ヒミズの恋 第九話 キューピッドは報われない(1)

  • 2015.03.31 Tuesday
  • 13:18
JUGEMテーマ:自作小説
ちょっと値段の張るホテルの一階に、個人で経営するカフェが入っていた。
人通りの多い繁華街ということもあり、平日の昼間でも多くの客が入って来る。
ここへバイトで入って早や三年。学生時代に小遣い稼ぎで始めただけなのに、卒業した後でも続けていた。
客の去ったテーブルを周り、トレーにコーヒーカップを乗せていく。
清潔な布巾でサッとテーブルを拭き、また隣のテーブルに移動した。
すると二人組の女性客から声を掛けられ、特製チーズケーキを注文された。
俺は笑顔で応対しながら、心の中では悪態をついていた。
《くそッ・・・・この忙しい時に面倒な注文しやがって・・・・。》
特製チーズケーキとは、マスターご自慢の当店人気スイーツだ。
どこぞの関西の山の牧場から牛乳を仕入れ、かつてパティシエだった腕を振るって作るのだ。
味は抜群、値段はほどほど、だから注文の絶えない目玉商品である。
しかし作るのには少し時間がかかる為、忙しい時間帯に注文が入ると作業が遅れる。
マスターは喜んで作るけど、待たされる客の嫌味は俺が引き受けることになる。
オバハンにはネチネチと愚痴を言われ、オッサンにはややキレ気味で怒鳴られる。
あれはいつだったか、あまりに酷い言われ方をしたので、思わずオッサン客の胸倉を掴んでしまったことがある。
もちろん・・・その後はマスターにこっ酷く叱られたけど・・・。
《そんなにウチの目玉商品っていうなら、いくらか作り置きしとけばいいんだよ。多少は味が落ちるかもしれないけど、どうせ素人が食うんだから気づきゃしないのに。》
しかしマスターの性格からすると、絶対にその提案は受け入れないだろう。
見た目は若いくクセに、昭和の職人みたいな性格をしてるもんだから、一切の妥協が許せないのだ。
まあその甲斐あって、この店は繁盛してるんだけどさ・・・・。
厨房に戻って特製チーズケーキの注文を伝えると、マスターは嬉々として作り始めた。
先に注文が入っていたサンドイッチは、あっさりと奥さんの仕事へとシフトしていく。
こういう事がたびたび続くと、店が終わってから喧嘩が始まるのだ。そしてその仲裁役も俺が引き受けることになる。
そう思うとなんだかげんなりしてきて、厨房の二人に背を向けた。
《もうここも辞め時かなあ・・・・。カフェの割には時給は悪くないけど、ずっとここでバイトってのもなあ・・・。》
大学の三回生からここへ来ているので、今年で24になる。まだまだ若さを謳歌出来る年齢だけど、さすがにずっとカフェの店員というわけにもいかない。
でもだからといって、特にやりたい仕事だの、夢だのがあるわけじゃないんだけど・・・・。
《やっぱもう少し真面目に就活しとけばよかったなあ・・・。ちょっといい大学だからって、ナメてたのがいけなかったか?》
俺の通っていた大学は、全国でもそこそこ名の知れた所だ。
だから真面目に出席して、真面目に就活すれば、それなりの企業に就職出来るはずだった。
はずだったのが・・・・俺は怠けた。生来が自由気ままな性格なものだから、授業は必要最低限しか出なかった。
それに就活だって、きっとどこかへ入れるさとタカを括り、四回生になっても合コンばかりしていた。
後輩の合コンに無理矢理参加して、一回生の垢抜けない女の子をアパートに連れ込みまくっていた。
《ほとんどが処女だったなあ・・・。高卒で童貞は多いってのは知ってるけど、女の子だってけっこう経験が無いってのは知らなかったなあ。まあでも、その分オイシイ思いはさせてもらったけど。》
これから綺麗になり、そして多くの男とセックスするだろう女の子を抱くのは、なんとも言えない興奮があった。
だって・・・これから先どんなにイイ男と付き合ったって、初めに抱いたのはこの俺なんだから。
《うん、まあ・・・女に関しては俺は勝ち組だよなあ。世の中にはモテないが為に婚活する奴だっているんだし、そう思うと敗者ではないよな。》
そう思いながら髪をいじり、大きな鏡に映る自分を見つめた。
《顔は悪くない。スタイルだってそこそこいいはずだ。それに女の子の扱いだって上手いし、セックスだって自信がある。けど・・・そんなもんが通用するのは、やっぱ若いウチだけだよな。大人になれば、やっぱ金とか地位の方が重要になるし。それに若い女はもう飽きたな。ちょっと年上の、エロイ感じのお姉さんとかと寝れたら、けっこう楽しいかも。・・・・・じゃあやっぱり、ここの店員じゃダメだ。せっかくイイ大学を出たんだから、もっとイイ場所で働かないと。》
鏡に映る自分を飽きることなく眺め、色んな角度からチェックしてみる。外見に関してはどこにも非の打ちどころがなく、マジで俳優とかアイドル並だと思った。
《・・・芸能界・・・・か?このルックスなら、別に難しくないかも。いや、でも待てよ。今は下手にテレビの方に行くより、ネットから発信していった方がいいかも。俺ってけっこう笑いのセンスがあるから、ようつべとかで動画を流せば、それなりにファンが付くかも・・・。実際にメグウィンとかヒカキンとか、ようつべの動画で食ってる人だっているんだし、上手くいく可能性はあるよな。》
何となく思いついただけなのに、考えれば考えるほど上手くいきそうな気がしてきた。
うむ、このポジティブな思考だって、俺の立派な武器だよな。
あれやこれやと夢を膨らませ、ひたすら鏡を眺めていると、「ケーキ上がり」と奥さんに呼ばれた。
それをトレーに乗せ、さっきの女二人組の所へ運ぶ。
別にこんなショボイ女どもに興味はないけど、いつものクセで思わずチェックを入れてしまった。
《一人は家庭持ちだな。けっこう若く見えるけど、主婦特有のオーラが出てる。あんまり美人じゃないし。それと・・・もう一人もイマイチだな。胸は大きいけど、全体的にパッとしない。美人の部類に入れてもいいけど、俺の好みではないな。それに雰囲気や喋り方からして、絶対に処女だ。きっと二十代後半くらいだろうけど、それで処女ってのはちょっとナシだな。下手にやったら結婚とか迫られそうだし。》
自分で言うのもなんだけど、俺の女チェックの目はかなり正確だ。今までに外したことはほとんどない。
この素晴らしい眼力のおかげで、いったいどれだけのカップルを成立させたことか。
モテない友達に女を紹介してくれと頼まれ、そいつにピッタリ合いそうな女を紹介してやったことは何度もある。
そうやって成立させたカップルは全部で十五組。そのうちの半数は破局したけど、残りの七組は今でも続いている。
しかも二組のカップルに至っては、結婚まで辿り着いたのだ。
我ながらいい仕事をしたと実感はあるし、友達が幸せになるのは嬉しいことだ。
俺のことを表面的にしか知らない奴は、よく女たらしと馬鹿にしてくるけど、実際はそんなことはない。
これでも友達や家族はけっこう大事にしてるんだから。
しかしいくら友達が幸せになったところで、俺が幸せにならないんじゃ意味がない。
ショボイ女たちのテーブルにケーキを置き、モヤモヤした気持ちで厨房へ戻っていった。


            *


それから四日後、俺はマスターにバイトを辞めることを伝えた。
いきなりそんなこと言われても困るよとか言ってたけど、ずっとあそこにいたら困るのは俺の方だ。
でも三年間お世話になったわけだし、後味悪くして辞めるのは嫌だった。
だから高卒でニートの弟を引っ張り出して来て、無理矢理面接を受けさせた。
まあ俺の弟ということもあって、ニート歴二年ながらも採用された。
最初は戸惑ってたみたいだけど、今はきちんと働いているようだ。
これでマスターもとりあえずは納得してくれたし、弟はめでたくニートを卒業出来たし、親はホッと一安心してくれた。
うん、またしても俺は、周りの人間を幸せにしてしまったようだ。
しかし他人の幸せは、しょせん他人のものでしかない。
これは俺の人生なんだから、やっぱり俺が幸せにならないと意味がないのだ。
というわけで、あのバイトを辞めてから一ヶ月後、しばらく自由を満喫してから行動を起こすことにした。
「この一カ月・・・たっぷり遊んだし、セックスもいっぱいした。これからは、マジで俺の人生を変える為に生きないと。」
とりあえず、ようつべに動画を上げることは決定した。しかしどんな動画を上げれば人気が出るのか?それを相談する為に、信頼出来る友達に集まってもらった。
呼んだのは二人、高校の時からの友達で、しかも俺の尽力によって彼女を獲得した非モテ男たちだ。
どちらも顔は悪くないクセに、女を前にすると異常に緊張してしまう。今はかなり改善されているけど、それでも俺から言わせればまだまだ甘ちゃんだった。
だが今日俺の部屋に集まってもらったのは、女とは別のことだ。
二人の非モテ男を前にして、ベッドに腰掛けながら尋ねた。
「俺さ・・・・これからビッグになろうと思う。だからネットに動画配信するんだけど、何がいいと思う?」
腕を組んで高みから二人を見下ろし、意見を拝借する。しかし非モテ男たちは、退屈そうな顔で「帰っていい?」とぬかしやがった。
「なんでだよ?俺はお前らに彼女を見つけてやったんだぜ?だから恩を返せよ。」
もっともな意見をぶつけてやると、ジャニーズ系の顔をした杉原が口を開いた。
「いや・・・いきなり呼ばれて、何を言ってるか分かんね。しかも今時ビッグになるとか、言い方が古くね?」
「そんなのはいいんだよ、ただの言葉なんだから。ほら、お前ら何かアイデア出せよ。もし俺が成功したら、ちょっとは分け前をくれてやるから。」
そう言うと、杉原は困った顔で隣の男を見つめた。
「なんか・・・面倒くさいこと言いだしやがった。どうする?」
そう尋ねると、もう一人の友人である高司が「どうもしなくていいだろ」と答えた。
「確かに彼女を見つけてもらった恩はあるけど、もう別れた後だしなあ。今さら恩返ししなくてもいいだろ?」
「だな。ごめん、俺ら明日仕事があるから帰るわ。」
そう言って二人は立ち上がり、「じゃあまた」と本当に帰ろうとしやがった。
「待て待て!せっかく来たんだからもうちょっといろよ。」
「でもお前の戯言に付き合わされるんだろ?じゃあヤだよ。」
「戯言じゃねえよ。いいからまず座れ、それとお茶飲め。」
渋る二人を無理矢理座らせ、オカンが持ってきた不味いこぶ茶をすすらせた。
「いいか、ちゃんと聞けよ。俺にはそなりのビジョンがある。」
「ビジョンて(笑)。」
「笑うな。別に俺は、夢物語を語るわけじゃない。今年で24なんだし、ビッグになるとか言ったって、石油王とか逆玉とか狙うわけじゃないんだ。」
「例えがおかしくね?」
