ダナエの神話〜魔性の星〜 第五十二話 魔性の星(4)

  • 2015.06.11 Thursday
  • 13:05
JUGEMテーマ:自作小説
ウリエルの命を武器にした、四大天使最大の攻撃。
それを受けても、黄金の龍はまったくダメージを受けていなかった。
ミカエルはギリギリと歯を食いしばり、悔しそうに顔をゆがめた。
「・・・お・・・おのれ・・・・毬藻の化け物め・・・。ウリエルが命を散らしたというのに、それでも足りぬのか!」
同胞を失ってまで仕掛けた攻撃が、ほとんど意味を成さない。
これではウリエルが無駄死にではないかと思うと、激しい怒りが湧いてきた。
「・・・まだだ・・・・まだ負けたわけではない・・・・。」
そう言って海を睨み、海面に浮かぶガブリエルとラファエルを見つめた。
二人は酷い火傷を負っていて、顔も翼も無残なほど爛れている。
ミカエルはそんな二人を見つめながら、「隠れていないで、お前たちも戦え!」と叫んだ。
「海の中に隠れているのは分かっている!ウリエルが命を散らしたというのに、お前たちはただ隠れるだけか!それが月の者たちのやり方か!?」
空気を震わすほど激しい怒号が響き、ミカエルの怒りは炎となって身体から噴き出す。
ダフネは「ミカエルの言うとおりだわ」と頷き、横にいるケンを振り向いた。
「ケン、ガブリエルとラファエルを助けてあげて。みんなで力を合わせなきゃ、あの毬藻は倒せない。」
「分かった。俺に任せい。」
ダフネとケンはイチジクから飛び出し、海の外へと舞い上がる。
アメルも「私も行くわ」と後を追い、ハトホルやべスもそれに続こうとした。
「エジプトの神々だって戦えるってこと、こういう場面でこそ見せなくちゃ!」
「儂もそう思う。」
そう言ってイチジクの外へ出て行こうとすると、「やめとけ」とルーが止めた。
「何よチビッ子!私たちじゃ役に立たないって言う気?」
「儂も怒るぞ。」
「そうじゃない。今出て行くのは得策じゃないって言ってんだ。」
「なんでよ?今出て行かないで、いったいいつ出て行くってのよ?」
「儂もそう思う。」
「あのなあ・・・どいつも頭に血が昇って気づいてないみたいだけど、デカイ悪魔の気配が迫ってるのを感じるんだよ。それも桁外れにデカイ気配だ。黄龍なんか目じゃないぞ。それくらいとんでもない悪魔がやって来る。」
「黄龍なんか目じゃないくらい?そんな悪魔っていったら・・・・、」
ハトホルは不安そうに呟き、その先を口をするのを躊躇った。
するとトートが「ルシファーかサタンだな」と答えた。
「私も感じるぞ・・・・・。ここまで大きな気配は、あの二人のどちらかしか考えられない。
しかも真っ直ぐこちらに向かっている。」
「ああ、その通りさ。だからアンタらが出ていったら、天使や妖精ともどもぶっ殺されるだけだ。ここで大人しく隠れてりゃ、どうにかやり過ごせるかもしれない。それでも出て行くか?」
そう尋ねると、ハトホルとべスは顔を見合わせ、ブルブルと首を振った。
「冗談じゃないわ。あんな化け物を相手にするなんて。」
「儂も同感。」
二人はエジプトにいる時、近くでルシファーとサタンを見ていた。
光のピラミッドに隠れながら、その強大な力を肌で感じていた。
「なんでアイツらがまた・・・・・。」
ハトホルはブルリと震え、自分の腕をさすった。
ルーは「あの毬藻のせいだろ」と答え、空に浮かぶ黄金の龍を睨んだ。
「あの毬藻、きっとルシファーの仲間なんだと思うぜ。」
「じゃあアイツがルシファーかサタンを呼んだってこと?」
「だろうな。どういう繋がりがあるのか知らないけど、悪魔の大将と仲良しらしい。でなきゃ奴らがわざわざ出向いて来るとは思えねえ。」
そう言ってイチジクの中で寝そべり、腕枕をした。
「ちょっとアンタ。元は戦いの神様なんでしょ?だったら戦わないの?」
「こんな姿じゃあなあ・・・・。戦うも何も、あっさりと殺されて終わりだ。なんたって相手は悪魔の大将なんだから。」
「ビビってるの、もしかして?」
「いいや、怖くはないさ。ただ戦いが楽しめないのが嫌なだけだ。せめて元の姿に戻れりゃなあ。」
「じゃあ天使たちに頼めば?彼らなら出来るでしょ。」
「無理だよ。アイツらは俺のこと嫌ってるからな。また争いを呼ぶだけだとか何とか言って、元に戻す気なんかねえよ。」
「そんなの頼んでみないと分からないじゃない。」
「分かるさ。だって俺を元に戻すって約束をしてたんだ。でもほら、俺はこの通りさ。それに本当に俺に頼るつもりなら、とっくに元に戻してる。だからいくら頼んでも無駄さ。俺の力を借りるくらいなら、全滅した方がマシなんだろうぜ。」
「アンタ・・・・よっぽど嫌われてるのね。」
「まあな。」
ルーはケラケラと笑い、腕枕をしたまま眠ってしまった。
「自由な奴ねえ、ほんとに。」
ハトホルは呆れながら言って、「これからどうする?」とトートに尋ねた。
「もし本当にルシファーたちが来るなら、私たちに勝ち目なんてないよ。」
「分かっておる。ここはルーの言うとおり、大人しくしていた方が賢明だろう。」
「だね。天使や妖精を見殺しにするみたいで悪いけど、相手が相手だもん。」
「儂もそう思う。」
「・・・生きていれば、いずれまた勝機は巡ってくるであろう。今はただ・・・・息を殺して生き延びるのみだ。」
トートは書物を開き、ブツブツと呟きながら魔法を唱えた。
するとイチジクの木は周りの景色に同化して、誰の目にも見えなくなった。
「いつか・・・・いつか必ず反撃の時は訪れる。その時まで、皆で耐え凌ぐのだ。」
トートが切ない目で言うと、ハトホルとべスも頷いた。
エジプトの神々は、いつか来るべきチャンスに備えて、海に隠れることにした。
そして・・・・天使とダフネたちは、黄金の龍に戦いを挑んでいた。
ケンの魔法でガブリエルとラファエルは復活し、稲妻にやられた怒りをぶつけていた。
二人は見事な連携で龍を翻弄し、爪も牙もかわしていく。
そして龍が稲妻を撃ちそうになると、角に目がけて攻撃を仕掛けた。
ガブリエルのレーザーが、そしてラファエルの矢が、稲妻の溜まった角を撃ち抜いていく。
ほとんどダメージにはならないが、それでも溜まった稲妻を掻き消すことくらいは出来る。
二人は龍を翻弄し続け、ミカエルたちが攻撃するチャンスを作ろうとしていた。
しかし怒った龍が雄叫びを上げて、ユラユラとたてがみを揺らした。
すると弾丸のような突風が吹きぬけて、ガブリエルがバランスを崩した。
「うう・・・・ッ!」
そこへ龍の大きな手が伸びてきて、がっしりと掴まれてしまう。
そしてメキメキと締め上げられて、「あああああああ!」と叫びを上げた。
「クソ!」
ラファエルは矢を構えて、龍の腕を撃ち抜こうとした。
しかし大きな尻尾に叩きつけられ、そのまま蛇のように巻きつかれてしまった。
「ぬううおおおおお!!」
二人の天使は龍に捕えられ、身体がバラバラになりそうなほどの力で締め上げられる。
するとそこへアメルが飛んできて、「いい加減にしなさい!」とビンタをかました。
大きな音が響いて、龍の横っ面がへこむ。そしてヨダレを吐きながら「グウウウ・・・」と唸った。
「まだまだ!」
アメルは腕まくりをして、「えいや!」と力を溜めた。
二の腕に力こぶが出来て、まるでボディビルダーのようにムキムキになっていく。
