勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第四十八話 猫神様のご神託(2)

  • 2014.12.15 Monday
  • 12:36
JUGEMテーマ:自作小説
藤井が俺を睨んでいる。いつになく真剣な目で、じっと俺の目を射抜いている。
ベンジャミンの頼みを受けてペット探偵になると言ったら、アッサリと「やめた方がいい」と言われた。
「悠ちゃんが考えてるほど、ペット探偵は甘くないよ。ただ動物が好きってだけじゃ、絶対に続かない仕事だから。」
「え・・・ええっと・・・それは・・・・、」
「本気でペット探偵を始めるつもりなら、それなりの覚悟が必要だよ。
どんなに酷いことを言われても耐える覚悟、キツイ割にはお金にならない覚悟。
それに・・・辛い状況に置かれる動物を目の当たりにする覚悟。
そういうのがなければ、絶対に続かないよ。」
「いや、でもこれはベンジャミンからのミッションで・・・・、」
「でも引き受けたのは悠ちゃんだよ?」
「ま・・・まあそれはそうだけど・・・・。」
「もし安易な気持ちで引き受けたんなら、それこそベンジャミンに失礼だと思う。
だから・・・・こんな言い方をしたら傷つくかもしれないけど、もし私をアテにしてるならやめた方がいい。
経験のある私と組めば、それなりに出来るんじゃないか?だから藤井を誘ってみようか?
もしそんなことを考えてるなら、絶対に続かないよ。」
「いや、そんなつもりは・・・・・、」
「じゃあゼロから始める気だった?自分一人の力で、ペット探偵の仕事を出来るつもりだった?」
「いや・・・そりゃちょっとは考えたけどさ。でもお前だって沖田の元に行ったじゃないか。
アイツに誘われてペット探偵を始めたんだろ?違うか?」
「・・・・・・・・・。」
藤井は潤んだ瞳のまま見つめてくる。その瞳には怒りとも悲しみともつかない色が浮かんでいて、思わず目を逸らした。
「悠ちゃん・・・・すぐに答えを出さなくていいよ。これはとっても大事なことだから、よくよく考えてから決めた方がいいと思う。」
そう言って俺の手を離し、動物たちの方へ走って行った。
《経験者は語る・・・・か。あの芯の強い藤井がここまで言うんだ。よっぽどキツイ仕事なんだろうな。》
確かに俺は安易に考えていたかもしれない。
けどベンジャミンと約束したのに、今さらやめるなんて言えない。
アイツは自分を犠牲にしてまで、報われない動物の魂を救ったんだ。
そして・・・そんなアイツがわざわざ俺に頼んできた。ペット探偵をやれ・・・と。
《ベンジャミン・・・・お前は言っていたな。何をもってクリアとするかは、自分で決めろって。だったら・・・俺はまだ何も決められないよ。だって一歩も踏み出してないんだから。だからやってみるよ・・・。自分がクリア出来たと思えるその日まで・・・・・。》
藤井が何と言おうと、俺の決意は固まっている。
しかしペット探偵について、何一つ知らないのも事実だ。
これから勉強する必要があるし、藤井の言うように覚悟も必要だ。
そう思いながら空を見上げていると、「何考えてるの?」と肩を叩かれた。
「マイちゃん・・・・。ちょっとこれからの事を考えてたんだ。」
「それってペット探偵のこと?」
「そうだけど・・・・今の聞いてたの?」
「うん、思いっきり聞こえてた。」
そう言って藤井の方を見つめ、ヒソヒソと耳打ちをした。
「・・・藤井さんって・・・・けっこう厳しいね・・・・。」
「ん?まあ・・・・甘い奴ではないな。けど良い奴だよ。」
「・・・・そっか。悠一君が言うなら、きっとそうなんだろうね。」
マイちゃんはニコリと笑い、ノズチ君を投げて来た。
「おわ!」
「ノズチ君・・・・悠一君のこと認めたみたいだよ。」
「へ?」
ノズチ君はチロチロと舌を出しながら、「へん!」と唸った。
「お前・・・・ベンジャミンから友達を助け出したんだって?中々やるじゃねえか。」
「ああ・・・どうもありがとう・・・。」
「やっぱ女の為に命を懸けるのが男だよなあ・・・。見直したぞボンクラ。」
「見直したなら、そのボンクラっていうのはやめてくれないか・・・?」
「それはこれからのお前の活躍を見てからだ!」
そう言ってマイちゃんの方に飛んで行き、「いっちょ手を貸してやるか!」と叫んだ。
「なあコマチ!藤井は乗り気じゃないみたいだ!だったら俺たちが手を貸してうやろうぜ!」
「そうだね。これからも悠一君の家にお世話になるんだし、何かお手伝いをしないとね。」
「ちょ・・・ちょっと待って!それはもしかして・・・・・、」
「決まってるでしょ!ペット探偵のお手伝いをするの!」
「そ・・・それ本気・・・?」
「もちろん!だって私は化けタヌキなんだよ?きっと悠一君の役に立てるよ、ね?ノズチ君。」
「へん!コマチは役に立っても、そっちのボンクラが足を引っ張るかもな!」
二人はやる気満々の様子ではしゃぎ合っている。
「マジかよ・・・・。でも・・・・でもこれは・・・・、」
・・・・これは嬉しかった。きっと一人では手に余るだろうと思っていたから、力を貸してくれるのはとても助かる。
「おお、喜んでるぜ、あのボンクラ。」
「ボンクラって言うな。」
「ふふふ、大変だろうけど、これから一緒に頑張ろうね!」
マイちゃんはポンポンとノズチ君を放り投げ、明るくはしゃいでいる。
すると動物たちが駆け寄って来て、ニヤニヤした顔を向けてきた。
「お前ら・・・・言いたいことは分かってる。でも何も言うな。」
「いやいや、別に俺たちは・・・・なあ?」
「そうよお〜。別に誰を選ぼうが、それは悠一の自由だからねえ〜。」
「まあ俺たちは藤井とくっついてくれたら嬉しいけど、さすがにそこまでは口を出せないからな。」
「でも相手はタヌキだぜ?マリナ、お前がコマチの立場だったら、悠一と付き合えるか?」
「無理。私はマッチョで頼りがいのある男がいいの。」
「・・・・・何も言うなって言っただろ・・・。」
俺は動物たちから顔を逸らし、誤魔化すように咳払いをした。
するといつの間にか文江さんと寺市さんがいなくなっているのに気づいた。
「ありゃ?あの二人またいない・・・。いっつも知らない間にいなくなってるな。」
そうぼやいていると、藤井が手を引っ張って来た。
「ねえ、みんな帰って行っちゃうよ。」
「へ?」
言われて目を向けると、いつの間にかみんながいなくなっている。
「どこ行ったんだ・・・・?」
「だから帰って行っちゃったんだって。私たちも帰ろ。」
藤井は俺の手を引き、ベンジャミンの神社へ向かう。
「悠ちゃんがコマチさんとイチャイチャしてる間に、みんな行っちゃったよ。」
「藤井・・・お前までからかうなよ。別にマイちゃんとは何も・・・・、」
「分かってる。でもなんか恋人同士みたいに見えたよ。意外とお似合いだったりして?」
「だからあ・・・・そんなんじゃないって!」
藤井がからかうせいで、動物たちがまた冷やかしてきた。
俺は無視を決め込むが、藤井と動物たちはさらにからかってくる。
《まったくコイツらは・・・。でも・・・嫌いじゃないな、こういうの。》
・・・・藤井と手を繋ぎ、動物たちと歩いていく。
楽しく笑い声が飛び交い、なんだかとても懐かしい気分になった・・・。
《ほんの一年前までは、こんな時間を過ごしていたんだよな・・・。でもこれからはどうなるんだろう?
この先も、ずっとみんなで笑い合っていられるのかな?》
藤井と動物たちは昔みたいにはしゃぎ合い、俺の不安もそよに笑っている。
神社に着くとみんなが待っていて、沖田も目を覚ましていた。
沖田は藤井に謝り、これから坂田と一緒に警察に行くと言った。
藤井は黙って聞いていたが、最後に「またね・・・」とだけ返していた。
みんなで社の前に立ち、主のいなくなったその佇まいを見つめた。
ウズメさんは「すぐ別の稲荷が来るわ」と言い、稲荷に変化した。
《ウズメさんも中々に怪獣みたいだよなあ・・・。さすがはダキニが一目置くだけある。》
初めて見るウズメさんの稲荷姿。それはとても迫力があり、同時に美しかった。
そして大きな尻尾でみんなを包み、「それじゃ帰りましょう」と社に飛び込んだ。
激しい風が駆け抜け、ベンジャミンの神社から遠ざかっていく。
それはまさに、この大変な夏が終わりを告げる瞬間であった。
《ベンジャミン・・・・俺は約束するよ。きっと・・・お前の期待に応えてみせる。》
天に昇った稲荷を想い、瞬く間に別の神社へと辿り着いた。
そこは俺がバイトをしている銭湯から、少し離れた場所にある神社だった。
ひっそりとした林の中に、赤い鳥居が立っている。
のどかな田園が広がり、俺の街に戻ってきたことを実感した。
「ここは私の神社ね。じゃあみんな・・・・今日のところはとりあえず解散ということで。私とアカリちゃんはこれから忙しくなるから、白髭様の所に行って来るわ。それじゃまた。」
そう言ってウズメさんとアカリさんは、再び神社をワープしていった。
残された俺たちはどうしていいか分からず、困ったように突っ立っていた。
しかしすぐに大事なことを思い出し、慌てて神社から駆け出した。
「おい!どこ行くんだ!?」
「猫神神社だよ!お前らは家に戻ってろ!」
マサカリにそう言い残し、一目散に猫神神社へ駆けて行く。
そして息を切らして走ること十数分・・・・ようやく猫神神社へ続く階段に辿り着いた。
「たまき・・・・。」
階段の先には、石造りの重々しい鳥居が見える。その先には社があって、きっとたまきが待っているはずだ。
階段はとても急だが、それでも力を振り絞って駆け上がった。
そして・・・・見慣れた神社の前に辿り着いた。
辺りはシンと静まりかえっていて、誰もいる気配がない。
「たまき!」
名前を呼びながら、グルリと神社の周りを回った。
「いるのか!?いたら出て来てくれ!」
何度も呼びながら、くまなく神社を捜していく。
境内の下、岩の後ろ、根っこの窪み、思いつく限りの所を捜したけど、どこにもいなかった。
「たまき・・・・・。」
ここにはいない・・・・。そう思うとなんだか力が抜けてきて、境内に腰かけた。
「きっと・・・まだ帰って来てないだけなんだ。明日か明後日か・・・・一週間後か・・・きっと戻って来るはずだ。
アイツが顔を見せないなんてしょっちゅうだから、きっとそのうち戻ってくるはずさ。」
そう自分に言い聞かせ、神社の庭を見つめた。
狭い庭には草が覆い茂り、蚊が飛んできて肌を刺す。
いつもなら叩き潰すのに、今日はそんな気力もなく項垂れていた。
・・・・・本当は・・・・本当はもう分かっている・・・・。
きっとアイツは、本当に俺に会わないつもりなんだ・・・・。
たまきはいつだって嘘は言わない。
だから俺に会わないと言ったなら、それはもう二度と会うつもりがないんだろう。
それは分かっている。でも・・・・認めたくなかった。
「たまき・・・なんでだよ・・・。なんで急にいなくなる・・・?お前が・・・・お前が俺の人生を変えてくれたんだろ?
心を閉ざしていた俺に、堂々としてろって励ましてくれたじゃないか・・・・。それなのに・・・・さよならも言わずにいなくなるなんて・・・・・酷いよ・・・。」
俺にとって、たまきは特別な存在だった。
ある意味じゃ、藤井よりも大切な存在だった・・・・。
マザコンと言われようが関係ない。たまきは・・・・俺の人生を導いてくれた、もう一人の母だった。
産みの親でもないし、血も繋がっていない。そもそもアイツは、人間ですらない。
それでも・・・それでも俺にとっては、間違いなく母だった。
「たまき・・・・もう会えないのか・・・?本当に・・・・俺の前からいなくなるのかよ・・・・。」
頭を抱え、声を押し殺して泣いた。
せっかく全てが終わったのに、その代償がこれとは・・・・・納得出来なかった。
だからもう一度会いたい。せめて・・・・今までのお礼を言わせてほしい。
お前のおかげでここまで来れたと・・・・。ありがとうと言わせてほしい・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・。」
頭を抱えたまま、ずっと境内に座っていた。
何度も蚊に血を吸われたが、そんなことすら気にならない。ただたまきに会いたかった・・・。
日が傾くまで、俺はずっと猫神神社にいた。
オレンジ色の陽が射しこみ、神社を赤く染めていく。
いくら待ってもたまきが来ないことは分かっていたけど、それでもここから離れたくなかった。
だからずっと神社にいた。
心配した藤井たちがやって来るまで、ずっと・・・・・。


            *****


チラホラと降る雪を眺めながら、あの夏のことを思い出していた。
気がつけばもう猫神神社の前まで来ていて、社に続く階段が伸びていた。
「なんだか本当に久しぶりって感じだな。一年も経ってないのに・・・・。」
そう呟くと、マイちゃんが「それだけ思い出深い場所ってことだよ」と言った。
「ここは悠一君にとって特別な場所なんでしょ?だからずっとここを求めてたんだよ。
ただ・・・・もうたまきさんがいないから、近づくのを避けてただけで・・・・。」
「そうだな。ここは俺にとって特別な場所だ。今までも、そしてこれからも・・・。」
神社へ続く階段を見上げると、葉を落とした木々に囲まれていた。
夏とは違って、とても寂しく感じる。階段から冷たい風が吹き下ろし、ヒリヒリするような冷気を運んできた。
「行こ。」
マイちゃんは先に走って行き、「早く!」と手招きをした。
「たまき・・・・俺はまだ諦められないよ・・・。もう一度だけでいいから、お前に会いたい。」
階段を見上げ、ゆっくりと足を踏み出す。マイちゃんは「早く早く」と手をパタパタさせ、飛び跳ねるように上っていった。
俺は枯れた葉っぱを踏みしめながら、足元を確かめるように上っていく。
葉を落とした木々を縫いながら、階段を上がって社の前に立った。
「・・・・変わってないな。まあそんなに時間が経ってないから当たり前だけど。」
時の重みを感じさせる、石造りの鳥居。そしてこれまた時代を感じさせる、ボロくて傷んだ社。
境内には葉っぱが積もっていて、ここには誰もいないという寂しさを感じさせた。
「またしんみりしてる。」
「・・・ここへ来ると、どうしてもたまきのことを思い出すから・・・。」
「仕方ないよ、急にいなくなっちゃったんだもん。こういう時は、暖かい物でも飲めば落ち着くよ、ほら。」
マイちゃんは薄いピンクのコートから、缶コーヒーを取り出した。
「買っといたんだ。きっと寒くなると思って。はい。」
「ああ、ありがとう。」
俺たちは缶コーヒーを握りしめ、葉っぱを払って境内に腰かけた。
山から冷たい風が吹き下ろしてきて、思わずブルリと震えた。
さっそく缶コーヒーを頂き、空きっ腹の胃に流し込んだ。
「・・・ああ・・・・暖かい・・・。」
「でしょ?寒い時は暖かいのが一番。心も身体もね。」
「そうだね・・・なんか気持ちまで暖かくなってくるよ。」
缶コーヒーを飲みながら、しばらく神社の庭を眺めていた。
夏に茂っていた雑草はなりを潜め、今は薄茶色の茎だけが残っている。
遠くに広がる景色も、随分と色を失くしてサッパリとしていた。
《・・・・寂しく感じる。けど・・・どこかスッキリして気持ちよくもある。》
夏のように騒がしくなく、静かな空気だけが街を包んでいた。
マイちゃんは相変わらずお喋りを始め、身ぶり手ぶりで話しかけてくる。
俺は相槌を打ちながら、ふと階段に目をやった。
一人のおばさんが、何やら神妙な顔で入って来る。
そしてお賽銭を投げ入れ、熱心に何かを祈っていた。
《ペットでもいなくなったのかな?思い詰めた顔をしているけど・・・もしかして死んだとか?》
ズズッと缶コーヒーをすすり、おばさんを見つめた。
するとまたもやあの夏のことが思い出され、小雪の舞う街を眺めながら記憶に浸った。

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