ダナエの神話〜魔性の星〜 第五十四話 魔性の星(6)

  • 2015.06.13 Saturday
  • 13:24
JUGEMテーマ:自作小説
月には大きな魔力が宿っている。
月の光は人間や獣を魅了し、妖しく狂わせていく。
そしてその光で、全てが暗闇に閉ざされるのを防いでいる。
狂気と安らぎ、興奮と平穏。相反する力を持つ月の光は、月に宿る魔力から来ている。
その魔力は月の中に閉ざされ、何人も持ち出すことは許されない。
ただし・・・・・月を治める者だけは例外として・・・・。
メタトロンは、月の魔力を求めてやって来た。
地球を悪魔から奪い返す為に、さらなる力を必要としていた。
大きなイソギンチャクの口を通り、その下に広がる月の深海へと降りてきた。
辺りは暗いブルー一色で、まるで月明かりが照らす夜のようであった。
海底は砂漠のようになだらかで、生き物は一匹もいない。
それはとても美しい光景だが、とても不気味な光景でもあった。
美しい場所なのに、心が寒くなるほど無機質な空気が漂っていて、長居したいと思える場所ではなかった。
「月にこのような場所があるとはな。本来ならば、ダフネやケン、それにアメルしか入れぬ場所なのだろう。それほどまでに、神聖な空気を感じる。」
そう言って海底を進み、遠くに立つ城を睨んだ。
「あれが海の城か?」
体内にいるダナエに尋ねると、「そうだよ」と答えた。
「あれが昔お父さんに連れて行ってもらったお城。懐かしいなあ。」
ダナエはメタトロンの目を通して、海底に建つ城を眺めていた。
その城は白い外壁に、赤い屋根瓦をしていた。
左右に二本の煙突があり、中央には時計のついた塔がそびえている。
そして赤い扉が一つだけあって、城の周りには色とりどりの海藻がなびいていた。
「美しい城だな。あそこに月の魔力を解く鍵があるのか?」
「う〜ん・・・それは分からないけど、でもヒントがあるならここしか思い浮かばない。あと竹の森と。」
「そうか。ではとにかく行ってみよう。」
メタトロンは翼を動かし、空を飛ぶように海を進んで行く。
そして城の前まで来ると、海底に降り立った。
辺りには黄色や赤、それに紫や緑色の海藻がなびいていて、まるでメタトロンたちを歓迎しているようだった。
「美しいが、今は景色に目を奪われている場合ではないな。」
そう言って足を進め、赤い扉の前に立った。
「ふむ。そう大きな扉ではないが、今の私なら入れるな。」
メタトロンはここへ降りて来るために、人間ほどの大きさに縮んでいた。
そして目の前の扉も、ちょうど人間に合わせて作ったような大きさだった。
「月で人間と同等の大きさの者といえば、ダフネとケン、それにアメルとダナエだけだ。やはりここは、月を治める者たちの聖地なのかもしれないな。」
そう呟きながら、鉄の取っ手を引いてみる。すると鍵はかかっておらず、ゆっくりと左右に開いていった。
メタトロンはそのまま中に入り、ふと後ろを振り返った。
「なんとも不思議な・・・。扉の前で水が止まっているではないか。」
扉を開けても、海水は城の中へ入らなかった。
まるで見えない壁があるかのように、扉の前でピタリと止まっている。
メタトロンはゆっくりと扉を閉めて、城の中を振り返った。
中は真っ暗で、ほとんど先が見えない。廊下は続いているようだが、この先にはいったい何があるのか?
