グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十七話 血に染まる(1)

  • 2016.04.06 Wednesday
  • 09:47
JUGEMテーマ:自作小説

亀池山の麓では、地獄の蓋が開いたような恐ろしい戦いが繰り広げられていた。
ミノリ、マル、巨大な手、そしてその手に操られる人間や化け物の死体。
そしてそれらと戦うのは、自衛隊、在日米軍。
さらに人間側に味方するUMAと妖怪だった。
人と化け物が入り乱れる、言葉では表しがたい光景。
川は血に染まり、麓の木々には死体が転がり、橋の上では銃弾と化け物が飛び交い、空の上では蝶の大群と戦闘ヘリが混じり合っていた。
自衛隊の指揮を取る鏑木は、部隊を前線から後退させようとしていた。
本来ならば化学兵器を積んだ装甲車が来た時点で、麓から離れていなければならない。
しかしあまりに戦いが激しい為に、下手に退くと前線を圧される危険があった。
米軍側は早く後退しろと促して来るが、とてもそんな事が出来る状況ではなかった。
現代兵器との戦いに慣れ始めたマルが、機敏な動きで猛威を振り撒いていたからだ。
恐ろしい毒を持つ槍を振り回し、人間も化け物も貫いていく。
そして戦車や戦闘ヘリが相手なら、マントから妖怪の思念を飛ばし、中にいる操縦士を呪い殺してしまう。
いかい装甲が厚かろうと、動かしているのは生身の人間。
一つでも妖怪の思念に憑りつかれると、おぞましい幻覚を見せられて発狂し、自殺してしまうのである。
マルがいる限りは一瞬たりとも油断できず、常に最大の戦力を持って押し返すしかなかった。
それに死者が増えれば増えるほど巨大な手に操られ、逆に敵を増やしてしまうことになる。
死人を出すことは戦力を欠くだけでなく、相手に兵隊を与えているようなものだった。
そして最大最強の敵であるミノリは、ただ笑ってそれを見ていた。
いったい何が目的で「こっち」に現れたのか?
鏑木はそれを探ろうとしていたが、彼女の笑みからは何も読み取れず、ただ恐怖を感じるだけだった。
この均衡状態はいつまで続くのか?
今は妖怪やUMAの加勢のおかげでどうにか均衡を保っているが、これがいつまで続くか分からない。
せめて敵側の強敵を一人でも討ち取らなければ、時間と共にこちらが不利になるだけだった
ミノリの分身などいくら倒しても意味はなく、彼女の本体か、もしくはマルか巨大な手を討ち取らなければならない。
そうしないと後退することも出来ず、化学兵器で殲滅する作戦を実行することも出来なかった。
「どうすりゃいい・・・・。」
戦局を睨みながら、誰をターゲットに絞るべきか考える。
ミノリの本体を討ち取れれば一番いいが、それは無理だと分かっていた。
彼女からは底知れぬ恐怖と力を感じていて、下手に手を出せば一気に均衡が崩れる可能性がある。それもこちら側に不利な状況に。
ならば狙うは、マルか巨大な手しかない。
しかし巨大な手の方は、いくら攻撃しても効かない。
暖簾に腕押しとばかりに、銃撃も砲弾もダメージを与えることが出来なかった。
残るはマルしかいないが、これもまた強敵である。
加勢に現れたウェンディゴをあっさりと葬り、戦車や戦闘ヘリでさえ歯が立たない。
マルが攻撃を仕掛ける度に、必ず誰かが死ぬような状況だった。
鏑木は唇を噛み、「どうすりゃいいんだ・・・・」と強敵たちを睨む。
するとその時、無線から連絡が入った。
「はい?」
こんな時に何の用だと苛立ち、思わず声が荒くなる。
『陸上自衛隊の鏑木一佐ですか?』
無線機から知らない男の声が聴こえ、顔をしかめる。
「そうですが・・・・あんたは?」
本部からの連絡ではないのかと、訝しく思う。
『公安の者です。』
「公安・・・・・、」
『山田と呼んで下さい。』
そう言って『今そちらへ向かっています』と言った。
『ニュースの中継を見ているんですが、かなり酷い状況のようですね?』
「だから何だ?公安が何でこっちに・・・・・、」
『SATを送り届けます。』
「は?SAT・・・・・?」
鏑木はオウム返しに尋ねる。
「なんでSATがこっちに・・・・・、」
『あれ、御存じありませんか?』
「何が?」
『SATの隊長の東山さんは、UMAと手を組んでるんですよ。きっと戦力になります。』
そう言われて、鏑木は「ああ!」と思い当たった。
「確か「向こう」で俺の部下と一緒に戦った・・・・・、」
『そうです。彼なら化け物との戦いにも慣れています。きっと力になってくれるでしょう。』
「応援はありがたいけどね、でも今はその程度で状況が変わるようなもんじゃないんだ。来たいなら来ればいいけど、死ぬのがオチだと思うぞ。」
『どうして?東山さんは優秀な人ですよ。』
「それは聞いてるけど、でもこの状況をニュースで見てるんだろう?だったらSATの応援なんて、何の足しにもならな・・・・・、」
そう言い返すと、無線機の向こうで『代われ』と声がした。
『SATの東山って者だ。』
「ああ、あんたが・・・・・、」
『どうして前線から下がらない?化学兵器が使えないぞ。』
「今の状況では下がれない。そんな事をしたら、敵が勢いづくだけだ。』
『しかし今のままじゃ死人が増えるだけだ。ここは前線から下がって、米軍にミサイルを撃たせろ。』
「だからそんな事をしたら・・・・・、」
『応援に向かってるのは俺たちだけじゃない。』
「何?」
『沢尻も向かってる。』
それを聞いた鏑木は「あの刑事が・・・・」と唸った。
『沢尻は緑川を追って行った。約束だと30分で帰るはずだったのに、まだ戻らない。』
「戻らないって・・・・なら緑川にやられたんじゃないのか?」
『いや、それはない。』
「どうして言い切れる?」
『俺と手を組んでるUMAの様子がおかしいんだ。ドッペルゲンガーって奴なんだが、こいつは真っ黒い影みたいな姿をしてる。でもさっきから赤く染まってやがるんだ。』
「・・・・意味が分からん。どういうことだ?」
『そっちで様子に変化はないか?化け物どもの色が変わってるとか。』
「・・・・・いや、ない・・・・・・・、」
そう言おうとして、「ん?」と顔をしかめた。
「・・・・・・いや、待て。よく見ると・・・・・加勢に現れた化け物の色が・・・・・、」
『赤くなってるか?』
「・・・・赤だけじゃない・・・・。青だったり緑だったり・・・・それに黄色だったり。ほんの少しだが、色が変わってる奴らがいる。」
『じゃあそいつらの中に、花弁はみえないか?』
「花びら?・・・・・いや、そういうのは見えないが・・・・、」
『俺の組んでるUMAには見えるんだよ。身体の中に、幾つもの赤い花弁が浮かんでるんだ。だから赤く見えてる。』
「そうなのか?で、それがどうしたんだ?そいつが見えるといいことでもあるのか?」
『良い事かどうかは分からんが、少なくとも沢尻が生きてるのは確かだ。』
「だからどうして?簡潔に説明しろ。」
『話すと長くなるんだが、あいつはケントからある物を預かっていてな。』
「ケント?・・・・ああ、墓場の主ってやつか。」
『そいつが沢尻に花を託したんだ。もしミノリが生き残ったら、この花を潰せと。逆にもし緑川が生き残ったら、この花を飲み込めと。』
「それで?」
『あの花を潰すと「向こう」は消滅する。となると「こっち」に出て来る化物の数はこんなもんじゃない。
奴らは亀池山全体に生息している。その全てが押し寄せたら、お前のいる戦場は地獄の極みのようになっているはずだ。』

「今でも充分に地獄の極みだ。』

「もっと地獄になるんだよ。足の踏み場もないほど化物で溢れかえるんだからな。

だが今はそうはなっていない。ということは、沢尻はあの花を潰したわけじゃない。飲み込んだんだよ。』​
「ならそのせいで、化け物の色が変わり始めたってのか?」
