猫又 八兵衛 第十三話 孤高のボス

  • 2014.12.29 Monday
  • 14:48
JUGEMテーマ:自作小説
桜の季節が終わり、木々は青い葉を茂らせている。
これはこれで綺麗なもんだと思い、腕枕をしながら見上げていた。
「なあタカシ。たまには風景も描いてみたらどうだ?」
隣で絵を描くタカシに問いかけると、「風景は描きません」と答えた。
「どうして?お前は背景を描くのは苦手だろ?良い練習になるじゃないか。」
「必要ありません。」
「そんなことだと未来の巨匠になれないぞ。もう四年生になったんだ。苦手なことにも挑戦しないと。」
タカシは不満そうに黙り込み、黙々とペンを走らせる。
未来の画家は実に気難しい性格をしていて、俺の意見など聞いちゃいない。
画用紙には孔雀に乗るゴリラが描かれていて、背景はなぜかファミレスの中。
これはこれで面白い絵だが、やはり背景が雑すぎる。
いくらなんでもドリンクバーが上を向いているのはあり得ないだろう。
「なあタカシ、ドリンクバーは下を向いているんだ。じゃないとジュースがこぼれるだろ?」
「問題ありません。」
「それと椅子の並びもおかしいぞ。さすがに壁には椅子はない。誰も座れないからな。」
「問題ありません。」
「それと入口は七つものない。一つあれば充分だ。」
「問題ありません。」
「他にもおかしな所がある。まず窓の形だが、どうして人の顔をしているんだ?
それに店員の首が長すぎる。これじゃ六ろ首みたいだ。あとフォークとナイフの形だが・・・・・、」
細かく説明していくと、タカシは急に絵を描くのをやめた。そして画材を抱えて玄関に向かって行く。
「タカシ?」
呼んでも返事をせず、そのまま中へ消えようとする。俺は慌てて追いかけ、「待て待て」と手を掴んだ。
「そう不機嫌になるな。」
「・・・・・・・・・。」
「別に嫌味で言ったんじゃない。ただお前ならもっと上手く描けると思ったから・・・・、」
「家の中で描きます。」
「タカシ・・・・。俺はただ・・・・、」
「八兵衛は来なくていいです。」
「機嫌を治してくれ。ちょっと言い過ぎた、悪かったよ。」
「家の中で描きます。八兵衛は来なくていいです。」
タカシは俺の目を見ようとしない。下を向いたまま、むっつりと怒っている。
こうなったらしばらくは機嫌が直らず、ここは潔く退散するしかなかった。
「分かった、今日はもう帰るよ。明日また来る。」
「八兵衛は来なくていいです。」
「じゃあな。夜更かしするなよ。風呂と歯磨きも忘れるな。」
「・・・・・・・・・。」
タカシは家の中へ引っ込んでいく。ピシャリと引き戸が閉められ、擦りガラスの向こうにシルエットが消えていった。
「・・・・ちょっと言い過ぎだったか。まあ一日経てば機嫌も治るだろう。」
俺は踵を返し、庭の外へ出て行く。そして家を見上げて「また明日な」と呟いた。
タカシと出会ってから半年が経った。最初の頃は感情を読むのに苦労したけど、今では手に取るように分かるようになっていた。
もちろん読心の術など使っていない。俺とタカシにそんなものは必要ないし、何よりアイツの心を覗くなんて、それは俺たちの友情に対する裏切りになる。
半年という時間を共にすることで、俺たちは通じ合えるようになった。
多くの言葉を交わさなくても、確かに気持ちの交換が出来るようになった。
しかし・・・そこには一抹の不安もあった。
理解し合うということは、喜びだけでなく痛みや傷も分け合うということだ。
さっきタカシの絵に指摘したことは、明らかに余計なお世話だった。
タカシはただ自分の世界を描いているだけ。それは分かっているのだが、妙な親心が芽生えたせいで、アレやコレやと口を出したくなってしまう。
