勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第四十四話 天を突く光(5)

  • 2014.12.11 Thursday
  • 12:17
JUGEMテーマ:自作小説
文江さんのプロマイドを握りしめたまま、俺は沼の傍で立ち尽くしていた。
目の前には二つの人影があって、そのうちの一つは仰向けに倒れていた。
「たまき!!」
倒れた人影に向かって、その名前を叫びながら駆け寄っていた。
「しっかりしろ!たまき!!」
「・・・・・・・・・。」
たまきは血を流して倒れていた。人の姿に戻り、白い肌を赤く染めていた。
「たまき!たまき!!」
抱き起して揺さぶると、ほんの薄く目を開けた。何かを言おうとしているが、口を開けた途端に血を吐いた。
「喋るな!余計血が出るから!」
俺はたまきの肩を抱き、傷ついた身体に目をやった。
「これは・・・酷い・・・・。」
たまきの胸には大きな穴が開いていた。はだけた着物の胸元から、赤黒い血が滲んでいる。
それに身体のあちこちに切り傷があって、見るのも痛々しいほどだった。
「たまき・・・死ぬなよオイ!」
たまきは何かを言おうと口を動かす。しかしまた血を吐き、苦しそうに咳き込んだ。
「たまき・・・・ごめん・・・。見捨てて逃げてごめん・・・。」
そう言って項垂れると、そっと手を伸ばしてきた。
「たまき・・・・。」
その手を握りしめると、苦しそうに口を開いた。
「・・・どう・・・して・・・戻って・・・来たの・・・・?」
「だって・・・だって見捨てられないから!散々助けてもらったのに、見殺しになんか出来るわけないよ!」
「・・・馬鹿ね・・・せっかく・・・逃げる時間を・・・作ってあげたのに・・・。」
たまきは呆れたように笑った。そして俺の手を握りしめ、血を吐きながら続けた。
「・・・あんたは・・・本当に・・・・あの人に似てる・・・・。気が・・・弱いクセに・・・・誰かの為に・・・無茶をする・・・・。」
「・・・仕方ないだろ・・・そういう性分なんだから・・・・。」
「ふふ・・・・あの人も・・・同じようなことを・・・言っていたわ・・・・。だから・・・やっぱり似てる・・・・。」
そう言って声を出して笑った。そして俺の頬に触れ、ツラリと涙を流した。
「・・・あの人は・・・報われないまま・・・逝ってしまった・・・・。だから・・・あんたには・・・そうなってほしくないの・・・・。それなのに・・・・また戻って来るなんて・・・本当に馬鹿な子・・・・。」
そう呟いた後、ビクンと身を逸らして血を吐いた。
「たまき!もう喋るな!」
「・・・悠一・・・私を・・・起こして・・・・。」
「はあ?何を言ってるんだよ?」
「いいから・・・早く・・・・。」
たまきは俺の肩を掴み、鋭い目で睨んだ。その目は死にかけている者の目ではなかった。強い意志を宿した、燃え上がるような眼光だった。
俺は頷き、そっとたまきを起こしてやった。すると前の前に立つダキニを睨んで、ゆっくりと頭を下げた。
「・・・ダキニ・・・・勝負は・・・私の負けよ・・・。」
それを聞いたダキニは、満足そうに微笑んだ。
「たまきの口から敗北宣言を聞けるなんて・・・・やっぱり今日は最高ね。」
そう言って肩を揺らしながら笑い、腕を組んで見下ろした。
「でもその目は何か言いたそうね?まあだいたい想像はつくけど、一応聞いてあげるわ。長年の付き合いだからね。」
「・・・・感謝するわ・・・・。」
たまきは俺の肩を握りしめ、震えながら立ち上がった。
「たまき!立ったらダメだ!余計に血が・・・・、」」
「・・・あんたはそこにいて・・・・。邪魔したら許さないわよ・・・・。」
たまきは血走った目で俺を睨む。こんな目を向けられるのは初めてだったので、何も言えずに黙り込んだ。
《いったい何をするつもりなんだよ・・・そんなボロボロで・・・・。》
不安になりながら見ていると、たまきはダキニの前に膝をついた。
そして地面に手をつき、深く頭を下げた。
「私の負けです・・・・。だから・・・どうかこの子だけは見逃してやって下さい・・・・。」
「たまき・・・・。」
「お願いです・・・・。私はどうなってもいいから・・・この子だけは・・・どうか・・・・。」
俺はいたたまれなくなって目を逸らした。
