第十話 僕の相棒は君しかいないさ 最終回

  • 2010.04.29 Thursday
  • 13:10
 薄暗い工場の中で二人の男が立っている。
これから起こることは全人類の平和を守る、というくらいの大義であればいいのだが、現実にはこの辺り一体を汚物と悪臭から守る為のものである。
しかしそれであっても、これは男と男の一対一の果たし合いのようなもの。
大義名分の大小など、何処に関係があろうか。
俺は必ず勝つぞと気合を込め、スカリーが水を運んで来るのを待っていた。
「ふふふ、オシッコの我慢でこの俺に勝とうなど片腹痛いわ。
筋肉とアクションでしか魅せられないアーノルド・シュワルツネッガーっが、戦闘シーン無しのシリアスなラブロマンスで大ヒットを収めるよりも可能性が低いと知るがいい。」
「ふん、勝負なんてやってみなければ分からないさ。
俺は何としてもお前よりオシッコを我慢してみせる。」
大見栄は張ったものの、完全に排泄をコントロールしているレイに勝つのは容易いことではない。
しかし、FBIの、Xファイルの捜査官としてここは何としても勝たなければいけない。
とりあえずウンコ爆弾のリミットは解除させたので時間的猶予はあった。
スカリーが台車に大量の2リットル入りのペットボトルの水を運んで来て俺達の間に置く。
俺は覚悟を決めて「俺ならやれるさ!」と気合を入れた。
「モルダー。私はあなたを信じているわ。
だから離れた所であなたを見守っていることにする。」
そう言ってスカリーは俺達のそばから鼻を押さえて下がって行った。
どっちが勝手っても臭いそうと言ったスカリー。
近くでどちらかが漏らす光景など見たくはないのだろう。
しかしその言葉だけでも充分に励みになる。
「用意は出来たな。今からこの水をお互い10リットル飲み干す。
そして後はどちらがオシッコを我慢できるか勝負というわけだ。
いくぞ!」
言うが早いかレイはもうペットボトルの水をごくごくと飲んでいる。
10リットルって・・・。
飲むだけでも大変だぞ。
しかし弱音は吐いていられない。
俺もペットボトルの水をグイッと一気に飲み干した。
くそう!一本飲んだだけで水っ腹になりやがる。
レイはもう3本目を空けていた。
どんな胃袋をしていやがる。
俺も負けじと次々に水を飲んで行き、何とか10リットルを飲み干した。
お腹が妊婦のようになってしまい、面倒くさくなって服は全部脱いでしまった。
また裸だ。
マタニティ用の服が必要になりそうな体形の男が二人、裸でオシッコを我慢してる。
スカリー。君の目に今の俺はどう写っている。
10リットルの水の威力は半端では無く、さっそく尿意をもよおしてきた。
我慢しようにも次々と襲いかかる尿意は容赦無かった。
俺はスキップをしながら尿意を誤魔化していた。
「ははは、その程度でもうそんな状態に追い込まれているとは笑止千万。
俺など腹筋の力だけで荒れ狂う膀胱を抑えているわ!」
レイは平然と言いながら笑い、スキップに捻りを加えてオシッコを我慢する俺を嘲笑っている。
駄目だ。このままでは!
俺はレイの下腹部を蹴った。
「ぐぼう!何をする!?」
焦り出して俺と同じようにスキップをするレイ。
裸の男が二人、スキップをしながらオシッコを我慢している。
スカリー。君の目に今の俺はど写っているのだろうか。
俺はさらにレイの下腹部を蹴った。
スキップをしながら。
「やめろ!卑怯だぞ。」
レイのスキップの速度が増す。
「これはバトルロワイヤルだ。
誰もじっとオシッコを我慢するとは言っていない!」
「畜生!」
そう言いながらレイの蹴りも俺の下腹部を捉えた。
「ぐふ!この野郎!」
そう言って俺も蹴り返す。
そんな応酬が何度か続き、俺達のスキップの速度は音速近くまで達していた。
裸のままで。
「クソ!このままではらちが明かない。
いずれお互い音速の壁に衝突して、その衝撃で漏らしてしまう。」
もしそうなってもドローだが、それは俺のプライドが許さなかった。
「これはやりたくなかったが最後の手段!くらえ!」
俺は強制的にレイにオムツを穿かせた。
「あ、貴様!」
次の瞬間、レイの緊張していた顔が弛緩し、オムツの色と体積が明らかに変わっていった。
「まさか、こんな手で俺が・・・。」
吸いきれなオシッコがオムツから溢れ出ている。
それと一緒にレイの目からも涙が溢れていた。
「考えたな、モルダー。裸で何も守る物が無いという緊迫感から、急にオムツをさせられることによって「ああ、この中でしてもいいんだ」という安堵感がオシッコを我慢させる意識を刈り取る。
実に高度な心理戦だ。悔しいが俺の負けだよ。」
何処か健やかになった表情のレイが俺に言った。
「レイよ。排泄というのは確かに俺達の有用な時間を邪魔することもある。
しかし、排泄というのはごく自然な生理現象なんだ。
お前は自分の悲しい過去に排泄を当てはめて、それを歪めていただけだ。
これからはトイレがある時は我慢せず、思いきりしたらいい。」
レイの肩に手を置いて優しく語りかけると、奴は大声を出して泣き始めた。
「くそう!完全に俺の負けだ!お前の言う通り、ウンコ爆弾は爆発は停止させて、大人しく自首しよう。」
やれやれ、これでこの事件も解決だ。
スカリーが鼻を押さえながらこちらへやって来る。
「やったわね、モルダー!きっとあなたが勝つと信じていたわ。」
鼻声でスカリーが言う。
俺は笑いながら応えて、ほっと一息安堵する。
その時パトカーのサイレンの音が聞こえた。
スキナー達がやってきたようだ。
工場へ入ってくるなり捜査官達は悪臭に顔をしかめたが、スキナーだけは笑顔で俺達の方に駆け寄ってくる。
パンツ一丁で。
「無事だったか、二人とも!」
泣き崩れているレイを見て頷きながら言った。
「どうやら上手くやったようだな。さすがは名コンビだ。
モルダー。お前の言葉を信じて正解だったようだ。」
レイはぼたぼたに濡れたオムツを穿きかえさせられ、他の捜査官達によって連行されていった。
きっと奴も戦い続けることに疲れていたのだろう。
その背中は寂しいような、それでいて安心したような、何とも言えないような感じだった。
俺はゆっくり立ち上がり、事件が解決したことの喜びを噛みしめながら息をはいた。
「お疲れ様、モルダー。見事な勝利だったわよ。
やっぱり私たちは最高のコンビね。」
スカリーが笑いながら言う。
「ああ、その通りだ。
スカリーの励ましの言葉が無ければ、俺はここまで戦えなかった。
今までも、そしてこれからも、僕の相棒は君しかいないさ。」
スカリーも微笑みながら頷き、それを見たスキナーが俺達の肩をぽんぽんと叩く。
「お前達の言う通り、Xファイルでの最高のコンビだ。
何より二人とも無事だったことが喜ばしい。
さあ、みんなで一緒に俺達のいるべき場所に帰ろう。」
そう言って俺とスカリーの背中を押しながらスキナーが歩きだす。
スカリーと目が合い、お互い無事でよかったわね微笑み合う。
そして俺は途中で立ち止まった。
「どうしたんだ、モルダー?」
怪訝そうに尋ねるスキナー。
「もしかして、何処か怪我でもしているの?」
心配そうに聞いてくるスカリー。
俺は唇を噛みしめながら言った。
「とりあえず、トイレに行かせてくれないか。」