皮膚に血管が浮かび上がり、ドクンドクンと脈打った。
「月までぶっ飛びなさい!!」
そう叫んで思い切りビンタをすると、激しい爆音が響いた。
龍の横っ面は大きくへこみ、牙が折れて飛んで行く。
そして血とヨダレを吐き出して、「ギュウウウウ・・・」と情けない声を出した。
「もう一発!!」
「ギュウウウウ!!」
また牙が折れ、今度は鼻血も吹き出して、白い泡を吹いていた。
しかしそれでもガブリエルとラファエルを離そうとしないので、「しつこいわね」と怒った。
「もうビンタじゃすまさないわ!聞きわけのない子には、鉄拳制裁あるのみよ!どおおりゃああああああ!!」
アメルは拳を握り、さらに腕を太くする。
そして渾身の右アッパーを放つと、ガゴン!と音がして、龍の顎が外れた。
「グッ!・・・・ゴゴゴ・・・・・・、」
「どう!まだ足りない!?」
そう言ってもう一度拳を振り上げると、龍は髭を伸ばしてアメルを巻きつけた。
「何よ!こんなもん!!」
アメルはガシっと髭を掴み、「でいやあああああ・・・・」と力任せに引き千切ってしまう。
しかしその瞬間、背中から腹にかけて、鋭い痛みが走った。
「あ・・・・・・・、」
腹を見てみると、そこにはもう一本の髭が突き刺さっていた。
身体を貫通し、ポタポタと血が流れている。
「あ・・ああ・・・・・・、」
アメルは腹に刺さった髭を掴み、それを引き抜こうとした。
しかし「う・・・」と口を押さえ、血を吐き出した。
「アメル!」
それを見たケンが、「今助ける!」と向かって行く。
しかしダフネに腕を掴まれ、「ダメよ!」と止められた。
「今ここを離れちゃダメ!アンタの力も必要なんだから!」
「何言うとんねん!アメルが死んでまうやないか!!」
「そんなの分かってるわよ!!だからアメルを助ける為に離れちゃダメって言ってるの!!ここで行ったら、アンタもやられるだけよ!いいから私の言うことを聞いて!!」
「・・・・・・クソが!!」
ケンは悔しそうに叫び、自分の手に拳を打ちつけた。
「あなた・・・・・。」
アメルは手を伸ばし、「早くこの怪物を・・・・」と言った。
「こいつを倒さないと・・・・・あなたもダフネも・・・・・、」
「アメル・・・・・。」
妻が苦しむ姿を見て、ケンは思わず目を逸らす。
そしてダフネの元に戻り、「まだか!?まだいけへんのか!!」と尋ねた。
「もうちょっと・・・・もうちょっとだけ待って。」
ダフネは巨大な影の怪物を呼び出し、その頭の上に立っていた。
そしてその影の中にはミカエルが吸い込まれていて、目を閉じて絶命していた。
「ミカエルが自分の命を武器にしてくれるの。失敗なんて出来ないわ。」
そう言って自分も影の中に吸い込まれ、ミカエルの肩に触れた。
「今からこの怪物を大きくして、一口であの龍を飲み込むわ。だけどその為には力がいる。だからミカエルの命を炎に変えて、コイツをもっともっと巨大な化け物に変化させる。ケン・・・・あなたは私が指示したとおり、この怪物が龍を飲み込んだから、一緒に中に飲み込まれてちょうだい。そしてアメルやガブリエル、それにラファエルを助けるの。きっとみんな大きなダメージを負うだろうから、すぐに治癒の魔法をかけてあげて。」
ダフネは真剣な目でそう言って、サラサラと溶けて影と同化していった。
それと同時に、ミカエルの身体が激しく燃え上がる。
影の怪物はその炎に焼かれ、苦しみの声を上げた。
しかしその炎はしばらく燃えたあと、やがて胸のあたりに収束し始め、最後には魂のように丸い炎となった。
影の怪物は炎の魂を得て、それをエネルギーにどんどん巨大化していく。
そして龍の十倍もの大きさになったところで、巨大化を止めた。
「ミカエル・・・・あんだけ険悪な仲になってたけど、最後の最後は自分の命を武器にしてまで、悪魔を倒そうとしとる。俺らは違う種族やけど、あんたら天使の正義・・・・・感服するわ。」
自らを犠牲にしてまで悪魔を倒そうとするその心意気に、ケンは素直に賛辞を送った。
すると「いやあ!!」とアメルの叫びが響いて、すぐに後ろを振り返った。
アメルは髭に刺されたまま、龍の口に飲み込まれようとしていた。
必死に抵抗しているが、刺さった髭のせいで血を流し過ぎて、力が入らないでいる。
「アメルううううう!!」
ケンはすぐに妻の元に行き、「すぐ助けたるからな!」と叫んだ。
そして回復の魔法をかけようとした時、鬼の形相でアメルにビンタをされた。
「がは・・・・ッ。」
ケンは遠くへ吹き飛び、影の怪物にぶつかる。
そして頬を押さえながら、「アメル・・・何をすんねん!?」と叫んだ。
「あ・・・あなたは・・・・死んじゃダメ・・・・やることがあるでしょ・・・・。」
そう言って微笑むアメルの胸には、もう一本の髭が突き刺さっていた。
もしアメルの近くにいたら、ケンがその髭に刺されるところだった。
アメルはそれを防ぐ為に、鬼の形相でケンを叩き飛ばしたのだ。
「私は・・・・もうダメ・・・・。だから後のことは・・・・、」
アメルは血を流しながら、じっとケンを見つめる。
そしてゆっくり龍の口の中へ運ばれていった。
「アメル!!」
「ケン・・・・ダナエを・・・・月のみんなを・・・・頼んだわよ・・・。あなたは・・・・月の王様なんだから・・・・、」
「何言うてんねん!お前かて月の女王やろうが!!諦めるな!!」
「・・・ごめんなさい・・・私はもう・・・・。」
アメルはじょじょに口の中へ消えていく。そして涙を一筋流して、最後にこう言った。
「ビンタ・・・・ばかりで・・・ごめんなさい・・・・。でも誤解しないでね・・・・私は・・・・今でも・・・あなたの事を・・・・愛してる・・・昔と変わらずに・・・・、」
そう言って小さく笑い、龍の口に飲み込まれてしまった。
「あ・・・ああ・・・・アメルううううううう!!」
ケンは手を伸ばして叫び、「うおおおおおお!」と頭を抱えた。
「なんでや!?なんでアメルが死ななあかんねん!!こんなんおかしいやないか!!うおおおおおおおお!!」
激しい悲しみは怒りに変わり、黄金の龍を睨みつける。そして「俺もお前のとこに行くぞ!」と、怒りに任せて飛びかかろうとした。
しかしその瞬間、影の怪物がゆっくりと動き出した。
大きな口を開け、長い舌を伸ばして、グルグルと龍を巻きつけた。
「グオオオオオオオ!」
龍は必死に抵抗し、巨大な稲妻を乱発する。しかし影の怪物は稲妻に焼かれながらも、力任せに龍を引き寄せた。
長い舌がグングンと口の中に吸い込まれ、龍を飲み込もうとする。
「負けるな!そのまま飲み込め!一口で食らってまえ!!」
ケンは拳を握って叫ぶ。アメルを失った悲しみが、怒りと憎しみにの叫びに変わる。
龍は稲妻を放ち、炎を吐き、突風を起こして抵抗する。
しかしそれでも影の怪物は倒れない。ミカエルの魂とダフネの魔力が、決して龍を逃すまいと舌で締め上げる。
そしてそのまま口の中まで引きずりこんで、一口で飲み込んでしまった。
「うおおおお!!やった!やったでえ!!」
ケンはガッツポーズをして喜ぶ。そしてすぐに影の怪物の口の中へ飛び込んでいった。
「アメル・・・・お前を食べた怪物は倒したで・・・・。でも、俺はダナエに何て言うたらええねん・・・。」
アメルが死んだなどと知ったら、いったいどれほどダナエが悲しむか?
それと同時に、いったいどれほど激しい怒りに襲われるか?
あの子は優しさと激しさを兼ね備えていて、その両方の感情に苦しめられることになる。
それを思うと、とてもではないがダナエの気持ちになることは出来なかった。
「俺は最悪や・・・・。一番大切な者を守れんと、こうして生き延びるなんて・・・・。でも諦めへんぞ!こんだけ犠牲が出てんねや!最後まで戦うで。」
涙を拭い、影の怪物の中を進んで行く。辺りは真っ暗で、見渡す限りが夜のようである。
しかしミカエルの魂が燃える場所だけ、唯一明るく輝いていた。
その彼の魂の近くでは、黄金の龍が苦しんでいた。
激しく喘ぎながら、暗い闇に蝕まれて悶えていた。
鱗は剥がれ、肉は削げ、骨が見えているところもある。
いくら憎い敵とはいえ、ケンはこういう光景は苦手だった。
しかし目を逸らしてはいられない。ガブリエルとラファエルを助ける為に、黄金の龍へと近づいて行った。
「おい!しっかりせえ!」
ガブリエルは、龍の手に掴まれたまま気を失っている。ケンはすぐに回復の魔法をかけた。
するとどうにか目を覚ましたものの、身体にはまだ爪が喰い込んでいた。
ケンは「攻撃用の魔法は苦手なんやけどな・・・」と言いながら、巨大なクワガタの精霊を呼び出して、龍の指を切断しようとした。
「硬い鱗が落ちてるさかい、いけると思うんやけど・・・。」
呼び出したクワガタの精霊は、大きな顎でもって指を断ち切ろうとする。
そしてどうにか切断することが出来て、ガブリエルは解放された。
「酷い怪我や。すぐに治したるからな。」
そう言って再び回復の魔法をかけると、ガブリエルはようやく力を取り戻した。
「妖精王ケン・・・・助かりました。礼を言います。」
ガブリエルはそう言って、闇に食われて果てていく龍を見つめた。
「ミカエル・・・・あなたの犠牲に感謝します。この悪しき魔物、苦しみの果てに地獄へ堕ちることでしょう。」
「そやな。でもまだラファエルが残っとる。早よ助けに行かんと。」
二人は龍の尻尾の先まで向かい、ぐったりと項垂れるラファエルに駆け寄った。
「おい!生きてるか!?」
そう尋ねると、ゆっくりと顔を上げながら「なんとかね・・・・」と笑った。
「よかった・・・・。すぐに助けたるからな。」
ケンはもう一度クワガタの精霊を呼び出し、骨だけとなった龍の尻尾を切断した。
ラファエルはよろめきながら、「助かった・・・」と息をついた。
そしてケンに魔法をかけてもらい、どうにか力を取り戻した。
「ありがとうケン。君たちの協力のおかげで、どうにか勝つことが出来たよ。」
「いや、ミカエルが命を懸けてくれたおかげや。そうでなかったら今頃は・・・・、」
そう言いかけて、ケンはヨロヨロとよろめいた。
「大丈夫かい?」
ラファエルが咄嗟に受け止めると、ケンは「ちと魔法を使いすぎたな・・・」と苦笑いした。
「ケン、君も奥さんを失ったんんだろう。辛いだろうによく戦ってくれた。」
「・・・・アメルは・・・戦って死んだんや・・・。ミカエルと同じように・・・・。だから・・・・絶対に・・・無駄死にちゃうで・・・・。」
「もちろんだよ。天使も妖精も、とても大きな犠牲を払ってしまった。辛い限りだよ。」
ラファエルは労わるような眼差しで見つめ、ふわりと舞い上がった。
「とにかくここから出よう。長居したら僕たちまで闇に浸食される。」
そう言って影の怪物の口まで舞い上がり、ふと下を振り返った。
黄金の龍は闇に浸食されて、美しい輝きを失いつつあった。
まるでゾンビのように、とても醜い姿で悶え苦しんでいる。
その姿を見つめながら、ケンはぼそりと呟いた。
「もうじき死ぬな・・・・。とんでもない敵と出くわしてもたもんや。後はダフネに任せるしかない。」
悶える龍を見つめながら、アメルの犠牲が無駄ではなかったと、何度も自分に言い聞かせる。
そうしないと、あまりの悲しみに、胸が押し潰されてしまいそうだった。
ケンたちは影の怪物の口を通り、青い空へと出た。
あの龍はダフネが生み出した怪物の中で、時間と共に朽ちていくだろう。
しかしまだ戦いは終わらない。もっともっと強い敵が、この地球には残っているのだから。
「あの龍を消化したら、ダフネも元に戻るやろ。それまで少し休んどこうや。」
「そうだね。今はまともに戦える状況じゃない。エジプトの神々の魔法なら、敵に見つからずに休めるはずさ。」
二人はニコリと笑い合い、無理矢理笑顔を作ることで、大切な者を亡くした悲しみを誤魔化そうとした。
しかし突然ガブリエルが「まだです!」と叫んだ。
「とてつもなく恐ろしい悪魔が迫っている・・・・。この気配は・・・・・、」
ガブリエルの慌てように、二人も辺りの気配を探ってみる。
すると黄金の龍とは比較にならないほどの巨大な気配が、すぐそこまで迫っているのに気づいた。
「な・・・・なんやこの気配は・・・・・。これは・・・サタンか?」
一度サタンに襲われたことのあるケンは、ガタガタと震えながら呟いた。
するとラファエルは「いや・・・サタンじゃない」と答えた。
「この気配はルシファーだよ・・・・。もう逃げられない所まで迫っている。」
「そ・・・そんな・・・・。せっかくあの龍を倒したのに・・・・。」
もしここで全滅してしまったら、多くの犠牲を払った勝利が無駄になってしまう。
ケンは悔しそうに歯を食いしばり、「どうにか出来へんのか!?」と叫んだ。
「俺らここで死ぬっていうんか!?せっかく勝ったのに、また犠牲を払わなあかんのか・・・・。」
「いいえ、犠牲を払って勝てるならまだいい・・・。おそらく私たちは全滅でしょう。」
ガブリエルは冷静な声で答え、「だからこそ神器を渡せと言ったのです」と続けた。
「こういう事態があるから、我々はあの神器を求めたのですよ。妖精よりも戦いに長けた天使なら、あの神器を上手く活かせたのです。使いこなすのは無理にしても、ルシファーたちに脅しをかけるくらいなら出来た。それだけでも充分に力を発揮してくれたはずです。」
「・・・・・・・・・・。」
「しかしもう遅い。敵はそこまで迫っています。今さらあなたを責めたことろで何も変わりませんが・・・・ダナエに神器を持ち去らせたのは、大きな判断ミスです。そのミスが、天使も妖精も全滅の危機へ誘おうとしている。後はただ死を待つのみです。」
「・・・うう・・・・ああ・・・・おおああああああ!!」
ケンは鬼のように顔をしかめ、唇から血が出るほど歯を食いしばった。
正しいと思った自分の行動が、こんな所で裏目に出るとは思わなかった。
するとラファエルが「君は生き残るべきだ」と言った。
「ここで死ぬ必要はない。万が一のチャンスに賭けて、とにかく生き残るんだ。」
そう言って海の傍へ降りて行き、「ケンをかくまってくれ!」と叫んだ。
「エジプトの神々よ!海の中に隠れているんだろう?ならケンも一緒にかくまってやってくれ!」
ラファエルは悲痛な声で叫ぶ。すると海面からトートが顔を出して、クイクイと手を動かした。
ラファエルはトートにケンを預け、「妖精王を頼んだよ」と舞い上がって行った。
「おい!アンタらはどうすんねん!?一緒に隠れたらええやないか!」
「いや、そういうわけにはいかないよ。これから悪魔の総大将がやって来るっていうのに、隠れているわけにはいかない。」
「でも勝てへんのやろ!ほな一緒に・・・・、」
「何度も言ってるけど、悪魔と戦うのが天使の役目さ。そうでなければ、僕たちは自分の正義に背を向けることになる。天使にとって、それだけはあってはいけないんことなんだ。君たち妖精には分からないだろうけどね。」
ラファエルはそう言い残し、ガブリエルの隣へ舞い上がる。
そして東の空を睨み、武器を構えた。
「なんでやねん・・・そうまでして戦うもんなんか・・・。」
ケンには分からなかった。いかに正義の為とはいえ、勝ち目のない戦いで命を捨てるなど・・・・。
「・・・・あかん!俺だけ隠れられへん!まだダフネが残って・・・・、」
そう言いかけた時、トートはケンを海の中へ引きずりこんだ。
「おい待てって!まだダフネが・・・・・・、ぐぼぼ・・・・・。」
ケンが言い終える前に、トートはさっさと海の中へ隠れてしまう。
そしてイチジクの中に身を隠し、誰の目にも見えないように消えてしまった。
「さて、妖精王は彼らに任せるとして、君はどうするんだい?」
ラファエルは後ろを振り返って尋ねる。
すると影の怪物の中から、ダフネがひょっこりと顔を覗かせた。
「私も戦うわ。ていうか、戦わざるをえない。だっての龍、まだ私の中で生きてるのよ。もうボロボロのはずなのに、ちっともくたばろうとしない。けっこうしぶとい奴よ。」
「そうか。ならなんとしてもアイツを消し去ってくれ。そうでないと、ウリエルとミカエルが命を懸けた意味がないからね。」
「分かってる。すぐに消化して、私も一緒に戦うわ。」
そう言って影の中に戻り、まだ死のうとしない龍を完全に消し去ろうとした。
そしてそれと同時に、東の空から大きな悪魔が迫って来た。
メタトロンの一回りはあろうかというほどの巨体で、真っ直ぐにこちらに向かって来る。
ガブリエルとラファエルは武器を構え、迫り来るその悪魔を睨みつけた。
「来たなルシファー。僕たち天使の宿敵、永遠に消えることのない、深い罪を背負った堕天使め。」
「皮肉なものですね。かつては彼こそが天使の頂点に立ち、私たちを導く存在だった。最も神に近い位置にいながら、最後まで神の意志に背いた許されざる者です。たとえここで命を散らそうとも、一矢報いようではありませんか。」
二人は翼を広げ、己の命を力に変えて行く。
眩い光が身体を包み、命と引き換えにほんの僅かな時間だけ何十倍も力が増して行く。
ラファエルもガブリエルも、身を包む服と鎧が消え去り、身体全体が発行体と化す。
今の二人は、まさに光そのものだった。
口も鼻も、そして耳さえも消え、目だけが残って釣り上がって行く。
翼は大きく伸び、羽の一枚一枚が剣のように鋭くなる。
そして・・・・迫り来るルシファーに向かって、一筋の閃光となって駆けていった。

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