《こんな・・・こんなたまきの姿なんて見たくない!俺の為だっていうのは分かっている。けど・・・・こんなのはたまきじゃない!》
いつだって凛としていて、誰にも媚びないのがたまきだ。それなのに・・・・それなのに!俺のせいでこんな・・・・、
「もういいよたまき!俺は・・・・、」
そう言いかけた時、ダキニがクスクスと笑った。
「ああ!ほんっとに今日は最高!!あのたまきが土下座して謝るなんて!生きててよかったあ〜!」
ダキニは心底嬉しそうに微笑む。その顔は至福の喜びに満ちていて、まるで天国にでも昇ったかのようだった。
「たまき・・・顔を上げて。」
そう言われて、たまきはゆっくり顔を上げた。
「あんたの土下座・・・胸に響いたわ。だから願いを聞いてあげる。」
「・・・・ありがとう・・・。」
「でもね、無罪放免ってわけにはいかないわ。そこの坊やはまがりなりにも私に楯突いたんだもの。それなりの罰は受けてもらう。」
「待って・・・・・罰なら私が受けるから、この子には何もしないで・・・・、」
たまきはふらつきながら立ち上がり、ダキニに掴みかかった。そして「お願い!」と何度も叫んだ。
「ああ・・・・いいわあ・・・・なんか濡れてきちゃう・・・。後で抱いてあげましょうか?」
ダキニはゾクゾク身体を震わせ、たまきを押しのけた。そして俺の前までやって来て、凄まじい力で首を締め上げた。
「ぐがッ・・・・・。」
「悠一!!」
たまきは慌てて助けようとしたが、足がもつれて倒れ込む。そして盛大に血を吐いて、震えながら手を伸ばした。
「お願い!やめて!!お願いだから・・・・、」
「・・・・・イヤ。」
ダキニはニコリと微笑み、俺の目に指を向けた。
「本当は殺したいんだけど、たまきに免じて許してあげるわ。でもその代わり・・・・悠一君から光を奪うわね。」
「ひ・・・光・・・・?」
そう尋ねると、「目を潰すのよ」と微笑んだ。
「それくらいは当然の罰だからね。まあ動物と話せるんだし、目が見えなくてもそこまで困らないでしょ?」
「い・・・・嫌だ!離せこの野郎!」
「野郎はないでしょ、野郎は。一応女なんだから。」
ダキニは不機嫌そうに唇を尖らせ、俺の目を潰そうとしてきた。
「嫌だ!」
「ああ、動いちゃダメよ。他の所に穴が開くわよ?」
そう言ってブスリと肩に刺してきた。
「痛ってええええええ!!」
「悠一!!」
たまきは手を伸ばして叫ぶ。しかしもう立ち上がる力はない。力なく倒れ込み、悔しそうにダキニを睨んだ。
「やめてって言ってるでしょ!!それ以上手を出すんじゃない!!」
「あら?そんな言い方していいの?指が狂ってどこに刺さるか分からなくなるけど・・・。」
そう言って俺の頭に指を当て、クスクスと笑った。
「たまきともあろうものが、こんな坊やにそこまで執着するなんて・・・見損なったわ。」
「・・・・あんた・・・それ以上その子を傷つけたら許さない・・・・。」
「へえ?どうやって?」
「あんたなら分かるでしょ・・・・。恨みを抱いて死んだ神は、鬼や悪魔でも恐れる悪霊になる。もしそれ以上その子を傷つけたら・・・・私は絶対に許さない。悪しき霊魂となって、永遠にあんたを苦しめ続けてやるわ。」
「・・・・・それ本気?」
「本気よ・・・・。あんたとタメ張る私が悪霊になったら、どうなるかくらい分かるでしょ・・・・。」
たまきは赤く目を光らせ、歯を剥き出して睨んだ。
彼女の周りに黒い影が立ち昇り、まるで悪霊のような恐ろしい気配を放ち出した。
それを見たダキニは言葉を失い、じっと考え込んだ。
「・・・・仕方ないわね。こんな坊やの為に呪われるなんてゴメンだわ・・・。」
そう言って俺を離し、たまきの前に立ちはだかった。
「お望み通り、悠一君は助けてあげる。でもあんたには死んでもらうわよ?」
「・・・分かってるわ・・・・。どの道もう長くない・・・さっさとやって。」
たまきは死を覚悟したように力を抜いた。そして俺に向かって、「ごめんね・・・」と微笑んだ。
「わざわざ助けに来てくれたのに・・・・無駄になっちゃったわね・・・・。」
「たまき!嫌だよ!死なないでくれ!!」
「・・・・仕方ないのよ・・・・負けたんだから。でも私が死んだって、あんたは自分を責める必要はないのよ・・・・。たかが猫一匹死ぬだけ・・・・すぐに忘れるわ・・・・。」
「そんなことない!!俺は・・・・まだお前に何も返してないのに・・・・。」
悔しかった・・・。何も恩を返せず、ただ死ぬのを見ているしかないなんて・・・・。
しかしそこでふと思い出した。どうして自分がここに戻って来たのか、この手に握りしめている物を見て思い出した。
《そうだよ・・・・俺はたまきを助ける為にここへ来たんだ・・・・。
死にかけたアイツを見て動揺してたけど・・・・すっかり忘れてた・・・。》
このプロマイドを使えば、きっとダキニの中の浮幽霊を追い出せる。
でも・・・・その後はどうする?例えダキニを弱らせることが出来たとしても、俺の力では到底・・・・、
じっと考え込んでいると、たまきが「悠一」と呼んだ。
「ねえ悠一・・・最後に一つだけ言わせて・・・・。」
そう言って俺の目を見つめ、とても厳しい顔をしてみせた。
「あんたは・・・近いうちに選ばなければいけないわ・・・・。」
「選ぶ・・・・?」
「・・・藤井さんよ。あの子と共に歩むのか、それとも自分の道を行くのか・・・・。それがこの先の人生を分ける・・・・。」
「藤井が・・・・。そんなの決まってるよ!俺はあいつと一緒に・・・・、」
「いいから最後まで聞きなさい・・・。前にも言ったとおり、あの子はあんたに不幸を運んで来る。
今日みたいに・・・命の危険に晒されるような不幸を・・・・。」
「いや、これは藤井じゃなくて俺が勝手に・・・・、」
「違うわ。これはあの子が運んで来た災い・・・。今回は運良く生き延びたけど、次はどうなるか分からない・・・。だから・・・・あの子と別れなさい・・・。それがあんたの為よ・・・・。」
たまきは険しい顔でそう言った。間違った道に進む我が子を諭すように、穏やかな声でそう言った。
「・・・・それも・・・やっぱりご神託ってやつか?」
「そうよ、猫神のご神託・・・・。でも・・・受け入れるかどうかはあんた次第だけどね・・・。」
そう言って微笑むと、ダキニが苛立たしそうに「まだ終わらないの?」と唇を尖らせた。
「もう寸劇は充分でしょ?やっちゃっていい?」
「・・・・そうね・・・。でも最後にこれだけ・・・・。」
たまきは目を閉じ、お告げでも聞くかのように耳を澄ました。
「・・・一つだけ・・・・たった一つだけ、藤井さんと共に歩む方法があるわ。」
「そ・・・それはどんな方法!?」
「・・・どちらかが・・・動物と話せる力を消すのよ・・・。そうずれば、不幸を避けて同じ道を歩める。あの子と結ばれて、幸せな人生を送れるわ・・・・。」
「動物と・・・・話せる力を消す・・・・?」
いったい何を言っているのか分からなかった。動物と話せる力を消すって言ったって、いったいどうやって・・・・。
「なあたまき、それはどうすれば・・・・、」
そう尋ねようとした時、ダキニが「もうお終い」と遮った。
「充分待ったでしょ?これ以あんた達の寸劇は見てられないわ。」
ダキニはたまきの首を掴み、手の甲に血管を浮かび上がらせた。
「一撃でへし折ってあげる。長年のよしみだから、最後は楽に逝かせてあげるわ。」
そう言って指を食い込ませ、たまきの首を折ろうとした。
「やめろ!頼むからたまきを殺さないで・・・・・、」
そう言おうとした瞬間、短い音が響いた。それは空気を切り裂くような、乾いた音だった。
「これは・・・銃声!?」
乾いた音はもう一度響き、ダキニが「痛いわねえ」と唸った。
「誰よ?この私に鉄砲玉なんて食らわせたのは?」
そう言ってたまきから手を離し、前方の木立を睨んだ。
するとその中から、銃を構えた沖田が現れた。
「沖田!?なんでここに・・・・、」
「なんでもクソもあるか!そこの女ギツネを殺す為に決まってるだろ!」
そう叫んで銃を構え、ダキニの額に撃ち込んだ。
「だからあ・・・・痛いって言ってるじゃない。こんなもんぶつけないでよ!」
ダキニは銃弾を掴んでいた。額に当たったと思ったのに、いつの間にか掴んでいたらしい・・・。
「うるさい!お前・・・よくも人のことを利用してくれたな!」
「ん?何が?」
「とぼけるな!俺を洗脳してただろ!?」
「・・・・・・?」
ダキニは肩を竦めて首を振った。沖田は「とぼけても無駄だ!」と言い、銃を構えたまま近づいた。
「もう全部分かってんだよ!お前はわけの分からない術で俺を洗脳して、正気を狂わせていたんだろう?」
「知らないわ。」
「ウソつけ!お前は俺をさらった時に、こっそり洗脳をかけていたんだ!そして俺に有川を殺させようとした!」
「あれは自分でやったんでしょ?私は知らない。」
「まだとぼけるのか?いくら俺でも、人に銃を向けるほど堕ちていない!お前は俺を洗脳し、有川を殺させようとしたんだ!」
「何それ?こんな坊やを殺すくらい、自分でさっさとやるわよ。」
ダキニは話にならないという風に首を振った。
すると木立の中から誰かが現れ、「それはどうかしら?」と呟いた。
「・・・・ウズメ・・・あんたどうしてここにいるの!?」
ダキニは驚いて後ずさった。ウズメさんはニコリと笑い、「この子たちが呼びに来たんです」と手を向けた。
そこにはマサカリたちがいて、サッと俺の方に駆けよってきた。
「悠一〜!生きてたか!」
「マサカリ・・・・お前がウズメさんを呼んで来てくれたのか?」
「おうよ!あの後沖田が目を覚ましてな。ケツを噛み千切ってやろうとしたら、急に俺たちをつれて神社をワープしたんだ。
そうしたらベンジャミンの神社に出て、お前のピンチを伝えてくれたんだよ!」
「沖田が・・・・・。」
驚いて彼に目を向けると、「さっきは悪かったな・・・」と謝った。
「自分でもおかしいと思ってたんだ・・・。ダキニさらわれてから、どうにも自分じゃない違和感があった。お前に銃を向けるわ、挙句の果てには藤井を襲うわ・・・・。でも目が覚めたら、なんだかスッキリしてた。あの十字架で刺されたおかげかな?」
そう言って頬の傷を指して笑い、再び銃を向けた。
「お前が去った後、俺はベンジャミンの神社へ向かった。アイツに翔子を解放するよう説得しようと思ってな。そしたらお前らの言うウズメって奴がいた。俺はすぐにこの場で起きていることを伝えたってわけだ。」
「沖田・・・・。お前・・・ただのマザコンじゃなかったんだな!良い奴じゃないか!」
「いいや、良い奴じゃないし、ただのマザコンだ。今でもお前は嫌いだし、藤井を取られた嫉妬は消えない・・・。」
沖田は真剣な顔でそう言い、マサカリ達を見つめた。
「そいつらがな、必死にキャンキャン吠えるんだよ。ウズメに向かって、まるで気が狂ったように・・・。俺は動物の言葉は分からないけど、きっとお前を助けようと必死だったんだな。」
そう言ってマサカリたちに笑いかけると、照れくさそうに「はん!」と唸った。
「別にそんなんじゃねえよ・・・。ただ飼い主を助けるのは、ペットとして当たり前なわけで・・・、」
モジモジしながらそう呟くと、チュウベエが「ツンデレかよ」と突っ込んだ。
「うるせえな!インコは黙ってろ!」
「べ・・・別にアンタの為にやったわけじゃないんだからね!ただたまたまウズメがいたから、一応伝えただけなんだから!
・・・・・・ここまで言えよ、デブ。」
今度はカモンにからかわれ、「ぬうう・・・」と震えて怒っていた。
これ以上動物たちの漫才に構っていられないので、沖田に目を戻した。
「話を伝えると、ウズメはすぐに動いてくれた。まず俺にかかった洗脳を解いてくれて、その後別の神社へ行ったんだ。」
「別の神社・・・・?」
「ああ、伊破神社って所へ向かった。ウズメはそこで、オオクニヌシっていう神様に祈りを捧げたんだ。もし何かあった時は、力を貸してくれるようにってな。」
それを聞いたダキニは、「ウズメ・・・・」と睨んだ。
「余計なことするんじゃないわよ!これは稲荷の問題なんだから、他の神を干渉させないでよ!!」
「いいえ、もう稲荷だけの問題ではありません。あなたはこの国の神のルールを犯し、しかもその手で罪のない人間まで殺そうとした。これは到底許されることではありません。」
「それは悠一君のこと?殺してないじゃない。まだちゃんと生きてるわ。」
「ではどうして沖田を洗脳したんですか?あなたは沖田を利用して、悠一君を殺そうと企んだんじゃありませんか?自分が直接手を下せば、罪の無い人間を殺した責任を問われるから。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「もうオオクニヌシ様には全てを伝えました。きっと今頃、他の神々もこの光景をご覧になっていることでしょう。スマホやパソコン越しにね。」
