グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十三話 死神再び(2)

  • 2016.04.02 Saturday
  • 12:02
JUGEMテーマ:自作小説
亀池山から遠く離れた場所に、大きな文化ホールがあった。
五階建ての立派な建物で、図書館やトレーニングルームまで入っている。
ここには街から避難した人が集まっていて、所狭しと身を寄せ合っていた。
布団の上に寝転ぶ者や、漫画を読みふける者、それに悲痛な顔で俯く者など、様々な様子で過ごしていた。
麓はどういう状況になっているのか?
スマホやパソコン、それに備え付けのテレビから逐一情報が入って来る。
報道のヘリは近くを飛ぶことが出来ず、離れた場所から望遠レンズで狙っていた。
そこに映される映像はあまりにもショッキングで、気分を悪くする者、逆に興奮して叫ぶ者もいた。
おぞましい化け物が溢れ、自衛隊や警察と戦っている。
そこへ米軍の応援まで駆けつけて、戦いはさらに激しさを増していった。
麓の遠くから米軍の戦車や装甲車がやって来る様子が映り、画面を見ている人達は、さらに緊張を増した。
ニュースを伝えるレポーターはわざとらしいほど興奮した口調で喋り、緊迫感を煽ろうとしている。
大きな声で、しかも早口で捲し立てる中、突然『え?』と黙り込む。
画面の前の人たちは、いったい何があったのかと食い入るように見つめた。
レポーターはカメラに映っていることも忘れ、何度も誰かに話しかけている。
カメラには映っていないスタッフに向かって、何度も何度も『ほんとに?』と確認していた。
やがてカメラの方を向き、マイクを握り直して口を開く。
『新しい情報が二つ入りました。まず一つ目ですが、在日米軍は化学兵器を搭載したミサイルを発射するとのことです。』
そう伝えた途端、画面を見ている人達がどよめいた。
『使用する兵器の種類は明らかにされていませんが、化学兵器を使用するのは間違いないということだそうです。
ただし大きな被害になることを抑える為に、威力は限定しているとのこと。そして使用するのは一発だけとのことです。』
カメラは応援に駆け付ける米軍の装甲車や戦車を映し、『あれのいずれかから発射されるのでしょうか?』と捲し立てた。
『この件に関しては、詳しい情報が入り次第お伝えします。そして次の情報ですが・・・・・、』
そう言って、口にするのを躊躇うように息を飲んだ。
『夜明けの死神と称される殺人犯が、また現れたようです。場所は○○市の総合病院、そして・・・・・○○町の中学校でも目撃されたとのこと。
病院の方からはすでに姿を消していますが、警察が駆けつけた時には・・・・・・中にいたほとんどの方が・・・亡くなられていたとのことです。』
画面の前の人たちは、さらにどよめきを増す。
今までは興奮して見ていた者も、途端に恐怖に引きつった。
『犠牲者の正確な数は明らかになっていませんが、大きな病院であった為にかなりの人がいた模様・・・・・え?400人・・・・・・、』
スタッフからそう伝えられ、レポーターは口を開けて青ざめる。そしてまた新たな情報が入り、放心したように固まっていた。
『・・・・・え〜・・・・先ほど○○町の中学校でも目撃されたとのことですが・・・・ここには亀山市から避難された方々がいらっしゃったそうです。
警察と自衛隊が駆けつけた時には、ここでもほとんどの方が・・・・・・、』
そう言って息を飲み、『ほぼ全ての方が亡くなられていたそうです・・・・・・』と続けた。
先ほどまでは興奮気味に捲し立てていたのに、今では消え入りそうな声になっていた。
『夜明けの死神こと緑川鏡一は・・・・やはり現場から姿を消していたとのこと・・・・・・。今後もまた現れる可能性があり・・・・警戒が必要です。』
そう言って結んだものの、何をどう警戒したらいいのかと、自分でも苛立っている様子だった。
カメラは再び山の麓を映し、凄惨な戦いが画面に流れる。
この異様な事態に耐え切れず、大きなショックを受けた者も多かった。
画面から離れて布団に横たわったり、ここにも現れるんじゃないかと不安になったり、纏まっているとかえって狙われるんじゃないかと逃げ出そうとしたり。
誰もが我が身を案じ、家族を案じ、どうかこの場所へ来ないでくれと願った。
米軍が化学兵器を使用すると聞いた時は驚いたが、今はそんな事すらどうでもよくなっていた。
どうか・・・・どうかこの場所には来ないでほしい・・・・。
そう願いながら頭を抱えるか、誰かと身を寄せ合うしかなかった。
建物の上空からは報道のヘリの音が聴こえていて、それがより神経を逆撫でする。
恐怖は恐怖を呼び、こっそりと避難所を抜け出す者もいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
建物の中には、重く、静かな空気が流れる。
スマホやパソコン、それにテレビからはまだ中継の音声が流れていて、誰もがそれに耳を立てていた。
・・・・感覚が鋭敏になる。恐怖で神経が尖っていく。
高まった五感は、第六感ともいうべき超人的な感覚へと研ぎ澄まされ、誰もが一様にある思いを抱いていた。
『死神はここに来る』
研ぎ澄まされた五感が、良からぬ気配が迫っていることを告げていた。
避難所からは逃げ出す者が増え、静かな空気はパニックの喧騒へと変わっていく。
するとその時、凄まじい爆音が響いて、建物全体が揺れた。
喧騒は一瞬だけ鎮まり、すぐに大きなパニックへと変わった。
いったい何が起きたのかと、誰もが右往左往する。
自衛隊がこの建物へ誤射したのか?それとも化け物が襲ってきたのか?