『だと思う。だから沢尻はまだ生きてる。あいつは最後の手段を使ってでも、緑川を倒そうとしてるんだ。』
「ああ・・・・・なるほど。そういうことか。」
鏑木は「やっと納得がいった」と頷いた。
「その花を飲み込むってことは、緑川が生き残った場合の話だ。沢尻は奴と戦い、そして殺されそうになった。だからケントから預かった花を飲み込んだってことだな?」
『ああ。もし殺されていたら、花を飲み込むなんて出来ないだろ?』
「だったら緑川を仕留めたってことか。」
『いや、そこまでは分からない。しかし沢尻が生きているのは確かだと思う。そしてもし生きていたら、あいつは必ず戻って来るはずだ。そう約束したからな。』
「じゃああんたらがこっちへ向かってるってことは、沢尻もここへ来るってことか・・・・。」
『あいつはずっと化け物と戦ってきた。俺たちのように特別な戦闘訓練を受けているわけでもないのに、今まで生き延びてきたんだ。
だからあいつなら、この状況をどうにかしてくれるかもしれない。』
そう言って一呼吸置き、『あいつは必ずそっちへ現れる。だから部隊を下がらせろ』と続けた。
『今のままじゃ死人が増えるだけだ。だから部隊を下げて、化学兵器を使え。ミノリの本体は無理かもしれないが、他の奴らは倒せるだろう。』
「しかし絶対に沢尻が来るという保証は・・・・・、」
『俺が保証する。』
「は?」
『あいつは生きてる。生きてるならこの状況を放っておくわけがない。だから必ず来る。』
「・・・・・・・・・・。」
『短い間だが、あいつと一緒にいてどういう人間か分かった。あいつは正義がどうこうとかじゃなくて、ある意味緑川と一緒なんだ。
自分がこうだと思ったら、決して道を曲げない。異常なほどの執着心で、目的を成し遂げようとするんだ。だから必ずやって来る。』
「・・・・・・・・・・。」
『緑川が殺人をやめないように、沢尻も自分の信念を曲げることはない。あいつは自分が間違ってると思うことは、何がなんでも叩きのめそうとするんだ。
それは正義の為じゃない。身も蓋もない言い方だが・・・・・頭がイカれてやがるんだ。』
そう言って『どうか俺の言うことを信じてほしい』と頼んだ。
『今のあいつは完全な化け物になっちまった。緑川と同じだ。だから空を飛んでそっちへ向かってると思う。きっと俺たちよりも早く着く。』
「完全な化け物って・・・・心まで化け物になったわけじゃないだろうな?」
『そっちは人間のままだ。だから奴が来ると信じて、前線から下がって・・・・・、』
「そうは言っても、そう簡単に決断は・・・・・、」
鏑木は声を荒げて言い返そうとする。しかし途中で口を噤み、『どうした?』と東山が尋ねた。
『まさか・・・・沢尻が来たか?』
期待を込めて尋ねると、しばらくの沈黙があった。
『おい、どうした?沢尻が来たのか?それとも新手でも現れたか?』
「・・・・・・どっちかっていうと・・・・後者だな。」
『なら新しい化け物が・・・・・、』
「緑川だ。」
『何?』
「死神が現れがやった・・・・・。」
鏑木は息を飲み、『もう切るぞ』と言った。
『あいつまで現れた以上、このまま後退することは出来ない。応援に来たいなら来ればいいが、こっちの邪魔だけはしてくれるなよ。』
そう言って無線を切り、突然現れた死神を睨んだ。
彼は麓の橋の向こうから現れ、ゆっくりと歩いて来る。
その手には首狩り刀を持っていて、刃渡りが三メートルにまで成長していた。
「あいつ・・・・・また人を殺しやがったのか・・・・。」
大きくなった首狩り刀を見て、鏑木は息を飲む。
警察署での出来事を思い出し、背筋にゾワリと悪寒が走った。
その時、無線が鳴って米軍から連絡が入る。
『あいつは敵か?』と聞かれて、すぐには答えられなかった。
なぜなら敵であることに間違いはないが、どういう目的でここに現れたのかが分からなかったからだ。
もし・・・もしもミノリを殺す為にやって来たのならば、下手に手を出さない方がいい。
化け物同士で潰し合ってくれた方が、こちらに有利になるからだ。
しかしもし人間に襲いかかってきた時、もはや戦いの均衡は保てなくなる。
鏑木は決断を迫られ、無線を握ったまま緑川を睨んでいた。
そしてその緑川は、じろじろと周りを見つめながら、橋の途中で足を止めた。
血を流す人間や化け物を見つめ、なぜかニコニコと笑っている。
『面白ろい。』
そう呟いたのを、鏑木は聴き逃さなかった。
銃撃や砲弾の音で声は聞こえないが、唇の動きから確かにそう呟いたのを見抜いた。
鏑木は無線機に向かって、あいつは敵だと伝える。
それもとびきり恐ろしい敵で、全力をもって叩くべきだと。
米軍は『了解した』と言い、緑川に狙いを定める。
戦車が、装甲車が、そして歩兵のライフルや携行ミサイルが彼に向けられる。
するとその動きを瞬時に察知して、緑川は舞い上がった。
大きな羽を動かし、そのままマルの方へ飛んでいく。
マルは緑川に気づいておらず、歩兵や妖怪と戦っている。
するとミノリが『マル!』と叫んだ。
マルは後ろを振り向き、すぐ目の前に緑川が迫っているのに気づいた。
そして虫殺しの槍を振り、毒液をまき散らした。
緑川は右へ旋回して、見事に毒液をかわす。
そして首狩り刀を鎖鎌のように振り回し、マルに向かって投げた。
マルは槍でそれを受け止めようとするが、途中で首狩り刀の軌道が変わった。
緑川が巧に髑髏の数珠をさばき、刀の動きを変えたのだ。
マルはその動きについていけず、左腕を斬り落とされてしまった。
『・・・・・・・・・・・。』
マルは緑川を睨み、白いマントをいっぱいに広げる。
すると無数の妖怪の思念が彼に襲いかかった。
ガシャドクロ、牛鬼、ぬらりひょんにテケテケ、そして河童や件など、妖怪の思念が群れを成して襲いかかる。
近くにいた妖怪や人間は、その巻き添えを喰らって呪い殺されていく。
マントから放たれたおぞましい思念は、マルの周りを地獄絵図のように変えていった。
そんな恐ろしい思念たちが緑川に襲いかかる。
しかし彼は冷静な顔のまま、逃げることも防ぐこともしなかった。
ただ棒立ちのまま妖怪の思念を受け止めたのだ。
多くの思念が緑川に憑りつき、この世のものとも思えぬ幻覚を見せて、死に誘おうとする。
身体の隅々まで入り、肉体まで奪おうとした。
しかし妖怪の思念が纏わりついた瞬間、首狩り刀を震え出した。
まるで赤子のような鳴き声を上げながら、数珠繋ぎの髑髏が血の涙を流す。
そしてプチプチと音を立てながら外れていって、巨大な髑髏へと変わった。
数十個もの巨大な髑髏が口を開け、断末魔の叫びをあげる。
そして群がってきた妖怪の思念を、逆に呪い殺していった。
『オギャアアアアアアアア!!』
『ギオオオオオオオオオオオオ・・・・・。』
首狩り刀の髑髏は人間の思念である。緑川によって無残に殺された、憎しみと怒りを抱いた思念である。
それらが巨大な髑髏に変わり、妖怪の思念とぶつかる。
地獄絵図はさらに地獄のように変わり、思念同士がぶつかるその場所は、誰も近づくことが出来なかった。
鏑木はごくりと唾を飲み、恐れをなしてその光景を見ていた。
「なんなんだ・・・・こいつら・・・・・、」
敵は化け物である。それは分かっている。
しかし死者の魂ともいうべき思念が飛び交い、殺し合い、喰らい合う光景は見るに堪えなかった。
その光景も、そして叫び声も、腹の底から恐怖を覚えるものである。
ただこの景色を見ているだけで、この叫びを聞いているだけで、魂が抜かれてしまいそうなほど恐ろしかった。
それは他の人間も一緒で、自衛隊も米軍も度胆を抜かれていた。
戦うことも忘れ、地獄のようなその光景に目を奪われる。
妖怪もUMAも、そして巨大な手さえも動きを止めていた。
ただしミノリだけは別で、興味深そうにそれを見つめている。
人間の思念と妖怪の思念が殺し合う光景を、のほほんとした顔で楽しんでいた。
そして何かに気づき、『あ・・・・・』と口を押えた。
思念同士は激しく争っていて、マルは負けじとさらに思念を放つ。
しかしその時、突然マルの後ろに緑川が現れた。
陽炎のようにゆっくりと現れ、マルに向かって首狩り刀を振る。
ミノリは『後ろ!』と叫んだが、時すでに遅し。
首狩り刀はマルの首を一閃し、頭を斬り落としていた。
『・・・・・・・・・!』
マルの頭が、驚きの目で緑川を見つめる。
すると緑川はニコリと微笑み、ツバメ返しのようにVの字に刀を振った。
マルの頭は三つに分断され、そのまま地面へ落ちていく。
緑川も地面に降り立ち、マルの頭を思い切り踏みつける。
そして虫でも殺すように、グリグリとすり潰した。
しかしまだ胴体の方は立っていて、槍を振って襲いかかる。
緑川は素手で槍を受け止めると、そのまま腕を切り落とした。
そして虫殺しの槍を奪い取り、マルの心臓に突き刺した。
毒液がドクドクと注がれて、マルの胴体は一瞬にしてヘドロへと変わった。
「・・・・・・・・・・。」
鏑木は口を開けたまま、言葉を失う。
あれほど脅威をふるったマルが、いとも簡単に殺されてしまった。
開いた口は塞がらず、それは他の人間も一緒だった。
マルが死んだ傍では、まだ思念同士が殺し合っている。
しかし時間が経つにつれて薄くなり、やがて風に吹かれて消えてしまった。
辺りはシンと静まり返り、誰もが立ち尽くす。
緑川はニコリと笑って、『もっと潰し合えよ』と言った。
『お前らどうせ作りもんなんだ。その辺の石ころと変わらないだろ?』
そう言って宙へ舞い上がり、首狩り刀を振り回した。
それは立ち尽くしていた人間や化け物に襲いかかり、ほんのひと振りで幾つもの命が失われていく。
そして死んだ人間の数だけ髑髏が増えていった。
すると黙って見ていた米軍が、緑川に向けて攻撃を始めた。
戦車の大砲を向け、轟音を響かせて火を吹く。
緑川は大砲が発射される前に逃げていて、しかもその手には虫殺しの槍を握っていた。
米軍は一斉に射撃を始め、緑川を撃ち落とそうとする。
しかし彼は蝶の大群の中に紛れ込み、それを盾とした。
蝶は銃弾や砲弾を浴びて、粉々に吹き飛ぶ。緑川はそれを見て、ケラケラ笑いながら逃げていく。
そして槍を振り回して、辺り一面に毒液をまき散らした。
触れただけで命を奪う恐ろしい毒が、雨のように降り注いだ。
米軍は歩兵を後退させ、戦車や装甲車が盾となって受け止める。
「後退!後退!」
鏑木は大声で指示を出し、部隊を前線から退かせる。
なぜなら前に出てきた装甲車の一群には、化学兵器を搭載した車両があったからだ。
今このタイミングで退かなければ、緑川はさらに暴れ、ミサイルを撃つ機会さえ奪われる。
自衛隊は急いで後退し、歩兵は防毒マスクを着用した。
米軍も歩兵はマスクを被り、自衛隊と同じように下がっていく。
前線にいるのは戦車と装甲車、それに戦闘ヘリだけとなって、一斉に攻撃を始めた。
緑川は嵐のような銃弾や砲弾を掻い潜り、蝶の大群を盾としながらミノリの本体に迫る。
虫殺しの槍を逆手に持ち、狙いをつけて投げ飛ばした。
ミノリは平然と構えていて、サッと槍をかわして見せる。
そして巨大な蝶の化け物に変身し、羽から骨切り刀を取り出した。
それを二本に分離させ、両手に持って緑川を迎え撃つ。
『あんたアチェを殺したわね?』
そう言って骨切り刀を振り、緑川を牽制した。
『あんたの中から王の気配を感じる。』
『だから?』
『それちょうだい。』
『なんで?』
『欲しいからよ。王を全部吸い取って、私はこの星から飛び去る。』
『飛び去ってどうするの?きっと宇宙旅行なんかすぐに飽きるぞ?』
『どこか別の星に住むわ。ここにはもう興味ない。』
『じゃああげない。俺以外の誰かが喜ぶことなんてしたくないから。』
『あははは!あんた私と一緒!自分のことしか考えてないわ。』
『一緒じゃないよ。だって俺は生きてるもの。でもお前は作りもんだろ?プラモや人形と何が違うんだよカス。』
緑川は器用に旋回して、二本の骨切り刀を掻い潜る。
そして懐に入り込むと、刀を振ると見せかけて銃を撃った。
それはミノリの羽を貫き、小さな穴を空ける。
『無駄よ、そんなことしたって。』
『いや、無駄じゃない。確かめたいことがあったから。』
『ん?何を?』
『お前も毒を持ってるのかなと思ってさ。』
緑川は穴の空いた羽を睨み、そこにキラキラと光る粉が舞うのを見つめた。
それをわざと吸い込むと、途端に眠気が押し寄せた。
『やっぱり・・・・鱗粉の毒が・・・・、』
『あ、バレた?』
『毒を持ってるだろうとは思ってたけど、どういう毒か知りたかった。お前のやつは眠くなるんだな。』
『便利でしょ?気に入った男がいたら、これで眠らせて手籠めにしちゃうの。』
『虫の性欲なんて知らないよ、気持ち悪い。』
『今はあんたも虫でしょ?しかも汚ならしい蛾じゃない。』
二人は罵り合い、聴くのも絶えない言葉を次々に発していく。
そして口喧嘩をしながら斬り合い、お互いに仕留める隙を窺っていた。
『骨切り刀じゃ分が悪いぞ?』
そう言って首狩り刀を振り回し、あえて骨切り刀を狙う。
この刀さえ壊してしまえば、ミノリは力は半減するからだ。
しかしミノリは慣れた手つきで首狩り刀を捌いていく。
上手く峰の部分を叩き落とし、決して刃の部分に触れないようにしていた。
『悪いけどね、首狩り刀との戦いは慣れてるのよ。それに弱点も知ってる。』
そう言って数珠繋ぎの髑髏を狙おうとした。
緑川はサッと刀を引き、その一撃をかわす。
ミノリはしつこく髑髏を狙ってきて、幾つかの髑髏を切り払った。
小さな髑髏が真っ二つに割れ、その分だけ首狩り刀が短くなる。
『ね?』
『うるさいな、知ってるよそんなの。』
緑川はそれでも骨切り刀を狙い、尖った先端を切り落とした。
『お前が首狩り刀との戦いに慣れてるなんて分かってるよ。だってアチェやケントと戦ってたんだろ?』
『あの二人は手強かったわ。あんたなんかよりもずっとね。』
『そりゃ作りもんだもの。壊れることはあっても、死ぬことはないからビビらないだろ。』
『そうじゃなくて、知性と勇気を備えていたからよ。悪いけどあんたにはどっちもない。ただの殺戮者ってだけ。私の敵じゃないわ。』
『じゃあ殺してみろ。』
『あはは!何その安っぽい挑発。ほんと子供ね。アチェが愛想を尽かすのも分かるわ。』
ミノリは巧みに二本の刀を振り、緑川を追い詰めていく。
首狩り刀を上手く弾きながら、空いた手で殴り飛ばした。
緑川は体勢を崩し、後ろへ落ちていく。
ミノリは追撃とばかりに羽で叩き、川の中へと落とした。
大きな羽の威力は絶大で、緑川は全身の骨が折れるほどの衝撃を受けた。
しかしすぐに川から立ち上がり、ミノリを見上げた。
『やたらと力があるな・・・・。正面からじゃ勝てないかも。』
『どうやったって勝てないわよ、あんたじゃ。』
そう言って何十匹もの分身を解き放ち、緑川を襲わせた。
それと同時に羽をはばたき、睡眠作用のある鱗粉をまき散らした。
青く光る粉が辺りに広がり、それを吸い込んだ者は眠ってしまう。
ただしミノリの分身はその鱗粉を受けても眠らず、一斉に緑川に飛びかかってきた。
緑川は呼吸を止め、水の中に逃げ込む。
『馬鹿。』
ミノリはクスクスと笑い、『サル』と呼んだ。
『人間はもうほっといていいわ。緑川にトドメを。』
そう言うと、巨大な手が川の方へと飛んで行った。

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< August 2020 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM