ダナエの神話〜魔性の星〜 第五十三話 魔性の星(5)

  • 2015.06.12 Friday
  • 13:18
JUGEMテーマ:自作小説
大魔王ルシファー。元の名はルシフェル。
かつては全ての天使の頂点に立ち、神に最も近い位置に君臨する偉大な天使だった。
その姿はとても美しく、明の明星と呼ばれるほどに、暗い中でも輝きを失わない、まさに光り輝く神の使いだった。
しかし人間が誕生するのと同時に、ルシフェルは神に背くようになった。
地球という楽園のような星は、まさに神の国と呼ぶに相応しい場所である。しかし神は天使に地球を与えなかった。代わりに人間に地球を与えたのである。
敬愛する神は、天使に注いでいた愛情を、人間に向けるようになった。
ルシフェルはそのことが許せなかった。
天使こそが、そして自分こそが、もっとも神の寵愛を受けるに相応しい存在だと思っていたのに、生まれたばかりの人間にそれを奪われるなど、断じて許せなかった。
だからルシフェルは神に背いた。
大勢の天使を引きつれて神の国を離れ、地獄と呼ばれる醜い場所を住処とした。
そこにはサタンいう強大な悪魔がいて、地獄の主として君臨していた。
ルシフェルはサタンと手を組み、神に弓引くことを決意をした。
そして大勢の仲間を引き連れて、天使の軍団と戦ったのだ。
しかし天使の軍団は、ルシフェルの軍勢よりも数が多く、また神の加護を受けていた。
いかにルシフェルといえども、戦いは劣勢を強いられた。
この時、天使の軍団の中で、一際大きな活躍をした者たちがいた。
ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルだ。
四人の天使は下級の兵士であるにも関わらず、他のどの天使よりもよく戦い、そして戦果を収めた。
ルシフェル率いる軍団は次々に討ち取られ、地獄へ叩き落とされて行く。
そしてとうとうルシフェルも敗北を喫し、地獄へ落ちてしまった。
以来、ルシフェルは消えることのない怒りと憎しみを抱くようになり、サタンと並ぶ地獄の君主となった。
やがてはサタンよりも上の地位とされ、真の地獄の支配者となってしまう。
ルシフェルは天使であることをやめ、そして天使であることの輝きを放棄した。
その引き換えとして、偉大なる悪魔として力を得ることを誓った。
名前もルシファーと改め、自らを大魔王と呼び、地獄の支配者は自分であると声高に叫んだ。
仲間の天使も悪魔に身を落とすことに賛成し、ベルゼブブやサマエルといった強大な悪魔が誕生した。
サタンは支配ということに興味がないので、ルシファーこそが地獄の君主であると認めた。
サタンは、この世がただ混沌に満たされればいいと思っているので、誰が君主であろうと問題はなかったのだ。
そしてルシファーならば、必ずや天使の軍団を打ち負かし、悪魔のはびこる世界を創ってくれると信じていた。
またベルゼブブやサマエルも、ルシファーがそういう世界を創ってくれることを期待していた。
地獄において、ルシファーの力は日に日に増していった。
異なる神話、異なる宗教の悪魔も支配下に置き、自分こそが全ての悪魔の頂点に立つ者だと認めさせたのだ。
悪に染まったルシファーは、もはや他のどの悪魔も敵わない存在となっていた。
唯一並ぶ者がいるとすれば、それはサタンだけである。
しかしそのサタンでさえ、決してルシファーには逆らおうとしない。
力は同等でも、多くの悪魔がルシファーの方を慕っているからだ。
もしルシファーに敵対すれば、サタンですらその身が危うくなる。
それほどまでに、ルシファーは恐ろしい存在となっていた。