その答えは、画面でニュースを見ていた者たちが知っていた。
「ヘリが落ちた!」
一人がそう叫んで、スマホの画面を見せつける。
そこにはこの建物が映っていた。
屋上からもくもくと煙が出ていて、赤い炎が見える。
その炎の中には、ひしゃげたヘリコプターの羽があった。
落下の衝撃で機体が潰れ、ほとんど原型を留めていない。
炎に包まれる機体からは人の腕らしきものが見えていて、力無く垂れていた。
それを見て発狂する者もいれば、画面に釘づけになる者もいた。
そして食い入るように見ていた一人が、「なんかいる!」と指をさした。
「なんか動いてる!」
誰もが画面を見つめ、映像の中にかすかに動く影を見つける。
それは人の姿をしているが、大きな羽を持っていて、しかも頭には触覚がある。
目は虫のように大きく、しかもその手には巨大な刀を持っていた。
刀からはポタポタと血が流れ、柄の部分から数珠つなぎの髑髏が伸びている。
「・・・・・・・・・・・。」
叫ぶことも忘れ、ただ映像の中のその生き物に釘付けになる。
そいつはキョロキョロと周りを見渡した後、ふわりと宙に舞い上がった。
レポーターが喚くように実況を続けているが、そんな言葉など耳に入って来ない。
人々は異様なその生き物を食い入るように見つめ、そして一人が「あ!」と叫んだ。
そいつは宙に舞い上がった後、屋上から下へと飛んでいった。
カメラはその動きを追い、そいつが窓ガラスを割って、建物の中に入っていく様子を映した。
「・・・・・・・・・・・。」
今までカメラ越しに見ていた出来事が、とうとう自分たちのすぐ傍までやって来る。
皆は慌てて逃げ出し、出口に向かって押し寄せる。
人の波がいきなり動いたことで、ドミノ倒しに崩れていった。
「痛え!」「おい!そこどけ!」「足踏んでんだよお前!」「ウチの子が潰れる!どいてって!」「テメエのガキなんか知るかよ!」
我先にと逃げ出そうとして、三つある全ての出口が詰まってしまう。
人の群れは流れを変え、二階へ繋がるエントランスや、障害者用のスロープに殺到する。
「おい!車椅子の人がいるんだぞ!」
「ここにいたら殺されるんだよ!さっさとどけやコラ!」
危険から抜け出そうとするパニックで、力の弱い者ほど虐げられていく。
子供、老人、妊婦、それに身体の不自由な者は、人の波に弾かれて押し倒されていった。
それを助けようとする者もいたが、荒れ狂う人波の前では無力に等しい。
体力のある者達はとにかく上の階を目指し、二階のテラスの階段から逃げようとした。
しかしそのおかげで、一階の出口には余裕が出来る。
それに気づいて引き返す者もいれば、気づかずに二階へ上がっていく者もいる。
「おい今のうちだ!」
子供や老人を助けようとしていた人たちは、この隙にと出口へ向かう。
先ほどに比べれば弱くなった人の波を掻き分け、どうにかドアの近くにまで到達した。
すると逃げ出そうとしていた前の人波が、慌てて引き返してきた。
「こっち駄目だ!」「向こう!向こうの出口から!」「ていうか誰か警察呼べよ!」
そう叫んで引き返して来て、逃げようとする人波とぶつかる。
大勢の人が転んで、一人の若者が骨を折った。
「痛っでええええええ!」
足を押さえ、涙を流してのたうち回る。
しかしそんな事はおかまいなしに、人々は建物内を右往左往する。
若者はさらに踏みつけられ、声にならない声で叫んだ。
するとそこへ、人並みを掻き分けて誰かが走って来た。
そして自分の身体を盾にして、激しい人波から彼を守った。
若者はその者を見上げ、「助けて!」とすがる。
しかしすぐに「ひい!」と後ずさり、「殺さないで!」と懇願した。
『・・・・・・・・・。』
「嫌だ!死にたくない!」
そう言って折れた足を引きずりながら、必死に逃げようとする。
しかし走って来た人波にぶつかり、また転んでしまった。
「痛ッ・・・・・・、」
左の膝があり得ない方向へ曲がって、気絶しそうなほど痛む。
すると『じっとしてろ!』と先ほどの者が駆けてきた。
『動くと余計悪くなるぞ!』
「来るな!死にたくない・・・・、」
『誰も殺したりしない!治してやるからじっとしてろ。』
そう言って押さえつけ、若者の足を睨んだ。
「嫌だあああああああ!」
今、若者の目の前には、人とは思えぬ生き物がいた。
頭からは触覚が伸び、目は虫のように大きい。
そして背中には羽が生えていて、手にはノコギリ状の刀を持っていた。
『ちょっと痛むが我慢しろ。』
そう言って、口から針の生えた舌を伸ばす。
それを若者の足に当てると、ブスリと刺し込んだ。
「いっぎゃあああああああ!」
『暴れるな!』
「嫌だあああああ!嫌だよおおおおおお!」
『痛いのは我慢しろ!このままだと二度と歩けなくなるぞ。』
そう言って針の先から毒液を注入し、折れた足を治していった。
「ああ・・・あ・・・あああ・・・・・・、」
『しばらく痛むだろうが、すぐに良くなる。それまで動くな。』
「・・・・・・・・・・・・。」
『・・・・・気絶したか?』
若者は泡を吹きながら失神し、股の間がじわりと濡れていった。
『まあこの方がいい。』
そう言って立ち上がり、『みんな落ち着け!』と叫んだ。
『俺は刑事だ!みんなを助けに来た!』
一階すべてに響き渡るほどの声で叫び、懐から何かを取り出す。
『亀山署の沢尻という刑事だ。夜明けの死神を追ってここまで来た。』
沢尻は警察手帳を揺らし、『俺は本物の刑事だ、安心してくれ』と言った。
『こんな化け物みたいな姿をしているが警察だ。みんなを助けに来た。』
「・・・・・・・・・・・・・。」
パニックを起こしていた群衆が、その声に大人しくなる
『みんな聞いてくれ。すぐにここへ機動隊が駆け付ける。それまでは大人しくしててくれ。ああ、それと・・・・上の階には絶対に上がるなよ。』
そう言って羽を動かし、宙に舞い上がった。
群衆のパニックは一気にトーンダウンし、その代わりに大きなどよめきが起きる。
「なんだあれ・・・・・?」「刑事だって」「いや、どう見ても化け物じゃん・・・・」「空飛んでる・・・・」「アレ、さっきテレビに映ってた化け物じゃないの?」
「ていうかなんか怪我してない?」「肩から血が出てる・・・・」
ざわざわと喧騒が起き、誰もが呆気に取られる。
しかし沢尻はそんな喧騒を意に介さず、二階へ繋がる階段へ飛んで行く。
すると二階はさらに人でごった返していて、怒号が飛び交っていた。
「どけよお前!」「お前こそどけコラ!」「下に行きたいのよ!」「テラスどこ!?」
大勢の人たちが、、非難轟々にひしめき合っている。
「上は駄目だ!化け物がいる!」「でもさっき下から入って来たって・・・・、」「馬鹿!上にいんだよ!早く逃げないと降りて来る。」「一回は入口が塞がってるのよ!」
「ここも塞がってるよ!」「いいからどけって!」
誰もがドアへ殺到し、身動きが取れなくなっている。
非常階段では人が溢れ、落ちそうになっている者もいた。
沢尻は拳銃を抜き、そのまま群衆の上に舞い上がる。
そして二発の銃声を鳴らして、『落ち着け!』と叫んだ。
『もうじき警察が来る!それまで大人しくしてるんだ!』
そう言って皆の注目を引くと、途端にパニックが起きた。
「イヤああああああ!」「化け物!」「さっき下から入って来た奴だ!」「なんで!?さっきは上にいたのに・・・・、」「下に回って来たんだよ!早く逃げろ!」
群衆はさらに乱れ狂い、沢尻は『落ち着けつってんだろ!!』とまた銃を放った。
『さっき上から入って来た奴は別物だ!俺はあいつを追って来た刑事だ!』
そう言っても誰も信用せず、慌てて逃げ出して行く。
『クソ・・・・、』
そう舌打ちしたものの、こんな姿では無理もなかった。
『死にたくないなら、せめて上には来るなよ!』
騒ぐ群衆を後にして、すぐに上の階を目指す。
最上階は五階で、そこへ辿り着くまでにやはり逃げまどう人達に出くわした。
「出たあ!」「もう一匹いる!」
そう叫んで、上の階へと引き返そうとする。
『上に行くな!殺されるぞ!』
銃を向け、『従わない奴は撃つぞ!』と脅した。
「うわああああ!」「銃まで持ってんぞ!」
群衆は慌てて下へ向かい、我先にと階段を下りていく。
そして全ての人達が逃げたのを見送ると、最上階へ続く階段を睨んだ。
『緑川・・・・・いよいよ決着の時だ。』
血が流れる肩を押さえ、痛みを堪えながら指を入れる。
『・・・・・・・・・ッ!』
顔をしかめながら指を動かすと、小さな金属の塊が出てきた。
『銃まで持ってやがるとはな・・・・。しかも意外と腕が良い。』
そう言って取り出した弾丸を睨み、床へ投げ捨てた。
カツンと音を立て、ひしゃげた弾丸が転がっていく。
沢尻は一気に階段を舞い上がり、最上階へと辿り着いた。
『・・・・・・・・・・・・。』
この階には図書館が入っていて、傍には喫茶店がある。
沢尻は喫茶店の中を覗き込み、まだ誰か残っていないか確認した。
するとテーブルの下で震える親子を見つけた。
『大丈夫か?』
そう声を掛けると、母親の方が「ひいい!」と逃げようとした。
『待て!俺は警察だ。』
「嫌!触らないで!」
子供の手を引き、図書館の方へ逃げようとする。
『ダメだ!そっちにはあいつがいる!』
親子を抱え、階段の方へと連れ出す。
「嫌あああああああ!」
「お母さああああああん!」
『安心しろ!傷つけたりしない!』
「化け物!誰かあああああ!」
『だから落ち着けって・・・・・、』
母親は暴れ狂い、我が子を守ろうと必死に蹴ってくる。
子供の方は泣き喚き、階段の手すりから手を放そうとしなかった。
するとその時、図書館の自動ドアの向こうで、何かが動いた。
それは沢尻とよく似た姿をしていて、虫の目に大きな羽を持っていた。
『見ろ!あいつだ!あいつがみんなを襲うんだ!』
親子の顔を図書館の方に向け、『恐ろしい殺人鬼がいるんだよ!』と怒鳴った。
子供は「お母さああああああん!」と鳴き続けるが、母親の方は「あ・・・・、」と息を飲む。
「あ・・・・あれ・・・・・窓から入って来た怪物・・・・、」
『そうだ、あいつが死神と呼ばれる殺人者だ。ここにいたら危ない、すぐに下まで降りろ。』
「・・・・・・・・。」
『子供を守らないと・・・・・な?』
そう言って肩を叩き、階段の方へ押しやる。
『すぐに警察が来る。だから下の階で大人しく待ってるんだ。下手に逃げようとすると、人波に揉まれて危険だから。』
母親は呆然としながら、沢尻の顔を見上げる。
しかしすぐにコクコクと頷き、子供を抱き上げた。
そして慌てて階段を下りていき、姿を消した。
子供の泣き声はまだ響いていて、触覚がビリビリと反応する。
沢尻はその触覚を図書館の方へ向け、中で動く人影の気配に集中させた。
・・・・・ゆっくりと足を進め、自動ドアへ向かう。
逃げ惑う群衆がぶつかったせいか、右の扉はヒビ割れていて、完全に開くことが出来ない。
それを手で押し開けると、わざと足音を立てながら図書館に入った。

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