ダナエの神話〜魔性の星〜 第五十一話 魔性の星(3)

  • 2015.06.10 Wednesday
  • 12:25
JUGEMテーマ:自作小説
ダナエはたちは月に向かった。
そしてメタトロンと共に、月の魔力の核心へ迫ろうとしていた。
その頃、日本から西へ離れた海の上では、激しい戦いが繰り広げられていた。
ダフネと四大天使が、毬藻の兵器と戦闘になっていたのだ。
毬藻の兵器は藻を紡いで触手のように伸ばし、四大天使を絡め取っていた。
そしてアメルとケンも触手に掴まり、エジプトの神々は海に叩き落とされてしまった。
無事なのはダフネだけで、どうにかして皆を助けようと奮闘していた。
「なんなのよコイツは・・・。攻撃しても全部吸収しちゃうし、どうやって戦えばいいの?」
毬藻にはどんな攻撃も通じなかった。
ミカエルの炎、ガブリエルの水、ラファエルの風、ウリエルの土、どんな攻撃も吸収してしまって、その度に大きくなっていった。
またケンとアメルの魔法も効かず、ダメージを与える方法がまったく分からなかった。
「傷つける方法が分からないんじゃ、倒しようがない・・・。こっちはどんどん消耗していくだけだわ。」
ダフネは魔法を唱え、自分の背後に大きな影を呼び出した。
その影は巨人のように大きく、雄叫びを上げて毬藻に襲いかかっていく。
「とにかくみんなを助けないと。私の分身よ!アイツの動きを止めてちょうだい!」
ダフネが呼び出した影は、かつて世界を食らい尽そうとした怨霊だった。
影の怪物は大きな口を開け、長い舌を伸ばして毬藻を巻き取る。
しかし毬藻も負けてはいない。触手を伸ばして影の怪物を絡め取った。
両者の間で綱引きが起こり、激しい力比べが始まる。
ダフネはその隙に触手の隙間を掻い潜り、アメルの元へと舞い降りた。
「アメル!しっかりして!!」
「ダフネ・・・・。」
触手に捕まったアメルは、酷く弱っていた。
身体から力を吸われ、もう魔法を唱えることも出来ない。
「なんて奴・・・。この毬藻、相手のエネルギーも吸い取るっていうの?」
ダフネはすぐに魔法を唱え、風の精霊を呼び出した。
すると鷲の姿をした精霊が現れて、アメルを絡め取る触手を切断しようとした。
しかし毬藻にはそんな攻撃は効かない。鷲の精霊ごと触手で巻き取り、吸収してしまった。
「駄目だわ・・・。コイツには魔法の類は効かないみたいね。」
ダフネは悔しそうに唇を噛み、「ううううう!」と触手を引き千切ろうとした。
しかしダフネの腕力ではビクともしない。それどころか、自分まで触手に絡まれてしまった。
「あ・・・しまった!」
叫んだ時にはすでに遅く、手足と首をグルグルに巻かれてしまう。
「ぐッ・・・・・苦しい・・・・、」
「ダフネ!」
アメルはどうにか手を伸ばして助けようとする。
しかし力が入らず、がっくりと項垂れてしまった。
「だ・・・誰か・・・・ダフネが・・・・、」
助けを求めようと周りを見渡すも、誰もが毬藻に苦しめられていた。
ケンは青い顔でグッタリとしていて、四大天使も襲いかかる触手に苦戦している。
エジプトの神々はまだ海の中に沈んでいて、もう絶体絶命かと諦めかけた。
「この毬藻・・・強すぎるわ・・・。火も水も、それに風も土も効かない・・・・。それに妖精の魔法じゃビクともしないし・・・これじゃまるで・・・・、」
アメルは絶望しきったように呟く。これではまるで、黄龍や燭龍のように、名だたる神獣と同等の強さだった。
森羅万象を司る龍神たちは、火や水、それに風や土といった自然の力は通用しない。
なぜなら自分自身が自然の力から成り立っているので、そういう力はまったくダメージにならないのだ。
「これじゃまるで・・・・黄龍や燭龍と戦っているようなものだわ・・・・。私たちじゃ勝ち目がない・・・・・。」
何気なくそう呟いた言葉は、四大天使の耳にも届いた。
四人の天使は顔を見合わせ、何かを通じ合わせるように頷いた。
「たかが毬藻に、いつまでも苦戦するわけにはいかない!」
ミカエルは炎を使って攻撃するのをやめ、その身から眩い光を放った。
その光を槍に纏わせ、思い切り振り下ろす。
するとどんな攻撃も通用しなかった毬藻の触手が、あっさりと斬り落とされた。
「やはりか!」
ミカエルは触手から抜け出し、他の天使を絡める触手も斬り払っていった。
「皆の者!この毬藻に火や水は厳禁だ!己の力に変えるだけだぞ!」
そう叫ぶと、ガブリエルが「そのようですね」と頷いた。
「この毬藻、どうやら神獣と似た性質を持っているようです。ならば・・・・・・!!」
ガブリエルは杖の先に光を集め、まるでレーザーのように撃ち出した。
毬藻はそのレーザーに焼かれて、痛そうに触手を動かす。
「やはり・・・・。この毬藻、森羅万象の自然の力は通用しませんが、天使の持つ光ならダメージを与えることが可能なようです。」
「うむ。威力は劣るが仕方あるまい。それぞれの属性での攻撃は控えて、天使の光で戦うのだ!」
ミカエルの号令と共に、四人の天使は一斉に攻撃に転じる。
ミカエルの槍が毬藻を貫き、ガブリエルの杖からレーザーが放たれ、ラファエルの光の矢が触手を撃ち落としていった。
そして・・・・ウリエルは怒りに燃えながら、剣を頭上に掲げた。
刃に眩いばかりの光が集まり、輝く剣となって、高く伸びて行く。
「毬藻の分際で、我ら四大天使を苦しめるとは許しがたし!!我が剣にて断罪してくれる!!」
そう叫んで剣を振り下ろすと、巨大な光の刃が毬藻を一刀両断した。
「やったぞ!真っ二つになりやがった!!」
ウリエルはもう一度剣を構え、さらに斬りつけようとする。
しかし毬藻は細かい藻を無数に伸ばして、すぐに元通りにくっついてしまった。
「再生能力もあるのか・・・・。これではいくら斬っても意味がない。」
ウリエルは苛立たしそうに口元を歪め、それでも剣を振り下ろした。
毬藻はまた一刀両断されるが、すぐに再生してしまう。
「コイツを倒すには、一瞬で全てを消滅させるか、あるいは呪術のようなもので命を絶つしかない。」
ウリエルの言葉に、他の三人も頷く。
しかしそれほどまでに強力な攻撃を仕掛けようとすると、どうしてもそれぞれの属性の力が必要だった。
ミカエルは困ったように眉を寄せ、毬藻を睨む。
「下手に炎や水で攻撃すれば、また吸収されるだけだ。しかしだからといって、このままでは埒が明かん。誰か強力な呪術でも使える者がいれば・・・・、」
そう言いかけた時、ダフネの呼び出した影の怪物が、叫び声を上げた。
全身に触手を巻かれて、まるでボンレスハムのようにギュウギュウに締めつけられていたのだ。
そしてバラバラに引き裂かれ、塵となって消えてしまった。
「パワーもあるようだな。下手に刺激すれば、どんな攻撃が飛び出してくるか分からない。いったいどうすれば・・・。」
ミカエルは毬藻を睨みながら、何か良い方法はないかと考える。
すると「助けて!」と声が響いて、そちらに目を向けた。
「ダフネとケンが死んじゃう!早く助けて・・・・。」
「いかん!すぐに行くぞ!」
アメルの叫びを聞いて、ミカエルはダフネとケンを触手から救い出す。
二人とも力を吸われて、ぐったりと気を失っていた。
「ガブリエル!治癒の水を!」
そう叫ぶと、ガブリエルは「無理です」と答えた。
「私の水は怪我や毒を癒すことは出来ますが、失くした力を取り戻すことは出来ません。」
「むう・・・・そうだったな。ではウリエルの土ならどうだ?」
「出来ないことはないが、気が進まんな。」
「なぜだ?早くしないと死んでしまうぞ?」
「いいではないか、死んでも。どの道これは戦いなのだし、犠牲は付き物だろう?」
「それはそうだが、助けられる者を見殺しにするというのか?」
「死んでくれた方がありがたいと言っているのだ。そのダフネとやら、妙に知恵が回るし、口も上手い。神器の事で対立した時、厄介なことになるぞ。助けるメリットがどこにある?」
「む、むう・・・・・。」
ミカエルは言葉を失くし、手に乗せたダフネとケンを見つめる。
するとガブリエルまで、「そういう選択肢もあるかもしれません」と頷いた。
「ガブリエルまで・・・・、」
「私はウリエルほど辛辣な言い方はしませんよ。ですが助けるメリットがない事には同意です。まあ・・・・判断はお任せします。命令とあれば、私たちはミカエルに従うだけです。」
そう言ってウリエルを振り向くと、「命令ならばな」と頷いた。
「・・・・・・・・・・・。」
ミカエルは黙ったままダフネとケンを見つめる。
すると触手が再び襲いかかって来て、ラファエルが咄嗟に撃ち落とした。
「みんな、言い争っている場合じゃないよ。早くコイツをどうにかしないと。」
そう言って次々に光の矢を放ち、迫り来る触手を見事に迎撃していた。
ミカエルはまだ迷っていた。ガブリエルたちの言うことも分かるが、助かる者を見殺しにするのは抵抗があった。
するとそこへアメルの声が響いた。
「お願い!二人を助けて!」
アメルの声は、胸を裂くほど悲痛に満ちていた。
するとウリエルが、アメルを触手から救い出して、自分の手に乗せた。
「妖精の女王よ。同胞を助けたいというのなら、交換条件を飲んでもらえまいか?」
「条件・・・・?そんなことより早く二人を・・・・、」
「ならば神器を渡すと約束してもらおう。月の女王が約束したとあれば、ダフネもケンも無碍には出来まい?」
「そ・・・そんな・・・・。卑怯よ!こんな場面でそういう取り引きを持ちかけるなんて!!」
「卑怯ではない。あの神器は妖精には危険過ぎる代物だ。納得出来ないというのなら、お前たちを助ける義理はない。」
「な・・・・何を言うのよ・・・・。エジプトを飛び立つ時、一緒に戦うと約束したじゃない・・・・。」
アメルは泣きそうな顔で訴えるが、ウリエルは意に介さない。厳しい目で睨むだけであった。
天使には天使の正義が、妖精には妖精の想いがあり、その二つが交わることはないのかと、アメルは胸が引き裂かれる思いだった。
「・・・・・分かった。神器は渡すように、私から説得する。だから二人を助けて・・・・。」
そう言って、「お願いだから・・・」と顔を覆った。
もし・・・もし自分がケンほど回復の魔法が得意なら、すぐにでも治してあげたかった。
天使の交換条件など飲まずとも、自分の力で・・・・。
しかしアメルは優しい性格とは裏腹に、治癒系の魔法は苦手としていた。
だから二人を助ける為に、涙を飲んで頷くしかなかった。
ウリエルは「約束を忘れるなよ」と釘を刺し、ミカエルの手に横たわる二人を見つめた。
そして土の魔法を使って回復させようとした時、ダフネの胸元からルーが出て来た。
「あ〜あ・・・そんな約束しちゃって。ほんとにいいのか?」
そう言って宙に舞い、アメルの肩に降りた。
「あんたも戦場で戦おうってんなら、もっと腹を括りなよ。んな弱々しい考えしてっからつけ込まれるんだぜ?」
「あ・・・あなたは戦いの神様だからそう言えるのよ。でも妖精はそうじゃないわ。なんでもかんでも戦いで片づけられない!!」
「いいや、同じだね。そもそも妖精の起源は、俺たちケルトの神々なんだ。あんたらだって、どっかに戦う本能があるはずさ。」
ルーは肩を竦めながら、可笑しそうに言う。するとウリエルに摘ままれて、「あ?」と睨みつけた。
「戦いの神よ、お前が関わるとロクなことにならない。邪魔をしないでもらおうか?」
「俺は今この美人さんと話してんの。野郎なんかお呼びでないぞ。」
「黙れ!余計な事を吹き込むなと言っているんだ。この場で捻り潰されたいか?」
そうやって威圧すると、ルーは腹を抱えて笑った。
「ウリエル。俺とやろうっての?メタトロンだっててこずるような俺相手に、お前が喧嘩を売ると?」
ルーは険しい目でウリエルを睨みつける。その目は戦神の激しさを宿していて、妖精とは思えないほどの迫力を放っていた。
「もし俺が元の姿に戻ったら、お前らを遊び相手に選んだっていいんだぜ?こっちから天使の国へ乗り込んで行ってさ、滅茶苦茶に暴れたっていいわけ。」
そう言って馬鹿にしたような目で笑う。その挑発的な態度に、ウリエルの頭に血が昇った。
「妖精無勢があ!!」
怒りに任せて捻り潰そうとした時、ミカエルに腕を掴まれた。
「やめよ、安い挑発に乗るな。」
「しかし・・・・ッ!」
「もう何もせずともよい。治すことも、争うことも不要だ。」
そう言ってアメルの腕に、ダフネとケンを預けた。
「月の女王アメルよ。私は妖精王ケンにこう言った。我ら天使と妖精の間に、大きな溝が出来てしまったと。そしてその溝は、さらに深くなってしまったようだ。それもこれも、素直に神器を渡してくれれば起こらなかった事だ・・・・。」
ミカエルは目を閉じ、険しい顔で天を仰いだ。
「妖精相手に、実に大人げない行動の数々であった。非礼を詫びる。」
そう言ってアメルを見つめ、「共闘はする。しかし同盟関係は破棄だ」と言った。
「ダフネの説得で、我ら天使と妖精は同盟関係にあった。しかしあの神器だけは、どうしても譲ることが出来んのだ。ゆえに・・・・悪魔を討つ為の共闘はするが、もはや仲間ではない。」
「そんな・・・・・。」
アメルは途方に暮れ、深い悲しみに俯いた。
ミカエルはそんなアメルを見つめながら、彼女の肩に座るルーに視線を移した。
「早く二人を治してやれ。妖精になれば魔法が得意になるのだろう?」
「まあね。」
「・・・・貴様はこのような場面でも、争いを呼ぼうとしていたな。アメルを宥め、ウリエルを挑発し、天使と妖精の間に争いが起きればと企んでいたのだろう?」
「ああ、悪い?」
「・・・だから貴様のような者には関わりたくないのだ。」
そう言って舞い上がり、「アメルよ」と呼びかけた。
「そのルーという男、決して油断してはならんぞ。ただその場にいるだけで、いくらでも争いを呼ぼうとする。厄病神と呼ぶに相応しい男だ。」
そう忠告してから、毬藻を睨みつける。そして「こんな場所で、こんなわけの分からない化け物に負けるわけにはいかない」と目を険しくした。
「皆の者!四大天使の名誉にかけて、この毬藻を討つ!最悪は・・・・我らのうち、誰か一人の命を犠牲にしてもだ。」
その言葉にガブリエルたちは頷く。そして即座に、ミカエルが何を言いたいのかを理解した。
四人のうちの誰かを犠牲にしてでも勝つ。それは四大天使の命を使った、自爆技を解禁しろと言っているのだ。
毬藻は何本も触手を伸ばし、ミカエルたちを絡め取ろうとする。
しかし光を纏った武器に切り払われ、もはや触手では倒せないと判断した。
するとブルブルと巨体を震わせて、触手を天に向かって伸ばし始めた。
「何かするつもりだな・・・・。皆の者!これ以上余計な事をさせるな!最大の攻撃力で一気に叩きのめすぞ!」
ミカエルの怒号が響き、ガブリエル達は上下左右に飛び散って行く。
そしてそれぞれの武器を掲げると、四人の間に大きな光の十字架が現れた。
アメルはその隙に退散し、海の近くへと降りていく。
するとハトホルとべスが海面から顔を出して、「こっちこっち!」と手招きをした。
「あなた達!無事だったの?」
「当たり前でしょ。いいから早く海の中へ。」
ハトホルに促され、アメルは海の中へと潜って行く。
そこには海底から大きな木が生えていて、これまた大きなイチジクを実らせていた。
そのイチジクはリンゴ飴のように、半透明に透き通っていた。
ハトホルはアメルの手を取り、そのイチジクの中へと逃げ込んだ。
「ここなら安全よ。」
そう言って手を広げ、「貸して」とダフネとケンを抱きかかえた。
「凄く弱ってるわね。でも大丈夫、私の乳を飲めばすぐに元気になるわ。」
「ち・・・乳・・・?」
何を言っているのか分からず、アメルは顔をしかめる。すると「ハトホルの乳は、一口飲めば元気全快ですぞ」と誰かが言った。
「きゃ!あ・・・・あなたはトート?」
「驚かせて申し訳ない。ここはハトホルに任せてくだされ。」
トートは安心させるように笑いかけ、じっと海面を見上げた。
「あの毬藻・・・・どうも神獣の気配がするのだが・・・・まさか・・・・。」
ブツブツと一人で呟き、またせっせと書物に書きこんでいた。
アメルは「いったい何なの・・・?」と不安そうに言って、ふとハトホルを見つめた。
そして「きゃあ!」と口元を押さえた。
「ちょ、ちょっと!あなた何をしてるの!?」
「何って、乳を飲ませるんじゃない。」
「ち・・・乳って・・・・おっぱいのことだったの!?」
ハトホルは胸の下まで服を下げていて、二つの乳房が露わになっていた。
そしてダフネを腕に抱き、まるで赤子のように乳を吸わせた。
「ちょ・・ちょ・・・ちょっと・・・・、」
アメルは口をパクパクさせて、信じられないという風に見つめていた。
「私の乳は、ホルス様を助けたことだってあるのよ。大丈夫、すぐに元気になるから。」
そう言って自分を乳を飲ませ、慈しみの溢れる目でダフネを抱いていた。
すると力を失っていたダフネが、じょじょに元気を取り戻し始めた。
ゆっくりと目を開け、目の前に乳房があるのに気づいて「んん!」と驚いた。
「ダメダメ。大人しく吸ってて。まだ全快じゃないんだから。」
ハトホルはしっかりとダフネの頭を抱え、自分の乳を吸わせる。
ダフネはバタバタと手足をバタつかせて、ギブアップという風にハトホルの腕を叩いていた。
「うんうん、元気が出て来たわね。じゃあもうお終い。」
そう言って抱いていた手を緩めると、ダフネは「な・・・・何なのいったい!?」と顔を真っ赤にしていた。
「なんで私があなたのおっぱいを飲んでるわけ!?しかも・・・・甘いわね、これ。なんかイチジクみたいな味が・・・。」
「そうよ。私はイチジクの女主人って名前も持ってるから。だから私のお乳は栄養満点。疲れも吹き飛んで、怪我や病気だって治しちゃうんだから。」
ハトホルはニコリとそう言って、「よいしょ」とケンを抱きかかえた。
「さて、それじゃあなたもお乳を飲んで。」
ぐったりしたケンを赤子のように抱え、豊満な乳房に近づける。
するとアメルが「ちょっと待った!」と止めに入った。
「ま・・・待って!ちょっと待って・・・。」
「なに?」
「ああ・・・・ええっと・・・・。その人は私の夫だから・・・・、」
「知ってるわ。船の中で紹介してたじゃない。」
「え・・・ええ、そうね・・・。だからその・・・妻がいるのに・・・その・・・ねえ?あなたのおっぱいを吸わせるのは・・・、」
「心配しないで。別に変な意味で吸うんじゃないんだから。これは元気を取り戻す為よ。」
「そ、それは分かってるんだけど・・・・でもやっぱり目の前でそういうことをされるのは・・・・、」
アメルは困り果てて、あわあわと肩を震わせる。
するとルーがツンツンと頬をつついて来て、「俺が治してやろうか?」と尋ねた。
「俺の魔法ならチョチョイのチョイだぜ。」
「わ・・・悪いけど遠慮するわ・・・。だってあなたに関わるとまた争いが・・・・、」
「もう関わってるじゃん。今さら心配したって遅いんだぜ。」
「だから・・・・これ以上関わりたくないって言ってるの!いいからほっといてちょうだい。」
そう言ってルーを振り払うと、目の前に元気を取り戻したケンがいた。
「きゃあ!あ・・・・あなた・・・・、」
「アメル。すまんかったな、あっさりやられてしもて。俺が元気やったら、みんなを治せたのに・・・・。」
「そ・・・そうね・・・。」
アメルは苦笑いで頷き、ケンの口の端に乳が付いているのを見つけた。そして指でそっと拭きとり、とても険しい表情をした。
「どうしたアメル?」
「・・・・・あなた、ごめんなさい・・・。」
「ん?何がや?」
ケンは不思議そうに首を傾げる。すると次の瞬間、アメルの強烈なビンタが炸裂した。
「ぐへあッ!」
バチコーン!と音がして、ケンは吹き飛ばされる。そしてイチジクの壁にぶつかり、頭からズルズルと落ちていった。
「ああ!ごめんなさい!!」
アメルはケンに駆け寄り、「こんなに強く叩くつもりじゃなかったのに!」と嘆いた。
「な・・・・なでやねん・・・・。なんでビンタ・・・・?」
「だって・・・・ついカッとなっちゃって・・・。あなたを助ける為に必要な事だって分かってたけど、つい怒りが・・・本当にごめんなさい。」
アメルはギュッとケンを抱きしめる。彼女の腕の中で、「ほな叩くなや・・・・」とケンが白目を剥いていた。
「よかった。みんな元気になったみたいね。」
ハトホルはニコリと言い、「一人だけ死にかけてるけどね・・・」とダフネがツッコんだ。
「私のお乳はよく効くでしょ?あなた・・・アメルさんだっけ?あなたも飲む?」
「い・・・いえいえ!けっこうです!」
「なんでよ?あなただって力を吸われたんじゃないの?」
「こ、この二人に比べると大したことないから!だから大丈夫よ・・・・うん。」
「そう?遠慮しなくていいのに。」
そう言って、ハトホルは「よいしょ」と服を直した。
「ねえトート。あの四人は毬藻に勝てそう?」
そう尋ねると、「難しいだろうな」と答えた。
「あの毬藻、どうやら強力な神獣を吸収しておるようだ。」
「強力な神獣?麒麟とかエンシェントドラゴンとか?」
「いやいや、それ以上だろう。」
「それ以上って・・・・もう三大龍神くらいしかいないじゃない。まさか黄龍や燭龍が吸収されたとでも言うつもり?」
「そうとしか思えない。森羅万象の力は通用せず、しかも四大天使を翻弄するほど強い神獣となると、それしか考えられない。
問題はどの龍神を吸収しているかだが、まず燭龍は有り得ない。」
「そうだね。あの若い人間の男の子に宿ってたみたいだから。あの子たちユグドラシルに逃げちゃったし。」
「そして九頭龍も可能性は低い。ダフネ殿の話によると、あの龍神はラシルへ現れて、邪神に乗っ取られたとか?」
そう言ってダフネを振り向くと、「乗っ取られたかどうかは分からないわ」と答えた。
「でもラシルから帰って来ていないのは事実よ。黄龍がそう言ってたから。」
「では残るのは、その黄龍しかおらん。しかし黄龍は桁外れの強さをしているから、あんな毬藻の怪物に負けるとは考えにくい。
となると・・・・・これは黄龍が自らあの毬藻に吸収されたとしか考えようがない。」
そう結論を出すと、ハトホルは「まさかあ」と笑った。
「なんで黄龍が毬藻の化け物に吸収されるのよ?」
「分からん。分からんが・・・・それしか説明が付かない。」
トートはせっせと書物に書きこみ、そしてパタンと閉じた。
「四大天使は負けるだろう・・・。見よ、あの戦いを。彼らは本気で戦っているにも関わらず、何も出来ずに苦戦している。勝負は見えているぞ。」
そう言って、海面の先に広がる空を指を差した。そこでは四大天使が必死に戦っていた。
光の十字架で毬藻を焼こうとしているが、倒すまでには至らない。
毬藻は十字架の光に焼かれながらも、触手を振り回して天使を叩きつけていた。
そしてブルブルと身を震わせて、黄金色に輝き出した。
「見よ、あれこそまさに神獣の光、黄龍の力ではないか!」
トートは目を見開いて叫ぶ。
四大天使も、この光が黄龍の輝きであることを見抜き、「なぜだ!?」と顔をしかめた。
「あれほど強い龍神が、このような化け物に吸収されたというのか?」
ミカエルは信じられないという風に首を振る。しかし黄龍が自ら吸収されていったとは考えなかった。
天使のミカエルにとって、こんな化け物に自ら吸い込まれて行くなど想像も出来ないことで、きっと黄龍は負けてしまったのだろうと考えた。
「おのれ化け物め・・・・。こやつはルシファーの生み出した、新たな悪魔かもしれん。」
黄龍が負けるほどの相手となれば、自分たちではまともに戦っても勝機はない。
ミカエルは険しい顔で毬藻を睨みながら、「ウリエル!」と叫んだ。
「・・・・もはや我らの命を武器にする他ない・・・・。お前の闘志と怒り、我らの剣としてくれ。」
その言葉を聞いて、ウリエルは真剣な目で頷いた。
「悪魔を討つことこそが天使の役目!我が命が役に立つというのなら、それは喜ぶべきことだ。」
ウリエルは嬉しそうに言って、「使え、俺の命を!」と叫んだ。
そして自分の剣で胸を突き刺し、そのまま絶命した。
胸に刺さった剣はウリエルの血を吸い取り、血塗られた恐ろしい刃に変わる。
ガブリエルはそっとウリエルの遺体を抱きとめ、ゆっくりと剣を引き抜いた。
「ウリエル、あなたの命・・・無駄にはしませんよ。」
そう言って剣を片手に、杖から水を放ってウリエルを包んだ。
ウリエルの身体はその水に分解されて、粒子となって宙へ消えていく。
「ミカエル!」
ガブリエルはミカエルに剣を投げ渡す。ミカエルはその剣を受け取ると、自分の持っている槍と融合させた。
「ウリエルの命を刃とし、この毬藻を討つ!仲間を犠牲にしたのだ、失敗は許されんぞ!!」
「ええ、もちろんです。」
ガブリエルは翼を広げ、自分の背後にクリスタルの分身を呼び出す。
ラファエルも弓矢を構え、矢の先に光を集めた。
「醜い化け物め・・・我ら天使の正義・・・邪魔はさせんぞ。」
ミカエルはウリエルの剣を吸い込んだ槍を掲げ、持てる限りの全ての力を集める。
槍は太陽のように激しく輝き出し、悪を討つ光となる。
そこへガブリエルが杖を向け、クリスタルの分身から光を放った。
そしてラファエルも矢を放ち、二人の光もミカエルの槍に吸い込まれていく。
ウリエルの魂の剣に、ミカエルとガブリエル、そしてラファエルの光が混ざり合う。
槍はプラズマのようなエネルギー体の刃に変わり、目が開けられないほど眩く輝いた。
ミカエルはその槍を構え、翼を広げて突撃していく。
「塵に還るがいい!!」
四大天使の究極の奥義が、毬藻を貫かんと挑む。
しかし毬藻もじっとしているわけではなかった。
黄金色の輝きを放ちながら、突然大きな龍に姿を変えたのだ。
それを見たトートは、「やはり黄龍が宿っていたか!」と目を見開いた。
毬藻は黄金の龍に姿を変え、ミカエルを迎え撃った。
長い角の先から、黄色い稲妻を放つ。その稲妻は四方に拡散し、何百キロも先まで届くほどの威力だった。
「ああああああああ!!」
「うおおおおおおお!!」
近くにいたガブリエルとラファエルは、稲妻から身を守ろうと結界を張る。
しかしあっさりと結界が打ち砕かれて、黄色い稲妻に焼かれていった。
二人の天使は煙を上げながら海へ落ちて行く。そしてミカエルも稲妻の直撃を受けて「ぐううおおおおおお!!」と苦しんだ。
しかしウリエルの魂が宿った槍が、稲妻を二つに切り裂いていく。
ミカエルは痛みを堪え、「これしきいいいいいい!」と突撃していった。
「悪魔に負けるわけにはいかんのだああああ!!なんとしても悪魔に敗北だけはああああああ!!」
ミカエルの身体が激しく燃え上がり、槍を構えて飛んで行く。
そして・・・・・光の刃となった槍が、黄金の龍の眉間に突き刺さった。
「このまま吹き飛べえええええええい!!」
槍を眉間の奥深くまで刺し込み、素早く手を離す。
するとウリエルの魂が宿った槍は、四方八方に光を放ちながら、天地に向かって巨大な光の柱を伸ばした。
その光の柱はじょじょに太くなって行き、やがて黄金の龍を飲み込む。
ミカエルは「ウリエルの魂の輝きだ・・・」と呟き、目を閉じて天を仰いだ。
「この光の柱は、我ら天使の裁きなり。身も心も、そして魂までも滅するがいい・・・。」
そう言って光の柱の中で、じっと目を閉じていた。
ダフネたちは海の中から、その様子を眺めていた。
強烈な光は海まで明るく照らし、まるで海底から太陽が昇ってきたかのようだった。
「すごい光ね・・・・あれなら倒せるんじゃない。」
ダフネが尋ねると、「そう上手くいくとは思えないが・・・」とトートが呟いた。
「黄龍の力は、メタトロンと同等かそれ以上だ。いくら四大天使の命を武器にしようとも、易々と勝てるとは思えない。」
トートは険しい目で光の柱を睨み、事の成り行きを見守った。
やがて・・・・眩いばかりの光の柱は、じょじょにその光が薄くなっていった。
そして完全に光が消え去ると、そこにはほとんど無傷の黄金の龍がいた。
眉間に大きな穴が空いているものの、それ以外に傷を負った様子はない。
ミカエルは「馬鹿な・・・・」と慄き、悔しそうに歯を食いしばった。

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