グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十五話 共闘宣言(1)

  • 2016.04.04 Monday
  • 13:25
JUGEMテーマ:自作小説

怪我を負った沢尻は、痛みを我慢しながら空を飛んでいた。
緑川を追いかけて「こっち」へ来たものの、すっかり見失ってしまった。
彼にやられた傷はまだ熱を持っていて、羽を動かすだけでも激痛が走る。
しかし少しずつではあるが、血の流れは治まっていた。
時間が経てばこのまま治るだろうと思ったが、緑川はそれまで待ってくれない。
いつどこから襲って来るか分からず、どうにか先に見つけ出す必要があった。
『・・・・あいつの行きそうな場所はどこだ?ミノリのところか?それとも山へ戻ったか?・・・・いや、また人の首を落としに行った可能性も・・・・・、』
行先が定まらず、フラフラと飛び続ける。
「こっち」の景色は「向こう」と変わらないが、妙に色が霞んで見える。
建物も人も、それに景色さえも、色褪せた写真のようだった。
『・・・「こっち」の街へ来るのは初めてだ・・・・。こんな風に景色が見えるのか・・・・。』
亀池山で戦っている時は、景色を眺めている余裕などなかった。
しかしこうしてじっと眺めていると、確かに色が霞んでいるのが分かる。
『そもそも「こっち」っていったい何なんだ?「墓場の王」が生み出した世界らしいが、どういう構造になってるんだ?』
アチェからは詳しく「こっち」の世界のことを聞かされていない。
もっぱら緑川や「こっち」の出来事ばかりを聞かされていた。
しかしそもそも「こっち」の世界とはどういう場所なのか?
それも知らずに今まで戦っていたのかと思うと、なんだか滑稽な気分になってきた。
『この世界はどこまで続いているんだ?まさか「向こう」と同じってことはないよな・・・・。
もしそうだとしたら、王は地球と同じ大きさの世界をもう一つ作りだしていることになる。それはいくら何でも・・・・、』
そう呟きながら、色が霞んだ景色を飛んで行く。
『緑川はアチェの脳を吸った。それは王の脳を吸ったのと同じことだ。それなら「こっち」の世界にも詳しいはずだ。
なら俺は、奴の庭で戦ってるようなもんだ。不利だな・・・・・。』
もしかしたら、緑川はこっちに気づいていて、すでにどこかから狙っているかもしれない。
しかしいくら触覚を立てても、何も感じない。五感を集中させても気配すら掴めなかった。
『近くにいないことは間違いないな。ならやっぱり山の方へ向かったのか・・・・・?』
切られた傷の痛みを我慢しながら、亀池山のある方角を睨む。
『本気で飛べば、ここからだと10分くらいか。ここは一かバチか、亀池山に向かうしかないか。』
霞んだ街並みを見下ろしながら、亀池山へ飛んで行く。
するとその時、ふと違和感を覚えた。
『なんだこれ・・・・・、』
そう呟きながら、元の場所に戻ってみる。
『・・・・・・・・・・・。』
沢尻は違和感を抱えたまま、また山の方へと向かった。
『おかしい・・・・どなってんだこれ?』
山へ近づけば近づくほど、景色の色が濃くなっていく。
さっきは霞んで見えたのに、今はクッキリと色が浮かび上がっていた。
『どうして色が濃くなるんだ?』
不思議に思いながら、さらに山へと近づく。色はじょじょに強さを増し、やがて霞みは完全になくなった。
『・・・・・・ああ、そういうことか。』
沢尻は頷き、『色が薄くなるほど「こっち」の限界に来てるんだ』と呟いた。
「亀池山から離れれば離れるほど、「こっち」の景色は薄くなる。なら・・・・・色が完全に消え去る場所が「こっち」の端っこってわけか。』
そう呟いてから、すぐに次の疑問が浮かんだ。
『ならもしその限界を超えたらどうなる?消滅するのか?それとも「向こう」へ戻るのか?』
しばらく考えて、『・・・「向こう」へ戻るってのはないか』と呟いた。
『もしそんな事が出来るなら、ミノリは麓に現れたりはしなかっただろう。「こっち」の端っこまで行って、そこから「向こう」へ出ればいいんだから。
なら・・・・どうなる?やっぱり消滅しちまうのか?』
考え出すと止まらないのが悪いクセで、すぐに『こんなこと考えてる場合じゃないな』と首を振った。
『今は緑川だ。奴を見つけないと。』
そう言いながら再び山を目指したが、やはり「こっち」の世界の端が気になった。
それは単なる好奇心からではなく、その場所に何かがあるような気がしてならなかったからだ。
『・・・・・・・・行ってみるか。』
勘の良さは自分でも自信がある。
だからこれほどまでに気になるということは、そこへ行けば重要な手掛かりがあるのではないかと思った。
沢尻は自分の勘を信じ、山から離れていく。
緑川と戦った建物を越え、その向こうにあるショッピングモールや病院も越え、さらに遠くへと羽ばたいていく。
景色はどんどん色を失くし、セピア調へと霞んでいく。そしてとうとう白黒の景色に近づいた時、ふと目の前の光景が変わった。
『・・・・これは・・・・どこだ?』
景色が色を失くした瞬間、まったく違う場所へ出ていた。
そこは亀池山の西部にある、なだらかな山の田舎町だった。
ローカル線の線路が伸び、コンクリートの護岸の川が流れ、遠くの丘には天文台が見える。
『ここは○○町じゃないか・・・・さっきまで俺がいた場所とは反対側だ。』
この場所は先ほどいた場所からから60キロ以上も離れていた。景色を見つめ、『ここにもほとんど色がないな』とぼやいた。
『まるで白黒写真を見てるようだ。ならこの場所も「こっち」の端っこということに・・・・・、』
そう言いかけて、『ああ!そういうことか・・・・・、』と何かに気づいた。
『「こっち」の世界は、端まで行くと反対側へ出て来るんだ。突然景色が変わったのはその為か・・・・・。』
山に囲まれた田舎町を見下ろしながら、『こっちへ来てよかった』と呟く。
『あのまま山へ行っていれば、きっと緑川を見つけることは出来なかっただろう。でも・・・・今はビンビン気配を感じる。』
そう言って触覚を動かし、『あいつはこの近くにいる』と確信した。
『どうしてこんな場所へ逃げたのか分からないが、ここにいることは確かだ。』
緑川の気配を全身で感じながら、ゆっくり町へ降りていく。
眼下には大きな川が流れていて、その近くにホームセンターやスーパーが並ぶ商業施設があった。
そこの駐車場に降り、ホームセンターの陰へ身を隠す。
『奴の気配は無いな。』
そう言って触覚を立て、緑川の気配を探ってみた。
『・・・・・緑川らしき気配を感じる。これは・・・・天文台の方だな。』​
触覚を動かしながら、数キロ先の天文台を睨む。
それは緩やかな丘の上に建っていて、夜になれば星がよく見える場所だった。
『・・・・・どうする?怪我が癒えるまで待つか。それともこのまま奇襲を仕掛けるか?』
沢尻はじっと考える。怪我が癒えないまま戦っては不利だが、モタモタしていると逃げられてしまう可能性がある。
『・・・・奇襲ってのは難しいか。こっちが奴の気配に気づいてるってことは、奴もこっちに気づいてる可能性が高い。あいつも俺と同じくらいに鋭い奴だからな。』
どうしたものかと迷っていると、誰かにクイクイと手を引っ張られた。
何かと思って振り向くと、そこには見たこともない異様な生物がいた。
『・・・・・・・・・・・・。』
沢尻は息を飲み、その生き物を見つめる。
爬虫類のような大きな目に、錐のような鋭い牙。
背中には甲羅を背負い、指の間には水掻きがある。
その姿は河童によく似ていたが、どこか別の生き物が混ざっているようにも見えた。
『なんだこりゃ・・・・河童・・・・じゃないよな。もっと不気味な顔をしてやがる。』
その目は吊り上がっていて、肉食獣のような獰猛さを感じる。
爪は長く伸びていて、まるで鎌のように湾曲していた。
『・・・・・チュパカブラ?』
ネットで調べたUMAの中に、これとよく似た生き物がいたことを思い出す。
『まるで河童とチュパカブラの合いの子のようだ・・・・。』
そう言って睨んでいると、その生き物は近くを流れる川を指さした。
『なんだ?』
『・・・・・・・・・・。』
奇妙な生物は、川を指さしながら沢尻の手を引く。
『どうした?あの川に何かあるのか?』
『・・・・・・・・・・・・・。』
『ていうかお前は何なんだ?河童モドキみたいな姿をしているが、もしかしてチュパカブラとの雑種じゃないよな?』
『・・・・・・・・・・・・・。』
河童モドキは何も答えず、ただ沢尻を引っ張っていく。
そしてコンクリートで護岸された川まで来ると、『グェッ、グェッ』と鳴いた。
『誰か呼んでるのか?』
『グェッ、グェッ』
河童モドキは鳴き続ける。すると淀んだ川の中から、数匹の河童が現れた。
『ここにも河童が・・・・・・。』
『グェッ、グェッ』
河童モドキは川に飛び込み、河童の元へ近づく。
そして会話をするように鳴き合い、川の中へ潜っていった。
『なんだってんだ?』
じっと睨んでいると、河童モドキは何かを持って浮き上がって来た。
それを掲げながら、何度も大声で鳴く。
『それは・・・・・あの怪人の・・・・・、』
河童モドキが持っていたのは、ペケの頭だった。
それを沢尻の前まで持って来ると、他の河童たちも周りに集まって来た。
『なんだよ?それがどうしたってんだ?』
『グェッ』
『何言ってるのか分からん。』
『グェッ・・・・・・グェ。』
河童モドキはペケの頭を持ち上げ、何かを伝えようとしている。
沢尻は困惑し、『なんなんだよ』と顔をしかめた。
その時、周りから化け物の気配が迫って来るのを感じて、咄嗟に身構えた。
肉挽き刀を構え、ごくりと息を飲む。
すると川の中から、多くの河童とチュパカブラが現れた。建物の中からはツチノコやのっぺらぼう、それに見たこともない変てこな妖怪がわんさかと湧いて来た。
『・・・・・・・・・・・・・。』
呆気に取られていると、今度は空からも何かが迫って来る。
それは一枚の白い布で、まるで生き物のように動いていた。
『・・・・・一反木綿?』
そう呟くと、遠くの空からさらに大勢の生き物が飛んで来た。
スカイフィッシュに巨大ムカデ、それにフクロウの頭をした人間や、蛾の化け物など。
『あの蛾・・・・アチェによく似てる。』
空を埋め尽くすほどの大群が飛んできて、その後ろからはヘビの頭をした鳥、煙の姿をした妖怪、それに真っ白に輝く人の形をした物体など、次々に押し寄せてきた。
『・・・・・・・・・・・・。』
沢尻は言葉を失くし、茫然と立ち尽くす。
川の上流からはオボゴボや巨大なウミヘビ、そして山の方からはウェンディゴや巨大な髑髏が迫っていた。
建物の中からはミルメコレオ、それにドッペルゲンガーや人面犬まで出てきて、まるで化け物のカーニバルのように多種多様な種類が揃う。
『なんなんだ?いったいどうなってる?』
あっという間に周りを取り囲まれ、もはや逃げ場はなくなる。
沢尻は河童モドキを睨み、『お前は囮か?』と尋ねた。
『俺をおびき出して、こいつらに殺させるつもりか?』
そう尋ねても、河童モドキは『グェッ』としか答えない。
そしてペケの頭を持ち上げ、それが何かの象徴であるかのようにかざした。
周りに集まったUMAや妖怪も、大声で騒ぎ始める。
辺りは化け物の大合唱に包まれ、沢尻はどうすることも出来ずに立ち尽くすしかなかった。
『・・・・・・・・・・。』
この化け物たちが、もし自分を殺そうとしているなら、いつ襲いかかってきてもおかしくない。
しかしどうもそんな様子ではなかった。
敵意は感じないし、戦いを挑んでくる様子もない。
ただペケの頭の周りに集まり、『グェッ』だの『ギャッ』だの、獣じみた声で叫んでいるだけだった。
その声は大きく、やがて地鳴りのような怒号に変わる。
河童モドキはペケの頭をかかげながら、気が狂ったように飛び跳ねていた。
『こいつら・・・・・、』
馬鹿みたいに騒ぐ化け物を見て、どうして化け物たちがここへ集まって来たのかを理解した。
『お前ら戦うつもりなんだな?ペケの仇を討とうとしてるんだろ。』
そう言って河童モドキに歩み寄り、『今、あの山の麓で戦いが起きている』と語った。
『お前らの仲間がミノリと戦ってる。おかげで人間は助かってる。』
『グェッ』
『聞いちゃいないな。』
苦笑しながら、『で、お前らは行かなくていいのか?』と尋ねた。
『ミノリは強敵だ。もっともっと戦力がいる。士気を高めるのはいいことだが、そろそろ加勢しに行ってやれ。お前らにはお前らの戦いが、俺には俺の戦いがある。』
そう言って天文台の方を睨み、空へ舞い上がろうとした。
しかし河童モドキに腕を掴まれ、『なんだ?』と目を向けた。
『グェッ。』
『悪いが俺は行けないぞ。あの男を仕留めなきゃならないんでな。』
『グェッ、グェッ。』
『なんだ?ペケの頭なんか差し出して。』
『グェッ。』
『・・・・・・触れってか?』
河童モドキはペケの頭を押し付けてくる。
沢尻は『生首に触るってのは気が進まないが・・・・、』と、ほんの少しだけ触れた。
『触ったぞ。』
『グェッ!』
河童モドキは喜び、沢尻の腕を引っ張る。そして強引に化け物の中心に連れていき、大きな声で鳴いた。
『だから何なんだ!?これ以上お前らに付き合ってる暇は・・・・・、』
『グェッ。』
『なんだそれは?何かの骨か?』
目の前に白い骨を差し出され、訝し気に睨んだ。