そしてタカシもまた、度々俺に反発するようになった。以前ならグッと我慢していたことも、今ではハッキリと口に出して表現する。
俺たちは理解を深め、さらに良い友達になった。しかしそれと同時に、ぶつかることも多くなったような気がする。
猫との付き合い方なら熟知しているが、人間の子供となるとそうはいかない。
この先もタカシと良い友達であり続ける為に、俺は努力を続けなければならない。
白紙の画用紙に、二人の未来を描いていくように・・・・・。
「まあ・・・・また明日だ。今度はちゃんと絵を褒めてやろう。」
鼻歌を歌いながら、錆びた踏切を越えて行った。


            *


その日の夜中、俺はいつものように夜中の集会に来ていた。
ムクゲがいなくなったのは寂しいが、それでも徐々に慣れてきた。
そのおかげで寂しさは少なくなったが、このまま慣れ過ぎると、いつか忘れてしまうんじゃないかと怖くなる。
そのことをヘチョコに話すと、「考えすぎだよ」と笑われた。
「お前が本当にムクゲのことを想ってるなら、いつまで経っても忘れないはずだ。」
「そいうもんか?」
「そういうもんだ。俺なんかこんなに禿げ禿げだけど、抜けていった体毛のことは忘れない。一本たりともな。」
「なるほど・・・・本当に大事なもんは、いつまで経っても覚えてるってことだな?」
「そういうことだ。でもその分失った時の痛みは辛い。今じゃ朝起きる度に、毛が抜けてないか怯えてるんだ。」
「もう毛なんてないじゃないか。残ってるのはヒゲだけだ。」
「いいや、産毛がある。よく見るんだ。」
じっと目を凝らして見てみると、確かに薄い体毛があった。
「な?ちゃんと生えてるだろ。」
「そうだな。だったら大切にしないと。」
ムクゲのことを相談していたはずなのに、いつの間にか産毛に話がすり替わっている。
中身のない会話はいつものことだが、それでもちょっとだけ話を戻した。
「大事なものは絶対に守らなきゃいけない。でも失う時がやってきたら、どういう心構えをしたらいい?」
「なんだ?何かを失いそうなのか?」
「分からない。今はまだ大丈夫だろうけど・・・・・。でもいつかタカシが大人になったら、俺には見向きもしなくなるんじゃないかと・・・・、」
「なんだよお前、人間のガキに親心が芽生えたのか?」
「どうもそうらしい。最近ぶつかることも増えてな。」
「そりゃ大変だな。それを解決する答えはたった一つだけ、さっさとそのガキから離れることだ。」
「それは出来ない。俺のせいで孤独の呪いがかかってるからな。一人にしたら死んでしまうかもしれないんだ。」
「だったらずっと一緒にいてやることだ。例えどんなに嫌われてもな。」
「嫌われてもか・・・・。辛いな。」
「どうして?」
「いや、どうしてと聞かれても・・・・・、」
「お前がタカシとやらと一緒にいるのは、孤独から守ってやる為だろ?ならお前を必要としない時が来たら、それは孤独から解放されたってことだ。むしろ喜べ。」
「分かってるさ。分かってるが・・・・・・。」
ヘチョコの言うことは正しい。そんなことは俺も分かっている。しかしタカシと一緒にいたいという気持ちは誤魔化せない。
妙な親心を抱えてしまったが為に、この先色々と悩むことになりそうだった。
「なあヘチョコ。その・・・・タカシが孤独から解放される日は来るのかな?」
「ん?」
「いや、いいんだ・・・・。呪いを解く方法を聞きたいわけじゃない。」
「聞いても教えないからな。それもまた・・・・、」
「猫又のルール。それはもう知ってるよ。ただ・・・・・知りたいんだ。この先タカシの呪いが解ける可能性はあるのかと?」
「それはお前次第さ。呪いを解く方法さえ見つけられれば、タカシは救われる。しかしそれと同時に、お前を必要としなくなる時でもあるけどな。」
「またそこに戻って来るのか・・・・・。」
俺はがっくりと項垂れ、タカシとの未来を憂う気持ちに潰されそうだった。親ってのは、いつでもこんなストレスに晒されるものなのか・・・・。
「悩め悩め、若いうちはたくさん悩んで、ストレスを抱えて禿げりゃいいんだ。」
ヘチョコはそう言ってあくびをし、「今日はもう帰るか」と踵を返した。
そしてトコトコと去って行く途中、遠くの方からモミアゲがやって来た。
二匹はお互いの姿に気づき、尻尾を上げて挨拶をする。
「ヘチョコ、捜してたんだ。」
モミアゲはタタッと駆け寄り、「ちょっと聞いてほしいことがある」と言った。
「ああ、この前の嬢のことか?ありゃあちょっと態度が悪かったよなあ。いくら新人でも、もう少し教育してもらわないと・・・・、」
「違うよ、ナナコちゃんのことじゃない。ていうかあの子は良い子だ。」
「ほほう、あんなのが好みか?」
「嬢の好みを話しに来たんじゃない。カミカゼのことで相談があるんだ。」
それを聞いたヘチョコは、急に真顔になった。そして俺の方を振り返り、モミアゲにヒソヒソと耳打ちをした。
二匹は背中を向け、何やら頷き合っている。そしてそのままどこかへ去ろうとした。
「おい、二匹してなんだよ?何をヒソヒソ話してた?」
「いいや、別に。」
モミアゲは俺を睨み、なぜか目を逸らす。そしてヘチョコの方も目を合わせようとはしなかった。
「俺に聞かれたらマズイことでもあるのか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「答えないつもりか・・・・。いいさ、それなら最近覚えた術で心を覗いてやる。」
俺は見えない針を飛ばし、心の壁に刺そうとした。
「・・・・・・ん?なんだ?針が刺さらない。」
不思議に思って首を捻ると、二匹から笑われた。
「八兵衛よ、お前は未熟だな。」
ヘチョコがケラケラ笑いながら近づいて来る。俺は「何がだ?」と睨み返した。
「いいか、猫又の術は万能じゃないんだ。いつでも力を発揮できると思うなよ。」
「・・・・どういう意味だ?」
「猫又の術は、どれも世の中の常識を超えている。だから悪用されないように、色々と制約が設けられているんだ。」
「知ってるよ。」
「そしてその制約の中には、術が無効化されるってことも含まれてる。」
「無効・・・・?」
「ああ。例えば読心の術の場合だと、相手に術を悟られると無効化される。こちらの心を読まれないように、心の壁を厚くすればいいだけだからな。」
「なんだそりゃ?防ぎ方があるってことか?」
「そういうことだ。俺たち猫又は、お互いが読心の術を使えると知っている。だからよほど油断している時じゃないと、その術は効かないってことだ。残念だったな。」
「・・・・・また俺の知らない事実が・・・・。」
「だから未熟だと言ったんだ。お前がもうちょっとベテランの猫又だったら、俺たちの仲間に加わってもらうんだがなあ・・・・。」
そう言ってヘチョコは笑い、後ろのモミアゲを振り返った。
「さて、どこか別の場所へ行って相談しよう。」
「そうだな。じゃあな、八兵衛。」
二匹は俺を残して去って行く。なんだか強い疎外感を感じ、それと同時に猜疑心が湧いてきた。
「あの二匹・・・・何かを企んでるのか?」
猫又同士が手を組み、何やら企みを練っている。これは・・・・・・ちょっと放っとけない。
もし良からぬことを企んでいるのなら、事を起こす前に阻止しないといけない。
「こういう時に一番頼りになるのがムクゲだった。でももうアイツはいない。となると・・・・・相談できるのはカミカゼかチョンマゲだが・・・・。」
そう呟いて、先ほどの二匹の会話を思い出した。
「カミカゼがどうとか言っていたな。ということはカミカゼもあの二匹の仲間という可能性が・・・・・・。」
しばらく悩み、目を閉じて尻尾を振る。
「・・・・チョンマゲだな。ここは奴に相談するしかない。最年長の猫又だし、良い意見を聞かせてくれるだろう。」
俺はうんと背伸びをし、二匹が去った闇を睨みつける。
「ヘチョコはともかく、モミアゲはちょっと野心的なところがあるからな。余計な事を起こさなきゃいいが・・・。」
米粒ほどの不安が胸の中に落ち、べっとりとへばりついて離れない。
無視してもいいほどの小さな不安だが、やはり・・・・・気になる。
誰もいなくなった集会所を見渡し、良くない事が起こらないように願った。


            *


次の日の朝、俺は近所の小川に来ていた。
草が高々と茂り、猫の大きさならすっぽり隠れてしまうほどだ。
その草むらを抜け、小川の傍に立つ。
そこではゴンベエとハル、そしてチョンマゲが川を睨んでいた。
三匹とも真剣な顔で目を寄せていて、チョンマゲが「今だ!」と叫んだ。
ゴンベエは「ほ!」と川に飛び込み、手足をもがいて溺れていた。
「なんで飛び込むのよ!手を入れるだけでいいのに!」
ハルが慌てて助けに行き、ゴンベエの首根っこを咥えて引き上げる。
「・・・・死ぬかと思った。」
そう言って本当に死にそうな顔で震えていて、俺に気づいて「ほほ!」と叫んだ。
「八兵衛じゃないか!なんでこんな所に?」
「他の猫から聞いたんだよ。」
「そうか・・・・。お前も俺の為に駆けつけて・・・・、」
「違う。俺はチョンマゲに会いに来たんだ。お前の魚獲りを応援しに来たわけじゃない。」
「なんだ、冷たい奴め。」
ゴンベエはブルブルと水を飛ばし、再び川を睨んだ。
「ゴンベエ、もう落ちちゃダメよ。」
「いいや、俺は魚獲りを極めるんだ。そうしたらいつでもハルに魚を食べさせてやれるだろ?」
「ゴンベエ・・・・・。その身の丈に合わない頑張りが素敵・・・・。」
二匹はじっと川を見つめ、獲れそうな魚を探している。俺は「まあ頑張れ」とエールを送り、チョンマゲを振り返った。
「お前がゴンベエを手伝うとはな。あまり他の猫に興味のない奴だと思っていたが?」
そう尋ねると、「そりゃ誤解だよ」と笑った。
「自分で言うのもなんだけど、俺は元々面倒見のいい性格なんだ。」
「初耳だな。」
「そう言われるのも無理はないよ。ここ10年くらい、俺はかなり冷たい猫だったかもしれん。でも最近昔の自分を取り戻したんだよ。お前のおかげさ。」
「俺の?」
「ああ、だって和佳子さんの誤解を解いてくれただろ?」
「あれは誤解じゃなくて、チョンマゲが誤解だと思い込んでいただけだ。」
「そうだな・・・。でも八兵衛が手を貸してくれなかったら、きっと今でも悩んでいたと思う。俺は誰からも恨まれていない。そう思うと心が軽くなって、昔の自分が戻って来たんだ。」
チョンマゲは嬉しそうに言い、魚を獲る二匹に目を向けた。
「もし・・・・もしまた誰かから恨みを買ったら?俺が手を貸したせいで、また誤解されたら?そう思うと、困っている者がいても手を出せなかった・・・・。」
「ドルドルは助けたじゃないか?」
「あれは・・・・そうだな。ちょっとだけ昔の自分が疼いたのかもしれない。ほんの気紛れさ。」
そう言って肩を竦め、「それで?」と問いかけてきた。
「さっき俺に会いに来たって言ってたけど、何か用か?」
「ああ。実はヘチョコとモミアゲのことなんだが・・・・・、」
俺は昨夜の集会のことを話した。二匹がコソコソと何かを企んでいたこと。どうも良からぬ雰囲気を感じたこと。
そのことを話すと、チョンマゲは「ほっとけ」と言った。
「どうして?もし悪いことを企んでるなら・・・・、」
「その心配はない。」
「楽観的だな。何かあってからじゃ遅いぞ?」
「大丈夫だよ。猫又の術を使って悪さを働いたら、それこそルールを犯すことになる。まあ死ぬ覚悟があるなら別だけど、アイツらにそんな度胸はない。」
「ルール・・・またルールか。なあ、いったいそのルールは誰が作ってるんだ?」
「まだ知らなくていい。」
「案の定の答えだな。まあいい、アイツらは放っておいても大丈夫なんだな?」
「ああ、悪さは出来ない。でもその代わり・・・・ボスが交代するかもな。」
「ボス?何のボスだ?」
「この辺り一帯を仕切ってる猫又のボスだ。」
「へえ、そんな奴がいるのか。いったい誰だ?」
「カミカゼ。」
「アイツが・・・・・?」
顔をしかめて驚いていると、「お前・・・・無知が過ぎるだろ・・・」と呆れられた。
「カミカゼはこの町からカシミヤ町までを仕切ってるボスなんだ。アイツは喧嘩も強いし、見た目とは裏腹に意外と優しいところがある。だから20年ほど前からボスをやってるんだ。」
「へええ・・・・そうなのか。でも納得だよ、カミカゼならボスの器を持ってる。多少理不尽はところはあるけど。」
「猫なんて元々そんな性格だよ。俺がボスの座を譲って40年、アイツは上手くやってる。」
「ん?聞き間違えかな・・・・?なんか理解しがたい言葉が聞こえたけど・・・・。」
「ああ、いいよ。そういう反応をされるのは慣れっこだ。でも俺は40年前までこの町を仕切ってたんだ。でもカミカゼにその座を追われた。本当なら行き場を失くして彷徨う予定だったけど、カミカゼは俺がこの町に留まることを許してくれたんだ。アイツは・・・・・優しい奴だよ。」
そう言って川に目を向け、「今だ!」と叫んだ。ゴンベエはまた川に飛び込み、そのまま流されていく。
それをハルが助け、「もう・・・・」と苦笑いを見せていた。
「カミカゼがボスになったのはいい事だ。ゴンベエみたいなドジな猫でも、ちゃんと仲間として認めてくれる。
それに身内が襲われていたら助けてやるし、弱い者イジメなんて絶対にしない。
アイツがボスの座についてから、どれだけこの町の猫たちが平和に暮らしてることか・・・・。」
「お前がボスの時代はそうじゃなかったのか?」
そう尋ねると、「さっきも説明しただろ」と怒られた。
「俺は和佳子さんのことがあったから、なるべく他の奴らに関わらないようにしていたんだ。」
「じゃあ今ほど平和じゃなかったと?」
「・・・・そうだな。外敵には目を光らせていたけど、身内のことはほったらかしだった。だから猫同士の喧嘩は絶えなかったよ。まあそれを見かねたカミカゼが、俺を倒してボスになったんだけどな。」
「へええ、アイツは昔っから喧嘩が強かったんだな。」
「まだ猫又になって20年ちょっとだったよ。なのに200年以上もキャリアのある俺が負けた。しかもその後は上手く町を治めてる。アイツがどれだけ凄い奴か分かるだろ?」
「ああ、アイツのことを見直したよ。正直ムクゲのことがあってから、ちょっと酷い奴だなと思っていたんだ。」
「アイツは不器用なだけなんだ。心の底では、今でもムクゲのことを想ってるはずさ。」
「そうか・・・・。いや、いい話が聞けてよかったよ。不安も解消されたし、これでゆっくり昼寝が出来るってもんだ。」
そう言って草むらに寝転がると、チョンマゲは難しい顔で空を見上げた。
「どうした?そんな顔して?」
「いや・・・・もしかしたらとも思ってな。」
「何が?」
「カミカゼだよ。もしかしたら・・・・アイツはボスの座を追われるかもしれない。」
急に不吉なことを言うので、昼寝どころではなくなった。
「どうして?」と尋ねようとした時、またゴンベエが川に落っこちた。
「おいバカップル!ちょっと静かにしてくれ。」
「まあ酷い!親友が川に落ちたのよ?」
「これで三度目だ。学習しない方が悪い。」
ハルは「酷い友達」と怒り、ゴンベエを助けに行く。
俺はチョンマゲを睨み、「ボスの座を追われるってどういうことだ?」と尋ねた。
「ヘチョコとモミアゲだよ。アイツらは何かを企んでいたんだろ?」
「ああ。・・・・・もしかして、アイツらはカミカゼからボスの座を奪うつもりなのか?」
「だろうな。ヘチョコは顔には出さないが、あまりカミカゼのことは良く思っていない。それにモミアゲは野心的なところがある。だから結託してカミカゼを倒すつもりなんだろう。」
「そりゃ大変じゃないか。すぐにやめさせないと!」
「ほっとけ。」
「なんで!?無駄な争いが起きるかもしれないんだぞ?」
「無駄じゃない。ボスは常にその椅子を狙われるもんだ。寝首を掻く奴が出て来てもおかしくない。」
「そんな・・・・じゃあお前は奴らを止めないのか?」
「ああ。」
「冷たいな・・・。ムクゲがいたらきっと手を貸してくれただろうに・・・・。」
そう皮肉を飛ばすと、「俺がボスのままでよかったか?」と呟いた。
「今この町の猫が平和に暮らせるのは、カミカゼが俺を倒してボスになったからだ。」
「カミカゼはいい奴だ。でもヘチョコとモミアゲは・・・・・、」
「そんなことを今言ったって意味がない。誰だって頂点に立つ時は手段を選ばないもんだ。それは人間も同じで、長いキャリアの中でたくさんそういう奴を見てきた。野心のある奴は、アレやコレやと手を使って上の者を引きずり下ろす。そしていざ頂点に立つと、意外と良い政治をする殿様だっていたんだ。だから猫だって同じかもしれないだろ?」
「ならヘチョコとモミアゲなら良いボスになれると?」
「さあな。そればっかりはなってみないと分からない。けどボスの座を巡って喧嘩をするのは、別に特別な話じゃないんだよ。
だからアイツらのことはほっとけ。どうせ返り討ちに遭うのが落ちだろうしな。」
そう言ってゴンベエの元に行き、「お前は下手クソ過ぎる。よく見とけ」と狩りの手ほどきをしていた。
俺は魚を獲る三匹を見つめながら、カミカゼのことを思っていた。
《カミカゼ、お前はボスの座を狙われているぞ。そのことに気づいているのか?俺はお前に味方して一緒に戦った方がいいか?それとも・・・・チョンマゲの意見に従って、大人しくしていた方がいいのか?・・・・・こうやって困った時、やっぱりムクゲが必要だよな。アイツならきっと良い意見をくれるだろうに。》
チョンマゲの意見は、実に筋が通っていたと思う。ボスの座を巡って争うのは、きっとどこの世界でも一緒だろう。
それはその通りだと分かっているのだが、どうしてもカミカゼにはボスでいたもらいたかった。
「お前が負けるところは見たくないな・・・・・。」
どうやら俺は、カミカゼを応援しているらしい。もし・・・・もしヘチョコとモミアゲが奴に襲いかかったら、俺は黙って見てはいないだろう。
ボスの座を巡る戦いが特別なものじゃないとしたら、気に入ったボスに手を貸すのも特別なことじゃないはずだ。
流れる小川を見つめながら、これからどうするべきかを考える。
川面が滑るように流れていき、ゴンベエが溺れて波紋を立たせていた。

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