勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第四十七話 猫神様のご神託

  • 2014.12.14 Sunday
  • 13:15
JUGEMテーマ:自作小説
季節の移り変わりとは早いもので、暑い夏はあっという間に過ぎてしまった。
それから短い秋がやって来て、今では雪のちらつく冬になっていた。
あの一件から四カ月・・・・俺は電車に乗ってボロアパートに来ていた。
少し前まで俺が住んでいた場所・・・。今は入居者も少なくなり、俺が出て行って半月後に取り壊したが決まった。
「思えば・・・ここにも長いこと住んでたよなあ・・・。」
今から三年前、俺は仕事を辞めた。そして藤井と共に動物を助ける活動を始めた。
それから多くの動物に関わり、藤井と付き合うことになり、そして離れることになった。
それが今年の夏、とんでもない出来事に巻き込まれた。
稲荷だの化けタヌキだの・・・およそ常識では考えられない経験をした。
そして・・・・その経験はまだ続いている。
俺の隣には、その化けタヌキが立っているのだ。
「久しぶりだね、ここに戻って来るの。」
「ああ・・・もうじき取り壊されるからね。最後に見ておこうと思って。」
「ここには長く住んでたんだよね?」
「うん。就職してからだから、もう七年ほど住んでたよ。ここには色んな思い出がある・・・・。だから取り壊されるのはちょっと寂しいな。」
ボロいアパートはひっそりと佇んでいる。
俺の住んでいた二階の部屋には、数え切れないくらいの思い出が詰まっているけど、それももうじき無くなる。
しばらくアパートを眺め、じっくりと感傷に浸った。
そしてクルリと踵を返し、「行こうか」と呟いた。
「今日は猫神神社に行くんでしょ?」
「そうだよ。あそこへ行くのも久しぶりだ。」
「でも行って何するの?だってあそこにはもう・・・・・、」
そう言いかけて、マイちゃんは口を噤んだ。
そして慌てて話題を変え、「この前ノズチ君たらね・・・・、」と笑顔で喋りはじめた。
《別にそんなに気を使わなくてもいいんだけどな・・・。マイちゃんのこの性格、昔のままだな。》
俺は笑いを噛み殺し、彼女のお喋りを聞いていた。
猫神神社へ続く道は、俺にとって思い出深い公園を通ることになる。
ここで藤井と出会い、そして勇気を出して告白した。
しかし・・・もう藤井はいない。再び俺の前から去ってしまったのだ。
感傷に浸るのはボロアパートだけで充分だったのに、またもや切ない気持になる。
俺はマイちゃんのお喋りに耳を傾け、モヤモヤとした気持ちを誤魔化した。
公園を抜けて土手に立つと、川を挟んだ対岸に神社が見える。
山の麓にひっそりと建ち、主の不在を悲しんでいるように見えた。
「でね、その時にマサカリがノズチ君のお尻に噛みついて、そしたらノズチ君がプリッっておならをこいたの!そうしたらマサカリひっくり返っちゃって・・・・、」
マイちゃんのお喋りは止まらない。こういう時に、彼女の明るさは心を和ませてくれる。
俺はポケットに手を突っ込み、ゆっくりと土手を歩いて行った。
そして雪がチラホラと舞う中、猫神神社を見つめながら、あの夏のことを思い出していた。


            *****


ベンジャミンが天へ昇った後、すぐにウズメさんたちがやって来た。
そして無事に助け出した翔子さんを見て「よかったあ〜・・・」と胸を撫で下ろした。
「翔子ちゃん・・・怖かったでしょ・・・。どこにも怪我はない?」
「はい!有川さんが助けに来てくれましたから。」
「そう・・・悠一君が・・・。偉い!さすがはたまきの見込んだ男!」
そう言ってバシバシと俺の背中を叩き、ひっそりと佇む社を見上げた。
「ベンジャミンは・・・・もうここにはいないの・・・?」
「ええ・・・。アイツは報われない動物の魂と一緒に、天へ昇って行きました・・・。」
「・・・・そっか。ベンジャミン・・・・そこまで動物のことを・・・・。」
ウズメさんは悲しそうに目を伏せた。そして離れた場所で佇むアカリさんに気づき、彼女の方へ駆け寄って行った。
「アカリちゃん・・・・辛かったわね・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
アカリさんは何も答えず、ただ首を振っていた。そしてみんなから顔を隠すように背を向け、小さく肩を震わせていた。
ウズメさんは黙って寄り添い、その悲しみを受け止めるように肩を抱いていた。
その光景を見つめていると、「やりおったの」と声がした。
後ろを振り向くと、人間の姿に戻ったじいさんが立っていた。
「じいさん・・・・。俺・・・ベンジャミンを助けられなかったよ、ごめん・・・。」
「いやいや、そんなことはないぞ。たかが人間、ここまで出来れば充分じゃ。
それに・・・ベンジャミンも後悔はしておらぬじゃろう。
最後まで自分の意志を貫き、報われない動物の魂まで天へ運んでやったんじゃ。
奴も・・・きっと君に感謝しとるはずじゃ。」
そう言ってじいさんはスマホを取り出し、「ほれ」と見せつけた。
「アマテラス殿からのLINEじゃ。ベンジャミンは無事天の国へ辿り着いたそうじゃ。
しかし罪を重ねておるから、罰として少しの間だけ地獄へ行ってもらうがの。
じゃがそれが終わればまた天へ昇るじゃろう。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうした?黙りこくって。そんなにベンジャミンのことが気になるか?」
「・・・・じいさん、本当にアマテラスとLINE友達なんだな?