「ダナエよ、先は暗いようだが、真っ直ぐ進んで問題ないのか?」
「うん。このまま歩けば、勝手にロウソクが灯るの。」
「ほう。そうなのか?」
そう言われて、メタトロンは少し歩いてみる。
すると壁のロウソクが灯り、ぼんやりと先が見えた。
一歩進むごとにロウソクが灯って、まるで先へ誘おうとしているかのようだった。
メタトロンの目を通してそれを見たコウは、「月にこんな場所があったなんてなあ・・・」と呟いた。
「まさか海の下に別の海があって、こんな城があるなんて思わなかった。きっとすごく重要な場所なんだろうな。」
「だろうね。よく分かんないけど。」
「それが月の王女の言葉かよ・・・。」
コウは呆れながら言い、「でも期待は持てそうだな」と頷いた。
「きっとここは秘密の場所なんだ。普通の妖精じゃ入ることの許されない場所さ。」
「そうなのかな?私はそうは思わないけど。」
「どうしてさ?だってダフネやケン、それにアメルしかこの場所は知らないんだぜ?だったら特別な場所ってことだろ?」
「その割には簡単に入れるじゃない。絶対に入ってほしくない場所なら、もっと入りづらい場所になってると思わない?」
「そりゃあお前・・・・・・アレだよ。なんか理由があるんだよ。」
「理由って何よ?」
「ええっと・・・・・なんかこう・・・・・大事なことさ、きっと。」
コウは咳払いをして、バツが悪そうに誤魔化した。
「あはは!コウが私に言い負かされた!」
「ば、バカ言うな!誰がお前なんかに負けるか!」
「でも今困ってたじゃない。ひょっとして、今は私の方が頭が良かったりして?」
「んなわけあるか!お前に脳ミソで負けるようになったら、サルと算数の勝負をしても勝てねえよ。」
「何よそれ!?私が算数も出来ないって言うつもり!!」
「じゃあ九九の八の段を言ってみろよ。逆さまからな。」
「さ・・・・逆さまから・・・・?」
ダナエは「ええっと〜・・・・」と呟き、「逆さまってことは大きい数字からでしょ?じゃあ・・・・・8×9だからあ・・・・・、」と計算を始めた。
すると博臣が「72、64、56、48、40、32、24、16、8だよ」と答えた。
「そうそう!それよ!今まさに私が答えようとしてたの。」
ダナエはパチパチと手を叩き、「ね?」と微笑んだ。
「なにが『ね?』だよ。どうせ一発目から間違ってたに決まってるよ。」
コウはニヤニヤ笑いながら、「やっぱりまだまだ鈍チンだな」と馬鹿にした。
「何よ、九九が逆さまから言えるくらいで。コウだって子守唄を覚えてなかったクセに。」
「それとこれとは関係ないだろ。」
「あるよ。記憶力だって頭の良さじゃない、ねえ?」
そう言って博臣に笑いかけると、沈んだ表情で黙り込んだ。
「どうしたの博臣?どこか調子でも悪いの?」
心配して尋ねると、博臣は「ミヅキはどうなったんだろうな・・・」と呟いた。
「アイツ・・・・月にいるはずなんだろ。なのにどこにもいない。それってもしかして・・・・天使や死神みたいにやられちゃって・・・・、」
「そんなことないわよ!ミヅキは月の中にいたんだから、絶対に大丈夫に決まってる。」
ダナエは博臣の肩に手を置き、「ミヅキはきっと無事だよ」と励ました。
しかし博臣は納得しない。ダナエとコウを睨み、「お前らはいいよな、こうして二人でいらるんだから」と言った。
「俺はミヅキのことが心配だよ・・・・。もし何かあったらって思うと・・・・・変な慰めとか余計に腹が立つ。」
「あ・・・その・・・・ごめんね・・・。博臣の気持ちも考えないで、私たちだけはしゃいじゃって。」
ダナエは申し訳なさそうに言い、「でも信じた方がいいよ」と続けた。
「大事な人なら、きっと無事だって信じた方がいい。何かあった時に傷つくかもしれないからって、良くない方に考えるよりは・・・・。」
「じゃあお前はそういうこと出来るのか?月へ来たのだって、仲間の妖精が心配だったからだろ?そうでなけりゃ、今頃ラシルに行ってはるはずだ。」
「・・・・・・そうね。不安になるなって言う方が無理よね。」
ダナエは黙り込み、それ以上何も言わなかった。
なぜなら大事な者を失う辛さは、自分もよく知っているからだ。
ケルトの神々や、クトゥルーやスクナヒコナ。それにラシルにいる時、コウを失ったこともある。
あの時の辛さは、心が引き裂かれるほどだった。
だからこれ以上何も言うことが出来なかった。
コウはそんな二人を見つめながら、ある事を考えていた。
《天使も死神も、みんなやられてた。メタトロンはクイン仕業って言ってたけど、だとしたらミヅキや幸也も無事じゃない可能性の方が高いよな。クインは月へ来た後、地球へ向かった。でもその後また月に戻って来ていたとしたら・・・・・これはかなりマズイんじゃ・・・・。》
コウは深く考え込む。メタトロンの話では、クインは地球へ行った後に、ラシルへ戻ったと言っていた。
しかし本当にラシルへ戻ったかどうか、それは誰にも分からない。
もしまた月へ来ていたとしたら、ここで鉢合わせする可能性もある。
《クインは欲深い奴だ。もしアイツが月の魔力を狙っているとしたら、またここへ戻って来てもおかしくない。だけどこの場所を知るのは、ダフネとケン、それにアメルとダナエだけだ。だとするなら、まだ月の魔力は奪われていないことになる。こりゃあさっさと月の魔力を頂かないと、最悪はクインに奪われちまう。》
コウは顔を上げ、メタトロンの目を通して外の光景を見つめた。
「おいダナエ。なんかまた扉があるぞ。メタトロンが立ち止まってる。」
そう言ってつつくと、「ああ・・・ごめん」と外の光景を睨んだ。
「・・・・そうそう、廊下の先にもう一つ扉があるのよ。でもここは鍵が掛ってたはずなのよね。」
「じゃあどうやって開けるんだ?」
「ええっと・・・・どうだったっけ?」
「おいおい、しっかりしてくれよ。もしかして、また歌を歌うとかじゃないよな?」
「歌じゃないわ。確か・・・・・お父さんはノックしてたと思う。コンコンってノックして、それから扉の向こうから声が聞こえて・・・・。」
「声?誰かいるってのか?」
「・・・・・・うん。そういえば誰かいたと思う・・・・。」
ダナエは昔を思い出し、深く記憶を探ってみる。じょじょに記憶が鮮明になり、「そういえば・・・・、」」と呟いた。
「・・・・そうよ、なんか変な人がいたのよ。真っ白で顔がなくて、妙な動きをしてるの・・・・。アレ、すごく怖かった。私は大泣きしたんだったわ。」
そう言ってから、ハッと何かに気づいた。
「そうよ!今までこの事を忘れてたのは、あの白い変な奴が原因なのよ。とにかくアレが怖かったから、思い出さないように記憶を封じ込めてたんだわ。」
「白くて顔のない、変な動きをする奴か?」
「そうそう、想像しただけでも不気味でしょ?」
「まあなあ・・・・。でも今はとにかくこの扉を開けないと。」
コウは扉を見つめ、「メタトロン、ノックしてみるんだってさ」と教えた。
「ああ、聞こえている。」
そう言ってコンコンとノックをしてみると、しばらくしてから声が返って来た。
「%#&’$#&(?○△%’$’」
扉の向こうから返ってきたのは、意味不明な言葉だった。しかもエコーが掛っていて、余計に聞きとりづらい。
「なんだ今の・・・・?どこの言葉だよ?」
コウは顔をしかめ、「博臣は分かる?」と尋ねた。
「分かるわけないだろ。なんかゴニョゴニョとしか聞こえなかったよ。」
「俺もだよ。ダナエは?」
「・・・・・・・・・・。」
「だんまりか。じゃあ分からないんだな。」
そう言って外を見つめ、「メタトロンは?」と尋ねた。
「いや、私にも分からない。あのような言語は聞いたことがない。」
「そっかあ・・・・。じゃあきっとアレだな。この奥にいる奴は、クトゥルーみたいに遠い宇宙から来た奴なのかも。・・・・アレ?でもケンはこの扉を開けたんだろ?ということは、アイツはこの言葉が分かるってことだ。なんでだろう?俺たちが知らなくて、ケンが知ってる言葉っていったい・・・・。」
コウは腕を組み、顔をしかめて困った。そして「もう一回ノックしてくれない?」と頼む。
メタトロンは再びノックしようとしたが、「もうノックしなくていいわ・・・」とダナエが言った。
「なんでだよ?もしかしたら、上手く聞き取れなかっただけかもしれないぞ?だったらもう一回ノックした方が・・・・、」
「ううん、そうじゃないの。私には・・・・・さっきの言葉が聞き取れたから・・・・。」
「へ?今のわけ分かんない言葉をか・・・・・?」
コウは驚きながら尋ねる。ダナエは何も答えず、メタトロンに話しかけた。
「ねえメタトロン。私を外へ出してくれない?」
「む?それは構わぬが・・・・・。」