「だからいいんだよ、だたの言葉なんだから。」
だんだんイライラとしてきて、語気が荒くなってしまう。
杉原と高司は、これ以上俺を怒らせたら面倒だと思ったらしく、とりあえずは大人しくなった。
「それでいい。これから話すことをよく聞けよ。そして驚け、讃えろ。あとはアイデア出せ、いいな?」
「分かったから早く言えよ。」
俺はニコリと頷き、机から一枚の紙を取り出した。
「昨日のうちにプランを纏めたんだ。ちゃんと読むから聞いとけよ。」
「前置きが長いんだよ、早く言え。」
高司に急かされ、俺はベッドの上に立って紙を読み上げた。
「まず一つ、俺はようつべに動画を投稿し、ファンを獲得する。」
「うん。」
「二つ目、動画に人気が出たら、自分のホームページを作る。そんで広告とかバンバン入れて、広告料を稼ぐ。」
「おう。意外と普通だな、お前にしてはだけど。」
杉原が退屈そうにこぶ茶をすすっている。
馬鹿め・・・ここまでは普通なんだよ。俺が一番力を入れたのは、最後の三つめのプランなんだから。
しばらく間を置き、たっぷり引っ張ってから三つ目のプランを読み上げた。
「では最後、前の二つのプランが成功したのち、新規事業としてカップル斡旋会社を立ち上げる。以上!」
全てのプランを読み終え、ベッドから降りてこぶ茶をすする。オカンは相変わらずお茶っ葉と湯の配分を間違えていて、このお茶を一杯飲めば塩分過剰で何らかの病気になりそうだった。
「しょっぱい・・・。で、どうだった?いい線行ってるだろ?」
非モテ男たちに視線を投げかけると、言葉を失って顔をしかめていた。
「お!いいねえ、その表情。それでこそプランを読み上げた甲斐がある。」
ニコニコしながら言うと、二人は唇を尖らせてなんとも言えない顔をしていた。
「ああ、いいよ、分かってる。コイツ何馬鹿なことを言ってんだと思ってるだろ?でもな、それでこそこのプランに意味があるんだよ。」
「・・・・どこが?」
杉原はマジで馬鹿にしたように尋ねる。その態度にちょっとムカついたけど、でもこれはいい反応なのだ。
「いいかお前ら。マイクロソフトを立ち上げた、かのビル・ゲイツはこう言った。本当に素晴らしいアイデアというのは、周りに笑われるくらいでないといけない・・・・と。」
「ふうん、で?」
「このプランの肝がどこにあるかっていうと、まず動画で人気を獲得しなきゃいけないんだ。それでもって金を集め、カップル斡旋会社を立ち上げる。だから最初の段階でつまづくと、後々のプランに支障をきたすんだよ。」
「最初から支障をきたしてると思うけど?」
「そんなことないよ。」
胸を張ってそう言うと、高司がこぶ茶の湯呑を弄びながらため息をついた。
「その自信はどこから来るんだよ?」
「自信ならある。それはお前らが証明してるだろ?」
「は?」
「は?じゃねえよ。いいか、お前ら非モテ男の彼女は、いったい誰が作ってやったと思ってるんだ?いや・・・お前らだけじゃない。合計で十五組のカップルが、俺の力で幸せを掴んだんだ。」
目に力を込めて力説すると、杉原が「でも半分はダメになっただろ」と反論した。
「半分はな。でももう半分は上手くいってる。しかも結婚までした奴らもいるんだ。これってさ、俺には人を見抜く目があって、さらには相性の良い者同士をくっつける能力があるってことだろ?だったらさ、それを商売に活かさない手はないと思う。でもそこに漕ぎ付ける為には、まず動画の配信からなんだよ。分かるだろ?」
「うんにゃ、全然。」
二人は同時に首を振り、呆れた顔で立ち上がろうとした。
