ダナエの神話〜魔性の星〜 第四十九話 魔性の星(1)

  • 2015.06.08 Monday
  • 13:42
JUGEMテーマ:自作小説
セト。それはエジプトの神々の中でも、最も欲深く、最も凶悪な神である。
自身が王座に就くためには、平気で兄を惨殺し、その息子ホルスの目玉まで抉ってしまった。
しかしあまりに悪行を重ねるので、やがて誰からも見放されてしまった。
セトは永遠にエジプトの王座に就くことはなくなり、それと同時に激しい憎しみを抱えることになった。
彼は自分こそが王に相応しいと信じているし、自分に味方しない者は全て敵だと思っている。
彼の頭の中にあるのは、エジプトの神々の頂点に立つこと。
その為ならば、異星の邪神の軍門に下ることさえ厭わなかった。
クインの配下となったセトは、もしこの場所に敵が現れたら、全て殺せと命令されていた。
そしてクインが地球を支配したあかつきには、エジプトの王にしてやると約束してもらった。
セトは長年の夢を果たす為、エジプトに現れたミカエル達に襲いかかる。
まずはダフネとアメル、そしてケンに毒針を撃ち込み、そしてミカエルにも毒針を飛ばした。
しかしあっさりと弾かれ、しかも砂を巻き上げられて、姿を晒してしまうことになった。
セトは四大天使の強さを知っている。だから正面から戦いを挑んでも、勝機がないことは分かっていた。
そこで悪知恵を働かせ、どうにかこの場を乗り切ろうと考えた。
「・・・・・・・・・・・。」
セトは金色の杖を揺らし、何やらぶつぶつと唱える。
ミカエルは嫌な予感がして、槍を構えてセトに向かって行った。
「邪悪な悪神め!我が槍に貫かれ、滅するがいい!!」
ミカエルの槍が激しく燃え上がり、一撃でセトを葬る。
「ウオオオオオオオオ・・・・・。」
セトは炎に焼かれて、肉片一つ残さず燃やし尽くされた。
「セト・・・エジプト一の邪悪な存在。生かしておけば何をしでかすか分からん。」
ミカエルはセトが消滅したことを確認すると、ピュンと槍を振った。
そして後ろを振り返り、「ダフネたちはどうだ?」と尋ねた。
「問題ありません。大した毒ではないので、すぐに良くなるでしょう。」
ガブリエルはダフネ達を両手に包み、その中に淡く輝く水を溜めていた。
その水のおかげで毒は消え去り、ダフネたちは目を覚ます。
「気がついたようです。」
ガブリエルはそっとダフネたちを下ろすと、「気分はどうですか?」と尋ねた。
「・・・・私たち・・・・不意打ちを食らったのね・・・・。」
ダフネが首筋を撫でながら尋ねる。ミカエルは「セトがやったのだ、すでに葬ったがな」と、まだ炎が残る砂漠に顎をしゃくった。
「セトは力は無いが、何をしでかすか分からないほど凶悪だ。早いうちに仕留められてよかった。」
「そうね。後々絡んで来られたら厄介だもの。」
そう言ってガブリエルを振り返り、ニコリと礼を言った。
「ありがとう。やっぱり天使は頼りになるわ。」
「褒めても何も出ませんよ。」
「ううん、あなた達がいなきゃ、悪魔と戦うことは出来ない。主要な神々が牢獄に閉じ込められている今、天使だけが頼りなのよ。」
「そう言ってもらえるのはありがたいですが、これは一時的な共闘かもしれませんよ?あの神器を巡って、私たちはいずれ対立するでしょう。」
「そうなったらそうなった時のことよ。でも今は他にやる事がある。そうでしょ?」
そう言ってミカエルを振り返ると、「うむ」と頷いた。
「もうここに用はない。」
ミカエルはダフネたちを肩に乗せ、空へ舞い上がろうとした。
しかし「待ってくだされ」とトートが呼び止めた。
「是非私たちもお供させて頂きたい。」
トートが前に出てそう言うと、ハトホルとべスも頷いた。
「クインのせいで、ホルス様や大勢の仲間が死んじゃった。私たちだけここでお留守番っていうのは、納得いかないわ。」
「儂もそう思う。」
エジプトの神々は、自分たちも連れて行ってくれと懇願する。
四大天使は顔を見合わせ、あまり乗り気ではないように顔をしかめた。
「無礼な言い方かもしれないが、ここから先は危険な戦いになる。お主たちの力では無駄死にする可能性が・・・・、」
「何を仰るか!我らエジプトの神は、決して弱くはありませんぞ!」
「そうよそうよ!そりゃあ喧嘩はあなた達の方が強いかもしれないけど、私たちだってけっこう戦えるのよ。」
「儂もそう思う。」
「いや、しかしだな・・・・これ以上の無駄な犠牲は・・・・、」
「無駄じゃないわ!無駄死になんかしないわよ!ねえ?」
「ねえ?」
ハトホルとべスは、何が何でも連れて行けと言う。トートも「どうか我らも」と強い目で見つめた。
ミカエルはどうしたものかと腕を組んだが、ダフネが「いいじゃない」と笑った。
「みんなで一緒に行きましょうよ。」
「ダフネよ。同情で無駄な犠牲を出すつもりか?」
「だから無駄じゃないって。きっと彼らは強いわ。そうでなきゃ、ここまで自信を持って連れて行けなんて言えないもの。ねえ?」
「ねえ?」
「ねえ?」
ハトホルとべスは嬉しそうに首を傾げ、勝手にミカエルの肩に登った。
「おい!勝手なことを・・・・、」
「では私めも。」
トートもミカエルの肩に上り、よっこらしょっと胡坐を掻いた。
「トートよ。お主は自分で飛べるだろう。」
「いやいや、ミカエル殿ほど速くは無理でしょう。足を引っ張るわけにはいきませんので。」
そう言って書物を開き、せっせとペンを動かしていた。
するとラファエルが「まあまあ、いいじゃないか」と微笑んだ。
「みんな戦いたいって言ってるんだ。僕らと同じで、同胞の無念を晴らしたいのさ。」
「・・・・どうなっても知らんぞ。」
ミカエルは渋々という感じで、空に舞い上がった。
「まずはインドだな。現れたのはサリエル、リヴァイアサン、テュポーンと聞くが・・・・いずれも強敵だ。心してかからねば。」
そう言って翼を羽ばたき、エジプトを後にする。
ビュンビュンと風を切って、四人の天使が悪魔を討つ為に飛んで行く。
するとアメルが何かの気配を感じて、ふと後ろを振り向いた。
「どうしたのアメル?」
「・・・・今・・・誰か後ろにいたような気がしたんだけど・・・・。」
「そう?誰もいないわよ?」
「・・・・そうね。多分気のせいだわ。」
アメルは前を向き、流れる雲を目に映す。
しかしまた何かの気配を感じて振り返ったが、やはり誰もいなかった。
「・・・・・何なの、さっきから?」
アメルは不思議に思いながら、不安げに眉を寄せる。しかしすぐに気を取り直し、「きっと気のせいよね」と呟いた。
四大天使、エジプトの神々、そしてルーにダフネたち。
強大な悪魔を討つべく、空を駆けてインドへと向かって行った。


            *


その頃、日本から西へ離れた海の上で、毬藻の兵器と黄龍が睨み合っていた。
いや、睨み合うというより、お互いの意志を疎通させていた。
メタトロンに頼まれて、黄龍は毬藻を破壊しに来た。しかし・・・まだ戦いは始まっていなかった。
黄龍は四聖獣を従えながら、じっと毬藻を睨みつける。
毬藻は藻で紡いだ紐を幾つも伸ばしていて、それはまるで心臓から血管が伸びているような姿だった。
そしてその紐の一本が、黄龍の方へと伸びていた。
黄龍は自分も髭を伸ばし、毬藻の紐と絡ませる。
そしてお互いの意志を疎通させて、コミュニケーションを図っていた。
藻の紐を通って、毬藻の意志が伝わって来る。それと同時に記憶まで伝わって来て、鳳竜とイツァム・ナーが相討ちになった事を知った。
「・・・・鳳凰と白龍は消えたか・・・・。残念ではあるが、敵の機械竜を葬ることが出来た。それだけでも充分というものか。」
死んでいった鳳凰と白龍を想い、さらに深く記憶を読み取る。
そしてクトゥルーとスクナヒコナが死んでしまったことを知った。
黄龍は顔をしかめ、もう少しコミュニケーションを図る。
自分の髭を通じて、こちらの意志を伝えてみたのだ。
《我は黄龍という龍神だ。ある天使から頼まれて、お前を破壊しに来た。しかしもし戦わずに済むというのなら、それに越したことはない。私はあの天使と違って、出来る限り力による解決は望まない。ゆえに、お前の声を聞かせてほしい。クインに乗っ取られていようとも、自分の意志はあるのだろう?ならばその声を聞かせてくれ。》
