霊体解剖 第十二話 図鑑(2)

  • 2015.06.28 Sunday
  • 14:01
JUGEMテーマ:自作小説
翌日、風間はまた有希と朋広に会いに来た。
二人は寺院に連れて行かれ、観音像の前で瞑想をさせれた。
『修行を積めば、思い通りに力を操れる。これから毎日、観音様の前で瞑想に励むように。』
二人は薄暗い堂内で、二時間も瞑想をさせられた。
これを一ヶ月ほど続けていると、やがて二人の身に変化が起きた。
有希は人の色がより鮮明に見えるようになり、揺らめきや濃度で、心理状態まで把握出来るようになった。
朋広は幽霊が見えるだけでなく、直接手で触れたり、会話まで出来るようになった。
風間の言う通り、一ヶ月間の瞑想は、二人の力を引き上げた。
それからさらに二ヶ月の修行を積み、二人は完全に力をコントロール出来るようになった。
人の色を見たくない場合は、その力をオフにすることも出来るし、特定の人間の色だけを見ることも可能になった。
それは朋広も同じで、幽霊を見たくない場合は、視界から消すことが出来る。
それに深いコミュニケーションが出来るようになり、幽霊の心を内を探ることも可能になった。
風間はそんな二人の成長を喜び、『君たちこそ後継者に相応しい』と褒めちぎった。
『さて、修行も大事だが、実践の空気を感じるのも大事だ。今日は僕に同行し、実際に悪魔を祓うところを見てほしい。』
そう言って二人を連れ出し、住宅街の細い路地に向かった。
下校する小学生たちが、有希と朋広の目の前を通り過ぎて行く。
しばらくすると、下校の集団からポツンとはぐれた、一人の少女が歩いて来た。
まだランドセルが大きく感じられるほどの年頃で、俯きながら石を蹴っている。
そしてそのすぐ後ろには、キャップを深く被った男が歩いていた。
チェックのシャツに、薄汚れたスラックス。靴は安物のスニーカーで、無表情のまま目の前の少女を見つめている。
風間は住宅の陰に隠れながら、『あの男、もう三人もの少女に暴行を働いている』と言った。
『この辺りで下校中の小学生が襲われる事件が相次いでいてね、警察から僕たちに捜査協力の依頼が来たのさ。しばらく調べた結果、あの男が怪しいと分かった。そしてさらに調べていくと、あの男の自宅から少女への暴行を撮影したビデオが見つかった。』
それを聞いた有希と朋広は、顔をしかめて男を見つめた。
男はこちらに気づいておらず、目の前の少女に目を向けている。
『あの・・・・証拠があるなら、警察に任せればいいのでは・・・・、』
有希が問いかけると、風間は首を振った。
『いいや、駄目だ。どうせ警察に捕まったところで、出所したらまたやるよ。性犯罪者ってのは、何度でも同じ事を繰り返すんだ。』
『でもそういう犯罪者を裁く為に、法律があるはずです。それに出所した人全員が、再び罪を犯すとは限らないと思います。』
有希は毅然と言い返す。どんな人間でも、罪を悔いて改心する可能性があるはずだと。
しかし風間は首を振った。『悪魔に改心の可能性などないよ』と。
『僕だって、最初は悪魔を諭そうとしたさ。でもね、その度に裏切られるんだ。奴らは平気で嘘をつき、僕たちを欺いた。そしてまた犯罪に走る。あの男だって、今僕たちが裁かなければ、また犠牲になる子供が出てくるんだよ。』
『でも・・・・、』
『いいかい?あの男が捕まった所で、せいぜい数年でシャバに戻って来られるんだ。だけど乱暴された子供は、一生傷ついたままだ。心に深い傷を負い、それは大人になっても消えることはないだろう。』
『そうだとしても、やはりここは警察に・・・・・・、』
『何の罪もない子供が、一生消えることのない傷を抱えてしまう。ずっと苦しむんだよ。だけどあの男はそうじゃない。塀の向こうで何年か大人しくしていれば、それで済んでしまう。そして出てきたらまたやる。強姦で死刑は有り得ないから、欲望に負けて罪を重ねるのさ。』
『だからといって、ここであの人を殺すつもりじゃ・・・・・、』
『ああ、殺す。なぜなら僕たちは、特例で殺人を認められているんだからね。』
『でもそれは、極悪人に限ってのはずです。法律で死刑に出来ないような人間でも、特例の殺人は認められるんですか?』
有希は負けじと言い返す。どんな人間でも、絶対に更生の余地はあるはずだと。その可能性を探ってからでも、裁きを下すのは遅くないと。
風間は唇をすぼめ、有希の顔を見つめた。
理屈で言い返すことは簡単だし、言葉巧みに丸め込むことも出来る。
しかしそれをやったところで、根本的に有希の考えを変えることは出来ないだろうと思った。
風間がじっと考え込んでいると、有希は『やはり警察に任せるべきです』と言った。
『私は先生に出会えて、とても感謝しています。観音様から力を頂き、先生は私たちを鍛えて下さった。でもやっぱり、殺人なんて間違っていると思います。悪人だから殺してもいいだなんて、きっと観音様は望んでおられないはずです。』
有希の凛とした態度は変わらない。例え相手が自分の師匠であっても、正面から言い返す。
朋広は腕を組んで険しい顔をしていて、『俺も同感だな』と呟いた。
そんな二人の態度を見て、風間は困ったように頭を掻いた。そして苦笑いを見せながら、『いいよ、そこまで言うのなら』と肩を竦めた。
『君たちの言うとおり、今回はあの男を見逃そう。』
その言葉を聞いて、有希はホッと笑顔を見せる。しかし風間はすかさずこう言った。
『有希、朋広。君たちはまだ何も知らない。そして何も分かっていない。今日あの男を見逃したことで、この先いったい何が起こるか?自分の目で確かめることになるだろう。』
そう言い残し、風間は引き返す。『後は君たちの好きにしたらいい。警察に行くなりなんなり、思うようにしてみることさ』と手を振りながら。
風間は去り、有希は男を振り返る。
『ねえ朋広、あの人、私たちで自首を促しましょ。』
有希は男に向かって歩いて行くが、朋広はそれを止めた。
『危険だよ。』
『大丈夫よ、こっちには証拠があるんだから。暴行のビデオを押さえてるって言えば、言い逃れは出来ないでしょ?』
『そのビデオはここにはないよ。後で風間さんからビデオを借りて、警察に渡そう。好きにしていいって言ってくれたんだから。』
『駄目よ。あの人は今も子供を狙ってる。すぐ警察に連れて行かないと、また酷いことをするわ。』
『アイツは犯罪者だぞ?正面から話しかけるなんて危険だよ。とにかく警察を呼んで、事情を説明しよう。そもそも捜査協力の依頼をしてきたのは警察なんだから、事情を話せばすぐに捕まえてくれるよ。』
『いいえ、それじゃ駄目。法律で罪は裁けても、あの人の心まで裁くことは出来ない。改心を促さなかったら、きっとまた罪に走るわ。』
『だから・・・・それは俺たちがどうこう出来ることじゃ・・・・、』
『何言ってるのよ、その為に私たちの力があるんじゃない。観音様から授かった御力が。』
有希は朋広の手を払い、男の方へ歩いて行く。
朋広は苦い顔をしながら、渋々姉について行った。
有希は『すみません』と話しかける。男はビクリと振り返り、警戒する目で有希を睨んだ。
『ちょっといいですか?お話しがあるんですが・・・・・、』
そう切り出し、言葉を選びながら、男の罪について言及していく。
子供が暴行されていること、あなたが怪しいということ、そして暴行を撮影したビデオのこと。
有希は丁寧に、そして柔らかい口調で話していった。そして最後に自首を促し、『警察に行きましょう。私たちも付き添ってあげますから』と微笑んだ。
有希は男の色を見る。黄色に少しだけ青が混ざった色が、ひどく揺れていた。
『怖いのは分かります。でもあなたは・・・・少し幼かっただけ。強い黄色が、それを物語ってる。だから更生して大人になれば、罪を重ねることはありません。罪を悔やんで改心すれば、もう子供を狙うだなんて悪さは・・・・・、』
そう言いながら、有希は手を伸ばす。菩薩のような慈愛でもって、男の心を救おうと。
しかしその瞬間、朋広が二人の間に割って入った。
有希の前に立ち、彼女を守るように拳を構える。
『・・・・・・・・。』
男はポケットから、小さなナイフを取り出していた。
それを向けながら、ゆっくりと後ずさる。その顔はひどくうろたえていて、明らかに目が泳いでいた。
朋広はじっと男の目を見据え、自分からは動かない。
刃物を持った相手に対して、下手な刺激を与えたくなかったからだ。
気を抜かず、男のほんの些細な動きにまで気を配る。ナイフに対しての戦いを、頭の中でシュミレーションしていた。
しばらく二人は睨み合い、やがて男の方が朋広の迫力に負けた。
踵を返し、『来るなよ・・・』と釘を刺して、一目散に逃げ去って行く。
有希は『待って!』と追いかけようとしたが、朋広が止めた。
『だから危ないって言ったろ!』
『でも・・・・・、』
『いいから警察に行こう。アイツが今日子供を襲うことはないよ。その間に捕まえてもらうんだ。』
有希は納得していなかったが、朋広はそのまま警察に行った。
事情を話すと、すぐに署長室に通された。
署長と数人の刑事が出て来て、詳しく話を求める。
署長は風間に連絡を取り、二人の話が事実であることを確認した。
有希と朋広は家に帰され、警察は男の自宅に向かった。
しかし男はすでに逃亡していて、家のパソコンから暴行を撮影した映像が見つかった。
警察はすぐに男の追跡を開始し、二日後に拘束した。
その連絡を受けた風間は、有希と朋広を連れて署に向かった。
そして有希と朋広は、そこで目を覆いたくなるような物を見せつけられた。
それは男が子供を暴行する映像だった。
男が逃亡している際、また新たな犠牲者が出たのだ。
『どうせ自分は警察に捕まる。それなら心いくまで好きなことをして、その後に自殺するつもりだった。』
捕まった男は、こう語った。
そしてその言葉通り、男は罪を重ねた。どうせ自殺するのだから、好きなだけ欲望を満たそうと、二日の間に三人もの子供が犠牲になった。
男はその際の犯行を、小型のビデオカメラで撮影していた。
暴行の様子が、順番に画面に映し出される。
おぞましい光景が、署長室のテレビ画面で再生され、有希は口元を覆って涙を流した。
何の力もない幼い子供が、歪んだ心の持ち主に乱暴される。
悲鳴・・・・絶叫・・・・親の名前を叫び、助けを求める・・・・。
血を流し・・・・顔を歪め・・・・地獄を見るよな顔をしながら、だんだんと弱っていく・・・・・。
有希は声を漏らして泣き、画面から顔を逸らした。
朋広は姉の肩を抱きながら、唇を噛みしめてその映像を睨んでいた。
・・・あの時・・・・自分が逃がさなければ・・・・・。
あの場で男を捕まえておけば、こんな事態にはならなかったはずだと、酷く悔やんだ。
映像は終わり、室内に重い空気が流れる。
有希はしばらく泣き続け、朋広は苦い顔で足元を見つめていた。
その静寂を破るように、ポツリと風間が言った。
『一番最後に乱暴された女の子だが、発見されて数時間後に亡くなった。お腹の中が、ひどく傷ついていたそうだ・・・。』
有希は顔を上げ、風間を見る。涙の筋をなぞるように、また滴が流れた。
『それに最初に犠牲になった子は、子供が産める身体じゃなくなったそうだ。二番目に暴行に遭った子も、酷いショックで口が利けなくなってる。』
『・・・・・・・・・。』
『心も身体も、まだまだそんなことが出来る年齢じゃないんだ。しかも見知らぬ大人に、力で押さえつけられ、痛みと恐怖を味あわされる。いったいどれほど怖かったか・・・・・。女性の君の方が、僕なんかよりもこの子たちの気持ちが分かるんじゃないか?』
風間は淡々とした口調で語り、ゆっくりと立ち上がった。
『犯人は捕まった。これから裁判にかけられ、しばらくは塀の向こうにいるだろう。でも必ず出て来る。そしてその時、また罪に走るだろう。性犯罪は病気と一緒だ。更生の余地などないんだ。生かしておいたら、この映像と同じことが、また繰り返されるだけさ。』
風間の言葉は、有希の胸を抉る。しかしこれだけでは終わらなかった。
刑事がビデオデッキをいじり、別の映像を再生させたのだ。
そこにはいくつも犯罪の様子が詰まっていて、さらに有希の心を抉った。
傷つく子供、それを楽しむ男。しかもこの映像は、その男が撮影したものであり、後に自分の欲望を満たす為に使う物であった。
『いいかい有希。今回捕まったあの男は、犯行後に自殺するつもりだと語った。しかしそれは嘘だ。もし自殺するつもりなら、暴行の様子をビデオに撮ったりはしないだろう。こうやって映像を残すということは、また後で楽しむつもりだったのさ。アイツは最初から死ぬ気などなかった。ただ自分の欲望を満たしたかっただけなのさ。』
風間の声は相変わらず冷静で、『もういいですよ』とビデオを止めさせた。
有希は酷く傷つき、顔を覆って項垂れている。
その隣では、朋広が激しい怒りを抱いていた。
子供を傷つける凶悪な人間。それはとても許せないものだったが、怒りの源はそれではない。
一番の怒りは、こんな映像を見せつけた、風間に対してだった。
朋広は気づいていた。
風間はあえてこういう映像を見せつけることで、有希の心を乱そうとしていると。
有希はとても芯の強い人間だが、誰かが傷つくことには耐えられない。特に弱者がいたぶられるのは、自分のことのように辛くなる。
有希はとにかく純粋で、この世に本物の悪人などいないと信じているのだ。
そのことを知っている朋広は、風間の意図を見抜いていた。
・・・この男は、有希を洗脳しようとしている・・・・。有希の心を乱し、その後に優しい言葉を投げかけるつもりだ・・・・。
・・・・でもそれは、ただの優しい言葉じゃない。自分の歪んだ思想が織り混ざられた、有希の価値観を書き変える言葉・・・。
朋広は立ち上がり、「出よう」と姉の腕を掴んだ。
有希は身体に力が入らず、椅子から立ち上がろうとしない。
朋広はサッと抱き上げ、会釈を残して部屋から去ろうとした。
すると風間もついて来るので、『あんたは来なくていい』と睨んだ。
『これ以上俺たちに関わらないでくれ。有希が苦しむ。』
『すまない。でもこれは必要な事だったから・・・・・、』
『いいよ、話すことなんてない。もう二度と会わない。』
朋広はそう言い残し、警察を後にした。
有希は自分が守る。あんな男の好きにさせるものか。
そう決意し、家路につくが、翌日にはもう風間に会う羽目になってしまった。
昨日の映像を見せられた有希が、朋広の制止を振り切って風間に会いに行ったのだ。
朋広は仕方なくついて行き、風間に会った。
風間は本堂の中で座っていて、『きっと君たちの方から来てくれると思ったよ』と微笑んだ。
朋広にとって、その笑顔は憎かった。しかし有希はホッとしたように微笑み返し、風間の前に座った。
『昨日・・・・あんなに酷いものを見せられて、私は思いました。観音様から頂いた御力を使って、一人でも多くの弱い者を救えないかと。でも今の私には、それだけの力はありません。だから・・・・もっと鍛えて頂きたいんです。お願いします。』
そう言って手をつき、頭を下げた。それを見た瞬間、朋広は諦めた。
こうなってしまったら、有希はどんな説得も聞かない。
風間に師事し、何が何でも自分の意志を貫こうとする。
有希が頭を下げる姿を見て、朋広は悲しみ、そして風間は喜んだ。
『大丈夫、もっと鍛えてあげるさ。共に世の汚れを祓おう。』
有希の肩をポンと叩き、『君たちに見てほしい物があるんだ』と言った。
『昨日は酷い映像を見せてしまったけど、世の中で起こる惨事は、あれだけじゃない。もっと多くの現実を、君たちに知ってほしいんだ。』
そう言ってニコリと笑い、『別の部屋に行く、ついて来なさい』と本堂を出て行った。
有希は立ち上がり、風間の後を追う。そして朋広とすれ違う瞬間、射抜くような視線を向けた。
『朋広、私を支えて。』
そう言って、有希は本堂を出て行く。
朋広は姉の背中を見つめながら、その言葉を繰り返し頭に浮かべた。
『私を支えて』
朋広にとって、これほど自分を奮い立たせる言葉は無い。
自分が生まれて来たのは、姉を支える為であり、その為だけに生きていると信じていた。
だから何があっても、有希を支える。今も昔も、そしてこれからもそれは変わらないのだと、胸に刻み込んだ。
しかし、有希の想いと朋広の思いは、かなりズレていた。
有希は風間と同じようになりたかった。世の汚れを祓い、弱い者や困っている者を救いたかった。その信念を、朋広に支えてほしかったのだ。
しかし朋広の思いは違った。このまま風間の元にいると、有希の純粋な心が歪められてしまう。そうなる前に、風間の元から引き離す。
必要であれば、風間を殺してでも・・・・・。
朋広にとって有希を支えるということは、その純粋な心を守り抜いてみせるという、そういう意味だった。
この日、二人はそれぞれの決意を胸に、風間から多くの資料を見せられた。
それは世の中で起きる凶悪犯罪の資料で、写真や映像も数多くあった。
そしてその凶悪犯たちがどういう人間であるか、出所後はどういう人生を歩んでいるのか。
そんな資料も、大量に読まされた。
ほとんどの凶悪犯は、家庭に問題があったり、酷い虐待を受けていたり、また幼い頃に事故や事件に巻き込まれ、トラウマを抱えていた。
そういうトラウマが心を歪め、犯罪に走らせる。
こういう者たちを、『反社会的な者』と呼ぶのだと、風間は言った。
そして『反社会的な者』は、悪魔ではないと語った。
彼ら、そして彼女らは、不幸な境遇の中で歪んでしまっただけであり、更生の余地は充分にある。そして救済が可能な者たちであると。
それに対して、『非社会的な者』がいると続けた。
家庭に問題もなく、虐待も受けておらず、これといったトラウマを抱えているわけでもない。
それにも関わらず、幼いころから常軌を逸した考えを持ち、平気で誰かを傷つける。
それは快楽の為であったり、好奇心の為であったり、ただなんとなくであったりと、およそ許すことの出来ない理由であると。
こういう者たちは、生まれながらにして『悪の芽』を抱えており、それが開花した瞬間、『悪魔』になってしまうと。
こういった『非社会的な者』は、母の腹の中にいる時から、すでに悪魔の素養が宿っている。
だから更生の余地などないし、救済する必要もない。
強く、そして熱を振るって、風間はそう語った。
『反社会的な者』の救済は、風間の目的とするところではなかった。
こういう者たちの救済は、別の宗派が行っており、自分たちの仕事は別の所にあると教えた。
それは『非社会的な者』の抹殺。風間の言うところの悪魔退治である。
有希は熱心に話を聞き、真剣な眼差しで資料を読む。
寺院に溜めこまれた多くの資料。それは確実に有希の心に変化を与えた。
悪は悪であり、裁かれても仕方のない存在であると。
風間が長年溜めこんだ多くの資料。ここはいわば、悪魔の記録を集めた図鑑である。
有希は知らず知らずのうちに、『非社会的な者』に憎悪を抱えていた。
弱者をいたぶる悪魔、罪もない人を傷つける悪魔、そういった悪魔は、観音様から授かった力で、粛清していかねばならないと。
有希の純粋な心は、風間の思惑通りに歪められていく。
そんな姉の様子を、朋広は心を痛めながら見つめていた。
あれから十年が経ち、有希も朋広も、風間の跡を継ぐに相応しい力を手に入れた。
そして・・・・・二人の師匠である風間はもういない。
自分の弟子の手によって、その命を消されてしまった。
風間は後悔していた。このままでは有希と朋広が、悪魔の道へ進んでしまうと。
風間は命を失い、肉体を失い、しかしそれでもこの世に留まり続けている。
なぜなら歪んで行く二人の弟子を、どうしても止めたかったから。
そしてあの二人を間違った道へ引きずり込んでしまったことへの、罪滅ぼしをしたかったから。
風間は祈る。観音菩薩に祈る・・・・。
どうかあの二人に、救いがもたらされるようにと・・・・・。

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