「きっとここには敵はいないわ。ルシファーもクインもいない。」
「確かにな。ここを知るのは、月の限られた者たちだけだ。ならばここへ入りようがない。」
「違う・・・・そうじゃないの。そうじゃなくて・・・・・、」
ダナエは言葉に詰まり、「とにかく私を出して」と頼んだ。
「・・・・何か訳がありそうだな。いいだろう。」
メタトロンは額の宝玉を光らせ、ダナエを外に出した。
「ダナエよ、あの意味不明な言葉を聞き取れると言ったな。いったい何と言っていたのだ?」
「うん・・・・。あれはね、『愛する者が無き者、ここを通さず』って言ってたの。」
「愛する者が無き者・・・・・?いったいどういうことだ?」
「そのまんまの意味だと思う。この扉の向こうに行くには、愛する者がいないとダメですよって。そして・・・・あの言葉は私に語りかけてた。」
「お前に?馬鹿な。お前は先ほどまで私の中にいたのだぞ。ならば扉の向こうから問いかけてきた者は、それを見抜いていたというのか?」
「多分ね。・・・・ていうか、きっとこのお城って、私がいなかったら入ることが出来なかったんじゃないかって思うの。」
「それはそうかもしれぬな。ここは月の者にとって重要な場所に間違いない。部外者が立ち入るのは難しいだろう。」
「そうだけど・・・・でも月の住人でも、一部の者しか入れないわ。さっきはそう思わなかったけど、でも今なら分かる。ここには私とダフネ、それにお父さんとお母さんしか入れない。そして・・・・この先は、愛する者がいないと通してもらえないのよ。」
ダナエは扉に触れて、じっと目を閉じた。
石造りの重々しい扉は、ひんやりと冷たさが伝わって来る。
そこには何の暖かさもなく、そして何の柔らかさもない。
石で出来ているのだから当然だが、しかし幼い頃に来た時はそうではなかった。
ケンと一緒にここへ来た時、やはり最初は石造りの扉だった。
しかし扉の向こうの声に答えると、石は途端に木に変わったのである。
触れるだけで、そして見ているだけで暖かくなるような、美しい木目調の扉に・・・・。
あの時、ケンは扉の向こうの声にこう答えていた。
『俺にはアメルという妻がおる。一番の愛する者や。』
そう答えた途端、石の扉は木の扉に変わったのだ。そして・・・・鍵が開いて、向こう側へ行くことが出来た。
ダナエは思い出す。この扉を開ける方法を。そして、この扉の先に何があったのかを。
「・・・・ダメだわ、私じゃここを開けられない・・・・。」
「なぜだ?あの言葉が分かるなら、ここを開けてくれと頼めばよかろう。」
「無理よ。愛する者がいないと、ここを開けてはもらえない。」
「それならお前にもいるはずだ。ダフネや両親、それに多くの仲間。お前は皆のことを愛しているのだろう?」
「違うの。そういう愛じゃなくて・・・・・その・・・・・、」
「ああ、異性の愛ということか?」
ダナエは無言で、コクリと頷いた。
「お父さんにはお母さんがいる。だからここを開けてもらえた。でも私にはまだ・・・・・そういう人はいないわ。」
「なるほど・・・。お前はまだ子供だ。それは仕方なかろう。」
メタトロンは扉を睨み、殺気を漂わせた。
「ダナエよ、悪いがこの扉を破壊させてもらう。」
「ええ!?壊しちゃうの?」
「今は非常事態だ。地球では多くの仲間が戦っていて、私も早く駆け付けねばならん。月の魔力を宿してな。」
メタトロンはそう言って、脇に拳を構える。そして握った拳に光を集め、扉を破壊しようとした。
ダナエは「あ!ちょっと・・・、」止めようとしたが、すぐに手を引っ込めた。
なぜなら、自分の心と向き合うのが怖かったからだ。
今のダナエには、異性として愛する者がいる。
ダナエはしばらく前から気づいていた。コウに対する自分の想いに。
今、コウに対して抱えている想いは、家族愛や友情ではない。
それ以外の強い想いが、心に根を張るように芽生えていた。
しかしその想いに目を向けるのが怖かった。もし・・・・もしもコウに拒絶されたら、とてもではないが平気でいられる自信がなかった。
仮に自分の想いを受け止めてくれたとしても、以前とは違った関係になってしまうんじゃないか?
今までのように、お互いに気兼ねなく笑い合ったり、喧嘩したり出来るだろうか?
そして・・・・コウはきっと、アリアンロッドのことが好きなんじゃないだろうか?
異性として、私が入る隙間なんてないんじゃないだろうか?
そんな後ろ向きな感情ばかりが首をもたげ、どうしても自分の心と向き合うことが出来なかった。
だからメタトロンが扉を破壊しようとするのを、黙って見ていた。
なぜならこの先に進むには、コウの事が好きだと言わなければならないから。
そうやってこの扉を潜ってしまったら最後、二人は必ず結ばれなければならないと分かっていたから。
・・・・・ここは月を治める者の、契約の場所である・・・・・。
この奥には顔の無い真っ白な人間がいて、不気味な踊りをしている。
それがいったい誰なのかは分からないが、ケンはその者に向かってこう言っていた。
『この子は俺の娘や。いつかこの月を治めるんや。大人になったら、最愛の者と一緒にここへ訪れるやろ。その時、この子を祝福したってくれ。最愛の者と、ずっとこの月で幸せに暮らせるように。かつて俺とアメルが、ここで永遠の愛を誓った時のように・・・・・。その時、この子は立派に月を治めるやろ。俺に変わって、立派に・・・・・。』
封じ込めていた記憶が蘇り、ダナエはそのことを思い出す。
この扉の奥へ進むということは、自分こそが月を治める者になるということである。
そして最愛の者と、一生添い遂げる約束を交わす場所である。
だからダナエは、どうしてもこの扉を開けることが出来ない。
今はまだ、月を治める覚悟などないし、コウと一緒に宇宙を旅していたい。
だから今はまだ、この扉を潜ることは出来ない。
ダナエは黙って見ていた。メタトロンが扉を破壊しようとするのを。
「荒っぽいやり方だが、この際は仕方ない。」
メタトロンはそう言って、「扉の向こうにいる者よ!怪我をしたくなければ離れていろ!」と叫んだ。
「むうん!リュケイオン光弾!!」
拳に溜まった光が、螺旋状の光弾となって撃ち出される。
石の扉は粉々に吹き飛び、辺りに瓦礫が散乱した。
すると壊れた扉の向こうから、「いやあ!」と人間の声が聞こえた。
「今の声は・・・・・、」
聞き覚えのあるその声に、ダナエは眉をしかめる。
すると博臣が、「ミヅキだ!今のアイツの声だよ!」と叫んだ。
「メタトロン!早く中に入ってくれ!ここにミヅキがいる!」
「ああ、私も聞いた。」
メタトロンは頷き、扉の奥へと入っていく。
そこは扇形の大きな部屋になっていて、中央に太い柱がそびえていた。
その柱は天井を突き抜けて、外まで伸びているようだった。
そしてその柱を囲うように、小さな月の模型が置かれている。
数は全部で六つ。そのうちの一つは黄色く染まっていて、他の五つは薄い青色をしていた。
メタトロンは部屋の中を見渡し、「誰もおらんぞ」と言った。
「確かにミヅキの声が聞こえたのだが、誰もいない。それにダナエの言う、真っ白で顔のない者とやらも・・・・。」
メタトロンは部屋の中央まで歩き、巨大な柱を見上げた。
「これは・・・・時計台だな。城の上に伸びていた物だ。」
柱は天井を突き破り、遥か先まで伸びている。
「なぜ時計台などがあるのか分からぬが、もっと分からないのはこの月の模型だ。全部で六つあるようだが、そのうちの一つは黄色く染まっている。残りは月の光のように青白い。いったい何の意味があるのか・・・・・。」
そう言って、扉の前に佇むダナエを振り返った。
「ダナエよ、この月の模型は何なのだ?どうして一つだけ色が違う?」
メタトロンは、月の模型に興味を引かれていた。
なぜならこの模型からは魔力が漏れていて、しかも黄色く染まった模型の魔力は、他のモノよりも大きい。
もしかしたら月の魔力に関係しているのではと思い、もう一度「ダナエよ」と呼びかけた。
「この模型は何だ?お前なら何か知っているはずであろう?」
そう尋ねると、ダナエはゆっくりと歩いて来た。
そして黄色く染まる月に触れ、「ここを見て」と指差した。
「よく見ると、ここにお父さんとお母さんの名前が彫ってあるでしょ?」
「む?これは・・・・月の言葉か?私には読めんな。」
そう答えると、「確かに彫ってあるな」とコウが言った。
「妖精王ケン、妖精妃アメル。二人は永遠の愛をここに誓い、月の加護を受ける。そして平和に月を治めるだろう。そう書いてあるぜ。」
「そうか。ではこの模型は、月の統治者の名前を刻む物なのだな。しかし・・・・妙だ。なぜかダフネの名前がない。」
不思議に思って呟くと、「だってこれは・・・・・、」とダナエが口を開いた。
「これはダフネが造ったものだから。」
「ダフネが?」
「うん。お父さんとお母さんの結婚式を取り仕切ったのは、ダフネなの。そして永遠の愛の約束として、月の模型に名前を刻んだ。
そうすることで、二人は月の加護を受けられるから。大きな魔力を宿して、月を平和に治める為に。」
「ふうむ・・・・ではこれは、月の統治の契約のようなものか。ケンとアメルは、妖精にしては力が強すぎる。あれは月の魔力によって、加護を受けていたからだな?」
「きっとね。私がお父さんから聞いたのは、月を治める為に、月の加護を受けて強くなるってことだけだから。それで、もし永遠の愛の誓いを破ったら、月の加護は消えてなくなる。その時・・・・新しく月を治める者を決めなきゃいけないんだって。そうしないと、月の世界の平和は保てない。月の魔力が無ければ、もし外から悪い奴がやって来ても、追い払うことは出来ないから。」
「なるほど・・・・。ダフネはこのような形で、月の魔力を引き出していたわけか。永遠の愛という誓約、そして月を外敵から守るという誓約。そういう誓約を経ることによって、月からの加護を得ようとした。」
「ダフネは月の女神だから、そういうことも出来たんだろうね。でも・・・他にも魔力を引き出す方法はあるのかもしれない。」
「それは私も知っている。人間を利用することで、月の魔力を得られるのだ。だがどういう方法で行うのかは分からない。分からないが・・・・これだけは言える。人間を利用して魔力を得るやり方は、大きなリスクを伴うのだ。」
そう言って月の模型に触れ、ケンとアメルの名前をなぞった。
「だからこそダフネは、誓約を設けることでリスクを押さえたのだ。永遠の愛の誓約、月の平和を守る誓約。そういう誓約の元ならば、個人が月の魔力を得る事は不可能であるし、悪用した場合も月の魔力は消えて無くなる。しかしリスクを押さえられる反面、そこまで大きな魔力は得られないはずだ。あくまで月の平和を維持する、必要最低限の力を引き出せるだけだろう。」
メタトロンはそう言って、険しい顔で腕を組んだ。
「人間を利用して魔力を引き出す場合、もし失敗したら月が塵となって消える。そして月にいた者は全て妖精となり、二度と元の姿に戻ることは出来ない。神も天使も、そして悪魔も人間も、全て妖精になってしまうのだ。それを望む者もいるやもしれぬが、私は困る。もし天使でなくなってしまったら、如何にして悪魔に対抗するのか?如何にして神に仕えるのか?そして・・・・私は天使であることに誇りを持っている。妖精になることは望まない。」
険しい目でそう言って、「それでも私は月の魔力を求める。悪魔から地球を奪い返す為に」と拳を握った。
「ダナエよ、知っていることがあるなら、包み隠さず教えてほしい。」
強い口調でそう言われて、ダナエは「え?」と顔を上げた。
「お前は何か隠しているのだろう?あの扉の前に来てから、妙に様子がおかしい。」
「そ・・・・そんなことないよ・・・。」
「本当か?私にはそうは思えぬがな。いつものお前は、もっと元気があるではないか。それが今では、飼い主に叱られた犬のような顔をしている。」
「例えが分かんないよ。私は犬じゃないし・・・。」
「覇気がないと言っているのだ。お前は月が心配でここへ来たのだろう。ルシファーたちがいるかもしれないと思いながら、それでもやって来た。ならばもっと覇気のある顔をしているはずだ。」
「それは・・・・ルシファーやサタンがここにはいないって分かって、安心したから・・・・。」
「違うな。お前は何かを隠しているのだ。そして・・・・何かを迷っている。自分の胸のうちに、強い葛藤を圧し殺している。」
そう言われて、ダナエはギョッとして目を逸らした。
しかしすぐにメタトロンを睨み返し、「そんなことないわ」と言った。
「私は何も迷ってないし、隠してなんかいない。」
「ダナエよ、私の目は節穴ではないぞ。子供の吐く嘘など、この目がすぐに見抜いてしまう。」
そういって顔を近づけ、射抜くような視線で見つめた。
ダナエはその視線に圧倒され、また目を逸らす。メタトロンは屁理屈で誤魔化せるような相手ではないので、何も言わすに黙っていようと決めた。
「・・・・・・・・・・。」
「ふふふ・・・強情だな。」
メタトロンは小さく笑い、コウを身体の外へ出した。
「コウよ、ダナエを説得してくれ。」
「ええ!?俺が?」
「お前しかおるまい。今は非常事態なのだ、なるべく早く頼むぞ。」
そう言ってコウの肩を叩き、月の模型を興味深そうにいじっていた。
「なんだよ急に・・・・。アンタ面倒くさいことはけっこう人任せなんだな。」
メタトロンの背中に嫌味を言いながら、ダナエを振り返る。
「ダナエ、どうした?何か不安に思ってることでもあるのか?」
「別に・・・・そんなのないよ・・・。」
「あるんだな。じゃあ俺に教えてくれよ。早く月の魔力を手に入れないと、最悪は敵に奪われるかもしれないんだ。ミヅキや幸也だって捜さなくちゃいけないし。」
「・・・・・・・・・・・。」
「ダナエ。黙ってないで、何とか言え・・・・、」
コウはイライラしながら尋ねる。するとダナエは背中を向け、壊れた扉の向こうへ引き返した。
「おいコラ!どこ行くんだよ!?」
「・・・・・・・・。」
ダナエは何も答えず、扉の向こうへ走っていく。
コウは「待てって!」と追いかけ、ロウソクの灯る廊下を走って行く。そしてダナエの腕を掴んだ。
「なんで逃げるんだよ!?」
「うるさい!」
「はあ?なんでキレてんだよ?」
「キレてなんかないわよ!」
「キレてるじゃねえか。いいからさっきの部屋に戻るぞ。」
そう言って腕を引っ張ると、ダナエは「離してよ!」と振り払った。
「私は戻らない!」
「はあ?なんだよお前・・・・。さっきから意味分かんねえぞ?」
「・・・・ラシルに行こう。」
「へ?ラシル?」
「元々ラシルに行くつもりだったんだし、ここには敵もいないし。だからラシルへ行こうよ。」
「何言ってんだよ・・・月へ行きたいって言ったのはお前だろ?散々止めたって、強引に来たクセに。」
「だからあ!ここには敵はいないの!それが分かっただけでも来た甲斐があったじゃない。だからラシルへ行こう。」
「じゃあミヅキや幸也はどうすんだよ?他の妖精たちだって、どこへ消えたか分からないんだぞ?」
「そ・・・・それは・・・・・、」
「それにメタトロンは月の魔力を欲しがってる。協力してやらないと、ルシファーたちを倒せないぞ?」
「・・・・・・・・・・。」
「何があったか知らないけど、とにかく戻ろう。グズグズしてると、またメタトロンに雷落とされるぞ。」
コウはダナエの肩を叩き、「ほら」と背中を押す。
しかしダナエは動こうとしない。それどころか、コウを振り切って逃げていく。
「バカ!いい加減にしろよお前!!何をガキみたいに拗ねてんだよ!?」
「いいからほっといて!私だけでもラシルに行くから!」
そう言って廊下を駆け抜け、扉を開けて外に出ようとした。
「私は・・・まだここへ来るべきじゃなかった!後はコウとメタトロンに任せるわ。ミヅキや叔父さんを必ず見つけてあげて。」
ダナエはそう言い残し、外へ出て行こうとする。しかし急に動きを止め、ブルブルと震えだした。
そして顔面を真っ青にしながら、ゆっくりと後ずさった。
「ダナエ、どうしたんだ・・・?」
心配したコウが、ダナエの元に駆け寄る。そして扉の向こうに目をやった時、「あ・・・・・」と震えだした。
「あ・・・ああ・・・・や・・・・やっぱり・・・ここへ来てやがった・・・・・。」
コウはダナエの肩を抱きながら、一緒に後ずさった。
二人の目の前には、紫のワンピースを着た、長い黒髪の女が立っていた。
その女の名はクイン・ダガダ。
全ての元凶の邪神が、月の城の前に立っていた。
「久しぶりね、あんた達・・・。」
クインは微笑みをたたえながら、ゆっくりと城の中へ入って来た・・・・・。

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