VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第九話 占い師VS占い師(2)

  • 2015.12.13 Sunday
  • 13:10
JUGEMテーマ:自作小説
オカルト占い師の言う通り、靴屋の若者は万引きをしていた。
「・・・・というわけ、どう?」
勝ち誇ったように笑いながら、こちらに目を向けてくる。
俺はじっと靴屋を睨んだまま、「何が?」と尋ねた。
「何がって、あの子万引きしてたでしょ?僕の言った通りじゃない。それについてどう思ってるの?」
「たまたまだろ。」
「ほんとにそう思う?」
「ずっと様子を見てたんなら、誰だっておかしいって気づいたんじゃないの?自分の手柄みたいに言うなよ。」
「いや、誰でも気づくわけじゃない。だってあの子は相当やり慣れてるはずだから。ちゃんと店員以外の人間にも目を配ってたよ。普通じゃまず気づかない。」
「ああ、そう。じゃああんたが特別にすごいんだな。もしかして霊能力か?」
馬鹿にしたように尋ねると、オカルト占い師は「まさか」と笑った。
「こんなもんに霊能力なんていらないよ。ちゃんと相手の表情や行動を見てれば分かるからね。」
「へえ、ずいぶんと目がいいんだな。」
「そう。これがコールドリーディング。」
またさっきの言葉が出てきて、「だから何だよそれは?」と睨んだ。
「そのコールド何とかってのは、いったいどういう意味なんだ?」
「知りたい?」
「教える気がないなら言うな。」
「じゃあ教えてあげるよ。」
そう言って偉そうに笑い、「これは相手の情報を読み取る技術なんだよ」と答えた。
「リーディングってのは読む力。コールドは沈黙って意味。だから物言わぬ相手からでも、たくさんの情報を読み取る技術のことさ。」
「ああ、そういう事か。」
俺は納得し、「それなら俺もやってるぞ」と言い返した。
「要するに観察力とか洞察力で、相手の性格やクセを見抜くってことだろ?」
「そうだよ。だからさっきも言ったじゃない、君がやってる占いはコールドリーディングだって。」
「へえ、俺はそんな名前があるなんて知らなかった。まあ知る必要もないけど。」
「これは占いだけで使われる技術じゃなくて、ビジネスマンが交渉の時にも使ったりするんだよ。相手の情報を集めることが出来れば、有利に話し合いを進められるからね。」
「まあそうだろうな。俺だって客の性格を読み取って、それを自分なりにカテゴライズしてる。それである程度の性格や行動パターンを言い当ててるんだ。」
「そう、だから君がやってるのはコールドリーディング。でもまだまだ下手くそだけど。」
馬鹿にしたように笑われて、またカチンと来る。
「なんだその言い方?」
「だって君は見抜けなかったじゃない。あの子が万引きをするかもって。」
「あのな、靴屋の客なんかじっと見てるわけねえだろ。俺が見るのは目の前に座った客だけだ。」
「分かるよ、だってそれが商売だもんね。タダで見たって金にならない。」
「分かってるなら言うんじゃねえよ。」
「でも逆に言うと、もし君がじっとあの子を見ていたら、気づいた可能性があるってことだよ。」
「だからあ・・・・そんな金にならない事しても意味な・・・・、」
「修行だよ。」
「は?」
「コールドリーディングの修行。君はそれを怠ってる。」
そう言ってオカルト占い師は、目の前を通り過ぎる人達を見つめた。
「コールドリーディングっていうのは、この目でもって人の内面を見抜くことさ。だからこうやって人を眺めてるだけでも、充分修行になる。」
「あ、そ。」
「君は女の人を占うのが得意だよね?」
「まあな。女を見る目には自信がある。」
「それは常に女の人を見てるからだよ。きっと女性経験も豊富だろうし、女を見ること自体が好きなんだ。・・・あ、別にいやらしい意味だけじゃなくてね。」
「うるせえな。そういうクセなんだよ。」
「でもそのおかげで女の人を見る目は長けてる。そして自分の中に、事細かに分析されたカテゴリーを持ってる。」
「さっき俺がそう言ったじゃねえか。」
「君の中には、大量に女の人の情報が蓄積され、それが占いで活かせるように体系立てられてるんだよ。きっと無意識のうちにそうなったんだろうけど。」
「そんなことねえよ。占い師やるんだから、ちゃんと自分なりに女のパターンを分けるカテゴリーを作ったんだ。」
「なるほど。でもだからこそ女の人を見る目は養われてるし、その分析も正確だ。けど・・・・これが男だったらどうかな?」
そう言って俺に目を向け、「僕のこと見抜ける?」と、片目を瞑って望遠鏡を覗くような真似をした。
「お前になんか興味ねえよ。見る気もしねえ。」
「だよねえ。だからこそ僕の年齢を当てられなかったんだ。」
「だってお前老け顔だもん。それに禿げてるし。」
「老け顔でハゲの若者だっているよ。」
「いねえよそんなの。」
「現にここにいるだろ。」
「そうだな。お前みたいな奴は滅多にいないから、見抜くことが出来なかった。それだけだよ。」
「そう、そこなんだよ!」
オカルト占い師は大声で言って、また指をさした。
「君はね、自分に興味のないものにはまったく目を向けようとしない。でもそれが致命的な弱点なのさ。」
「どこが?」
「だって女の人以外は見抜けない。」
「そんなことねえ。おれは男だって色んなこと見抜けるよ。それでカップルを誕生させて、結婚までいった奴らもいる。」
「それは女の人を見抜く目があるからだよ。こういうタイプの女性なら、こういう男を好むだろうって想像してさ。
だからきっと、君が誕生させたカップルのほとんどは、男から相談を受けてのものだ。違う?」
そう言われて、「まあそうだけど・・・・、」と答えた。
「君は自分の男友達から相談を受け、そしてその子に合いそうな女の子を紹介してあげた。
この場合だと、男の方に関しては君の友達だから、最初からどういう人間かよく分かってる。それはつまり、その男を見抜く必要はないってことだ。」
「・・・・・・・・・・。」
「だから相談を受けた君は、逆算して考えることにした。こういう男を好むのは、どういう女だろうかってね。
それで相談を受けた男にピッタリ合いそうな女の子を見つけ、それを紹介した。そうだろ?」
「・・・・・ああ、合ってるよ。」
「それはつまり、君が誕生させたカップルのほとんどは、女性を基準にして考えたってことさ。
だから男の方はまったく見ていない。だけど・・・・もし男だけを見なきゃいけない時が来たとしたら?
君は果たして、その男を正しく見抜くことが出来るのかな?」
挑発的な口調で言いながら、「さあ、僕を見抜いてよ」と言った。
「僕は一つだけ君に嘘をついている。」
「嘘?」
「そう、嘘だよ。僕は今までに、君に一つだけ嘘をついてるんだ。それが見抜ける?」
いきなりそう問われて、俺は顔をしかめた。
「お前の嘘なんて見抜きたくねえよ。」
「それは言い訳だね。単純に見抜く力を持ってないだけなんだよ。」
「うるせえな。もう黙ってろ。」
「いいや、黙らない。ちゃんと僕の嘘を見抜いてもらう。」
「はあ?お前な、さっきからいったいなんなんだよ。鬱陶しい奴ってのは知ってるけど、今日は特にひどいぞ。」
イライラを通り越し、だんだんと呆れてくる。
もうこんな奴は相手したくないので、無視を決め込むことにした。
「あ、逃げる?」
「・・・・・・・・・・。」
「別にいいよ、そうやって逃げるなら。」
「・・・・・・・・・・。」
「だってこのまま無視し続けると、困るのは君なんだから。」
「・・・・・・・・何が?」
ずっと無視しておこうと決めたのに、なぜか気になって尋ねてしまった。
「お、いいね。ちゃんと反応した。」
「はあ?何がだよ・・・・。」
「さっき『困るのは君なんだから』って言った時に、ちょっとだけ声のトーンを落としたんだよ。ほんのちょっとだけだけどね。」
「それが何だ?」
「声が低くなるってことは、怒りや不安の表れでもあるのさ。君は僕の声のトーンがわずかに変わったことに気づき、無意識に自分も不安も覚えたんだ。
だから無視し続けることが出来ずに、こうして口を開いた。」
「お前の分析なんか聞いてねえ。いったい何が困るのか言えよ。」
俺は腕を組み、真剣な目で睨んだ。
多分・・・・いや、きっと良くない事を聞かされるんだろうけど、でも聞かずにはいられなかった。
だってオカルト占い師の目は、さっきまでの俺を馬鹿にした感じとは違っていたからだ。
もっと・・・・何か大切な、そして真剣なことを言おうとしている。そう感じさせる目だった。
だから俺も真剣に聞くことにした。
