グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十二話 死神再び(1)

  • 2016.04.01 Friday
  • 14:09
JUGEMテーマ:自作小説
亀池山の麓では、戦いが激しさを増していた。
ミノリは無尽蔵に分身を放ち、市街地まで攻め込もうとする。
それを阻止しようと、自衛隊のヘリが立ち向かう。そして応援に駆け付けた在日米軍も奮闘していた。
強力な近代兵器は、あっさりとミノリの分身を葬る。しかしその数の多さに圧倒されていた。
しかも死者が出る度に、巨大な手の傀儡として操られてしまう。
味方を失うということは、ゾンビを増やすという二重の悪循環を生み出していた。
また怪人マルの強さは別格で、超人的な動きで毒の槍を振るっていた。
マルの怪力は装甲車をも貫き、槍を一振りするだけで、3、4人が死んでいく。
さらに槍を振り回して毒を撒けば、誰も近くには寄れなかった。
それにとにかく動きが速く、銃も大砲も照準を合わせられない。
かろうじて戦闘ヘリの機関銃だけがマルを牽制することが出来たが、それでも仕留めるには至らなかった。
なぜならマルのマントには、妖怪の思念が宿っているからだ。
これを放出されると、どんな硬い装甲もスルリとすり抜け、中にいる人間を呪い殺してしまう。
マルがマントを開いている間は、たとえ戦車でも近づくことが出来なかった。
蝶の大群に、死者を操る巨大な手、そして虫殺しの槍を振るうマル。
それらの奥に、ミノリの本体が控えていた。
可愛らしい妖精のような姿で、じっと戦局を睨んでいる。
鏑木は大隊の指揮を取りながら、ミノリの本体に目をやった。
「あいつを仕留めないと終わらないな・・・・・。」
化け物どもの親玉はミノリであり、彼女が生きている限りは戦いは続く。
鏑木は無線機を取り、「もっと応援を寄こして下さい!」と叫んだ。
「こっちはどんどん味方を失ってる。しかも仲間が死ぬ度に、巨大な手に操られて襲ってくるんだ!もっと強力な武器を寄こして下さい!」
無線機の向こうからは、すでに米軍の中隊が向かったとの返答が来る。
しかし鏑木は「ちまちまやったって意味ないんですよ!」と怒鳴った。
「いくら人がいようが、このままじゃ死人が増えるだけです!もっと強力な武器で、一息に焼き尽くさないと・・・・、」
そう怒鳴った時、我が耳を疑うような言葉が返ってきた。
「・・・・・は?化学兵器?」
一瞬固まり、無線機に向かってポカンと口を開ける。
「・・・・・ええ・・・・ええ・・・・・。ああ・・・・・・・。」
マヌケな声を出しながら、「了解しました」と切る。
「・・・・・・・マジか。」
ゴクリと息を飲み、山の方を見つめる。
近くにいたオペレーターが、何かあったのかという目で見つめていて、鏑木はこう答えた。
「化学兵器を使用するそうだ。」
「え?か、化学・・・・?」
「米軍が持って来る。ミサイル装甲車から、一発だけ発射される。」
「ミサイルから・・・・・・、」
「米軍の応援が到着する前に、俺たちはこの場から離れろとさ。」
「・・・・でも・・・・そんな物を使用して大丈夫なんですか?」
「分からん。ただ奴らには毒が有効だそうだ。」
「しかし化け物を殲滅したとしても、後には毒が残るんじゃ・・・・・、」
「そうかもな。でもこのままだと、化け物はいずれ街へと侵攻していく。そっちの被害の方が大きいと踏んだんだろう。」
そう言って空を見上げ、蚊柱のごとく舞う蝶を睨んだ。
「こいつらは全部コピーみたいなもんだ。親玉を仕留めることが出来れば、あとは俺たちだけでも何とかなる。」
大群の奥にはミノリの本体が控えていて、不敵な笑みをたたえている。
鏑木は彼女を睨みながら、ゆっくりと視線を下ろした。
「・・・・山から新しい化け物が湧いて来てるが、あいつらはなんで俺たちに味方する?」
先ほどから、山の麓から新手の化け物が現れていた。しかもなぜか人間に味方をしている。
ツチノコやのっぺらぼう、そして川からは河童やチュパカブラ、そして空からはスカイフィッシュや巨大なムカデが現れ、蝶の大群と戦っている。
それにウネウネと不気味に動く影の化け物や、ライオンの頭にアリの身体を持った化け物、白い煙の姿をした化け物や、人の顔をした蜘蛛など、多くの化け物が溢れてくる。
極め付けには見上げるほど巨大な雪男まで現れて、冷たい息をばら撒いた。
自衛隊も警察もどよめき、とうとう怪獣まで現れたと、気が狂って笑いだす者もいた。
そしてそれらのすべての怪物が、人間に味方している。
・・・・いや、正確には、ミノリの敵として暴れている。
新手の化け物たちは、必ずしも人間を守ろうとはしていない。
ただミノリに戦いを挑んでいるようだった。
鏑木は息を飲み、「おかげで助かってるが・・・・・」と戸惑った。
「しかしいつ俺たちに襲いかかって来るか分からん。好きに暴れられても混乱するだけだし・・・・こいつらごと毒で葬るってのは、悪い手じゃないよな。」
地上、空、川、至るところで戦いが繰り広げられて、人間も化け物も命を落としていく。
まるで地獄絵図のような光景の中で、鏑木は任務に集中した。
彼に下った任務は、例え死んでも化け物の侵攻を食い止めること。
自分も銃を持ち、群れから逸れた蝶を撃ち落とした。


            *


麓での戦いが激しさを増す頃、警視庁から一機のヘリが飛び立った。
そこには沢尻、東山、そしてSATのメンバーが乗り込んでいて、向いには早苗を連れて来たスーツの男が座っていた。
その横には公安の幹部も座っていて、沢尻と東山にこう話した。
「化学兵器の使用許可が下りました。米軍の装甲車から、一発だけミサイルが発射されます。」
「ミサイルで・・・・、」
東山が唸る。
「そんなことをしたら、それこそ甚大な被害が・・・・、」
「範囲を限定できるように、威力を抑えてあります。要は敵の親玉であるミノリを叩けばいいわけですから。」
「まあ奴さえ死ねば、あとは俺たちだけでも戦えそうだが・・・・それでもな。ミサイルでってのは・・・・、」
「あなたが進言したんですよ?」
「それを言われちゃ黙るしかない。」
東山は憮然としながら、「しかしどうして俺たちまで亀池山に向かうんだ?」と尋ねた。
「いきなりヘリに乗れと言われて、しかも行き先はあの山だ。今は自衛隊と米軍が奮闘していて、俺たちが行っても邪魔なだけだろう?」
「沢尻さんがいるじゃないですか。彼はもうほとんど化け物だ。きっと戦力になってくれる。」
そう言って、公安の幹部は沢尻に目を向けた。
「虫のような複眼に、頭には触覚。それに舌には針が伸びて、おまけに大きな羽まで生えている。」
「わざわざ口に出さんでもいいだろう。」
東山は苛立たしそうに言う。
すると沢尻は「事実なんだからしょうがない」と笑った。
そして肉挽き刀をカツンと床に鳴らし、「あんた・・・・・、」と目を向けた。
「名前は?」
「・・・・・・・・・。」
「本名じゃなくていい。名前がないと話しづらい。」
「では山田と呼んで下さい。」
「なら山田さん・・・・幾つか聞きたいことがある。」
そう言って肉挽き刀を持ち上げ、「こいつに塗る毒は貸してもらえるんだろうか?」と尋ねた。
「ミサイルでぶっ放す許可が出たんだ。刀に塗る分くらいは貸してもらえるんだろ?」
「ああ、その事なんですが・・・・、」
山田は小さく咳払いをしてこう答えた。
「ご自身の毒を塗ってはどうですか?」
「俺の毒?」
「ええ。あなたはアチェを飲み込んで、彼女とよく似た化け物になったんでしょう?」
「そうだ。」
「だったら毒針があるはずです。それに嘔吐を引き起こす鱗粉も。」
「それはそうだが、一撃で緑川を仕留められるようなものじゃない。」
「残念ですが、米軍はウチには毒は貸せないと。」
「どうして?」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・ああ、なるほどな。」
沢尻はすぐに頷き、「ミサイルに積んでる毒は、新しく開発した兵器ってことか?」と尋ねた。
「どうせあの国のことだ。いい実験になると思って使うつもりなんだろう?」
「さあ?」
「だからわざわざ米軍が出張って来たんだ。化け物を潰すだけなら、自衛隊に貸せば済む話なのに。」
「どう想像しようと自由ですが、あなたに貸せる毒はありません。どうしてもというなら、ご自身の毒を。」
山田は肩を竦め、「力に慣れなくて申し訳ないが・・・・」と誤魔化した。
「何が起きても、今のアホ総理に責任を取らせれば済むもんな。あんたらは痛くも痒くもない。」
「先ほども言ったように、想像は自由です。」
「答える気はないってことか。」
そう言って「なら次の質問だ」と尋ねた。
「このままヘリで向かってたら時間が掛かり過ぎる。」
「一時間というところですね、ここからだと。」
「だったら俺だけ先へ行く。」
「その羽で飛んで行くんですか?」
「多分その方が早い。」
「そうかもしれませんが、単騎で突っ込んでもやられるだけかもしれませんよ?」
「いや、そうはならない。」
「なぜ?」
「俺は前線には行かない。少し離れた場所で待機する。」
「ほう。」
「何がほうだ。元々そうさせるつもりなんだろう?」
「というと?」
「俺も東山も、対緑川用に当てるつもりなんだろ?なら前線に行って死なれちゃ困るだろうが。」
「まあ・・・・そうですね。」
「緑川は必ず「こっち」へ現れる。ミノリを殺す為に。」
「ええ。」
「しかしその為には、また大量殺人を犯さないといけない。刀が短いままじゃ戦えないからな。」
「はい。」
「俺はそんな事を見過ごすことは出来ない。奴が再び殺人を犯す前に止めてみせる。」
「あなたならそうするでしょうね。」
「警察ならそうするべきなんだよ。でも相手は緑川だから、普通の警官じゃ止めることは出来ない。」
「死人が出るだけです。」
「だから俺がやるべきなんだ。でもそうなると、俺はあんたらの指示を無視して、好きなように動き回る。それをされると困るから、こうしてわざわざ前線の近くまで運ぶんだろう?
あそこで待っていれば、いずれ必ず緑川が現れるから。」
「奴はミノリを殺したがっているようですからね。姿を見せる可能性は高いでしょう。」
「でもそこに緑川が現れるってことは、すでに大量殺人を犯した後だ。」
「そうなりますね。」
「だから俺だけでも先に行かせてほしい。化け物になったおかげで、こんな物まで生えてきたんだから。」
そう言って背中の羽を揺らした。
「こいつで飛んでいって、緑川を捜す。そして犯行に及ぶ前に仕留める。」
肉挽き刀を構え、ゆっくりと山田に向けた。
「条件は対等だ。」
「・・・・・・・・・。」
「お互いに化け物で、お互いに強力な武器を持ってる。それに毒だって。」
「・・・・・・・・・・・。」
「緑川は異常なほど勘の鋭い奴だが、それは俺だって同じだ。俺は今までずっとあいつを追いかけてきた。一度は銃弾だってぶち込んだんだ。
だから今回だって必ず見つけ出し、仕留めて見せる。」
「・・・・・前線の状況はひっ迫しています。もしかしたら、沢尻さんにも参戦してもらないといけないかもしれません。」
「だったら尚の事、俺だけ先に飛んで行った方がいいじゃないか、違うか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「化け物どもはずっとこっちにはいられない。二時間ごとに「向こう」へ戻る必要がある。」
「ええ・・・・・。」
「ミノリの分身は残ってるだろうが、それ以外の奴らはいったん退く必要がある。」
「そうですね。」
「だったら俺が前線へ行かないからって、すぐにどうこうなったりはしないという事さ。」
「・・・・・・・・・。」
「それにな、奴らは「こっち」と「向こう」の行き来は自由だが、しかしどこへでも出られるわけじゃない。
「こっち」から「向こう」へ帰るのは楽だが、「向こう」から「こっち」へ来るとなると、亀池山にいないといけないはずだ。
もしどこへでも自由に出られるのなら、ミノリは最初から市街地を襲ってるはずだからな。」
「・・・・・そうでしょうね。もしそんな事が可能なら、奴らはどこでもドアを持ってるのと同じだ。勝ち目はない。」
「ならしばらくは大丈夫さ。自衛隊も米軍も、それに警察だって奮闘している。それに今は妖怪やUMAの加勢もあるし、ある程度は時間が稼げるだろう。」
「どうしても自分を自由にしろと言いたいわけで?」
「緑川を追いかけるなら、フットワークは軽い方がいい。」
「要するに集団行動が苦手なんでしょう?」
「群れて行動するのは好きじゃない。」
「警察は組織ですよ?探偵じゃない。」
「そういう性分なんだ。」
「よく今までクビになりませんでしたね。」
「勘がいいんでな、検挙率だけは高いんだよ。それでクビが繋がってる。」
「・・・・・・・・・・。」
「だから俺だけ独立部隊ってことにしてくれ。」
「それはいけません。」
「なあ・・・・あんただって警察の人間じゃないか。この状況で最も良い選択は、俺を自由にさせることだ。そう思うだろ?」
「同業者でも、あなたは刑事、私は公安、全然違います。」
「公安だからこそ、この状況では融通を利かせてくれよ。なんたって国家の危機なんだぞ?」
「ええ。」
「俺は必ず緑川を仕留めてみせる。それを信じてもらえないか?」
「申し訳ないが、あなたを亀池山に連れて行くのが私の仕事でね。個人的には応援したいが、そうもいかないんですよ。」
「須藤長官の命令か?」
「そうです。」
「あんたはえらくあの人と仲が良さそうだったが・・・・次の長官の椅子でも狙ってるのか?」
「まさか。」
山田はとんでもないという風に笑う。
「そういうものに興味はありません。今の仕事が好きなだけです。」
「一生現場にってやつか?」
「そうです。」
「そうか、なら俺と同じだ。出世なんざクソくらえ、現場に出てこそ刑事だ。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・沢尻さん、刀を下ろして下さい。」
山田はそう言って、目の前に突き付けられた刀を払った。
「今のあなたに暴れられたら、我々では止められません。」
「わざわざ暴れる必要もないさ、鱗粉をばら撒けばな。」
「そんな事をしたらヘリごと落ちてしまいますよ。」
「そうだな。でもうんと言ってくれないなら、やるかもしれない。」
「馬鹿な・・・・・、」
「そう思うか?俺ならやりかねんぞ、なあ?」
そう言って東山に目を向けると、「俺に振るな」と顔をしかめた。
「行きたいなら行けばいいだろう。誰もお前を止めることは出来ない。」
「それは化け物になったからか?」
「なってなくてもだ。お前がどれだけイカれてるか、嫌というほど知ってるからな。」
「それは褒め言葉か?」
「どう受け止めたら褒め言葉になるんだ?骨の髄までおかしくなったか?」
「元々だ。」
肩を竦めて笑うと、東山はため息まじりに首を振った。
「山田さん、行かせてやれよ。」
「・・・・・・・・・・。」
「こいつは無理にでも行こうと思えば出来る。でもそうしないのは、一応義理は通したいからだ。」
「義理?」
「こいつは頭はイカれてるが、そういうとこだけは律儀でな。だから心底嫌いになれない。」
「・・・・・・・・・・。」
「無理に出ていけば、後であんたが責められることになる。」
「逆じゃないですか?無理に出て行ってくれた方がありがたい。許可を出したらそれこそ責められる。」
「あんたを見張りとして置いてるってことは、長官はあんたを信頼してるってことだ。ならあんたが許可を出したなら、それはそれで問題ないってことだ。」
「そうですね。」
「なら行かせてやってくれ。じゃないとこいつは無理にでも出て行く。あの長官のことだ、あんたが使えないと踏んだら、すぐに切り捨てるだろう。」
「何人もそういう人を見て来ました。」
「だろう?だからこいつの気持ちを汲んでやってくれ。これはあんたの為にやってることなんだ。」
「別に私は困りませんよ?」
「ド田舎の署で、電卓を叩くだけの仕事をさせられるかもしれんぞ?」
「それはあり得ません。私を切るということは、長官も自分の首を絞めることになりますから。」
「ほう・・・・やっぱりずいぶん仲がいいんだな。」
「ええ、そりゃもう。」
ニコリと微笑み、「でも沢尻のさんの心遣いには感謝します」と言った。
「現場こそ命って考え方は、嫌いじゃありません。」
「俺だってそうだ。デスクワークなんざ御免だ。」
「東山さんもですか?」
「当たり前だ。一日中椅子に座ってるくらいなら、100キロ行軍でもした方がマシだな。」
「ならこの場所には、現場が好きな人間しかないわけですね。」
山田は可笑しそうに笑い、自分の手元を見つめる。そして小さな声で「30分」と言った。
「デスクワークが溜まってましてね。移動中に済ませてしまおうと思います。まあ30分もあれば終わるでしょう。」
そう言って隣の部下に手を出すと、薄いノートパソコンを寄こしてきた。
「ブラインドタッチが出来なくてね。だからパソコンをいじってる間は、他のものが目に入らない。」
パソコンを開き、カタカタとキーボードを叩き始める。
その目は液晶しか見ておらず、慣れた手つきでキーボードを打っていた。
「・・・・・感謝する。」
沢尻は立ち上がり、ドアの方へと歩く。そして背中の羽を伸ばし、軽く羽ばたいて見せた。
「いけそうなだ・・・・。」
そう言ってドアを開け、外に流れる風を受ける。
すると東山が立ち上がり、「ほれ」と何かを差し出した。
「GPS、パソコンが終わるまでに戻って来なきゃならんだろ?」
キーボードを叩く山田に目を向けながら、「ほら」と押し付ける。
しかし沢尻は首を振り、「それがなくても戻って来れるさ」と言った。
「化け物になって、前よりも勘が鋭くなってるんだ。遠くにいても、多分お前らの気配を探ることは出来る。」
そう答えると、東山は「正真正銘の化け物だな」とGPSを引っ込めた。
沢尻は小さく笑い、ドアの縁に足を掛ける。
眼下には小さく街が映っていて、ここへ飛び出すのかと、少し勇気がいった。
もう一度羽を動かし、「・・・・大丈夫だよな?」と自分に言い聞かせる。
そしてスカイダイビングのように派手に飛び出そうとした時、「沢尻」と東山が呼んだ。
「・・・・亀池山で待っている。」
沢尻は頷き、笑みを返す。そして思い切り外へ飛び出すと、風に煽られてバランスを崩した。
東山は身を乗り出し、ヒヤヒヤしながらその様子を見つめた。
沢尻は不器用に羽を動かしながら、どうにか体勢を立て直そうとする。
まるで初めて歩く幼児のように、フラフラと方向が定まらない。
しかしどうにか身体を安定させて、前に進んでいった。
しばらくするとコツを掴み、器用に旋回までして見せる。
そして遥か上空まで舞い上がり、そのまま遠くへ消えていった。
東山はじっと見送り、「もし緑川を見つけたら、戻って来ないだろうな・・・・」と呟いた。
「勝つにしても負けるにしても、激しい戦いになるだろう。30分で終わるはずがないぞ?」
そう言って山田を振り返ると、パソコンから顔を上げようとしない。
我関せずという感じで、返事すら寄こさなかった。
東山は空を見上げ、自分にも羽があればと思った。

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