これ・・・アマテラスの写真か?めちゃくちゃ美人だな・・・・。」
スマホには光り輝く女神の写真が写っていた。ピースサインをしながら、その手に龍を抱えている。まるで猫でもあやすように・・・。
「お?やっぱりそう思う?でも連絡先は教えんからな!儂だって手に入れるのに苦労したんじゃから。」
そう言ってニヤニヤと笑い、嬉しそうにスマホを見つめていた。
《最初から最後まで掴みどころのないじいさんだな・・・・。》
苦笑いしながらじいさんを見つめていると、ふと大事なことを思い出した。
「そうだ!たまきは!?助かったんだろうな?」
そう言って掴みかかると、じいさんは暗い顔で俯いた。
「おい・・・どうした?まさか・・・・ダメだったとかじゃないよな?」
じいさんは言っていた。儂が責任をもってたまきを助けると。
それを信じて待っていたのに、そんな・・・・まさか・・・・、
「じいさん!たまきはどうなったんだ!?ハッキリ答えろ!」
胸倉を掴んでガクガク揺さぶると、「実は・・・・・、」と口を開いた。
「・・・・ダメじゃった・・・。儂は精一杯頑張ったんじゃが・・・無理じゃった・・・・。」
「そ、そんな・・・・たまきが・・・ダメだったなんて・・・・。」
「ああ、ダメじゃった・・・・。思い切ってデートに誘ったのに、アッサリと断られてしもうた・・・・。」
「・・・・は?」
「儂・・・・精一杯頑張ったんじゃよ。沼の力だけでは足りんから、儂の力も使って助けてやった・・・。これようやくデートに応じてくれると思ったのに・・・・『無理』の一言じゃった・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「なあ有川君!儂の何がいけなかったんじゃろうか!?やっぱりアレか?助ける時にコソコソ乳を覗いとったのがいけなかったんじゃろうか?それとも誘い文句がダメじゃったのかな?『儂・・・・良い店知ってるぜ。今度一緒にナマハゲの天ぷらでも食おう』なあ有川君!モテ期真っただ中の君なら分かるじゃろ?儂の何がいけなかった?ナマハゲじゃなくて、海坊主の刺身の方が良かったんかのう?なあ有川君!?」
「・・・・・・・・・・・。」
俺はじいさんを離し、後ろにいる動物たちを振り返った。
「マサカリ・・・・・じいさんのケツを噛み千切れ。」
「おうよ!」
「痛だだだだだ!やめんかブルドッグ!」
「うるせえ!こんな時にボケかましてんじゃねえ!」
マサカリは牙を突き立て、じいさんのケツに噛みつく。ビリビリっとズボンが破れ、じいさんは「ひゃあ!」と乙女のような声を出した。
「ひゃあ!じゃねえよ!真面目に答えろこのクソジジイ!」
もう一度胸倉を掴んで揺さぶると、「ぶ・・・無事!問題ない!」と叫んだ。
「たまきは助かった・・・。もう命に別条はない・・・・。」
「なら始めからそう言えよ!あんたの恋愛事情なんかどうでもいいよ!」
じいさんはショボンと落ち込み、「ウケると思ったんじゃがのお・・・」とお尻を押さえていた。
「たまきは助かった。もう全く、これっぽちも心配ない。」
「そうか・・・よかった・・・。で?たまきはどこにいるんだ?一緒に来てるんだろう?」
そう言って辺りを見渡していると、「ここにはおらん」と答えた。
「いない?どうして?」
「おらんもんはおらんのじゃ。ガタガタ言うな。」
じいさんは俺の手を振り払い、お尻を隠しながら遠い目をした。
《なんだ・・・?急に真面目な顔になって・・・。》
今までと違って、じいさんは険しい表情をしていた。
そしてじっと遠くを見つめながら、言いづらそうに口を開いた。
「たまきから伝言じゃ。もう・・・・君には会わんそうじゃ。」
「へ?俺には・・・会わない?どうして!!」
「・・・・それはたまきのみぞ知るじゃ。儂はそう伝言を頼まれただけじゃからな。」
そう言ってじいさんは踵を返し、お尻を隠したまま歩いて行く。