息を飲みながら、じっと目を逸らさずに。
「あのね、非常に残念なお知らせなんだけど・・・・・、」
そう前置きしてから、さらにトーンを落としてこう続けた。
「このビルね、半年後に取り壊されるんだよ。」
「へ?取り壊す?」
思わず変な声が出てしまい、口を開けて固まった。
「いいねその顔。予想よりも驚いた表情してる。」
「おい、取り壊すってどういうことだよ?」
詰め寄って尋ねると、「そのまんまの意味だよ」と答えた。
「実はね、僕とこのビルのオーナーは昔からの知り合いなんだ。」
「そ・・・・そうなの?」
「だからオフレコで教えてもらったわけ。半年後にここを取り壊すってね。これ、まだ誰にも言っちゃダメだよ。公式に発表してないんだから。」
そう言ってニヤリと笑い、「ここも古いからねえ」としみじみとした。
「もう築50年くらいだよ。前のオーナーは病気で亡くなってね、今のオーナーが買い取ったんだ。
でもそれだけ古いと、あちこちにガタがくるじゃない?耐震性にも問題が出てくるし。」
「ああ・・・・まあ・・・・、」
「でもビルごと建て直すのは、あまりにお金がかかる。それならいっそのこと、ビルを壊して駐車場にでもしようってことになったわけ。」
「ちゅ・・・・駐車場・・・・・。」
「この街もずいぶんと人が増えてきたからね。古いビルを維持するよりも、手間のかからない駐車場の方が、利益が見込めるってわけだよ。」
「そ・・・それは・・・正しい選択かもな・・・・・、」
「でしょ?でもさ、そうなるとこのビルで働いている人達は困るよね?」
「そりゃそうだろ。仕事がなくなっちゃうじゃんか。」
「まあその辺はオーナーも考えてるよ。別の場所に持ってるビルに、こっちの従業員を移そうと考えてるんだ。
でもそれだけじゃ収まり切らないから、その場合は自分のとこの会社で雇ってもいいと言ってた。」
「へえ、今時ずいぶん良心的な経営者だな。だってこのビルで働く人は、全部テナントだろ?自分の会社の人間じゃないってのに。」
「そうだよ、人格者なんだよ。でもさ、他のビルや会社で働かせてもらえるのは、あくまで普通の商売してる人達だけ。
僕ら占い師は・・・・・残念ながら次の職場は保証されていない。」
「はあ?なんだそれ!」
眉間に皺を寄せ、「なんで俺らだけ保証がないんだよ!?」と怒鳴った。
「占い師だから次の職場は用意しませんって・・・・それ職業差別だろ。他の仕事してる奴らはちゃんと面倒みてもらえるのに。」
「そうだよ、でもこればっかりは仕方ない。だってオーナーは、通路以外に使い道のないこの場所を、ただ遊ばせておくのが嫌なだけだったから。
だから格安で占い師を置かせてくれてるんだよ。次の職場の保証なんてしてくれるわけないのさ。」
「そんな・・・それじゃ無職になっちまうじゃんか・・・・・。、」
俺は俯き、「どうにかなんねえの?」と尋ねた。
「あんたオーナーと知り合いなんだろ?なら掛け合ってくれよ。」
「無理だよ。僕らはここを出て行かなきゃならない。」
「いや、何を冷静に言ってんだよ。あんただって仕事場を失うんだぞ?」
「そうだね。でも占いの技術が消えるわけじゃない。」
「いや、技術はあっても職場がないと・・・・、」
「あるよ、僕はある。」
「は?」
「僕も・・・・そして僕の隣にいる占い師たちも、ちゃんと次の職場がある。」
「ど・・・・・どこに?」
「去年駅前に大きなビルが建っただろ?」
「ああ・・・東京から出てきたやつだろ?こっちよりも断然デカイし、客の入りだっていい。ああいう場所で店を持てたら最高・・・・・、」
そう言いかけて、「まさか・・・・、」と気づいた。
「あんたら・・・・・向こうで店出すってのか?」
「そうだよ。あのビル、たくさんのお客さんが入るからね。しかもメインの客層は女性だ。だったらこっちよりも儲かるよ。」
「いや、でも・・・・どうやってあんな良い場所に決まったんだよ?営業でもかけたのか?」
「まあそれに近いね。」
「マジかよ。自分の力であんな良い場所を・・・・、」
「だってさっきも言ったろ。コールドリーディングが使えれば、交渉を有利に運べるって。」
そう言って得意そうに肩を竦め、「占いだけじゃなくて、そういう時にも役立つ便利な技術さ」と笑った。
「でもいきなり占い師が行ったって、相手にしてもらえるわけがない。だからオーナーに頼んで、口だけ利いてもらったのさ。」
