VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第十三話 占い師VS生真面目な女(3)

  • 2015.12.17 Thursday
  • 14:26
JUGEMテーマ:自作小説
電波女は、中学生の時に友達を亡くしたことで悩んでいた。
こんこんと悩みを語り、俺は合いの手を入れながら話を聞き出す。
女は今まで饒舌に語っていたのに、突然辛そうに俯いた。
膝の上で拳を握りながら目を閉じる。そして何かに懺悔するように口を開いた。
「最終的には、私だって彼女をイジメる側に回ってしまったんです。だって・・・・先生たちから話を聞かれた時に、嘘をついてしまったから・・・・・、」
そう言ってさらに拳を握り、眉間に深い皺を寄せた。
「私は先生たちから詳しく話を求められました。私が一番あの子と仲が良かったからです。イジメの件は本当なのか?どうしてあの子は刀なんか持っていたのか?」
「まあそうなるよな。他の子は口を噤んでるわけだし。」
「彼女はイジメに関しては詳しく話したけど、でも刀のことに関しては一切何も喋らなかったそうなんです。だから彼女と仲の良い私なら、事情を知っているんじゃないかって・・・・。」
「刀のことに関して何も喋らなかったってことは、もしかしてあんたを守ろうとしてたってことかな?」
「そうだと思います。あの子は真面目で正義感が強かったから、友達が悪くなるようなことは言わなかったんです。」
「でも先生たちは詳しく事情を知りたい。いくら模造刀といえども、刀なんかを学校に持ち込んだわけだからね。それで実際に怪我もさせてるし。」
「私・・・・その時に初めて嘘をついたんです。彼女は私を庇って何も言わなかったのに、私は自分を守る為に・・・・・醜い嘘を・・・・・、」
閉じていた目を見開き、大きく息を吐く。
握っていた拳を開いて、肩から力を抜いた。
それはまるで、罪を告白する罪人のようだった。
「私、こう見えても勉強は出来た方なんです。将来は医療の道に進むつもりでいたから、高校だってそれなりの所へ行くつもりでした。」
「どこへ行くつもりだったの?」
「灘高校です。」
「マジで!?日本一頭の良い高校じゃん!」
「私のいる中学は進学校というわけじゃありませんでしたが、でも私は頑張って勉強しました。だから先生も、お前なら受かる可能性があるって言ってくれて。」
「あんたすげえ頭いいんだな。ちょっと見直したよ。」
「自分で言うのもアレですけど、かなり頑張って勉強したんです。だからどうしても良い高校へ進学したかった。だけど・・・・・、」
そこでまた口を噤み、拳を握る。
俺はテーブルに肘をつきながら、「進学の為に嘘をついたわけだ?」と見つめた。
「学校に刀を持ち込んだのはあんただし、その刀で脅してやれって吹き込んだのもあんただ。だからもし本当のことがバレたら、進学どころじゃなくなるかもしれない。
だから自分を守る為に嘘をついた。そういうことだよね?」
「その通りです・・・・。私、将来は人や社会の役に立てる仕事に就きたかったんです。だから絶対に医療の道へ行こうと決めていました。
医者になるか、それとも研究者になるかは決めていなかったけど、どっちにしたって良い学校で勉強をしないとなれないですから。」
「あんたはその為に今まで努力してきたから、それが水の泡になるのが嫌だった。だから先生から話を求められた時に、咄嗟に嘘をついてしまったと。」
「私・・・・刀のことなんか知らないって言っちゃったんです。私が教室に入ったら、彼女はもう刀を持っていたって。
それで・・・・私は止めようとしたけど・・・・・彼女は止まらなくて・・・・そもまま刀を振って・・・・。」
女は顔を真っ赤にしながら、これでもかと目を見開く。
まるで目の前にその時の映像があるかのように、じっと一点を凝視していた。
「先生たちが、私の嘘を信じたのかどうかは分かりません。だけど私が嘘をついたことは、彼女にも伝わりました。」
「そりゃ彼女は事件の当事者だからね。あんたの話が本当かどうか確認する為に、本人にもそれを伝えるでしょ。」
「先生から『太良池の言ってることは本当か?』って聞かれた彼女は、その通りですって頷いたそうです・・・・・。刀は自分で用意したし、これで復讐しようと企んだのも私だって・・・・。
それどころか、私のことを庇ってくれたんです。太良池さんは私を止めようとしたくれたって・・・・。それを振り払って、私が斬りかかったんだって・・・・、」
