霊体解剖 第十一話 図鑑(1)

  • 2015.06.27 Saturday
  • 09:48
JUGEMテーマ:自作小説
野々村有希は、幼い頃から神童と呼ばれた。
成績優秀、スポーツ万能、絵や音楽も得意とし、何気なく書いた詩が、県のコンクールで金賞を取るほどだった。
それに加えて容姿端麗で、誰にでも分け隔てなく接する、仏のように優しい心を持っていた。
誰が見ても、仏や菩薩の化身ではないかと思うほど、隙のない出来た人間だった。
有希自身、自分が非常に能力の高い人間であることを自覚していた。
自分の美貌もよく知っていたし、どんな分野に進んでも活躍出来る自信があった。
しかし有希の良い所は、それを鼻にかけなかったことである。
自分と対等の者はほとんどいないと思っていたが、だからといって、誰かを見下すようなことはしなかった。
どちらかと言えば、弱い者や困っている者、それに何も出来ない不器用な人間を見ると、放ってはおけない性質だった。
有希に手を差し伸べられた人間は、彼女を救いの女神のように感じた。
同性ならば、有希をマリアのように崇め、異性ならば、すぐに恋に落ちてしまった。
中には同性でも想いを寄せてくる者もいたが、有希は決して嫌な顔を見せなかった。
自分が救った者と恋仲になることはなかったが、そうやって慕ってくれるのは、とても嬉しいことだった。
自分の力で、誰かが救われ、そして幸せになる。
弱い者、救いを求める者、そういう人たちの力になる為に、自分は生まれて来たのだと思っていた。
また双子の弟の朋広も、そんな姉を誇らしく思っていた。
いつだって姉の手伝いをして、彼女の善意を支えた。
常に姉の傍に立って、彼女の右腕となる役目を務めた。
中には姉の美貌や能力に嫉妬したり、勘違いをしてストーカーになるような連中もいたので、そんな奴らから姉を守るのも、朋広の役目だった。
朋広は細身ながらも、格闘技や武道の才能があった。
だから本気でやってみないかと、何度もその道の人間から誘われた。しかし全ての誘いを断った。
自分が腕を磨くのは、姉を為だったからだ。
姉は特別な人間で、多くの人がその救いの手を必要としている。
仏のような、そして女神のような慈愛に溢れる心で、姉が手を差し伸べてくれるのを待っている。
それを分かっていたから、自分は姉の為だけに生きようと決めていた。
姉が人を救う為に生まれてきたのなら、自分は姉を支える為に生まれてきた。
二人の姉弟は、いつ、どんな時でも共に歩み、弱い者や困っている者に手を差し伸べた。
二人は同じ高校へ行き、同じ大学へ進み、社会に出てからも、己の信条を信じて、多くの人を助けてきた。
しかしある時、そんな二人に転機が訪れた。
風間慎平と名乗る男が、二人の前に現れたのだ。
有希の噂を聞きつけた風間は、是非とも自分に力を貸してほしいと頼んだ。
いきなり現れた人間に、力を貸してほしいと頼まれ、二人は首を捻った。すると風間は屈託のない顔で微笑み、場所を変えて話そうと言った。
朋広は断ろうと思ったが、有希は『ついて行こう』と言い出した。
『この人からは、普通の人とは違う何かを感じるわ』
朋広の制止も無視して、有希は風間の車に乗り込んだ。
姉を守る為、仕方なしに朋広もついて行くことになった。
二人が連れて行かれた先は、大きな寺院だった。
門の前には仁王像が立っており、侵入者を見張るように目を光らせている。
中に入ると、砂利の敷き詰められた立派な庭があり、数人の僧侶が出迎えた。
二人は立派な本堂に通され、奥に立つ荘厳な観音像に目を奪われた。
『なんてすごい・・・・。ねえ朋広、神聖な空気を感じない?』
有希は目を輝かせ、朋広もその観音像に漂う、不思議な空気に息を飲んでいた。
やがて袈裟に着替えた風間が現れ、二人の前に座った。
『改めて自己紹介をしよう。僕は風間慎平、観音菩薩から力を授かった、現世の汚れを祓う者だ』
何の恥ずかしげもなく、堂々と言い切るその姿に、朋広は警戒を抱いた。
きっと有希の噂を聞きつけたどこぞの新興宗教が、自分たちの看板にしてやろうとやって来たに違いない。
そう思って早々に退散しようとしたが、そうはいかなかった。
姉を連れて逃げようとした朋広の前に、先ほど出迎えてくれた僧侶たちが立ちはだかったのだ。
僧侶たちの目は険しく、朋広は危険を感じた。
・・・早くここから逃げなければ・・・・・。
朋広は僧侶を殴り倒してでも、ここから逃げるつもりだった。だったのだが・・・・・やられたのは朋広の方だった。
僧侶はとても強く、朋広の拳を軽く捌くと、すぐに組み伏せてしまった。
うつ伏せに倒され、腕を極められて激痛が走る。有希が悲鳴を上げたが、それと同時に風間がやめるように言った。
風間に言われて、僧侶たちは朋広を解放する。そして本堂から逃げられないように、鋭い目で見張った。
有希は朋広に駆け寄り、心配そうに肩を抱く。
風間は『手荒な真似をして申し訳ない』と謝りながらも、その目は僧侶と同じように鋭かった。
そして二人の前に膝をつき、とても穏やかな口調で切り出した。
『君たちにも、僕の使命を手伝ってほしい』
口元は笑っているが、目は決して笑っていない。
これ以上抵抗すればさらに痛い目に遭うと思い、二人は大人しくせざるを得なかった。
風間はもう一度『悪かったね』と謝り、二人を観音菩薩の前に座らせた。
そして自分が何者なのか、どういう使命を帯びて、どういう活動をしているのか。
それを詳しく語った。
話を聞き終えた二人は、ただ黙るしかなかった。
なぜなら、風間の話はとても現実的とは思えなかったからだ。
朋広は顔をしかめ、有希は困ったように唇を噛んでいた。
そんな二人の顔を見て、『そうなるだろうね』と風間は笑った。
そして『論より証拠、君たちにも見てもらおう』と言うと、菩薩像に向かって経文を唱えた。
黒光りする数珠をじゃらじゃら鳴らし、擦り合わせるように手を動かす。
堂内には重い空気が漂い、熱を帯びて息苦しくなっていく。
有希は頭痛を感じて目を瞑り、朋広はそんな姉を心配して、肩を抱いていた。
堂内はさらに熱を帯び、冬だというのに、汗が流れだすほどだった。
そして風間が経文を唱え終えると、有希はビクンと仰け反った。
心配した朋広が『有希!』と呼びかけると、すぐに目を開けた。
有希は真夏の灼熱に焼かれたように汗を流していて、『喉が・・・・』と水を欲しそうにした。
しかしすぐに目を見開いて、『朋広・・・・色が・・・・』と呟いた。
有希は朋広の頭上を指差し、『緑色のもやもやしたのが出てる・・・・』と声を震わせた。
『色が・・・・見える・・・人の色が・・・・。』
そう言い残し、有希は気を失った。
朋広は何度も呼びかけるが、有希は目を覚まさない。
『お前!有希に何した!?』
怒りに駆られた朋広は、風間に殴りかかる。しかしまた僧侶たちに押さえられ、『離せ!』と暴れた。
風間は朋広の前に膝をつき、『本当はお姉さんだけでよかったんだけど・・・』と前置きして、こう続けた。
『双子の弟ということなら、君にも同じ血が流れているはずだ。内に眠る力を開眼させて、お姉さんの力になってあげてほしい。』
そう言って、再び観音像に向き合い、経文を唱えた。
堂内はまた熱を帯び、激しい頭痛が朋広を襲った。
そしてあまりの痛みに頭が割れそうになり、悲鳴を上げて仰け反った。
意識が遠のき、そのまま気絶しそうになる。
ぼやける視界で辺りを見渡すと、堂内にはいつの間にか人が増えていた。
若い男や中年の女、それに年老いた者もいて、うろうろとその辺を歩き回っている。
朋広は不思議に思い、喉を鳴らして唾を飲んだ。
すると風間は、『開眼したようだね』と嬉しそうに笑った。
『ほら、見てごらん。以前の君なら見えなかった者たちが、今ならしっかりとその目に映っているはずだ。』
風間は周りに手を向け、辺りをうろつく人々を見つめた。
朋広はまた喉を鳴らし、『信じられない・・・』と漏らした。
『これ・・・・全部死んだ人間か・・・・?』
堂内を歩き回る者たちは、間違いなく人間だった。姿形、服装、動きや仕草、どれをとっても人間だった。
しかしたった一つだけ違いがあって、どの人間も目玉が無いのだ。
眼孔からすっぽりと抜け落ちたように、暗い闇を湛えた空洞になっている。
朋広は戦慄し、失禁しそうなほど震えた。
『ね?論より証拠、僕の話が本当だと信じてくれたろう?』
そう言って、また屈託のない笑顔を見せた。