そう言ってウズメさんは、ニコリとウィンクを飛ばしてきた。
「よく頑張ったわね悠一君。後は私に任せなさい。」
「ウズメさん・・・・・。」
ウズメさんが来てくれたおかげで、一気に安堵が押し寄せた。するとなんだか気が抜けてきて、その場にへたり込んでしまった。
「よかった・・・・助かった・・・・。」
ウズメさんはそんな俺を見てニコリと微笑みながら、そっとたまきを抱き上げた。
「たまき・・・・。こんなにボロボロになるなんて、らしくないわね。」
「・・・・そこの馬鹿が・・・・浮幽霊を利用するなんて・・・反則技を使ったからね・・・・。そうでなきゃ・・・・私が遅れを取ったりはしないわ・・・・。」
ウズメさんは「そうね」と頷き、たまきを沼に浸からせた。
「ここでじっとしてなさい。きっと山の気が傷を癒してくれるわ。」
「もう・・・無理よ・・・・。あまりに力を使い過ぎた・・・・・・。」
「弱気になっちゃダメ。私も手伝うから。」
そう言ってたまきの手を握り、「大丈夫」と励ました。
「悠一君、もうここは大丈夫よ。さすがのダキニ様も、これ以上は何も出来ない。この国の神様を敵に回しちゃうからね。」
「ウズメさん・・・・ありがとう・・・・。もうダメかと思ってた・・・・。」
「ふふふ、まだ弱気になる時じゃないわ。君には最後の大仕事が残ってるでしょ?」
ウズメさんは俺の肩を叩き、「翔子ちゃん・・・待ってるわよ」と言った。
「沖田に連れて行ってもらいなさい。そしてベンジャミンを説得して、必ず翔子ちゃんを助け出すの。」
「はい。それとベンジャミンも・・・・・、」
「知ってる、アカリちゃんと約束したんでしょ?彼女も向こうで待ってるわ。だから早く行ってあげて。」
そう言って俺の背中を押し、再びたまきを励ましていた。
「たまき・・・・生きろよ。俺はまだ何も返してないんだから、こんな所でくたばるなよ。」
「・・・・そうね・・・・まだ死ねないわ・・・。あんたがもう少し強くなるまでは・・・・。」
たまきは目を閉じ、「行って来なさい・・・」と言った。そしてウズメさんの手を握ったまま、眠るように気を失った。
俺は貫かれた肩を押さえ、じっと痛みを我慢した。
こんな傷は、たまきに比べたら屁でもない。アイツは死にかけながらも、俺を助けようとしてくれたんだから・・・・。
「沖田!ベンジャミンの神社まで案内してくれ!」
「ああ。でもこの女ギツネはどうする?放っておいていいのか?」
「・・・大丈夫だろ。コイツは計算高い奴だから、これ以上余計なマネはしないさ。」
ダキニはじっと黙っていた。宙を睨みつけ、静かに怒りを殺していた。俺は彼女の横を通り抜け、沖田の元に向かった。
するとその時、沖田が「危ない!」と叫んで銃を撃った。弾丸は俺のすぐ横をかすめ、後ろにいるダキニ当たった。
「有川!しゃがめ!」
そう言われて反射的にしゃがむ。するとさっきまで頭があった場所に、ダキニの爪が振り下ろされた。
「な・・・なんだ!?」
「・・・・もういい・・・もういいわ・・・・。」
ダキニはクスクスと笑い、凶悪に顔を歪めた。
「どうせ私の所業はこの国の神にバレた・・・。今さら大人しくした所で、稲荷の座を追われるのは目に見えている。
だから・・・全員殺す!!この場にいる者を、肉片一つ残さず叩き潰す!!」
ダキニは「ごおおおおおおお!!」と雄叫びを上げ、再び巨大な稲荷に変化した。
「どいつもこいつもカスばっかり!!チマチマ人の邪魔してくれやがって!!魂ごと食らい尽してやらああああああ!!」
そう叫んで俺を睨み、「まずはお前からああああ!!」と飛びかかってきた。
沖田は慌てて銃を撃つが、そんな物は全く効かない。まるで刀剣のような牙を剥き出して、俺に襲いかかってきた。
「うわあああああああ!!」
巨大な牙が目の前に迫り、もうダメだと固まった。しかし・・・・突然ダキニの動きが止まった。
「・・・なんだ・・・?」
震えながらダキニを見つめると、彼女の尻尾に何かが噛みついていた。
「ああ・・・・じいさん!!」
巨大な稲荷に変化したじいさんが、ダキニの尻尾に牙を突き立てている。
そして俺を見つめてニヤリと笑い、力任せにダキニを投げ飛ばした。

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