命を共にした戦友のような相棒だ。
俺は彼女の言葉に納得した。
「分かったよ。君の言う通りだ。
俺達は最高のコンビさ。
どんな事件だって二人で解決してきた。
今回だって例外じゃないさ。」
電話越しにやれやれと言った声が聞こえてくる。
「スキナー。聞いていた通りだ。
今から二人でレイを追う。
必ず捕まえると約束するし、スカリーは俺が絶対に守ってみせる。
だから・・・。」
「分かったよ。そこまで言いだしたら聞かないからな、お前らは。
こっちでレイのことを調べていたら少し分かったこともある。
今から俺達も応援に駆け付けるから、それまで無事でいろよ。」
「勿論だ。また二人で裸バーへ飲みに行こう。」
「ああ、事件が解決したら是非。」
そう言って電話は切れた。
「話は終わった?」
スカリーはいつものように皮肉っぽい笑顔で髪を掻き上げながら聞いてくる。
俺はレイの逃げて行った先を見つめ、少し格好をつけてスカリーに行った。
「さあ、捜査の開始だ。Xファイルの名コンビが今回も大活躍する時間がやってきた。」
俺はレイの逃げて行った方に目をやり、一つ息をついて言った。
「よし、行こうスカリー。」
彼女を促し、レイの後を追う為に走りだした。
そしてスカリーが言った。
「モルダー、服は着ていってね。」
そう言えば俺は裸のままだった。
彼女に言われた通り、いそいそと服を着ている間、俺は思った。
裸でいるより、裸から服を着て行くのを見られる方が恥ずかしいなと。
新たな快感の発見だった。

                           第十話 またつづく

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