『・・・・・腕の骨のようだが・・・・ずいぶん大きいな。人のものじゃない。もっと大きな・・・・・、』
そう言いかけて、『もしかしてペケの骨か?』と尋ねた。
河童モドキはペケの頭を持ち上げ、『グェッ』と鳴く。
『・・・・ペケは妖怪にとって守り神みたいなもんだった。その骨を俺に預けるってことは・・・・仲間の証ってことか?』
『グェ、グェ。』
『・・・・もしかして、人間と共闘しようって言ってるのか?』
『グェッ、グェッ。』
『まあ利害が一致してるからな、共闘の申し出は嬉しいさ。だったらなおのこと仲間の加勢に行くべきだ。俺は緑川を仕留めに・・・・、』
『グェ。』
河童モドキは後ろを振り返り、小さく鳴いた。
すると何十匹ものUMAや妖怪が前に出て来て、沢尻を持ち上げた。
『おい!』
『グェ!』
『離せ!俺はあの天文台に・・・・・、』
『グェ・・・・グェッ。』
『なんだよ?』
顔をしかめて尋ねると、河童モドキは天文台の方を睨んだ。
『・・・・・お前らもあの男と戦おうってのか?』
『グェ・・・・。』
『ペケの頭?・・・・・そうか、ペケは緑川にトドメを刺された。ならあの男だって、お前らにとっちゃ仇だな。』
沢尻はUMAや妖怪が集まってきた本当の意味を理解した。
『お前らはミノリだけじゃなく、緑川も討ちたいんだな?』
『グェッ、グェッ。』
『何言ってるか分からんが・・・・何となくは分かる。』
そう言って空へ舞い上がり、『でも死ぬかもしれんぞ?』と言った。
『緑川は恐ろしい男だ。大勢で襲いかかっても、ただ死者が増えるだけかもしれない。それでも行くか?』
そう問うと、河童モドキはペケの頭をふりかざした。
『・・・・・分かった。なら行くか?』
『グェ。』
河童モドキは短く鳴き、川の方へと戻っていく。
『おい?』
他の化け物たちもくるりと背を向け、川や空、そして建物の中に引き返していった。
『なんだよ・・・・・一緒に戦うんじゃないのか?』
都合の良いように解釈してしまったことに、少し恥ずかしさを感じる。
手にした骨を見つめ、『これもペケのもんじゃなかったりしてな』と首を振った。
しかしせっかく貰ったものを捨てられず、ベルトの脇に差し込んだ。
『さて・・・・行くか。』
天文台を見つめながら、宙に舞い上がる。
すると緑川から受けた怪我が治っていることに気づき、『なんで?』と首を捻った。
『いつの間にか塞がってる・・・・。』
不思議に思いながらも、『まあいいか』と頷く。
『どういう理由か知らんが、傷が治ったんだ。これでまともに戦える。』
そう言って羽ばたき、天文台へとやって来た。
緩やかな丘の上に建つ天文台は、真っ白な壁に陽の光を反射させている。
入り口には、子供向けに作られた可愛らしいキャラクターが飾ってあって、その奥は小さな展示場になっていた。
そこから上の階に登り、大きなテラスに出ると、天体望遠鏡のある部屋に行くことが出来る。
沢尻はピンと触覚を立て、緑川の位置を探る。
すると入り口の付近から僅かに空気の流れを感じた。
『・・・・・・・・・・。』
少しずつ天文台に近づき、ゆっくりと降りていく。
肉挽き刀を構え、堂々と正面から入り込んだ。
星をかたどった可愛らしいキャラクターを尻目に、入口付近にある展示場に目を向ける。
するとそこには緑川が立っていて、熱心に何かを見つめていた。
沢尻は展示物に目を向け、ぐるりと瞳を動かす。
展示場といっても質素なもので、申し訳程度に展示品が並んでいるだけである。
隕石のレプリカ、ミニチュアのロケットやスペースシャトル。それに地球儀に天体の模型。
他には小さな本棚に収まった図鑑や資料、そして二メートル四方の宇宙のジオラマ。
中には怪しげなものもあって、UFOの破片や宇宙人の写真なども飾ってあった。
緑川が熱心に見ていたのは、UFOの破片である。
それは他の展示物と並んで、台の上にポツンと置かれていた。
くすんだ茶色をしていて、銅のようにも見える。
形は歪で、パズルのピースのようだった。
緑川は熱心にそれを観察しながら、そっと手に取った。
重さを確かめるように振り、コンコンと叩いてみる。
小さな金属音が鳴り、僅かに埃が舞った。
『緑川。』
名前を呼ぶと、ヒクヒクと触覚を動かした。

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< August 2020 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM