ヒミズの恋 第七話 冷めても夫婦(1)

  • 2015.03.29 Sunday
  • 13:12
JUGEMテーマ:自作小説
結婚して九年にもなれば、夫婦の間には色々とわだかまりが出来るものだ。
一つ一つは小さな事でも、それが降り積もれば雪崩のように圧し掛かることだってある。
愛し合って結婚したはずなのに、気がつけばお互いの顔色を窺い、なるべく不機嫌にならないように言葉を選び合っている。
それでも定期的に喧嘩をしてしまうのは、やはりもう夫婦として限界が来ているのだろうか?
今から二ヶ月ほど前、近所のスーパー銭湯で息子が倒れた。
旦那と一緒にサウナに入っていたのだが、暑さに耐えきれずに一人で抜け出したのだ。
そして身体を冷やそうと水風呂に飛び込み、急性の心臓麻痺を起してしまった。
幸い一命は取り留めたものの、あと少し救助が遅ければ、後遺症が残っていたかもしれないと医者に言われた。
息子が入院したその夜、病院にいることも忘れて旦那と大喧嘩をしてしまった。
「あんたがちゃんと見てればこんなことにはならなかった!だいたい小学生に上がる前の子供をサウナに入れるなんて馬鹿じゃないの!」
自分でも耳がキンキンするほどの声で怒鳴ってしまい、旦那は一瞬だけたじろいでいた。
しかしすぐに表情を引き締め、屁理屈にもならない言い訳をしてきた。
「元はといえば、お前が風呂の湯を張ってなかったのが悪いんだろ!そうじゃなきゃ銭湯なんかに行かなかったんだ!」
「はあ?何それ?銭湯に行こうって言い出したのはそっちでしょ!だいたい結婚当初は、風呂掃除は交代でやるって約束したじゃない!それを何年か前から急にサボり出して・・・・そのクセに一人で酒飲んでくつろいでんじゃないわよ!」
旦那の見苦しい言い訳のせいで、私はまた金切り声をあげる羽目になってしまった。
「それにさ、あんた雄介が死にかけてる時に、何もしてあげなかったんでしょ?店長さんがしっかり対応してくれたからよかったけど、あんた一人じゃあの子は死んでたんだよ?その辺分かってる?」
そう責めると、旦那は言葉を失くして黙り込んでしまった。
私はここぞとばかりに罵り、いかにお前が無能かと淡々と説明してやった。
黙って聞いていた旦那は、やがて業を煮やして「やかましい!」と叫び、私に平手打ちを食わして去ろうとした。
「待てコラ!逃げてんじゃないわよ!」
ぶたれた頬の痛みも忘れ、気がつけば旦那に殴りかかっていた。見かねた看護師さんたちが止めに入り、あとで医者にこっぴどく叱られてしまった・・・。
あの日以来、私たち夫婦の亀裂は修復不可能なほど大きくなってしまった。顔を見るだけで胸がムカムカしてくるし、それはきっと向こうも一緒だろう。
しかし死ぬような目に遭った息子にいらぬ不安を抱かせたくないから、表面上は仲の良い夫婦を演じてきた。
しかしそれもとうとう限界に達したので、一度しっかりと話し合うことにしたのだ。
「このままじゃお互いにラチが明かないと思う。雄介も元気になったことだし、今度の休みにどこか行かないか?」
あの無能な旦那にしては、なかなか良い提案だと思った。
どこか景色が綺麗な場所にでも行けば、多少は気持ちが柔らかくなるかもしれない。
それを期待して樽山高原に行ったんだけど・・・・案の定喧嘩をしてしまった。
途中までは和やかな雰囲気で楽しんでいたのに、私のケータイに電話がかかって来たのが癪に障ったらしい。
「家族で遊びに来てるんだから、そんなもん切っとけよ。」
何気なしに言ったであろう旦那の言葉に引っ掛かり、よせばいいのに言い返してしまった。
「パート先の同僚から相談があるって言われたの。前からちょくちょくい相談に乗ってたし、今回もお願い出来ないかって頼まれたのよ。」
やや荒い口調でそう返すと、旦那は明らかに不機嫌になって私を睨んできた。
「その同僚って・・・男じゃないだろうな?」
「はあ?」
何言ってんだコイツ・・・。
二人も子供を抱えて、しかもパートまでしてる専業主婦のどこに浮気なんかする余裕があると思ってんだ?
だいたいお前の稼ぎが少ないから、こうしてパートをしてんだろう?
あんたと一緒にいたら、いくら不満が溜まったって浮気すら出来ないのよ!
・・・・という言葉を飲みこみ、口も利かずにその日は終わってしまった。
あの日以来、旦那とはほとんど口を利いていない。一応は毎日作ってやっていた弁当も、次の日からキッパリと止めてやった。
子供たちはそんな私たちの不穏な空気を感じているらしく、旦那と一緒にいる時にはあまり近づいて来なくなってしまった。
子供たちに余計な心配を掛けていることは心苦しいけど、私にだって意地がある。
これでも一生懸命家族に尽くしてきたのに、こともあろうにあの馬鹿男は浮気を疑いやがった。
もうこうなれば・・・本気で浮気をしてやろうかとまで考えていた。
《そういえば・・・飯田さん昔に比べてカッコよくなってたなあ。元々好みのタイプだったし、しかもまだ独身らしいし・・・。それに雄介の命まで助けてもらったんだから、ますます高感度が上がっちゃったなあ・・・。》
飯田さんの顔を思い浮かべ、もし出来るなら彼と不倫できないかと本気で考えてしまう。
《でも飯田さん、あの店辞めちゃったんだよね。ずいぶん仕事の出来る人だったらしいけど、どうして急に・・・・。もしかして、雄介のことで責任を追及されたとか?スタッフの人たちはその事と辞めたことは関係ないって言ってたけど、ほんとにそうなのかな?》
心に芽生えたわずかな疑惑は、やがて飯田さんに対する罪悪感へと変わっていった。
《もし雄介のせいで会社を追われたのなら・・・それって完全にあの馬鹿のせいじゃない。
だったらいっそ、あの馬鹿と別れて飯田さんと・・・・・って、ここまで考えるのはさすがに馬鹿らしいか。》
頭の中からあり得ない妄想を振り払い、平日の繁華街を歩いて行く。
今日は火曜日の、しかも昼飯時の終わった緩やかな時間帯だった。
平日のこの時間、地方都市の繁華街はずいぶんと閑散としていた。
《ああ・・・この方がいいわ。若い頃は賑やかな方が好きだったけど、今は絶対に静かな方がいい。》
一週間ほど前に、パートの同僚から電話をもらった。それこそが旦那と喧嘩をする原因になったんだけど、今はそのことはどうでもいい。
あの日、同僚の若い女の子はすぐにでも相談に乗ってほしいことがあると言ってきた。だから翌日の月曜に会えないかと聞かれたんだけど、私は断った。
《誰が祝日の人の多い時に、こんな繁華街に来るかっての。相談には乗ってあげるけど、ちょっとは気を遣ってほしいもんだわ。こっちはもう子持ちの三十二で、独身の二十代と同じ感覚にされちゃ困るのよ。》
私は適当な理由をつけて断り、今日のこの時間を指定した。案の定、平日の昼時は人が少なく、落ち着いて街を歩くことが出来た。
《自慢じゃないけど、この歳でもまだナンパされるのよね。だから若い男がうろついてないこの時間はホッと出来るわ。でもまあ・・・どんな男が寄ってきたって、二人の子持ちだって言うと逃げていくけどさ。》
人通りの少ない繁華街を尻目に、通りの奥にあるホテルを目指した。
そこは一階に美味しいコーヒーを出すお店が入っていて、ここで同僚の子と待ち合わせをすることが多かった。
ホテルに着いて窓から中を窺うと、向こうはもう先に来ていて、いつものテーブルに座っていた。
自動ドアをくぐって中に入り、手を振りながら近づいて行く。
「お待たせ、ちょっと遅れてごめんね。」
「いえ、そんなに待ってないですから。」
彼女の名前は堀田恵子。少し前まで飯田さんのいた銭湯で、ボディケアとかいうマッサージのような仕事をしていた。
今は私と同じディスカウントショップでパートをしていて、最近はそれなりに仕事に慣れてきたようだった。
人付き合いは少しぎこちない所はあるけど、礼儀と愛想はいいので職場での評判はいい。
私自身も、彼女とはすごく仲が良い。まあそのおかげで、ちょくちょく面倒くさい相談を受けることになるんだけど・・・。
「今日は平日だから人が少ないね。おかげで真っ直ぐここまで歩いて来られたわ。」
当たり障りのない会話で笑いかけ、店員さんを呼んでコーヒーを注文した。
堀田さんはニコリと笑って短い黒髪を揺らし、手にしたカップをテーブルに置いた。
「すいません・・・いつもいつも相談に乗ってもらって。」
「いいのよ。ずっと家にいたって息が詰まるし、こういう事でもでもなきゃ若い子と喋る機会なんてないし。」
「住原さんだってじゅうぶん若いですよ。」
「でももう三十二よ?」
「三十二は全然若いと思いますよ。それに住原さんってすごく若く見えるから、学生だって言っても通ると思いますよ。」
「それは言い過ぎ。」
鋭くツッコミを入れたものの、実はかなり嬉しかったりする。
もちろんお世辞だって分かってるけど、若いと言われて喜ばない女はいないだろう。
細身のイケメンな店員さんがコーヒーを運んで来て、「ごゆっくりどうぞ」と頭を下げていく。
その背中を見送りながら、私は堀田さんに尋ねた。
「堀田さんみたいな若い子だったら、ああいう店員さんみたいな子がタイプじゃないの?細くてイケメンで、なんか優しそうだし。」
そう問いかけると、堀田さんはブルブルと首を振ってコーヒーをかき混ぜた。
「ああいうナヨッとしたのは苦手なんです。私はもっと男らしいというか、真っ直ぐで寡黙なタイプが好きなので・・・。」
「ふう〜ん・・・若い子だったらああいうのが好みだと思ったけど・・・。けっこう古いタイプの男がいいのね?」
「ええ。だから・・・その・・・今のバイトの店長を・・・・・。」
堀田さんは恥ずかしそうに言って苦笑いし、見る見るうちに顔が赤くなっていった。
その反応がとても素直で可愛くて、思わず頭を撫でてしまいそうになった。
「堀田さん、けっこう純粋ね。」
「・・・よく垢抜けてないって言われます・・・。」
「いいじゃない。今時の何考えてんだか分かんない子より、堀田さんみたいな素直な子の方が好きだな。」
「・・・あ、ありがとうございます。」
そう言ってまた顔を赤くして、リスのようにはぐはぐとコーヒーを啜っていた。
《良い子・・・。でも今の恋は叶わないだろうな。》
堀田さんは恋をしていた。相手は今パートで勤めているディスカウントショップの店長で、今年で四十になるおじさんだ。
今のご時世に四十でおじさんと言ったら怒られるかもしれないけど、二十七の堀田さんからすればじゅうぶんにおじさんだと思う。
そのおじさんはとても寡黙な人で、常に淡々と仕事をこなす人だ。
仕事の技量は可もなく不可もなくだが、客に対しての愛想は抜群にいい。
どうやらそれが、堀田さんの目には真面目で男らしい人に映ったようだ。
でも私から言わせれば、あのおじさんはただただ日々の業務を忠実にこなしているに過ぎず、やはり可もなく不可もなくの男だった。
特別に顔がいいわけでもなく、しかも田舎のチェーン店のディスカウントショップの店長なんて、将来稼ぐ見込みもない。
悲しいかな、まだ若い堀田さんにはそれが分からないようだけど、あまり説教臭いうんちくを述べるのも大人げない。
ここは黙って彼女の話を聞いてやって、気のすむまでお茶に付き合ってやるべきだろう。
かく言う私だって、今の無能な旦那と結婚してしまったのだから・・・。
「それで、今日の相談もやっぱり店長のことよね?あれから何か進展はあった?」
そう尋ねると、堀田さんは小さく首を振った。
「住原さんのアドバイス通り、こっちから食事に誘ってみたんです。ああいうタイプは、自分からは動かないっていうから。」
「うんうん、いいじゃない。それで食事の誘いはOKしてくれたんでしょ?」
「はい。それも住原さんの言った通り、向こうはアッサリOKしてくれました。」
「そりゃそうでしょうよ。四十になる独身男が、二十七の若い女の子に誘われて嫌なわけがないもん。しかも堀田さんってけっこう可愛いから。」
「あ・・ああ!恐縮です・・・。」
堀田さんはまんざらでもない様子で喜びを隠した。
こいつ・・・自分の顔が悪くないことを、しっかり分かってやがるな・・・。
でも自分に自信を持つのはいいことだ。堀田さんの容姿なら、たいていの男は誘いを断らないだろう。
それにこう言っっちゃアレだけど、すごく胸も大きいし・・・。
要するに、外見に関しては充分にボーダーラインを越えているということだ。
後は内面の方なんだけど・・・・こっちはかなりの問題がある。
この子はとにかく自分の殻に閉じこもることが多い。
いや、閉じこもるっていうか、自分の世界で自己完結するといった方が正しいかもしれない。
何事も行動を起こしてみなければ分からないのに、ちょっとしたことで結論を急ぎ、自分から幕を下ろそうとするのだ。
初めて相談を受けた時も、とにかくネガティブな意見が多かった。
店長はもう立派な大人だし、きっとまだまだ垢抜けない私なんか相手にするはずがないとか、私は喋るのが苦手だから、寡黙な店長と付き合ったら、会話がなくて長続きしないんじゃないかとか。
聞いているだけでイライラするような、かなり後ろ向きな発言ばかりしていたのだ。
だから私は言ってやった。
『相手が大人だから好きになったんじゃないの?それに寡黙だから好きになったんじゃないの?だいたい付き合う前から、長続きするかどうか考えてどうするのよ?今までにもそうやって自分で勝手に線を引いて、何もせずに逃げてきたんじゃないの?』
遠慮もせずにそう言うと、堀田さんは目を見開いて驚いていた。
『どうして分かるんですか?』
真剣な顔でそう聞かれて、私は爆笑した。『誰が見ても分かることよ』と。
それ以来、色々と相談を受けては指南をしてきた。その甲斐あってか、堀田さんはじょじょに前向きになりつつあった。
以前はロクに声すら掛けられなかったのに、今では普通に店長と会話をしている。
その会話の内容だって、日に日にのお互いのプライベートな部分にまで及んでいるようだ。
そして遂に、愛しい彼を食事に誘うという大仕事をやってのけた。普通なら別に大したことじゃないんだけど、堀田さんにとっては勇気の要る行動だったに違いない。
私は心の中で素直に賛辞を送り、話の続きを促した。
「で?食事に誘ったまではいいけど、その後はどうなったの?うまくいかなかった?」
「いえ・・・食事自体は楽しかったんですけど・・・・その後が・・・。」
「その後?食事の後に何かあった?」
少し興味が湧いて身を乗り出すと、堀田さんは言いにくそうに困った笑いを見せた。
「私は食事だけのつもりだったんですけど、向こうはそうじゃなかったみたいで・・・。店を出てからしばらく一緒に歩いて、急に真顔で言われたんです。よかったら・・・今日はずっと一緒にいないかって・・・。」
それを聞いて、私はさもありなんと納得した。
「要するに、家に誘われそうになったってことね?」
「はい。しかも今日はずっと一緒ってことは、まあ・・・そういうことをするつもりってことですよね?」
「そりゃそうでしょうね。家に行って一晩泊まったら、やることなんて限られてるくるし。」
「そうなんです。はっきり言って、いきなりそこまでのことはしたくなかったから・・・丁重にお断りして帰って来たんです。それ以来、なんだか店長の態度が冷たくなっちゃって・・・・・。」
私はわずかに冷めたコーヒーをすすり、胸の中でそれ見たことかと悪態をついた。
あの店長は寡黙で男らしいわけではなくて、ただ単にコミニケーションが下手で、しかも淡々と仕事をこなしているだけに過ぎないのだ。
しかし異性に対して経験の浅いであろう堀田さんは、それを見抜くことが出来なかった。
だいたいからして、四十を超えて独身の男なんて、ほとんどの場合はどこかに大きな欠点があるのだ。
中にはそうでもない人もいるかもしれないけど、少なくともあの店長はダメだ。
下手をすれば、一度も女性と付き合ったことさえ無いかもしれない。
しかしそんな男に惚れるということは、もしかしたら堀田さんも・・・・・。
「ごめん、ちょっといい?」
「はい?」
「あの・・・答えたくなかったら全然いいんだけど・・・・。」
「ええ。」
「・・・堀田さんて・・・・今までに一度も男性とお付き合いしたことはないのかな?」
「・・・・・それは、どういう意味ですか?」
堀田さんの顔がわずかに強張る。
どうやら私の質問の意味は理解しているようだが、あえて分からないフリをするつもりらしい。
彼女には悪いと思ったが、ここまで聞いておいて「いや、やっぱりいいわ」というわけにもかないだろう。
私はわざとらしく咳払いをして、もう一度尋ねた。
「だから・・・その・・・・処女じゃないよね?ってこと。」
そう聞いてしまってから、これはさすがに失礼かなと思った。
いくら何でも、そこまで垢抜けていないわけはないだろうと思ったからだ。
しかし予想に反して、堀田さんは赤い顔で俯いてしまった。
何かを答えようとブツブツと口を動かしているが、あまりに声が小さすぎて聞き取れなかった。
「ごめん・・・別に馬鹿にして聞いたわけじゃないのよ。ただちょっと・・・どうなのかなって思ってさ。」
堀田さんの顔は、耳まで赤く染まっている。これではまるで、「私は処女です」と答えているようなものだった。
「ごめん、聞かない方がよかったみたいね。気を悪くしないで。」
明るい笑顔で笑いかけ、この重苦しい空気をなんとか変えようとした。
しかし堀田さんはまだ顔を赤くしていて、まったく顔を上げようとしなかった。
《こりゃまずいこと聞いちゃったかな・・・・・。ちょっと詮索しすぎたか?》
誰にだって人に知られたくないことはあるわけで、私はそれを尋ねてしまったようだ。
我ながら何と無神経だったことかと反省し、頭を下げて素直に謝った。
「ごめん。今のは忘れて。・・・・ああ!今日はここ奢るわ。この前はごちそうしてもらったし。」
「い、いえ・・・そんな・・・。」
「いいからいいから。」
遠慮する堀田さんを手で制し、店員さんを呼んで特製チーズケーキとやらを二つ頼んだ。
「まあまあ、失恋した時は食うに限るわよ。なんか食べたいものがあったら、なんでも注文して。」
「ああ・・・すいません・・・。」
人に気を遣う堀田さんは、私の好意を無碍にするのを躊躇ったようだ。
安い値段のパンケーキを一つだけ注文し、またリスのようにはぐはぐと食べていた。
《可愛い子・・・。でも今のままじゃ、この先苦労しそうね。》
純粋で素直なのはいいことだけど、さすがに二十七にもなればそれなりのしたたかさや図太さも必要になる。特に女の場合は。
そういうちょっと汚れた大人な部分を持たなければ、仕事に関しても恋に関しても苦労は絶えないだろう。
この先堀田さんにどういう恋が訪れるか分からないけど、まあ相談に乗るくらいならいつでも受けてやるつもりだった。
それから私たちは、他愛の無いお喋りに花を咲かせた。やっぱり・・・若い子と話すのは楽しい。
会計を済ませて店の外に出ると、小雨がパラついていた。
「ああ・・・そういえば昼過ぎから雨だって言ってたっけ・・・。傘持って来てないわ。」
「私もです。でも駅までそう遠くないから、商店街のアーケードを通ればそんなに濡れませんよ。」
「そうね。それじゃ駅まで一緒に行こうか。」
「はい。」
来た時よりも若干人が多くなった道を抜け、商店街の中を通って駅に直進する。
堀田さんはずいぶん私に懐いたようで、ペラペラと饒舌に喋っていた。
そして話せば話すほど、とにかく純粋で素直な子だと分かった。
なんだか私は、歳の離れた妹が出来たような気分だった。

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