「おい!どこ行くんだよ?」
「帰る。」
「なんで!?」
「もう用は終わったからの。これからべっぴんの女神を口説きに行くんじゃ、ほんじゃまた。」
「イヤイヤ!ちょっと待てよ!」
慌ててじいさんを追いかけると、こちらを振り向いてニヤリと笑った。
「有川君、君にはもうたまきは必要ない。儂から言えるのはそれだけじゃ。」
そう言って軽快に走り出し、あっという間に遠くへ行ってしまった。
「おい!じいさん!何だよそれ!?ちゃんと説明しろ!」
こんな説明で納得出来るわけがない。そう思ってじいさんを追いかけたんだけど、全然追いつかなかった・・・・。
《クソ!なんだってんだよ!?こっちはずっと心配してたんだぞ!いきなり会わないなんてそんな・・・・、》
息を切らしながらじいさんを追いかけていると、一瞬だけこちらを振り返った。
「そんなに気になるなら、猫神神社に行ってみたらどうじゃ?もしまだ君に会うつもりなら、きっとそこにいるはずじゃ!バイなら!」
じいさんは車並みのスピードで駆けて行く。俺は追うのを諦め、息を切らして膝をついた。
「クソ・・・・何がバイならだよ・・・。ケツが破けてるクセに・・・・・。」
たまきがもう俺に会わないと言っている。そんなのをアッサリと受け入れられるわけがなかった。
そりゃあずっとアイツに甘えていていいとは思わないけど、でもいきなりさよならはないだろう・・・・。
こっちはまだお礼も言ってないのに・・・・。
「たまき・・・どうしたんだよ・・・?俺は・・・お前にまだ何も返してないぞ・・・。今まで助けてもらったお礼だって言ってない・・・。なのに・・なんでいきなり・・・・、」
地面に座り込み、がっくりと肩を落とす。・・・・いや、今は落ち込んでもしょうがないか。
じいさんが言っていたように、とりあえず猫神神社に行ってみよう。
きっと・・・・きっと俺を待ってくれているはずだ。
「今は戻るか・・・・。翔子さん達が待ってる。」
膝に手をつき、よっこらしょっと立ち上がる。するとどこからか「悠ちゃ〜ん!」と声がした。
「これは・・・藤井の声か?」
辺りを見渡すと、ベンジャミンの神社の方から一台の車が走って来た。
そして俺の手前で止まり、中から藤井が降りて来た。
「悠ちゃん!」
「藤井!」
藤井が駆け寄って来て、「よかった・・・」と俺の手を握った。
「ずっと心配してたの・・・・あの後どうなったんだろうって・・・。でも無事でよかった・・・。」
そう言って俺の顔を見つめ、薄っすらと涙を浮かべていた。
「藤井・・・・翔子さんは助けたよ。でもその代わりにベンジャミンが・・・・、」
「知ってる。翔子さんから聞いたから。」
「翔子さんから・・・・?」
「うん。だってベンジャミンの神社にワープしてきたんだもん。あの二人に運んでもらって。」
そう言って車の方に目を向けると、文江さんと寺市さんが乗っていた。
「な・・・なんで二人がここに!?」
そう尋ねて車に駆け寄ると、「悠一〜!!」と白い猫が飛び出してきた。
「ぐお!」
思い切り顔にぶつかり、その場に尻もちをついてしまう。
飛びかかってきた猫は、嬉しそうに首に抱きついてきた。
「も・・・・モンブラン!」
「えへへ!ビックリした?」
「当たり前だよ!お前・・・・助かったんだな!?よかった!」
モンブランを抱きかかえ、頭を撫でていると藤井が寄ってきた。
「間一髪だったんだよ。もう少し遅かったら助からなかったみたい・・・・。」
「そうなのか?藤井・・・・ありがとな。モンブランを助けてくれて。」
「ううん、私じゃないよ。お礼ならあの二人に言って。」
そう言って藤井は車の中の二人を見つめた。
文江さんと寺市さんは恥ずかしそうに車から降りてきて、モンブランの喉を撫でた。
「いやあ、この猫は危ないところでしたぞ。文江さんがいなかったらあの世へ行ってましたな。」
「そんな寺市さん・・・。せっかく助かったのにあの世だなんて・・・。」
「あ、あの・・・お二人が助けてくれたんですか?」
そう尋ねると、モンブランが「文江さんよ!」と答えた。
「なんか稲荷マジックを使って助けてくれたの。暖かい手を振りかざしたら、プワア〜って怪我が治っちゃった!」
「そっか。よかった、本当によかった・・・。」
俺はモンブランを抱きしめ、二人に頭を下げた。
「ありがとうございます。なんてお礼を言ったらいいか・・・・、」
「いえいえ、頑張ったのは私じゃなくて、藤井さんの方ですから、ねえ?」
「そうですぞ!そこのお嬢さんがモンブランさんを抱えて、必死に宿まで走って来られたんです。」
「そ・・・そうなんですか・・・?」
言われて藤井の方を振り返ると、なぜかバツの悪そうな顔をしていた。
「ごめんね・・・。なんか焦っちゃって、気がついたら氷ノ山の神社にワープしてたの。たまたまその二人がいてくれたからよかったけど、もしそうじゃなかったら今頃は・・・・、」
「いや、最高の選択だよ。やっぱりお前を信じてよかった。なあモンブラン?」
そう言って笑いかけると、「相変わらずドジだけどね」と答えた。
「あの時の藤井さん、混乱を通り越して、かえって真っ青になってたのよ。
もう一回別の場所にワープすればいいものを、そのまま宿まで走って行っちゃって。
あの時、ああ・・・やっぱりこれは藤井さんなんだなって思った。
だって一年経ってもドジっ子なんだもん。」
モンブランにそう言われ、藤井は顔を赤くして「ごめんね・・・」と謝った。
「謝らなくていいよ。コイツの性格を知ってるだろ?根っからひん曲がってるんだから。」
そう言ってモンブランをブラブラさせていると、翔子さん達がやって来た。
「有川さん!」
翔子さんは嬉しそうに駆け寄って来るが、藤井がいるのに気づいて止まった。
「ああ・・・ええっと・・・すいません・・・。邪魔してしまって・・・。」
伸ばした手をピタリと止め、苦笑いを見せる。
すると後から追いかけて来た冴木君が、「課長・・・」と息を切らした。
「ダメですよ・・・じっとしてないと・・・・。」
「平気よ。それにもう課長じゃないでしょ?元・課長!」
「そうでしたね・・・・。でも課長は課長だから、やっぱり課長なんですよ。」
冴木君がわけの分からないことを言っていると、御神さんが笑った。
「冴木君にとっては、翔子ちゃんは今でも課長なのよ。だから戻って来てあげれば?」
「・・・・・無理ですよ。ついこの前辞めたばっかりなのに・・・。それに私があの会社を辞めたのは・・・・、」
「分かってる。もっと大きな世界へ羽ばたきたかったんでしょ?でも冴木君が社長を押し付けられたのは、翔子ちゃんにも責任があるのよ。だったら稲松文具を去るのは、その責任を果たしてからでも遅くはないでしょ?」
「それは・・・・。」
翔子さんはバツが悪そうに目を逸らす。すると冴木君が「課長!」と手を握った。
「俺・・・・頑張りますから!稲松文具の為・・・いや!課長の為に頑張りますから!」
「どうして私の為に頑張るのよ?」
「いや・・・それはだって、その・・・・・、」
「どうでもいいけど、私はあの会社に戻る気はないから。お父さんにそれだけ言っといて。」
そう言って冴木君の手を振り払い、ツンとそっぽを向いてしまった。
「課長・・・・そんなこと言わずに戻って来て下さい。今ウチの会社がどれだけピンチか分かってるでしょ?課長がいないと、あのアホの重役連中だけじゃまとまらないんですよ。」
「そんなの知らない!自業自得じゃない!」
「課長お〜・・・・・。」
冴木君はまた手を握り、「いちいち触らないで!」と怒られていた。
なんだか稲松文具の人間にしか分からない会話が始まり、俺と藤井は顔を見合わせて笑った。
すると今度は、どこからか「逃げてえ〜!!」という声が響き、なにやらゴロゴロと転がって来た。