すると毬藻は黄龍の声に応え、自分の意志を返してきた。
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
《ほう・・・。お前も戦いは望んでいないと。しかし神器を埋め込まれている以上、クインの命令には逆らえないというのだな?》
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
《いや、我はお前の敵ではない。メタトロンはお前を破壊しろと言ったが、必ずしも奴の頼みを聞く義理はないのだ。我はメタトロンの配下でもなければ、同胞でもないからな。》
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
《なるほど。お前の受けている命令は、歯向かう者は抹殺しろということか。ならば戦いを望まない我は、お前にとって敵ではないと事になるな?》
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
《いや、怒ってはいない。お前は我の生み出した祠の雲を乗っ取ってしまったが、それはクインに命令されてのことだろう?何度も言うが、我はお前に敵対しない。それどころか、我が同胞になってくれれば嬉しいと思っている。》
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
《お前も仲間を望むか。しかし神器が埋め込まれている以上、それは出来ないと。》
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
《我の力なら、その神器を取り除くことも可能だ。しかしその代わりとして、我の同胞になってくれぬか?
今やこの地球は悪魔の手に落ち、多くの生態系が破壊されてしまった。
これでは地球は死の星になってしまう。お前が力を貸してくれるのなら、また美しい星に戻すことが出来るかもしれない。》
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
《そうか・・・・肉体が欲しいか。雲のような仮初の肉体ではなく、本物の肉体が・・・・。》
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
《ふむ。この地球そのものを肉体として使いたいというのだな?しかしいかにお前があらゆるモノの心臓になることが出来るとはいえ、さすがに一つの星を肉体とするには限界があろう。ゆえに・・・・我がその繋ぎとなってやろう。我が身を依り代として、いずれこの地球の心臓になればよい。その時、お前は誰よりも大きな龍神となり、この星の生命、そして自然を支える神になるだろう。》
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
《構わぬ。我は誰のものでもない。我が肉体も、我が意志も、我のものではないのだ。我を含めた三大龍神は、いわば地球の分身のようなもの。ゆえに、我は誰のものでもないのだ。そして・・・・お前もそうなればいい。誰のものでもない、この星そのものになれば・・・・・、》


            *


エジプトを離れたダフネたちは、インドまでやって来た。
見渡す限りに天使と悪魔の骸が転がっていて、凄惨な戦いの爪痕に心を痛めた。
「みんな死んでるわね・・・・。生きている者は誰もいない。」
宙を舞いながら、ダフネは眉をひそめた。
これが必要な戦いであったとはいえ、多くの仲間が死んだ事に変わりはない。
天使にせよ悪魔にせよ、まるでゴミ山のように死体が積み上がる光景は、強く胸を締め付けた。
しかし悲しんでばかりはいられない。ミカエル達と共に辺りを飛び回り、インドに現れた悪魔を捜した。
「ねえルー。ここに現れたのは、サリエル、リヴァイアサン、それにテュポーンで間違いないのよね?」
そう尋ねると、ルーは「おうよ」と答えた。
「図体だけの無能な悪魔だよ。俺が元の姿なら、コテンパンにやっつけたね。」
そう言いながら、可笑しそうにケラケラ笑った。
「仲間がやられたんだから、笑ったりしないの。」
「だってしょうがねえじゃん。俺は戦いの神だから、戦いが楽しくてしょうがないわけさ。戦いを思い出すと、自然に笑っちまうんだよ。」
「根っからの喧嘩好きなのね。奥さんの苦労が絶えなさそう。」
「良い女だから、大目に見てくれるんだよ。あんたも良い女だけどな。」
ルーはダフネの肩の上で、ニヤニヤしながらそう言った。
「褒めてくれてありがと。でもここには悪魔はいないみたいよ?みんな必死に捜してるけど、ネズミ一匹いやしない。どこかへ移動したんじゃないかしら?」
ダフネは死体の山の上を飛びながら、辺りに目を凝らす。
ミカエルやケンも同じように悪魔を捜すが、やはりどこにも見当たらなかった。
「いないねえ、ここには。あんな図体のデカイ化け物なんだ。ここにいりゃ捜さなくても見つかるよ。」
ルーは退屈そうに言い、「よっと!」とダフネの胸元に入り込んだ。
「あ、ちょっと!何を勝手に・・・・、」
「いいからいいから。悪魔がいたら起こしてくれよ。」
そう言って目を瞑り、スヤスヤと寝息を立て始めた。
「まったく・・・・なんて自由な奴なのよ。」
ダフネは呆れたように首を振るが、その表情はまんざらでもなかった。
遠くへ行っていたミカエル達が戻って来て、「いないようだ」と首を振る。
ダフネも「そうみたいね」と頷き、口元に手を当てて「う〜ん・・・」と唸った。
「ここにいないってことは、いったいどこに行ったのかしら?」
「ルシファーたちの所へ戻ったのかもしれない。しかしそのルシファーがどこにいるのか分からないが。」
ミカエルは険しい顔で呟き、ふと西の空を見つめた。
「・・・・・日本へ戻ってみるか?」
「日本へ?どうして?」
「敵の所在が分からない今、下手に捜すより、仲間を求めた方が賢明かもしれない。メタトロン殿はアーリマンと戦う為に日本に残ったのだから、戻れば会えるかもしれない。」
「・・・・そうね。すれ違いになるかもしれないけど、ここでじっとしてるよりかはいいか。」
ダフネは頷き、インドの大地に刻まれた、大きな戦いの爪痕を見つめた。
「クレーターみたいに地面がへこんでる所があるわ。あれが悪魔の仕業だとしたら、とんでもないパワーを持ってることになる。」
ダフネが見つめる先には、隕石が衝突したようなクレーターが幾つもあった。
それはリヴァイアサンが歩いた足跡で、攻撃でも何でもなく、ただ移動しただけの跡だった。
しかしそんなことを知らないダフネは、それが何者かの攻撃によって出来たものだと思い込む。
「ダフネよ。敵の巨大さは尋常ではない。パワーがあるどころの話ではないのだ。」
「そうみたいね。なんでも山みたいに大きいんでしょ?」
「山と言うより山脈だな。オツムが弱いことが唯一の弱点だが、まともにやりあって勝てる相手ではない。」
「あのクレーターを見る限りじゃそうみたいね。」
ダフネは海へと続くクレーターを睨み、敵の強大さを知る。そしてグッと表情を引き締め、気合いを入れ直した。
「とりあえず今は日本に向かいましょ。まだメタトロンがいるかも。」
ミカエルは頷き、ダフネと妖精たち、そしてエジプトの神々を肩に乗せた。
「カルラほどは速くないが・・・・・飛ばすぞ。」
そう言って翼を羽ばたき、風を切って進んで行った。
このまま真っ直ぐ飛べば、日本へ辿り着くことが出来る。
流れる青い空を眺めながら、ダフネはどうかメタトロンが日本にいてくれることを願った。
《みんなには言ってないけど、一つだけ心配なことがある。クインがラシルじゃなくて月に向かったとしたら、月の魔力を奪われる可能性があるわ。もしそんなことになったら、もう手が付けられない。早いとこルシファーたちを倒して、月へ戻らないと。》
胸の中には不安が込み上げ、その焦りが顔に出る。
するとアメルが手を重ねて、「大丈夫?」と尋ねた。
「なんだか辛そうよ。やっぱり戦いの疲れが溜まってるんじゃ・・・・、」
「大丈夫よ。疲れが溜まってるなんてみんな同じだから。心配しなくても平気。」
「でもダフネは指揮官じゃないの。他のみんなよりも心労は多いはずだわ。もし心配な事があるなら、何でも言ってね。」
「・・・・・ありがとう、アメル。」
ダフネはアメルの手を握り返し、ニコリと微笑んだ。
《私が不安にしてちゃ、みんなにまで不安が伝染っちゃうわ。もっとしっかりしてないと。》
自分を励まし、流れる空の先を見つめる。
そして焦る気持ちを押し殺しながら、早く日本へ着いてくれと願った。
しかし・・・・すんなりと日本まで行くことは出来そうになかった。
なぜなら道行く先には、毬藻の形をした巨大な物体が浮かんでいたからだ。
しかもウネウネと触手のような物を伸ばしていて、その姿はとても不気味であった。
「ダフネよ、あれは何だ?」
「分からない。でも・・・・どうやら味方じゃないみたいよ。ビシビシと敵意を感じるもの。」
「私も同感だ。あんな悪魔は見たことがない。」
「悪魔かどうかは分からないけど、仲良くはなれそうにない感じね。すんなり通してくれるとも思えないし、気をつけて進んでちょうだい。」
「分かっている。しっかり掴まっていろ!」
四大天使は四方に散らばり、毬藻を囲うような陣形で飛んで行く。
もし向こうから攻撃を仕掛けてきた場合、一カ所に固まっているのはまずい。
何かあった時は、すぐに包囲して叩きのめすつもりだった。
毬藻のような物体はダフネたちに気づいて、ゆっくりとこちらに迫って来た。
日本に着く前に、不気味な敵との戦いが始まろうとしていた。


            *


エジプトからダフネたちが飛び去った頃、もう一組エジプトから飛び去った者たちがいた。
それはダナエとコウであった。
地球を離れてラシルへ行けと言われ、箱舟を駆って宇宙へ飛び出していた。
しかしダナエは迷っていた。このままダフネたちを置いて行ってもいいのか?地球は大丈夫なのか?
強い迷いを抱えながら、月と地球の間を飛んでいた。
ダナエは操縦席に座りながら、舵を握って地球を振り返る。
「ダフネ・・・・どうしてあんなに焦ってたんだろう?」
そう呟くと、コウが「神器を守る為だろ」と答えた。
「あそこにいたら、ミカエル達に神器を奪われちまう。それを防ぐ為さ。」
「本当にそれだけかな?」
「そうじゃないの?どっちにしたって、俺たちはラシルへ行く予定だったんだ。問題ないじゃん。」
「でもまだルシファーやサタンを倒してないんだよ?しかもあいつらは月にいるっていうし・・・・。」
ダナエは知らなかった。まだルシファーたちが地球にいることを。
窓から月を見つめて、「妖精のみんなは大丈夫なのかな・・・?」と不安そうにした。
「天使や死神はみんなやられちゃったったらしいけど、妖精たちはどうなんだろ?ミヅキと叔父さんも心配だし。」
「心配だよな・・・・。でも月へ行くってのはやめた方がいい。俺たちだけじゃ、あの化け物どもに勝てないんだから。」
コウはダナエの肩に手を起き、「変な気は起こすなよ」と諌めた。
「お前のことだから、今から月へ行ってみんなを助けるとか考えてたんだろ?」
「そうよ。悪い?」
「考えるだけなら悪くないよ。俺だって同じ気持ちだからな。でも実際に行ったらダメだ。俺たちはラシルへ行くんだから。でないと、いったい誰がクインを倒すって言うんだよ。」
「そうだけど・・・・。」
「それに向こうじゃドリューやカプネが待ってるんだぜ?早く戻ってやんないと。」
「・・・・そうだね。そうだって分かってるけど・・・・、」
コウの言うことはもっともであるが、ダナエは釈然としなかった。
この箱舟なら、今すぐに月へ戻ることが出来る。
窓の外にはその月が見えていて、もし妖精やミヅキたちが酷い目に遭っていたらどうしようかと辛くなった。
「ねえコウ。ちょっとだけ・・・・、」
「ダメ。」
「まだ何も言ってないじゃな・・・・、」
「ダメなもんはダメだ。」
「・・・・・ケチ。」
「そういう問題じゃないだろ。だいたいラシルに行くのは、お前も賛成だったはずじゃないのかよ?
トミーもジャムも、向こうに戻ってる可能性があるんだから。」
「トートがそう言ってたね。」
ダナエはトートの話を思い出した。
「あの二人・・・・地球へ帰ったはいいけど、スフィンクスにびっくりしてユグドラシルに逃げ込んだんだよね?本当に臆病なんだから。」
「いや、でも気持ちは分かるぜ。あいつらはもうゾンビじゃないんだ。死んだらそこでお終い。だったらスフィンクスなんかに飛びかかられたら、怖がって当たり前だよ。」
「でもじゃれてるだけだってトートが言ってたよ。襲うつもりなんてないって。」
「あのなあ・・・あいつらは人間なんだぜ?それがスフィンクスみたいなデッカイ獣にじゃれつかれてみろよ。ビビるに決まってるじゃん。」
「そういうもんなの?」
「さあ?人間はそうじゃないの?人間じゃないから分かんないけど。」
コウは肩を竦め、遠くに浮かぶ月に目をやった。
「トミーとジャムはラシルへ戻ってるさ。だから月のことは心配だけど、今はラシルへ・・・・・、」
そう言いかけた時、ダナエは「やっぱりごめん!」と叫んで、月へ舵を切った。
「おい!ダメだって言ってるだろ!」
「それはもう聞いた。」
「じゃあやめろよ!月へ行ったらルシファーたちが・・・・、」
「だから行くんじゃない。きっと妖精のみんなが助けを待ってる。早く行かなきゃ。」
ダナエは月を目指し、高速移動用のペダルを踏もうとした。
コウは「させるか!」と足を押さえつけ、舵を横へ切ろうとした。切ろうとしたが・・・・まったく動かなかった。
「あれ?なんで動かないんだよ?」
「だってこれは私の船だもん。私にしか動かせないの。」
「そ、そういえば・・・・。でも月へか行かせないぞ!そんなのノコノコ死にに行くようなもん・・・・って、痛ッ!」
ダナエはコウのほっぺをつねり、ムギューっと引っ張った。
「ほひ!はひふんだ!?」
「月には私たちの仲間がいるのよ?それを放っておいていいはずないでしょ?」
「ほへはほうはへほ・・・・、」
「さあ、一気に月まで行くわよ!あんな奴ら、この船の大砲でぶっ飛ばしちゃえばいいのよ!!」
そういって足元のペダルを睨み、「ええ〜っと・・・右のペダルが一番遅いやつよね」と呟いた。
「これを踏みながらレバーを引くと、速さを調節出来るのよね。ここから月までだと・・・・・半分くらい引けばちょうどいいスピードになるかな?」
左右のレバーを掴み、真ん中辺りまで引いてみる。そして右のペダルを踏み込むと、船の車輪に虹色の粒子が集まってきた。
船は高速で車輪を回転させて、一気に宇宙を駆け抜ける。
そして瞬く間に月へ辿り着き、ダナエは慌ててペダルから足を離した。
「あああ!通り過ぎちゃった!!」
止めるタイミングを間違えて、大きく通り過ぎてしまう。すぐに舵を切り、船を反転させた。
「ねえコウ。もうすぐ着くわよ。戦いの準備はいい?」
そう尋ねると、コウは部屋の隅で気絶していた。
「ちょ・・・ちょっと!どうしたの!?」
「・・・どうしたもこうしたも・・・・いきなり止めるから・・・・。」
コウは壁にぶつかって、白目を剥いていた。頭を押さえながら立ち上がり、フラフラとよろける。
「ああ・・・・なんてこった・・・。月まで来ちまった・・・・。」
窓の外の月を見つめ、青い顔をしながら頭を押さえる。
「大丈夫よ!私たちだけじゃなくて、この腕輪には三人も強い味方が宿ってるんだから!」
ダナエはコスモリングを掲げ、やる気満々で月へ近づいて行く。
そして月面を見渡して、「近くには誰もいないようね」と言った。
「月の上まで行かないと中に入れないわ。すんなり入れるといいんだけど・・・・。」
不安そうに呟きながら、月の上へと移動していく。すると無数の白い物体が漂っているのに気づいて、「あれは・・・・、」と息を飲んだ。
宙に漂う白い物体。それは無惨にも引き裂かれた、天使や死神の屍だった。
ベルゼブブが襲って来た時のように、目も当てられない凄惨な光景が広がっている。
ダナエは言葉を失くし、辛そうに唇を噛んだ。
「酷いもんだな・・・・。」
コウも険しい顔で呟き、「あんまり見るなよ」と言った。
「お前って、こういうのずっと記憶に留めちゃうだろ。あんまり見てると辛くなるぞ。」
「・・・・・・・・・・。」
コウが自分の為にそう言ってくれるのは分かる。しかしそれでも、この凄惨な光景から目を背けたくなかった。
なぜなら天使も死神も、月を守る為に戦ってくれたからだ。
自分の故郷の為に命を散らした者たちを、見るのが辛いからといって目を逸らすことは出来なかった。
「・・・・・・・・・・。」
ダナエは唇を噛んだまま、船を進めて行く。そして月の真上まで来た時、ゆっくりと船を降ろして行った。
「・・・・悪魔はいないみたいだな。てことは中にいやがるんだ。気いつけろよ。」
「分かってる・・・・。」
着陸した少し先には、大きな穴が空いている。
普段は閉じているこの穴が開いているということは、誰かが中に入った証拠である。
ダナエは慎重に船を進め、穴の中へと降りて行った。
「・・・・・特に荒されてはいないみたいね。悪魔も見当たらないし。」
月の中は、以前と変わらず美しいままだった。
澄んだ空が広がり、宝石のような海が広がり、そして花が咲き誇る大地が広がっている。
城はヘカーテたちのせいで滅茶苦茶に壊されたままだが、それ以外は特に変わった様子はなかった。
「どこかに隠れてるのかな?」
「かもな。油断してるといきなり襲われるかも。この船って結界とか張れないのか?」
「ええっと・・・・確かそういう事も出来たと思うけど・・・・・、」
「ちょっと説明書見せろよ。どこに置いてあるんだ?」
コウはゴソゴソと操縦室の中を漁り、椅子の下に落ちている説明書を見つけた。
「あったあった。お前こんな所に置いとくなよ。失くしても知らないぞ。」
そう言ってパラパラと説明書をめくり「ええっと・・・・目次はどれだ?」と目を細めた。
「・・・・・おお、ちゃんとあるじゃん。船を守る方法の所に書いてあるよ。でも結界じゃないみたいだな。これは・・・・・船を硬くする方法だってさ。大砲のボタンを押しながら、舵を固定して取り外す・・・・って、なんじゃこりゃ?そんなことしたら操縦出来なくなるじゃんか。」
ブツブツと言いながら顔をしかめていると、ダナエが「ちょっとアレ!」とコウの襟首を引っ張った。
「痛たた!なんだよ乱暴な・・・・、」
「アレ見てよ!あそこに立ってるのってメタトロンじゃない?」
「はあ?なんで月にメタトロンが・・・・・て、本当だ!!何してんだあの天使?」
ダナエが指差した先には、塔のように巨大な天使が立っていた。
白銀の身体に白い翼、それに厳つい顔に鋭い眼光。それはどう見てもメタトロンだった。
彼は海の傍に立ち、じっと海面を睨んでいる。そして辺りをキョロキョロと見渡し、まるで何かを捜しているようだった。
「ねえコウ!メタトロンがいるなら心配することないわ。だって滅茶苦茶強いんだから!」
「そりゃそうだけど、でもなんで月なんかに・・・・、」
「直接聞けばいいじゃない。とにかく行ってみましょ。」
ダナエは舵を切り、メタトロンの方へと進んで行く。
すると向こうもこちらに気づいて、翼を広げて飛んで来た。
「いったいなぜ月にいるんだ?」という顔をしながら。

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