そしてあまりにその力が増していくので、天使はそれを見過ごすことが出来なくなった。
このまま力を増して行けば、また神に弓引くようになる。
そうなれば大きな戦いが勃発し、今度は天使の軍団が負けてしまうかもしれない。
それを危惧したミカエルは、メタトロンに相談した。
メタトロンは天使でありながら、ミカエルたちとは異なる、非常に特殊な存在であった。
メタトロンは神の分身、そして神の化身とも呼ばれるほど偉大な天使であり、常に神の傍に身を置いている。
かつてルシファーが戦いを挑んで来た時も、神の傍を離れようとはしなかった。
もしミカエル達が負けた時、メタトロンこそが神を護る役目を備えているからだ。
ミカエルから相談を受けたメタトロンは、ルシファーを討つことを決意した。
しかしいくら倒したところで、名のある悪魔はいくらでも蘇って来る。
だから決して外へ抜け出すことの出来ない、空想の牢獄へ閉じ込めることにした。
メタトロンはミカエルに、神話や宗教の枠を超えて、多くの仲間を集めるように言った。
多神教の神々や、仏や菩薩。それに明王や神獣といった強力な仲間が集まり、ルシファー率いる悪魔の軍団を、牢獄へ叩き落とそうとしたのである。
そして熾烈を極める激闘の末、ようやく牢獄に閉じ込めることが出来た。
ルシファーを筆頭として、サタン、ベルゼブブ、それにハスターとヘカトンケイル。
この五体の悪魔を牢獄に閉じ込めた。
ルシファーとサタン、それにベルゼブブは、空想と現実、そのどちらの世界にも置いておけないほど危険な存在である為に。
そしてハスターは残忍で凶悪過ぎる為、ヘカトンケイルはその圧倒的なパワーを恐れられて、牢獄に閉じ込められた。
名だたる悪魔は地獄から消え、残された悪魔たちは支配者を失って勢いを削がれた。
地獄に集まっていた多くの悪魔たちは、それぞれの神話や宗教の世界に戻り、ようやく元の形に落ち着いた。
しかし・・・・ほんの些細な出来事で、ルシファーたちは表に出て来てしまった。
スサノオのミスで牢獄に穴が空き、再び地上へと現れたのだ。
ルシファーたちは、以前にも増して強くなっていた。
そしてこの地球のほとんどの神々を討ち取り、自分たちが閉じ込められていた牢獄へと落とした。
再び陽の当たる場所に出て来たルシファーは、今度こそこの星を我が者にしようと企んだ。
この地球にはびこる人類、そして天使や神々を許せなかったからだ。
ルシファーは今、喜びに満ちている。
ようやく牢獄から抜け出し、ようやくこの星を手に入れ、ようやく自分たちの世界を創ることが出来るかもしれない。
だからそれを邪魔する者は、相手が誰であろうと許さなかった。
いずれは邪神クイン・ダガダも滅ぼし、この星、そしてこの銀河全体の支配者になろうと考えていた。
その為には、まず目の前でうるさく飛び回るハエを、叩き落とす必要があった。
悪魔の城を建てる日本の近くで、毬藻の兵器と天使が戦っている。
それを感じ取ったルシファーは、一人で海を超えて来た。
いかに今の自分が強く、恐ろしく、抗うことの出来ない存在であるか、天使たちにしっかりと分からせる必要がある。
遥か前方には二人の天使がいて、それが誰であるかは一目で分かった。
ガブリエルとラファエル。かつて屈辱を味あわせてくれた、憎むべき天使の二人である。
その二人は自らの命を糧とし、光り輝く大きな力を手にしていた。
そして翼を広げ、こちらに向かって来たのである。
ルシファーは飛ぶのをやめ、腕を組んでその場に浮かぶ。
いったいどのようにして積年の怨みを晴らしてやるべきか?
瞬殺するもよし、徹底的に痛ぶるのもよし。しかし・・・・それでは物足りない。
だから天使にとって、最も屈辱的なやり方で、身も心も弄んでやろうと決めた。
地獄の君主は不敵な笑みをたたえ、十二枚の翼を広げて、迫り来る二人の天使を睨んでいた。


            *


ガブリエルとラファエルの視線の先に、ルシファーが浮かんでいる。
メタトロンよりも大きな身体に、艶やかな黒いボディ。背中には12枚の翼を持ち、頭には長い角が二本生えている。
そして赤い髪をオールバックに撫でつけ、とても冷酷で険しい顔をしていた。
敵は最強の悪魔、大魔王ルシファー。しかしそれでも二人の天使は怯まない。
最後の戦いを挑むため、命を懸けたた大技に出た。
自身の命を糧とすることで、自らを光に変え、何十倍ものパワーを得たのだ。
身体は眩く輝き、顔は目だけとなって、鬼のように釣り上がる。
この技は数分も経てば命を落としてしまうが、それでも桁外れの力が得られる。
サマエルやテュポーンと一騎打ちをしても、決して引けを取らないほどの強さになれる。
しかしそんな命懸けの技をもってしても、ルシファーに勝てるとは思っていなかった。
ほんの・・・・ほんの少しの傷でいいから、ルシファーに負わせたい。
天使として正義を遂行する為に、ほんの一矢でも報いたかったのだ。
もはや勝つ負けるの問題ではなく、これは二人にとって、天使の在り方を問われる戦いだった。
二人は一瞬で距離を詰め、ルシファーを挟み撃ちにする。
ガブリエルの翼から、サファイアのような綺麗な水が放たれ、そしてラファエルの翼から、エメラルドのような緑の風が放たれる。
水は風に巻き上げられ、蝶の麟粉のようにルシファーに降り注ぐ。
この技は敵の力を奪い取り、弱らせていくものだった。
ルシファーの身体から黒い煙が上がり、どんどん力が奪われて行く。
辺りは黒一色に覆われ、火山が噴火したようにもうもうと煙が立ち込めた。
並の悪魔なら、この技だけで塵一つ残さず消滅してしまう。
あのベルゼブブでさえも、その力の大半は失ってしまうだろう。
しかしルシファーは平気な顔で立っていた。
恐ろしいほどの力が奪われていくというのに、まったくビクともしない。
そしてとうとう風と水の方が、黒い煙の邪気に負けて、消えてしまった。
ルシファーは鼻息一つで煙を吹き飛ばし、「何かしたか?」と笑ってみせる。
「あれは敵を弱らせる技だろう?まだまだ私は衰えていないぞ。」
そう言って手を広げ、また笑ってみせた。
ルシファーの身に宿るパワーは並外れていて、ベルゼブブを遥かに上回る。
いくら力を奪われようとも、底知れぬパワーのせいでまったくダメージにならない。
「どうした?その姿では長くはもたんのだろう?早く仕掛けてきたらどうだ?」
そう言って挑発し、余裕の笑みを見せた。
ガブリエルとラファエルは、顔を見合わせて頷く。
ルシファー相手に小細工は意味を成さず、ただ時間が過ぎていくばかりである。
ならば次の攻撃を最後として、華々しく散ろうと覚悟した。
二人の天使はルシファーの頭上の舞い上がり、螺旋状に交差する。
そして螺旋を描いたまま、二人は青と緑の光となって、一筋の弾丸のように天へ昇った。
ルシファーはそんな二人を見上げ、腕を組んだまま涼しい顔をしていた。
それはあの二人が何をどうしようとも、決して倒れない自信があったからだ。
いくら力を振り絞ったところで、毛ほどの傷も付けられない。
それは過信ではなく、両者の間にある圧倒的な力の差からくる自信だった。
ルシファーは螺旋状に絡み合う二人を見つめ、「早く来い」と言った。
そして次の瞬間、絡み合う二人の光が、クルリと向きを変えてルシファーに迫った。
勝つのは無理でも、傷くらいは残してみせる。
