第十話 僕の相棒は君しかいないさ(3) 

  • 2010.04.28 Wednesday
  • 16:54
 工場の外はまだ夕方の明かりが残っていて、逃げて行ったレイを追うのには問題はない。
スカリーは先ほどまで人質になっていたとは思えないほど精神的な消耗は見せず、俺と並んでレイが消えていった方へと勢いよく走っている。
スカリーを取り戻せたことで俺の中の不安と焦りはほとんど解決されたが、それは個人的な問題で、FBI捜査官の身分としてはレイを捕まえるまでは完全に安心することは出来ない。
人通りの少ない入り組んだ路地が続き、もはやレイの姿は見えない。
しかしスカリーが自分が誘拐され、閉じ込められていた場所は覚えていたのでおそらくレイもそこに逃げ込むつもりだろうということで、俺達は必死にその場所を目指していた。
「スカリー、君が閉じ込められていたのはどんな場所なんだい?」
走りながらも冷静に彼女は答えてくる。
「この辺りには他にも廃工場があるのよ。その工場内の一室に閉じ込められていたわ。
レイの他に数人の話し声が聞こえていたから、組織的な犯行じゃないかしら。」
レイはいつも我々と言っていた。
やはり彼は何らかの組織の一員であり、先ほどスキナーが言っていた「レイを調べていたら分かったことがある」という言葉もそれに関係するものだろう。
「そしれにしても。」
スカリーが俺の方を見ながら言った。
「何で服を着ている時、あんなに恍惚とした表情だったの?
もしかして、また変態度が増したのかしら。」
その言葉に反論は無く、俺はこのまま変態度が増していけば、一体どんな変態的行為に及ぶのだろうと悲しくなってしまう。
しかしそこから新たな快感が得られるのなら、それはそれでいいかもしれないと思ってしまう自分が情けなくなる。
とりあえず今は俺の変態に関することは置いておくとして、レイの後を追うのが先決である。
連れてこられた道のりを把握しているスカリーが先導し、俺はまだ少し金的蹴りの余韻が残るあれを気にしながら彼女に着いて行った。
10分ほども走った頃、スカリーが急に足を止めた。
「ここよ。」
それは俺達がいたのと同じような廃工場で、中からはやはり錆びた鉄の臭いが漂っていた。
「敵は一人じゃないはずだ。慎重に進もう。」
そう言って俺は拳銃を構え、スカリーを俺の後ろに下がらせた。
中に入ると錆びた鉄とは別の異様な臭いが漂っていて、これはキバールの部屋で嗅いだ悪臭と良く似ていた。
俺とスカリーがあまりの臭いに鼻を押さえていると、裸にオムツを穿いた数人の男を引き連れたレイが現れた。
「やあ、お二人さん。ようこそ我がアジトへ。」
高らかに笑いながら、裸のままのレイが俺達を歓迎するかのように言った。
「お前を誘拐の容疑で逮捕する!観念しろ!」
拳銃をレイに突き付け、一歩前へ出た。
「ふふふ、逮捕ねえ。
モルダー、私は大いなる目的の為に動いている。
それは君たち一般人には理解し難いだろうがねえ。」
目を細めながら薄ら笑いを受けべてレイが続ける。
「何故私だけオムツをしていないか分かるかね?」
そんなものは分かりたくもない。
だが是非聞いてくれと言わんばかりの目をしているので一応聞いてやった。
「何故だ?」
他のオムツを穿いている男たちは急にしゃがみ込み、両手を上げてレイを称えるような仕草を始めた。
「それはねえ、俺が完全体となったからだ。」
「完全体?」
何のことか分からず、思わず聞き返した。
「どういうことかと言うと、自分の排泄を完全にコントロール出来るようになったのだよ。
もう私にはオマルもオムツも必要ない。
これがどういうことか分かるかね?」
分かりたくもないが、聞き返してほしそうな目をしていたので一応聞き返した。
「分からない?どういうことだ?」
そう言うとレイはタップリ間を取ってからこう言った。
「トイレを我慢する必要が無くなったのだよ。」
「何だって?」
「友達といる時、恋人とデートしている時、映画を見ている時、仕事をしている時、我々はいつも排泄という行為の為にその有効な時間を割くことになる。
せっかくの大事な時間なのに。
だがまだトイレに行ける状況ならいいとしよう。
しかし考えてみたまえ。
彼女との初デートで映画館を選んだとする。
その時に強烈な尿意がもよおしたとしよう。
初めてのデートの時に「オシッコに行きたいからちょっと抜けてくるわ」などと言えるだろうか。
もしそんなことをすれば初デートでの彼女に対する印象は間違いなくマイナスだ。
結局男は彼女の好意を取るか、オシッコを取るかで肉体的にも精神的にも追う詰められて疲弊してしまうだろう。
初デートなのに。」
確かに一理ある。
しかしスカリーは呆れ顔で枝毛を探していた。
「それだけじゃない。
大事な仕事の会議中、急にもよおしてきたとしよう、大の方が。
こんな所で漏らすわけにはいかない。
しかし途中でウンコをしたいのでトイレに行かせて下さいと言うのには相当な勇気がいる。
結局この場面でも肉体、精神共に大きな負担を強いられることになる。」
それも一理ある。
しかしスカリーは見つけた枝毛を抜いていた。
「分かるかね。排泄を完全にコントロールするということは、日々のこのような場面で便意、尿意に悩まされて有意義な時間を台無しにせずに済むということなのだよ。
もし人類がこの技をマスターすれば、世の中はもっと効率的に発展していくことだろう。」
周りのオムツの男たちが「ミスター・レイ!」「ミスター・レイ!」と両手を上げながら歓喜の声で称えている。
俺も確かにその理屈は何となく分かるなと、妙に納得してしまった。
「ここにいるオムツを穿いた男達はまだ修行中の身でね。
しかし後半年もすればかなり完全体に近づくはずだ。
どうだ、素晴らしい理想計画だと思わんかね。」
クソ!以外に理屈の通った主張で、俺は反論することが出来なかった。
こんなことでは奴を逮捕出来ないというのに。
「さあ、我が弟子達よ。あいつらを捉え、我が同志にするのだ。」
レイがそう言うとオムツ姿の男達がわらわらとこちらへ迫ってくる。
うわあ!怖ええ!
凄まじいいまでの生理的恐怖だった。
拳銃を構えていた俺の手は震えだし、上手く照準を合わすことが出来なくなる。
もう駄目かと思った時、スカリーがレイに向かって言い放った。
「馬鹿な男。
それって結局今までのあなたの失敗談でしょ。
要するに、あんたは初デートの映画の途中にオシッコに抜けて、それが原因で彼女に振られた。
そして会社の会議中にトイレに行きたいと言えず、まあきっと彼女のことがトラウマになっていたんでしょうね、それでトイレに行きたいと言いだせないまま会議中に漏らしてしまった。大の方を。
そして恥ずかしさのあまり次の日から会社へ行けなくなった。
違うかしら。」
そう言ってスカリーは俺から拳銃を奪い取り、迫り来るオムツの男達を片っ端から撃った。
「ぐわあ!」「ぎゃあ!」
辺りに悲鳴がこだまする。
「安心しなさい。足を撃っただけよ。死にはしないわ。
さあ、レイ。私の主張はどうかしら?」
スカリーは撃った拳銃の煙をフッと口で吹き消し、腰に手を当てて凛として立っている。
俺は心の中で思わず「カッコイイぞ、スカリー!」と叫んでいた。
レイは青ざめた顔をして体中を震わせ、目には涙を溜めていた。
うおおおおおおおお!発狂したように叫び、両手で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「お前らに!お前らに何がわかるう!
俺はいつもここぞという時に排泄にうよる奇襲攻撃でチャンスを逃してきたんだ。
あの時だってそうだ!
有名な一流大学の試験中に急に尿意をもよおしてきた。
俺は漏らすよりマシだと思って途中でトイレに抜けたんだ。
そしたら時間が足りなくなって試験は不完全。
当然大学には落っこちたよ!
こんな話を上げればきりがない!
その苦しみを!辛さを!
お前らに分かってたまるかあああああ!
俺は俺と同じ苦しみを持つ奴を助けようとしただけなんだああああああ!」
発狂したレイは目の前でもがき苦しみ、やがてそれが収まるとゆっくりち立ちあがった。
「もう何かもかも終わりだ。計画に当てるはずだった一億円は手に入らず、同志は足を撃たれてもんどりうっている。
しかも俺の恥ずかしい過去を暴露され、もう手元にには何も残ってはいない。
こうなったらウンコ爆弾を爆発させてみんな巻き添えにしてやるう!」
そう言って工場の悪臭漂う奥の部屋に入り、中から鍵をかけて出てこなくなってしまった。
「ははは、このウンコ爆弾が爆発するまでのタイムリミットは5分だ。
こいつでみんなウンコまみれになればいいのさ、ははは!」
クソ!何とかこいつを止める手立ては無いのか!
焦る俺の肩に手を置いてスカリーが言う。
「大丈夫、落ち着いて。あなたなら、いいえ、私達ならきっとこの状況を何とか出来るはず。」
そう。そうだった。
今まで俺たちは二人でどんな難事件にも立ち向かってきたじゃないか!
何か、何か方法があるはずだ!
俺はしばらく考え込んだ末、あることを思いついた。
「スカリー、俺を信じて任せてくれるかい?」
彼女はニッコリと微笑み、優しく頷いた。
ようし、もう方法はこれしかない。
俺はレイが閉じこもった部屋に近づき、奴に言った。
「俺と勝負しよう!
どちらがオシッコを我慢できるか勝負するんだ。
お前が勝ったらそのウンコ爆弾を爆発させるがいい。
しかし俺が勝ったらウンコ爆弾を停止させて、大人しく自首するんだ。」
レイからの返事は無い。
俺は続けた。
「ここには修行の為に、オシッコをもよおさせるはずの水が大量にあるはずだ。
お互いにそれを飲んで、どちらがより耐えられるか勝負しようじゃないか!
それとも俺と勝負するのが怖いのか、この臆病者め!」
しばらく待った後、レイの閉じこもっていた部屋のドアが開いた。
「ククク、俺がビビるだと。この身の程知らずめ。
いいだろう。俺とお前のオシッコの我慢の差、どれほど開きがあるか見せてやろう。」
ここからは俺とレイの一騎討ちだ。
もし俺が負ければそこら中に悪臭が漂ってしまう。
何としても勝たなけれな!
「スカリー、何処かに水があるはずだ!
悪いが取って来てくれ!」
スカリーは頷き、足を撃たれてもんどりうっているオムツの男から水の在りかを聞き出している。
そして水を取りに行く途中、ポツリと言った。
「どっちが勝っても、臭いそうね。」
確かにそうだが、もうこれしか思いつかなかった。
そして俺は頭の中で言った。
俺のはそんなに臭くはないぞと。

                          第十話 またまたつづく
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