猫又 八兵衛 第十一話 心は漏れる

  • 2014.12.27 Saturday
  • 15:06
JUGEMテーマ:自作小説
人間とは不思議なものだ。
何の変哲もない土から、目を見張るほど美しい皿を作り出す。
いや、皿だけではない。湯飲み、箸置き、茶碗、ありとあらゆる造形を土から生み出す。
しかもそこに色までつけて、まるで宝石のような美しさに仕上げるのだ。
ドロドロとした土が、名人や職人と呼ばれる人間の手にかかると、元が土だとは信じられない芸術品が出来る。
そう・・・・陶芸である。
梅が終わって桜が咲く頃、俺とタカシは『孔雀庵』という店に来ていた。
ここは孔雀焼という珍しい陶器を焼く店で、タカシの要望に応えてやって来たのだ。
「ん!ん!」
「おお、どれも綺麗だな。」
店は狭いが、その中に惚れ惚れするような陶器が並んでいる。
茶碗、湯飲み、箸置き、それに大きな皿に、真っ赤な壺。
タカシは目をキラキラと輝かせ、そっと手を伸ばした。
「コラ!触るな。」
そう言って手を引っ込めさせると、店の女主人が「いいんですよ」と笑った。
「どうぞ手に取って見て下さい。」
「すみません・・・・。」
俺は頭を下げながら、「そっとだぞ」と注意した。
タカシは嬉しそうに湯飲みを触り、その形容しがたい美しさに見入っていた。
「ん!」
「ああ、本当に綺麗だ。まさに孔雀の名に相応しい。」
孔雀焼とは、その名の通り孔雀から取っている。
あの鮮やかで派手な模様、そして色彩。それが陶器の表面にぴったりと滲んでいる。
「基本は赤なんだな。でも緑が混ざっていたり、金色に見える部分もある。青が混ざっている物もあるな。」
地は赤が基調。しかし水彩絵具を滲ませたように、様々な色が混ざっている。
かき混ぜたようにうねる物もあれば、点々と滲んでいる物もある。
それに赤が絶対の基調というわけではなくて、青味がかった器もあった。
「・・・・銀河系・・・だな。孔雀以外に例えるとしたら、銀河の煌めきを見ているようだ。」
やや大げさな表現だが、でも的は得ていると思う。
俺はしばらく陶器を眺め、奥の棚にある赤い壺を指差した。
「あれは真っ赤ですね。あれも孔雀焼ですか?」
そう尋ねると、女主人は「ええ」と笑った。
「他の物と同じ釉薬を使っています。」
「うわぐすり?」
「陶器に塗る色のことですよ。例え同じ釉薬を使ったとしても、窯で焼くと変化するんです。
あの赤い壺は孔雀模様になっていないけど、でも綺麗だから置いているんです。」
「確かにあれはあれで美しい。鮮やかなの紅葉のような・・・・それでいて紅葉よりもずっと深い赤色だ。」
そう例えると、「詩人ですね」と笑われた。
「言葉にこだわりを持っているんです。まあセンスはないですが。それよりも同じ釉薬とやらを使って、こうも仕上がりが異なるとは・・・・。」
「陶器の色は火の加減で決まるんです。窯の火が最後の仕上げをするんですよ。」
「仕上がるまで色が分からないわけだ?」
「そうです。ほら、お椀の底に色が溜まっているでしょう?」
「・・・・ああ、本当だ。」
「これは焼いている時に釉薬が垂れているんです。こうやって自然の動きに任せることで、様々な色合いが出るんですよ。」
「なるほど・・・・こりゃ面白い。」
俺はお椀の一つを手に取り、じっくりと眺めてみた。どれとして同じ模様のものはなく、全てが窯の火に任せられている。
自然と職人技の融合・・・・・素直に感心させられた。
「いや、いい物を見せて頂きました。ちなみにこの陶器を焼かれているのは?」
「私です。」
「え?ご主人が?」
「意外でしたか?」
そう言って笑う女主人。俺は「てっきり作務衣を着た気難しいじいさんだと思ってました」と答えた。
