霊体解剖 最終話 解剖(2)

  • 2015.07.07 Tuesday
  • 12:28
JUGEMテーマ:自作小説
鈴音は麻薬入りの線香を食べようとした。
咄嗟に亜希子が止めると、鈴音は思わぬ行動に出た。
亜希子の口の中に、線香を押し込んだのだ。
いきなりの出来事に、亜希子は思わず線香を飲み込んでしまう。
「ちょっと!何をして・・・・・、」
そう言いかけた途端、目の前の景色が歪んだ。
足元がおぼつかなくなり、そのまま地面に倒れ込んでしまう。
《何・・・・?これが覚醒剤の効果だっての・・・?いくらなんでもこんなに急に効くわけがない。これ・・・・何か別の薬なんじゃ・・・・・、》
そう思った時、自分の上に誰かが覆いかぶさってきた。いったい誰かと思って目を向けると、それは基喜だった。
「なん・・・・で・・・・・?」
亜希子は呟き、基喜に触れる。基喜も顔を向け、「亜希子・・・・」とその手を握った。
二人はそのまま意識を失い、暗い闇の中へと沈んで行く。
音の無い深海を漂うように、二人で手を繋いで、延々と続く闇の中を彷徨っているようだった。
そして次に目を開けた時、亜希子と基喜は、柱に鎖で繋がれていた。
服は脱がされ、全裸の状態で縛りつけられている。
「どこ・・・・・?」
亜希子はぐるりと回りを見渡す。
どうやらどこかの納屋のようで、天井にオレンジ色の電球が灯っていた。
周りには使い古されたトラクター、錆びた鍬や鎌、それに田んぼに張る鳥除けの目玉風船や、干しっぱなしになっている玉ねぎがぶら下がっていた。
「ここは・・・・どこかの納屋?」
そう呟くと、基喜が「光が射してる」と前を睨んだ。
そこにシャッターがあって、少しだけ開いた隙間から光が射しこんでいた。
するとそのシャッターがガラガラと上がって、勉と鈴音が入って来た。
「お、目え覚めてるやん。」
「ホンマや。もうちょっと眠ってるかと思ったのに。」
勉と鈴音は、鎖に繋がれた二人を見て、可笑しそうに笑う。
「ちょっと!これはどういうこと!?どこよここは?」
亜希子は身を捩って叫ぶ。すると鈴音が「ここは家の物置き」と答えた。
「それは見れば分かるわよ。どうして私たちをこんな場所に縛ってるのか聞いてるの。」
「どうしてって・・・・・解剖するから。」
「は?」
「は?じゃなくて、あんたらの霊体を解剖すんの。な?」
鈴音は笑顔で言いながら、勉に目を向けた。
「亜希子さん、基喜さん。」
二人の名前を呼びながら、勉はゆっくりと近づく。
そして「二人とも、やっぱり不合格だそうです」と言った。
「は?何?」
亜希子は顔をしかめて聞き返す。基喜も訝しい顔で勉たちを睨んだ。
「だからお二人が不合格ってことです。神社の後継ぎとして。」
「は?」
「あのね、亜希子さんのお父さんが言っていたんですよ。『あいつらじゃ駄目だ』って。でも一応は神社を継ごうと頑張ってるみたいだから、論文が出来上がるまで待っていたそうです。」
「ちょっと・・・・・何を言ってるのかさっぱり・・・・、」
「いいから聞いて下さい。」
亜希子の声を遮り、勉は続ける。
「亜希子さん達の論文を見て、お父さんはがっかりしたそうです。この程度の論文しか出来ないんじゃ、やっぱり二人に神社は任せられないって。だから僕たちを跡継ぎにしようと考えたんですよ。」
勉はそう言って、後ろを振り返った。
そして半開きになったシャッターに向かって、「入って来て」と言った。
すると僧服を着た屈強な男たちが入って来て、亜希子は「あんたたち・・・・、」と震えた。
「なんで!?あんたたちは風間の寺院にいた僧兵じゃない!どうしてこんな所にいるのよ!?」
そう叫ぶと、勉は「この人たちは、僕と鈴音の味方なんです」と答えた。
「行き場所を失くしたみたいで。だから僕たちが飼ってあげる事にしたんです。」
「はあ?ちょっとさ・・・・さっきからわけが分からないんだけど・・・・。いったい何がどうなってるわけ?」
うんざりしたように言って、「いったい何が目的なのよ?」と睨んだ。
「不合格だとか、私たちのお父さんがどうとか、それにその僧兵たち・・・・。まったく意味が分からない。詳しく教えてよ。」
亜希子は眉間に皺を寄せて睨む。
そんな亜希子を見て、鈴音はクスクスと笑った。
「ええよ、ほな教えてあげる。」
鈴音は笑顔を保ったまま、今に至るまでの状況を詳しく教えた。
事の始まりは、勉と鈴音に喜恵門の血が流れているということが分かったことだった。
二人は喜恵門の子孫でありながら、五体満足、健康そのものの身体で生まれてきた。
そのことを知った星野は、勉と鈴音に目を付けた。
『もし亜希子と基喜が使い物にならなかったら、この二人を跡目にしよう。』
そう思った星野は、喫茶店に有希と朋広が乗り込んで来たあの日、亜希子たちの力を試した。
しかし結果は散々で、星野が力を貸さなければ、確実に負けていた。
そんな状況の中、勉と鈴音は意外に冷静であり、マネキンに霊体を移してまで、朋広を罠に嵌めた。
その行動力、冷静さ、そして何より、内に秘めた大きな力に、星野は感心した。
この時点で、星野は勉と鈴音を後継者にと考えていた。
しかし亜希子と基喜は実の子供であり、もう一度だけチャンスを与えることにした。
それがあの論文だった。
有希と朋広の霊体を徹底気に調べ上げ、新たな発見をもたらす。
そこまでしてくれるのなら、亜希子たちに神社を任せようと考えていた。
しかし二人の作り上げた論文は、とても星野の眼鏡に叶うものではなかった。
だから勉と鈴音を跡目にすることに決めた。
説明を終えた鈴音は、「まあそういうことやから」と笑った。
「もう亜希子さんらは用無しってことな。」
「ちょ・・・ちょっと待ってよ!そんなの信じれない!お父さんが私たちを見捨てるなんて・・・・、」
「でも実際そうなってるねん。とりあえずあんたらを解剖して、色々と調べさせてもらうわ。」
そう言って勉を振り返り、「そっちはどう?」と尋ねた。
「もう霊体は切り離したで。」
勉は短刀を握り、ユラユラと振って見せた。
「これ便利な武器や。簡単に霊体だけ切り離せる。」
「ほなこっちに貸して。私もやるから。」
「出来るか?俺がやろか?」
「出来るってそれくらい。いっぺん私もやってみたかってん。お父さんとお母さん、それにおじいちゃんとおばあちゃんは、全部お兄ちゃんがやってもたやん。だから私にだって一回くらいやらしてえな。」
「ほな俺が教えたるからやれ。」
「いいって、一人で出来るから。」
鈴音は短刀を奪い、それを亜希子の喉元に突きつけた。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ!あんたたち・・・・・今なんて言った?お父さんやおじいちゃんをやったってどういうこと?」
「殺したんや。」
「こ・・・ころ・・・・、」
「そのつもりはなかったんやけど、お兄ちゃんが下手クソやから死んでもた。」
「な・・・・なんてことを・・・・・、」
「だってしゃあないやん。修行しとけって神主さんが言うから、まずは家族でやっただけ。」
「な・・・・何てことするの!自分の家族を殺すだなんて・・・・・、」
「いいや、家族ちゃうで。病院で取り違えられたんや。だから血は繋がってないねん。」
「は?」
「だって私とお兄ちゃんは喜恵門の血が流れてるのに、他の家族には流れていないんや。その事を神主さんが調べたら、生まれた病院で取り違えがあったんやって。」
「そ・・・そんなこと・・・・・、」
「信じられへんやろ?でもほんまのことやねん。お父さんもお母さんも、それにおじいちゃんもおばあちゃんも、誰も知らんかったみたい。もちろん私らも知らんかった。でも血が繋がってないんやったら、家族ちゃうからな。」
「・・・・・・・・・。」
「ははは!ビックリやろ?でもそんなんどうでもええねん。私にはお兄ちゃんがおったらそれでええから。」
「・・・・・・・・・。」
亜希子は目を見開き、恐怖と驚きに固まる。
隣ではすでに基喜の霊体が切り離されていて、霊体を失った身体がグッタリと項垂れていた。
「も・・・・基喜・・・・・。いったどうしたら・・・・・、」
そう言いかけた時、喉に激痛が走った。
「がッ・・・・・・・・・。」
悲鳴を上げようにも声が出せず、呼吸すらも出来なくなる。
「ああ・・・・だから言うたやん。俺がやるって。」
「だってやってみたかったんやもん。でもこれって失敗?」
鈴音は残念そうに言って、短刀を引き抜く。亜希子の喉から血が流れ、それと同時に息も漏れる。
勉はその傷口を覗きこみ、「これあかんやろ・・・・」と言い捨てた。
「もうじき死ぬで。でもまあ・・・・ええか。死んでからでも霊体は取り出せるから。」
「そやな。ほなほっとこ。」
二人は何でもないことのように言い捨て、基喜の霊体へ近づく。
そして短刀を振りかざし、胸を切り裂いた。
基喜の悲鳴が響き、その場に倒れる。勉はさらに短刀を振り上げ、霊体を切り刻んでいった。
亜希子はその様子を見つめながら、静かに息を引き取る。
そして次に意識を取り戻した時、自分の霊体もバラバラに切り刻まれていた。
頭と胴体が切り離され、手足も切断されている。
そこへ基喜の霊体を縫いつけられて、思わず悲鳴を上げた。
《嫌あああああああああ!》
悲鳴は稲妻のようにこだまし、鼓膜を破りそうなほど空気を揺らす。
そしてまた意識を失いそうになった時、ふと誰かの影が目に入った。
それは有希と朋広だった。
二人は観音菩薩の手の平に立ち、切り刻まれる亜希子を見下ろしている。
そして有希が微笑みながらこう言った。
《だから言ったでしょ?観音様の鉄槌が下るって。》
そう言って目を閉じ、そっと手を合わせた。
《悪魔に救済はいらない。いずれあなた達の父も、観音様が鉄槌を下す。そしてそれに与する者全てにも・・・・・。》
有希はまた微笑み、勉と鈴音に目を向けた。
《可哀想な子供たち・・・・。悪魔に惑わされ、人としての道を踏み外すなんて・・・・。でもあの子たちはまだ人間。どうか悪魔に変わる前に、改心しますように・・・・・。》
勉と鈴音に向かって手を合わせ、女神のように祈りを捧げる。
朋広は険しい顔で隣に立っていて、女神を守る武神のように、勇ましい眼光を放っていた。
《じゃあね、悪魔たちよ。救われることのない暗闇の中で、自分の犯した罪に焼かれるがいいわ。いつか罪が燃え尽きて、人間に生まれ変われることを願いながら・・・・・。》
有希と朋広は、観音菩薩の手に抱かれながら、ゆっくりと消えていく。
亜希子は《待ってよ・・・・》と呟き、《助けて・・・・・》と嘆いた。
《こんな・・・・こんな終わり方は嫌・・・・。自分が解剖の材料にされるなんて・・・・そんなのは耐えられない・・・・。》
深い絶望を感じながら、有希と朋広が消えていった宙を睨む。
すると目の前に短刀の刃が伸びてきて、眼球に当てられた。
《嫌!やめて!取らないで!》
目を閉じ、あらん限りの声で叫ぶ。
《お願いだからやめて!目はやめて!光を奪うのだけは・・・・・、》
強く懇願するも、刃は眼孔に押し込まれ、そのまま目玉を抉られてしまった。
《いやあああああああああああ!!》
右目が奪われ、光の半分を失う。すると今度は左目にも刃が伸びてきて、声にならない恐怖を覚えた。
左目に刃が刺し込まれ、残った光まで奪われようとしている。
勉と鈴音は笑顔でそれを見ていて、亜希子は無意識にこう呟いた。
《・・・・・・・悪魔。》
亜希子は仏に仕える者ではない。だから輪廻転生は信じていない。
しかし己の犯した罪は、車輪のように輪廻して、いつか自分に跳ね返ってくるのかもしれないと、目玉を抉られたながら思った。
有希と朋広は、歪んだ思想の元に何人も殺し、最後は苦痛の中で消えていった。
しかしあの二人には、観音菩薩の救いがもたらされた。
それはなぜか?
有希と朋広は、歪んだ思想ながらも、常に世の中の汚れを嘆いていた。
そして世を乱す悪魔を退治する為に、人を殺していた。
それは到底許される事ではないが、私利私欲の為に殺人を犯したわけではなかった。
あくまで世の中を善くしたいという、純粋な思いの元に犯した罪だった。
そして仏に仕える者として、最後まで観音菩薩を信じていた。
それが救いに繋がったのだとしたら、果たして自分は、有希たちと同じように救いがもたらされるだろうか?
己の為だけに有希と朋広を苦しめた自分は、誰かに救われることはあるのだろうか?
亜希子は真っ暗な闇の中で、いつまでも自問自答を繰り返す。
すると暗闇の向こうに、赤い何かが揺らいだ。
・・・・・それは鳥居だった。
まるで夜の海面に浮かぶように、暗闇の中にポツンと建っている。
亜希子は不思議に思う。
自分には目がないのに、どうして赤い鳥居が見えるのだろうと。
それは幻か?それとも頭に浮かぶただのイメージか?
原因は分からないが、それでもハッキリと赤い鳥居が見える。
そして赤い鳥居の向こうに、大きな丸い物が浮かんでいた。
それは人の眼球だった。
宙に浮かび、鳥居の向こうからじっとこちらを見つめている。
その目を見た途端、亜希子は思った。
あの目は自分に似ている・・・・・。いや、自分だけではない。基喜とも似ているし、父とも、そして有希や朋広とも似ている。
それに勉と鈴音の目にもそっくりだった。
そう思った時、鳥居の向こうに浮かぶ目が、いったい誰の目なのか分かった。
《・・・・喜恵門・・・・。》
亜希子は暗闇の中を歩き出し、鳥居に近づいていく。
そこにあるのは救いか?それともまったく別の何かか?
それは分からないが、暗闇の中でうずくまっているよりはいいと思い、足を進めた。
そして大きな目の近くまで来た時、亜希子に光が戻った。
失われた目が復活し、眩いばかりの光に包まれる。
その光はじょじょに収まり、周りに景色が浮かび上がる。
緑揺らめく深い森、時の重みを感じさせる石造りの鳥居。
そして目の前には分厚い紙の束があり、見慣れた文字が並んでいた。
《あれは・・・・私の論文・・・・。》
そう呟くと、どこかから基喜の声が聞こえてきた。
《亜希子・・・・・。》
《基喜!どこ?どこにいるの!?》
《すぐ隣だよ。でも会うことは出来ない・・・・・。》
《え?隣・・・・?》
《そうだ。でも俺たちの間には分厚い壁がある。だから会えない。》
《分厚い壁って何よ?》
《木さ。観音像の木。》
《観音像・・・・?》
《ああ。風間の寺院の観音像だ。俺たちは今、あの観音像の目玉になってる。》
《・・・・ごめん、意味が分からない。いったい何を言ってるのか・・・・・、》
混乱しながら呟くと、やがて勉と鈴音が論文の前にやって来た。
そして亜希子に向かって手を合わせ、瞑想のように目を閉じた。
《この子たちは何をしてるの・・・・?》
不思議に思って呟くと、基喜は《加護を祈ってるんだ》と答えた。
《加護?誰の?》
《自分たちの。どうか守ってくれますようにって。》
《はあ?なんで私がこの子たちを守るのよ?》
亜希子は苛立った声で言う。なぜ自分が殺した相手に加護を求めるのか?なぜ殺した相手が、自分を守ってくれると思うのか?
さっぱりわけが分からず、ただため息が漏れる。
そんな亜希子のため息を聞いて、基喜はこう答えた。
《なあ亜希子。俺たちはもう人間じゃない。この観音像の一部なんだよ。》
《・・・・どういうこと?》
《そのままの意味だよ。俺たちは観音像の目になった。なぜならこの観音像は、亜希子によって目を潰されたから、力を発揮出来ないんだ。だから代わりになる目玉が必要だった。喜恵門の力を引く者の目玉が・・・・・・。》
そう言って、基喜は口を噤む。
亜希子は《それって・・・・・、》と言いかけ、基喜と同じように口を噤んだ。
目の前では勉と鈴音が手を合わせていて、強く自分たちへの加護を祈っている。
そして顔を上げ、二人とも実に涼やかな顔で微笑んだ。
亜希子は心まで凍りつくほどの悪寒が感じ、暗闇にいる時よりも強い絶望を覚えた。
ここには極楽も地獄もなく、救いも罰もない。
勉と鈴音の道具として利用されるという、終わりの無い悲しみがあるだけだった。
《・・・昔から・・・・こうして延々と続いてきた、希恵門の血筋、争い、呪い・・・。私と基喜が、その呪いの一部になるなんて・・・・・。》
亜希子は目を閉じ、どうかあの世へ送ってくれと願う。
境内に風が吹き、カサカサと落ち葉が流れていった。



            -完-

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