ダナエの神話〜魔性の星〜 第四十八話 散りゆく仲間(8)

  • 2015.06.07 Sunday
  • 12:23
JUGEMテーマ:自作小説
ミカエルに頼まれて、カルラはインドまでやって来た。
サリエル達と戦おうとしていたルーを掴み、遥か上空まで舞い上がる。
そしてインドの大地を睨んで、「天使ヤ神獣ハドウシタ?」と尋ねた。
「ドコニモ姿ガ見当タラナイガ、ドコヘ消エタノダ?」
「みんな負けたんだよ、あのデカイ悪魔どもに。」
ルーは眼下にそびえる三体の悪魔を指差した。
「ナント!同胞達ハ敗北シタトイウノカ!?」
「だからそう言ってるだろ?同じこと言わせるなよ。」
「イヤ・・・シカシダナ、ココニハ黄龍ヤアマテラス殿モイタノダゾ?ソレナノニ全滅シテシマッタトイウノカ?」
「いんや、アマテラスは悪魔にやられたんじゃない。俺を妖精にする為に、力を使い果たしたんだ。」
「オ主ヲ・・・・?」
カルラは首を傾げ、じっとルーを見つめた。
「・・・・アア!オ主ハマサカ・・・・・、」
「俺はルーってんだ。ケルトの太陽神さ。」
「ソレハ知ッテイル。私モシバラクココデ戦ッテイタカラナ。シカシ何故妖精ニナッテイル?」
「だからあ・・・アマテラスが俺を妖精に変えたの。そのせいでアイツは死んじゃって、しばらくお茶にも誘えない。災難だよなあ、まったく。」
ルーはそう言って、ボリボリと頭を掻いた。
「・・・・オ主ノセイデアマテラス殿ガ・・・・。」
カルラは怒りに震え、鋭い目でルーを睨んだ。
「おいおい、俺に怒るなよ。これはアマテラスが勝手にやったことなんだ。俺から頼んだんじゃないぜ?」
「何ヲ言ウカ!オ主ノ暴走ヲ止メル為ニ、アマテラス殿ハ命ヲ投ゲ出シタノダロウ!?キットソウニ決マッテイル!」
「うん、まあ当たってるけどな。ははは!」
「ムウウ・・・・ヤハリ傍若無人ナ・・・・。」
カルラはさらに怒りに震える。しかしグッとその怒りを抑えて、「黄龍ハドウシタ?」と尋ねた。
「知らね。俺が卵から出て来た時にはもういなかったからな。悪魔にやられたとも思えないし、どっかに行ったんじゃねえの?」
「ムムウ・・・・何トイウコトダ。天使ヤ神獣ハ敗北シ、黄龍ハココニハイナイ。マサカノ事態ダ。」
そう呟いて眼下の悪魔を睨み、「トリアエズエジプトマデ戻ロウ。ミカエル殿ニ指示ヲ仰ガネバ」と言った。
カルラは翼を羽ばたき、エジプトまで向かおうとする。するとその時、下から凄まじい突風が襲いかかった。
「グオオオオオオオ!」
あまりの激しい風に、まるで竜巻に巻き込まれたようにグルグルと回る。
その風は翼が千切れそうなほどで、何枚も羽が抜けていった。
「何ナノダコノ風ハ!?五体ガバラバラニナッテシマイソウダ!!」
「ああ、これはリヴァイアサンの鼻息だよ。俺を吹き飛ばすつもりだったんだ。」
「ヌウウ・・・アノシーラカンスメ!コノママデハ身体ガバラバラニナッテシマウ。」
リヴァイアサンの鼻息は強烈で、カルラの翼をもってしても抜け出せないほどだった。
するとそこへサマエルが飛んで来て、翼を広げて立ちはだかった。
「まだ生き残ってるのがいたか。」
そう言って口を開き、炎を吐いた。
「ヌオオオ!」
サリエルの業火が、リヴァイアサンの突風に巻き上げられて、灼熱の火柱と化す。
そのせいでさらに風が激しくなり、カルラは火柱に飲み込まれそうになった。
しかしルーが咄嗟に魔法を唱え、一瞬で炎を掻き消した。
「酸素が無きゃ火は燃えないだろ?風の精霊に頼めば、酸素くらい簡単に消せるぜ。」
「ルーめ・・・・やはり侮れない奴。」
サリエルは口元を歪め、憎らしそうにルーを睨んだ。
「妖精になった分、腕力は劣っても魔法は得意になるもんさ。でも俺はこういう戦い方は好きじゃねえ。もっと派手に暴れたいんだよ。」
「貴様と戦う気はない。しかしそっちの鳥人間には死んでもらう。インドにいる天使や神々を全滅させろというのが、ルシファー様の命令だからな。」
「じゃあ俺も入ってんじゃん。」
「今のお前は妖精だ。見逃しても命令に逆らうことにはならない。」
サリエルは12枚の翼を広げ、目を赤黒く輝かせた。
するとサリエルの背後から後光が射して、黒い炎の輪っかが浮かび上がった。
「おお、何かして来る気だな?」
ルーは嬉しそうに目を輝かせる。いったいどんな攻撃が来るのだろうかと、ワクワクしていた。
「何度も言うが、お前と戦う気はない。しばらくどいていてもらおう。」
サリエルは背後に浮かぶ黒い炎の輪っかを、カルラに向かって飛ばした。
するとどんどん小さくなっていって、拘束具のようにカルラを締め上げてしまった。
「グオオオオオオ!!」
千切れそうなほど身体を締め上げられて、翼が燃えていく。
そして掴んでいたルーを放してしまった。
ルーは空中に投げ出されて、小さな羽を動かしてバランスを取る。
そこへサリエルの尻尾が襲いかかり、「うお!」と慌ててかわした。
「なんだよ、やる気なんじゃねえか。だったらこっちも本気で・・・・、」
そう言いかけた時、下からまた突風が吹いた。
ルーはその突風に舞い上げられ、遥か遠くへ吹き飛ばされていった。
「邪魔者はいなくなった。あとはこの鳥人間さえ殺せば、ルシファー様の命令は完了だ。」
黒い炎の輪っかは、ギリギリとカルラを締め上げる。
翼の骨は折れ、羽は燃やされ、いつ身体が切断されてもおかしくなかった。
「・・・・・・・・ッ!」
あまりの痛みに、声を上げることも出来ない。
役目を果たせずにここで死ぬのかと思うと、無念でならなかった。
《スマヌ・・・エジプトニイル仲間達ヨ・・・・。私ハココデ果テルヨウダ・・・。》
抵抗するのをやめ、目を閉じて身体から力を抜く。
しかしそこへ「オラオラオラああああ!!」と叫び声が響いて、吹き飛ばされたはずのルーが戻って来た。
「あんなもんで俺をどうにか出来るか!お前ら全員、身体の表と裏をひっくり返してやんぜコラあああ!!」
勢いよく戻って来たルーを見て、サリエルは「なぜだ!?」と驚いた。
「今のお前に、リヴァイアサンの鼻息に耐えるパワーはないはずだ!」
「アホかお前!妖精になりゃ魔法が得意になるつったろ!」
そう言って、ルーは両手の指を開いてみせた。
するとそこにはキラキラと光る細い糸が結ばれていた。
その糸はサリエルの翼に巻きついていて、まるで伸縮するゴムのようにルーを引っ張っていたのだ。
「こ・・・・これは・・・虫の糸?」
「おうよ!虫の精霊に頼んで、とびきり頑丈な糸を紡いでもらったんだよ。」
「ぐぬ・・・いったい何時の間に・・・・、」
サリエルは死霊を放ち、虫の糸を斬らせようとした。しかし糸はとても頑丈で、死霊程度ではビクともしない。
「斬るのが無理なら、燃やすだけだ!」
そう言って黒い炎を吹き出し、糸を焼き切った。
「バ〜カ、今頃遅いんだよ。」
ルーはサリエルの下に潜り込んで、まるで羽虫のようにうるさく飛び回った。
そして「これで完了」と笑うと、カルラの方に飛んでいった。
「ありゃりゃ、もう死にかけてるな。まあ一応助けてやるけど。」
カルラはブクブクと白い泡を吹いていて、翼は完全に焼け落ちていた。
ルーはそんなカルラを助ける為に、ある特殊な生き物の精霊を呼び出すことにした。
「この黒い炎の輪っかを外すことは無理だ。だったら・・・・いっそのことカルラが焼き斬られるまで待って、それから助けりゃいい。」
そう言ってルーが呼び出した精霊は、大きなプラナリアだった。
いくら切られても再生するこの生物の力を借りれば、カルラを助けることが出来る。
そう思って呼び出したのだが、肝心なことを忘れていた。
プラナリアは、焼き切られた場合は再生しないのだ。
再生するのは力を加えて切断した時だけであり、焼かれれば普通に死んでしまう。
ルーは「やべやべ」と慌てて、翼からカマイタチを放ってカルラを両断した。
切られた上半身が宙へ舞い、下半身は炎の輪っかで燃え尽きてしまった。
ルーはすぐにプラナリアの精霊を蹴り飛ばし、切断された傷口に叩き込んだ。
すると瞬く間に身体が再生して、カルラはどうにか一命を取り留めた。
しかしサリエルの攻撃で傷つけられた上半身は、プラナリアの力でも回復しない。
翼は燃やされたままなので、そのまま落ちていってしまう。
「しゃあねえなあ。」
ルーは再び虫の精霊を呼び出し、糸を紡いでカルラを巻き取った。
「うぎぎぎ・・・・重い・・・・。妖精になると腕力が出ねえから困るんだよなあ・・・・。」
必死にカルラを支えながら、今度は水の精霊を呼び出す。
するとクリオネのような精霊がワラワラと集まって来て、カルラの中に吸い込まれていった。
「ムウウ・・・・身体ガ・・・・。」
ルーの魔法のおかげで、カルラの傷が癒える。翼は復活して、どうにか飛べるようになった。
しかし完全に回復というわけにはいかず、少し動くだけでバラバラになりそうなほど身体が痛んだ。
ルーは「治ったか?」と肩を叩く。カルラは「グギャ!」」と叫び声を上げた。
「ああ、完全には無理だったか。俺って治癒の魔法は苦手だから。」
そう言ってまた肩を叩き、カルラは悲鳴を上げた。
「イヤ・・・・助ケテクレテ感謝スル・・・。シカシ・・・・長クハモチソウニナイ・・・・。早クエジプトマデ・・・・、」
カルラはルーを掴み、エジプトまで羽ばたこうとする。
しかし目の前にサリエルがいるのに気づいて「ヌオ!」と後ずさった。
そしてすぐに逃げようとしたが、「ム?」と異変に気づいた。
「コレハ・・・・ドウナッテイルノダ?」
サリエルは、蜘蛛の巣に引っ掛かった虫のように、細い糸でがんじがらめにされていた。
落っこちないように必死に翼を羽ばたいていて、その姿は笑えるほど滑稽であった。
「ああ、それ俺がやったんだよ。」
「オ主ガ!?」
「虫の精霊を呼び出して、蜘蛛の糸で巻きつけたわけ。」
「ナント!イクラ魔法ガ得意ダカラトイッテ、サリエルノ動キヲ封ジ込メテシマウトハ・・・・。」
「俺の魔法は一味も二味も違うぜ。でもそのうち糸を斬るだろうから、アンタ逃げるなら今のうちだぜ?」
「・・・・ソウダナ。私デハコノ悪魔ニ勝テナイ。オ主ヲ連レテ、スグニ逃ゲルトシヨウ。」
カルラは翼を動かし、サリエルの横を通り過ぎる。
そして瞬く間に音速を超えて、エジプトを目指した。
「おいコラ!俺は連れて行かなくていい!アイツらと戦うんだから!」
「駄目ダ。オ主ニハ一緒ニ来テモラウ。私ノ命ハソウ長クハナイ。キットエジプトニ辿リ着ク頃ニハ死ンデイルダロウ。ダカラオ主ノ口カラ、インドデ起キタ事ヲ伝エテホシイ。」
「はあ?そんなもん自分でやれ・・・・、うおおおおお!!」
カルラは何度も翼を羽ばたき、羽を散らしながらエジプトを目指した。
その直後、サリエルは口の中に炎を溜め、顔に巻き付いた糸を焼き払う。
そして「おのれ・・・」と悔しそうに唸った。
「太陽神ルーめ・・・・・やはりアイツと関わるとロクなことにならない。しかし・・・ここまでコケにされては、さすがに黙っていられないな。」
そう言って後を追いかけようとしたが、ふと異変に気づいた。
「これは・・・・どういうことだ?まったく前に進めないぞ。」
翼を羽ばたいても、ちっとも前に進まない。何度も何度も必死に羽ばたくが、全然進む気配がなかった。
それどころか、何かに引っ張られるように、グイグイと後ろへ下がっていった。
「な、なんだ!?」
後ろを振り向くと、そこにはキラキラと光る糸が張っていた。
その糸は遥か下まで伸びていて、リヴァイアサンの頭に張り付いていた。
「ぐお!おのれルーめ!いつの間にか私とリヴァイアサンを結んでやがる!」
リヴァイアサンは海を目指し、南の方へと歩いていた。
あまりの巨体の為に、長く陸上にいると疲れるのだ。だから海で休もうとしていた。
「おい!戻れ!」
「・・・・・・・・・・・。」
「聞こえてないのか。クソ!図体がデカイだけの鈍感め・・・。」
サリエルは炎を吐き、リヴァイアサンと繋がる糸を焼き払った。
そしてすぐにルーの後を追おうとした。
しかしカルラはとっくに飛び去っていて、どんなに目を凝らしても見つけることは出来なかった。
「逃げたか。エジプトへ行くとか言っていたが、間抜けな奴らだ。もうあの場所には何もない。ルシファー様たちは日本へ向かったのだからな。」
サリエルは地上に戻り、じっと辺りを見渡す。そしてもう敵が残っていないことを確認すると、「私たちも日本へ行くぞ」と言った。
「もうじき、我ら悪魔の王国が誕生する。その地は日本の伊勢という所だ。あそこには大きな気が溜まっているから、それを利用して悪魔の城を建てるのだ。」
その言葉にテュポーンは頷く。しかしリヴァイアサンは全く聞いておらず、ノシノシと海へと向かって行った。
「リヴァイアサン。お前も日本へ向かうのだぞ。途中で居眠りしたら許さんからな。」
「・・・・・・・・・チッ。」
リヴァイアサンは舌打ちを残し、モソモソと海へ入って行く。
サリエルとテュポーンはその巨体を動かして、インドの大地を進んでいった。
インドでの戦いは悪魔の勝利に終わり、サンダルフォンたちは全滅してしまった。
カルラは消えかかる最後の命を燃やしながら、ミカエルたちの待つエジプトへと向かう。
そして・・・・ラファエルの手の上で息を引き取った。
ルーはカルラの代わりに、インドでの出来事を説明した。
まるでアトラクションを楽しんだ子供の様に、ケラケラと笑いながら・・・・・。


            *


砂漠の真ん中に、透明なピラミッドが建っている。
水のように透き通っていて、繊細なガラス細工のようにも思える美しさだった。
そのピラミッドの前には、三人のエジプトの神が並んでいた。
一人はハトホルという女神で、多産と母性を司る女神だった。
とても優しそうな顔をしていて、頭には牛の角が生えている。
髪は柔らかくパーマがかかっていて、真っ白なシルクのドレスを身に着けていた。
手にはイチジクを持っていて、それはメノウのように柔らかく透き通っていた。
二人目はトートという神だった。トートはトキの顔に人の身体、そして背中に翼と尾羽を持っていて、とても賢い神様だった。
右手にはペン、左手には書物を持ち、思慮深い表情をしている。
トートは知恵の神様で、エジプトの神々の中で一番頭が良い。
紫の布服がパタパタと風になびき、手にしたペンでせっせと何かを書き記していた。
そして三人目はベスという神であった。
べスは小人のように小さな身体に、小人のように小さな手足をしている。
しかし顔だけやたらと大きく、髪はぼさぼさ、髭はもじゃもじゃのお爺さんの顔をしていた。
そしてライオンの耳と尻尾をしていて、ヒョウ柄のマントを羽織っている。
べスは羊と羊飼いを守る神様であるが、その他なんでも引き受ける万屋のような神様でもあった。
踊りや結婚、それに出産や戦いの神様としても役割を持ち、さらには魔除けの力も持っている。
庶民に広く親しまれ、とても愛嬌のある神様だった。
生き残ったエジプトの神様はこの三人だけで、他の神々は邪神クイン・ダガダによって倒されてしまった。
クインは毬藻の兵器を我が物にした後、エジプトまで向かったのである。
そしてこの地に生えるユグドラシルの分身を持ち去ろうとした。
エジプトの神々はそうはさせまいとして、ピラミッドから出て来て戦いを挑んだ。
クインは神殺しの神器を操り、次々にエジプトの神々を討ち取っていった。
近くにいたルシファーとサタンは、クインの戦いをただ眺めているだけだった。
やがてエジプトの神々のほとんどが討ち取られ、遂にはホルスとアヌビスを残すだけとなってしまった。
そこへスフィンクスがやって来て、ホルス達に加勢した。
クインはスフィンクスを睨みつけると、スッと左手を前に出した。
するとその腕が大きな龍に変わり、一口でスフィンクスを食べてしまった。
その時、砕かれたスフィンクスの身体から、セトという凶悪な神が出て来た。
セトはスフィンクスの中に封印されていたのだが、そのスフィンクスが噛み砕かれたので、外に出て来た。
ホルスとアヌビスは、宿敵セトを討ち取らんと戦いを挑んだ。
しかしクインに邪魔をされ、神殺しの神器に貫かれて敗北した。
ホルスとアヌビスも負けてしまい、残ったのはハトホル、トート、そしてべスだけになってしまった。
幸い三人はピラミッドの中に隠れていて、クインに見つかることはなかった。
そして息を殺しながら、外の様子を窺っていた。
クインはルシファーたちと何かを話していて、真剣に頷き合っていた。
遠く離れた所から様子を窺っているので、何を話しているのかは聞こえない。
しかしルシファーとクインの表情から、真剣な話をしていることは分かった。
そしてその直後、ルシファーとサタンは、配下の悪魔を引き連れてどこかへ去って行った。
クインはユグドラシルの分身を見上げ、力任せに根っこから引き抜いた。
そこへセトがやって来て、クインの前に膝をついた。
まるで自分から部下にしてくれと志願するように。
クインはそれを認めたようで、セトに何やら指示を出していた。
セトはコクコクと頷くと、砂に潜って消えてしまった。
クインはユグドラシルの分身を持ち上げたまま、グルリと砂漠を見渡した。
そしてふとトートたちと目があった。
しかし光のピラミッドはクインには見えない。すぐに目を逸らして、また辺りの様子を窺っていた。
そしてピカッと光った後、テレポーテーションのように消えてしまった。
生き残ったトートたちは、このままここにいてはまずいと思った。
光のピラミッドは宙に浮いており、いくら誰の目にも見えないとはいえ、些細なことからバレてしまう可能性もある。
だから砂の中に移動して、じっと息を殺していた。
そして助けを呼びに行ったカルラが、助っ人を連れて戻って来てくれるのを待っていた。
ピラミッドに隠れたまま、砂漠の下でひたすら待った。
するとそこへ現れたのは、カルラではなくミカエルたちだった。
ミカエルを筆頭とした四大天使の他に、大きな船まで飛んでいる。そしてゆっくりとエジプトの砂漠に降りて来た。
エジプトの神々は、ピラミッドの中にある魔法の筒から、その様子を覗いていた。
四大天使のことはもちろん知っている。しかし大きな船の方は、初めて見るものだった。だから、いったい誰が乗っているのだろうと警戒した。
魔法の筒に、船の中の様子が映し出される。
するとそこには、四人の妖精と一人の女神がいた。
それを見たトートは、「むむ?」と唸った。なぜなら妖精の中に、知っている顔がいたからだ。
「これはコウ殿ではないか!」
するとハトホルとべスも「どれどれ?」と覗きこみ、「ほんとだ!」と驚いた。
「ねえトート、きっと私たちを助けに来てくれたんだよ。外に出よう!」
「儂も賛成!」
「待て待て。もう少し様子を見てからだ。」
はやる二人を宥めて、トートは魔法の筒を覗きこむ。
やがて女神と妖精の一人が部屋を抜け出し、別の部屋へと移動していった。
そして残された三人の妖精と天使の間で、何やら言い争いが始まった。
空気はだんだんと険悪になり、四大天使は船から離れていく。
妖精たちは困った顔をしていて、何やら悩んでいるようだった。
その様子を見たトートは、筒から目を離して唸った。
「むうう・・・何やら揉めているようだな。それにカルラ殿も戻って来ないし、いったいどうしたものか?」
腕を組んで考え込んでいると、ハトホルとべスは「コウに会いに行こう!」とピラミッドを出て行ってしまった。
トートは「待たぬか!」と後を追いかけ、船の傍までやって来た。
すると先ほど部屋を出ていった女神と妖精が、船の後ろに立っているのが見えた。
ハトホルとべスが「お〜い!」と手を振ると、向こうもこちらに気づいた。
女神と妖精はトートたちのところまで降りて来て、ニコリと微笑む。そして女神の方が「私はダフネ、月の女神よ」と名乗った。
「あなた達はエジプトの神様ね?」
トートが「そうだ」と頷くと、ダフネはどうして自分達がここへ来たのかを説明した。
そしてここでいったい何があったのか?ルシファーたちはどこへ消えたのか?ということを尋ねた。
トートが詳しく説明すると、ダフネは口元に手を当てて「クインがここに・・・」と呟いた。
「なんだか予想外の事態ばかりね。もう作戦も何もあったもんじゃないわ。」
ダフネは肩を竦めて笑う。するとトートが一歩前に出て、「頼みがある」と言った。
「このエジプトは、悪魔によって汚されてしまった。ホルス様もオシリス様もやられてしまい、生き残ったのは我ら三人だけ。」
「気の毒ね。仲間がやられるとこを見るなんて、さぞ辛かったでしょう?」
「いや、辛いのは命を落としたホルス様たちの方だ。このままでは、ホルス様が復活した時、エジプトは悪魔に汚されたままだ。
私はどうしてもそれだけは避けたい。だから・・・・このエジプトに再び平和をもたらす為に、どうか力を貸してほしい。」
「もちろんよ。私たちは悪魔を倒す為にここまで来たんですもの。」
ダフネはニコリと微笑みかける。トートは感激し、「ではこれをあなたに預けておく」と、懐からネックレスを取り出した。
そのネックレスは金で出来ていて、鷹を象っていた。
「これはアメン・ラー様の力が宿った首飾りだ。」
「アメン・ラー?」
「初代エジプトの神々の王だ。大きな力を持つ神だったが、今は引退して隠居生活を楽しんでおられる。」
「そうなの?でもどうしてこれを私に?」
「この首飾りは、死者蘇生の力を持っている。一度だけ、死んだ命を復活させることが出来るのだ。ホルス様を生き返らせようかと思ったが、今蘇られたところで、どうすることも出来ないだろう。だから・・・・あなたに預けておく。もしもの時は、これを使って窮地を乗り切るといい。」
そう言って、アメン・ラーの力が宿った首飾りを握らせた。
ダフネはじっとその首飾りを見つめ、「分かったわ」と受け取った。
そして自分の首にかけて、「死者蘇生か・・・・。出来れば、これを使うような事態にならなければいいけど・・・」と呟いた。
「この船にね、私たちの仲間がいるの。紹介するわ。」
微笑みながらそう言って、トートたちを船の中に案内した。
そして操縦室に戻ると、ケンが険しい顔をして困っていた。
「ダフネ、ちょっと困ったことになったんや。」
そう言って、ミカエル達と揉めてしまったことを話した。
ミカエルは神殺しの神器を渡せと言い、ダナエはそれを拒否した。
そのせいで、ミカエル達との間に険悪な溝が出来たと相談した。
それを聞いたダフネは、「分かった、私が何とかする」と答えた。
「あのね、実はみんなに紹介したい神々がいるの。トートとハトホル、それにべスよ。」
ダフネはそう言って、エジプトの神々を招き入れ。ケンは「おお!これがエジプトの神さんか、よろしく」と言って握手を求め、トートも「こちらこそ」と頷いた。
ハトホルとべスは不思議そうに船の中を見渡し、興味津津の様子だった。
そこへコウがやって来て、「お前ら、無事だったんだな!」と笑った。
「ああ!やっぱりコウだ!」
ハトホルは手を叩いて喜び、べスもニコニコと笑っていた。
そこへダナエがやって来て、「トミーとジャムは!?」と尋ねた。
「あの二人はどこへ行っちゃったの!?もうここにはいないの?」
そう言って、なぜかトートの首を締め上げた。
「ぐふ!く・・・・苦しい・・・・。」
ダフネが「落ち着きなさい」と止めに入り、ダナエを引き離す。
そしてエジプトの神々から聞いた話を伝えた。
すると誰もが険しい表情になり、重苦しい空気が流れた。
「邪神が・・・・・地球に・・・・。」
ダナエは俯き、槍を握りしめる。コウも瞳を揺らしながら、怯えた表情で息を飲んだ。
するとダフネは二人の肩に手を置いて、こう言った。
「ダナエ、コウ。あんた達はこの船に乗って、すぐにラシルまで行きなさい。ここにいたらミカエルに神器を奪われるわ。そして向こうにいる仲間と一緒に、必ずクインを倒すの。」
そう言ってすぐに二人を出発させた。
ミカエル達にばれないように、光のピラミッドに隠れながらこっそりと・・・・・。


             *


厳つい顔を歪めながら、ミカエルは目を閉じている。
今までの説明を聞いて、何とも言えない顔で唸っていた。
「ダフネよ、話は分かったが、それでは納得するに足らん。」
「あら?どうして?」
「当然だろう。エジプトの神々から話を聞いたならば、なぜ私にも相談しなかった?」
「だって神器を奪うつもりだったんでしょ?だったらそれを話したところで、結局はダナエから神器を奪うことに変わりはないじゃない。」
「つまり・・・・私たちを信用していないと?」
「かもね。力づくで神器を奪おうとしてたんだから、信用なんか出来るはずがないわ。非はそっちにもあると思うけど?」
四大天使を前にしても、ダフネは凛として言い返す。
あの神器を誰かに渡してはいけないということは、ダフネもよく分かっていた。
もしミカエル達の手に渡ってしまえば、必ず自分たちの正義の為に利用しようとする。
天使としてはそれでよくても、他の者にとってはそうはいかない。
あの神器を持つということは、どんな神や悪魔でも殺せるということである。
それはすなわち、天使だけに大きな力が集中してしまうことになるのだ。
どうしてもそれを避けたかったダフネは、すぐにダナエを逃がした。
そうしなければ、いずれ力づくで神器を奪いに来ると分かっていたから・・・。
「ねえミカエル。今大切なのは、神器のことじゃないわ。」
「ほう?話を逸らす気か?」
「そうじゃないってば。エジプトの神様から話を聞いて、私たちはとんでもない思い違いをしていたってことに気づいたの。」
「思い違い?」
「そうよ。ルシファーとサタンは月に向かったと思ってたけど、そうじゃないわ。まだ地球に残ってる。」
「なぜそう思う?」
「だってルシファーたちは、ここでクインと接触してたのよ。そんな状況でわざわざ月へ行き、あの星の魔力を得ようとしてごらんなさい。たちまちクインに気づかれて、あの神器で殺されるに決まってるわ。」
「・・・・・・・・・。」
「ルシファーとサタンは、もう完全にクインの支配下に入ってる。心の底から服従なんてしないだろうけど、今のところは従っているのよ。だからクインに何かを命令されて、この場所を離れた。」
「何かを命令か・・・。ずいぶんと曖昧な言い方だな。」
「推測でよければ答えるけど?」
「では聞かせてもらおう。」
「クインはこの地球も支配するつもりでいる。そしておそらくだけど、この星をラシルと似た環境にするつもりでいるんだと思うわ。その為には、この星の汚れを浄化しなきゃいけない。ダナエの話だと、ラシルはとても自然が美しい所だって聞いたわ。でも地球はそうじゃない。海も空気も、ラシルほど綺麗じゃないわ。だったらそういうものを浄化しなければ、ラシルと同じ環境にはならないと思うの。」
「なるほど。あの欲深い邪神のことだ。そういう考え方をしているかもしれんな。」
「だからきっと、悪魔を使って地球の汚れを浄化するつもりでいるんだわ。」
「悪魔を?奴らが蔓延れば、さらに汚れるだけだと思うが?」
「それは違うわ。汚れるんじゃなくて、壊されるのよ。だからルシファーたちを使って、地球という星を、いったん砂漠のような何もない星にするつもりなの。文明も自然も、全てを徹底的に破壊して、その後にラシルと似たような環境作りに取りかかる。それがクインの狙いなんだと思うな。」
「ならばルシファーたちは、この星の自然を壊す為に・・・・いや、この星の全てのものを破壊する為に、ここを離れたというのか?」
「多分ね、クインにそう命令されたんじゃないかな?だってここは元々砂漠だから、壊すものなんてないでしょ?」
ダフネはそう言って、乾いた砂が広がる景色に手を向けた。
ミカエルは腕を組み、難しい顔で唸った。
「・・・・・ふむ。理屈は分かるが・・・・。」
「まあただの推測だから、あまりアテにはしないで。だけどきっと、ルシファーたちはこの星に残ってる。だから私たちは、月へ行く必要なんてないわ。この星に残って、ルシファーとサタンを討つ!そうしなきゃこの戦いは終わらない。だけど問題は、奴らがどこにいるかってことよ。」
「もしお前の推測通りだとすれば、確かにルシファーたちの居場所が問題だ。」
「でしょ?だから神器がどうこう言ってる場合じゃないわ。どうせアレは私たちじゃ使いこなせないんだし、一歩間違えば敵に奪われる可能性だってある。だったらあんな物にこだわるよりも、これからどうやってルシファーたちを討つべきか、それを考えなきゃ。」
ダフネにそう言われて、ミカエルは深くため息をついた。
「それで私を言いくるめたつもりか?言っておくが、あの神器をお前たちに持たせておく気はない。いずれ必ず、私たちの管理の元に置く。」
「・・・・ということは・・・・?」
「ああ、お前の言う通り、今はルシファーたちを捜す方が先だ。奴らをこの星に蔓延らせておくわけにはいかない。」
「さっすが大天使長ミカエル!話が分かるわ!」
ダフネはわざとらしく肩を竦め、ニコリと微笑んだ。
「じゃあとりあえずこの場所から離れましょ。インドにはまだ悪魔が残ってるそうだから、そいつらをとっちめてルシファーの居場所を吐かせればいいわ。」
「そうだな。我が同胞を全滅させた悪魔どもめ・・・・決して許さんぞ。」
ミカエルは激しい炎を上げ、ガブリエル達を振り返った。
「神殺しの神器を諦めるわけではない。しかしもしルシファーたちがこの星にいるというのなら、当初の作戦通り、奴らを討つ事が先だ。メタトロン殿や黄龍とも合流して、まずはインドに現れた悪魔を討つ!これは同胞の弔い合戦だ!!」
槍を掲げて叫ぶと、ガブリエル達も頷いた。
「よかった・・・これでまた一緒に戦えるわ。」
ダフネはホッと胸を撫で下ろす。今の状況で天使と仲互いするのは、お互いに自殺行為である。
強大な悪魔を討つためには、種族を超えて協力する必要があった。
「さて、それじゃインドへ行きましょう。かなり手強い悪魔らしいけど、負けるわけにはいかな・・・・、」
そう言いかけた時、首筋にチクリと痛みが走った。
「何?毒虫でもいるの?」
ズキズキと痛む首筋に手を当てると、細い針が刺さっていた。
「これは・・・・、」
ダフネは咄嗟に針を抜き、じっと見つめる。するとだんだん気分が悪くなってきて、その場に膝をついた。
「ダフネ!どうしたの?」
アメルが心配そうにダフネの肩を抱く。するとアメルの首筋にも痛みが走り、その場に倒れてしまった。
「おい、どうしたのだ?」
ミカエルが二人を手に乗せて、心配そうに尋ねる。すると今度はケンが倒れ、苦しそうに首を押さえていた。
「これは・・・・首に何かが刺さっているぞ!」
トートが叫び、それと同時に四大天使は身構える。
そして・・・・・砂の中から何かが飛んで来て、ミカエルは「むん!」と掴み取った。
「これは・・・針?といことは、やはり誰かが狙っているのか?」
天使たちの間に緊張が走り、じっと辺りの気配を探る。
周りは見渡す限りの砂漠で、身を隠すような場所はない。
「針は砂の中から飛んできた。ということは、敵は砂に身を隠しているということか。」
ミカエルはラファエルを振り返り、「砂を巻き上げてくれ」と言った。
「了解、砂の中にいる敵を丸裸にしてやるさ。」
そう言って弓矢を構え、天に向けて放った。
すると辺りの風が、矢を追うように舞い上がり、砂を巻き上げていった。
天使たちは目を凝らし、砂の中に潜む敵を捜す。
そして少し離れた場所に、何かの尻尾が見えた。
「そこか!」
ミカエルは槍の先から火柱を放った。
灼熱の業火が蛇のように地面を走り、砂に隠れる敵をあぶり出す。
そして・・・・・燃え盛る炎の中から、一人の悪魔が出てきた。
「あ・・・・あれは・・・・、」
トートは震えながら指をさし、ハトホルとべスもゴクリと息を飲んだ。
「・・・・・・・・・。」
砂の中から出てきた悪魔は、陰険な目でミカエル達を睨む。
顔はジャッカルのように獰猛で、紫の肌に黒い腰布を巻いている。
その手には金色の杖と、クリスタルの髑髏を持っていた。
それはエジプトの神々の宿敵であり、底なしの欲望を持つ、セトという悪神だった。
セトは金色の杖をユラリと動かし、手にした髑髏の目を光らせていた。

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