すると主人は口を押さえて大笑いし、「私が三代目です」と答えた。
「先代は父、二代目は母、今は私が継いでいるんです。」
「へええ・・・・そりゃ凄い。まさか作った本人から説明を受けていたなんて。」
「いえいえ。」
主人・・・・もとい、この優れた芸術家は、ニコニコと笑顔を絶やさず説明を続けてくれた。
そしてしばらく陶器を楽しんでから、一番安い箸置き手に取った。
「タカシ、これ買ってやる。」
「ん。」
「いやいや、さすがにその壺を買うのは無理だ・・・・。こっちで我慢してくれ。」
「・・・・・・・。」
「あからさまに落ち込むなよ。もし俺が宝くじを当てたら、あの壺を買ってやるから。」
「そんな日は来ません・・・・。」
「冷静な意見を返すんじゃない。いつかきっと買ってやるから。」
俺は箸置きを差し出し、「これを」と言った。
主人は「ちょっとお待ち下さい」と奥へ引っ込み、丁寧に包装してから渡してくれた。
「ありがとうございます。ほら、タカシ。」
「んん!」
「嬉しいか?来た甲斐があったな。」
タカシは袋の入った孔雀焼を抱きしめ、口元を笑わせていた。
《喜んでるな。もう少し表情が出ればいいが、まあ焦ることはない。顔では分かりにくても、確かに喜んでいるんだから。》
長く一緒にいるせいで、乏しい表情からでも感情が読み取れるようになった。
タカシは俺の手を取り、「ん」と揺すった。
「ああ、家に帰って絵を描くか。今日は孔雀を描いてみたらどうだ?」
そう言いながら主人に頭を下げ、店を出て行く。
細い道を歩きながら、「まさか通学路にこんな店があったなんてなあ」と呟いた。
「タカシ、お前よく見つけたな。」
「ガラスで見えました。」
「そうだったな。ガラス越しに見える孔雀焼に目を惹かれたんだもんな。」
店はガラス張りになっていて、外からでも陶器が見えるようになっている。
タカシは一瞬で目を奪われ、「孔雀がいます」と俺を誘ったのだ。
「やっぱり将来は画家だな。もっと練習しろよ。」
そう言って帰ろうとした時、ふと足を止めた。
「ちょっと待て。今のは・・・・。」
さっき・・・店に向かって一人の男が入って行った。人間で例えるなら温水洋一みたいな顔をしていて、くたびれたジャンバーを着ていた。
「あれは・・・・チョンマゲか?」
人間に変化しているが、俺の目は誤魔化せない。同じ猫又同士、感覚でその正体を見破ってしまうからだ。
「アイツ何してるんだろう?」
気になったので、店の前まで戻ってみる。そしてガラス越しに中を覗くと、チョンマゲが作務衣に着替えていた。
「何だ?どうしてあんな格好を・・・・・。」
「ん。」
「どうした?」
タカシは道の先を指差す。すると一人の若い女がやって来て、俺たちをチラリと見てから店に入って行った。
女は真剣な目で陶器を見つめ、熱い視線を送っている。
そしてカメラを取り出し、パシャパシャと撮影し始めた。
チョンマゲはその後ろでそわそわとしていて、息を飲みながら固まっていた。
「何を緊張してんだ?」
じっと様子を窺っていると、チョンマゲは女に話しかけた。固い表情で愛想を振りまき、ふとこちらを見て驚いていた。
「よう。」
そう言って手を挙げると、チョンマゲは慌てて出てきた。
「八兵衛!ここで何やってる!?」
「何って・・・・これだよ。」
そう言ってタカシの持つ袋を指差すと、「買い物か?」と顔をしかめた。
「ああ。タカシがどうしても来たいっていうもんだからな。で?お前は何をやってるんだ?作務衣なんか着てるけど。」
「決まってるだろ。陶芸家だよ。」
「はあ?」
「前にも言っただろ。俺は芸術に興味があるって。」
「もしかして・・・・ここに弟子入りしたのか?」
