VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第一話 占い師VS路上芸術家

  • 2015.12.05 Saturday
  • 10:55
JUGEMテーマ:自作小説
「占い」というと、人は何を思い浮かべるだろう?
手相?タロット?それとも四柱推命?
オカルトなところだと水晶とか前世とか、占いだか霊能力だか分からないものもある。
世の中には様々な占いがあるけど、でもやることは一緒だ。
悩みを持つ相手に、そいつが一番望んでいる言葉をかけてやる。
そうすりゃスッキリした顔で帰っていくってもんだし、また悩みを抱えた時にはリピーターになってくれる。
俺は占い師になって二年の間に、多くの悩みの聞いてきた。
やれ婚活の条件に見合う男がいないだの、やれ昔っから好きな男に告白出来ないだの。
まあだいたい結婚や恋愛に関する悩みが多いし、やって来る客のほとんどは女だ。
女ってやつはとにかく占いが好きで、ネタみたいな感覚で楽しむ奴もいれば、真剣に俺の言葉を頂戴する奴もいる。
中にはどこぞの教祖様のように崇めてくる女もいて、ごく稀にストーカー行為をしてくる奴もいる。
面倒っちゃ面倒なんだけど、でも逆に言えばそれだけ客の心を掴んでるってことだ。
たま〜に男の客も来たリするが、こっちは冷やかしがほとんどだ。
真剣な悩みを相談してくる奴は少ない。
以前に「傾きかけた会社を立て直すにはどうしたらいいか?」と聞いてきたオッサンがいたが、あの時はあまり良いアドバイスは出来なかった。
会社の経営なんて分からないし、下手なこと言って失敗でもさせたら、それこそ後ろから刺されかねない。
だからまあ・・・俺としては女の客の方がありがたい。
ついさっきも茄子に口紅を付けたような顔の女が来て、あり得ない条件で婚活に励んでいる現状を聞かされた。
だから俺はやんわりとアドバイスをして、いつも通り優しい言葉を投げかけて悩みを受け止めてやった。
女はスッキリした顔で席を立ち、軽い足取りで去って行った。
しかも二度の延長までしてくれたので、たった45分で6000円の儲けだ。
この仕事の良い所は、ほとんど元手が掛からないという事。
経費なんてほぼ0に近く、掛かるとしたら毎月の場所代くらいだ。
六階建てのビルの一角に、占い所が並ぶスペースがあって、その一番隅を使わせてもらってる。
ビルが何かの催し物をする時は営業出来ないが、それ以外の時だと、毎月2000円払えば使わせてもらえる。
だって・・・・ここは別のビルへと通じる通路の入り口で、およそ普通の商売が出来る場所じゃないからだ。
だったら占い師なんて怪しい連中にでも貸して、多少なりとも稼ぎを得ようとするこのビルのオーナーは賢いと思う。
無駄を無くし、隅までつついて利益を上げると言うのは、経営者の鑑だろう。
今日は水曜で、時刻は午後一時半。
まともな勤め人なら当然働いているわけで、休日に比べると客は少ない。
しかし祝日や土日に休めない仕事もあるので、そういう仕事をしている女がちらほらやって来る。
俺はパイプ椅子にもたれ、大きく背伸びをした。眠気がさして欠伸をすると、隣のオッサン占い師から「ちょっと・・・」と声がかかった。
「なんすか?」
「なんすか?じゃないだろう。さっきみたいな事やめてくれないかな?」
「ん?」
「こっちの客を取るなって言ってんの。」
「ああ、あの茄子女?」
「僕の方に座りかけてたじゃない。なんで横から声をかけて奪っちゃうの?」
「いや、だってこっちをチラチラ見てたから。」
「見てないよ。こっちの椅子に座ろうとしてたじゃない。」
「ふ〜ん・・・・でもアレじゃないすか?やっぱこっちに気が変わったとか。」
「そんな事ないよ。君が奪ったの。」
「じゃあ未来を予言すればいいじゃないですか。アンタ前世が見えるとか霊感商法やってんだから、当然霊力があるんでしょ?
だったら茄子女が俺の方に来る未来も見えてたでしょ?」
「霊感商法って何だよ?犯罪者みたいに言うなよ。」
「ああ、すんません。俺、そういうの信じないもんで。」
「だったら何で占い師を・・・・・、」
オッサンは顔を赤くしながら、グチグチと嫌味を飛ばしてくる。
俺がここで商売を始めた二年前から隣にいて、前世とかオーラとかで占いをするオカルト野郎だ。
俺はこのオッサンが嫌いだし、向こうも多分同じだろう。
だからこういう言い争いはしょちゅうで、ほとんどの場合は俺が「はいはい」と無視して終了する。
《何度同じやり取りをすれば気がすむんだか・・・・。霊力磨く前に脳ミソ磨けよ。》
心の中で悪態をつき、また欠伸をする。
オッサンはまだ嫌味を言っているが、目の前に客が来て笑顔に切り替わった。
そして俺に一瞥を寄こし、《取るなよ》と目で訴えかけた。
《誰も取らねえよ、そんな面倒臭そうな客。》
首を回しながら、また欠伸を放つ。
今、オッサンの前に現れた客・・・・・これは誰がどう見ても面倒くさいと思うタイプだ。
その客は男で、歳は30前半くらい。下はジーンズだが、上はなぜかポンチョを着ている。しかもインディアンが着てそうな本格的なやつを。
頭にはカラフルなバンダナを巻いていて、耳には幾つものピアス。
鬚はボサボサのチリチリで、目が半分ここではない世界を見ているような感じだった。
こんな客は頼まれてもお断りで、俺は腕を組んで目を逸らした。
《たまにいるんだよな・・・・こういうタイプが。》
男はオッサンの前に座り、悩みを語り始めた。
俺は聴き耳を立て、さも興味もなさそうな顔をしながら様子を窺った。
《・・・・・・・・・・・・。》
男はしばらく喋り続け、大袈裟に身振り手振りを交えていた。
その悩みの内容とは、『どうして俺の作品は世間に認めてもらえないのか?』ということだった。
男は路上アーティストらしく、道端で自分の作品を展示している。
そして欲しいという客がいれば、作品を売っているというのだ。
しかし売れ行きは芳しくなく、しかも褒められたこともほとんどない。
自分には才能があるはずなのに、どうして誰も見向きもしないのか?
これは悪霊が邪魔をしているか、もしくは先祖供養が足りないせいで、上手くいかないのではないか?
そんな感じの悩みをぶちまけ、もしそうならどうすれば解決できるか相談していた。
《出た出た・・・・痛い勘違い野郎が・・・・。》
おお怖・・・・と思いながら、チラリとオッサンの様子を窺う。
《悩み事がほぼオカルトだからな。このオッサンにはうってつけだけど、果たしてどうなるか・・・・・?》
聴き耳を立てながら、オッサンのアドバイスを吟味する。
オッサンはしきりに数珠を触りながら、じっと目を凝らして路上アーティストを見つめる。
そして「あなたに悪霊は憑いていないし、先祖が邪魔しているわけでもない」と答えた。
《うん、まあ・・・・そうだよな。そんなこと俺でも言える。》
誰でも言えることを言っても、占い師としては商売が成り立たない。問題はここから先、どういう具合に言葉を繋ぐかだ。
俺は二年ほどこのオッサンの隣に座っているので、だいたい先の展開の予想はついていた。
超の上にクソを乗っけたほど正直なこのオッサンは、言葉をオブラートに包むということを知らない。
だから頭に浮かんだ言葉を、そっくりそのまま口から吐き出すのだ。
「君が頑張ってるのは分かるけど、上手くいかないのは君自身のせいだから。もう一度じっくり自分の作品を見つめ直してみたらどうかな?」
そう言ってから、「少なくとも霊のせいじゃないね。誰も邪魔なんてしてない」と続けた。
「上手くいかないのは自分のせいで、君は周りが見えなくなってるんだよ。ていうか才能があるだけと思い込んでるだけかもしれない。
だからここはしっかりと自分の作品を見つめ直して・・・・、」
おそらく・・・・いや、もっとも言われたくないだであろう言葉を客に投げかけ、ドヤ顔で微笑むオッサン。
このせいでたまにキレる客がいるというのに、それを学習しない辺りは、ある種の才能かもしれない。まあ誰も欲しくない才能だけど。
俺はいつ男がキレだすのだろうと、少しワクワクしながら待っていた。
すると予想に反して、男は涼しい顔をしていた。
そして肩に掛けた馬鹿デカいバッグから、幾つかのアクリル板を取り出した。
大きさはA4サイズほどで、中には色とりどりの紙が挟んである。
《なんだ・・・・?千切り絵か?》
おそらく色紙を千切って、それを細かく詰めているのだろう。
色合いはとても綺麗だが、いったい何を表現しているのかは分からない。
男は得意気にそれを見せ、オッサンに意見を求めた。
《さあ、どうするオッサン?あんたに芸術を批評する美的センスがあるのか?》
俺なら「ああ、綺麗だね。でも芸術の批評は占い師の仕事じゃないから」と突き返すだろう。
いらぬ事を言って相手を怒らせる可能性があるなら、最初からスパっと逃げを打つのも手だ。
しかしそこは、超の上にクソが乗るほど正直なオッサン。
「これ、何?」と真顔で尋ねた。
男は少しイラついたように、宇宙をイメージしていると答える。
「ふ〜ん・・・・じゃあこっちは?」
今度は別のアクリル板を指さし、「これも分からない」と言う。
男はまたイラついたようで、今度は戦場だと答える。
そんなやり取りが何度も続き、「僕には分からないや」と突き返した。
「美術は専門じゃないからね。占い師に聞かれても・・・・、」
苦笑いしながら、男の作品を突き返す。
《ああ・・・・やっぱアホだわコイツ・・・・・、》
男の眉間に皺が寄り、作品をバッグに戻す。そして金をテーブルに叩きつけて、飛び上がる勢いで立ち上がった。
オッサンはビクっと身を竦め、「何・・・・?」と怯える。
男は無言のまま睨みつけ、「死ねハゲ」と椅子を蹴り飛ばした。
《まあそうなるよな。俺が客でもキレる自信がある。》
蹴られたパイプ椅子が、オッサンの机にぶつかって倒れている。
「・・・・・・・・・・・・。」
オッサンは泣きそうな顔で椅子を戻し、親に叱られた子供みたいに俯いていた。
《あんな偉そうに言うクセにメンタルが弱いんだよなあ・・・・。霊力の前に、そのノミみたいなハートをどうにかしろよ。》
オッサンは終始沈んだ顔のままで、当然そんな奴のところに客は来ない。
途中で店じまいを始め、少ない荷物を抱えてトボトボと帰路についた。
これを可哀想と思うか?それともマヌケと思うか?
優しい奴なら同情もするんだろうが、あいにく俺は後者だ。
「あのハゲ・・・・明日来ないな。」
打たれ弱い奴というのは、嫌な事があると次の日まで引きずる。
俺の予想通り、翌日オッサンは来なかった。
こういうことは今までに何度もあって、大して驚きもしない。
休めば売り上げが下がるだけだが、まああのオッサンの売り上げなんざ知ったこっちゃない。
休もうが出勤しようが、元々空気みたいな奴なんだし。
しかしこの日、オッサンが休んだ代わりに、いらぬ者が俺の前に現れた。
そう・・・・昨日の路上アーティストだ。
どうやら彼はオッサンに悪いことをしたと思っているらしく、謝りに来たとのこと。
しかしそのオッサンがいないので、俺に話しかけてきたのだ。
《悪いと思うなら最初からキレるなよ。》
そう思いながらも、「今日は休みみたいですよ」と伝える。
男は申し訳なさそうな顔のまま、俺が謝っていたと伝えてくれないか?と頼んできた。
「ああ、いいですよ。今度来たら言っときます。」
そう答えると、軽く頭を下げて去ろうとした。しかしすぐに戻って来て、なぜか俺の前に座った。
「・・・・なんですか?」
まさかとは思いつつ尋ねると、男はデカいバッグを下ろしながら答えた。
「ただ伝えてもらうのは悪いんで、占ってもらいます。ええっと・・・これが料金?15分2000円ですか?」
「・・・・・・・・・・。」
財布を取り出し、中身を確認しながら頷いている。
そして俺の方を見つめながら、ゆっくりと昨日の作品を取り出した。
この瞬間だけ、値段を三倍にしようかと思った。



 

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