「まあ待て待て。別にお前らを巻き込むつもりはないんだ。」
「もう巻き込んでるっての。」
「いいや、巻き込まない。これは俺が考えたことだから、俺が責任をもってやる。そんでもし儲かったら、ちゃんと報酬を払うからさ。」
二人の肩を叩きながら言うと、渋々という感じで座り込んだ。
「・・・まあ、お前が嘘をついた試しはないからな。」
「だな。口にした約束は守る男だ。」
「だろ?だからさ、どんな動画を上げれば人気が出るか考えてほしいんだよ。俺ってルックスはいいし、笑いのセンスもある。だからバラエティ方面で行こうと思うんだけど、お前らはどう思う?」
俺は真剣な目で、そして真剣なハートで二人を睨んだ。この二人なら、きっと俺のハートが本物だってことに気づいてくれるはずだ。
そして最初に気づくのは・・・・・・、
「なあ、それ本気で考えてんの?」
ビンゴ!やっぱり高司が喰いついた。こいつは鈍感なようでけっこう鋭いから、相手が本気ならきちんと反応を返してくれるのだ。
「ああ、本気だよ。じゃなきゃわざわざお前らを呼んだりしない。」
「ううん・・・そうか、本気なのか・・・。だったらちょっと俺にも意見が・・・・。」
よしよし、予想通りの反応だ。やっぱりお前は良い友達だ。
そして次は絶対に、杉原の奴が高司を思いとどまらせようとする。
「お前・・・本気にすんなよ。こいつの言ってることって滅茶苦茶だぜ?」
「いや、でも・・・こいつが嘘をついたことってねえじゃん?こうやって俺らを集める時って、たいがい本気で何かをやろうとしてる時だろ?ほら、高校の修学旅行の時だって、ムカツク音楽のセンコーを、上手いこと別の新幹線に乗せたじゃん。そのおかげで、あのババアは東京じゃなくて岡山に行っちゃったんだ。おかげで修学旅行は楽しかったじゃん。」
「そりゃそうだけど・・・・。」
「それにさ、大学ん時の夏休みだって、族につけ回されたことあったろ?」
「ああ、しょうもないことで因縁つけられてな。家まで追いかけて来てしつこかったな。」
「あの時だって、こいつの機転で解決したんだ。警察に嘘のタレこみ流して、海辺の公園に機動隊を呼び寄せただろ?」
「うん、族が遊具を破壊して、子供にも暴力振るってるとか言ってな。」
「そんでもって、こいつがオトリになって、族を海まで引っ張って行ったんだ。そしたら機動隊と族が衝突して、とんでもない騒ぎになったろ。」
「ああ、新聞にも載ったな。」
「でも俺らは助かった。それもこれも、全部こいつのおかげなんだよ。だからさ、こいつが本気になった時って、すげえ力を発揮するってことなんだよ。今回だって、本気で商売を始めようとしてるはずだ。ならダチの俺らが協力しないでどうするよ?」
「いや、理屈は分かるけどさ、それでも・・・・。」
杉原はまだ渋っている。しかし心は揺さぶられているようだ。そこへ高司が最後の追い込みをかける。
「それに何だかんだ言ったって、俺らに彼女が出来たのはこいつのおかげだぜ?もしあれがなかったら、俺たちは今でも童貞のままかもしれない・・・・。」
「24で童貞か・・・。それがいいのか悪いのか・・・・。」
「いや、ダメだろ。童貞で30超えたら魔法使いになれるとか言ってる連中と、同じ目で見られたいのか?」
「ああ、それは嫌だな。」
「だろ?俺たちは現実の女を手に入れて、紙に書かれたペラペラな女の子で我慢しなくてよくなったんだ。それだけでも恩の字じゃねえかなあ・・・。」
高司よ・・・お前には人を口説き落とす才能があるかもしれない。もし商売が上手くいったら、こいつを重役として雇ってやろうか?
杉原はずいぶんと悩んでいる様子だったけど、やがて腹を決めたように顔を上げた。
「確かに・・・お前の言うとおりだな。実を言うとさ、俺もちょっと最近退屈してたんだわ。だからまあ・・・ちょっとくらいなら手伝ってやってもいいかな。」
よしきた!それでこそお前らだ!さすがは俺の見込んだ友、そして同志だ。
もしかしたら落ちるまでに時間がかかるかもしれないと思っていたけど、案外すんなりといった。
きっとこいつらも、今の自分の人生に満足していないんだろう。ここはいっちょ、俺と一緒にその退屈から飛び出してもらおう。
「さて諸君。話はまとまったな?」
「いや、話はこれからだろ。」
「まあそうだな。で、高司君・・・君はさっき何かを言いかけていたね?いったいどんな意見か聞かせてもらおうじゃないの?」
「急にキャラ変えて喋ってんじゃねえよ。」
そう言って小さく笑い、病を誘発するこぶ茶を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「そうだな・・・お前の考えは面白いと思うけど、やっぱ現実的じゃねえよなあ。」
「ほほう・・・ではどうすればいい?」
「まず動画の配信ってのはやめよう。今時そんなのやってる奴はごまんといるよ。それに成功したとしても、会社を立ち上げるほど儲かるとは思えない。」
「じゃあどうするんだ?金がなきゃカップルの会社を立ち上げられないぞ?」
眉を動かしながら尋ねると、高司は顎に手を当てて考え込んだ。
「まずさ・・・そこから考え直してみたらどうだ?」
「カップルの会社をか?悪いアイデアじゃないと思うんだけどなあ・・・。」
「いや、確かにお前は人を見抜く目を持ってるよ。女だけじゃなくて、人間そのものを見抜く目を持ってると思う。」
「おおう、偉く褒めてくれるねえ。」
「言っとくけどお世辞じゃないぜ。本当にそう思ってるんだ。でもカップルの斡旋ってのは、あんまり需要がないと思うな。」
そう呟くと、杉原もそれに同意した。
「俺もそう思う。結婚の斡旋っていうならともかく、カップルの斡旋ってのは無いわ。」
「どうして?俺なら上手くやれるぞ?」
「・・・・上手くやれるかどうかじゃなくて、きっと客が来ないと思う。結婚と違って、恋愛なんてそこまで重いもんじゃないだろ。それに恋人が出来なくて悩んでる奴がいたとしても、わざわざ斡旋所に行くかね?恋愛に情熱を燃やすなんて、若い奴がほとんどだぜ?そりゃ歳がいってもそういう人はいるかもしれないけど、でも斡旋所ってのはなあ・・・。恋愛って自由なもんだから、そんな堅苦しいことは敬遠されるだろ?それに下手すれば、ただの出会い系サイトと何にも変わらないと思うぞ?」
「そうそう、だいたい未成年なんかに来られた日にゃ、援交や売りを疑われて警察沙汰になるかも。お前の人を見抜く目は認めるけど、やっぱりカップルの斡旋所っていうのはやめた方がいいな。」
二人は真剣に意見を聞かせてくれる。何だかんだと言いながらも、こうやって協力してくれるあたりが泣かせるところだ。
「分かった。お前らがそこまで言うなら止めとくよ。動画の配信も・・・ちょっと安易だったかもしれない。でもさ、そこまで言うなら代案を聞かせてくれよ。これは俺の人生の転期になるかもしれないんだから、ちゃんと考えてやりたいんだよ。」
「その割にはプランが三つだけだったけどな。」
「それも誰でも思いつくような。」
「だからお前らに相談してんだろ?さあ、早く君たちの意見を聞かせてくれたまえ。」
「だから急にキャラ変えてんじゃねえよ。」
それから俺たちはトコトン話し合った。ああでもないこうでもないと意見をぶつけ合い、気が付けば日付が変わっていた。
そして・・・・高司の意見で一つの答えが出た。それは最初に考えていたプランとは駆け離れていたけど、なかなか上手く行きそうな気がした。
まあプランはプランであって、確定じゃないもんな。上手くいきそうな方法があったら、そっちの方がいいに決まってる。
進む道は決まったんだ。俺は必ず、この道でビッグになってやる。その為なら一生を捧げても構わない。
だんだんと夜が開け始めた頃、二人は寝むそうな目をして帰っていった。お前ら・・・・本当にいい友達だぜ。
俺はさっそく準備にとりかかり、まずはネットを開いて情報を集めた。
その頃には、地位だの金だのは頭の中から消えていた。俺の思い描くビッグは、そんなチンケなものじゃない。もちろんイイ女とどうこうとかでもない。
ただ・・・・歴史に名を残したかった。人に聞かれたら笑われるかもしれないけど、本気でそう思ったんだ。
俺が生きた証を、この世に刻みつけてやる。でもやっぱり・・・イイ女は欲しいかな。
だってキューピット役ばかりじゃ、俺が報われないもの。

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