『朋広君、僕は観音様から力を授かり、世の汚れを祓う使命を帯びている。ここにいる目の無い人間たちは、元々は目玉を持つ、生きた人間だった。しかし僕は、ここにいる人たちを殺す必要があった。なぜならここの人間たちは、人の皮を被った悪魔だからだ。』
風間は目玉のない人間に手を向け、『悪魔に光は必要ない。観音様の目の届く場所で、罪の汚れを祓うまでは』と叫んだ。
『ここにいるのは、世間で言うところの幽霊さ。でもその正体は、肉体から抜け出した人間の心なんだよ。』
『・・・・・・・・・。』
『心はね、人の姿をしているのさ。そして僕も朋広君も、観音様から加護を受け、人の心を見る力、そして話せる力を開眼させた。そして特別な武器を使うと、こうやって殺すことも出来る。』
風間は黒い数珠を握りしめ、懐から白木の短刀を取り出した。
そして辺りを歩き回る幽霊に目を向け、その中の一人に目を付けた。
『よく見ててごらん。』
そう言ってゆっくりと歩き出し、小柄な女の霊の前に立った。
『彼女はね、七人も人を殺した殺人鬼なんだ。しかもその中には、生まれて間もない赤ん坊もいた。他にも自分の恋人や、友人まで手にかけている。そうやって人を殺して、金に代わるものを奪い取る。そんな残酷なことをしておいて、平気でパチンコやホストクラブを楽しむような奴さ。これを悪魔と言わずして何と言う?』
風間は怒りを含んだ声で言い、白木の短刀を抜いた。
『ここへ来て随分たつが、罪を祓おうとする意識はまったくない。それどころか、未だに男と遊ぼうとしている。』
小柄な女の霊は、うろうろと堂内を歩き回っている。しかし動きを観察していると、デタラメに歩いているわけではなかった。
ヒクヒクと鼻を動かし、何かの臭いを探っている。
そして派手なスーツを着た、髪の毛の尖がった男の方に鼻を向け、真っ直ぐに歩き出した。それも嬉しそうに。
女はスーツの男の腕を取り、自分から抱きついて、唇を貪り始める。
しかし男の霊はそれを殴り飛ばし、何度も蹴りつけた。
そこへ他の霊も加わって、リンチでもするかのように、女の霊をいたぶった。
『ね?彼女は悪魔の集まる場所でさえ嫌われる、一番の厄介者なのさ。観音様も、あんな奴には愛想を尽かすだろう。だから僕が代わりに・・・・・こうする。』
風間は短刀を振り上げ、女の脳天に突き刺した。
その途端、耳を塞ぎたくなるような絶叫が響いた。
女は倒れ、頭を押さえてもがいている。風間はトドメとばかりに、数珠を握った手で殴りつけた。
重い音が響き、女の頭が潰れる。身体がピクピクと痙攣していたが、やがて動かなくなってしまった。
『これは処分ね。綺麗な水にしっかり浸けておいて。』
風間に言われて、二人の僧侶が女を運び出す。
堂内は静まり返り、朋広はただ唖然とするしかなかった。
『さて、今日はこんなところかな。とんでもない事ばかり目にして、君もさすがに参ってるだろう。家の近くまで送るから、ゆっくり休んでくれ。』
有希と朋広は僧侶におぶられて、車に乗せられる。そして家の近くまで来ると、『また明日迎えに来るよ』と言われた。
『しばらくは大変だろうけど、すぐに慣れる。君達には、僕の後継者になってもらいたいと思ってるんだ。そのうち仲間も紹介するからさ。』
そう言って朋広の肩を叩き、『お姉さんを頼んだよ』と、まだ気を失っている有希を預けた。
そして帰り際、車の窓を開けてこう言った。
『僕が君たちを鍛える。そして神道派の奴ら、別の仏派の奴ら、そういう邪魔な者たちを、僕たちで打ち負かそうじゃないか。なあに、数では負けてるけど、質ならこっちの方が上だ。僕たちこそが、喜恵門の力を正しく使っているんだと、周りに知らしめてやろうよ。』
そう言い残し、風間は去って行った。
その日の夜、有希と朋広はこれからのことを話し合った。
今日体験した、現実とは思えない出来事。それをどう受け止めたらいいのか、二人で悩んだ。
それに風間の話も、そう簡単に受け入れらない内容だった。
大昔に星野喜恵門なる人物がいて、幽霊や人の色が見える力を持っていた。
喜恵門の死後、それは代々子孫に受け継がれて、現代にまで残っている。
しかし世代を経るごとに、喜恵門の力は薄くなり、やがては消えてしまう。
そうならない為に、多くの仏像や御神体が造られた。
喜恵門の力を色濃く受け継ぐ、過去の者たちが、仏像や御神体に力を宿し、世代を経ても、その力を失わないようにしたのだ。
そして喜恵門の血を引く子孫ならば、仏像や御神体を依り物として、内に眠る力を開眼させることが出来る。
全ての仏像と御神体は、ある神社に祭られていた。しかし明治政府の神仏分離令により、この国の宗教は、一時混乱状態となった。
その際の混乱で、多くの仏像や御神体が行方不明になってしまった。
中には焼却されたり、粉々に壊れてしまった物もある。
しかし数体の仏像と御神体は、未だに残っている。
風間の寺院に立っていた、あの観音菩薩もそのうちの一つだった。
有希と朋広は、その観音菩薩を依り物とし、風間の手で力を開眼させた。
そして風間がなぜそんな事をしたかというと、ある目的の為だった。
『全ての御神体と仏像を、この寺院に集める。喜恵門の力を、僕たちで管理するのさ。それがきっと、世の中にとって一番良いことなんだ。』
風間は全ての仏像と御神体を我が物とし、その力を使って、世の汚れを祓いたいのだと言った。
しかし異なるは宗派や、別の宗教の者が邪魔をしてくるので、とても困っていた。
風間は喜恵門の力を受け継ぐ人間の中でも、仏教系の組織に属していた。
しかし思想や理念が合わず、元いた宗派を追い出されてしまったのだ。
風間は数人の仲間と共に、新たな宗派を立ち上げた。観音菩薩を戴く、この世の救済を目的とした宗派だ。
そのやり方は過激で、世を汚す者がいれば、容赦なく殺してしまう。
悪さを働く人間というのは、心根まで悪に染まっている。そんな人間は、悪魔以外の何物でもないという思想だ。
もちろん改心を促す努力もしてきたが、心根が悪に染まっている者には、馬の耳に念仏であると諦めた。
しかし過激なそのやり方ゆえに、元いた宗派から厳しく糾弾されたり、また神道系の者たちからも、危険人物として敵視されていた。
時には衝突し、酷い時には殺し合いに発展することさえあった。
数で劣る風間の宗派は、戦いとなれば不利になる。だからその過激な活動は、じょじょに成りを潜めていった。
しかし風間は諦めたわけではない。
幽霊と話せるという力を利用して、政界や財界に、細いながらもコネクションを築いた。
そして司法関係の人間にもコネクションを伸ばした。捜査や事件解決に協力するという約束の元に、複数の人間を殺した殺人鬼ならば、その手に掛けてもいいと認めてもらった。
官僚や政治家、それに財界人を味方に付けることで、風間は自分の宗派を維持した。
しかし敵対する宗派や神道系の者たちもまた、国に通ずるコネクションが無いわけではない。
このまま風間と別の宗派が争えば、事は大きくなり、喜恵門の力が明るみに出る可能性がある。
それはすなわち、政治家や官僚、それに司法関係者や財界人が、喜恵門の力を利用していたと、世間に漏れてしまうことを意味する。
そう判断したそれぞれのコネクションの政治家や財界人は、派手な争いは慎むようにと釘を刺した。
喧嘩をしたければしてもいいが、決して大事にしてはいけない。
そう約束するなら、極悪人に限って殺人を許容する。
しかし、もしこの約束を違えたならば、大量殺人、及び国家転覆を狙ったテロとして、国を上げて制裁を加える。
以後は喜恵門の力は国が管理し、一切の宗教人の手には触れさせない。
それぞれのコネクションの政治家や官僚は、喜恵門の力を受け継ぐ者たちに、そう約束させた。
この約束は、喜恵門の力を受け継ぐ、ほとんどの組織が受け入れた。
もちろん風間の宗派のそのうちの一つで、せっかく立ち上げた自分の宗派を、国になど潰させたくなかった。
派手は喧嘩は国を敵に回すが、”節度を守った大人の喧嘩”ならば、国は見逃してくれる。
そして極悪人に限っての条件付きで、殺人まで許容してくれた。
風間は上手く立ち回り、敵対する宗派や宗教の者を、不意をついて殺していった。
それと同時に、世を乱す極悪人を、その手で裁いていった。
しかし長くそんな事を続けていく中で、自分でも気づかないうちに、大きな疲れが溜まっていった。
人を殺すことを日常とする。果たしてそんなことを、観音様は望んでおられるだろうか・・・・・?
世の為とやってきたことだが、今までの自分の歩みを振り返って、それは観音様のご意志に叶っていることだろうか?
その思いは日に日に膨らみ、時間と共に、風間の過激さは成りを潜めた。
風間について来た仲間たちは、彼が勢いを失くしたことに落胆し、袂を別つ者も現れ始めた。
今まで散々人を殺してきたクセに、今さら何を弱気になっているのかと。
元々少なかった仲間は、さらに数を減らし、風間の宗派は力を削がれていった。
そして風間自身も、宗派の頂点から退くことを決意した。
自分が戦えるのは、もって後十年ほど。きっとその頃には、心身共に疲れ果てている。いかに世の汚れを祓う為とはいえ、人を殺すなど出来ないだろうと思った。
自分は近いうちに退く・・・・それならば、後継者を探さなければ・・・・。
この時、風間はある噂を耳にしていた。
『ここから三つ離れた街に、菩薩や女神と呼ばれる女性がいる。彼女は容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、それに加えて芸術にも秀で、さらには慈愛に溢れる心の持ち主である。そしてその慈愛でもって、弱者や悩める者に手を差し伸べている。一部では、彼女を観音菩薩の化身と崇拝する者たちもいるという。その女性の名前は、野々村有希。幼い頃から神童と呼ばれ、弱者を救う為に生まれて来たような人間だ。』
仲間内からそんな噂を聞き、風間は有希に会ってみたいと思った。
そして自分の眼鏡に叶う者ならば、後継者に育て上げようと考えた。
風間は有希の噂が本当かどうか確かめる為に、しばらく彼女を観察した。
そして数日の観察の後、噂に違わぬどころか、噂以上に聡明で心優しき人物であると分かった。
しかも調べを進めていく内に、有希もまた喜恵門の子孫であることが分かった。
それを知った風間は、飛び上がるほど喜んだ。
有希の人柄、能力、そして喜恵門の血を引いているという事実。
これ以上自分の後継者として相応しい人物はいない。
そして今日、有希に接触してきた。
寺院へ連れて行き、自分の目的や活動内容を話し、そして内に眠る力を開眼させた。
朋広はおまけであったが、しかし彼も力を開眼させることになった。
二人は今日の出来事を、真剣に話し合った。
朋広は、これ以上風間に関わるのはやめるべきだと言った。
奴のやっている事は、ただの犯罪であり、しかも話の内容が事実とするならば、頭のイカれた殺人鬼であると。
しかし有希は違った。
これは観音様が与えて下さった、運命の出会いであると言った。
その証拠に、自分たちは超人的な力を身に着けた。
それは観音様のおかげであるし、風間は私たちを導く使者であると。
朋広はその意見に反対し、考え直すように説得した。
しかし有希は引かない。
今日の出来事は、きっと私たちの人生を変えてくれる。
私は弱い人や、困っている人を助ける為に生まれて来た。だから今日の出来事は、観音様が与えて下さった転機に違いない。
自分の中に眠っていたこの力も、きっと観音様が与えて下さったものだ。それはすなわち、汚れた世の中を救えという意味だ。
そう言って、風間との出会いを運命的なものであるように語った。
有希はとても頑固で、自分がこうだと決めたら、どんな説得も受け入れない。
そんな有希の性格をよく知る朋広は、これ以上説得するのは無理だと諦めた。
それならば、やはり自分が有希を守るしかない。
風間の手から、有希を利用しようとする人間の手から、命に代えても守らなければいけない。
なぜなら自分は、その為に生まれてきたのだから・・・。
朋広は、胸の中にそう覚悟を刻み込んだ。

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM