VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第三話 占い師VSボディビルダー

  • 2015.12.07 Monday
  • 13:18
JUGEMテーマ:自作小説
人間にとって必要なのは、強い肉体か?それとも賢い頭か?
・・・・まあ間違いなく賢い頭なんだろうけど、でも肉体的な強さだって必要だと思う。
俺はそれなりに良い大学を出てるし、そこまで頭は悪くないと思う。
だけど肉体的な強さにはコンプレックスがあって、女の子と腕相撲をして負けた事もある。
別に運動音痴ではないし、スポーツは得意な方だ。
特に球技は上手かったから、マジでそっちの道へ進んでもいいかと思ったこともある。
しかしいかんせんトレーニングというのが嫌いで、運動神経は良くても体力がない。
だからサッカーにしろバスケにしろ、後半になると動けなくなる。
友達からはもっと鍛えろと笑われるし、腕相撲で負けた女の子には「落ち込むことないよ」と勝ち誇ったように同情されてしまった。
だからまあここらで一発、肉体改造をしようと思ったわけだ。
家の近所には市民体育館があって、その中にトレーニングルームがある。
一回500円で利用することが出来るので、最近はよく通っているのだ。
暇を見つけては足を伸ばし、ダンベルだのバイクマシンだのを使って鍛えている。
でもなかなか簡単に筋肉はついてくれない。
俺の腕は相変わらず細いままで、この部分だけ写真に撮れば、女と言っても信用してもらえるほどだ。
別にそこまでマッチョになりたいわけじゃないんだけど、さすがに腕相撲で女の子に負けないくらいにはなりたい。
だからせっせとトレーニングに励み、今日もダンベルを片手に鍛えていた。
長椅子に座り、他の人を見様見真似でやってみる。
ダンベルの重さは三キロ。もっと重いのでやれば肉もつくんだろうけど、あいにくこれくらいじゃないとトレーニングが続かない。
数回やっては持ち替え、また数回やっては別の腕に持ち替える。
すると一人のマッチョマンが傍へ来て、「それだと肘を痛めるよ」と声を掛けてきた。
「反動をつけてやっちゃいけないんだ。関節に負担が掛かるし、勢いでやっても鍛えられないから。」
「はあ・・・・。でも重くて上がんなくて・・・・、」
「じゃあもっと軽いのでやればいいよ。回数だって少なくしていいし、しんどいと思ったら休めばいい。」
そう言って一キロのダンベルを持って来て、「こっちにしなよ」と差し出した。
「いや、それ一番軽いやつじゃないですか。」
「そうだよ。でもこれでいいんだよ。」
「でもそれだと筋肉がつかないんじゃ・・・・、」
「間違ったやり方してる方が、もっと筋肉がつかないよ。それどころか肘を痛めるから。」
「はあ・・・・。」
「カッコつけて重いのでやっても無駄だよ。特に体力のない人はね。」
「あ、分かります?」
「見れば分かるよ。細くても筋肉の付いてる人はいるけど、君の場合はそうじゃない。だから最初は無理しない方がいいよ。」
そう言って俺の何倍も太い腕を見せつけながら、「ほら」と一キロのダンベルを突きつける。
「じゃあ・・・そう言うなら・・・・、」
ダンベルを持ち替え、同じように持ち上げてみる。
「そうそう。反動をつけずにね。こういうのはゆっくりやらないと意味ないんだ。勢いだとダメだから。」
「これなら勢いつけなくても出来そうです。」
「あえて勢いつけてやる場合もあるんだけどね。そういうのはある程度筋肉がついてからだから。」
「じゃあこれでやってみます。」
頭を下げ、一キロのダンベルでトレーニングを再開する。
マッチョマンは満足そうに頷き、「分からないことがあったら何でも聞いてよ」と笑った。
そして自分のトレーニングに戻り、馬鹿みたいに重そうなバーベルを担いでスクワットをしていた。
《すげえガタイしてんなあ。なんかやってんのかな?》
マッチョマンの肉体は尋常ではなく、どこぞの美術館の彫刻みたいだった。
クソ重たそうなバーベルを簡単に担ぎ、それでスクワットをするなんて・・・・・。
《プロレスラー?それかウェイトリフティングとか?なんか分からないけど、ぜったいに何かやってる人だよな。》
明らかに素人じゃない体つきっていうのは、素人の俺でも分かる。
じっとマッチョマンの筋肉を見つめていると、スクワットを終えて振り返った。
「最近よく見るね、君。」
「ええ、まあ・・・。ちょっと肉体改造をしようかなと。」
「君、細いもんね。でも鍛えたらちゃんと強くなるよ。」
そう言って、それとなく自分の筋肉を見せつけるマッチョマン。
そもそもピチピチのタンクトップを着ているあたりが、筋肉に自信がある証拠だろう。
細身の俺にあのタックトップは似合いそうにない。
「なんかやってるんですか?」
「ん?何が?」
「いや、スポーツとか格闘技とか。すげえ身体してるから。」
「ああ、これ?ちょっとボディビルを。」
「ボディビル?あのマッチョを見せ合う感じのやつっすか?」
「そうだよ。高校くらいの頃から始めてね、もう20年以上やってるよ。」
「へえ〜・・・なら相当年季の入った筋肉なんすね。」
そう言うと、マッチョマンは「年季って」と笑った。
「僕も昔は君みたいに細かったんだよ。」
「そうなんすか?」
「鍛えてる奴ってのはだいたいそうだよ。だって元々マッチョな身体してるなら、鍛える必要なんてないだろ?」
「んん〜・・・・まあそうっすね。俺も細い身体どうにかしようと思ってここへ来てますから。」
「僕もね、昔は肉体的にコンプレックスがあったんだよ。高校の時にさ、小学生の弟に腕相撲で負けるくらいだったから。」
「ああ、それはちょっとヤバイっすね。」
「だろ?それが悔しくて鍛え始めたんだ。そうするとさ、筋肉がつく喜びってのを知った。そうなるともうやめられないよ。」
そう言ってさりげなく筋肉を見せつけ、スクワットに戻っていった。
《なるほどねえ・・・弱いから鍛えるか。まあ考えてみりゃそうだよな。》
マッチョマンの言う通り、元々強いなら鍛える必要なんてない。
そりゃ中には元々マッチョでも鍛える人はいるだろうけど、でもそういう人の方が少ないのかもしれない。
《ならここへ来てる人ってのは、みんな肉体的にコンプレックスがあるってことなのか?》
周りを見渡すと、二人の男と一人の女がトレーニングに励んでいた。
女はイヤホンで音楽を聴きながら、エアロバイクを漕いでいる。
目がチカチカするほどの鮮やかなトレーニングウェアを着ていて、顔はそこそこ美人だ。
《あれは鍛えるというよりダイエットかな?強くなりたいって感じじゃないもんな。》
その女から少し離れた所には、腹の出たオッサンがいた。
椅子に座り、足で重りを持ち上げるマシンでトレーニングをしている。
その顔はギッタギタに脂ぎっていて、汗と混ざってダイヤのように輝いていた。
《あの人、足と腕の筋肉はすごいな。でも腹がタプタプじゃねえか。もっと腹筋とかしたらいいのに。》
脂のオッサンは鬼の形相で重りを挙げている。
その顔は真っ赤で、これ以上力むと脳の血管が破裂するんじゃないかと思うほどだった。
そしてそのオッサンの隣では、ちょっと厳つい感じの男が懸垂をしていた。
髪は角刈りで金髪。それにピチピチのタンクトップを着ていて、肌は小麦色に焼けていた。
《ありゃあガテン系のマッチョだな。さっきのマッチョマンとは違う意味でガタイがいい。意外とああいう奴の方が力がありそうだな。》
ガテンマッチョは軽々と懸垂をこなし、やがては指でぶら下がって懸垂を始めた。
《すげえな。あんなに鍛えて何になりたんだ?》
誰もかれもが真剣にトレーニングをしていて、俺だけ一キロのダンベルで鍛えているのが恥ずかしくなってくる。
なんだかテンションが下がって来て、今日はもう帰ろうと思った。
ダンベルを戻し、大して汗も掻いてないのにタオルで拭う。
喉なんて全然乾いてなくて、持ってきたドリンクに一度も口をつけることはなかった。
《なんかアレだな。こういう所へ来るのはちょっと早かったかな。》
筋トレといえばジム、ジムといえば筋トレ。
そんな風に思っていたけど、ここで鍛えるには、俺はあまりにも筋肉が無さすぎる。
まずは家で腕立てでもしてからデビューしよう。
帰り際、マッチョマンの後ろを通りながら「そんじゃお先に」と声をかける。
マッチョマンはまだスクワットをしていて、「おう!」とだけ返事をした。
ドアを開け、初夏なのにひんやりする寒い廊下に出る。
そして階段の方へ向かった時、トレーニングルームから怒鳴り声が聞こえた。
《なんだ?誰かキレてんのか?》
興味をそそられて戻ってみる。そしてドアのガラスから中を見てみると、マッチョマンとガテンマッチョが言い争いをしていた。
《おお!すげえな・・・・マッチョ同士の喧嘩だ。》
ワクワクしながら見ていると、ガテンマッチョがまた怒鳴った。厳つい顔のクセに、けっこう高い声してやがる。
「いつまでも使ってんじゃねえよお前!ルールぐらい守れや!!」
そう言って顔を近づけ、今にも掴みかかりそうな勢いだった。
「毎回毎回なんだよお前、ええ!独り占めしていいとでも思ってんのか?」
ガテンマッチョは喧嘩腰で詰め寄り、猛獣みたいな顔で睨み付けている。
するとそこへ腹の出た脂のオッサンが走ってきて、ガテンマッチョを止めた。
「おいやめとけ。」
「こいつふざけてますよ・・・・毎回自分がその場所独占しやがって・・・・。」
「喧嘩すんなよ。」
「スクワットだけじゃないですよこいつ。ベンチプレスも独占してる時があるんだから。ここへ来る奴はほとんどそれがメインなのに、独り占めしてんすよ?怒るでしょ普通。」
「いいから落ち着け。ガキじゃないんだから喧嘩しても意味ねえだろ。」
脂のオッサンはガテンマッチョを引き連れ、椅子が並んだ休憩スペースへと連れていった。
俺は中へ入り、マッチョマンの方へ近づく。
「なんかあったんすか?」
そう尋ねると、マッチョマンは何も答えなかった。
「あの人マジ切れしてましたね。危うく手え出しそうな感じだったけど・・・・大丈夫すか?」
そうは言いながらも、内心では殴り合いの喧嘩を期待していた。
マッチョ同士が目の前で殴り合う。そんなのは滅多に見られる光景じゃないので、ワクワクしながら覗いていたのだ。
何かあったらすぐに友達に報告しようと、スマホまで持ってたのに。
「なんかあのオッサンが止めてくれたからよかったけど、じゃなきゃ喧嘩になってましたね。向こうも良いガタイしてるし、すげえ殴り合いになっただろうな・・・。」
思わず本音が出てしまい、チラリとマッチョマンの様子を窺う。
「・・・・・・・・・・。」
「どうしたんすか?あいつのことじっと見て。」
「・・・・いや・・・別に・・・・、」
「あんたもめっちゃ拳握ってますね。まさか・・・・やる気だったとか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「でもやめた方がいいっすよ。見てる分には面白いけど、当事者にとっちゃ喧嘩なんて最悪でしょ?中高生じゃないんだし、こんなのでしょっぴかれるなんてダサいっすからね。」
そう言って笑いかけても、マッチョマンの表情は硬い。
カッと目を見開き、震えるほど拳を握り、その場に立ち尽くしていた。
「そんな怒ってんすか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「まあいきなり怒鳴られちゃ腹立ちますよね。俺もバイトの時に、偉そうに言ってきたオッサンに掴みかかったことありますもん。まああの時は若かったっすけどね。」
「・・・・・・・・・・・。」
「まあアレっすよ。ああいうのはどこにでもいるんで、気にしちゃ損ですよ。」
「・・・・そうだね・・・・。」
ようやく言葉を発したマッチョマンは、やはり拳を握ったままだった。
しかし俺は、ここである違和感を覚えた。
《この人・・・・・ビビッてんのか?》
さっきから気になっていたけど、声が少し震えている。それにいくら怒ってるからって、ここまで拳は震えないだろう。
よく見ると足元も震えていて、表情も強張っていた。
《この人・・・・動きたくても動けないんだな。だからこうして立ち尽くして・・・・。》
どうやらマッチョマンは、その彫刻のような肉体とは裏腹に、気はかなり弱いらしい。
じっと立ち尽くしているのは、怒っているからではなく、動きたくても動けないほどビビッているからだ。
そしてガテンマッチョの方を睨んでいるのも、決してガンを飛ばしてるわけじゃない。
いつまた向かって来るのかと、気が気でならないのだ。
《なるほどねえ・・・・。マッチョだからって気が強いとは限らないわけだ。まあ元が弱いから鍛え始めたって言ってたし、気が弱くても不思議じゃないけど。》
これ以上何か喋りかけても、多分反応は無いだろう。
俺は「それじゃ」と会釈をしてから、トレーニングルームを後にした。
そして市民体育館を出てから、トレーニングルームの入っている四階を見上げた。
大きなガラスの窓から、さっきのマッチョマンが見える。
どうやら帰り支度をしているようで、すぐに視界から消えた。
《そこにいたらまたガテンマッチョと喧嘩になるかもしれないもんな。さっさと退散した方がいい。》
もし脂のオッサンが止めてなかったら、いったいどうなっていたのか?
ガテンマッチョは殴りかかったか?それともマッチョマンの方から謝ったか?
《多分マッチョマンが謝っただろうな。誰もいない二人きりの場所なら、きっとそうしてるはずだ。》
マッチョマンが頭を下げなかったのは、きっと周りに人がいたからだ。
弱いと思われるのが嫌で、意地になって睨み返していたんだろう。
身体を鍛えたからって、心まで強くなるとは限らないってことだ。
翌日から、俺はジムに行くのをやめた。
それは昨日のマッチョ同士の喧嘩がどうとかではなく、ただ単に行くのが面倒臭くなったからだ。
よくよく考えれば筋トレなんて家でも出来るわけで、だったら金を払ってわざわざ行かなくてもいいかと思ったのだ。
あれから三日、今日は仕事に来る前に、腕立てと腹筋をした。大した回数じゃないけど、それなりに筋肉は張っている。
まずはこういう小さなところから始めないと。
ゆくゆくは細マッチョのような身体になって、海でも堂々と身体を見せつけられるかもしれない。
そんな風に考えながら、今日の仕事をこなしていく。
隣のオカルト野郎はまた休みで、何か傷つくことがあったのかもしれない。
しかしあいつがいない方が捗るってもんで、今日はなかなか快調だ。
時間は午後の二時だが、11時から始めてすでに10人も客がきた。
まあ内容はいつもと同じように、恋愛だの結婚だのの相談がほとんどだ。
この前の銀鷹君のように、タダでもいいやと思えるような相手は来ない。
まあそういう客ばかり来られても困るんだけど、似たような客ばかりだと、正直飽きてくる。
だからここらで変わった客でも来ないかと思っていると、ふと見知った顔が目に入った。
「あれ・・・・ジムのマッチョマンだなよな?」
占い屋の近くにある靴屋で、あのマッチョマンがウロウロしていた。
どうやらトレーニングシューズを選んでいるらしく、やがてレジ袋を提げて出てきた。
そして目の前を通り過ぎる時に、俺は「どうも」と手を挙げた。
「奇遇っすね、こんな所で。」
そう言って笑いかけると、マッチョマンは一瞬固まっていた。
しかしすぐに俺だと分かり、「ああ」と近づいてきた。
「こんな所で何してるの?」
「占いですよ占い。」
「占い?もしかして君、占い師なの?」
「そうっす。15分2000円ですよ、どうっすか?」
「占いかあ・・・・あんまりそういうのはちょっと・・・・、」
「男の人はあんまり興味ないかもしれないですね。でもせっかくなんでどうっすか?割り引いて1500円にしときますよ。」
「うん・・・いや、でも・・・・・、」
「迷ってるってことは、興味があるってことでしょ?ものは試しだし、やってみません?」
男にしろ女にしろ、気が弱い奴ほど占いに興味を示す。
だって気が強い人間なら、占い師の言葉なんて必要としないからだ。
この前の出来事で、このマッチョマンが気の弱い人だってことは知っている。
ならばここで押せば、きっと乗ってくれるだろうと思った。
「ここで会ったのも何かの縁だし、どうっすか?」
「う〜ん、占いねえ・・・・、」
「この前はトレーニングのやり方教えてもらったし、そのお礼に割引価格でいいですから。なんか一つくらい悩みとかあるでしょ?」
「そりゃあるよ。あるけど・・・・なんかこういうのは抵抗が・・・・、」
「みんな最初はそう言うんですよ。でもね、やってみるとけっこう面白いもんですよ。俺、こう見えても腕はいいし。」
「そうなの?」
「ええ、自信はありますよ。だって俺のおかげで結婚したカップルだっているし。」
「それは凄いね。ええっと・・・・じゃあどうしようかな・・・・、」
マッチョマンはかなり迷っている。あと一押しすれば完全に乗って来るだろう。
「ならこうしません?もし占いに満足いかなかったら、料金はいらない。でも納得したなら金を払う。」
「う〜ん・・・・なんかそれ賭け事みたいだよね。ギャンブルはあんまり・・・・、」
「いやいや、ギャンブルじゃないっすよ。これは勝負です。」
「勝負?」
「ええ、俺とあんたの勝負。納得させたら俺の勝ち。でなけりゃあんたの勝ち。まあギャンブルっていうか、簡単なゲームみたいなもんすよ。どうです?気晴らしにやってみません?」
「ゲーム・・・・まあそういう感覚なら・・・・。」
マッチョマンは眉間に皺を寄せて迷う。
そしてゆっくりと椅子を引きながら、「じゃあ占ってもらおうかな」と座った。
「じゃあゲーム開始っすね。で、どんな悩みを?」
そう尋ねると、「当ててみてよ」と笑った。
「占い師なんだからそれくらい出来るでしょ?」
「いいっすね、その挑発的な感じ。じゃあ分かりました。勝負開始ってことで。」
俺も笑い、マッチョマンとの対決が始まった。

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