混ざり合う二人の光は、まるでミシン針のように細くなり、ルシファーの眉間を狙った。
「最後の捨て身技か。いいだろう、防御はしない。私に傷を付けられるかどうか、試してみるがいい。」
そう言って螺旋の光を睨み、二人の最後の攻撃を受け止めようとした。
針のように細くなった二人の光が、ルシファーの目前に迫る。
そしてその眉間を貫こうとした時、まるで影のように消えてしまった。
ルシファーは「幻影か」と呟き、それと同時に股下に衝撃が走るのを感じた。
それは熱した糸を突き刺されるような衝撃で、ゆっくりと下を向いてみた。
すると股の間に細い光がぶつかっていて、「なるほど」と唸った。
「上からの攻撃は虚をつく為のもの。眉間よりも弱い股を狙ったわけか。」
二人の光は螺旋状に回転しながら、ルシファーに傷を負わせようと股を突き上げてくる。
しかしルシファーはビクともしない。約束通り防御もしない。
激しい痛みを感じながらも、涼しい顔のまま腕を組んでいた。
ルシファーにとって、痛みは苦痛ではない。
並の悪魔なら発狂するような痛みでさえ、この魔王は平気な顔で耐えてみせる。
なぜなら、胸の中に抱く天使への怒りの方が、痛みなどよりもよっぽど強く己を焼いていたからだ。
憎悪、憤怒、屈辱、怨恨、そして復讐・・・・。
いつ、どんな時でも、それらの感情が身を焦がすほど激しく滾っている。
それは痛みとなって全身を襲い、神々や天使に対する消えない炎となって燃え続けている。
そして・・・・この宇宙の中心に座る、大きな神への背徳の表れだった。
それに比べたら、この身に走る痛みなど屁でもない。蚊ほどの痒みもなく、赤子に叩かれた痛みにすらならない。
ゆえに、ルシファーは苦痛を恐れない。
ガブリエルとラファエルの渾身の一撃を受けても、平然として立っていられる。
股の下に走る痛みは、だんだんと弱くなっていく。
それは二人の天使の力が、終わりを迎えようとしている証拠だった。
時間と共に痛みは消え去り、そして針のような光も消えて行く。
ガブリエルとラファエルは元の姿に戻り、そして身体から輝きを失わせつつあった。
・・・ほんの少しの傷でいい。
そう思って挑んだ戦いも、あっけなく終わりを迎えた。
ルシファーには一ミリたりとも傷はついておらず、二人の力は遠く及ばなかった。
もう出来ることはない・・・・やることは全てやった・・・。
これ以上は無駄な抵抗に過ぎず、それはもう戦いとは呼べなかった。
二人の天使は力を使い果たし、元の姿に戻る。
口と鼻と耳が復活し、服と鎧も元に戻る。
そして武器を下ろし、凛とした表情でルシファーを見つめた。
「終わりだ・・・・もう僕たちには何もない・・・・・・。」
「もうじき・・・・ミカエルとウリエルの後を追うでしょう・・・。私たちの魂は、再び神の御許に還される・・・。そして次なる復活の時を待ち、必ずや悪魔を討ちましょう・・・・。」
全てを振り絞った戦いは終わり、二人の命は消えて行く。身体から力が抜け、空を飛ぶことも出来なくなって、ゆっくりと海へと落ちていく。
するとルシファーが二人を抱きとめ、何も言わずに微笑んだ。
その笑顔を見たガブリエルとラファエルは、背筋に冷たいものを感じた。
このままでは死ぬよりも辛い目に遭わされる。・・・・いや、辛い目というより、敗北するよりも大きな屈辱を味わうことになる。
直観的にそう感じて、お互いに武器を向けて、それぞれの命を絶とうとした。
しかしルシファーはそれを許さない。両手で二人を握りしめ、深く爪を食い込ませる。
そして爪の先からゼリー状の物質を注入し、二人の身体に染み込ませた。
その途端、二人の身体がビクンとのけ反る。
目を見開いて口を開け、ガクガクと震えながら涙を流した。
痛いのか?苦しいのか?それともその両方なのか?
この世にある、ありとあらゆる負の感情に満たされ、ありとあらゆる痛みに苛まれ、正気が歪められていく。
真っ白な翼は腐れ落ち、黒い蝙蝠のような羽が生えてくる。
肌は灰色に沈んでいき、目は充血したように赤く染まる。
そして声にならない声で悲鳴を上げ、ラファエルは「やめろおおおおおおお!!」と叫んだ。
「殺せえええええ!!悪魔に堕ちるくらいなら死んだ方がマシだ!今すぐ殺せえええええええ!!」
断末魔の叫びを上げ、この世の終わりを見るような目で涙を流す。
その涙はやがて、血の色に変わっていった。
瞳から溢れる赤い血が、夕立の滴のように肌を伝っていく。
「うううごおおおおおおおおお!!!」
ラファエルは天に向かって手を伸ばし、そこに神の姿を見る。
天使の正義は神の為にあり、他の誰の為でもない。
その正義の為に生き、その正義を遂行することこそが、天使を天使たらしめるものだった。
それが今、悪魔の手によって汚されようとしている。
天使にとって最も屈辱的なこと。それは神に背く、背徳の意志を植え付けられることである。
ラファエルは血の涙を流しながら、耐えがたい苦痛、そして耐えがたい辱しめの中で、ただ悲鳴を上げていた。
そしてガブリエルもまた、その耐えがたい屈辱を受けていた。
ラファエルと同じように血の涙を流し、絶望しきったように表情を失っている。
そして「神よ・・・・」と一言呟くと、血の涙さえも枯れてしまった。
ラファエルの叫び、ガブリエルの絶望。
それは天使が最も忌み嫌う、邪悪な者へと堕ちた瞬間だった。
・・・・・悪魔・・・・・。
二人の輝ける天使は、その光を完全に失い、醜い悪魔へと姿を変えた。
灰色の肌に蝙蝠の翼。黒く染まった鎧と服に、血のように赤い瞳。
そして・・・・その心からは、神に捧げる正義の意思は消えていた。
代わりにルシファーに忠誠を誓う意思を植え付けられ、神に弓引く背徳の信念を宿していた。
二人が完全に悪魔に落ちたことを確認すると、ルシファーはそっと手を離した。
「・・・・・何か言うことは?」
そう尋ねると、二人は何も言わずに跪いた。
そして武器を差し出し、自分の命を貴方に委ねるという意志を示した。
「それでいい。お前たちを新たな悪魔として受け入れよう。」
ルシファーは二人の頭上に手をかざし、ニヤリと笑う。
ガブリエルもラファエルも、もはや正義の心はない。あるのはルシファーへの忠誠、そして全ての神と天使を打倒するという闘争心だけだった。
「悪魔もなかなか悪くなかろう?」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
二人は何も答えず、ただ跪く。ルシファーは「ただし、もう二度と天使には戻れぬがな」と笑った。
「さて、新たな仲間を歓迎して、初陣を飾らせてやろう。」
そう言って前方を指差し、「あそこにかつての仲間がいるな」と睨んだ。
「あの巨大な黒い影。月の女神ダフネの化身だ。悪魔に生まれ変わった初陣として、まずはかつての仲間を手にかけよ。
そしてダフネの首をここまで持って来るのだ。その時、お前たちを本物の悪魔と認めよう。」
ルシファーに命令されて、二人は影の怪物を振り返る。そして武器を構えて、黒い羽を広げた。
敵はあの黒い影。かつての仲間であるダフネ。
二人の悪魔は勢いよく飛び出し、一瞬で影の怪物に迫った。
そしてガブリエルはレーザーを、ラファエルは矢を放って、影の怪物を殺そうとした。
二人の攻撃を受けて、影の怪物は怯む。
悪魔となったガブリエルとラファエルは、その力を大きく増していたからだ。
すると影の怪物の中からダフネが現れて、「やめて!」と叫んだ。
「まだあの龍が生きてるのよ!アイツ、なぜか分からないけどちっとも死なない!今この影をやられたら、また表に出て来て・・・・・・、」
そう言いかけた時、ガブリエルのレーザーが目の前をかすめた。
ダフネは慌てて引っ込み、「なんてこと・・・・」と絶望した。
「あの二人が悪魔になっちゃうなんて・・・・ルシファーってとんでもない奴ね。」
このままでは殺されると思い、どうにか二人の悪魔から逃げようとする。
ミカエルの魂を宿したこの怪物なら、二人に勝つことは出来るかもしれない。
しかしそれでも、ダフネは逃げる方を選んだ。
ルシファーと戦って死ぬ覚悟はあっても、仲間を殺す覚悟はなかったのだ。
「私・・・・ダナエに散々偉そうなことを言っておきながら、土壇場のとこで腹を括れない・・・・。なんて情けないの!」
本当ならガブリエルとラファエルを倒して、少しでも敵を減らしておくのが上策である。
それは分かっているが、どうしてもあの二人を攻撃出来なかった。
「この影にはミカエルの魂が宿ってる。だったら・・・・やっぱりあの二人を倒すことは出来ない。天使を同志討ちさせるなんて・・・・・そんなことは・・・・、」
ダフネは影を操り、とにかく逃げていく。
そして海の中へ隠れようとした時、ラファエルの矢が影の怪物に突き刺さった。
すると黒い風が舞い上がり、動きを封じられてしまった。
そこへガブリエルのレーザーが乱射されて、影の怪物は穴だらけになってしまう。
「きゃああああああ!」
ダフネは影の怪物の中で揺られ、どんどん下の方へ落ちていく。
そして龍にぶつかって、「痛あ〜い・・・・」と頭を押さえた。
龍はすでに骨だけとなっているのに、まだ生きていた。
ダフネは「何なのよコイツは・・・・」と言いながら、龍の後ろに身を隠した。
ガブリエルのレーザーはしつこく襲いかかり、影の怪物を蜂の巣にしていく。
しかし龍の骨は硬く、とくに背骨は頑丈だった。
だからガブリエルのレーザーにも、ラファエルの風にもビクともしない。
ダフネは龍の背骨に隠れながら、「殺そうとした敵に守られるなんて、なんて皮肉なのかしら」と首を振った。
「このままじゃ、いずれ影は消滅する。その前にどうしかしないと・・・・。」
状況は絶望的であり、ここから起死回生を狙うのは難しい。
それならば、どうにかしてここを生き延びて、後でケンやエジプトの神々と合流しようと考えた。
「何か・・・・何か良い方法はないかしら?生き延びる為の方法が・・・・。」
爪を噛みながら、眉を寄せて考える。
その時、一際大きなレーザーが飛んで来て、影の怪物の上半身が吹き飛んだ。
「きゃああああ!」
ダフネは身を屈め、龍の骨の中に隠れる。
何本も並ぶ肋骨のおかげで、どうにか身を護ることは出来そうだった。
しかしこのままでは、いつやられてもおかしくない。
なぜなら影の怪物の上半身が吹き飛んだせいで、龍が丸見えになっていたからだ。
ダフネは「ああ、どうしよう!」と叫びながら、頭をワシャワシャ掻き毟る。
そしてふと気配を感じて、頭上を見上げた。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「ふ・・・・二人とも・・・・随分厳つくなったわね。イメチェンかしら?」
冗談で笑いかけても、二人の悪魔はニコリともしない。
そして龍の骨を持ち上げて、ダフネを引きずり出そうとした。
「ちょ・・・ちょっと待って!あなた達は天使でしょ!?だったらルシファーなんかに負けちゃダメ!あんな奴に洗脳されるなんて・・・・・って、いやあああああ!」
ダフネはラファエルに摘まれ、外へ引きずり出される。
そして目の前まで持ち上げられて、赤い瞳で睨まれた。
「・・・・・・・・・・・。」
悪魔となったラファエルは、冷酷な目でダフネを見つめる。
そして頭を摘まみ、首を引っこ抜こうとした。
「・・ああ・・・・・私もここまでか・・・・。」
ダフネは目を閉じ、胸の前に両手を握る。
するとその時、自分が何かを握っているのに気づいた。
手を開けて見てみると、そこには赤い鈴があった。
「何この鈴・・・・?いったいどこでこんな物を・・・・?」
鈴は血塗られたように赤く、見ているだけで不安になるほど不気味な気配を感じさせた。
「これ・・・・・もしかしてあの龍の持ち物かしら?」
そう呟いた時、首に激痛が走った。
《私の首を抜いて、ルシファーの所に持って行くつもりね。》
ダフネは目を閉じ、いよいよ死ぬのだと覚悟した。
今さら死ぬのは怖くないが、それよりも嫌な事がある。
それは自分の首が、悪魔の大将の供え物になることだった。
《それだけは絶対に嫌!何とかしないと・・・・。》
ダフネは死の縁で必死に考えた。そしてふとある事を思い出した。
《そうだ!この鈴って確か・・・・・。》
この鈴がいったい何であるか?ダフネはその事を思い出した。
そしてその瞬間に首が抜かれそうになり、もう迷っている暇はないと鈴を振った。
チリン・・・チリン・・・と、涼やかな音がこだまする。
その音はとても美しいが、それと同時にとても不気味な音色であった。
ラファエルもガブリエルも、鈴の音に一瞬動きを止める。
しかしすぐに我に返り、ダフネの首を引き抜こうとした・・・・・・・・その瞬間、ラファエルの腕が何者かに斬り落とされた。
そのおかげでダフネは命拾いをする。
そして「これが鈴の主・・・・」と、ラファエルの腕を斬り落とした者を見つめた。
それは赤い衣を纏い、大きな鎌を携えた死神だった。
三つ目の黒い馬に跨っていて、赤い衣の中から、白い髑髏を不気味に覗かせている。
「コイツがクトゥルーの言っていた死神ね・・・・。何をされても死なないって言う・・・・。」
赤い死神は、鈴の音を聞き付けてやって来た。
ダフネは「死神さん、ちょっと手を貸してほしいの」と声を掛ける。
「あなたは何をされても死なないんでしょう?だったらその二人をどうにか止めてほしいの。出来ればなるべく殺さない方向で・・・・・・、」
そう言いかけた時、ダフネの首に違和感が走った。
「何・・・・?」
首に手を当ててみようとするが、なぜか手が動かない。そしてグラリと景色が揺らいだ。
「な・・・なんで?どうして手が動かないの?・・・・ていうか、景色が逆さまに・・・・、」
ダフネの目に映る景色が、上下逆さまになっている。空が下に、海が上に。
しかもすごい勢いで海へと昇っていく。
いったい何事かと思っていると、視界の端にとんでもない物が映っていた。
・・・・・それは自分の身体だった・・・・・。しかも首が無い・・・・。
「・・・・ちょ・・・・っと・・・・。これ・・・・って・・・・。」
首の無い自分の身体を見つめながら、ダフネは海へ落ちていく
そしてそのまま海の中に突っ込み、少し遅れてから、首の無い身体も落ちてきた。
《・・・・わ・・・・私・・・・・首を・・・・落とされた・・・・のね・・・・。あの・・・・死神・・・に・・・・・、》
《・・・・・・・・・・・。》
《・・・・・・・・・。》
《・・・・・・。》
《・・・。》
ダフネは思い出していた。クトゥルーから聞かされた、赤い死神の話を。
赤い死神は、必ずしも味方をしてくれるわけじゃない。
時に暴走して、目に映る全ての命を狩る事もあると。
それを知っていながら、咄嗟にあの鈴を使った。ラファエルから逃れる為に、一か八かの賭けに打って出たのだ。
しかし結果は黒。死神は暴走していて、ダフネはあっさりと首を刎ねられてしまった。
《・・・・私・・・・ツキがないのね・・・・・。》
なんだか可笑しくなってきて、死ぬ間際だというのに笑ってしまう。
そして頭を落とされても、しばらくは生きているのだなと、なんだか新鮮な体験のように思っていた。
しかし死はすぐそこまで来ていて、視界がだんだんとぼやけていく。
まるで靄がかかったように、海の景色が歪んでいく。
するとまた海の中に何かが落ちてきた。
それは首を斬られた、二人の悪魔の身体だった。そして一瞬遅れて、頭が二つ落ちてきた。
・・・・・ガブリエル・・・・・ラファエル・・・・・・。
ダフネは切なく、そして泣きそうな声で呟く。
やがて視界が黒く染まり出し、完全に命が消えようとする。
そして最後に、また何かが降って来るのを見た。
それは五体がバラバラに引き裂かれた死神と、両断された三つ目の馬。
そしてグニャリとへし曲げられた、刃の欠けた鎌だった・・・・・。
ダフネは消えゆく意識の中で、大魔王の笑い声を聴いていた。

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