VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第十二話 占い師VS生真面目な女(2)

  • 2015.12.16 Wednesday
  • 12:59
JUGEMテーマ:自作小説
「私を占って下さい。」
オカルト占い師と揉めている最中、電波女は突然そう言った。
「あなたが本物の占い師だっていうなら、私の悩みを解決できるはずです。」
「知るかお前の悩みなんか。だいたいお前に必要なのは占いじゃねえ。医者の診察だ。」
「もし私の悩みを解決出来たら、あなたを本物の占い師として認めてあげます。」
「だからあ・・・・・お前の悩みなんか知るかって言ってんだろ。」
「その時はマルちゃんを見殺しにしたことも許してあげます。」
「人の話を聞けよ・・・・占う気はないって言ってんだろ。」
「それとこの動画も削除してあげます。」
さっきの動画を見せつけ、「あなたは助かるんですよ」と諭すように言った。
するとオカルト占い師が「ダメだよ!」と叫んだ。
「その動画は消しちゃダメだ!でないとこいつをここから追い出せない!」
「ほう・・・・俺を追い出す?」
「あ、いや・・・・・・、」
「だんだんとお前の企みが見えてきたよ。」
ニヤリと笑いながら、胸倉を放してやる。
「要するに、俺が気に食わないからここから追い出したかったわけだ?その為に一芝居打って、電波に動画を撮影させたと。」
「・・・・・・・・・・・。」
「それを後から編集でもして、ネットに上げるつもりだったと。そんで折を見て、オーナーにも見せるつもりだったんだろ?」
「そ・・・・そんなことは・・・・、」
「そうやって俺の立場を悪くして、ここから追い出そうとした。そうだな?」
鼻が触れるほど近づいて睨むと、「ち、違う・・・・、」と俯いた。
「違う?どう違うんだ?さっき自分で言ったじゃねえか。俺を追い出せなくなるって。」
「そ、それは勢いで・・・・・、」
「勢い?へえ・・・・そうか。なら今はどうだ?その勢いはまだあるか?」
「・・・・・もう・・・・落ち着いたかな。」
「じゃあ動画を消してもいいな?」
「あ、いや・・・・それはあ・・・・・・、」
「ほら見ろ。やっぱ俺を追い出すのが目的だったんじゃねえか。」
そう言ってポンポンと禿げ頭を叩き、「あのな・・・」と睨んだ。
「別に動画を上げたいなら上げてもいい。」
「・・・・・・・・・・。」
「それにオーナーに報告したいならしてもいい。」
「・・・・・・・・・・。」
「でもな、それをやるとお前こそインチキ野郎になるんだよ。分かってる?」
「・・・・・・・・・・。」
「だいたいそんな事されたって、俺は痛くも痒くもない。今時ネットに動画投稿する奴なんてごまんといるし、誰も見やしないよ。」
「そ、そんなの分からないじゃないか・・・・・・、」
「じゃあ百歩譲って、みんながその動画を見たとしよう。でも動画の占い師が俺だとバレるような投稿をしたなら、今度は俺がお前を追い詰めてやるよ。」
「お、追い詰める・・・・・?」
「当たり前だろ。勝手に人のこと動画に投稿してんだ。それも営業妨害になるような動画をだ。だったらその損害分、きっちり取らせてもらう。」
「う、訴えるっていうのか・・・・?」
「ああ。」
「なら・・・・やればいいじゃないか。訴えたいなら訴えてみろよ!僕だって戦ってやる!お前みたいなインチキを追い出す為に、戦ってやるよ!」
オカルト占い師は震えながらも俺を睨み返す。
目は泳いでいるが、表情は挑発的だ。
「お前なんかここからいなくなればいいんだ!人の客取ったり、僕を馬鹿にするようなことばかり言ったり。僕はそんな脅しなんかに屈しないぞ!戦ってやる!」
「ああそうか、なら好きにしろ。俺もお前をタダじゃおかねえ。」
オカルト占い師を突き飛ばし、「おい」と電波女の方を向いた。
「お前を占ってやるよ。」
「そうして下さい。」
「それでな、もし俺がお前の悩みとやらを解決したら、洗いざらい喋ってもらう。」
「何をですか?」
「お前とこのハゲが仕掛けた事をだよ。一から十まで喋ってもらう。それをこいつで録音させてもらうからな。」
そう言ってスマホを取り出すと、電波女は「何を?」と首を傾げた。
「喋るって何を喋るんですか?」
「だからお前とこのハゲが企んだことだ。万引き犯をでっち上げただろ?」
「そんなの知りません。私はあなたのインチキ占いを撮影していただけです。」
「知らないってお前・・・・・この期に及んでシラを切る気かよ?」
「知らないものは知りません。ていうか、さっきから何を言ってるのかさっぱりです。」
電波女は自分のスマホを見つめ、「私が欲しかったのは、あなたのインチキの証拠だけですから」と答えた。
「これがあれば充分です。他のことは知りません。」
「・・・・・ほんとに何も知らないのか?」
「万引き犯が捕まったことは知っています。」
「ほら見ろ。」
「でも万引きをしたなら、捕まるのは当然のことです。その方が、きっとあの子の為になる。」
「いや・・・・さっきのあれは、このハゲとお前が仕組んだもんなんだろ?」
「だから知りません。言いがかりはよして下さい。」
「ならこのハゲが一人でやったのか?」
「佐々木さんはそんなことしません。彼は立派な占い師で、あなたとは違うんです。」
「・・・・・・・・・。」
電波女は苛立ったように言う。動画を見つめながら、怒りを抑えるように唇を噛んでいた。
「おいオカルト野郎。」
「なんだよ・・・・・?」
「お前・・・この電波女まで利用したな?」
「な・・・何を・・・・?」
「俺はな、今日を含めてこの女とは二回しか会ってない。でもだいたいどういう人間かは分かった。」
「それが何・・・・?」
「この女は超が付くほどのクソ真面目だ。だから人を疑うってことを知らない。というより、疑うことが悪い事だと思ってるから、そういう発想自体がない。」
「・・・・・・・・・。」
「お前にそこに付け込んで、この女まで利用したんだろ?」
「そんなことしてない・・・・。」
「この女はお前のことを信じ切ってる。きっと元々はオカルトに染まってなっかったろうに、お前のせいで変な電波に目覚めちまったんだ。」
「言いがかりはやめろよ!太良池さんは友達なんだ・・・・利用なんて・・・・、」
「でもこいつは何も知らない。自分が利用されてることにも気づいてない。」
「・・・・・・・・・。」
「いいかオカルトハゲ。もしこの女が、お前に利用されてたことを知ったらどうなると思う?」
「ど、どうなるって・・・・・、」
「この女の性格だ。きっとお前を悪者とみなして、激しく責め立てる。今俺がやられていることを、今度はお前がされるんだ。」
「彼女はそんなことしない。だって友達なんだから・・・・・。」
「利用されてるって知ったら、友達とは思わなくなるはずだ。お前はこいつを敵に回す。それがどれだけ鬱陶しいことか、友達ならよく分かるだろ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
オカルト占い師は黙り込み、視線を泳がせる。
焦っているのが目に見えるが、それでも認めようとはしなかった。
「一つ提案だ。」
そう言って肩を叩くと、オカルト占い師はごくりと唾を飲んだ。
「俺は今からこいつを占う。そしてこいつの悩みとやらをズバッと解決してみせる。もしそれが出来たら、お前も大人しく引き下がれよ。」
「ど、どういう事だよ・・・・・?」
「俺を追い出すのを諦めろって言ってんだよ。それを約束するなら、お前がこの女を利用してたことは黙っててやるよ。」
「言いたいなら言えばいいじゃないか。彼女はお前の言葉なんか信用しない。何言ったって無駄だよ。」
「いいや、そうはならない。」
「なんで?君は彼女に嫌われてるんだ。だから絶対に耳を傾けることはないよ。」
「それは今までの話だ。もし・・・・もしもこいつの悩みを解決することが出来たら、俺の言葉に耳を傾けるようになる。
だって悩みを解決出来たなら、俺を本物の占い師として認めるって言ったんだからな。」
「・・・・・・・・・。」
「この女の性格だ、冗談で言ったわけじゃない。約束通り、俺を本物の占い師と認めるだろうよ。そうなりゃ・・・・後はどうなるか分かるな?」
そう言って顔を近づけ、「何がお前にとって損のない選択か、よく考えろ」と肩を叩いた。
「おい電波、そこに座れ。」
俺は席につき、電波女を見上げる。
「いつまでも動画見てるな。何回見たって変わりゃしねえよ。」
「あなたのインチキぶりを再確認してるんです。適当なことベラベラ喋って、佐々木さんを困らせてる。」
「それはこのハゲが持ちかけた勝負だ。俺からやったんじゃない。」
「いいえ、あなたが佐々木さんに迷惑を掛けてるんです。嫌がらせをして、ここから追い出そうとしてる。」
「そうか、なら好きに思ってくれ。それより今は占いだろ?」
「そうですね。」
電波女はスマホをしまい、目の前に座った。
「まず聞きたいんだけど、どうして俺に占ってもらいたいんだ?」
そう尋ねると、「マルちゃんが懐いていたからです」と答えた。
「あの子は悪い人には懐かないんです。でもあなたには懐いていて、それで後を追いかけてあんなことに・・・・・、」
「なるほど。じゃあこういうことだな?」
俺はわざとらしく指をたて、電波女に向けた。
「インチキ占いの悪者であるはずの俺に、なぜかマルちゃんが懐いてた。だからもしかしたら、この人は良い人なんじゃないかって思ったわけだ?」
「そうです。限りなく黒に近いですけど。」
「でもまだグレーなわけだ?」
「ほとんど黒です。」
「ほとんどか・・・・・。なら完璧に黒かどうか判断する為に、俺に占ってもらおうと?」
「そうです。もし私の悩みを解決することが出来たら、あなたは本物ということです。だったらインチキじゃないわけですから、悪者じゃありません。
マルちゃんが正しかったってことになります。」
「あの猫を信用してるのか?」
「動物は嘘をつきません。」
「人間よりよっぽど信用出来るって言いたそうだな。」
「そうですよ。動物はみんな素直で素晴らしいんです。人間だけが醜く汚れてる。」
「そうか?動物だってけっこう強かだと思うぞ。カッコウなんか他の鳥の巣に卵産んで、子供を育てさせるし。」
「それは野生の世界の出来事だからいいんです。生き抜く為の知恵であって、人間のように汚れてるわけじゃありません。」
「なら人間の悪事だって、生き抜く為の知恵と言えるんじゃないの?」
「違います!人間は汚れてるんです。動物のように素直じゃなくて、嘘にまみれた酷い生き物なんです。」
「ずいぶん人間に偏見を持ってるな。」
「偏見じゃありません。事実です。」
「じゃあもしかしたら、あんたの悩みもそこにあるのか?」
「そうです。」
「分かった。なら俺の占いで、あんたの悩みを解決してやるよ。」
背筋を伸ばし、電波女の目を見つめる。
向こうも俺の顔を睨んでいて、まるで決闘にのぞむ武士のようだった。
「じゃあ言いますね。私の悩みというのは・・・・・、」
淡々とした口調で、電波女は悩みを語り始める。
武士のようなその顔を見つめながら、俺は耳を傾けた。


            *


電波女の口調はとても淡々としていて、すごく聴き取りやすい。
それは自然とそういう口調になっているんじゃなくて、相手に伝わりやすいように意識しているんだなと思える話し方だった。
内容も筋道立てて分かりやすいので、これも相手に伝える為に意識しているんだと分かる。
俺はじっと耳を傾け、女の悩みを聞いていた。
喋り始めてから五分、女は「これが私の悩みです」と言い、真っ直ぐに俺を見つめた。
「どうですか?あなたに解決出来ますか?」
「・・・・・・・・・・。」
「あなたが本当の占い師だっていうなら、きっと出来るはずです。佐々木さんのように霊力がなかったとしても、本物なら出来るはずなんです。」
「・・・・うん、そうだな。でもちょっとあんたの悩みを整理させてくれ。」
「いいですよ。じっくり考えて下さい。時間はたっぷりありますから。」
「今日は暇なの?」
「はい。」
「コンビニをクビになったから?」
「はい。」
「猫に餌やるからって、ちょくちょく仕事さぼってたらそうなるよ。自業自得だな。」
「自覚しています。一緒に入っていた同僚にも迷惑をかけていたと分かっています。」
「でもやめられなかった?」
「私の悪いところです。そうやって何度も失敗してきました。」
「でもそれを改善しようとは思わなかった?」
「自分の信じることをやめてしまえば、自分ではなくなってしまいます。私は自分が正しいと思うことをしないといけないんです。」
「そうしないと、亡くなった友達を裏切ることになるから?」
「そうです。・・・・ていうか、こんなにベラベラ喋りながら、私の悩みを整理なんて出来るんですか?」
「喋ってる方が整理しやすい。自分一人で考えたって、あんたの考えとはズレが出て来るから。だから話しながら相手の考えや望みを探っていくんだよ。」
「それがあなたの占いですか?」
「そうだよ。コールド何とかっていうらしい。」
「?」
「いや、気にしなくていいよ。」
俺は腕を組み、「でもあんたの悩みは重いなあ・・・・」と呟いた。
「正直こんな悩みは初めてだよ。だって大抵の客は、恋愛とか仕事の悩みだからな。」
「私は自分の生き方で悩んでいます。仕事でも恋愛でもありません。」
「あんたは中学の時に友達を亡くした。良かれと思ってやった事なのに、それが相手を追い詰めて・・・・、」
「私が殺したようなものです。結果的には自殺でしたけど、でもそこまで追い込んだのは私ですから。」
「だけどあんたは元々正義感が強いんだろ?だったら友達がイジメられてたら、それを助けようとするのは当然だと思うけど。」
「やり方が間違っていたんです。彼女は酷いイジメを受けていて、友達は私しかいませんでした。だから助けるのは当然なんだけど、私はいつも不器用なんです。」
「まあ・・・・ねえ。イジメられてる子を助けるのに、普通は日本刀なんか持たせないよ。」
テーブルに肘をつき、「ていうかよく学校にそんな物を持ち込めたな?」と尋ねた。
「普通は先生とかに止められるだろ?どうして教室まで持って入ることが出来たの?」
「生徒が学校に日本刀を持って来るとは思わないでしょう?」
「まあそうだな。ならあんたはそれも計算に入れて持ってきたわけだ?」
「彼女から相談されていたんです。このままじゃ堪えられないし、いつ自殺するか分からない。でも何もしないで死ぬのは悔しいから、ちょっとでもやり返したいって。」
「だからって日本刀はないでしょ。」
「真剣じゃありません。ただの模造刀です。」
「いや、模造刀だろうと何だろうと、そんなもんを向けられたら誰だってビビるよ。」
「実際にみんな怯えていました。でもそれが目的だったんです。」
「相手を怖がらせようとしたわけだ?」
「彼女にそれを持たせて、イジメッ子に向けさせました。」
「みんなブルってたろ?」
「顔が真っ青になっていました。泣き出す子もいたし、その場で謝る子も。」
「当たり前だよ。イジメてたやつに刀を向けられたんだ。そりゃ殺されるかもって思うよ。」
「イジメっ子は教室の隅で固まりながら、身を寄せ合うように怯えていました。そこで私がこう言ったんです。『もう絶対にこの子をイジメないで』って。」
「で、相手はどう答えたの?」
「今までイジメててごめんなさいって。必死に謝ってきました。」
「なら目的は達成したんだな。」
「そうなんです。本当ならここで終わるはずだったんです。だけど・・・・・、」
女は口を噤み、不安を紛らわすように腕をさすった。
凛としていた表情はどこかへ消えて、自信がなさそうに眉を寄せている。
「その・・・・刀を持った彼女はすごく興奮状態になってしまっていて、私が止めても刀を放さなかったんです。」
「まあ気持ちは分かるな。今までイジメられてた子が、今度は相手を追い詰める側になったんだから。そこで刀なんか持ってたら、興奮して当たり前だと思うよ。」
「彼女は顔を真っ赤にしながら、まるで猛獣みたいに怖い顔をしていました。大声で喚き散らして、イジメっ子たちを怒鳴りつけて・・・・、」
「夢にまで見た復讐の機会がやってきたんだ。きっと嬉しかっただろうな。」
「嬉しい?」
「そうだよ。今までは弱者の立場だったのに、急に強者に変わったんだ。胸の中に溜めていた怒りとか悔しさとか、そういうものが一気に噴き出したんだと思うよ。」
「それは嬉しさと言うんでしょうか?」
「最初は違ったとしても、最終的にはそうなったんじゃないかな?だって恐怖で刀を振ることは出来ないでしょ?」
そう言って刀を振る真似をして、女の方に向けた。
「その子はイジメっ子に刀を振り下ろした。」
「はい。一番自分をイジメてた子に向かって。たまたま頭を逸れたからよかったけど、でも下手したら殺していたと思います。」
「それはさぞ楽しかっただろうな。相手を見下す快感とか、相手の命を自分が好きに出来る快感があったんだと思うよ。
このイジメっ子どもを生かすも殺すも、自分次第なわけだから。」
「・・・・そう・・・なんですかね?私はてっきり興奮してパニックになっていたと思ったんですけど・・・・、」
「パニックで刀を振ったんなら、狙って当てることは出来ないでしょ?」
「・・・・どういうことですか?」
「だって自分を一番イジメてた子に向かって刀を振り下ろしたんでしょ?それって明らかに狙ってるわけじゃない。ある意味冷静じゃないと出来ないことだよ。」
「たまたま・・・・じゃないんですか?」
「じゃあ聞くけど、刀が当たったのはどの部分。頭じゃないって言ってたけど、どこに当たったの?」
「肩です。」
「ならやっぱり狙ってるよ。」
「どうして?殺すつもりなら頭を狙うはずでしょう?」
「殺すつもりがなかったから、頭を狙わなかったんだと思うよ。だってもし殺したりなんかしたら、今度は自分の立場が悪くなるから。」
そう言ってまた刀を振る真似をして、女の顔の前で止めた。
「イジメっ子たちはちゃんと謝ってくれた。それも顔を真っ青にして泣きながら。」
「そうです。ちょっと可哀想なくらいでした・・・・。」
「ならその時点で目的は達成してるわけだよね?だったらそれ以上危害を加えるのは合理的じゃない。」
「でもそれはパニックになっていたから・・・・、」
「違う、嬉しかったんだよ。今まで自分をイジメてた奴らが、泣きながら頭を下げている。それが堪らなく嬉しかったんだ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「だからもう許してもいんだけど、でももうちょっとこの状況を楽しみたい。
謝ってはくれたけど、でも私が今までに受けた仕打ちに比べれば、もうちょっと追い詰めてもバチは当たらないはずだ。
だったら肩か腕に一撃でも加えて、もうちょっと泣かせてやろう。そこまでやれば、自分も溜飲を下げられるから。」
「・・・・・・・・・・・。」
「そして実際に刀を振り下ろし、相手の肩に当てた。模造刀だから刃は付いてないけど、でも金属の塊だからね。
そんなもんで殴られたら、そりゃ怪我くらいするよ。」
「・・・・・刀で叩かれたその子は、悲鳴を上げてうずくまっていました。他のイジメっ子は半狂乱みたいに泣き出すし、クラスの女の子も悲鳴をあげて・・・・。
男の子の何人かはすぐに職員室に駆け出しました。他のクラスからも野次馬が来て、一気に大騒ぎに・・・・・。」
「やがて駆け付けた先生によって、その子は刀を取り上げられた。そして肩を叩かれた子は病院に運ばれたんだね?」
「そうです。あの時は学校じゅうがパニックでした。」
「でも警察は来なかった。」
「はい。」
「模造刀といえど、相手を刀で怪我させた。でも学校は警察を呼ばなかったんだ。これっておかしいよね?」
「最初は呼ぼうとしていたんです。でもこうなった事情を知るにつれて、先生たちの態度は変わっていきました。」
「原因がイジメだからね。それが外にバレることを恐れたわけだ?」
「そうだと思います。彼女が受けていたイジメは酷いもので、口で言うのも躊躇うような事だってあります。」
「そんなに酷いイジメがあって、その子は自殺まで考えていた。しかも・・・・最後は模造刀で相手を怪我させている。
まあこんな事がバレたら大変だよね。すぐに新聞やテレビで取り上げられちゃうよ。」
「これは私の勝手な想像だけど、学校は事実を隠そうとしたんだと思います。あの状況で警察を呼ばないのは、明らかにおかしいですから。」
「多分それで当ってるよ。ていうかそれ以外に考えられない。」
「警察は来なかった。でもだからって何も無かったことになるわけじゃありません。」
「うん、自殺を考えるほどのイジメと、模造刀で相手を怪我させたこと。そりゃ無かった事には出来ないよ。
だから先生たちは、イジメられていたその子と、イジメていた子たちに話を聞いたんだろ?もちろんあんたにも。」
「学校の中で調査は行われました。イジメは本当にあったのか?もしあったならどの程度のものなのか?でも誰も口を開こうとはしなかったみたいです。」
「正直なところ、誰も深く関わりたくなかったんだろうね。イジメってのは、告げ口した時点で自分も首を突っ込むことになるから。
下手に何か喋ったら、後からチクリ魔だとか言われるかもしれないし。」
「それもあるかもしれないけど、でも本当の理由は別にあると思っているんです。」
「へえ、どんな?」
「積極的にイジメていた子は、彼女に刀で脅された子たちだけです。でもクラスのほとんどの子が、大なり小なり彼女をイジメたことがありました。」
「マジかよ?そりゃ酷いな・・・・。」
「そもそも担任の先生ですから、彼女への態度は冷たかったんです。だから彼女は本当に孤立していて・・・・、」
「あんたしか味方がいなかった?」
「はい。私以外のクラスメイトは、多少なりとも彼女をイジメたことがある。だからあえて口を開かなかったんだと思います。」
「でもさ、そこまで嫌われるってよっぽどだよね?もしかしてその子にも原因が・・・・、」
そう言いかけようとした時、電波女は「それは違います」と遮った。
「イジメは悪なんです。だからイジメられてる子に原因があったとしても、やってはいけないことです。」
「それはそうだけど、でもイジメって大人の世界でもあるんだよ?だったら中学生なら尚更じゃないの?気に入らない相手がいたら、イジメに走ったっておかしくないよ。」
「イジメを肯定しないでください。いくら相手が気に入らないからって、平気で傷つけるようなことをするなんて・・・・、」
「肯定はしてないよ。ただその子がどういう子が具体的に知りたかっただけ。まあ喋りたくないならいいけど。」
「彼女のことなら教えてあげますよ。私以上に正義感の強い子でした。例えどんなに小さなことでも、間違ったことは許せない性格だったんです。」
「ああ・・・・それは正直・・・・・あれだな、鬱陶しがられるな。」
「でも私ほど気は強くありませんでした。言いたいことがあっても何も言えない、大人しい子だったんです。
だけど一度だけ勇気を振り絞って、クラスのリーダー格の女の子に注意をしたことがあるんです。」
「はいはい・・・・もう何となく分かるよ。」
俺は顔をしかめ、椅子にもたれた。
「学校ってさ、いわゆるスクールカーストっていうのがあるじゃない。自分より格下だと思ってる相手から注意されたら、そりゃ怒るよ。ましてやそれをリーダー格の子にやるなんて。」
「でも彼女のとった行動は正しいですよ。だってその時は、別の子がイジメの的にされていたからです。」
「ならそれを注意したわけだ。」
「はい。」
「それ以前にあんたはそれを注意しなかったの?」
「しましたよ。」
「でもイジメの的にはされなかったんだ?」
「されました。だけど私って気が強いから、相手が悪いことしてくるなら、黙っていられないんです。」
「まあ・・・・そうだろうね。」
「一度机の上に花瓶が置かれていたことがあったんですが、一目見て誰が犯人か分かりました。だって困惑する私を見ながら、リーダー格のグループがニヤニヤしていたからです。
だから花瓶を手に持って、その子たちの机に叩きつけてやりました。」
「・・・・・・・・・・・。」
「そして飛び散った破片を拾って、それをギュッと握りしめたんです。手から血が流れて、それを相手に見せつけました。」
「凄まじいな・・・・。」
「イジメをするってことは、相手をこうやって傷つけることなんだって、教えてやりたかったんです。こうやって心から血を流してるんだぞって。
それ以来クラスの誰も口を利いてくれなかったから、無視という形でイジメを受けていました。」
「それはイジメじゃなくて、誰もあんたに関わりたくなかっただけだと思うよ。」
「ならそれでいいです。だけど結局、リーダー格のグループはイジメをやめませんでした。相変わらず弱い子は的にされていたから、彼女が見かねて注意したんです。」
「それで今度は自分がターゲットになったと。」
「はい。私は彼女を守ろうとしましたが、でも私の見えないところでコソコソイジメられていたんです。だからとうとう我慢出来なくなって、彼女は自殺を考えるように・・・・、」
「なるほどね、そこから日本刀の事件に結びつくわけだ?」
「イジメの的にされた彼女は、クラスじゅうから除け者にされていました。彼女は私しか友達がいなかったし、私も彼女しか友達がいませんでした。
だから本当なら、私がしっかりと彼女を守ってあげないといけなかったんです。いけなかったんですけど・・・・・でも・・・・・、」
女は口を噤み、ギュッと目を閉じる。
膝の上で拳を握り、痛みに耐えるように震わせていた。


 

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