「あれは・・・・ノズチ君!?」
ベンジャミンの神社の方から、黒い塊が転がって来る。その後ろをマイちゃんと動物たちが追いかけていた。
「みんな逃げて!死んじゃうよ!」
「死んじゃうって言ったって・・・・逃げたらこのまま転がって行くじゃないか。」
後ろには道路が続いていて、その先には民家が並んでいる。
しかしこの妖怪に轢かれたら死ぬのは確実で、どうしたらいいのか焦ってしまった。
「な・・・なんだあれ・・・?課長!逃げましょう!」
冴木君はどさくさに紛れて翔子さんの手を引く。御神さんは誰よりも早く避難していた。
「ゆ・・・悠ちゃん・・・・どうしよう!このままじゃ・・・・、」
「ええっと・・・・受け止めるか?」
「無理だよ!ノズチ君の体当たりを食らったら死んじゃう!」
そう言っている間にも、ノズチ君は迫って来る。
俺は藤井を守るように立ちはだかり、「来い!」と足を踏ん張った。
しかしその瞬間、誰かがものすごい速さで俺の前に回り込んだ。
そしてドゴン!!と大きな音を響かせ、片手でノズチ君を受け止めていた。
「まったく・・・・乱暴なツチノコね。」
「う・・・ウズメさん!」
「悠一君も男ねえ、身を呈して彼女を守ろうとするなんて。」
ウズメさんは可笑しそうに笑って、ボールを投げるようにノズチ君を弄んでいた。
「ごめんなさい!お怪我はないですか!?」
「ん、大丈夫。」
そう言ってノズチ君を返すと、マイちゃんは「コラ!」と怒っていた。
「ダメじゃない、勝手に転がったら!」
「へん!仕方ねえじゃねえか。転がっちまったんだから。」
ノズチ君は悪びれる様子もなく、プイっとそっぽを向いてしまった。
「マイちゃん・・・よくここが分かったね。」
「うん、坂田さんが案内してくれたから。」
「そうか・・・・。で、坂田はどこに?」
「神社にいる。沖田の介抱してたよ。」
「アイツ・・・・沖田のことを見限ってなかったんだな。一人じゃないじゃないか。」
そう呟くと、藤井が「沖田君・・・洗脳されてたんだね」と言った。
「ああ、ダキニの奴にな。アイツは怖がってたよ、お前に嫌われることを。」
「・・・・・そっか。沖田君、ずっと寂しがってたんだね。」
そう言って悲しそうに目を伏せ、神社の方を見つめた。
「もし彼がちゃんと罪を償って出てきたら・・・・友達としてなら仲直りしてもいい。でも・・・・今はあんまり会いたくないかな。やっぱり色々と辛い事があったから・・・・。」
「それでいいと思うよ。お前だって色々と大変だったんだ。無理せずにゆっくり考えればいいさ。」
「そうだね。」
藤井は明るく笑い、こちらに走って来る動物たちに手を振った。
「みんな!モンブラン助かったよ!」
そう言って俺の手からモンブランを奪い、ブラブラと振ってみせた。
「おお!バカ猫が復活してやがる!」
「誰がバカ猫よ!このデブ犬!」
「口の悪さは治ってないな。まあ治るわけないか、バカだから。」
「インコにバカって言われたくないわ!この鳥頭!」
「ていうかなんであの時沖田に飛びかかったんだ?しかも正面から。やっぱりバカじゃんか。」
「あんたら・・・・後でお尻の毛を噛み千切ってやるわ!」
「まあまあ、どうせこのオスたちはモンブラン以上のバカなんだから、怒っても仕方ないわよ。」
「マリナ・・・・それフォローになってないから。」
モンブランは藤井の腕から飛び出し、動物たちの方に走って行った。
そして本気でマサカリのお尻に噛みついていた。
「痛だだだだだ!やめろこのバカ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐその姿を見て、なんだか俺まで笑えてきた。
「なあ藤井、こいつら相変わらずだろ?」
「そうだね、でもこの方がみんならしくていいじゃない。」
藤井はそっと手を伸ばしてきて、俺の手を握った。
「ねえ・・・みんなそれぞれの居場所があるんだね。」
「ん?」
「だって見てよ。みんな自分たちの仲間と楽しそうじゃない。」
そう言って藤井が見つめた先には、確かにそれぞれの居場所を持つ者たちがいた。
冴木君と言い争う翔子さん。ノズチ君を叱るマイちゃん。遅れてやって来たアカリさんと話しているウズメさん。
それに・・・・我が家の動物たちだ。
みんなそれぞれに仲間がいて、居場所がある。
俺はそんな光景を見つめながら、藤井の手を握り返した。
「誰だって自分の仲間がいて、居場所があるもんさ。今はそうじゃない人間がいたとしても、いつかはきっと手に入れられる。」
「そうかな?だってベンジャミンは孤独の中で・・・・・、」
「いいや、アイツも動物たちの魂と一緒に昇っていったんだ。だから誰だって心を開けば一人じゃない。いつか・・・・俺が心を開いて、お前に好きだと言ったように。」
そう言って藤井に目を向けると、目を見開いて見つめ返してきた。
「なあ藤井・・・お前の居場所はここだよ。」
「・・・・・・・どこ?」
「いや、だから・・・・・。」
藤井は真っ直ぐに見つめてくる。俺は恥ずかしくなって目を逸らし、一つ咳払いをした。
「・・・・今から言うこと、臭いなんて思わずに聞いてくれよ。」
「・・・・・・うん。」
「その・・・・だから、ここがお前の居場所!俺の隣が・・・・お前の居場所だろ。」
ああ!恥ずかしい!なんだってこんな臭いセリフが出て来るんだ!?
しかし言ってしまったものは仕方がない。俺は赤面しながら藤井を振り返った。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・あの、藤井さん?」
藤井は黙ったまま俺を見つめている。何も言わず、ただじっと射抜くように・・・・。
「や・・・やっぱり臭かったかな?いや、今のは忘れて!な?」
苦笑いしながら肩を叩くと、藤井は動物たちの方に目を向けた。
「・・・私ね、ずっと戻りたいと思ってた・・・・。」
「ん?どこに?」
「悠ちゃんの隣。マサカリがいて、モンブランがいて、カモンとチュウベエ、それにマリナがいて・・・・あとあの古いアパート。あのオンボロな部屋で、悠ちゃんやマサカリ達と一緒に、また昔みたいにみんなで動物を助けたかった。」
藤井の顔が、一瞬だけ辛そうに歪んだ。そしてそれを誤魔化すように、サッと顔を逸らしてしまった。
「・・・そうか。ならそうしよう。」
俺は藤井の肩を抱き、こちらを向かせた。
「実はな・・・・ベンジャミンに頼みごとをされたんだ。」
「頼みごと・・・・・?」
「ああ、ダキニの代わりに、最後のミッションを出された。・・・・なんだと思う?」
たっぷり間を取って、ちょっと演技臭く顔を作ってみる。
すると藤井は「ペット探偵のこと?」と答えた。
「あ、ああ・・・・。なんだよ、知ってたのか・・・。」
「だって言ったじゃない、翔子さんから話を聞いたって。」
「そ・・・そうだったな・・・。」
せっかくカッコをつけたのに、逆に恥をかいてしまった。
しかし気を取り直し、もう一度真剣に言った。
「俺はベンジャミンのミッションを受けることに決めた。沖田のやっていたペット探偵・・・・・俺が引き継ぐよ。」
「悠ちゃん・・・・・。」
藤井は潤んだ瞳で見つめて来る。そして俺の手を握りしめ、ニコリと微笑んだ。
「あのね悠ちゃん・・・・・。」
「ん?」
「やめた方がいい。」
「・・・・・え?」
「悠ちゃんが考えてるほど、ペット探偵は甘くないよ。ただ動物が好きってだけじゃ、絶対に続かない仕事だから。」
藤井はいつになく真剣な目で睨んでくる。俺は「ええっと・・・・」と頭を掻きながら、予想もしない反応にただ困っていた。

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