「それは・・・・交渉のきっかけを作ってもらったってことか?」
「まあね。ここのオーナーもそれなりにお金持ってる人だから、けっこう顔が広いんだ。
だから交渉の機会だけどうにか作ってもらって、あとは僕が実際に交渉を行ったわけ。最近ちょくちょく休んでたのはその為ね。」
「・・・・・・・・・。」
「だからここにいる占い師たちは、次の仕事場に困らない。ただし君を除いてだけど。」
「・・・・・・・・・・。」
「まあこのままだと、君はもう占い師としてお終いだね。大した技術もないし、経験もない。タロットも手相も出来ないし、それらを必要としないほどの得意技があるわけでもない。
この場所を失ったら、もう占い師として終わりだよ。さっさと次の仕事を探さないと、半年後にはプータローになっちゃうよ?」
予想もしていなかったことを聞かされて、やっぱ聞かなきゃよかったと後悔する。
・・・・いやいや!聞かなきゃよかったってことはないか・・・・。
だってもし知らないままだったら、半年後には本当にプータローになっちゃうんだから。
《俺・・・・・ほんとに杉原んところで雇ってもらおうかな・・・。今から勉強して、自動車整備士の資格取って・・・・、》
そんなことを考えていると、「チャンスをあげるよ」とオカルト占い師が言った。
俺は顔を上げ、「チャンス・・・・?」と沈んだ声で聞き返した。
「まあ一応は二年間一緒に商売した仲だからね。このまま見捨てるのは忍びないじゃない。」
「・・・・いいよ、同情してくれなくても・・・・、」
「まあまあ、そう言わずに。占い師を辞めてもいいっていうなら話は別だけど。」
「・・・・・・・辞めたくないな・・・この仕事・・・・・。」
「本気でそう思ってる?」
「・・・・だって俺・・・・ビッグになるって決めて、この仕事を始めたんだよ・・・。それを今さらノコノコ引き返すなんて・・・・。」
「ならビッグになれるなら何でもいいわけだ?例えば・・・・自動車の整備士でも。」
そう言われて、「なんで分かった?」と驚いた。
「なんでって、顔にそう書いてあるから。」
「嘘つけ。いくらそのコールド何とかってのを使っても、そこまで見抜けるかよ。」
「いや、僕の占いはコールドリーディングだけじゃないから。」
「なら霊能力かよ?」
「こんなものに霊能力はいらない。僕くらいの腕になれば、手相やタロットでもいけるし、それにホットリーディングやショットガンニングだって使えるしね。」
「え?な・・・・なんて?ホット・・・・何?」
「気になるなら自分で調べなよ。ググれば一発だろ?」
「ああ、そうね・・・・じゃあ後でググってみようかな・・・・。」
「そんなことは今はどうでもいいんだよ。僕が聞いてるのは、君は本当に占い師を続けたいのかどうかってこと。それを聞かせてよ。」
オカルト占い師は真剣な目で尋ねる。俺はその目を見返しながら、「この仕事が好きなんだよ」と答えた。
「始めた頃は、ビッグになれればなんでもよかった。でも今は違う・・・・この仕事に誇りを持ってるんだ。だから辞めたくねえ・・・・。」
「だったらチャンスをあげるよ。さっき僕が言ったこと、よく考えてごらん。」
「さっきあんたが言ったこと?・・・・・何か言ってたっけ?」
「ああ、言ったよ。僕は君に一つだけ嘘をついている。だから・・・もしそれを見破ることが出来たなら、君を新しいビルに連れて行ってあげてもいいよ。」
そう言って挑戦的な表情で腕を組む。
「僕はこれ以上何も言わない。だって嘘を見破るのに必要な情報は、すでに与えてるからね。」
「そ・・・・そうなの?」
「後は君がそれに気づくかどうかだよ。君が僕の言動に気を配っていたなら、きっと見抜くことが出来る。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「これを見抜けるかどうかに、君の占い師としての生命が懸ってるんだ。もし見抜けなかったらチャンスはない。・・・・・一発勝負だよ。」
椅子にふんぞり返り、真剣な顔で笑うオカルト占い師。
俺は目の前の靴屋を睨みながら、眉間に皺を寄せていた。

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