「いいや、ここは弟子は取らない。だから俺一人でやっている。」
「なんだ、自称陶芸家か。」
「芸術家なんてみんな自称だ。資格があるわけじゃない。」
「そりゃそうだな。で?ここで何をしている?」
「だから・・・・陶芸家だよ。」
「それじゃ意味が通らない。ここは弟子は取らないんだろ?じゃあなんで来てるんだ?」
そう尋ねた時、タカシが「ん」と店を指差した。するとさっきの若い女が出て来て、主人に頭を下げていた。
そしてチョンマゲに向かって「陶芸、頑張って下さい」と言い残し、カメラをいじりながら去って行った。
「ああ・・・和佳子さん・・・・、」
チョンマゲは手を伸ばして呼び止める。しかし女は聞こえていないようで、角を曲がって消えてしまった。
「知り合いか?」
そう尋ねると、「ああ」と答えた。
「美大生なんだ。美術写真家を目指しているらしい。」
「美術写真家?」
「美術品を専門に撮影する写真家だよ。」
「へえ、そんなジャンルがあるのか?」
「いや、自称だ。」
「そうか。まあ資格はいらないもんな。自ら名乗れば、今すぐにでも美術写真家だ。」
興味もなくそう言うと、チョンマゲは「分かってないな」と呟いた。
「美術品の撮影は難しいんだ。本物より汚く写ってはダメだし、かといって綺麗過ぎてもダメ。
その美術品の、ありのままの姿を撮影する技術が要求されるんだ。」
「・・・・と、彼女が言っていたのか?」
「まあな。」
「そりゃご立派。さあタカシ、そろそろ帰ろうか。」
「ん。」
「待て待て。その態度は癪に障る。」
チョンマゲは俺たちの前に回り込み、「茶でも飲みに行こう」と言った。
「なあ僕、パフェ食べたくないか?」
「・・・・・・・・・。」
「じゃあプリンだ。ケーキがいいか?」
「特に必要ありません。」
「・・・・じゃあ何がいい?ハンバーグか?海老フライか?」
「特に必要ありません。」
「頑固なガキめ。じゃあハンバーグとケーキを両方・・・・・、」
「いい加減にしろ。タカシは物で釣られるほど馬鹿じゃない。」
「色鉛筆は必要です。」
「おお、なら買ってやろう。八兵衛は何が欲しい?」
「・・・・・タカシ。こんな怪しいおじさんを相手にしちゃダメだ。帰るぞ。」
今日のチョンマゲはいつもと違う。コイツが子供に愛想を振りまくなんて有り得ない。
嫌な予感を感じた時は、早々に退散するに限る。
「じゃあなチョンマゲ。また集会所で。」
そう言ってタカシの手を引き、チョンマゲの横を通り過ぎる。すると腕を掴まれて、「このことは誰にも言わないでくれ・・・」と呟いた。
「どうして?お前が芸術好きってことくらいみんな知ってるだろ。」
「そうじゃない。和佳子さんに会ってることだ。」
「ああ、美術写真家か。別に言わないよ。お前が誰に熱を上げようと自由だ。いちいち言いふらしたりしない。」
そう言って腕を振り払うと、「ほら、それだよ!」と指をさされた。
「そうやって誤解するだろ。だから嫌なんだよ。」
「誤解?違うだろ。どう見たってあの美術写真家に想いを寄せてるじゃないか。」
「いやいや・・・想いを寄せてなんかいないよ。これでも300年近く生きてるんだ。あんな若い子に本気になったりはしない。」
「じゃあ遊びか?」
「それも違う。というより、男女の関係を頭から外してくれ。」
チョンマゲは困った顔で言い、薄くなった頭を掻いた。
どうやら事情がありそうだが、それを尋ねようかどうしようか迷った。
《コイツは檻の中のゴリラの頼みを叶えてやったんだ。だったら今の悩みはそれより重いということになる。
下手に関わると、余計な面倒事に巻き込まれる可能性が・・・・。》
チョンマゲはまだ困った顔をしていて、腕を組んで視線を泳がせていた。
