ヒミズの恋 第十一話 光を見るモグラ(1)

  • 2015.04.02 Thursday
  • 10:26
JUGEMテーマ:自作小説
季節は夏の終わりだった。
お盆も過ぎ、夏祭りや花火大会もピークを過ぎて、あとはただ暑い日が続くばかりだった。
子供は学校が始まり、歳寄りは夏バテで家に籠り、勤め人はクソ暑いスーツでパソコンを叩く。
夏が過ぎるということは、日常が平穏を取り戻すことである。
浮かれた気分はお盆と一緒に送りだし、ようやく本来の日常へと戻っていくのだ。
しかしながら、暇を持て余した学生は性質が悪い。特に大学生ともなると、九月に入っても休みが続くものだから、用も無いのにコンビニへやって来たりする。
店の前でたむろするくらいはいい。車の中のゴミを捨てるのも大目に見よう。
しかしだ。酔っぱらって他の客と喧嘩をするのはいただけない。
時刻は午前一時。店の駐車場に、俺とバイトの男の子、そして口元から血を流したサラリーマンと、酔っぱらった学生三人がいた。
「警察が来るまで大人しくしとけよ。」
学生時代はラグビーで馴らしたという若いバイトが、がっちりとした腕で学生の一人を押えこむ。
「離せコラ!シバクぞ!」
「ああ?腕折るぞコラ?」
酔っぱらった馬鹿ガキの挑発に乗り、若いバイトは腕を掴んでねじり上げた。
いくら暴漢を押える為とはいえ、本当に腕を折ったら過剰防衛でこちらが悪くなる。
俺は「落ちつけ」と二人を取り成し、少し酔いの冷めたであろう他の学生に話しかけた。
「警察が来てから詳しく聞かれるだろうけど、喧嘩を吹っ掛けたのはそっちなんだな?」
「ああ・・・まあ・・・。」
今時のチャライ格好をした痩せ形の学生は、バツが悪そうに身体を揺すっていた。
「で?車がぶつかりそうになって因縁をつけたと?」
「因縁っていうか、そっちのおっさんが文句言ってきたから・・・。」
そう言ってサラリーマンの方を指差すと、まだおっさんというには若い男が怒鳴った。
「ふざけんなお前!テメエがぶつかりそうになって来たから注意しただけだろうが!」
「はあ?お前の運転が下手クソなんだろ?」
「違うよ!お前らが酒飲んで運転してるからだろ!それだけでも犯罪なのに、因縁つけて手え出しやがって・・・。きっちりブタ箱にぶち込んでやるからな!」
「調子乗んなテメエ!」
治まっていた怒りが爆発し、再び取っ組み合いを始める。慌てて止めに入ると、思い切り後頭部を殴られてしまった。それもサラリーマンの方に・・・。
《誰を守る為に身体張ってると思ってんだこの野郎!》
本気で殴り返してやろうと思ったが、そんなことをしたらさらに面倒になるのでグッと堪えた。
やがて警察が到着し、数人の警官が駆け寄ってきて制止に入った。サラリーマンは鼻から血を流し、学生の方は服が裂けて目尻を切っていた。
店にやって来た客が何事かと野次馬根性を見せ、通りを走る車はスピードを緩めて好奇の目を向けていた。


            *


喧嘩の日の翌日、昨日と同じようにレジに立っていると、品出しを終えたバイトが「昨日のどうなったんすかね?」と尋ねてきた。
「学生の方は捕まったってさ。酒飲んで運転した上に、相手を怪我させたんだから。」
「そりゃそうっすよね。俺もマジで腕折ってやろうかと思いましたもん。」
「マジでやられると困るから止めに入ったんだよ。ただサラリーマンの方も反撃して怪我を負わせてるから、どうなるかは分からんな。」
「そういや店長も殴られてましたね。大丈夫っすか?」
「思いっきりタンコブになってるよ。でも面倒は嫌だから、警察には言ってないけどな。」
「マジっすか?俺なら絶対に慰謝料とか取りますよ。」
「そういうのが面倒だから黙ってたの。いいから残りの品出しやってくれよ。もうじき上がりだろ?」
「ああ、はい。」
ガタイは良いがオツムの弱いバイトは、三カ月経っても慣れない手つきで商品をいじっていた。
「いい加減仕事覚えろよ。」
聞こえない程度に愚痴を言い、バックヤードに戻ってパソコンの前に座った。カタカタとキーボードを叩きながら、昨日よりさらに痛むタンコブを押えた。
「・・・・やっぱ治療費くらいは貰うべきだったか?」
チラっとそう考えるも、やはり面倒はゴメンなのでこのまま我慢することにした。
面倒な事務処理を終えてレジに出ると、外は明るくなり始めていた。時計を確認すると午前五時前。あと一時間で代わりのスタッフが来る。
休憩がてらに外の掃除に向かい、駐車場に落ちている吸い殻を掃いていった。
「ずっと前から思ってるけど、どこも全面禁煙にすりゃあいいんだよ。そんなに吸いたいなら家で吸えってんだ。」
あれはまだ24の若い頃、ホテルのバイトをしている時にも同じ愚痴を言った記憶がある。
あの時は将来のことなど全く考えていなくて、ただただ漫然と日々を過ごしていた。
特にやりたい事や熱中出来るものもなく、ただ家とバイトを往復する日々。
休みの日は家に籠ってゲームをするか、冴えない友達と飯を食いに行くかのどちらかがった。
しかしそんな下らない日々の中に、一つだけ胸を熱くさせるものがあった。
それは・・・・・霜田さんだ。
あのつまらない日々の中で、唯一俺の中で輝いていたもの。ただ彼女に会う為だけに、あのつまらないバイトに行っていた。
一緒にフロントに立ち、他愛ないお喋りをしている時間。そして下らないことで笑い合う時間。
それは少なくとも、俺にとっては最高の時間だった。
彼女を好きになる気持ちは日に日に大きくなり、もはやその笑顔を見るだけで天にも昇る思いだった。
だから何度も告白しようと思ったが、それを行動に移す勇気はなかった。
もしフラれてしまったら、あの楽しい時間がなくなってしまう。それは当時の俺にとって、最も避けたいことだった。
しかし・・・・その選択は間違っていた。俺は勇気を振り絞り、彼女に告白するべきだったのだ。
そうすれば、霜田さんは今でも俺の隣にいてくれたかもしれない。
結婚が決まってあのホテルを辞める時、彼女はこう言っていた。
『今だから言いますけど、私って飯田さんみたいな人がタイプなんです。もう少し早く出会えてたら、きっと好きになってました。』
それが本当か嘘かは分からない。しかしその言葉は、今でも俺を苦しめている。
もし・・・・もしあの時行動を起こしていたら、今とは違った未来があったんじゃないかと。
それは霜田さんのことだけではなく、今の自分の現状にも言えることだった。
正直に言うならば・・・・俺はあの銭湯を辞めたことを後悔していた。
霜田さんのことを忘れる為だったとはいえ、俺は本気で仕事に打ち込んだ。そのおかげで若くして店長を任され、複数の店舗のオーナーにという話まで出ていた。
俺はあの仕事が気に入っていたし、オーナーの話だって心の底から喜んでいた。
昇進すればもっと仕事にやり甲斐が出来るだろうし、いずれは独立して自分の店まで持ちたいと考えていたほどだ。
それが今ではどうだ?ちっぽけなコンビニで雇われ店長として働き、来る日も来る日もただ時間が過ぎるのを待っている。
それに女とはほとんど縁が無く、しばらく前に付き合った彼女とは、しょうもない口喧嘩が原因で別れてしまった。
まあ今となっては、特に思い入れのある女でもなかったが。
前の仕事を辞めたこと。そして女から縁が遠ざかっていること。それらは全て、俺が悪いのだ。
いつまで経っても霜田さんを忘れられない、この情けない根性のせいなのだ。
それは分かっているのに、今でも彼女の笑顔は消えてくれない。しっかりと俺の心を掴み、万力のような力で食い込んでいる。
それに加えてあんなセリフまで言われたものだから、どう足掻いても胸の内から霜田さんを消すことは出来なかった。
『今だから言いますけど、私って飯田さんみたいな人がタイプなんです。もう少し早く出会えてたら、きっと好きになってました。』
「・・・・・馬鹿じゃないのか・・・・。結婚するなら、そんなセリフを残していくなよ。いっそ嫌われてた方が楽だった。」
霜田さんは何も悪くない。全ては俺の女々しさが原因だ。しかしそれでも、あんなセリフを吐いたことが憎らしかった。
一通り駐車場の掃除を終え、吸い殻をゴミ箱に移して店に戻る。バイト君はまだ品出しをしていて、エロ本の表紙に熱い視線を送っていた。


             *


久々の休日に、用事があって街へ繰り出した。街といっても地方の中途半端な都市だが、俺の住んでいる田舎よりは楽しみがある。
朝早くに車を駆り、空いているバイパスを飛ばして街へやって来た。
バイパスを使えば車で一時間程度の距離だが、ここへ来るのは久しぶりだった。
コインパーキングに車を止め、汚れた水路を横目に駅の方まで向かう。
「おお、かなり変わってるな。」
数年ぶりに見る駅は、俺の記憶とはかなり変わっていた。以前は壁にツタが巻いてヒビが入っていたのにいたのに、今は綺麗に建て替えられている。
建物全体がかなり大きくなり、まるでどこぞの高級ホテルのようだ。それに中に入ると、若い女性が好みそうな店がたくさん入っていた。ボロくて陰鬱な雰囲気はなくなり、華やかで明るい空間になっている。
「変わったな・・・噂には聞いてたけど。」
駅の中には大きな店がいくつも入っていて、案内板を眺めて唸った。
「ふう〜ん・・・色んな店舗が入ってるんだな。おお、ジュンク堂もあるのか?ちょっと寄ってみるか。」
本を読む習慣はないが、本が並んでいる光景を見るのは好きだった。案内板を後にして、お菓子や洋服が並ぶ通りを抜けてエスカレーターに乗る。
そして二階まで上がると、フロアは全て本で埋め尽くされていた。
「こりゃすごいな。」
店には多くの本だけではなく、多くの客が入っていた。誰もが本をとって真剣に眺めていて、レジには行列が出来ていた。
自分も何か探そうと歩きだし、芸能人やら旅行の本が並んでいる棚を抜けていった。奥の本棚には文学書や経営の本が並んでいて、その隣に生き物の本があった。
「そういや昔、ちょっとだけ動物園の飼育員に憧れてた時期があったな。」
興味を惹かれて、大きな図鑑を取って眺めていった。しかし・・・すぐに飽きてしまった。
写真を見るのは楽しいのだが、くどい説明文がどうしても受け付けない。きっとこういうところが、本を読む習慣が身に付かない原因なのだろう。
図鑑を元に戻し、ぶらりと歩いて店を一周する。誰もが熱心に本を読んでいて、その光景をじゅうぶん楽しんでから店を後にした。
来た時と反対側の出口から駅を出ると、繁華街のアーケードが変わっていた。汚いタイルは綺麗に張り替えられ、日射しの悪かった天井は透き通るアクリルに変えられている。
そのおかげでアーケードの中は明るくなり、心なしか道行く人の表情も明るく感じられた。
こういうことに税金を使ってくれるなら、住民は誰も文句を言うまい。役所もたまにはいい仕事をしてくれるものだと思いながら、近くのカフェに入った。
席に座って腕時計を確認すると、まだ午前九時半だった。午後から昔の友人と飯を食いに行き、その後はそいつが女を紹介してくれることになっていた。
長らく女に縁がない俺に気を遣って、知り合いの女性を紹介してくれるというのだ。
こっちとしては大きなお世話なのだが、特に断る理由もないのでやって来た。別に紹介される女に期待はしていないし、今は彼女が欲しいとも思わない。
それどころか、人生そのものに張りがなく、人は何の為に生きているのか?なんて、青臭いことまで考えるようになっていた。
「・・・・末期だな。そのうちうつ病にでもなっちまったりしてな。」
運ばれてきたコーヒーをすすり、ついでに注文したホットドッグで腹を満たした。ここで時間を潰すにはあまりにもやることがなく、もう一度本屋に行って暇を凌ごうと考えた。
会計を済ませて店を出る時、ふと見覚えのある顔とすれ違った。
「今のは・・・・・。」
それは眼鏡を掛けた若い男だった。締まりのない顔に締まりのない身体。もしピッタリくるあだ名があるとしたら、それはのび太君だろう。
そしてそののび太君の名前を、俺は知っている。彼はかつて俺が勤めていた銭湯でバイトをしていた、木塚君という若者だ。
木塚君は彼女らしき女性と手を繋ぎ、ニコニコしながら店へと入って行った。
「彼女出来たのか・・・よかったな。」
木塚君は実にいい笑顔で笑うようになっていた。以前は人を苛立たせるヘラヘラとした笑いだったのに、今は若者らしい素直で良い笑顔を見せるようになっていた。
その笑顔をじっと見つめ、気づかれないうちに店を後にした。
明るい日射しが照らすアーケードを歩き、さっきの本屋へ戻っていく。
しかしアーケードの切れ目の信号で足を止め、ふと左を見てみた。
《そういやこっちにも本屋があったな。同じビルに服を売ってる店もあったし、こっちに寄ってくか。》
信号の前で踵を回し、左へ進んで大きなビルの中へ入った。
このビルの二階には本屋が入っていて、その上には男用の服や靴を扱う店があった。
そして四階に上がると大きな百貨店と繋がる通路があって、たまに何かの催し物をやっていたりするのだ。
しかしそれ以外の時は、占いの店が並んでいたはずだ。普段ならそんなものに興味はないが、友人と会うまでの退屈しのぎに、ちょっと見てもらってもいいかもしれない。
エスカレーターで二階まで上がり、本屋で時間を潰してから三階へ向かう。そこで一足だけ靴を買い、隣の百貨店に繋がる四階へやって来た。
どうやら今日は何の催し物もやっていないらしく、通路には占いの店が並んでいた。
手相にタロット、四柱推命に人相学。それにいかにもオカルトチックな占いの看板があった。
「前世で見るあなたの運勢・・・・。魂の色や、身を包むオーラからあなたの悩みを解決・・・馬鹿か?」
冷めた視線でその看板を見つめ、ざっと占い所を見渡す。
どいつも冷めたような目をしている中、一人だけ活気のある占い師がいた。
それは一番奥に座っている、いかにも今時風の軽い感じの男だった。そして目の前に座る女に、耳がムズムズするような綺麗事を並べ立てていた。
しかし女はそれを熱心に聞いており、時間を延長までして男にアドバイスを求めていた。
《世の中にはこういうのを本気で信じてる奴もいるんだな。占いなんてのは、人の不安につけ込む商売だろうに。でもまあ、当たるも八卦、当たらぬも八卦っていうし、暇つぶしにはちょうどいいか。》
横一列に並ぶ占いの店を見つめ、どうせなら一番怪しげな所で見てもらおうと思った。
『前世で見るあなたの運勢』
先ほどのいかにもオカルトチックな看板の占い師を選び、「いいですか?」と頭の薄くなった男に声を掛けた。
「はい、どうぞ。」
占い師の男は笑顔で椅子を示し、手首に付けた透明な数珠をしきりに触っていた。
隣でチャライ男からアドバイスをもらっている女を横目に、パイプ椅子を引いて腰を下ろす。こういう所に来るのは初めてなので、いささか緊張した。
《さて・・・来たのはいいけど、何を占ってもらおうかな?》
こうして椅子に座ったものの、特に占ってほしいことがあるわけではなかった。元よりこんなものは信じていないので、真剣な悩みを相談するつもりはない。
しかしここで「やっぱりいいです」と立ち去るのも気が引けるし、どうしたものかと黙っていた。
《・・・・いや、これでいいか。このまま黙っていても、こいつが本物の占い師だというなら、俺の悩みを見抜けるだろ。ちょっと意地悪かもしれないけど、ちゃんと金は払うんだから別にいいよな?》
俺は腕を組んで占い師を睨み、ただじっと黙っていた。すると向こうは笑顔を消して真顔になり、小さく頷いた。
《自分が試されてるってことに気づいたか?勘はいいんだな。》
占い師は手首の数珠をしきりに触り、じっと俺のことを見つめていた。それはもう、舐めま回すようにジロジロと・・・・。
その視線に不快感を覚えていると、占い師は突然口を開いた。
「まずあなたの職業ですが、接客系の仕事ですね?それも・・・・おそらくコンビニ。その前は・・・・やはり接客系の仕事です。でも身体を使う仕事でもあった。・・・・・・きっと銭湯の店員さんだったんじゃないですか?」
ご名答。俺は心の中で、素直に拍手を送った。しかしこれだけでは、こいつが真の占い師がどうかは分からない。
なぜなら占い師にしろ接客業にしろ、どちらも人を見る仕事だ。少々目の鋭い人間なら、これくらいのことはだいたい分かる。
きっとこの占い師は、俺をじっと見つめることで、人相や雰囲気からその職業を当てただけだろう。
人間ってのは絶えず情報を発信しているものだ。だから長年占いで食っている者なら、相手の雰囲気や態度から、職業を見分けることはくらいはやってのけるだろう。
でもまあ、ここまでドンピシャで当てるとは大したものだ。俺は少しだけ面白くなってきて、黙ったまま頷いてやった。
「では次にですが・・・・・・女性のことで悩んでいますね?それも彼女や奥さんじゃない。気持ちすら伝えられない片思いの相手です。」
これに対しては頷かなかった。なぜならそんなものは、占いに来る男の大半に当てはまるものだろうからだ。
しかし占い師は諦めない。腕の数珠から手を離し、さらに真剣な目で俺を見つめた。
《ちょっと追い詰められてるか?金は払うんだから、もう少し楽しませてくれよ。》
占い師はじっと俺を睨み、何やら一人でうんうんと頷いている。そして思い出したように数珠を触り、椅子の背もたれに身体を預けた。
《数珠を触るパフォーマンスが復活したか。てことは、何か見抜いたってことか?》
占い師はしばらく何も喋らなかった。ただじっと腕を組んで、俺の目を見つめていた。
《なんだ?圧力をかけてこっちから喋らせる気か?でも生憎、そんな手には乗らない。》
俺もじっと占い師の目を見返し、お互い沈黙したまま時間が過ぎていく。隣ではチャライ男の占い師が、もっともらしい事を言って女を納得させようとしていた。
《いつまで黙ってる?もしこのまま何も言わないつもりなら、金を払う時にゴネてやるぞ。》
何も喋らないなら占いではない。だったらそんなものに金を払う必要はない。俺はテーブルに置かれた時計に目をやり、じっと占い師の言葉を待った。
「・・・・大丈夫ですよ。」
「・・・・・・は?」
思わず声が出てしまった。いきなり大丈夫ですよと言われても、なんのことかさっぱり分からない。
しょうもない言葉で誤魔化すつもりなら、ここで文句を言って立ち去ろうと思った。しかし占い師は、椅子から腰を浮かした俺を手で制した。
「あと五分後。」
「・・・・・はあ?」
「あと五分したら、またここに来て下さい。それであなたの悩みは解決するはずです。」
「・・・からかってるのか?言っとくけど、しょもないことで誤魔化すなら、金は払わないからな。」
そう言って身を乗り出すと、占い師は表情に変えずに答えた。
「構いません。でも騙されたと思って、五分経ってからここに来て下さい。それであなたの長年の悩みは解決するはずです。」
「・・・・・・・・・・・。」
俺は椅子から立ち上がり、黙って占い師を見下ろした。
「いいのか?このまま金を払わずに帰るかもしれないぞ?」
本気でそう言うと、占い師は笑って首を振った。
「構いませんよ。でも今の私に言えることはそれだけです。言葉でグダグダ説明するより、五分後にここへ来て頂いた方がハッキリするでしょう。そうすることで、あなたは想いの届かない過去の女性から、ようやく解放されるはずですから。」
占い師は微塵の迷いも見せずに言い放つ。それがハッタリか本心かは分からないが、俺は「分かったよ」と頷いて椅子を戻した。
「そこまで言うなら、五分経ってから戻ってくる。それと・・・ちょっと意地悪をしてしまったな。五分経ってここに戻って来た時、例え何もなくても金は払うよ。」
そう言うと占い師は笑って頷き、「どうぞ」と去るように促した。
隣ではまだチャライ男のうんちくが続いていて、女は泣きそうな顔で目を潤ませていた。



 

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