ダナエの神話〜魔性の星〜 第五十五話 魔性の星(7)

  • 2015.06.14 Sunday
  • 14:35
JUGEMテーマ:自作小説
ダナエはコウを振り払い、城の外へと駆け出そうとした。
コウは慌ててダナエを追うが、二人とも急に足を止め。青い顔で震えだした。
今・・・・二人の目の前には、最も憎むべき敵がいある。そしてそれは、最も恐るべき敵でもあった。
・・・ラシルの邪神クイン・ダガダ・・・・。
全ての元凶となった、尽きることのない怨念に駆られた怪物。それが今、目の前に立っている。
クインは海の中に立っていて、長い黒髪と、紫のワンピースをなびかせている。
その顔は以前と変わらず美しく、見ているだけで不安になるほど、冷酷な目をしていた。
クインは海の中を歩き、ゆっくりと城の中へ入って来る。
そして嘘臭いほど真っ赤な唇を動かして、「久しぶりね、あんた達・・・・」と微笑んだ。
「ダナエとコウ・・・・だったかしら?私に何度も恥を掻かせてくれた、妖精のクソガキども。会いたかったわよ。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
クインは靴を鳴らしながら、一歩一歩近づいて来る。長い髪からポタポタと水が落ちて、廊下に染みを作っていく。
ダナエとコウは、クインが迫る度に後ずさっていく。お互いに震えながら、しっかりと手を握り合っていた。
しかしダナエは急に足を止める。そして槍を向けて、「クイン!」と叫んだ。
「ラシルからこんな所まで来て・・・・・何が目的よ!?」
そう叫んで、一歩前に出る。コウは「やめろ!」と止めたが、ダナエは止まらない。
「コウは下がってて。」
「馬鹿!一人で戦うつもりかよ!殺されるぞ!!」
「一緒に戦ったら、コウだって殺される!早くメタトロンを呼んできて!!」
「あ・・・ああ!そうだったな!アイツがいるんだった・・・・。」
コウは後ろを振り返り、魔法を唱えて虫の精霊を呼び出した。
「おい、ここへメタトロンを呼んで来てくれ!早く!」
トンボの形をした精霊は、すぐにメタトロンの元へ飛んで行った。
コウはクインを振り返り、「お前の目的なんて分かってる」と睨んだ。
「どうせ月の魔力が目当てなんだろ?」
そう言うと、クインは足を止めた。そして城の中を見渡し、「こんな場所に城があるなんて」と呟いた。
「あんた達を尾けなきゃ分からなかった。案内してくれてありがとね。」
ニコリと微笑み、途端に殺気を漂わせる。
「お前・・・・どうやって月の魔力のことを知ったんだよ?」
コウは睨みながら尋ねる。クインは「拷問して吐かせたのよ」と答えた。
「ご・・・・拷問?いったい誰を・・・・?」
「この月の妖精たち。地球へ来るついでにちょっと月へ寄ってみたの。私に恥を掻かせたガキどもの故郷が、いったいどんな所か見てやろうと思って。」
そう言ってジロジロと城の中を見渡し、ダナエとコウに視線を向けた。
「月へ来てみたら、大勢の天使と死神がここを護ってたわ。これは何かあるに違いないと思って、そいつらを潰して中に入ったわけ。」
「じゃ、じゃあ・・・・やっぱりお前がみんなを・・・・。」
「そうよ。でもその時はすぐに引き返した。私は地球に用があったからね。だから地球での用を済ませると、またここへ戻って来たの。そして中にいる妖精たちを捕まえて、次々に拷問にかけてやったわ。」
「お・・・・お前・・・・・俺たちの仲間を・・・・よくも・・・・、」
コウは怒りに震え、拳を握った。クインは可笑しそうに笑い、「腹が立つなら殴ってもいいわよ、ほら」と、頬を向けた。
「殴りたいんでしょ?早くやりなさいよ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「ふふふ・・・・あんた達二人じゃ、そんな度胸もないか。」
そう言ってまた腕を組み、冷徹な目で睨んだ。
「次々と拷問をしていくうちに、一人の妖精が教えてくれたわ。月には大きな魔力が宿ってるって。確か・・・・サトミって妖精だったわね。」
「サトミ・・・・。それって幸也の元婚約者じゃないか・・・・。」
「あの妖精、自分はいくら拷問されても、何も吐かなかった。でも腕に抱いた赤ん坊を取り上げると、途端に態度が変わったわ。だから・・・・ちょっとね、赤ん坊を目の前で痛めつけてやったわけよ。そしたら泣きながら教えてくれた。『私の知ってる事なら何でも教える!だからその子を傷つけないで!』って。」
クインはクスクス笑いながら語る。コウは怒りを抑えられなくなって、「お前ええええ!」と飛びかかろうとした。
しかしダナエに押さえ込まれ、「離せよ!」と叫んだ。
「あのクソ女・・・・・ぶっ殺してやる!」
「ダメ・・・・・殺されるのはコウの方よ・・・・。」
「でも・・・・・、」
「お願いだから我慢して・・・・。お願い・・・・。」
ダナエはじっとコウを見つめ、強く手を握った。その目はいっぱいに涙が溜まっていて、こぼれ落ちるのを必死に堪えていた。
「コウ・・・・また死んじゃうよ?だからやめて・・・・お願いだから・・・・。」
「ダナエ・・・・。」
コウは握った拳を下ろし、力を抜いた。クインは「あら?来ないの?」と、可笑しそうに肩を竦めた。
「まあいいわ。サトミとかいう妖精のおかげで、月の魔力というモノの存在を知った。それはとても大きな力だそうだから、是非手に入れたいと思ったわ。だけどそれがどこにあるのか?どうやって手に入れるのか?サトミはそこまで知らなかった。そういう存在があるということを、妖精王と月の女神が話しているのを聞いただけだと言っていたから。」
「そ・・・・それで俺たちを尾けたわけか?」
「そうよ。魔力がどこにあるのか考えていたら、一人の大きな天使がやって来た。そしてしばらくしてから、あんた達が現れた。こっそり会話を聞いてると、どうやらあんた達も月の魔力を求めているようだったから、後を尾けたわけ。」
「・・・・なんてこった・・・・全然気づかなかった・・・・。」
コウは悔しそうに歯を食いしばる。するとダナエが「その後はどうしたの?」と尋ねた。
「妖精たちは・・・・その後どうしたの?」
そう尋ねると、クインは「殺したわ」と答えた。
「サトミも赤ん坊も、月の妖精は皆殺し。こういう具合にしてね。」
そう言って右腕を龍に変え、パクパクと口を動かした。
「み・・・・みんな・・・・食べちゃったの・・・・。」
「違うわ。食べたんじゃなくて、殺してからコイツに処分させたの。だから今はこの龍の腹の中。」
「・・・・・・ぐ・・・・・ぎッ・・・・・・・。」
ダナエは槍を握りしめ、鬼のように顔をゆがめた。噛んだ唇から血が流れ、怒りのあまり混乱しそうになる。
しかしそれでも理性を保ち、クインに飛びかかるのを踏み止まっていた。
今・・・・コイツと戦ってはいけない・・・・・。まだ聞いていないことがあるのだから・・・・。
そう自分に言い聞かせて、「ミヅキと叔父さんは・・・・?」と尋ねた。
「二人はどこにいるの?まさか・・・・あの二人まで・・・・、」
「ん?何のこと?」
「とぼけないで!ここに人間が二人いたでしょ。私と同じくらいの女の子と、大人の男の人が。」
「ああ、あの人間たちのことね。」
クインは頷き、「消えたわ」と答えた。
「消えた?どういうこと・・・・?」
「妖精を殺したあと、その人間たちも殺そうとしたの。そうしたら何か変な奴が出て来てね。真っ白で妙な動きをする奴が。」
「真っ白で妙な動き・・・・。もしかして顔がないんじゃない?」
「顔がないっていうか・・・・顔のパーツが無かったわね。輪郭だけで、まるでゴーストのようにも見えた。だけどアレはゴーストじゃないわね。もっと別の何か・・・・。私もあんなの初めて会ったわ。」
そう言ってその時の事を思い出し、不思議そうに眉をしかめていた。
「いきなり目の前に現れて、人間たちと共に消え去った。アレがいったい何者なのか・・・・興味があるわね。」
上目遣いにそう言って、「まあそんな事今は関係ないわ」と笑った。
「さて・・・私には二つ用事がある。一つは月の魔力とやらを頂くこと。そしてもう一つは・・・・アンタよ。」
クインはダナエを睨み、自分の髪を撫でた。ゆっくりと、そして苛立ちを抑えるように・・・・。
「ダナエ・・・私から奪ったあの武器、返してもらえるかしら?」
「あの武器・・・・・・って、神殺しの神器のこと?」
「それ以外にないでしょ?アレは私にしか使えない。だって私が所有者なんですもの。ほら、さっさと返してちょうだい。」
髪を撫でるのをやめ、ゆっくりとダナエの方に手を伸ばす。
するとダナエは槍を向けて、「あの神器は誰にも渡さないわ」と切り捨てた。
「アレはあんたの武器じゃない。あんたの婚約者が作った武器よ。ラシルの平和を守る為にね。」
「でもその婚約者はもういない。私が殺したから。」
「でも絶対にあんたなんかの物じゃない。あんたの婚約者は、きっとあんたのような使い方なんて望んでなかったはずだもの。それにこの武器は、あんたにしか使えないなんてことはないわ。」
「いいえ、アレは私だけが使いこなせるの。他の誰でも無理よ。」
「そんなことない。だって・・・私は一度使ったもの。ラシルであんたと戦った時にね。」
そう答えると、クインは馬鹿にしたようにクスクスと笑った。
「ええ、確かに一度使ったわね。その神器を奪った直後に。」
「そうよ。だからこれがある限り、あんたには負けない。あんたなんか、神殺しの神器がなければ大したことないんだから。」
「言ってくれるわね。あんたが奪った神器は三つだけ。でも私はまだ四つも持ってる。そして何度も言うけど、アレはあんたじゃ使いこなせない。一度だけ使えたのは、コスモリングの力があったからよ。要するにマグレみたいなもの。だから次は無理よ。」
クインはダナエに近づき、「さあ」と首を掴もうとした。
「ふざけんな!!誰がお前なんかに渡すか!」
ダナエは槍を握りしめ、クインの胸を突き刺した。
「痛いわね。」
「じゃあもっと痛くしてやるわ!」
そう言って、雷の魔法を唱えた。
小さなウナギの精霊たちが集まり、槍の中に吸い込まれていく。
そして刃に電気を発生させて、クインの身体を焼いていった。
「クソガキ・・・・また私に楯突く気?」
「うるさい!聞きたいことは全部聞いたわ!あんたはここで倒す!妖精や天使や死神の分・・・・全部まとめてやり返してやる!!」
そう叫んで槍を引き抜き、「メタトロン!」と叫んだ。
するとダナエの背後から、メタトロンが翼を広げて舞い上がった。
そして「だあああ!」とクインを蹴り飛ばし、ダナエたちを守るように立ちはだかった。
「ダナエよ、よくぞ邪神から話を聞き出してくれた。」
「その女、意外と何でも喋るのよ。ペラペラペラペラ馬鹿みたいに。そうやって墓穴を掘るのがいつものパターン。」
「ふふふ・・・さすがは邪神と刃を交えただけあるな。度胸も座っているし、なにより闘争心がある。」
メタトロンはそう言って、立ち上がろうとするクインを睨んだ。
「ラシルの邪神クイン・ダガダ!月の魔力も、そして神殺しの神器も渡さぬぞ!ここで討ち滅ぼしてくれる!」
そう叫んで、翼を広げて飛びかかる。そしてクインに体当たりをかまして、城の外へと吹き飛ばした。
「ダナエ!私はあの邪神を外へ連れ出す。ここでは元の大きさで戦えないのでな。」
「だったら私も一緒に・・・・・、」
「ならん!お前たちは、早く月の魔力の在り処を見つけるのだ。そしてその封印を解き、私の元まで持って来い!」
メタトロンはそう言い残して、城の外へと飛び出していく。
そして額の宝玉を光らせて、元の巨大な姿に戻った。
「クイン!神殺しの神器を使う前に終わらせてくれる!!」
「たかが天使ごときが・・・・調子に乗るんじゃないわよ。」
クインは立ち上がり、左右の腕を巨大な龍に変化させる。
メタトロンは「九頭龍の力か」と呟き、拳を構えて戦いを挑んだ。
外ではメタトロンとクインの戦いが始まり、海底がグラグラと揺れる。
城の中も地震のように揺れて、廊下にヒビが入った。
「ダナエ!早く奥へ戻ろう!」
コウはダナエの手を引き、先ほどの部屋へ戻ろうとする。
しかし部屋の前まで来た時、壊したはずの扉が復活していた。
「はあ?なんで元に戻ってんだよ!?」
コウは扉を叩きつけ、「もう一回壊してやる」と魔法を唱えようとした。
するとダナエが「壊したって意味ないよ・・・」と呟いた。
「その扉・・・・力で壊しても意味がないの。ちゃんと扉の向こうからの質問に答えないと、中に入っても意味がない。」
「え?どういうことだよ?」
「この扉の向こうに行くには、覚悟がいるってこと。」
「覚悟?何の覚悟だよ?」
「さっき説明したじゃない。この扉の奥には月の模型があって、そこに永遠の愛を誓って、名前を刻むの。そうすることで、月の加護を受けて、この星を治める者になれる。」
「知ってるよ。でも俺たちがこの中に入ったからって、何も結婚して月の王様になるわけじゃないだろ?」
「なるよ。」
「はい?」
「なるの。質問に答えて、この扉の中に入ったら・・・・・私とコウは結ばれなきゃいけない。そして私たちが月の加護を受けて、この星を治めないといけないの。」
「いやいや・・・そんなことないだろ。だってさっき入った時は何ともなか・・・・・、」
「だから壊して入っても意味がないの!ちゃんと質問に答えないと・・・・。でもそうやって入ったら、私たちはさっき言ったとおりになっちゃうし、でもきっとここには月の魔力の秘密がある。だから・・・・・どうしたらいいか困ってるのよ・・・・。」
そう言って項垂れ、扉におでこを付けた。
「そうか・・・それでさっき入った時には誰もいなかったってことか・・・・。」
「そうよ・・・・。ちゃんとして手順で入れば、きっとミヅキや叔父さんにも会えると思う。だってこの先には、顔の無い真っ白なアイツがいるんだもん・・・・。」
「クインが言ってたな、そいつが二人を連れ去ったって。きっと邪神から守ってくれたんだぜ。」
「私もそう思う・・・・。でも・・・ここから先は・・・・、」
ダナエは目を閉じ、その先の言葉を飲み込んだ。
そうしないと、自分の想いをコウに気づかれてしまうから。
今はそんなを事を気にしている場合ではないと分かっているが、それでも口に出来ない。
想いを伝えて拒絶されるくらいなら、まだクインと戦っている方がマシだった。
しかしそんなダナエの気持ちに気づかないコウは、「そりゃ確かにどうしようもないわなあ・・・」と頭を掻いた。
「扉の向こうの奴は、『愛する者無き者、ここを通さず』って言ったんだろ?それって要するに、愛する者がいないなら、ここは通れないってことだ。だから自分の愛する者が誰なのか、それを答えなきゃいけない。でも今のお前には、異性として愛する奴なんていないから・・・・・やっぱどうしようもないわな。」
「・・・・・・・・・。」
「ああ・・・・こんなんだったら、ケンとアメルも一緒に来てくれればよかったのに!用が終われば、そのまま地球へ帰すなり何なり出来たんだから。ダフネも気が回らないよなあ。」
そう愚痴ってから、「いや、でも元々月へ来るつもりはなかったんだから、やっぱ俺たちが悪いのか」と思い直した。
「なあダナエ、その質問に答えるのは、月の妖精じゃないとダメなのか?」
「・・・・・・うん。そうだと思う・・・・。」
「ああ、そっかあ・・・・。コスモリングのアドネを呼び出せば、どうにかなるかと思ったんだけどなあ・・・・。」
「・・・・どうして?」
「だってさ、アイツってダレスのこと好きじゃん。だからいけるかと思ったんだけど、やっぱ無理だよな。」
「・・・・・そうね、アドネは死神だし・・・・。」
ダナエは沈んだ声で答える。この扉を正しい意味で開ける可能性は、自分にしかない。
拒絶されればお終いだが、もし・・・・もしこの想いをコウが受け止めてくれたら、扉は開くかもしれない。
そう思うと、心がグチャグチャになりそうなほど悩んだ。
《私は・・・自分が傷つくのが怖いからって、みんなを危険な目に遭わせてる・・・・。メタトロンも、それにダフネやお父さん、お母さんも、必死に戦ってるはずなのに・・・。それにミヅキや叔父さんだって、早く助け出してほしいはず・・・・。なのに・・・・踏ん切りがつかない!みんなを助けるより、自分が傷つくこを恐れてるなんて!!》
戦いで傷つくのは構わない。仲間を守る為なら、悪魔や邪神とだって戦ってみせる。
しかし自分と向き合うことだけは、なかなか出来なかった。
ダナエにとっては、身体が傷つくよりも、心が傷つく方が何倍も痛かった。
身体の痛みなら我慢出来る。しかし心の痛みだけは滅法弱い。
だから悩んでいた。そして優柔不断な自分に苦しんでいた。
《お城がまだ揺れてるわ・・・・。メタトロンが一生懸命戦ってるんだ・・・・。天使や死神や・・・・妖精を殺したあの邪神と・・・・・。みんな・・・・苦しかっただろうなあ・・・。拷問なんて酷いこと・・・・なんでそんな事出来るんだろう・・・・。サトミも、彼女の赤ちゃんも・・・・なんにも悪いことしてないのに、いっぱい苦しんで・・・・・なんでそんな酷い事するんだろう・・・・。》
苦痛のうちに死んでいった者たちを想うと、激しい怒りが湧いてきた。それと同時に激しい悲しみが襲ってきて、石の扉にゴツンと頭をぶつけた。
《こんな・・・こんな事で悩んでちゃダメだ・・・・。自分が傷つくのが嫌だからなんて・・・・そんなことで仲間を危険に晒すなんて・・・・。》
散々迷っていたダナエは、ようやく踏ん切りをつけた。いや・・・踏ん切りというより、今やるべき事があるはずだと、自分に言い聞かせた。
「ねえコウ・・・・ちょっといいかな?」
そう言って顔を上げると、コウは腕を組んで難しい顔をしていた。
「ねえコウ・・・。」
コウはじっと考え込んでいて、ダナエが呼んでも反応しない。そしてポツリとこう漏らした。
「アリアン・・・・・。」
その声はとても小さく、よく耳を傾けないと聞き取れないほどだった。
しかしダナエにはっきりと聞こえた。今・・・・ある意味で最も聞きたくない者の名前だったからだ。
大切な仲間なのに、恋愛感情が絡むとこういう風になってしまうのかと、自分が嫌になってくる。
「ねえコウ。」
ダナエは腹を括り、コウの肩を叩いた。
「ん?」
「この扉・・・・開けないと先に進めない。」
「んなこと分かってるよ。だから悩んでるんだろ。」
「・・・・あのね、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ。」
神妙な顔でそう言うと、コウは「お、いいアイデアでもあるのか?」と目を輝かせた。
「お前はたま〜に頭が冴えてる時があるからな。どれ、どんなアイデアか言ってろよ。」
「ええっと・・・・アイデアっていうか・・・・私の思ってることなんだけど・・・・、」
「うんうん。」
「あ・・・あのね・・・・私・・・・もしかしたら、愛する者がいるかもしれない・・・・。」
「ほうほう。・・・・・・ん?」
「やっぱそういう顔になるよね・・・。」
ダナエはこの先を言うのが億劫になり、辛そうに唇を結んだ。
しかし言うと決めたのだから、ここで引き下がるわけにはいかない。
怖い気持ちを押し殺し、息を飲んで口を開いた。
「あのね、私・・・コウのことが好きかもしれない。」
「・・・・・へ?」
「・・・いや、なんか・・・・曖昧ね、この言い方。ええっと・・・・好きかもしれないじゃなくて、好き・・・・なんだと思う。その・・・・家族とか、友達とかの好きじゃなくて。」
そう言って見つめると、コウは口を半開きにして固まっていた。
《ああ!嫌だ!こういう目で見つめられるの・・・・・。なんかすごい自分がバカみたい・・・・。》
また怯みそうになるが、もうここまで来たのだから、勢いに任せて先を続けた。
「ここを通るには、『私には愛する者がいます』って答えないとダメなの。そうじゃないと、正しく通れない。だから・・・・私はこう答えようと思うの。『私にはコウっていう好きな妖精がいます』・・・・って。」
「・・・・・・・・・。」
「でもね・・・もしコウが私のことをそういう風に好きじゃなかったら、断ってくれていい。だってそうやってこの先に進むと、さっき言ったみたいに永遠の愛を誓わないといけないから。そして・・・・もう宇宙の旅は終わりにして、二人で月を治めないといけない。だから・・・・もしそれが嫌なら・・・正直に言ってくれていいんだけど・・・・。」
ダナエは最後まで言い切った。勇気を振り絞り、目を逸らすことなく。
しかし言い終えた途端に、急に恥ずかしくなって目を逸らした。
そんなダナエを、コウは無言で見つめる。口を半開きにしたまま、何とも言えない顔で困っているようだった。
「あ・・・・ええ・・・・・ううう・・・・。」
ダナエはいたたまれなくなり、とうとう背中を向けてしまった。
頬が熱くなり、耳の先まで真っ赤に染まっていく。背中にコウの視線が突き刺さるのを感じて、もうこの場所から逃げ出したい気分だった。
しかしグッと堪えて、その場に留まる。ここで逃げてしまったら、それこそ想いを伝えた意味がない。
そして月の魔力を得るヒントも分からず、最後はクインに負けてしまうだろう。
「・・・・・あの・・・・今は緊急事態だから、こういう形で気持ちを伝えました・・・・。だから・・・・その・・・コウはどう思ってるのか、返事を聞かせてほしいんだけど・・・・。」
沈黙に耐えられなくなり、早く言葉を返してほしいと願う。
するとコスモリングの真ん中の宝石が光って、青い稲妻と共にアドネが現れた。
「このバカ!いつまでも黙ってんじゃないわよ!!」
そう言って、思い切りコウの頭に拳骨を落とした。
「痛ッ!何すんだよ!?」
「ボケっとしてないで、さっさと返事をしてやれって言ってんのよ!ダナエは勇気を出して告白したのに、なんで黙ってるのよ!!」
「いや・・・・それはそうだけど・・・・、」
「これ以上あんたが黙ってたら、ダナエはどんどん辛い思いをするだけでしょ。ダナエのことを鈍チン鈍チン言うクセに、アンタの方がよっぽ鈍チンじゃない!」
アドネは本気で怒っていた。鎌を振り上げ、「さっさと答えてあげる!」と怒鳴った。
「わ・・・分かった分かった!答えるから!その物騒なもん下ろせよ。」
コウは慌ててアドネを止め、そしてゆっくりとダナエを振り返った。
「あの・・・・ごめん、黙ってて・・・・。」
「ううん・・・・こっちこそごめん、なんかいきなりこんな・・・・、」
「仕方ないよ、状況が状況だもん。だから・・・・俺もちゃんと答えないとな。」
コウは「ううん!」と咳払いをして、ダナエの前に立った。
「あ、あの・・・・ちょっと驚いたけど、気持ちはすごく嬉しい・・・・。」
「うん・・・・。」
「でも・・・・、」
コウは言葉を止め、辛そうに顔をゆがめる。ダナエはそんなコウの顔を見つめ、爆発しそうなほどの不安を抱いた。
「あの・・・・俺・・・・アリアンのことがさ・・・・その・・・・気になって・・・・、」
「・・・・・・・・・。」
「自分でもよく分からないんだよ・・・・。アイツ・・・・最後・・・・なんだか険悪なまま別れてさ、そんでもう・・・・死んじゃったわけで・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「アイツは名のある神様だから、いずれ復活するのは分かってる。でも・・・・やっぱ気になるんだよな、アイツのこと・・・。これがどういう理由で気になるのか、まだはっきり分からない・・・・。でも気になるのは確かなんだ・・・・。」
そう言って、目を閉じて俯く。その顔は本当に辛そうで、眉間に深い皺が寄っていた。
「俺は・・・・アリアンのことが好きなのかもしれない。だからアイツが復活してきたら、また仲良くなりたいって思ってるんだ。
いつ復活してくるか分からないけど、でも俺は・・・・その時まで待とうって思ってる。それで・・・・またアイツと再会した時、ちゃんと向き合える気がするんだ。俺はアイツのこと・・・・どう思ってるのかなって・・・・。」
絞り出すようにそう言って、グッと歯を噛みしめる。そして顔を上げて、ダナエの目を見つめた。
「だから・・・・ごめん。この扉の先に行かなきゃいけないのは分かってるけど、でもそれを理由に適当な言葉なんて返せない。だってさ!お前は俺にとって、本当に大事な友達だもん!家族みたいずっと一緒にいてさ、他に代えられないくらい、大事な存在なんだよ!だからさ・・・・・ごめん・・・・・ごめんな・・・・。」
コウはまた目を閉じ、深く俯いた。それは項垂れているのか、それとも謝っているのか?それはコウにしか分からなかった。
アドネはそんなコウを見つめ、ゆっくりとダナエに視線を移す。
ダナエは真っ直ぐコウを見つめたまま固まっていて、傷ついているようにも見えるし、放心しているようにも見えた。
「ダナエ・・・・。」
心配したアドネが、背中に触れようとする。するとダナエは「うん・・・」と呟いた。
そしてコウの頭を撫で、「ごめんね・・・・アリアンが死んで辛い時に・・・・傷つけちゃったね」と切なく微笑んだ。
コウは俯いたまま首を振り、ゴシゴシと目を拭う。そんなコウを見て、ダナエは傷ついているのは自分だけじゃなかったんだと知った。
・・・コウはアリアンに想いを寄せている・・・・。
それは誰の目にも明らかで、コウの涙がそれを物語っていた。
ダナエの胸にはフラれた悲しみよりも、コウを傷つけてしまったことへの後悔で満ちていた。
それはある意味、ダナエにとってありがたかった。なぜなら傷ついているのが自分だけだとしたら、きっと深い悲しみに襲われたからだ。
コウにフラれた悲しみ、そのせいで自分が傷つく悲しみ。それらを覆い隠すくらいに、コウを傷つけてしまった後悔の方が大きかった。
自分でも酷い奴だと思ったが、それが素直な気持ちだった。
コウはしばらく泣いていて、やがて鼻を赤くして顔を上げた。
ダナエはニコリと笑いかけ、「こっちこそごめんね」と言った。
「なんでお前が謝るんだよ・・・・。」
「だって・・・・私はコウのお姉さんだから。そんなことも忘れて、弟を傷つけちゃったみたい。姉弟なんだから、そういう関係になれるわけないのにね。」
「姉弟みたいな・・・・だろ。血なんて繋がってないんだから・・・・。」
「血の繋がりだけが家族じゃないわ。それだけが家族なんて寂しいじゃない。」
「・・・・カッコつけたこと言うなよ、鈍チンのクセに・・・。」
コウはズズッと鼻をすすり、「俺のことはいいんだよ」と強がった。
「そんなことより、この扉どうすんだ?」
「そうねえ・・・・私はフラちゃったし、もうどしようもないかも・・・・。」
「んなあっさりと・・・・なんか方法を考えろよ。」
コウはゴシゴシと涙の残りを拭き、扉を睨みつけた。するとその時、城の外で大きな雄叫びが響いた。
その雄叫びは海の中を揺らし、海流をかき乱して、城の中まで大きく揺れた。
「おいダナエ・・・・今の雄叫び・・・・、」
「うん、聞いたことのある声よね。アレって多分・・・・、」
「九頭龍だ。」
「九頭龍ね。」
二人は頷き、城の外へと走った。アドネも「待ってよ」と追いかけ、三人で扉の前に並んだ。
月の深海は、激しい海流で乱れていた。そしてその先に、巨大な天使の影が一つ、それとその天使とは比較にならないほどの大きな龍がいた。
その龍はあまりにも巨大すぎる為に、深海の壁を突き破って、上の海まで頭が伸びていた。
その頭は全部で九つ。一つ一つの頭が山脈のようにそびえていて、それは大きいを通り越して、一つの島のようにさえ思えた。
「間違いない・・・・九頭龍だ・・・・。」
コウはゴクリと唾を飲み、途方もないその大きさに圧倒されていた。
九頭龍は頭の上にトサカを持っていて、コモドドラゴンのようなトカゲの顔をしていた。
その身体はあまりに巨大な為、表面には木々やコケが生えている。
しかも頭は空まで突き抜けていて、頭上には雲が渦巻いていた。
まるで九頭龍自体が一つの島、一つの自然のようになっていて、リヴァイアサンですら到底敵わぬ大きさだった。
「さすがは地球を支える龍神・・・・スケールが違うよな。」
「感心してる場合じゃないでしょ。あれはいくらなんでも大きすぎる。メタトロンでも勝ち目はないかも・・・・。」
「クインの奴・・・・あんな化け物を乗っ取るなんて、やっぱとんでもねえ奴だな。」
二人は九頭龍を見上げながら、心配そうに呟いた。
アドネは「ここから離れてた方がいいんじゃない?」と言ったが、ダナエは首を振る。
「このお城を離れるわけにはいかないわ。もし壊れたりしたら大変なことだもの。」
「だけどあの化け物からここを守れるの?」
「分からない・・・・。でも逃げるわけにはいかないわ。」
ダナエはそう言って、コスモリングに触れた。
《この腕輪は、強く願えばその想いに応えてくれる。だけどいつだってポンポン力を貸してくれるわけじゃないわ。今はまだ・・・・取っておいた方がいい。》
ダナエは城の中に戻り、どうにか扉を開けられないか考える。
《ここでコスモリングに頼るっていう手もあるけど、やっぱりお城を守ることを考えると、まだ使わない方がいいわ。》
金色の腕輪に触れながら、何か良い解決策はないかと考える。
するとその時、ふと懐かしい気配を感じた。
「今のは・・・・何?」
不思議に思いながら辺りを見渡しても、誰もいない。しかしまた懐かしい気配を感じて、「何なのさっきから・・・・」と顔をしかめた。
「誰もいないのに気配を感じるなんて・・・・もしかしてゴースト?」
そう呟くと、どこからか《ゴーストではない》と声がした。
「え?え?誰・・・・今の声?」
《覚えておらぬか?儂だ。》
「・・・・声は聞いたことあるんだけど、誰かが思い出せないの。この声・・・・どこで聞いたんだっけ?」
頭を抱えて思い出そうとしていると、城の外からまた雄叫びが聞こえた。
「九頭龍・・・・すごい声ね。ラシルで戦ってた時も、こんな声で叫んでたっけ・・・・。」
そう呟いた瞬間、「あああああ!」と叫んだ。
「お・・・思い出した・・・・この声・・・・。」
ダナエは笑顔になり、「ボイラーの龍神さんね!」と叫んだ。
《ぶふッ!その言い方はやめい。》
「やっぱりボイラーの龍神さんじゃない!ていうことは・・・・もしかしてトミーとジャムも・・・・・、」
《ここにおる。儂の腹の中にな。》
「えええええ!お腹の中って・・・・もしかして食べちゃったの?」
《そうではない。儂は今、宇宙の海という所にいてな。ここでは限られた者しか生きることは出来んのだ。だから腹の中で守っておる。》
「宇宙の海・・・・?何それ?」
《この銀河全体に広がる、血管のような道と思えばよい。空想と現実の狭間にある空間で、ここを通れば銀河内なら一瞬でどこへでも行けるのだ。》
「へええ・・・知らなかった。」
ダナエは感心し、「それで・・・・今は近くにいるってこと?」と尋ねた。
《うむ。実は九頭龍が戻って来ないので、いったんラシルへ捜しに行ったのだ。しかし向こうの惑星にもおらず、もしかしたら月にいるのではと思って、ここへ来たわけだ。》
「そっかあ・・・・。じゃあトミーとジャムがエジプトからいなくなった後、ラシルへ向かってたのね?」
《あの二人、えらく臆病でな。ユグドラシルへ飛び込んで、外へ出ようとしなかったのだ。》
「知ってるわ。スフィンクスに怯えたんでしょ?」
《そうだ。だから儂は、そのままラシルへ向かったというわけだ。しかし・・・・向こうは酷い有り様だ。大地のほとんどが破壊され、まるで荒野のようになっている。それを見た儂は、きっと九頭龍がクインに乗っ取られたのだろうと思った。そしてラシルを破壊した後、別の場所へ去ったと推測した。それがこの月だったというわけだ。》
それを聞いたダナエは、「い・・・・今なんて言ったの!?」と叫んだ。
「ラシルが破壊された?じゃあドリューたちはどうなっちゃったの!?カプネは?ダレスは?キンジロウやミズチ・・・・それにコドクは!?」
《さあな。お前の仲間のことは、知るよしもない。》
「そ・・・・そんな・・・・ラシルまで滅茶苦茶にされたなんて・・・・。」
ダナエは瞳を震わせ、「あの邪神めえ・・・・」と怒りに震えた。
「月も地球も・・・・それに自分の故郷までそんな風にして、いったい何がしたいのよ!!」
そう叫んで、城の外を見つめた。
「アイツ・・・・本当に何とかしないとダメだわ。これ以上好きにさせたら、もっと酷いことをしでかすに決まってる!」
ダナエは勇み、石の扉を睨みつけた。
「この扉さえどうにか出来ればいいんだけど・・・・・。」
ギリギリと歯を食いしばり、何か良いアイデアはないかと絞り出す。
《妖精の童よ、少し頼みを聞いてくれんか?》
いきなりそう言われて、「頼み?」と聞き返した。
《うむ。実は九頭龍・・・・というより、九頭龍の力を得たクインが、儂がここへ出るのを邪魔しておるのだ。》
「・・・・どういうこと?」
《分かりやすく言うと、儂がこの月へ出て来られないように、宇宙の海の出口を塞いでいるということだ。
儂が今ここにおることは知らんだろうが、もしもの時の為に、出口を塞いでおる。》
「ああ、なるほど・・・・。ボイラーさんは強いもんね。襲われないようにする為に、そういう邪魔をしてるってことね?」
《その通りだ。神殺しの神器と、九頭龍の力。この二つを手に入れたクインは、もはや儂くらいしか恐れる相手がおらん。
だから出口を塞いで邪魔をしておる。それをどうにかしてほしいのだ。》
「どうにかって・・・・・私に出来ることなら手伝うけど・・・・。」
《出来る。そのコスモリングに、こう願えばいいのだ。『ボイラーの龍神さんを、ここへ出してあげて!』とな。》
「それ私のマネ?」
《ああ、似ているだろう?》
「私はそんな野太い声じゃないもん。だけど・・・・やってみるわ。ボイラーさんならクインを倒せるかもしれない。だったら今こそプッチーに頼らなきゃ!」
ダナエはコスモリングを掲げ、そっと触れた。そして目を閉じ、頭の中に強く願いを描いた。
《お願いプッチー・・・・ボイラーさんをここへ出してあげて。クインを倒す為に必要なの。お願い・・・・。》
何度も何度も、強くそう願う。しかしコスモリングはうんともすんとも言わず、何の反応の示さなかった。
「なんで?どうしてよ!?」
もしかして壊れたのかと思い、ペチペチと叩いてみる。すると燭龍が《童よ、今のお前は傷ついているようだな?》と尋ねた。
《お前の声からは、どこか深い悲しみを感じる。笑顔で誤魔化しているが、何か傷つくことがあったのではないか?》
そう言われて、ダナエはギョッとした。
《そのような心持ちでは、コスモリングは反応しない。強く・・・ただそれ一点のみを願わねば、力を発揮してくれんぞ?》
「わ・・・・分かってるけど・・・・。でもさっきの今で、いきなりそんな・・・・。」
ダナエは胸を押さえ、コウにフラれた悲しみを必死に隠そうとする。
・・・思い出してはいけない。気にしてはいけない。そんなことをすれば、一晩も二晩も泣いて、長い間胸が締め付けられるから。
その時、城の外からまた雄叫びが響いた。それと同時にメタトロンの「ぬおおお!」という声が響いて、ダナエは外へ向かった。
「コウ!何があったの!?」
「ダナエ・・・・これヤバイぞ。メタトロンが追い詰められてる。」
コウは海底の戦いを指差す。するとそこには、全身にヒビが入り、右の翼がもげたメタトロンがいた。
ボロボロに傷つき、辛そうに膝をついている。
「九頭龍の奴、メタトロンの攻撃が全然効かないんだ。やっぱ大きさが違い過ぎるんだよ。」
そう答えると、アドネも「これじゃ勝ち目がないわね」と頷いた。
「せめてさ、ラシルで戦ってた燭龍・・・・だっけ?あんな大きな龍神がいれば別だけど、メタトロンだけじゃ分が悪いわ。」
それを聞いたダナエは「いる!近くにいるのよ!」と答えた。
「ボイラーさん・・・燭龍なら近くにいるの。宇宙の海って所を通って、この近くに来てるのよ!」
「はあ?なんだよそれ?」
「宇宙の海・・・・聞いたことないわね。」
「本当なの!でもクインが邪魔して出られないのよ!プッチーの力があれば呼び出せるんだけど、今の私じゃ・・・・、」
ダナエは口を閉ざして俯く。するとボロボロに傷ついたメタトロンが「今の話は本当か・・・・」と振り返った。
「燭龍が・・・・この近くにいると・・・・?」
「うん。でもクインが九頭龍の力を使って、出て来られないように邪魔をしてるの。」
「・・・・なるほど・・・・ならば私に任せよ!」
メタトロンは立ち上がり、額の前で腕をクロスさせた。
それを見たクインは「させるか!」と叫ぶ。雲にまで届く高い頭から、口を開けて青色のマグマを吐き出した。
それは普通のマグマの数千倍の熱を持ち、触れただけで大地が蒸発するような、恐ろしいマグマだった。
「今の私にとって、あの龍神だけが敵といえる。決して表に出させないわ!!」
そう叫んで、九つの口から大量に青いマグマを吐く。
それは高い空から降ってきて、細かく拡散していった。
青いマグマが、灼熱の雨となってダナエたちを襲う。
しかしメタトロンは怯まない。「でいやあああ!」と叫んで、クロスさせた腕を振りほどく。
すると額の宝玉から緑色の光が放たれ、目の前の空間を、まるで紙きれのように切り取っていった。
それと同時に、青いマグマが降り注いで来る。ダナエたちを焼き払おうと、海と大地を蒸発させながら襲いかかって来る。
「きゃあああああ!」
「わああああああ!」
ダナエとコウは城の中に身を隠し、アドネは二人を守ろうと鎌を振り上げる。
しかし・・・・ダナエたちにマグマの雨が降り注ぐことはなかった。
なぜならメタトロンが切り取った空間の中から、とてつもなく巨大な龍神が現れ、マグマの雨を受け止めていたからだ。
その龍神の名は燭龍。
トカゲと鳥を混ぜたような顔をしていて、山そのものと同じくらいに大きい。その姿は蛇に似ていて、ツチノコのように太くて頑丈な胴体をしていた。
身体は土のように茶色く、表面には木や草が生えている。
燭龍は凄まじい迫力を漲らせて、天を突くような声で吠えた。

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