《・・・・・いや、こんな考え方は冷たいか。ここまで困ってるんだ。同じ猫又として、悩みを聞いてやるくらいはしてやるか。》
俺は「お茶、行ってもいいぞ」と言い、「ただし奢りだ」と付け加えた。
「おお!本当か!持つべきものは友だな。」
「何か悩みがあるんだろう?力になれるかどうかは分からないが、聞くだけなら聞いてやるさ。」
そう言ってからタカシを見つめ、「このおじさんがパフェ奢ってくれるぞ」と言った。
「色鉛筆が必要です。」
「うんうん、それも買ってもらおう。」
「パフェはやぶさかではありません。」
「難しい言葉を知っているな。じゃあ両方奢ってもらうか。」
「ん!」
「ということだ。早速お茶に行こう。」
そう言って歩き始めると、チョンマゲのぼやきが聞こえてきた。
「どっちも奢るなんて言ってないぞ・・・・。いったいどういう躾をして・・・・・、」
愚痴を聞き流し、近所の喫茶店に歩いていく。
タカシは「鉛筆!パフェです!」と喜び、孔雀焼が入った袋を揺らしていた。


            *


次の日の朝、集会所に行くとチョンマゲが来ていた。
「ようチョンマゲ。昨日は色々と奢ってもらって悪かったな。」
そう挨拶すると、「とんだ散財だよ」とぼやいた。
「あのガキ・・・・やたらと高い色鉛筆を選びやがって・・・。なんだよ、72色で二万の色鉛筆って。ガキが使うようなもんじゃないだろ。」
「まあまあ、アイツは値段のことなんか分かってない。ただ良い物が欲しかったんだ。」
「ちゃんと経済感覚を教えとけ。おかげでキャバクラに行くのも控えなきゃいけない。」
そう言って頭のチョンマゲ模様をヒクヒク動かし、不機嫌そうにしていた。
「いや、確かにあれは悪かった。でも・・・・その代わりと言っちゃなんだが、昨日の頼みは引き受けることにしたよ。」
「ホントか!やってくれるか!?」
「ああ。でも上手くいくかどうかは知らないぞ。俺はまだ読心の術は使いこなせないんだから。」
「構わない。俺だけでやるよりマシだ。ああ、それとな・・・読心の術の注意点だが、あれは使い過ぎると・・・・・、」
チョンマゲがそう言いかけた時、ハルが「何の話をしてんの?」と入って来た。
「私も混ぜてよ。」
「今日はお前だけか?ゴンベエはどうした?」
「ん?まあ・・・・ちょっとね。」
「喧嘩でもしたか?」
「そんなとこ。で、何の話をしてんの?」
そう言ってニコニコ笑いながら尋ねて来るハル。するとそれを見たチョンマゲが「ちょっと来い・・・」と俺のケツを叩いた。
そして植え込みの陰まで連れて行き、「お前さ、もしかして・・・・、」と口を開いた。
「読心の術を何度も使ったんじゃないのか?」
「ん?使った覚えはない。ただ不可抗力で発動したことは何度もある。」
「誰に対してだ?」
「ハルとゴンベエ。」
そう答えると、「あちゃ〜・・・・」と嘆かれた。
「そりゃマズイよお前。」
「どうして?」
「どうしてって・・・・。いいか、読心の術にが制約があってだな、使い過ぎると相手の心が剥き出しになるんだよ。」
「・・・・?どういうことだ?」
「読心の術ってのは、呼んで字のごとく相手の心を読む術のことだ。」
「そんなことは知っている。」
「じゃあどうやって相手の心を読むかっていうと、心の壁に穴を空けるんだ。」
「穴?」
「ああ。誰だって心に壁を持っている。そこに見えない針で小さな小さな穴を空けて、心の声を聞くのが読心の術なんだ。」
「ふむ。」
「ふむ、じゃないよ。いいか?特定の相手に対して何度も術を使っていると、心の壁は穴らだけになる。するとどうなるか・・・・・、」
「どうなるんだ?」
「心の声が、勝手に相手に伝わっちゃうんだよ。怒りや憎しみ、それに不満や愚痴なんかダダ漏れになるんだぞ。」
「ホントに?」
「ホントだ。だからきっと・・・・・ゴンベエとハルの心の壁には、無数の穴が空いているはずだ。
そこから心の声が漏れて、相手に伝わってしまったんだ。」
「ええ!なんだよそれ!知らないぞそんなこと!」
「それは知らないお前が悪い。猫又の術は、どれもルールなり制約なりがあるんだ。それを知らずに使っていると、取り返しのつかないことになる場合もある。」
「・・・・なんてこった。じゃあ俺のせいでハルとゴンベエは喧嘩をしたってのか?」
「間違いない。いくら恋猫同士といえど、まったく不満がないなんて有り得ないからな。ていうか恋猫だから不満を感じる部分もあるはずだ。きっとお互いの不満や愚痴が、心の壁から漏れて伝わったんだろう。」
「・・・・・そんな・・・・・。」
「今さら後悔したって遅い。きっとあの二匹は別れる。顔を合わせる度にお互いの不満が伝わって、喧嘩が絶えなくなるだろうからな。」
「今から穴を塞げないのか?」
「無理だ。自然に塞がるのを待つしかない。しかも閉じるまでに時間がかかるし、無数に空いてりゃ尚更だ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
俺は言葉を失くし、ゆっくりとハルを振り返った。彼女は眠そうにあくびをしていて、足で喉を掻いている。
「見ろ、ゴンベエが来たぞ・・・・。」
チョンマゲが尻尾で遠くを差す。するとトコトコとゴンベエが歩いて来て、俺を見つけて「ほ!」と駆け寄って来た。
だがその瞬間、ハルに気づいて「ほ・・・・・」とうろたえた。ハルの方もゴンベエに気づき、「あ!」と固まった。
「ゴンベエ・・・・。」
「ハル・・・・・昨日は・・・・悪かった。いきなり喧嘩になってしまって・・・。」
そう言ってハルに近づき、申し訳なさそうに項垂れるゴンベエ。ハルの方も「いいの、私も悪かったから」と笑った。
それを見た俺は、「なんだ、仲直り出来そうだぞ」と呟いた。
「甘いな八兵衛。よく見てろ。」
チョンマゲは厳しい顔で言い、注意深く二匹を見つめた。
ゴンベエはもう一度「すまん・・・」と謝り、「昨日のデートの続きをしないか?」と尋ねた。
ハルは「喜んで!」と笑ったが、ふと笑顔を消した。
「・・・・ゴンベエ、今何か言った?」
「え?何かって?」
「今・・・・私のことを面倒くさいメスだとか言わなかった?」
「いやいや!言ってないよ!」
「ウソ!確かに聞こえたもん!」
「言ってないって!ていうか、そっちこそ酷いこと呟いただろ。」
「はあ?酷いことって何よ?」
「器の小さいオスだとか、あの程度で怒るなんて最低とか。」
「言ってないわよそんなこと!」
「いいや、確かに聞こえた。」
「言ってないって言ってるでしょ!酷いこと言ったのはそっちじゃない!」
「だから・・・・俺は何も言ってな・・・・・って、また酷いこと言ったな!口だけで情けないオスだとか!」
「何を言ってんのよ!そっちこそ傲慢ちきなメスだって言ったじゃない!」
「言ってない!」
「いいえ、言った!」
「もういいよ!せっかく仲直りしようと思ったのに・・・・これじゃ無理だ!」
「それはこっちのセリフ!ゴンベエってこんなに口の悪いオスだとは思わなかったわ。しばらく会わない方がよさそうね!」
「ほ!俺だって会いたくねえや!じゃあな!」
「何よその態度!ムカツク・・・・・・・。」
ゴンベエは不機嫌そうに帰って行き、ハルもプリプリ怒りながらどこかへ去って行った。
「・・・・・な?こういうことだ。」
チョンマゲは俺の肩を叩き、去りゆく二匹を見つめた。
「心がダダ漏れになるってことは、こういうことなんだよ。聞きたくない声まで聞こえるし、伝わらなくてもいいことまで伝わってしまう。それを防ぐ為に心の壁があるんだ。それに穴を空けるのがそれほどリスクのあることか、これでよ〜く分かっただろ?」
「・・・・・ああ。」
俺は落ち込んでいた。なぜならまたもや俺のせいで、いらぬ不幸の被害者が生まれたからだ。
「俺は・・・・タカシだけじゃなくて、ゴンベエとハルまで巻き込んでしまった・・・・。情けないよ。」
「うんうん、気持ちは分かるぞ。でも失敗は上達の近道だ。次から気をつければいいんだよ。」
そう言って俺を慰め、「練習すれば上手くやれる」と笑った。
「さっきも言ったように、読心の術は見えない針を心の壁に刺すんだよ。よくよく意識を集中させてみれば、その気配を感じるはずだぜ。」
「意識を・・・・?」
そう言われて、俺は目を閉じて感覚を研ぎ澄ませてみた。すると顔の横に蠅でも飛んでいるような感じがあって、目を開けて睨んだ。
「・・・・何も見えない。」
「当たり前だろ。目には見えないんだよ。でも確かにそこにあるんだ。練習すれば、自由に動かせるようになる。」
「どうやって動かすんだ?」
「イメージすりゃいいだけだ。ちょっとコツがいるけどな。」
「・・・・・難しいな。蠅みたいに動いて、思うように操作出来ない。」
「それも練習次第さ。でもって、なるべく早く使いこなせるようになってくれ。じゃないと・・・・和佳子さんの心が探れない。」
「昨日言っていた頼み事の件だな。でも自分でやればいいじゃないか。チョンマゲなら上手く出来るだろ?」
そう尋ねると、「ダメなんだよ・・・・」と俯いた。
「俺は彼女の心は探れない。だって・・・・・怖いから・・・・。」
「それはアレか?チョンマゲのことを恨んでいるかもしれないからか?」
「そうだよ・・・・。和佳子さんは大きな誤解をしているんだ。俺のせいで、自分の猫が死んだと思ってる。でも実はその逆なんだよ。俺は彼女の猫を助けようとした。でも力及ばず・・・・・・、」
「分かってる。でもそれは不慮の事故だ。助けられなくても無理はない。」
「・・・・それを彼女に分かってほしいんだよ。俺はこれでも、昔は人間の世界で働いていたんだ。教師をやってた。」
「昨日聞いたよ。和佳子さんはその時の教え子なんだろ?」
「ああ、小学生の時のな。彼女の本当の夢は、美術写真家じゃない。動物写真家だったんだ。でも俺への誤解のせいで、その夢は捨てた。今や彼女にとって、動物を撮る人間は悪者になっちまってるからな。それも含めて誤解を解いてほしい・・・・・。」
「まあ俺に出来る範囲でなら力になるよ。でも意外だな。お前がいちいち相手にどう思われてるかを気にするなんて。和佳子さんに恨まれるのがそんなに怖いか?」
そう尋ねると、「お前にはまだ分からないよ・・・・」と答えた。
「誰かから恨みを買うってのは、一生つきまとうものなんだ。俺はそんなのを背負うのはゴメンだ・・・・。」
「いや、気持ちは分かるよ。相手は教え子なんだし、恨みなんてない方がいいよな。」
「その通りだ・・・・。だから協力してくれて助かる。実行は明日の昼だから、彼女の大学まで来てくれ。じゃあ・・・・。」
チョンマゲはそう言い残し、トボトボと去って行く。
その背中は深い悲しみが漂い、まるで重い石でも引きずっているかのようだった。
「長く生きてると、色々と厄介事を抱えるもんなんだな。願わくば、どうかこれ以上俺に厄介事が降りかかりませんように。」
そう願うも、今抱えている厄介事は俺自身のせいだと気づく。
先ほどの願いを取り消し、「俺のせいで迷惑を被った者が救われますように・・・」と願い直した。

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