だんだんと女の声が細くなり、最後は消え入りそうなほど掠れた。
ギュッと目を閉じ、ほんの少しだけ目尻が濡れている。
「私は彼女を裏切ったのに、彼女は私を庇ってくれたんです・・・・。今まで・・・・私は嘘なんてついたことなくて、いつだって正しいことをしようと心掛けてきました。
でも・・・・一番嘘をついちゃいけない場面で、嘘をついちゃったんです・・・・。それも一番嘘をついちゃいけない人に・・・・・、」
指で目尻を拭い、短く鼻をすする。
顔は真っ赤に染まって、怒りとも悲しみともつかない表情をしていた。
「彼女が私を庇ってくれたことを知って、私はすぐに会いに行きました。あの事件から四日間、彼女は学校へ来ていなかったから・・・・。」
「で、会ってくれたの?」
「はい。」
「で、彼女はなんて?」
「笑ってました。」
「笑ってた?怒ってなかったってこと?」
「いえ、そうじゃなくて、あの時のことを思い出していたみたいなんです。イジメっ子に刀を突きつけて、あの子たちが真っ青になっていたのを。」
「ほら、やっぱり喜んでたんじゃない。」
「・・・・私にはそうは思えませんでした。すごく無理矢理笑っている感じがしたし、それに私と目を合わせようとしなかったし・・・・、」
「そりゃあんな事件を起こした後だから。気が動転してるよ。」
「・・・・そうだったのかもしれません。しばらく他愛ない話をしていたんですが、私は彼女の目を見てすぐに謝りました。
嘘をついてごめんって。明日すぐに先生に本当のことを言うからって。加子ちゃんは私が守るから、何にも心配しないでって。」
「それで、彼女は許してくれたの?」
「そう言うと、しばらく黙ったままでした。じっと畳を見つめて、ここではないどこかを見ているようで・・・・。だからもう一度言ったんです。
嘘ついてごめんなさい。全部私のせいなんだって先生に言からう。加子ちゃんは何も悪くないって知ってもらうからって。そうしたら・・・・一言だけこう呟いたんです。」
そう言って深呼吸し、自分の手を握りしめた。
「これからも友達でいてね・・・・・って。」
今までで一番静かな声で言って、「その次の日に自殺しました」と目を潤ませた。
「彼女に会いに行った次の日、私は先生に本当のことを伝えました。でもその時・・・・先生はすごく困った顔をしながら、加古ちゃんに何があったかを教えてくれたんです。」
「自殺したってことを?」
「はい。彼女の家は母子家庭で、お母さんはパートに行くから朝が早いんです。でもあんなことがあったから、毎朝心配して加古ちゃんの部屋を覗いてから仕事へ行っていたんです。
そして・・・私が会いに行った次の日、加古のちゃんの部屋を覗いたら・・・・・・・、」
辛そうに唇を噛み、また拳を握る。
眉間には深い皺が寄り、これでもかと瞼が閉じられていた。
「いいよ、その後は言わなくても。」
「・・・・ごめんなさい・・・・。」
「あんたは本当のことを先生に話した。そのことについては何かあった?」
「・・・・・何も。」
「何も?」
「私は朝一番に担任の先生に伝えました。その後に職員室へ呼ばれて、校長先生や教頭先生、それに学年主任の先生も一緒に話を聞いてくれました。」
「その時に彼女の自殺を聞かされたんだね?」
「はい。」
「で、その後はどうなったの?」
「よく覚えていません。加子ちゃんが自殺したってことを聞かされてから、ほとんど何も考えることが出来なくなりましたから・・・・・。
確かその日は家に帰ったと思います。先生がそうしろって・・・・。」
「で、それからは何の音沙汰もなし?」
「はい。加子ちゃんが亡くなったことは、先生がみんなに知らせたそうです。でも・・・・自殺だということは伏せていたみたいです。」
「まあ同級生が自殺したなんて知ったらショックだろうからな。でもどうにでもそういうのは伝わるんじゃないの?」
「ええ・・・・みんな加子ちゃんが自殺したことは知っていました。」
「でもあんたは何のお咎めも無しだった。」
「・・・・きっと先生たちは黙殺したんだと思います。イジメがあって、日本刀の事件があって、それで加子ちゃんが自殺。
その後に私が本当のことを言ったものだから、これ以上厄介事を増やしたくなかったんだろうなって。もちろん確証はありません、私の勝手な推測です。」
「でもさすがに自殺となると、それは隠しようがないよね?ニュースになったりしなかったの?」
「私はあの時子供だったから、何も分かりませんでした。だけど大人同士の話し合いはあったみたいです。」
「それは学校と親の話し合いってこと?」
「そうです。去年にたまたま同級生に会って、あの時の話を聞かされたんです。あの後、事が公にならなかったのは、イジメグループの親が地元の名士だったからだって。
私の地元は地方の小さい町なんですが、そういう所って偉い人達はみんな繋がってるんです。だから顔の利く人なら、もちろん教育の現場にだって影響力があって・・・・、」
「まあ・・・・なんかよくありそうな話だよね。いや、よくは知らないけどさ。」
「もちろんこれはただの噂です。でも実際に私は何のお咎めもなかったし、怪我をしたイジメっ子もその後は普通に学校に来ていました。」
そう言って「加子ちゃんの自殺はもちろんショックだったけど、それと同じくらいにショックなことがありました」と続けた。
「彼女のお通夜の時、加子ちゃんのお母さんに会ったんです。すごく悲しそうな顔をしていて、でも私の手を握ってこう言ってくました。
ずっと加子の友達でいてくれてありがとう。こんなことになってごめんね・・・・・・って。
私・・・・・ハンマーで思い切り胸を叩かれたような気分になりました。だって全部私が悪いのに!加子ちゃんはイジメられてただけなのに・・・・。
悪いのは私とイジメっ子なのに・・・・・、」
自分の手に爪を立て、ギリギリと食い込ませる。
それままるで、身体の痛みで心の痛みを誤魔化そうとしているように見えた。
「だから次の日のお葬式・・・・行かなかったんです。加子ちゃんの顔を見るのも辛かったし、おばさんお礼を言われるのも辛かったから・・・・・。
だから・・・たった一人の友達の最後を、見送っていないんです。それは今でも後悔してるし、それに・・・・・、」
言いづらそうに俯き、手を組み替える。
息を飲んで顔を上げ、「私・・・・まだ分からないんです」と引きつった表情で言った。
「あの時、私は加子ちゃんのお母さんに本当のことを言うべきだったのかなって・・・・。きっと加子ちゃんは本当のことをお母さんに言ってない。
だからおばさんは誤解したままなんです。あの後おばさんは、すぐに引っ越したんです。それ以来会うことも出来なくて・・・・。」
爪が皮膚に食い込み、赤くなっていく。そのうちじわりと血が滲んで、爪を赤く染めていった。
「だから教えて下さい!私は・・・・ずっとおばさんに嘘をついたままなんです!いくら正しいことをしたって、いくら自分の正義を貫いたって、今でも嘘をついたままなんです!
どんなに時間が経っても、今でも分からないまま・・・・。」
そう言ってさらに爪を立てようとするので、「怪我するから」と腕を掴んだ。
「そんなことしたって血が出るだけだ。やめとけ。」
「でもこうしないと胸の痛みに負けそうになるんです。」
「じゃああんたはアレだな、身体の痛みより心の痛みに弱いタイプだな?」
「だって・・・・身体の傷は治るけど、心は傷は深くなるばかりだから・・・・・。」
「あんたが馬鹿みたいに正しいことにこだわるのは、加子ちゃんとおばさんへの罪滅ぼしか?それとも自分の胸の痛みを誤魔化す為?」
「・・・・・分かりません。でも・・・・多分その両方かも・・・・、」
「じゃあアレだな、やっぱり病院へ行った方がいいよ。」
そう答えると、女は驚いたように顔を上げた。
「なんですかそれ・・・・ここまで話を聞いておいて、最後は病院って・・・・・。だったら最初から話なんて聞くなよ!」
鬼のような顔で叫び、親の仇のように俺を睨む。でも俺は「病院が一番いい」と答えた。
「いいか、こんなの俺の仕事じゃない。だってあんたは心を病んでるから。」
「病んでるって・・・・・なんで素人のあなたに分かるんですか!」
「いや、誰が見たって分かるだろ。だってあんたの正しさへのこだわりは異常だもん。それってつまり、加子ちゃんやおばさんのことがトラウマになってるんだろ?」
「トラウマなんて・・・・、」
「でもさっき言ったじゃん、どんなに時間が経っても分からないままって。それってさ、心に出来た傷が、今でも治らずに残ってるってことだろ?」
「そうですよ・・・・だって治るわけないじゃないですか。今でも嘘をついたままなんだから・・・・。」
「でもさ、普通の人間なら忘れると思うんだよ。そりゃ酷いことしたなあって後悔はするし、たまに思い出して落ち込んだりもすると思うよ。
でもあんたみたいに異常にはならない。だからやっぱり病気なんだよ。医者へ行くの一番いい。」
「だったらなんで私を占ったんですか!病院へ行けっていうのが答えなら、あんた最初から言ってたじゃない!」
「あれはただの冗談、でも今は本気。」
「なら余計に性質が悪い!さんざん話をさせておいて、そんな終わり方させるなんて許さない!あんたはやっぱりインチキだ!」
「そうだよ、ただの屁理屈野郎だからな。」
「開き直るんじゃない!このまま終わると思うなよ!」
「でもあんたの話を聞かなかったら、本気で病院へ行けなんて言わなかったよ。だから話を聞いた意味はあった。」
「だったら自分は偽物のインチキって認めるんだな!?この動画をばら撒いてもいいんだな!?」
「どう思ってくれてもいいし、好きにしたらいいよ。でもな、これは少なくとも俺の仕事じゃない。俺じゃあんたの心の傷は治せないから。」
そう言って「じゃあもう終わり」と手を出した。
「占い料、延長も含めて6000円。」
「はあ!?あんた・・・・マジでふざけるなよ・・・・・、」
「誰もタダで占うとは言ってない。」
「あ・・・・あんたあ・・・・・・、」
女は電波に戻り始めたようで、「一生かけて呪ってやる!」と叫んだ。
「あんたを呪ってやる!私にはそういう力があるんだから!悪い奴を懲らしめる力が宿ってる!そうよね佐々木さん?」
そう言っていきなり同意を求められて、オカルト野郎は「あ・・・うん、そうだよ」と頷いた。
「太良池さんにはそういう力がある。僕には分かる。」
「ほら見ろ!本物の占い師がこう言ってる!あんたはもうお終いだ!」
女は鬼の首を取ったように喚く。
でも俺は平然とした顔で、「呪いなんてない」と答えた。
「呪いなんてただの思い込みだし、霊能力だって同じだ。いつまでもそんなもんにしがみついて逃げてんなよ。」
「逃げてなんかない!ただ悩んでるだけ!」
「じゃあ好きなだけ悩めよ。そうやって死ぬまで悩んでりゃいいんだ。そんで死ぬまでオカルトに逃げてればいい。」
「オカルトじゃない!だって佐々木さんは霊能力があるから!加子ちゃんは私を恨んでないって言ってくれたから!」
「へえ、このハゲが霊視でもしてくれたのか?」
「そうよ!加子ちゃんは私の傍にいて、いつでも笑ってくれているって!」
「そうか、ならこのオカルト野郎に頼んで、加子ちゃんに聞いてみろよ。あんたのお母さんに本当のこと言ってもいい?って。」
「聞けるかそんなこと!」
「なんで?」
「加子ちゃんは誰にも本当のことを言わなかった!先生にも、それにおばさんにも!だったら聞けるわけないだろ!そんなの・・・・私が聞く資格なんてないから・・・・、」
「泣くんじゃねえよバカ。」
俺は女を睨み、「お前に必要なのは治療だろ?」と尋ねた。
「いくらオカルトに傾倒したって、今でも嘘をついたことを悔やんでる。お前は自分で自分を呪ってるんだよ。」
「そ・・・そんな・・・・そんなことは・・・・・、」
「無いとは言い切れないだろ?さっきも言った通り、呪いなんてただの思い込みだからな。
お前は自分で自分を呪ってるだけだ。残念ながら、その呪いは占い師にも霊能力者にも解けない。解くことが出来るのは医者だけだ。」
「・・・・違う・・・・私は病んでなんかいない・・・・・。加子ちゃんだって笑ってくれてる・・・・。黙れよインチキ・・・・・、」
顔を真っ赤にしながら、鬼の形相で立ち尽くす女。
でも俺は自分の意見を曲げなかった。もう一度「病院へ行った方がいいよ」と言い、改めて料金を求めた。
女は無言で財布を取り出し、万札を叩きつける。
「じゃあお釣り出すからちょっと待っててね。」
「いらないわよ!今これしかないから取っとけ!」
「いや、正規の料金以外は取らない。はい、4000円返すね。」
「だからいらないって!」
「あ、そ。じゃあコンビニの募金箱にでも入れとくわ。そっちの方が社会の役に立つから、あんたも本望だろ?」
「好きにしろよインチキ野郎!」
女は席を立ち、「このまま終わると思うなよ!」とスマホを見せつけた。
そして一瞥をくれてから立ち去ろうとした時、一人の客がやって来た。
「あ、どうもっす。」
軽い感じで頭を下げながら、インディアンみたいなポンチョを揺らしている。
「あの・・・・お言葉に甘えて来ちゃいました。飯、奢ってもらおうかなあって。」
そう言って馬鹿デカイカバンを抱えながら、ニコニコとしている。
「え?あ・・・・ああ、飯ね。うん、いいよ。」
俺は戸惑いながら笑いを返す。
電波女と入れ替わりにやって来た客、それは路上アーティストの銀鷹君だった。

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