ダナエの神話〜魔性の星〜 第五十話 魔性の星(2)

  • 2015.06.09 Tuesday
  • 11:13
JUGEMテーマ:自作小説
ダナエとコウは月に向かった。
すると月にはメタトロンも来ていて、お互いに「なぜここにいるんだ?」と不思議に思った。
ダナエは舵を切り、メタトロンの方へと飛んで行く。
「お〜い!ここで何してるの〜!?」
ダナエは船を止め、外に出て手を振った。
メタトロンはダナエたちの近くまでやって来て、「それはこちらのセリフだ」と尋ねた。
「どうしてお前たちがここにいるのだ?エジプトにいるのではなかったのか?」
「ええっと・・・・そうだったんだけど、色々とあって・・・・、」
そう言いながら、ダナエはコウを振り返った。そして「お願い」とニコリと笑う。
「お前・・・相変わらず説明が苦手なんだな。」
「仕方ないでしょ。私が話したら、きっと途中から分からなくなっちゃうもん。」
「へいへい・・・俺が説明しますよ。」
コウは肩を竦めながら首を振り、ここへ来た経緯を話した。
「・・・・ってわけなんだよ。俺は反対したんだけど、ダナエが強引にここへ来ちゃって。」
説明を終えると、メタトロンは険しい顔で黙り込んだ。
「やっぱそういう顔になるよな。ほら見ろダナエ。メタトロンだって、ルシファーやサタンがいるような場所に乗り込むなんて、自殺行為だって顔してるぞ。」
そう言ってダナエはつつくと、メタトロンはズイっと顔を寄せた。
「うお!ほらほら・・・・めっちゃ怒ってるじゃん。今からでも遅くない、ラシルへ行こ・・・・・、」
コウが怯えながら言いかけた時、メタトロンは「ルシファーとサタンだと!?」と叫んだ。
「奴らもここへ来ているというのか!?」
「え?・・・・いや、だって・・・・だからアンタもここへ来たんじゃないの?」
「馬鹿な!?いくら私とて、単身では奴らに勝ち目はない!私がここへ来たのは、月の魔力を手に入れる為だ。」
「は?月の魔力・・・・・?」
「そうだ。月はクインによって侵略を受け、天使と死神たちは全滅した。そして奴めは地球までも手に入れよと企んでいる。そのせいでクトゥルーとスクナヒコナは死に、毬藻の兵器までクインの手に落ちて・・・・、」
「ちょ・・・ちょい待ち!今なんて言った!?クインが月を侵略だって?それはどういう・・・・、」
コウが身を乗り出して尋ねようとした時、ダナエがそれを押しのけた。
「今なんて言ったの!?クトゥルーとスッチーが・・・・死んじゃった?」
「そうだ。クインによって殺された。」
「そ・・・そんな・・・・・。なんで・・・・、」
ダナエは呆然となり、握った槍を落としそうになった。思いもよらないことを聞かされたせいで、頭はグルグルと混乱していく。
「クトゥルーとスクナヒコナだけではない。アマテラスも死んだのだ。」
「な!・・・・なんでよ!?あんなに強い神様なのにどうして!?」
また仲間の死を聞かされ、ダナエの頭はますますパニックになる。
メタトロンは険しい顔をしたまま、「他にも死んだ者は大勢いる」と答えた。
「天使に神獣、多くの犠牲が出たのだ。それほどインドでの戦いは激しかった。しかし皆が活躍してくれたおかげで、どうにか制圧出来そうだ。」
「・・・そんな・・・・そんなに仲間が・・・・、」
ダナエは俯き、ギュッと槍を握りしめる。すると追い打ちをかけるようにメタトロンが言った。
「ダナエよ、お前たちの親しい仲間・・・・ケルトの神々も命を落とした。」
「へ?」
「スカアハ、クーフー・リン、アリアンロッド、この三人も命を落としたのだ。」
「・・・・・・・・・。」
ダナエは混乱を通り越し、頭が真っ白になった。身体から力が抜け、槍を持つ手が重くなる。
すると今度はコウがダナエを押しのけ、「嘘言うなよ!」と叫んだ。
「あの三人が死んだだって!?そんなわけないよ!だってクインと戦っても生きてたんだ!!だったらこの星の悪魔にやられるなんて・・・・、」
「いや、悪魔に負けたのではない。ルーを抑え込むために命を落としたのだ。」
「ルー・・・・?それってもしかして、あの三人が封印してたっていう・・・・、」
「ああ、ケルトの太陽神ルーだ。ルーはこの私ですら手こずるほどの猛者だ。しかも戦えば戦うほど、さらなる争いを呼ぶ。アマテラスはケルトの神々と協力し、命を賭してルーを妖精に変えた。その為に、ケルトの神々も死んでしまったのだ。」
「・・・な・・・・なんだよそれ・・・・。戦いで死んだんじゃなくて、身内のせいで死んだってのか・・・・?」
「そうだ。ルーがいれば永遠に争いが終わらなくなる。だから命を賭して止めたのだ。」
「・・・・そ・・・そんな・・・・そんな事の為に・・・・アリアンは・・・・、」
コウは激しい怒りを感じて拳を震わせた。
「なんだよそれ!アイツは戦いで死ぬのは覚悟してた!でも身内のせいで・・・・そんなことのせいで・・・・、」
怒りはすぐに悲しみに変わり、声が掠れていく。
そして背中を向けて、顔を見られないようにした。
「・・・アリアン・・・・俺・・・・最後は喧嘩したままだった・・・・。涼しい顔してたけど・・・・アイツ・・・・絶対に自分の気持ちを抑えてたんだ・・・。急に髪なんか切って・・・・よそよそしい感じになって・・・・。」
そう呟いてから、「生き返るよな・・・?」と尋ねた。
「アリアンは強い神様だから・・・・ちゃんと戻って来るよな?」
背中を向けたまま尋ねると、メタトロンは「ああ」と答えた。
「復活はするだろう。ケルトの神々も、そしてアマテラスもクトゥルーも、スクナヒコナも復活する。しかし私たちが悪魔を倒さねば、復活してもまたやられてしまうだろう。」
そう言って優しい目でコウを見つめ、「今は戦わねばならぬぞ」と励ました。
「友を亡くすことは辛かろう。しかし悲しんでいるだけでは、戦いは終わらない。」
「・・・・・分かってるよ・・・・でも・・・・、」
「よいかコウ。その悲しみを糧とし、さらに強くなるのだ。心を引き裂く痛みを、己の力に変えろ。そうでなければ、アリアンロッドも報われぬだろう。」
「・・・・・・・・・。」
コウはしばらく泣いていた。誰にも見られないように顔を背けたまま、じっと泣いていた。
するとダナエが背中に触れて、「コウ・・・」と呼びかけた。
「・・・・辛いね・・・・大事な仲間がいなくなるのは・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
コウは何も答えず、背中を向けて震えていた。
ダナエは後ろからそっと抱きしめ、コウの頭を撫でた。
辛いのはダナエも一緒だったが、コウが泣いているから冷静になれた。
だからコウが落ち着くまで、ずっと抱きしめていた。
「妖精の子供たちよ、お前たちの苦しみは分かる。だが今は私の質問に答えてほしい。」
そう言うと、コウは涙を拭いてからメタトロンを振り向いた。
目は赤く腫れて、しっかりと涙の筋が残っている。
しかし瞳には強い闘志を宿していて、また怒りに燃えていた。
「それでいい。戦う心を忘れてはならぬぞ。」
メタトロンはニコリと頷き、月の中に広がる海を振り返った。
「先ほども言ったが、私がここへ来たのは月の魔力を得る為だ。あれは海の底に眠っているはずなのだが、どう封印を解いてよいのか分からぬ。お前たち月の者なら、何か知っているのではないか?」
そう尋ねると、ダナエとコウは顔を見合わせ、「?」と首を傾げた。
「月の・・・・、」
「魔力・・・・?」
「何それ?」
「何だそれ?」
二人は同時に尋ねた。メタトロンは「知らぬのか!?」と驚き、困ったようにため息をついた。
するとコウが「ああ、ダフネが言ってた奴だな」と手を叩いた。
「月には大きな魔力が宿ってるって、ダフネが言ってたんだ。」
「うん、私たちも初めて知ったけどね。」
二人は顔を見合わせて頷く。メタトロンは「今まで知らなかったのか・・・」と呆れ気味に言った。
「では月が魔性の星と呼ばれるのは知っていよう?」
「ん〜ん。」
「全然。」
「・・・・そうか。お前たちは生まれも育ちも月だったな。では知らぬのも無理はないか。」
メタトロンは納得して、「よいか」と指を立てた。
「地球ではな、満月の夜は悪さをする者が増えるのだ。逆に新月になると、息を引き取る者が多くなる。なぜだか分かるか?」
そう尋ねても、二人はまた首を傾げる。ダナエは腕を組んで眉をしかめ、コウは唇を尖らせた。
「ごめん・・・。俺たちずっと月の育ちだから、満月とか新月とか言われても、あんまりピンと来ないんだ。もちろんそれがどういう意味かは知ってるけど・・・・なんかやっぱりピンと来なくて。」
「ま、まあ・・・仕方あるまい。要するにだ、地球から月の全体が見える夜を満月、月の見えない夜を新月と呼ぶわけだ。そして月が丸々見えるという事は、その分多くの月の光が降り注ぐことになる。その光には魔性の力があって、人や獣の心を昂ぶらせてしまうのだ。だから狼男が現れたり、犯罪が増えたりする。」
「うん。」
「逆に新月の場合は、月からの光がまったく届かない。そうすると人も獣も力を失い、怪我や病で床に臥せる者は、息を引き取ることが多くなる。地球の生命は、太陽の光だけでなく、月の光も必要としているからだ。月の光には魔性の力があるから、ある程度それを浴びないと力が衰えてしまうわけだ。」
「なるほど・・・・それで魔性の星って言われるのか。」
「そうだ。そしてその魔性の力はどこから来るかというと、月の中に蓄えられた、大きな魔力からやって来る。私はルシファーとサタンに対抗する為に、その魔力を宿しに来たのだが・・・・、」
そう言ってまた海を振り返り、険しい顔をした。
「月の魔力の核なとなる物が、あの海底に眠っているはずなのだ。しかし魔力の解放の仕方が分からぬ。ここにいる妖精に聞けば分かると思っていたのだが、一人も見当たらない。」
「妖精が・・・・いない・・・・?」
コウは不安そうに呟き、「まさかやられちゃったってことか!?」と尋ねた。
「いや、死体はないので断言は出来ない。しかし月にはいないようなのは事実だ。ゆえに私は困っていたわけだ。お前たちなら何か知っているかもと思ったのだが・・・・・、」
そう言ってまたため息をつき、「どうしたものか・・・」と困った。
ダナエとコウは心配そうに眉を寄せ、じっと見つめ合った。
「妖精のみんな・・・・ここにはいないって。」
「うん。どっかへ隠れたのかな?」
「そうであってほしい・・・・。だって天使も死神もみんな死んで、その上妖精までなんて・・・・、」
「悪い方に考えちゃうよな・・・。でも今はどうにかして月の魔力とやらを解かないと。でないとルシファーたちを倒せない。」
二人は暗い顔をして俯く。そしてダナエが「ミヅキと叔父さんもいないの?」と尋ねた。
「あの二人もここにいるはずよ。見てない?」
「ああ。妖精と同様、ここにはいないようだ。」
「・・・・・ダフネは言ってたわ。ルシファーたちはミヅキと叔父さんを利用して、月の魔力を解放しようとしてるって。」
そう呟くと、メタトロンは「ダフネが何と言っていたのか、もう一度詳しく聞かせてくれぬか?」と尋ねた。
ダナエは「いいよ」と頷き、コウに向かって「お願い」と微笑む。コウは「へいへい・・・」と頷き、なるべく詳しくダフネから聞いた話を伝えた。
するとメタトロンは「なるほどな・・・」と険しい顔になった。
「月の魔力を解放する為には、人間の協力が必要だ。空想の世界を見つめ、なおかつ想像力豊かな者が・・・・。ならばミヅキと幸也を利用するのは考えられるが、問題はその方法だ。人間を利用しなければ魔力を解放出来ないことは、私も知っている。しかしその具体的な方法が分からないのだ。」
そう唸ってから、腕を組んで考え込んだ。
「ここにはルシファーたちはいない。しかしミヅキと幸也は見当たらない。・・・・となると、もしや奴がここにいるということか?あの二人の人間を使い、月の魔力を得ようと企んでいるのでは・・・・。」
メタトロンは険しい顔のまま、しばらく宙を睨んでいた。
「ダナエ、コウ。私は悪い予感がするのだ。」
「悪い予感?」
「ああ。もし私の嫌な予感が当たっているとすれば、ここでじっとしていることは出来ない。早く月の魔力を我が身に宿さねばならん。しかし私は月の者ではないので、良い考えが浮かばない。お前たち・・・・月の魔力に関して、本当に何も知っていることがないのか?もう一度よくよく考えて、思い出してほしい。」
「分かった。もしメタトロンが今より強くなったら、ルシファーとサタンだってぶっ飛ばせるもんね。」
ダナエは自分に言い聞かせるように言って、「う〜ん、月の魔力ねえ・・・」と考え込んだ。
そしてじっと考えるうちに、ふとある事を思い出した。
「ねえコウ。昔にさ、お母さんから子守唄を聴いたよね?」
「ん?子守唄?いや・・・・俺は親がいないから聴いたことは・・・・・、」
「違うわよ、私のお母さん。私たちが小さい頃に歌ってたじゃない。」
「ああ、アメルの子守唄か。そういえば歌ってくれてたよな。でもあれがどうかしたのか?」
「あの歌にさ、妖精とか月のお姫様とか出てくるじゃない?」
「そう・・・・だっけ?」
「そうよ。あれって地球のお伽噺を元にしてるんだって。お父さんもお母さんも地球の生まれだから、地球のお伽噺を知ってたのよ。だからそれを元にして、あの子守唄を作ったんだって言ってた。」
ダナエは昔を思い出し、アメルの子守唄を口ずさんだ。
「とおくでみていた花の子に♪つきのひめさまほほえんで♪いっしょにかえろううみのしろ♪うみにだかれてゆめのなか♪たけのもりかこまれて♪いっしょにあそぼうまたあした♪」
母の声を真似ながら、幼い頃によく聴いた歌を口ずさむ。
するとコウもハミングして、「懐かしいな」と笑った。
「よく覚えてるな、お前。」
「だっていつも歌ってくれてたから。それでさ、いつだったかこの歌の意味を、お母さんに尋ねたことがあるの。そうしたらこれは、月の妖精たちがずっと平和に暮らせるようにっていう歌だって言ってたわ。」
「月の妖精が?」
「うん。花の子っていうのは、妖精の少年のことだって。そして月のお姫様と目が合って、二人で仲良く海へ行くの。そこにはお城があって、二人で仲良く暮らすんだって。なんだっけな?ウラシマタロウ・・・?のリュウグウジョウ?みたい所で。ふたりはずっと海のなかで暮らして、そして竹の生える森の中で結ばれるの。」
「なるほど・・・。んじゃ最後のいっしょにあそぼうまたあした♪っていうのは?」
「ああ、それはずっと幸せが続くようにってことだって。また明日ねって笑顔で言い合えるなら、喧嘩なんてしないでしょ?」
「ああ、そういうことか。・・・・・・で?それが何だってんだ?」
コウが真面目な顔で尋ねると、ダナエは少しだけ恥ずかしそうに頬を赤くした。
「あのね、今から言うこと・・・・・馬鹿にしないで聞いてくれる?」
「しないよ。いいからモジモジしてないで言えよ。」
「ええっと・・・・この歌ってね、もしかしたら私とコウをモデルにしてるんじゃないかって思うの。」
「は?俺とお前?」
「うん。だってこの歌を作ったのはお母さんだから、きっと私たちのことを歌ったんじゃないかなって。花の子は妖精の少年で、それはきっとコウのことだと思う。そして私は妖精王の娘だから、月のお姫様。」
「なんか・・・自分で言うと滑稽だな。いや、実際に月の王女なんだけど・・・・・。」
コウは頭を掻きながら笑う。しかしダナエにジロリと睨まれ、「静かに聞きます・・・」と黙り込んだ。
「コウと私は目が合って、そこで友達になる。そして海の中へ行って、立派なお城で暮らすようになるの。」
「う〜ん・・・お前と二人きりで城の中か。なんだか息が詰まりそうな・・・・、」
「・・・・・・・・・・・・。」
「すいません・・・・。」
「それでね、私たちは海の中で仲良く暮らして、その後は竹の森の中で結ばれる。」
「ええ!俺とお前が結ばるだって!?馬鹿言っちゃいけないよお前!なんでそういう展開になって・・・・・・、」
「あくまで子守唄の設定だから!!いいから黙って聞く!!」
「ぐぎゃッ!」
ほっぺたを思い切り引っ張られて、コウは涙目で黙るしかなかった。
「それでずっと二人は仲良く暮らすの。この歌には私たちだけじゃなくて、この星の妖精が、争いなく幸せに暮らしてくれたらって願いも含まれてると思う。」
「まあ・・・あのアメルのことだからな。そういう風に思っててもおかしくない。」
「でね、問題は海の中のお城と、竹の生えてる森のなのよ。実は・・・・私この二つを知ってるのよね。」
そう言うと、コウは「何だって?」と顔をしかめた。
「海の中に城があるだって?そんなもん知らないぞ俺。」
コウは信じられなかった。この月の妖精なら、月の中に広がる世界のことは隅々まで知っている。
なぜなら月の世界はそう広くはないからだ。だから月に住む者ならば、この世界で知らない場所などないはずである。
「俺は海の中の城なんて知らないし、竹の生える森だって見たことない。お前の見間違いじゃないのか?」
そう尋ねると、ダナエは「そんなことない」と首を振った。
「昔に一度だけ連れて行ってもらったことがあるの。」
「誰に?」
「お父さんに。ダフネとお母さんには内緒やでって言って、お城と竹の森へ連れて行ってくれた。それでもし私が将来結婚する時、もう一度ここへ来ることになるんやって言ってたもの。」
「マジかよ・・・。」
コウは信じられないという風に首を振るが、ダナエは「本当のことよ」と言った。
そしてメタトロンの方を振り向き、「もしかしたら、海のお城と竹の森に行けば、何かヒントがあるかもしれないわ」と答えた。
「そうか。月にはそのような場所が・・・。どこにあるかは覚えているのか?」
「うろ覚えだけど・・・・多分分かると思う。」
「ではすぐに案内してくれ。」
メタトロンはそう言って、額に拳を当てた。そして「むん!」と唸ると、額の宝玉が輝き、ダナエとコウが光の玉に変わってしまった。
それを自分の体内に吸い込むと、「私の頭の中から案内してくれ」と言った。
「ああ、またこれね!私たちをラシルから月へ運んだ時の技。」
「メタトロンってさ・・・・本当に便利な技いっぱい持ってるよな。一個分けてくれない?」
「駄目だ。」
「冗談だっての。真に受けるなよ。」
頭の固い奴だと思いながら、コウはダナエと二人でメタトロンの中に浮かんでいた。
周りは黄金の光に包まれ、果てしなく空と大地が続いている。
この広大な世界はメタトロンの精神であり、二人がここへ来るのは二回目だった。
相変わらずとてつもない大きさの心をしているなと感心していると、「お〜い!」と誰かが手を振った。
「あ!あれは博臣じゃねえか!」
「本当だ!お〜い!」
ダナエとコウは博臣に駆け寄り、「なんか久しぶりな感じね」と笑い合った。
「お前ずっとこんな場所にいて退屈しないの?」
コウはただっ広い精神世界に手を向け、顔をしかめて尋ねる。
しかし博臣は「全然」と答え、「ここはけっこう落ち着くんだよ。悪魔にも襲われないしね」と笑った。
「ある意味じゃ一番安全な隠れ家だぜ?」
「まあそうだよな。最強の天使の中にいるんだから。」
「ねえ?ここに勝手に家を建てたら怒られるかな?」
「当たり前だろ。他人の心に家を建てるって・・・・どういう神経してんだよ。」
三人でワイワイ喋っていると、目の前にヌッとメタトロンの顔が現れた。
「うお!」
「きゃあ!」
「騒いでいないで、さっさと案内をするのだ!」
「は・・・はい!」
「ごめんなさい・・・。」
メタトロンに怒られて、二人はシュンと項垂れる。
博臣が「怒らせると怖いんだぞ・・・」と、ヒソヒソ耳打ちをした。
「そうね。なんか怖いお父さんって感じ・・・。こういうの雷オヤジっていうんでしょ?」
「職人肌なんかね?なんか逆らえない迫力があるよな・・・・。」
「全部聞こえているぞ。」
メタトロンに睨まれ、二人はまた「ごめんなさい・・・」と謝る。
そしてダナエが案内して、海の中へと潜って行った。
月の世界の海は、ラシルと変わらないくらい透き通っていた。
海中でも遥か先まで見通すことが出来て、魚が緩やかに泳いでいる。
海底では海藻がダンスを踊っていて、豊かな海であることを物語っていた。
メタトロンの中にいても、彼の目を通して外の世界が見える。
ダナエは「このまま真っ直ぐ」と言って、じっと海の先を睨んだ。
「もう少し行くとね、緑とか黄色とか、綺麗な海藻がたくさん生えている場所があるの。その海藻の中に大きなイソギンチャクがいるから、それを通れば海のお城に行けるわ。」
「うむ。色とりどりの海藻だな。」
メタトロンは言われた通りに海を進み、やがてたくさんの海藻が生えている場所を見つけた。
「ほう・・・これは見事な。」
海藻は実に綺麗な彩をしていて、まるで絵画のように鮮やかな絨毯を敷いているようだった。
そしてその海藻の下に、とても大きな何かが隠れているのを見つけた。
「あれは・・・イソギンチャクか?」
「そうよ。あそこまで行ってみて。」
ダナエに言われて、メタトロンは海藻が揺らめく場所まで降りて行く。
そしてでこぼこした海底に足を着き、大きなイソギンチャクを覗き込んだ。
「これか?」
「うん。このイソギンチャクは、普段は口を閉じてるの。だけど歌を歌ってあげると口を開くのよ。」
「歌とな?どんな歌を歌えばいいのだ?」
「なんでもいいわよ。なんなら私が歌おうか?」
「ああ、頼む。」
ダナエはコホンと咳払いをして、アメルの子守唄を歌ってみせた。
しかしその歌は恐ろしいほど音痴で、逆にイソギンチャクの口が閉じてしまった。
「ああ!なんてこと・・・・。」
ダナエはショックを受けて、「コウ・・・代わりに歌ってよ」とつついた。
「嫌だよ、俺だってけっこう音痴なんだぞ。」
「じゃあ博臣は?」
「俺もちょっと歌には自信が・・・・。ミヅキは上手いんだけどなあ。」
「ああ・・・みんな音痴じゃダメだわ。」
そう言って項垂れると、「ウオッホン!」とわざとらしい咳払いが聞こえた。
「ウオッホン!ん・・・んん!あ!・・・あああああああ!ええ声ええええええええ!!」
「メタトロン!?」
三人はビクンと顔を上げる。そしてお互いに顔を見合わせてから、「お願いします!」と頭を下げた。
「うむ。では・・・・ウオッホン!ん・・・んん!・・・・・かッ!ううん!!あ・・ああああああああ!!」
メタトロンは喉の調整をして、渋くて高い声を響かせた。
そして実に見事な歌声で、「アメイジング・グレイス」を熱唱した。
「めっちゃ上手い・・・・。」
「なんてハスキーな歌声・・・・。この歌も素敵だし、涙が出そう・・・・。」
「天使って歌が上手いんだな・・・。ずっと聴いてたいよ・・・・。」
最強の天使の歌声は、ダナエたちだけでなく、イソギンチャクの心にも届いた。
イソギンチャクはブルブルと震え出し、触手を躍らせながら、パックリと口を開いた。
「やった!これで中に入れるよ!」
「うむ。私の歌声も捨てたものではないだろう?」
三人は「最高でした」と褒めちぎり、メタトロンはまんざらでもなさそうだった。
しかしイソギンチャクが口を開けても、メタトロンが通れるほどの大きさではなかった。
「このままでは通れんな。」
「そうだね。じゃあ私たちだけで行って来ようか?」
「いや、お前たちだけで行っても意味がない。私も行かねば。」
「でもそんなに大きくちゃ通れないんじゃ・・・・、」
「問題ない。今の私はティガの力を得ているのだ。大きさなど問題にならぬ!」
そう言って顔の前で腕をクロスさせ、「むううん・・・」と光を溜めていった。
そして「でやあ!」と腕を振り払うと、メタトロンは人間の大きさまで縮んだ。
「よし!これで通れるぞ。」
メタトロンが小さくなって、ダナエとコウは驚きを隠せない。
「もう何でもアリだな、この天使・・・・。」
「なんかブッ飛んでるよね。凄いっていうか、呆れるっていうか・・・・。」
二人の驚きもよそに、メタトロンはイソギンチャクの前に立つ。
口の中は真っ暗だが、奥の方ではほんのりと何かが光っていた。
メタトロンは口の奥を睨みながら、「いざ!」と飛び込んで行った。
この先には海の城が建っていて、月の魔力を解くヒントが隠されているかもしれない。
ルシファーとサタンに対抗する魔力を求めて、皆はイソギンチャクの口の中を落ちていった。

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