事件が解決して3日が経ち、みんなはいつものように仕事をこなしていた。
スキナーは包茎改善の本を読み、スカリーはキャサリンの為に体に良いマヨネーズをネットで探し、ジェフは片手にチキン、片手にハンバーガーと相変わらず食ってばかりいた。
俺はというと今日は休日で、眠たい体をシャワーとコーヒーで起こした後、ベッドに座ってくつろいでいた。
後でスキナーから聞いたのだが、レイは以前にロスアンゼルスで裸にオムツ姿の男数人を引き連れ、排泄をコントロールして有意義な人類の発展をと言いながらデモをして新聞で話題になったことがあったそうだ。
レイにはレイの考え方ややり方があって、それが少し強引すぎて今回の事件を引き起こしてしまったようだ。
願わくば、次はもっとマシな形で迷惑の無いように自分の考えを主張してもらいたいものである。
俺は着信に残るスカリーの伝言を聞き、今日もキャサリンとランデブーをする為に出かけることになる。
そして玄関まで来た時に、何か暗い闇の影が心をかすめたような気がした。
すかさずケータイを手にと取り、彼女の番号をプッシュする。
数回のコールの後、聞き慣れた声が出た。
「おはよう、モルダー。
もうキャサリンに餌はやってくれた?」
俺は真顔で、遠い目をしながら答える。
「いや、それは今からだ。それより・・・。」
俺は一つ息をはいて彼女に言う。
「スカリー、事件だ。」
受話器の向こうで呆れたようなため息が聞こえ、皮肉っぽく笑いを含んだ声で返してくる。
「またなの、モルダー。」
今日もXファイルの事件が俺を呼んでいる。
彼女との名コンビでそれに立ち向かわねば。
俺はスカリーのため息まじりの声を聞きながらこう言った。
「僕の勘がそう言ってるんだ。」

                          第十話 最終回 完
コメント
コメントする








    
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM