VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第十四話 変人VS変人

  • 2015.12.18 Friday
  • 14:14
JUGEMテーマ:自作小説
占い師なら、未来に起こることを予測できるはずだ。
多くの人はそう思ってるかもしれないけど、あいにく占い師にそんな力はない。
もし未来が予測できるなら、俺はもっと良い暮らしをしてるだろう。
競馬や競艇で大儲けして、週の半分は遊んで過ごす。
でもそうはならないから、こうしてせっせと占いに励んでいる。
電波女の占いは、彼女の望まない結果に終わった。
散々話を聞いた挙句、俺の出した答えが「医者へ行け」だったからだ。
電波女は「呪ってやる!」と言い残し、席を去ろうとする。
でもそこへ路上アーティストの銀鷹君がやってきて、飯をねだってきた。
別にそれ自体はかまわない。元々そういう約束をしてたんだから。
でも銀鷹君は、電波女を見るなりこう言った。
「あんた・・・・顔暗いっすね。」
初対面の人間に向かって、いきなりダメ出しである。しかも続けて「美人なのに勿体無いっすよ」と笑った。
「世の中には整形してまで美人になりたがる人もいるのに、そんな仏頂面してちゃダメっすよ。もっと笑ってないと。」
そう言って女の頬をつまみ、グイッと引っ張った。
「ほら、こうやって笑ったら可愛いっす。」
ブニブニと電波の頬を引っ張り、楽しそうに笑っている。
「・・・・・・・・・・。」
電波女の顔から見る見るうちに血の気が引き、サッと拳を振り上げた。
そして思い切り銀鷹君のおでこを殴る。
「痛ッ!」
ガコ!っと音がして、電波の拳がめり込む。
銀鷹君は頭を押さえ、その場にうずくまった。
「なんだお前!?ふざけるな!」
電波女は奇声を上げ、銀鷹君を蹴りまくる。
俺は「やめろ!」と慌てて止めに入った。
「手え出すなバカ!」
「勝手に触るな!この変態!」
「ちょっと落ち着け!おいハゲ、お前も手伝え!」
「あ・・・・・ああ!」
俺とオカルト野郎で取り押さえ、どうにか銀鷹君から引き離す。
「この野郎!なんだいきなり!」
電波女の怒りは治まらず、俺たちに抱えられながらも蹴りを出している。
「てめえなんだこの!初対面の人間にやることか!」
女の顔は鬼を通り越し、般若のように歪んでいる。
超が付くほど真面目な性格のせいか、非常識はことはとことん許せないらしい。
まああんな事されたら俺もキレるだろうけど・・・・。
しかし銀鷹君は平然と立ち上がり、「女のわりにすげえ蹴りっすね」と笑っていた。
「そんな可愛い顔してるのに、すげえ力で蹴りまくるって・・・・あんた芸術っすよ。」
意味不明なことを言い出し、「ちょっとモデルになってもらえません?」と頼んだ。
「俺、最近写真に凝ってるんすよ。それをパソコンに取り込んで、立体的に表現するんです。」
そう言ってデカいバッグの中から、何枚かの写真を取り出した。
「これ、一緒に住んでるホームレスのおっちゃんに頼んで撮らせてもらったんす。
まだまだ完成には程遠いけど、でも出来上がったら3Dプリンタみたいに立体の写真になるはずなんすよ。」
あらゆる角度から撮影したオッサンの写真を見せつけ、「ね?面白そうでしょう?」と笑った。
「どうせ撮るなら面白い人がいいなあと思って。このオッサン、銀行の偉いさんだったのに、悟りを啓くとか言い出して仕事辞めちゃったんすよ。
そんで毎日瞑想してるんす。だけどちょこちょこ風俗に行ったりしてて、全然悟りには程遠いんすよ。しかもホームレスっていったって、何千万も貯金があるし。
それ、絶対悟り啓けねえだろみたいな。」
そう言ってまた別の写真を取り出し、「こっちのオッサンも面白いんすよ」と見せつけた。
「このオッサン、57になるのに、生まれて一度も働いたことがないんす。それに今でも童貞で。なんでかっていうと、15の時に家出して、それから20年も山奥で暮らしてたんすよ。
自分で槍とか弓矢とか作って、獲物を狩ってたんす。しかも土を耕してちょっとした畑とかも作って。
でもある日たまたま街に下りたら、警察に見つかったんすよ。そんで署に連れて行かれて、身元を調べられて。
そしたらすでに死亡したってことになってたんす。親が捜索願を出してたみたいなんすけど、あれって七年見つからないと死んだことになるらしくて。」
面白そうに言いながら、「だから今でも死人のまま」と笑った。
「隙を見て署から逃げ出して、また山に戻って。でもさすがに歳になると、冬がキツイらしくて。だから今は竜胆公園に住みついてるんす。
死亡を取り消す手続きとかしてないから、多分今でも法律上は死人のままっすよ。でもね、ちゃんと生きてるんす。
書類上では死んでても、本人は生きてるんすよ。だから人の生き死になんて、紙っぺらで決められないってことの見本すよね。」
楽しそうに説明しながら、「でもあんたも面白そうっす」と見つめた。
「そんな可愛いのに、鬼みたいな面して叫んで。でもそれがなんつうか・・・・堂に入ってる?って言うんすか?最初はアレだなあとか思ってたけど、でも似合ってるっすよ。
蹴りも凄いし、なんかあんた面白れえなあって。だから写真のモデルに・・・・、」
そう言いかけた時、オカルト占い師が「駄目だよ!」と叫んだ。
「そんなの駄目だ!写真のモデルなんて不埒な!」
「不埒(笑)って。」
「笑うな!太良池さんはそんないい加減な人じゃないんだ!君みたいないい加減な人じゃないんだよ!」
「あ、そう言えばあんたに謝ろうと思ってたんすよ。この前はすんませんでした。せっかく占ってもらったのに怒っちゃって。」
「いいよそんなの!とにかく太良池さんは渡さないからな!モデルなんて絶対にダメ!」
「渡さないって・・・・あんたこの人の彼氏っすか?」
そう尋ねられて、オカルト占い師は「いや・・・・そういうのじゃないけど・・・・」と口ごもった。
「あ、じゃあアレっすか?この人に惚れてんすか?」
「ち、違うよ!太良池さんは友達として大事にしてるだけであって、別にそんな・・・・、」
「でも普通は友達なら渡さないとかって言わないっすよね?やっぱ惚れてるんじゃないすか?」
「うるさいな!なんだよお前失礼な・・・・・もう帰れよ!」
「嫌っす。だって俺、観月さんに会いに来たわけだし、あんたにとやかく言われる筋合いはないと思うんすよ。」
「な・・・なんだよ生意気に・・・。17歳のクセに・・・・、」
「歳とか関係ないっす。年上だからって、理不尽な言うこと聞くのはゴメンなんで。」
「ああ、なんか最近の若者って感じだね。ゆとりとかいうやつだろ?」
「まあそうっす。でもそう育てたのは大人だし、それでゴチャゴチャ言われてもいい迷惑っす。だいたい最近は大人もちゃんとしてないし。どっちもどっちじゃないすか?」
「なんだよお前・・・・ムカつくな・・・・。」
「別にあんたに好かれようとか思ってないっすから。ていうか彼氏じゃないならゴチャゴチャ言う権利ないんで。黙っててもらえません?」
そう言って電波女に目を向け、「モデルやってもらえないっすか?」と頼んだ。
「俺、今はホームレスなんで報酬とか払えないけど・・・・。でもいつかきっと有名なアーティストになるんで、出世払いってことでお願いします。」
銀鷹君は礼儀正しく足を揃え、深く頭を下げた。
「あんたみたいな面白い人撮りたいんすよ。お願いします。」
銀鷹君・・・・・喋り方と服装はアレだけど、でも中身は憎めない。
まあ口の悪さに関しちゃ、俺も彼のことは言えないけど・・・・。
電波女はじっと銀鷹君を睨んでいて、「放して」と呟いた。
「もう暴れないから。」
「え?あ、ああ・・・・、」
「佐々木さんも。」
「あ、ああ!ごめん・・・・。」
手を放すと、電波女は銀鷹君に詰め寄った。
「君、まだ17歳なの?」
「そうっす。見た目老けてるけど。」
「学校は?」
「辞めました。」
「どうして?」
「やりたい事があるんで。」
「写真?」
「まあ・・・・写真も含めてって感じっす。アーティストになりたいんすよ。」
「ご両親は何て言ってるの?」
「反対してます。高校くらい行けって。」
「じゃあ学校にも行かず、家も飛び出してホームレスやってるわけ?」
「そうっす。」
「・・・・・・・・・・。」
「どうしたんすか?暗い顔して。」
「将来は不安じゃないの?17でホームレスなんて、まともな子のやることじゃないと思う。適当に生きてるわけ?」
「逆っす。真剣に生きてるからホームレスなんすよ。いや、別にホームレスになりたかったってわけじゃなくて、成功するまではそれでも仕方ないかなあって。」
「本当にそっちの道に進みたいなら、そういう学校に行こうとは思わなかったの?」
「ああ、美術学校みたいな?」
「そう。高校でも美術科がある学校はあるでしょ?どうしてそっちへ行かなかったの?」
「う〜ん・・・・難しい質問すね。」
「受験が嫌だった?勉強が嫌いとか。」
「そんな事ないっすよ。俺、成績はけっこうよかったし、勉強もちゃんとしてたし。だけどどうしてもそっちへは行けないなあっていうか。」
「なら思いつきで学校を辞めたわけ?」
「そうかもしれないっすね。」
「行きたくても行けない子がいるのに、どうして卒業まで行こうとは思わなかったの?」
「だって高校は義務教育じゃないっしょ。行きたい奴が行けばいいと思うし、行きたくても行けない子がいるっていうのは、俺のせいじゃないっす。」
「・・・・・・・・・・・。」
「俺、まだ17だし、他人のこと考えてる余裕ないんで。社会の為とか人の為とか、そういうのってまず自分がちゃんと一人前にならないと出来ないっすから。
だからもし誰かの為に何かするんだとしたら、それは夢を叶えた時っすね。まだまだ半人前なのに、誰かの為とかってちょっと偉そうっていうか。」
「偉そう・・・・・・。」
「まあ元々そういう道に進みたい人ならいいと思うんすよ。ほら、海外でボランティアやる人とか。
でもそうじゃないなら、まずは自分のことでしょ。ていうかボランティアやる人だって、いい加減だと出来ないと思うんすよ。
ああいうのって、甘い考えでやると続かないっていうか。」
「やったことあるの?」
「一回だけ。ホームレスを支援するボランティアに参加したことがあるんすよ。まあ俺もホームレスなんすけど。」
笑いながら言って、「でもあれってけっこう大変で」と腕を組んだ。
「人の為っていうのは、よっぽど信念ないと出来ないっすね。こう・・・・なんていうか、ちゃんと現実見てないとダメっていうか。
地に足ついてない奴がやっても厳しいっすよ。実際に俺が参加してた時も、続かない人だっていたし。」
「そう・・・・やったことあるんだ。」
「でもまあそれはそれっすよ。俺、やっぱりアーティストになりたいんで、今は人の事とかどうでもいいっす。だからお願いっす。あんたを撮らせてくれません?」
そう言って小さなカメラを取り出し、「こいつでパシャっと」とレンズを向けた。
「これ、けっこう奮発して買ったんすよ。日雇いの仕事とかこなしたり、ダチの家の仕事手伝ったり。そんな高くないけど、けっこう綺麗に写るんす。
だからあんたもバッチリ撮ってみせますよ。」
自信満々に言いながら、レンズに女を映している。
「・・・・・・・・・・・。」
電波女はなぜか俯き、勢いを失くしてしまった。
「どうしたんすか?」
銀鷹君が顔を覗き込むと、女は「私には真似出来ないな・・・」と呟いた。
「そんな風に自由に生きるなんて、私には無理だ・・・・。」
「いや、大抵の人は無理っしょ。俺、自分が変わってるって自覚してるんで。」
「そうだけど、でも良い意味で変わってる。それに比べて私は、悪い意味で変わってる。そこのインチキ占い師の言うとおり、やっぱり病気なのかも・・・・。」
悲しそうに言って、「病院、考えてみようかな・・・」と顔を上げた。
「私にだってちゃんと夢があった。でも今は・・・・何もしてない。ただ自分の正義を守ろうとしてるだけ。
その正義だって、他人から見れば鬱陶しいものだって分かってる。でもこれまで手放したら、私には何も残らない気がするから・・・・。」
さっきまでの勢いを完全に失くし、地蔵のように重く沈黙する。
すると銀鷹君は「病院なんてダメっすよ」と言った。
「変わってるって事と病気は違うことっす。ほら、この写真のオッサンたちだって、めちゃくちゃ変わってますよ。
でも全然病気じゃないっす。本人たちはちゃんと真面目に生きてて、ただその生き方が人と違うだけっすから。だから病院なんて行かない方がいいっす。」
「でも・・・・私は上手くいかない。なんでもそう・・・たった一人の友達だって裏切って、今でも嘘をつき続けてる・・・・。
自分だけは正しくあろうと決めてたのに、結局イジメっ子たちと変わらなかった。きっとこの先も同じ・・・・。だから病院に・・・・、」
「何があったか知らないっすけど、でもあんまり自分を責めるのはよくないっすよ。俺だってたまに高校行っときゃよかったかなあって思うけど、でも後悔したって意味ないっすから。
そんな悩む暇があるなら、自分のやりたい事やるべきっしょ。」
「そのやりたい事っていうのが私にはない。悩んでることならあるけど・・・・、」
「悩みなんて誰でもありますって。」
「でも何年も前から悩んでる。ずっと同じ事で・・・・・、」
「悩みなんてそんなもんすよ。スパッと解決できる方が少なくないっすか?」
そう言われて、女は「そうかな?」と首を傾げた。
「悩みが解決できなかったら、この先も悩みだらけにならない?」
「なるかもしんないっすけど、でも良いことだってあるじゃないっすか。悩みだけ溜まっていくってことは無いと思うから。」
「そう・・・・かな?」
「いや、まあ分かんないっすけど。俺、まだ17のガキなんで。」
「でも私よりしっかりしてる。」
「いやいやいや(笑)17でホームレスっすよ?全然しっかりしてないっすよ。」
銀鷹君は笑いながら手を振る。顔は老けてるけど、でも笑うと年相応に見えるのは若さのせいだろう。
女はまた俯き、じっと黙り込む。そしてポツリとこう呟いた。
「写真・・・・・撮ってもらおうかな?」
「マジっすか!?」
「私・・・自分ていう人間をはっきり見たことがない。だから君に撮ってもらって、自分の姿をしっかり見るのも悪くないかなあって。
それに君みたいに変わった人には、私はどう見えるのか知りたい。」
そう言って女は、今日初めて笑った。銀鷹君の言う通り、笑うととても可愛い。
「普通の人には鬱陶しく見えるんだろうけど、でも君みたいに自由に生きてる人にはどう映るのか?私は知りたい。」
「そりゃもうバッチリ撮りますよ!あ、でも可愛いとか綺麗系の写真じゃないんで、そこはよろしく頼んます。」
「そういうのは求めてないから大丈夫。もっとこう・・・・本来の私というか、自分では分からない私というか、そういうものを見てみたい。
もしかしたら、そこに変われるヒントがあるかもしれないから。」
「それなら平気っすよ。だって俺、変わってるんで。ちゃんと撮れって言われても、多分普通とは違う感じになると思うから。」
「うん。じゃあ撮ってもらっていいかな?」
「もちろんっすよ!」
銀鷹君は弾けるような笑顔を見せ、「あ、これ名刺っす」と渡した。
「ちゃんと路上アーティストって書いてあるでしょ(笑)」
「銀鷹武史、良い名前だね。」
「自分でも良い名前だって思ってるんすよ。なんか強そうでしょ?」
「うん、すごく。」
そう言ってまた笑顔を見せる。
「ケータイの番号とかも書いてあるんで。いつでも連絡してください。」
「ありがとう。」
女は大切そうに名刺をしまい、「私は太良池真由美、今は無職」と笑った。
「悪い意味で変わってるから、しょっちゅう仕事をクビになるの。また探さなきゃ。」
「じゃあその時まで暇っすよね?何度か撮らせてもらって大丈夫すか?」
「いいよ、納得するまで撮って。私だってその方が撮られる甲斐があるし。」
「おお!じゃあ・・・・・今からでも?」
銀鷹君は親指を立て、一緒に行く?と誘う。
女は「うん」と頷き、俺を振り返った。
「ええっと・・・・あなた名前は・・・・・、」
「観月真一。」
「じゃあ観月さん、そういうことです。占ってくれてどうも。」
そう言ってわざとらしく頭を下げる。
「え?あ・・・・ああ。」
「それとさっきのお釣り、やっぱり返してもらえますか?」
「お・・・おお!もちろん。」
テーブルの上に置いたお釣りを掴み、「はい」と渡す。
女はそれを受け取ると、「お腹空いてない?」と銀鷹君に尋ねた。
「空いてますよ。だってホームレスだし。だから観月さんに奢ってもらおうと思って・・・・、」
「私が奢ってあげるよ。」
「え?いやいや・・・・それは悪いっすよ。今日会ったばかりの人に。」
「初対面でほっぺをつねったのは誰だっけ?」
「まあ・・・・俺っすね。」
「じゃあモデルを頼んだのは?」
「それも俺っす。」
「なら初対面だからって気を遣う必要はないよね?」
「そう言われればそうっすね。なら・・・・ご馳走になろうかな。」
銀鷹君は頷き「肉、食いたいっすね」と言った。
「いいよ、奢ってあげる。」
「ありがたいっすけど、でもなんで・・・・、」
「なんかね、君を見てると心が落ち着くから。世の中には変わった人がいて、それは私だけじゃなかったんだなって。
だから私だって頑張れば、君みたいに良い意味で変人になれるかもと思ったの。」
「なれますなれます。変人が普通の人になるのは難しいけど、別の変人になることは出来るはずっすから。」
「何その理屈(笑)」
「いや、分かんないっすけど・・・・。でも多分きっとそうかなと思って。」
「君ってほんとに自分の感性を大事にするタイプなんだね。」
「そうっすか?けっこう頭使ってるつもりっすけど。」
恥ずかしそうに頭を掻く銀鷹君。女は「じゃあ変人同士ご飯でも行こう」と歩き出した。
するとオカルト占い師が「ちょっと!」と呼び止めた。
「ほんとにモデルなんかやるの!?」
「はい。」
「でもその子変人だよ!モデルとかなんとかいって、その・・・・イヤらしい写真を撮ろうとするかも・・・・、」
「その時はビシッと断ります。」
「いや、でも信用出来るような人じゃないと思うんだけど・・・・、」
「じゃあさっきみたいに蹴り倒すだけです。」
「・・・・で、でも・・・・・、」
オカルト占い師は納得いかないようで、銀鷹君を睨み付けた。
「お前・・・・・僕の友達に変なことするなよ。」
「しないっすよ。ていうか、二人っきりになったらあんたの方がヤバそうだけど。」
「な・・・何言ってんだ!僕はそんなことしないぞ!」
「いやあ・・・・どうっすかね?」
「君の方が下心がある気がする!だから僕も撮影について行くよ。」
「いや、あんたは呼んでないっす。」
「いいや、絶対について行く。僕が太良池さんを守る。」
オカルト占い師は意地でも退かない。もうこいつが電波女に気があるのは見え見えで、銀鷹君の言うとおり、二人きりにさせるとヤバイのはこいつの方だろう。
すると黙っていた電波女が「佐々木さん」と呼んだ。
「申し訳ないけど、撮影にはついて来ないでもらえますか。」
凛とした表情でそう言われて、オカルト占い師は「え・・・?」と固まった。
「私は一人で行きたいんです。」
「いや・・・・でも・・・・・、」
「またマルちゃんのお仏壇に手を合わせに行きます。だから今日はこれで。」
礼儀正しく一礼する女。そして銀鷹君を振り向き、「お腹空いてるんでしょ、早く行こ」と微笑んだ。
「ええっと・・・・じゃあそういうことなんで。」
銀鷹君も一礼して、女と一緒に歩き出す。
俺は慌てて追いかけ、「ちょっと待って!」と女を呼び止めた。
「なんですか?」
「いや、あの・・・・ぶしつけな質問で悪いんだけど・・・・、」
「遠慮せずにどうぞ。」
「あんた・・・・・歳幾つ?」
「19です。」
「じゅ・・・・・19・・・・?」
「それが何か?」
「その歳であんなに人生悩んでたの?」
「歳は関係ないと思いますけど。」
「ま、まあ・・・・そうだな。なら結婚歴は・・・・、」
「ありません。」
「ああ、そう・・・・。ならもう一つだけ質問。その・・・・・男性とお付き合いしたことは・・・・、」
「ないです。何を言わせたいんですか?」
「・・・・いやごめん。その・・・・どうぞ二人で楽しんできて。」
俺は手を向け、ゆっくりと後ずさる。
女は「行こ」と銀鷹君の腕を引いた。
「観月さん、また来ます。そんじゃ。」
「あ、ああ・・・・またな。」
女に引っ張られながら手を振る銀鷹君。俺も手を振り返しながら、ただ愕然としていた。
「19・・・・19かよ・・・。しかも結婚歴なしで、男と付き合ったこともない・・・・・、」
ブツブツ呟きながら、自分の席に戻る。
テーブルに肘をつき、両手で頭を抱えた。
《年齢・・・・彼氏の有無・・・・それに結婚歴・・・・・全部外れてた。こんなの初めてだ・・・・・。》
女を見抜く目だけは間違いないと思っていたのに、ものの見事に外れた。
歳も彼氏や結婚の有無も、何一つ当たっていない。
こんなことは初めてで、言いようのないショックを受けた。
《変人を見抜けないのは仕方がない・・・・。だけど女を見抜けないとなると・・・・これはもう・・・・・、》
あの女はかなり変わっていた。今までにも変わった女に出会ったことはあるけど、でもあそこまでの奴はいなかった。
でもだからといって、何一つあの女のことが見抜けなかったとなると、これはもう根こそぎ自信が削がれてしまった。
《今まで女を見抜く眼力で食ってたようなものなに・・・・・。いや、でも待て・・・・実は今までにもけっこう外してたんじゃ?
いちいち相手に確かめたわけじゃないから、その可能性はあるかも・・・・。》
そう思うと余計に自信がなくなり、気が滅入ってきた。
俺が勝手に見抜いたと思い込んでるだけで、実は女のことなんて全然分かってなかったのかもしれない。
二人が去った方向を見つめながら、虚しい気持ちに駆られる。
《俺にはどう頑張ってもあの女の心を開かせるのは無理だった・・・・。でも銀鷹君はあっさりやってのけたわけで・・・・これはどういうことだ?
もしかして銀鷹君の方が、女の扱いが上手いってことか?それとも・・・・変人同士でしか分かり合えない何かがあったのか?》
テーブルに突っ伏して悩んでいると、「ちょっと!」と呼ばれた。
「なんだよあれは!いったいどうなってんの?」
「・・・・うるせえよハゲ。フラれたからって喚くな。」
「フラれるってなんだよ!僕は何も言ってないだろ!」
「あの女のことが好きなんだろ?見てりゃ分かるよ。」
「そ、そんなこと言ってないだろ!勝手に決めつけるな!」
「ああ、そう。だったら喚くなよ。ただの友達なら嫉妬することないだろ。」
「でももしイヤらしい写真とか撮られたら・・・・・、」
「あの女が納得の上でやるんならいいんじゃないの。」
「よくないよ!」
「だから喚くな。だいたいそんなのはお前が心配するような事じゃないだろ。いいから黙ってろ。」
「黙ってられないよ!なんでこんな事に・・・・・、」
「お前が俺を嵌めようとするから、バチが当たったんだろ。見ろよ、まだ万引き犯と店長が見てるぞ。」
そう言うと、オカルト占い師はバツが悪そうに黙り込んだ。
「どうせ金でも渡して協力してもらったんだろ。もう芝居は終わりましたって言っとけ。」
「・・・・・・・・・・。」
「それとな、次にこんなことしやがったらタダじゃおかねえ。あの女に本当のことぶちまけてやるからな。」
「・・・太良池さんはお前の言うことなんか信じない・・・・だってお前のことを本物と認めてないんだから・・・・、」
「なら銀鷹君から話してもらうか。俺が彼に本当のことを教えて、それをあの女に伝えてもら・・・・、」
「やめろよ!もういいだろ・・・・もう何にもしないから・・・・。」
オカルト野郎はしょんぼりとして、荷物をまとめ始めた。
「あ、今日もサボる?」
「仕事する気分じゃない・・・・。」
「そうか、でも猫を忘れてるぞ。」
「・・・・・・あ!」
慌てて猫をしまい、大きなカゴを下げて去って行く。
その背中はとても寂しく、しばらく顔を見せないだろうなと思った。
「サボりたいのはこっちだよ・・・・・・。」
オカルト占い師を見送りながら、電波女のことを考える。
この・・・・この俺が何も見抜けなかった唯一の女。・・・・いや、女を見抜けていないってことを気づかせてくれた、変わった女と言い換えてもいいかもしれない。
今まで誇りと自信をもってやって来たけど、その全てが打ち砕かれた気がした。
「女って分からんわ・・・・。ていうか人間自体が分かんなくなってきた・・・・・。なんかもう・・・・変人ばっかなんだもん。」
銀鷹君、マッチョマン、電波女、そしてオカルト占い師。
ここ最近は変人ばかり占うことになって、世の中は変人のバーゲンセールでもやっているのかもしれない。
俺の自信は粉々になったが、でも一つ嬉しいこともあった。
「銀鷹君と電波女は、あっさりと分かり合えた。それにオカルト占い師も電波の友達だし。要は変人は変人同士気が合うってことだ。
でも俺は無理だ。銀鷹君はともかく、他の二人とは分かり合えない。ということは、俺は真人間なんだろうな。」
自分も変人ではないかと疑っていたが、どうやらまともだったらしい。
そしてまともな人間は、変人とは付き合えない。
銀鷹君は「変人は普通の人間になれない」と言ってたが、逆も然り。普通の人間は変人についていけない。
これ以上変人と付き合えば、多分俺の方がおかしくなる。
おかしくなるといっても、変人になるわけじゃない。なんの自信もない、しょうもない奴に成り下がる気がしてならなかった。
「俺もしばらくサボろうかな?」
ポツリと呟いた言葉が、胸に響くのを感じた。

 

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